緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第四十三章・『白の巫女』 認められるわけありません。 (配点:邂逅)~

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 彼は面白い人物であった。

 “紫”の名を持つ彼は博識で、向上心のある人物だった。

 彼は私に教えた。

“この世界は無数にあり、ここはその一つに過ぎない”

“我々は確かに強力であるが無敵では無い。外の世界を学ぶべきである”

未知への好奇心と向上心。

それなくして種族の繁栄は無い。

 私は彼の話が好きだった。

 だが他の連中はそんな彼を嫌っていた。

年寄りたちが決めた“不可侵”の掟。

 私たちはあくまでも大樹の守護と監視を行うだけとする。

なんと退屈で傲慢な思考なのだろうか。

 気が付けば私は毎日“紫天”の許に通い、外の世界について学んだ。

 そんなある日、全てを変える/終える出来事が起きた。

 

5

 

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 小田原の空港は慌ただしく動いていた。

あちこちで人々が走り回り、軽武神は資材を運搬している。

「走れ、走れ!! どんどん資材を積み込んで行くよ!!」

 輸送艦の近くでは河童たちが運搬の指揮を執っており、青髪の少女が仲間に指示を出している。

そんな様子を見ながら大久保・忠隣/長安は武蔵との連絡を終える。

 武蔵には武田の牽制に動いてもらう事になった。

 崩落富士で戦っている先輩たちの為に少しでも時間を稼ぐためだ。

「お嬢様、韮山からの艦隊が到着したようです」

 背後に居る加納と宗矩に頷く。

「前線からの通神ではかなーりヤバい事になってるみたいや。

駿河の艦隊も動くかもしれん」

 既に武蔵と共に秀忠公率いる徳川艦隊が出撃準備を終えている。

 怪魔の大軍、リヴァイアサン型、遺跡突入後通神途絶した総長達。

━━ほんと、人を心配させる天才やわ。あの人たち。

 関東連合の輸送艦隊が離陸を始めた。

 前線に送る武器弾薬と兵員を乗せ崩落富士に向かうのだ。

「お嬢様、これからどうするので?」

「家康様と一緒に周辺諸国と交渉、やな。上越露西亜も異変を察知して動くかもしれんし。

それに西の事ももっとしっかりと調べなきゃあかん」

 その言葉に加納と宗矩は眉を顰めた。

 西の事。

先ほど伊賀忍者経由で知らされた情報にはこう書かれていた。

“P.A.Oda、浅井・朝倉軍を粉砕。小谷落城”

 もし本当ならP.A.Odaは更に勢力を広げた事になる。

━━まったく、無事に帰って来てな。こっちも大変な事になりそうなんやから。

 そう思いながら輸送艦が飛ぶ小田原の空を見上げるのであった。

 

***

 

 神殿では“白の巫女”たちと天子たちが睨み合っていた。

 “白の巫女”は不動であり、デュバリィはそんな彼女を守るように前に出ている。

対して天子たちも武器を構え、神殿内は張り詰めた雰囲気であった。

 そんな状況で天子は敵の背後にあるものが気になった。

 台座の様な場所に浮かんでいる長方形の石。

 流体の光を身に纏った力を感じる物体。

あれが“概念核”。

「何か訊きたいことがあるのでは?」

 先に沈黙を破ったのは“白の巫女”の方だ。

 彼女の言葉を聞き、正純と視線を交わすと正純は「訊け」と頷く。

「色々ね。まず一つ目、あんたたちの目的は?

二つ目、ここは何? 三つめ、“概念核”って何よ?」

「お答えしましょう。

一つ目は救済です。私たちはありとあらゆる犠牲を払ってでも“全ての世界”を救います。

二つ目は先ほども言った通りここは竜達の砦です。嘗ての大戦の際、竜達の拠点として建造され勝利と再起を約束した地です。

三つめは竜達の核が“概念核”です」

 答えを問うたら解決するどころか新しい謎が出てきた。

 全ての世界? 大戦? 竜達?

一体何のことだ?

