駿府城の第二層に設けられた臨時武家屋敷。
その西側にある本多忠勝の屋敷の広間に八意永琳と鈴仙・優曇華院・イナバが訪れていた。
永琳は忠勝の両腕に取り付けられたギブスを外し、腕に軟膏を塗ると包帯を巻く。
「はい、お終い」
そう永琳が言うと忠勝は両腕を動かし、拳を開いたり閉じたりした。
「あの傷を受けた時二度と元に戻るまいと思っていたがコレほどまで速く、そして完全に治療できるとは……。
異界の技術の凄さを改めて痛感いたした」
その言葉に嬉しそうに反応したのは鈴仙であった。
「師匠に不可能は無いわ」
「ふふ……、それは買いかぶり過ぎよ。私にだって不可能な事は多くあるわ」
永琳は薬を薬箱に戻すと「それにしても」と忠勝を見た。
「貴方も無茶をするわね。鬼の四天王を相手に殴りあうなんて」
「あの時はあれしか手が無いと思ったのでな……。
だが良い経験となった。この世界で東国無双のなど何の意味も無い。
某もこの広い世界の中ではまだまだひよっ子同然と言う事だな」
そう頷く忠勝の表情には喜びの色があり、それを見て鈴仙が半目になり「まったく……戦闘馬鹿は」と呟く。
戦闘馬鹿……か。
良い響きだ。無駄に年を食ったせいで戦いの途中にあれやこれやと考えるようになった。
だがそれらは全て雑念。
強者との戦いではちょっとした躊躇いや悩みが生死を分かつ。
それを彼らは分かっているのであろうな。
「某も、梅組を見習って馬鹿になるか」
「えっと……それはちょっと……」
そう永琳が苦笑すると三人は顔を見合わせ笑う。
それから立ち上がり障子を開くと一月の風が部屋を満たす。
「ふむ、もう昼時か。向こうも訓練を終え、昼食をとっているであろうな」
風に乗ってほんのりとカレーの良い匂いがした気がした。
***
訓練を終えた梅組一同はあとからやって来た正純やシロジロたちを加えて昼食を取っていた。
今日は良く晴れ渡っていたため、平原でバーベキューとハッサンのカレーを食べる事にし、四つの組み立て式バーベキュー台を皆で取り囲んでいる。
「あー、食いながらでいいから今後の事を聞いてくれないか?」
そう右手に紙皿を持つ男装の少女━━本多・正純が左手を上げる。
彼女は皆が此方に注目したのを確認すると一度咳をし、組み立て式の椅子に座る。
「まず織田との戦いの事後処理だが、武蔵は当分の間修復のため駿府陸港に停泊。難民達は当面の間駿河南部、海沿いに住んでもらうことになったが大きな問題がある」
それに頷いたのはハッサンからカレーを貰っていた御広敷だ。
「食糧難ですな」
そう言うと彼はカレーを一口食べ、近くの椅子に座る。
「現在、徳川には三万人を超える難民がいます。それに対して徳川が提供できる食料は余りにも少ない。
徳川は現在国力を大きく落としており主要な商業地区や農耕地区を尽く失っています。
この状況では国が干上がるまで良くて二ヶ月程でしょうか」
「そうねえ」と続けたのはハイディだ。
肩にエリマキを乗せた彼女は表示枠を操作しながら言葉を続ける。
「この前の敗戦のせいで今まで徳川と取引していた商人たちが一斉に離れたわ。
お蔭で家計は火の車。金銭的にも徳川はかなりやばい状況よ」
ハイディ達には三日ほど前から駿河や隣国の商人たちと接触してもらい何とか援助してもらえるように交渉してもらっているが交渉は上手く行っていないらしい。
「あの、お金はともかく食料は畑を作る事で賄えないのでしょうか?」
衣玖の言葉に御広敷は首を横に振った。
「駿河国は地理的に農耕にはあまりむいてません。仮に可能だとしても新たに農耕地区を作るには資金も時間も足りませんし、織田や北条の事を考えると内政に重視するわけにもいきませんから」
皆、沈黙する。
武蔵の農耕地区も損傷を受けた為そちらで補うという事も出来ない。
