緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第二十五章・『鉄鋼の兵士たち』 ただ勝利の為だけに (配点:鉄機隊)~

 小田原城正門近くの城壁に博麗先代は居た。

 彼女は小田原城から見える街並みを眺めながら憂鬱気な表情を浮かべており、ときおりため息を吐く。

「ほほ? どうした? ため息などを吐いて。老けが早まるぞい?」

「小太郎と……小太郎ね」

 いつの間にか背後に立っていた風魔小太郎とその頭に乗っている走狗の小太郎の方を横目で見る。

「私はまだ若い。あと分かり辛いから、二人いるときはあんたの方を爺(じじい)で、こっちを豆って呼ぶから」

「ま、豆!? 失礼な!!」

 抗議する豆を無視していると爺の方が横に立つ。

「お前さんの悩みを当ててみよう。ふむ、そうじゃのお……娘さんの事じゃな」

「……だから、娘じゃないって」

 それから少し諦めたように頭を横に振ると「その通り。霊夢の事よ」と頷く。

「今後の事を考えていてね」

「今後と言うと?」

「今後は今後よ。これからの戦いの事。そして私がいなくなった後の事」

 そう言うと爺は「ふむ」と目を細め此方を見る。

「不吉な事を言いおる」

「……そうね。でもその可能性は大いにあり得る。今後戦いが激化すれば私は死ぬかもしれないし、貴方だって死ぬかもしれない。

その可能性を考えて今後の事を考えるべきじゃない?」

「まあ、それもそうじゃな。で? 具体的な悩みの内容は?」

 少し沈黙する。

 いつの間にか豆の方も此方を真剣な表情で見ており、それに微笑むと城壁の手摺に肘を乗せ、頬杖を付く。

「今後、戦いが激化すれば博麗の巫女も人間同士の争いに巻き込まれる。

正直言ってね、私はあの子に人殺しをさせたくないのよ。

博麗の巫女は代々妖怪退治を行ってきた。私もそれで多くの命を奪ってきたわ。

でもあの子の世代で色々と大きく変わった。

妖怪退治はあっても殺しは極端に少なくなった」

「だから殺しをさせたくないと?」

「人を殺せばそれは一生自分の中に傷跡として残る。あの子にそんな思いをさせたくないのよ」

「今の世の中では……仕方がないのでは?」

 豆の言葉に頷く。

 こんな事、ただの我儘だ。

 今も各地で多くの人間が戦い、命を落としている。

博麗の巫女という役職についている以上、誰よりも率先して困難に立ち向かわなければいけない。

「ところで、その霊夢はどこにおるんじゃ? こっちに来ておらんようだが」

「霊夢なら博麗神社に帰したわ。今代の巫女が長い期間神社を放置するのは良くないでしょう」

 それに向うに霊夢が居ればいざというときに動きやすい。

 少なくとも明日には徳川の面々を連れて崩落富士に行くはず。

そしてそれまでに<<結社>>が動く可能性が高い。

━━アリアンロード……。彼女とはもう一度相対してみたいわね。

 崩落富士で相対した甲冑の女性。

 あの時の彼女はまだ本気を出していなかった。

 本気を出した<<鋼の聖女>>を相手にどこまでやれるか、試してみたいと思うが……。

━━我ながら落ち着きのない性分よね。

 いつも霊夢には欲を捨てよと言っているが、自分も結構欲深い。

特に戦闘に関してはついつい熱くなりがちだ。

「ま、このまま何事もないのが一番でしょうけど……」

 ふと違和感を感じた。

 遠くの空。

 小田原商業区の上空あたりに違和感を感じる。

 違和感は徐々に大きくなっていき、そして空が歪んだ。

「!!」

 波打つ水面のように空が歪み、光っていく。

そして大きく波打つと同時に、空が割れ、真紅の船体が現れた。

 船首に紋様が描かれ、周囲の物を威圧するかのような航空艦。

あの船の事は知っている。

 私たちの敵。

 上からの報告にあった━━。

「━━━━<<紅の方舟>>グロリアス!!」

 そう叫んだ直後、グロリアスの艦底部ハッチが開かれ、黒き柱が大地に投下された。

 

***

 

 凄まじい衝撃であった。

 空から黒の柱が投下され、中央広場の中心に突き刺さった。

 周囲に居た人々は吹き飛ばされ、屋台は崩れ、建物の窓は砕ける。

 誰もが突然の事に理解が追いつかなかった。

 周囲には倒れた人々。

 泣き叫ぶ子供の声。

 負傷したのか痛みを訴えるうめき声。

 様々な音が充満する広場で一際異様な音がした。

 機械音だ。

 見れば六角柱状である黒の柱の上部が展開され始め、柱の表面に青い流体の光の紋様が浮かぶ。

「な、なんだ?」

 答える者は居ない。

 だが柱だけは己のする事を教えるかの様に大きな音をたて━━━━爆音と共に流体の光を地表に放った。

 

