ラタトスクの艦内は今騒然としていた。精霊が来る。それがわかったからである。
「空間震発動。精霊来ます!」
クルーの一人がそう言うと画面が白くなり何も映らなくなる。空間震だ。
「精霊反応を二つ確認!【プリンセス】と・・・・・・【ピエロ】です!!」
「そう。【ピエロ】の方は鬼鉄に任せなさい!私たちは全力で【プリンセス】を攻略するわよ!!」
『了解』
艦内のクルーの声を聞き、琴里は今ここにはいない鬼鉄に声をかける。届かないと分かっているのに。
「がんばって、鬼鉄」
「お前らは全員【プリンセス】の方に行け。俺が【ピエロ】を殺す」
『了解』
そう返事をして飛び立っていくASTの隊員たちには目もくれず、少し遠くにいる【ピエロ】を見据える。
「やっと約束を果たせそうだ。舞香」
それだけ小さくつぶやくと彼は全身の筋肉に力を込めた。
「行くぞ【ピエロ】!お前をぶち殺す。約束のためだ。悪く思うなよ!!」
【超人】VS【ピエロ】の勝負の幕が上がった。
先に仕掛けたのは鬼鉄だった。
「『刺』」
彼の能力。ここからはワードマジックとしよう。その中でも速さが優れている『刺』を選んだ。それには理由がある。
「ふひひ、≪
彼女がそう言うと彼女の周りを大きなトランプが回り始める。
「《クローバー・エース》」
その中でクローバーの1が彼女の前に現れ、その表面から異形の存在が出現する。
「《ラットマン》」
それは文字通り鼠男だった。鼠を二足歩行させて、手足を伸ばしたらこんな感じかもしれない。かなり身長も高い。160はあるだろうか。
そして現れたラットマンを貫通させたところで『刺』がきれた。クローバーのカードが消える。消えたカードは1週間は元に戻らない。
「ちっ」
速さ重視の攻撃であっさりと終わらせようとしたが無理だったようだ。
突然だがここで彼のワードマジックについて説明しようと思う。
彼のワードマジックは同じ文字でもイメージによって効果が変わる。たとえば『刺』でもイメージによってはどこまでも貫通する針にもできるし、数本で突き刺すようにもできる。その代わり一本一本ごとの威力は落ちるが。そして同じ文字も一日に一度しか使えない。これは24時間後になるとまた使えるようになる。
そんな制約がある彼にとって、本人が戦わないタイプの彼女ははっきり言って苦手だった。
「めんどくせえな」
対して彼女の能力はさっきも言ったように本人が戦うタイプではない。
彼女の能力はトランプの絵柄と関連している。つまり4種類×13枚+1=53種類だ。4種類というのはハート、ダイヤ、クローバー、スペードのこと。13枚はエースからキングまでのこと。+1はジョーカーだ。彼女のカードは一枚一枚効果が違う。彼が効果を知っているのはハート、ダイヤ、クローバーの39種類だ。といってもハートとダイヤはクローバーの強化版だ。クローバー<ダイヤ<ハートといった力関係がある。
「《ダイヤ・エース》」
今度は【ピエロ】の攻撃。
「《鼠男》」
さっきのラットマンと外見上は何も変わっていない。しかし強さは別物だ。
「ぢゅうっ!」
「だっ!!」
こちらに襲いかかってきたので殴り飛ばす。本気で殴ってどうにか消えるってとこか。
「《ハート・エース》」
またかよ。ワンパターンな野郎だ。
「《ねずみおとこ》」
また同じ外見の奴が出る。
「ぢゅうっ!」
「はっ!甘いんだよ!」
ねずみおとこのかなり速い攻撃を全て受け流し、顎を蹴りあげる。そして空いたその腹に追撃を加える。
「『槍』」
文字の力により、俺の手の平から鋭い槍が飛び出す。そして俺に手を向けられていたねずみおとこに突き刺さった。しかしぎりぎりでかわしたのか死んではいない。
「本当に厄介だわ」
彼女のこのパペット達は13の種類がある。これらは干支になっており、キングはキャットマンである。
「ひひ、《ハート、ダイヤ、クローバー・GO》」
「うわあやりやがった」
これが彼女の戦法。つまり一気に数の力で制圧しちゃうぜ!ってことだ。本当に
「えげつねえなお前はよ!」
それでも鬼鉄は拳を握りしめて一歩一歩前に進む。彼女との、舞香との約束を果たすためだ。
「お前もビビりになったな。【ピエロ】」
こんなときに昔のことを思い出す。
『あなたに最後のお願い』
『なん、だよ』
『もう私の名前を呼ばないで。私はここで死ぬ。あなたには後処理を頼みたいの』
『そうかよ』
『これから現れる女を殺してくれる?はは、泣かないでよもう。【ドラゴン】のこともよろしくね?あの子ぬけてるとこあるから』
『おい!?舞香!?』
『ありがとう、鬼鉄。後は任せたよ?』
何でこんな時に思い出すんだくそったれ。
次回過去編です。狂三が出ないよー。