このままでは御広敷の言うとおり徳川は二ヶ月で干上がり瓦解するだろう。
「だからこそ、私は関東に向かうべきだと思う」
正純の言葉にナルゼは「戦争する気?」と首を傾げた。
「いや、戦争をしない方法があると私は思っている。私も極力戦争をしたくないからな」
「「…………え!?」」
皆は一斉に怯え竦み上がり、ミトツダイラが冷や汗を掻きながら正純の肩を掴む。
「ま、正純、一体どうしましたの!? 生活苦しくてついに何か悪いものを拾い食いでも!?」
「待て! どういう意味だ!? それは!!」
「え……だって、あんた何時も交渉前に“せんそうおっきくなーれ、おっきくなーれ”って祈祷してるんじゃないの?」
天子の言葉に正純は暫く沈黙すると自分の胸を叩いた。
「よし! 見てろよお前ら!! 今度と言う今度は戦争回避してやるからな!!」
***
・煙草女:『これ、また駄目なフラグ立ったんじゃないんさね?』
・恋 色:『あー、次の戦闘に備えて機殻箒の調整しとくかー』
・人形士:『そうね。私も人形隊の運用練習しましょうか』
・魂 侍:『これもまた一種の信頼なんでしょうか?』
***
こ、こいつら……!!
こうなったら意地でも戦争回避してやる。
多分出来るはずだ。うん、きっと。おそらく。……もしかしたら。
「と、ともかく戦争しなくても私たちは関東に行けるかも知れないと思っている」
「……ふむ? どういう事で御座るか? 正純」
二代の言葉に頷くと皆を見渡す。
「みんなは北条の動きが変だとは思わなかったか?
最初に降伏勧告してから北条は徳川に対して何も行動を起こしていない。
それどころか興国寺城にまで戻っている状況だ」
「確かに妙で御座るな。北条の戦力なら今の徳川を容易く制圧できるはず。それをやらないという事は……」
「ああ、恐らくだが北条は私たちを試しているのだと思う」
「試す?」と首を傾げた向井に「Jud.」と頷く。
「先月の続き、いや、振り出しに戻ったというところか。
北条は私たちを崩落富士の地下に居る概念核の主に会うだけの実力があるかどうか試した。
今回の事もその一環ではないかと思っている。
事実、北条側から会談の提案があったからな」
明日、興国寺で北条側の代表と会う事になっている。
そこで次の試練の条件が提示される可能性が高い。
「なるほどなー。で? 今俺たちが苦しい状況をなんとかするために関東でなにをするんだ?」
全裸にエプロン姿の葵がそう訊いて来ると正純は表示枠に関東の地図を映し、関東平野の中央を拡大する。
「私たちは江戸を目指したいと思っている。江戸は徳川の土地だ。
そこに移り、広大な農耕地区を確保する」
「あの」と手を上げたのは浅間だ。
“曳馬”と共に肉を焼いている彼女は肉を裏返しながら此方を向く。
「江戸は現在関東連合の土地ですよね? どうやって戦争無しでそこに移るつもりですか?」
「ああ、確かに江戸一体は現在関東連合の支配下だ。
だが今の関東地方には色々問題があってな。
まずその辺りの説明から行こう。ネシンバラ……」
「Jud.」とネシンバラが眼鏡を光らせ、立ち上がる。
「じゃあ説明の前に、どうして関東連合、正確には関東諸国連合が出来上がったのかから説明しよう」
***
ネシンバラは冬の風が自分の髪を靡かせるのを感じながら表示枠を開く。
「さて、関東地方は最初から統一されていたわけじゃないのはみんなも知っているね?」
「どうして誰でも知っている事を偉そうに言うのかしら」と天子が呟いたが無視だ。
「統合争乱は近畿地方が主戦場だったけど、関東地方も中々複雑な状況になっていたんだ。
関東地方最大の勢力、北条・印度。それと対立する長野家、宇都宮家、佐竹家、そして里見家。
