アイクの異世界旅行記   作:よもぎだんご

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遅くなって申し訳ありません。リアルが予想外に忙しく小説用のパソコンを開く事すらできませんでした。このままでは6月中に完結させて「衛宮切嗣に憑依してメディアさん呼んじゃった」ssを書く予定がががががが。


開く距離

「……どういうことだ、これは一体……」

 

 司令室は見るも無残に破壊されていた。アダムが当面の司令室としたこの部屋は多数のモニターが設置されていて、部屋自体もそれなりに大きい。

 しかし今やその壁やデスク、モニターには穴が開き、あちこちから黒煙が上がっている。そこに白っぽい消火液が天井から降り注ぎ、白い煙を上げて視界を圧迫していた。

 

「アダム!!」

 

 焦りが私を包み込む。

 最悪の考えが脳裏をよぎった。まさかアダムは……

 

「聞こえるか、アダム!!」

 

 通信と外部音声の両方のチャンネルを開いて呼びかけたが何の応答も無い。スキャンしても生命反応無し。つまりアダムは既にここを脱出したか、あるいは……

 

「いるなら返事をしろ!!」

 

 瓦礫の山をひっくり返しても何も見つからない。ひりつくような焦りばかりが私の中にたまってゆく。

 

「サムス! こっちに来てくれ」

 

 黙って一緒に探してくれていたアイクが唐突に叫んだ。

 

「ッ! 見つかったか!」

 

 私が駆け寄ると、アイクは黙ったまま指さした。

 

「これは……」

 

 床と壁の一部が不自然に凍りついていた。

 

「こいつはあんたが使っていたのと同じ武器だと思うんだが」

「ああ、間違いない。これはフリーズガンを使ったんだと思う」

 

「問題はこれが左右の壁や床の両方にあることだ」

 

 そう、まるで、

 

「ここで銃を撃ち合ったみたいに」

 

 私の呟きが煙の中で重く響いた。

 

 その後アイクと共に司令室の隅々まで捜索し、その先の通路を通ってエレベーターホールまで行ってみたが、アダムを発見することは出来なかった。

 だがところどころに空の薬莢やアイスビームによる凍結箇所があり、それはエレベーターホールまで続いていたので彼がここに来たのは間違い無い、と思う。

 問題は、エレベーターホールにはそれぞれ違った階層に行くエレベーターがあってアダムがどれに乗ったのか判らないことだ。

 

 

 私は少し俯きながら焦りを静め、冷静に思考をめぐらしていく。私は情報を整理するために敢えて思考を口に出した。

 

「アダムはクリーチャーに襲われ、フリーズガンを撃った。これが可能性として一番高いと思う」

「ああ」

「だがこの痕跡から見て人間に撃たれ、銃撃戦になった可能性もまた高い」

「…………」

「人間。アダム達の部隊に裏切り者がいるのか、又は生存者に撃たれたか」

 

 裏切り者がいるとは考えたくないが、この状況では正直視野に入れざるをえない。

 

「アダムの部隊は何人いるんだ」

「アダムと私を除いて5人だ」

「そいつらとの信頼関係はどうだ」

「はっきりとは分からないが、たぶん全員がアダムの元で纏まっていたと思う」

 

 アダムは冷静で思慮深く、指示も迅速かつ的確だ。上官としてはこの上ないと思う。

 

「言いたく無かったら言わなくてもいいんだが、部隊はどう展開しているんだ」

「……部隊は全員別々に行動しているから、誰かがこっそり戻ってきてアダムを後ろから撃つということも一応は可能だ」

「そうか、変なことを聞いてすまんな。そういえば、あんたはヤクシ石の類を持っていただろう。あれはどうだ」

「ヤクシイシ? 何のことだ」

「遠くの人間と話ができる道具だ。何度かアダムと話していたじゃないか」

「ああ、通信機の事か。駄目だ。さっきから呼びかけているが誰ともつながらない」

「……どういうことだ」

 

 電波状態が極めて悪いこの施設内では、個人で直接無線通信できるのは現在のところ私だけであり、アンソニー達兵士はナビゲーションルームを使って情報のやり取りをしている。だからそこにアダム失踪と生存者発見の報、連絡を求めている事を吹き込んだ。その事をアイクに説明する。

 

 ……私のスーツの通信機は特別凄い物では無いはずなのだが、妙に調子が良いのもベビーがくれた力なのだろうか。ベビーには散々苦労を掛けられたが、貰ったものはそれ以上に大きい。それを改めて実感した。

 

「アダムの消息は現在不明」

 

 私は努めて冷静に続ける。

 