***

 

「状況は?」

 小田原城の作戦室は騒然としていた。

 各地での爆発。

 それと共に<<方舟>>の襲来。

 さらに敵は何かを放った。

「現在各地の守備部隊と連絡中。既に緊急展開部隊と警察が対応にあたってます」

『綱成だ。現在艦隊の出航準備中。哨戒艦隊も十五分で戻る予定だ』

「分かった。迎撃艦隊は出航次第敵航空艦を撃沈しろ」

 北条の面々が各所と連絡をしている中、西行寺幽々子は「変ね」と呟く。

「変、とはどういう事でしょうか? 幽々子様」

 ホライゾンの質問に幽々子は頷く。

「手緩過ぎるわ。町各地の爆発から航空艦による強襲。そこまではいいけどその後が続かない。

この小田原を落とすにはかなりの戦力が必要よ?

なのに敵は一隻しか来ていない。

何か策があるはず。だとすると怪しいのは……」

 直後、部屋の電源が落ちた。

 全ての機材が止まり、北条側の通神も落ちる。

「何事だ!?」

「中枢管理システムが攻撃を受けています! 敵は此方のシステムを急速に掌握中!

現在全体の六十パーセントが掌握されています!!」

 「馬鹿な! どうやって……」と氏康が言うと同時に早雲が目を見開き、自動人形に指示を出す。

「小田原内の全自動人形を中枢管理システムから分離させろ!!」

 早雲が叫んだ次の瞬間、白と紺の布が翻った。

 機材に張り付いていた自動人形達が一斉に此方に向かって飛びかかり、氏直が即座に刀を射出する。

 刀は三体の自動人形を貫き、砕くが二体が氏直の横を抜けトーリたちの方に向かう。

「ぬう!!」

 咄嗟に家康が抜刀し一体を止めるがもう一体は姿勢を低くし拳を構えて得物を狙う。

「葵!! 逃げろ!!」

 正純がそう叫ぶが遅い。

 自動人形は既にトーリを射程に収めており、拳を放つ。

 その直後、宙を舞ったのは自動人形の方であった。

「!?」

 蝶だ。

 青い着物を靡かせ、幽々子が自動人形の腕を掴み投げ飛ばしていた。

「悪いけど、砕かせてもらうわよ?」

 空中で復帰しようとする自動人形に詰め、扇子を首に叩き込むとそのまま砕く。

 首を砕かれた自動人形は鈍い音と共に地面に落ち、機能を停止させた。

「そちらも終わって?」

「うむ。ここの所槍働きをしていなかったが、どうやら鈍ってなかったようだ」

 家康の足元には方から腰まで叩き斬られた自動人形が倒れており、彼は笑みを浮かべると刀を鞘にしまう。

 とりあえず乗り切ったことに正純は大きく息を吐くと早雲の方を見る。

「これは一体……?」

「これが奴らの狙いだ」

 冷や汗を掻いた早雲が自動人形達の残骸を見る。

「どうやったのかは知らんが奴らは此方の中枢管理システムを掌握。それによってこの小田原は丸裸にされた」

 「いや」と彼は首を横に振る。

「丸裸にされた所ではない。

━━━━我々を守ってきた全ての物が今度は我々に牙を剝く事になったのだ」

 

***

 

 小田原の最も外側にある外壁。

そこにある監視所に二人の兵士が居た。

 彼らは小田原外の様子を監視し、問題が発生すれば即座に中央に連絡する仕事を行っており、このような監視所は小田原領内の各所に設けられている。

「なにか変ったことはあったか?」

 椅子に腰掛け、銃の点検をしていた男が双眼鏡で周囲を見回している青年に訊くと青年は「特にないですねー」と言うと双眼鏡を収納棚の上に置き、振り返る。

「こうやることないとちょっと暇ですよねえ」

「暇でいいじゃないか。それとも何か? 前線行って怪魔と戦いたいか?