さらに越後の上越露西亜や甲斐の武田家、駿河の今川家が加わり激しい勢力争いを行っていたんだ」
「長野っつーと、こっちに来てから俺たちが最初に寄った場所だな」
トーリの言葉に頷く。
「そうだね。ノヴゴロド戦後この世界に飛ばされた僕たちは長野、箕輪城に寄ったんだ。
その時に比那名居君たちと出会い、長野家当主長野業正と出会う事によってこの世界の状況を把握したんだったね」
あの時は実に興奮した。
あの神代の時代の英雄、武田家を退けた名将本人と出会えたのだから。
その時に貰った色紙は今でも保存術式を掛け部屋に飾っている。
「さて、僕達が長野家を離れ三河に到着した頃、関東では北条家と反北条連合による戦いが勃発したんだ。
当初は上越露西亜の援護を受けた反北条連合が有利だったけど、ある出来事が切っ掛けで戦況が一変する。それは……」
「妖怪連合の登場ね」
突然の声に皆が一斉に注目すると、妖夢の隣りにいつの間にか西行寺幽々子が立っていた。
「う、うわあ!? ゆ、幽々子様!? いつの間にここに!?」
「美味しそうな匂いがしたから来たわー。で、妖怪連合の事なら私のほうが詳しいわよ?」
「あ、そうか。幽々子さんは妖怪連合に所属していたんですよね?」
浅間の言葉に頷くと彼女は皿を取り出す。
「ええ。紫の参謀みたいのをやっていたわ。
で、妖怪連合の話だけどみんなはどの位知っているのかしら?」
幽々子の質問に紙コップに入っているお茶を飲んでいた正純が答える。
「統合争乱中期、関東の戦闘が激化している最中に突如現われ瞬く間に関東北部を制圧したと聞いている」
「ええ、その通り。
妖怪連合は元々はそこまで大きな勢力じゃなかったわ。
最初の頃は、そうね、大体二百人ぐらいの集まりかしら?
紫を中心に彼女の配下の妖怪、そしてその友人達が集まって出来た集団よ。
彼らの目的はただ一つ。この異世界で新たな幻想郷を作る事。ただその為だけに集まったのよ」
「新たな幻想郷? なによ、それ?」
衣玖の横に座っていた天子が首を傾げると幽々子は苦笑する。
「紫は焦っていたのね。幻想郷が異世界に飛ばされ妖怪達は事実上博麗大結界から放り出された。
それだけでも深刻な問題だったのだけれど、この世界には更に深刻な問題があった。
ねえ、比那名居天子。貴女は幻想郷をどう評価する?」
「……前にも同じことを聞かれたわね。そうねえ、平和な理想郷。だけど実はかなり危ういバランスの上で保たれていて、ちょっとした事が崩壊に繋がりかねない」
天子の言葉に幽々子は頷いた。
「そう、幻想郷は一種の温室。外の世界で住み辛くなった妖怪達が集まる理想郷。
そこで生活している妖怪達が外の世界、ましてや異常な技術を持つ異世界に飛ばされて無事で済むと思う?」
元の世界の外界でも人間の技術は大きく発達しており妖怪達にとっては脅威であった。
だがそれでもまだ個人の能力は妖怪の方が高く、外の世界で生活している妖怪も多く居る。
しかしこの世界の技術は私たちからしたら異常だ。
空を飛ぶ戦艦。巨大な鉄の武士。発達した地脈技術と術式。
幻想郷でも上位の力を持つ妖怪なら対抗できるが下級妖怪ではこの世界の技術に圧倒されるだろう。
「だからこそ紫は動いた。
戦乱で荒れていた関東を強襲し国を建国。その後は守備に徹してやり過ごす予定だったのよ」
「ふむ、だが実際の妖怪連合は破竹の勢いで勢力を伸ばし北条・印度連合と長期間に渡って争っていたで御座るな?」
副長の言葉に頷きながら箸で焼けた肉を摘む。
「私たちは勝ちすぎたのよ。
初陣、宇都宮城を強襲したときに私たちは圧勝。その後の佐竹家や蘆名家との戦いにも連戦連勝した結果、次々と妖怪達が集まってきたわ。
その結果妖怪連合は肥大化し、紫が制御できなくなった。