「救済と言ったな! どのような方法でこの世界を救済するつもりだ!」

 正純がそう問うと“白の巫女”が嘲笑うように喉を鳴らした。

「この世界は救済しません。私たちは世界を破壊して世界を救うのです」

「それは一体どういう意味だ!」

 巫女は答えない。

どうやら質問の時間は終わったらしい。

「正純、こういう手合いは殴って吐かせた方が楽よ」

「同感ですわ。救済がどのような意味を持つのかは知りませんが、私たちにとって碌な物ではないはずですわね」

 皆も同じことを考えていたらしくトーリ達を背後にして前に出る。

 それに対して動こうとしたデュバリィを巫女は片手で止めると此方を見る。

━━……私?

「……何故あの方はこの様な何も知らない愚か者を担い手に」

「どういう意味よ!」

「貴女では何も救えないという意味です」

 前にも同じことを言われた。

 “私では救えない”。

一体何を?

「そうですね、ここで試してみるのもいいかもしれません。

ここで脱落するようでしたら覚醒を待つ必要もない」

 小言で呟く彼女に訊こうとした瞬間、彼女が動いた。

 マントを靡かせ、手を掲げると頭上に柄の両側に幅広の刃が付いた槍が現れる。

巫女は柄を掴むと構え、先端を此方に向ける。

 あれが彼女の武器!!

 彼女と同じく白い刃の双刃槍。

奇妙な獲物に警戒しながら相手を睨み付ける。

「参ります」

 そう短く言った瞬間、眼前に敵が迫った。

 

***

 

━━嘘でしょう!?

 何て速度だ。

 敵の初動が全く見えなかった。

 放たれた刃に対して体が動いたのはこれまでの経験のおかげだ。

 顔面を狙った一突きに対して尻餅をつくように後ろへ倒れる。

そのおかげで刃が貫いたのは私の顔面では無く帽子であった。

「この!!」

 エステルが敵の頭蓋を砕くように棍を振り下ろすが次の瞬間には敵は消えていた。

「き、消えた!?」

「エステル! 後ろだ!!」

 一瞬でエステルの背後に敵は回り込むと槍を横に薙ぎ、エステルの胴を両断しようとするがヨシュアが敵に体当たりをする事によって防がれる。

 体当たりを喰らった“白の巫女”はそのまま此方から距離を離そうとするがアマテラスとミトツダイラが距離を詰めた。

「銀鎖!!」

 二本の銀鎖を横に薙ぎ、それを敵は跳躍で避けるがアマテラスが同時に跳躍して背中の剣を敵に叩き付けた。

「!!」

 アマテラスの刃と敵の刃が激突する。

 両者の間で火花が散り、弾かれあう。

そこへ。

「二本追加!!」

 縦方向にミトツダイラが二本の銀鎖を叩き込み、相手を叩き潰す。

 頭上からの攻撃を喰らった敵はそのまま大地に叩き付けられたかのように見えたがいつの間にかに叩き付けていた銀鎖の上に乗っている。

━━……変だわ!!

 敵は完全に攻撃を喰らっていた。

だというのに攻撃を回避しており、銀鎖の上に乗っている。

 何かがおかしい。

だがそれが何なのかはまだ分からない。

「エリィ、援護を頼む!!」

「ええ、分かったわ!!」

エリィが銀鎖の上に立っている巫女に銃撃を浴びせ、ロイドが駆けだす。

 導力の銃弾を敵は槍を正面で回転させて弾くと跳躍した。

 ロイドの頭上に出ると槍を縦に構え、彼の後ろ首を貫こうと槍を下に突き出す。

対してロイドは体を大きく捻り、頭上の敵に体の正面を向けるようにすると右手のトンファーで攻撃を弾いた。

 そこへ飛び込む。

 敵は空中。

 攻撃を弾かれ体勢を僅かに崩している。

 着地と同時に敵の左側面に肉薄すると緋想の剣を左斜め下から右上に放った。

「…………!!」

 弾かれた。

 緋想の剣は敵の左手に持つ槍に弾かれ、逸れる。

 左!?

 敵は着地の時には右手に武器を持っていたはずだ。

だから左から仕掛けた。

着地の直後は硬直の為次の行動へ移るのに時間が掛かる。

その僅かな隙を狙った。

「く!!」

 動揺してしまった。

 攻勢は一瞬で逆転し守勢へ。

 敵は槍を縦に回転させるように振り、下の刃で此方の顎を狙う。

━━ここは……流す!!