だったら後で異動届だしてやろうか?」

「い、いえ! 今のままでいいです! 頑張らせていただきます!!」

 そう慌てる青年に苦笑すると男は「中央に連絡しておけよ」と言い、武器の点検に戻る。

━━弛んでるな……。

 今も前線では怪魔との戦いが行われているというのに、後方の兵士は気が抜けている。

 自分もつい先日までは前線で戦っていた。

 怪魔との戦いは熾烈な物であり、多くの仲間が慈悲無き怪物に殺されていくのを見ていた。

「あ、れ? おかしいな」

「どうした?」

 まだ体に馴染まない義足を引きずりながら青年の横に立つと、彼は「変なんです」と困った表情を浮かべる。

「中央と連絡が付かなくて。いや、中央だけじゃありません。各所との通神も出来ないんです」

「通神網の異常か」

 「さあ?」と首を傾げる青年に「やれやれ」とため息を吐くと元の椅子に座る。

「全部機械任せってもの問題だな。このまま通神が戻らなかったらお前、中央まで走って来いよ」

「えー!! 嫌ですよ!! こっからどれだけ遠いと思ってるんですかあ!!」

 「冗談だ」と笑うと思案顔になる。

━━妙だ。

 通神が出来なくなるなど今まで一度もなかった。

 小田原の通神網はまさにこの都市の生命線。

 常に点検、管理がされどんな些細な異常でも修復していた。

それが突然繋がらなくなったとなると……。

「せ、先輩!!」

「どうした?」

 青年が東の空を指さし、そちらの方を見ると慌てて立ち上がった。

「……なんだ?」

 空に浮かぶ無数の赤い点。

 そしてその点の中心に存在する白く大きな何か。

 それは徐々に近づいてき、その姿をハッキリとさせていった。

 飛空艇だ。

 無数の紅の飛空艇。

そしてそれに囲まれた巨大な一隻の航空艦。

それらは全速力で此方に接近し、上空を飛び越えていく。

 謎の大軍。

 それを見上げ、大声を上げる。

「━━━━敵襲だ!!」

 

***

 

 劇場前に居た人々は誰もが真紅の航空艦とその中から現れた飛空艇を見上げていた。

━━敵襲!?

 天子は次々と降下してくる飛空艇を見ながらそう判断する。

 どうやったのかは分からないが敵は小田原上空に現れ、部隊を降下させている。

「アリアンロードが居ない!!」

 ロイドの言葉に慌ててアリアンロードが居た方を見るが、そこには誰も立っていなかった。

「混乱に乗じて居なくなったようですね」

 青髪の少女の言葉に頷くとロイドは此方を見る。

「君はアリアンロードと一緒に居たが、誰だ?」

「武蔵アリアダスト教導院梅組、比那名居天子よ。リアンヌ……アリアンロードとはさっき知り合ったんだけどまさか<<結社>>だったとはね……」

 自分と祭りを回っていた時の彼女と先ほどの彼女、どちらが彼女の本性なのか……。

━━今は余計な事を考えちゃ駄目ね。

「そっちは何者かしら? <<結社>>の幹部と知り合いなんて只者じゃないと思うけど」

 此方の問いにロイドは頷く。

「俺達はクロスベル警察の人間だ。俺はロイド、右からランディ、ティオ、エリィだ。

君が<<結社>>と戦うというなら手伝いたい」

「相手は戦いのプロよ?」

「分かってる。だが<<結社>>の行為を見過ごすわけにはいかない。

俺達は彼らとの交戦経験がある。今は互いに協力するべきじゃないか?」

 どうする?

 彼ら事を信用していいのか悩むが、今は一刻の猶予も無い。

「分かった。協力しましょう。武器は?」

「劇場に置いてある。そっちは?」

「空港に停泊してる船の中。取りに行く時間は無いわね」

 「ともかく動きましょう」と言うと全員が頷き、劇場に向かって駆け出すのであった。

 

***

 

 ロイドは舞台裏の物置部屋で己の武器の点検を行っていた。

 両手にトンファーを持ち、何度もきつく握りしめ確認すると振り返る。

他のメンバーも点検を終えたらしく、皆此方を見ると頷く。

「ロイドさん!」

 舞台側から綺麗な衣装を身に纏ったリーシャとイリアが現れ、それに続いてアルカンシェルのメンバーも入ってくる。

「客の避難の方は?」

「全部終わったわ。外に居た人たちもみんな劇場内に退避させた」

「ロイドさん、行くんですね?」

 リーシャに頷く。

「奴らの好きにはさせない。俺達に何が出来るのかは分からないが、全力であがいて、立ち向かう」

「だ、だったら私も……!」

 リーシャの両肩にそっと手を乗せると首を横に振った。

「君はこの劇場を守ってくれ。これは君にしか出来ない事だ」

 そう言うとリーシャはやや躊躇った後に頷く。

 舞台側を見てみれば先ほど出会った少女━━比那名居天子が列誘導をしているときに見かけた二人の極東の女子生徒と話しており、どうやらクラスメイトのようだ。

 天子は此方に気が付くと手招きをし、皆で舞台の方に行く。

「あ、さっきの」

 両目の色が違う女子生徒に軽く会釈する。

「これからどうするか、作戦会議をしましょう」

 