妖怪が人を圧倒し、怯えさせる。その事に皆、酔ってしまっていたのね」
元の世界では妖怪はどちらかと言うと弱者だ。
圧倒的な勢力を誇る人間から逃げ、隠れて来た。
何時か、神代の時代の妖怪達のように人間を恐れさせれる事を夢見て。
「関東北部を手に入れた時点で紫は戦いを止め、北条・印度や里見等の勢力と和睦する予定だったのだけど一部の妖怪達が先走って長野家箕輪城を強襲した。
これによって和睦は失敗に終わり、気がつけば妖怪連合対反妖怪連合の争いになっていたわ」
言葉を続けたのは書記だ。
彼は表示枠に地図を映し、皆に見せる。
「北条・印度連合は長野家や里見家と結託し妖怪連合に対抗した。
そして劣勢を覆すために北条は大軍を動かし房総半島に上陸させたんだ。
それに対処すべく妖怪連合も房総半島北部に主力を動かし戦況は二ヶ月ほど膠着。
そしてとある事件が起きた」
「ふむ、宇都宮崩しですね」
西国無双の言葉に書記は頷く。
「Jud.、 関東での戦況を大きく動かした宇都宮崩しが起きたんだ。
膠着した戦況を覆すために長野家が大胆な行動に出た。
それはたった三百の部隊で妖怪連合の本拠地宇都宮城を強襲し、一日で陥落させたんだ。
この時長野家の主力となっていたのが……」
「博麗神社ですね」
制服の袖を捲くり、肉を焼いている浅間が皆を見る。
「宇都宮崩しの主力となったのが先代博麗神社の巫女である博麗先代。そしてその配下の陰陽術士隊です。
当時の城には障壁がありませんでしたから先代は陰陽術士隊による遠隔攻撃を行い。その隙を突いて空から敵を強襲しました」
「空というと、航空艦を使ったのですの?」
「いえ、航空艦では目立つため式神を使役し空から乗り込んだそうです。今代の巫女、博麗霊夢は術式無しに空を飛べますし」
この時、妖怪連合の弱点が全面に出てしまった。
妖怪連合は統率された軍隊ではなく妖怪個々の力に頼った烏合の衆。
突然の奇襲、そしてあの先代の登場によって妖怪達は散り散りに逃げてしまい宇都宮城は陥落した。
「宇都宮城を失った事によって今まで有利だった妖怪連合は一気に苦境に立たされた。
次々と離反者が出て城も落とされて行き、ついに追い詰められた時に西で聖連が出来たんだ。
これによって不変世界各地の争いが収束に向かい、弱体化した妖怪連合も崩壊、解散になった。
その後、疲弊した関東諸国は連合を組み現在の関東諸国連合が出来上がったんだ」
***
ネシンバラが話し終えるとトーリが手を上げた。
「あのよ、関東連合が出来た理由は分かったような分からなかったような、まあ、ともかくそんな感じだって分かったけど。
俺たちが江戸に行っても戦争にならない理由ってのは何なんだ?」
「それは現在の関東連合の状況によるものだ」
正純の言葉に数人は頷いたものの、殆どは首を傾げていた。
「関東連合成立後関東地方は暫くの間安定していたが崩落富士で怪魔が現われて以降関東各地に怪魔が頻出するようになった。
特に遺跡の多い関東中央は開拓が難航していて小さな城は幾つかあるもののほぼ手付かずだ。
そこで関東連合と交渉し、武蔵が関東中央の開拓を手伝う代わりに江戸の周辺を譲渡してもらう」
「正純様、北条は明確な敵意を示していないため敵国とは判断しかねますが友好国とは思えません。
北条がその交渉に乗るでしょうか?」
「確かにホライゾンの言うとおり徳川単独では北条との交渉を進める事は出来ないだろう。
だが、先ほども言った通り関東連合は多数の国家が合体した組織。
我々は里見家との太いパイプを持ち、長野家とも友好関係にある。
そして結城家とも非常に親密な関係だ」
「結城家?」とアデーレが首を傾げ手を上げた。
「あの、結城家と言うのは関東連合所属の大名ですよね?