 そうだ流れだ。

 以前ミトツダイラに言われたこと。

戦場の流れを読み、それに乗って上手く戦う。

今、自分がすべき事は……。

 左足を一歩下げ、体を後ろに逸らしながら刃を避ける。

そしてそのまま左足を軸に回り、敵の側面を通過しながら背後へ。

 そして、薙いだ。

 回転力を付けて緋想の剣を振るい敵の背中を切り裂く。

だが狙いは甘く、刃はマントを裂いただけであった。

 巫女がそのまま前に駆け出し、距離を放つ。

「ハイドロカノン!!」

 エリィは逃げる敵に水流を叩き付けるが、敵は右手を掲げると氷柱を召喚する。

「ダイアモンドダスト!? アーツを使えるの!?」

 氷柱と激突した水流は一瞬で凍り、氷柱と共に砕ける。

 巫女が最初の位置に戻り、此方も陣形を組み直す。

「……シャレにならないわね」

 エステルの言葉に全員が頷く。

 この場に居る全員を相手にして敵は無傷だ。

得体が知れない。

そんな言葉がぴったりな敵だ。

「例の、ぶっつけ本番でやってみましょうか……」

「そう、ですわね。出来る事は全てやってみましょう!」

 皆が頷き武器を構える。

 そしてある物を取り出した。

崩落富士に向かう前に貰った戦術オーブメント“ARCUS”。

それの機能を使えば……!!

「“ARCUS”起動!!」

 

***

 

“ARCUS”を起動した瞬間、繋がったのを感じた。

 戦術リンクシステム。

“ARCUS”使用者同士を共鳴させ、より高度な連携をとらせるためのシステム。

今、自分が共鳴している相手は……。

「天子、やりますわよ」

「ええ!」

 ミトツダイラだ。

 銀狼が横に並び、共に敵と相対する。

 貰った“ARCUS”は全部で七個。

 自分とミトツダイラ、エステルとヨシュア、ロイドとエリィ、そして衣玖も貰っているが今回はノリキと共にトーリ達の護衛に付いているためリンクはしていない。

 成程、これは凄い。

 繋がっている相手の思考が時折分かる。

これを上手く利用すれば凄まじい連携がとれ、戦場を支配できるはずだ。

 敵の力はまだ不明だ。

だがこれならば……!!

「行くわよ! みんな!!」

「Jud!!」

「応!!」

 掛け声と共に全員が同時に突撃を開始した。

 

***

 

「流石だな」

 トーリ達を護衛しながら仲間たちの戦闘を見ていたノリキがそう頷く。

「いつもは身内同士で喰い合っている奴らだが、もともと連携は上手かった。

それに戦術リンクとやらが加わって更に戦い方が綺麗になっている」

「綺麗、ですか?」

 横に立つ衣玖に頷く。

「ある程度戦いの技術を学んでいる人間なら戦闘全体の動きが見える。

そうだな、例えば本多・二代。

武蔵副長の戦い方は綺麗だと言える。流れるように動き、敵を制する」

「成程、それは戦闘職では無い私にも分かる気がします」

 今のミトツダイラ達はまったく無駄がない。

通常集団戦になると互いの動きのズレや思考の際によって乱れが生じる。

だが戦術リンクシステムを使ったことによってそういった無駄が無くなっているのだ。

まさに個にして全、全にして個。

ちなみにアマテラスもその中に居るのだが、あの神様は戦術リンクを使わなくとも完全に味方と連携している。何気に凄い。

「だからこそあの敵が危険な事が分かる」

 “白の巫女”はそんな仲間たちを相手に未だに互角に戦っている。

 連携からの奇襲に対しても冷静に対応し、最適な行動で返す。

一体あいつは何者だ?

 そう思っているとトーリが「なあなあ」と此方の肩を叩いた。

「どうした?」

「いま、行けるんじゃね?」

 トーリが指差す先、神殿の奥、祭壇の近くでは巫女と仲間たちの戦いに気を取られている騎士が居る。

━━行けるか?

 いや、行くべきだ。

チャンスは貪欲に掴むべきだ。

「見つかったら直ぐに下がる。それでいいか?」

 皆が頷き、歩き出す。

 なるべく外周を回り、柱の影に隠れながら祭壇へと向かい始めた。

 

***

 

━━どうしましょう……。

 巫女殿が自己問答して自己完結して、気が付いたら敵と戦っていて……。

護衛の筈なのだが完全に出遅れた。

 これ、助太刀した方が良いのだろうか?