「生きているなら私達と合流するために戻ってくるはずだ。それが出来ないということは、緊急性の高い事態に遭遇したからか、負傷もしくは死亡したか」

 

 アダムが重傷を負い、呻いている姿が脳裏をよぎる。頭を振って不吉な想像と今すぐ助けに行きたい衝動を打ち消そうと試みる。

 

「事態は深刻である、と言ったところだ」

 

 アダムの口まねをして自分の心を騙しにかかる。かつては戦場でジョークを飛ばす仲間を不謹慎だと内心罵っていたが、今は必ずしもそうとは思わない。ジョークを言ったり、聞いたりすることは心身の緊張をほぐす効力があると思う。アンソニーみたいにジョークばかりでも困るが。

 

 アイクはにこりともしないが、私のジョークはアダムを知らないと分からないのでしょうがない。

 

 ふと、アダムならこの状況をどう乗り切るだろうという疑問が生まれた。アダムならこの状況でも冷静さを失わずに最善の一手を打つ筈だ。私にどこまでやれるか疑問だが、彼になったつもりでやってみよう。

 

「アイク、あなたに言わなければならないことがある」

「なんだ」

 

 大事なのは情報収集と冷静かつ迅速な判断だ。そして今一番情報を持っている人物は彼しかいない。

 

「あなたの事を教えてほしい」

 

 

 

 

 

「あなたの事を教えてほしい」

 

 サムスは鎧越しに俺を見て言った。

 

 

 サムス・アラン。

 俺がイレースが床に開けた穴から脱出し、なんとか仲間と合流しようと彷徨っていた時に出会った凄腕の重装歩兵。いや重装弓兵、重装魔導兵とでも言えばいいのだろうか。さっきの戦いから類推するに、サムスは『ぱわーどすーつ』なる全身を覆う魔導甲冑を着て、射撃中心の高機動戦闘をする戦士だ。

 

 橙色の重厚な鎧を纏っているから当然防御力は高いはず。その上魔道甲冑が軽いのか、サムス自身の身体能力が凄まじく高いためか判らないが、かなり俊敏に動ける。その速さは俺とほぼ同等だ。しかも蜥蜴もどきよりも遥かに連射性の高い魔道武器や威力の高い魔道武器、広範囲の魔道武器を自在に操っていた。

 

 魔導兵のように遠近両用で高威力かつ広範囲攻撃が可能で、重装歩兵並の守備力と弓兵の精密さと速射性、俊敏さをも併せ持つ。なんというか3つの兵種の良い所だけをつまみ食いしたようなデタラメな存在だ。

 

 戦えば確実にただではすまないだろうが、ぜひ1度戦ってみたいものである。

 

 

 その上官のアダム。正直に言えば俺は彼らを警戒している。

 

 サムスはアダムが司令室にいないと知った時明らかに取り乱していた。裏を返せばサムスはそれだけアダムの事を信頼しているという事だ。サムス程の戦士が信頼する相手を誤るとはあまり思えない。

 

 しかし一方でこうも思うのだ。

 メリッサは生き物を支配・制御するべく生み出された自動人形。作ったのはマデリーン達魔導士たちだが、作成と処分を決定したのは彼女たちの上に立つ権力者だ。彼がその権力者なのではないか。何しろ事件が起きてからここに来るまでが早すぎる。少なくともある程度はマデリーン達のことを知っているのではないか、俺は睨んでいた。

 

 アダム達がマデリーンやメリッサ達の事を知っていると仮定して、俺は何をどこまで話せばいいのだろうか。無い頭を絞って必死に考えていた。だが、考えがまとまらない。

 

 交渉事や腹芸、舌戦は俺の得意とするところでは無く、むしろ大の苦手と言っていい。相手の言葉や態度に熱くなって、国際問題を起こしかけたこともある。これまでは偶々相手側が良い奴だったり、参謀のセネリオやティアマトに助言を貰ったりしながら何とかやってきたが、ここに二人はいない。

 

 友人でガリア軍副指令のライにも「お前みたいな強引で直線的な将軍、どこ探したって居ないって。『面倒臭い! 突っ走る!』ってそれのどこが作戦だよ! しかもそれで上手く行くとか、呆れるばかりだ!」と言われるほどだ。まあ、それは5年も前の話なので改善したつもりだが。

 

 

「アイク。あなたにはいくつか聞きたいことがある。第1にあなたは何者だ。第2に何を目的にここに来たのか、第3に生存者はどこにいるのか、第4に今ここで何が起こっているのかということだ」

 