何か徳川と繋がりがあるのでしょうか?」
「Jud.、 結城家と徳川家には特別な繋がりがあるんだ。
現在の結城家当主結城秀康は徳川家康の次男だ。
更に結城家は統合争乱時に激戦区となった関東中央部を受け持ち、何度も妖怪連合を退けている更に現在では怪魔の討伐を行っている為北条家に次いで発言力が大きい」
ネシンバラの解説に正純は頷く。
「結城、里見、長野の三家を味方につけ北条と交渉する。それが私たちの当分の目的だ」
言葉で聞くと簡単そうに思えるが実際はかなり大変だろう。
北条も里見と結城のことを警戒し、何らかの牽制をしてくるだろうし長野家も本当に協力してくれるかは分からない。
嘗ての徳川ならともかく今の徳川は大幅に弱体化している。
逆に此方を利用しようとする勢力は関東に多くいるだろう。
━━そこらへんは私次第か……。
関東では戦いよりも交渉が多くなるだろう。
自分や書記、商人達の実力次第で徳川の行き先が決まる。
その事に若干の重圧と、喜びを感じながら首を横に振った。
「ともかく、まずは明日の興国寺での会談次第だ。
そこで北条の真意と出方を窺う。みんなもそう念頭に置いて行動してくれ」
そう言うと、皆頷くのであった。
***
徳川と関東連合の国境に建てられた興国寺城。
この城は城としては中規模の物であったが城壁には幾つもの対空砲台が並び、城壁は何度も改修され強固な物になっている。
また城の東部には機鳳用の空港があり、航空艦の補給や整備も可能である。
そんな堅牢な城砦の城壁上で一人の女性が見張り台の柱に背凭れ、遥か西の方角を眺めていた。
「……なにしてるの?」
突如上空から声を掛けられ、顔を上げれば一人の少女が滞空していた。
自分と同じ赤と白の巫女服を着た彼女は此方の横に着地すると気だるそうに首を回す。
「西を、駿府の方を見てたわ」
「いや、それは分かるけど……その理由は?」
少女の言葉に口元に笑みを浮かべ拳を突き出す。
すると少女は“やれやれ”と溜息を吐いた。
「私の先代がこんなバトルマニアだとは思わなかったわ」
「あら、別に戦いが好きなわけじゃないのよ?」
「そうなの?」と首を傾げる少女━━博麗霊夢に頷く。
「私が好きなのは新しい力を試す事。私みたいなロートルが新しい世代の試金石になれることを喜んでいるのよ」
「ロートルって……あんたまだ若いでしょうが。それに結局戦うのが好きなんじゃん」
「はは、そうかもしれないわね」
そう笑うと暫く沈黙し、霊夢の目を見る。
「巫女になって後悔してない?」
「……はあ?」
「博麗の巫女になって、色々と押し付けられて、それが嫌になっていない?」
そう訊くと霊夢は暫く思案し、やがて優しげな笑みを浮かべた。
「そうねえ、修行とか面倒くさいけど巫女になったこと自体は楽しんでいるし、感謝してるわ。
五月蝿い白黒に会えたし、胡散臭いスキマ妖怪は来るし、説教魔の仙人とか、あっぱらぱーな緑巫女とか、いろんな奴等に会えてそれなりに楽しんでいるわ」
少し恥ずかしくなったのか、頬を若干紅くすると半目で「あんたは?」と訊いて来る。
「巫女やってて嫌だった?」
「…………」
私、か。
どうだったのだろうか?
あの時は色々大変で楽しいとか楽しくないとか、好きだとか嫌だとか思っている暇は無かった。
だがこの世界に来て今代の巫女と出会い私は……。
「そうね、充実してるわ。なによりも貴女がいるし」
そう破顔すると霊夢は目を丸くし、そっぽを向いた。
「ま、まあ、頼りになる後輩が出来て貴女も嬉しいでしょうね」
「いや、まったく頼りには思ってないわ」
半目で此方を睨む霊夢を苦笑し宥めると立ち上がる。
「さて、明日が楽しみね。北条が用意した三つの試練。その先陣として楽しみに待っているわよ? 徳川」
そう呟き、目を細めるのであった。
関東の状況と今後の説明回