 いや、でもあの中に今から飛び込むのもなあ……。

「そ、そうですわ! 私には概念核の回収という使命が!!」

 どうやって?

 概念核の大きさは大体子供一人分くらい。

抱えれば運べそうだが、抱えてここから逃げますの? 一人で?

ま、まあそれが使命なのだから果たすしかない。うん。

 そう思っていると左側にある柱の近くで何かが動いた。

「何者ですの!?」

 反応は無い。

ただ少し待つと……。

「……気が付かれたぞ?」

「いえ、カマをかけただけという可能性も」

「ど、どうするんですか?」

「逃げるか?」

 などと小さく聞こえてくる。

━━……丸聞こえですわよ。

 それに気配で分かる。

 二人は上手く隠しているが残りの三人は駄目だ。

恐らく戦いの経験が少ないのだろう。

「ですが、背を向けて逃げるのは危険なのではないでしょうか?」

「じゃあどうするんだ?」

「ほら、トーリ様出番です。華々しく散ってください」

「囮かよ!! あ、ちょっと待っててな」

「何いきなり脱ぎ始めてるのですか、このお馬鹿」

 柱の裏か鈍い音が聞こえ、暫く静かになる。

━━これ、行っていいんですの?

 武器を構え柱に向かおうとした瞬間、柱の裏から男が顔を出した。

「し」

「し?」

「新年あけましておめでとう御座いまああああああす!?」

 全裸が出た。

 柱から飛び出し、此方の眼前にまで駆けてくる。

そして彼は此方の前で止まると体をくねらせた。

「あはん」

 二・三回程それを繰り返すと彼は踵を返し、三歩進んで立ち止まる。

そして此方に振り返るとドヤ顔でサムズアップをした。

「撤収――――!!」

 柱の裏から仲間らしき連中が飛び出し逃げ始めると全裸も駆け出す。

その背中を三秒ほど見送ってから。

「HE・N・TA・I、ですわぁーーーーーー!?」

 いや落ち着け私。

 このままあのHENTAIを逃がすわけにはいかない。

直ぐに追いかけようと足を動かすと目の前に一人の青年が立ちふさがった。

「悪いが止めさせてもらう」

 

***

 

「!!」

立ちふさがる青年の姿を見て色々とテンパっていた感情が冷静になる。

 落ち着いた呼吸、脱力しているように見えてしっかりと此方の動きを捉える目の動き。

この青年は強い。

 そう判断すると相手との距離を保った。

「成程、無策で近づいて来たというわけでは無かったのですのね。

先ほどの……」

 記憶になんかモザイク掛かってるが、うん、しょうがない。

「先ほどの兵士。仲間の為にプライドを投げ捨てて此方の虚を突いた行動、お見事ですわ。

私もあの忠誠心だけは見習いたいものですわね」

「……あれは兵士じゃない。総長兼生徒会長だ」

「え?」

「総長兼生徒会長、葵・トーリだ」

「え、え?」

「理解に苦しむのは分かるが事実だ」

 えー……。

 あのHENTAIが総長兼生徒会長?

国のトップ? 嘘でしょう?

「あの、その、何故彼は、は、裸ですの? もしかして何かの呪いとか、そういうのですわよね!?」

「趣味だ」

 短く、そしてはっきりと言われ項垂れる。

武蔵の連中はZENRAのHENTAIを普通に受け入れているためもしかして私のほうがおかしいのか?

なんだか自信が無くなってきた。

「なんだか酷く落ち込んでいるところ悪いが、どうするんだ?」

「まあ、なんか正直帰りたくなってきましたけれども……」

 剣と盾を構える。

 幸いこの敵はまともそうだ。

なら全力で戦える。

 此方の構えに対して敵も拳を構えると互いに睨み合う。

「武蔵アリアダスト教導院所属ノリキだ」

「鉄機隊隊士、デュバリィ」

 息を吸い、重心を前に動かし始める。

その時に少しHENTAIの方を見たらHENTAIと自動人形の少女が話しており「あれ、きっと貧乳だぜ」と聞こえた。

━━も、もう絶対許しませんわ!!

「ぶっとばしてさしあげますわ!!」

 なんかぷっつんと来たと同時に動き出し、ノリキとの戦いが開始された。

 




崩落富士の戦いその5。”白の巫女”との対峙、デュバリィついに外道と接触するの回。

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