 サムスの質問は容易に予想される質問だし、正直に話すこともできる。だが、アダム達がマデリーン達の事を知っていると仮定して、俺は何をどこまで話せばいいのだろうか。

 

 いっそ全てを正直に話してしまいたいとも思うが、残念ながら本当の話が1番嘘っぽい。

 

 実は出所不明の鐘の音と共にテリウス大陸のクリミア王国からこっちの国に集団ワープして来て……と説明する位ならば、俺は正義の味方で苦しんでいる人を見過ごせないから助けに来たんだ、とか言った方がまだ真実味がある。

 

 考える時間を稼ぐために俺はゆっくりと答える。

 

「さっきも言ったが、俺はグレイル傭兵団の団長で、剣士のアイクだ」

 

 当たり障りのない所から口調もゆっくりめで話し出したが、もう終わってしまった。

 どうする。自他ともに認める名詐欺師セフェランなら何て言うだろうか。

 『それ位自分でお考えください』 

 いかにもあいつが言いそうだが、そいつを言ったらこの会話はお終いだ。

 

「どうした? 続けてくれ」

 

 プランBだ。プランBは無いのか。 

『在りませんよ、そんなもの』 

 やはり本物のセフェランでないと駄目だというのか。

 

 ならば是非も無い。俺も覚悟を決めた。

 こうなったら出たとこ勝負だ。思いつくままに話して1番しっくりくるところに落とそう。

 

 

「そのほかの質問には俺は答えられない」

「何故だ!?」

「それは、あんたらを信用できないからだ」

「え、ええ!?」

 

 言葉と共に剣を突きつけた。

 疑われた時は疑い返すことでごまかせる。セフェラン流話術の初歩の初歩だ。やりすぎると敵を増やすので加減が重要らしい。

 

「そもそもあんたもその上官のアダムっていうのも何者だ。フリーの傭兵だと言っていたが、事件が起きてからここに来るまでが早すぎる。本当はここのことを知っているんじゃないか」

 

 ひしひしと感じる罪悪感を無視して、ともかく思いつく限りの言いがかりをつける。サムスは超一流の戦士であり、嘘や犠牲を嫌う人物だと思っているのだが、どう出る?

 

「誤解だ。私はフリーのバウンティーハンターで本当に偶然救助要請を受けてここに来ただけだ。ここの事はなに1つ知らない。アダム達は……」

 

 サムスは途中で言いよどみ俯いた。

 

「アダム達は銀河連邦軍の部隊で、アダムはその司令官だ。彼らがここに来た理由は知らないし、どこまでこの事件について知っているのかも私には判らない。私は昔の縁で一時的に彼らの下についているだけだ」

 

 しかしサムスはすぐに顔を上げてこちらを見据えた。甲冑の下で燃え上がる目を幻視する。

 

「だが、アダムの事は知っている。彼は高潔な人物だ。上官としても冷静で思慮深く、指示も迅速かつ的確で理想的な軍人だ。彼の目的は第1に生存者の保護、第2に事件の真相の解明と解決だ。どうか信じて欲しい」

 

 サムスは力強い口調で自身とアダムを語った。

 今までのところサムスの言葉に嘘は感じられなかった。

 彼女は俺の思った通りの、いやそれ以上に良い奴だったようだ。なんだかますます罪悪感が湧いて来た。

 

 それにしてもやっとこの施設のある国が分かった。どうやらギンガ連邦という所らしい。やはりここは俺の知っているテリウス大陸の国家では無いという事が分かって、なんだか複雑な気分になってしまった。テリウス大陸内の未知の国家なのか、大陸外なのかは分からないがおいおい聞いて行こう。

 だが、その前に、

 

「分かった。俺はあんたを信じよう。疑ってすまなかった」

 

 疑ってしまった詫びをする。アダムの事は置いといて、とりあえずサムスの事は信用してよさそうだ。

 

「いや、こっちもちゃんとした説明が出来なかったのは事実だ。すまない」

 

 そして言いがかりの結果、いつの間にか精神的に対等の立場になっている不思議。

 さっきよりもサムスとの距離が縮まったような気がする。

 

「サムス、あんたはジャンプ力に自信はあるか?」

「ある、と言ったらどうする?」

 

 なんとなくだが今サムスは不敵な笑みを浮かべているような気がする。自然と俺の顔もほころぶ。

 こいつとなら、なんとかなる。

 俺一人では出来なかった事を、こいつとなら……

 俺は湧き立つ心に任せて言った。

 

 

 

 

「なに、ちょっと二キロ程垂直に跳んでもらうだけだ」

 

 

 

 

 

 




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