***

 

・天人様:『まず浅間、何が起こっているのか状況説明をお願い』

・あさま:『Jud.、 現在小田原全域の防衛システム及び通神システムが落ちています。

私たちがこうやって通神出来るのは浅間神社経由の通神を使っているからですね』

・副会長:『それだけじゃない。どうやら中枢管理システムを掌握されたせいで小田原領内の自動人形の大半が敵になった』

・天人様:『厄介ね……。更に厄介なのは私たちは今、武器を持っていないという事。

格納用の二律空間に武器をしまっている奴はともかく、私みたいなタイプは丸腰状態よ』

・曳 馬:『その事でしたら私に案が御座います。皆様から最も近く、安全な座標に此方から武器を射出。

皆様は座標地点まで移動後武器を回収するというのはどうでしょうか?』

・蜻蛉切:『良い案で御座るな。途中で敵に遭遇した場合は各自の判断で、という事で良いで御座ろう』

・元気娘:『あの、私たちの武器はZCFの飛空艇にあるんだけど……』

・煙草女:『どこに停泊してるんさね』

・元気娘:『第八ドックだったと思う』

・天人様:『うちが第六ドックだから、近いわね。よし、じゃあこうしましょう。

私の部隊の七割ほどを曳馬防衛に、残りの三割で第八ドックに向かいエステルたちの武器を回収。

その後武器を射出。これでどう?』

・銀 狼:『異論はありませんわ。それで、私たちはどう動きますの?』

・金マル:『空からちょーっと偵察したけど、結構な量の部隊がそこら中に降下してるみたい』

・十ZO:『まずは合流する事を優先すべきで御座ろう。このままでは各個撃破されるおそれがあるで御座る』

・天人様:『そうね……。まずは合流する事を優先しましょう。私たちと忍者は中央広場、ミトと副長組は東大通みたいに。

あと何か意見はある? 馬鹿?』

・俺  :『お、おおおおう、おう?』

・天人様:『ないわね! 以上!!』

・俺  :『最初から聞く気無いならこっち振るなYO!?』

・天人様:『いや、まあ。あんたがトップだから一応……ね?』

・俺  :『あー、まあなんだ。みんな俺より優秀だからそれぞれの判断に任せるぜ。

何か言うとしたらそうだな……。

オメエら! 空に浮かんでやりたい放題してる奴らを思いっきり驚かせてやれ!!』

・約全員:『Judgment!!』

 

***

 

 小田原商業区の南部にある広場に<<結社>>の部隊が集合していた。

 この部隊は他の降下した部隊とは雰囲気が違い、皆静かに、そして統率されていた。

 部隊の戦闘には三人の甲冑を来た女騎士たちが立っており、それぞれ剣・弓・ハルバードを装備している。

 三騎士が動き、それに合わせて部隊が二つに割れ道が出来る。

 そこを鋼が通った。

 白銀の鎧を身に纏い、圧倒的な存在感を持つ女性。

 <<鋼の聖女>>アリアンロードが部隊の前に立つと、三騎士が膝を付き頭を下げる。

「時は来ました」

 澄んだ声が広場に響き渡る。

「アイネス。貴女は部隊を率い、東部の制圧を行いなさい」

「…………」

 アイネスと呼ばれた騎士は頭を下げる。

「エンネア。貴女の部隊は中央へ前進。その後狙撃支援を行いなさい」

「は!」

 エンネアと呼ばれた騎士が己の武器を確かめるように触り、頷く。

「デュバリィ。貴女は西部に進軍。制圧後、小田原城に肉薄しなさい」

「はい!」

 デュバリィと呼ばれた騎士は嬉しそうに返事をし、それから慌てて声のトーンを落とす。

 三人に指示を終えるとアリアンロードは振り返り、小田原城の方を見る。

「あと十分ほどで後続の部隊が到着します。彼らの為にも出来る限り敵の制圧を行うように」

 一人の兵士がアリアンロードに兜を差し出す。

 彼女はそれを受け取り、被ると静かに目を閉じた。

━━さてこの戦い、どのような結果となるか……。

 敵は北条だけではなく徳川・武蔵。

そして遊撃士に特務支援課だ。

おそらくかなりの激戦となるだろう。

そしてこの後の事も……。

━━まずは目の前の事に集中しましょう。

 アリアンロードはマントを靡かせ、ランスを天に掲げる。

「鉄機隊━━━━出陣」

 聖女の号令と共に<<結社>>の精鋭たちが動き始めた。

 




鉄機隊の出陣。そしてデュバリィちゃんが外道と接触する事になる……。

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