緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十七章・『犬士の意地』 守るべき場所があるからこそ (配点:八犬伝)~

 砕けた木を背にネイト・ミトツダイラは額に浮かんでいた冷や汗を拭った。

━━危ないところでしたわ……。

 殴り飛ばされた瞬間に銀鎖を左右に広げ木にぶつけて行くことで減速した。

 減速せずに地面に叩き付けられていたら流石に人狼の体でも厳しかっただろう。

「さて……どうしましょうか?」

 此方は銀鎖を二本失った。

 対して敵も太刀を一本殴りつけて飛ばしたため失っている。

 互いに得物は半減。

だが依然として有利は向うにある。

━━普通に近づくのは無理ですわね。

 立ち上がり、辺りを警戒しながら歩くと大地に突き刺さった巨大な武神の太刀がある。

それに近づき刃に触れながら思考を続ける。

それから“義”がいると思われる方向を見ると頷く。

「…………ちょっと、やってみましょうか?」

 

***

 

 義康は残りの太刀を引き抜き構えると周囲を警戒する。

 あれで倒せとは思っていない。

恐らく直ぐに反撃に出てくるだろう。

「なあ?」

 左手の中にいるトーリが此方を見上げる。

『なんだ?』

「あれからどうしてたんだ? 里見に戻ってから色々あったんだろ?」

『……ああ、色々あったさ。まず里見家が再独立を果たせていたことに驚愕と喜びを感じたな。

三河から里見まで飛んで行ってみれば神代の里見家と神州の里見家が協力して再興して、それを見て戻る事を躊躇った』

「躊躇った?」

 彼の言葉に頷く。

『今更どんな顔して戻ればいいのかとな。神州にいた時は里見の解放をただひたすら目指していたが、こっちに飛ばされ私が関わらないうちに里見が解放されてしまい、どうしようかと悩んだのだ』

「それで? どうしたんだよ?」

『時茂、ああ、里見の襲名者な。里見の国境でどうしようかと悩んでいたら正木・時茂がやって来て……』

「やって来て?」

『戦いになった』

 「へ?」と首を傾げる馬鹿に小さく笑うと頷く。

『どうやら凄く怒っていたようでな。私を見つけた後、暫く口論になって……うん、なぜか戦ってたなあ』

 結局勝負は引き分け。

 “義”と“信”が燃料切れになったあとは互いに生身で暫く取っ組み合い、気が付いたらお互いに仰向けに倒れていた。

 それから時茂の愚痴を聞いたり、武蔵での事を話したりしている内にお互いに自然と笑ってしまい時茂の誘いの下、里見に戻ったのだ。

『戻った後も大変だったさ。独立したとはいえ里見は小国。

江戸湾を挟んで北条・印度という仇敵が居て更に統合争乱だ。

里見が争いの渦の底に沈まないように必死でやっていたら今度は怪魔。

まったくなんの冗談かと思ったさ』

 それでも私たちは生き延びた。

 仇敵である北条とも手を結び、怪魔から国を守り続けた。

 だが一年前、P.A.Odaが斉藤家に侵攻したことによって全てが変わった。

 世界中で戦争が起きるようになり関東も再び争いに巻き込まれる可能性が出てきたのだ。

新たなる戦争、そして依然として関東に巣食う怪魔。

更にいずれ訪れるという“終末”。

 だからこそ徳川に期待したのだ。

 神州で他の国とはまた違う方法で“末世”を乗り越えようとする武蔵。

彼らならばこの新たなる危機に立ち向かえるのではないだろうか?

そう期待していたのだが……。

『こうなるとは思わなかったさ』

「でも、知ってるだろ? 俺たちがしぶといって事を」

 『Jud.』と頷く。

 武蔵に居たからこそ分かる。

武蔵がどれだけ能天気で、そしてしぶとく、前向きなのかを。

『だから手を抜かないぞ? 本気で戦って、それでも乗り越えてくれると信じているからな』

 森がざわめいた。

 鳥たちが羽ばたき飛び立つ。

 狼が来るのだ。

 己の王を取り返すために、己の敵を倒すために。

 故に犬も武器を取る。

 己を試練と理解するから、己の敵を信じるから。

━━来たっ!!

 森の奥。

 木々の間を銀の一閃が来る。

 刃だ。

先ほど己が射出した太刀が一直線に放たれてくる。

 それを刀の切り上げによって弾くと放たれた太刀に遅れて銀狼が現れた。

『!!』

 驚くべきはその速度であった。

 銀狼は森の木々の間を抜け、駆ける。

 速度の出し方は簡単だ。

つま先で地面を蹴り跳躍、そして再びつま先で地面を蹴る。

一回の跳躍で五十メートル程を一気に詰めてくるその光景は武神からでも圧迫感を感じる。

━━瞬発力だけなら本多・二代と同等……いや、それ以上か!!

 一瞬で迫ってくる敵に対して太刀を振り下ろし、叩き潰そうとするが敵は横に跳躍した。

そして自分の右方の木に両足をつけると……飛んだ。

━━なに!?

 銀狼が木を蹴り次の木へ。

地面に一回も着地せずに此方に迫り続け、縦横無尽に森を移動する銀狼に脅威を感じた。

『ならば!!』

 太刀を水平に放ち、周囲の木を断ち切る。

 銀狼は宙に浮いた木に着地し、さらに跳躍を行おうとするがそれよりも早く上体を捻り、背を敵に向けた。

『吹き飛べ!!』

 飛翔器を最大まで展開し、衝撃波を放つ。

それにより木々が吹き飛び、敵は上に逃れることで吹き飛ばされるのを防ごうとした。

━━貰った……!!

 敵が初めて宙に浮いた。

 足をつけれる地面とは違い、宙での移動は困難。

飛翔器の放った衝撃を利用し駒のように回転しながら宙に浮く敵に攻撃を叩き込もうとする。

「銀鎖!!」

 敵も二本の銀鎖を上方へ振り上げ、此方の刃に叩き付けようとするが……。

━━遅い!!

 僅差で此方の刃の方が速く届く。

 鋼の刃が銀狼の胴を叩き切ろうとした瞬間、太刀を持つ右腕が破砕した。

『…………は?』

 眼前に銀の柱が立った。

 太刀だ。

 巨大な太刀が此方の右腕を貫き、そのまま地面に突き刺さる。

体は回転していた為、腕はそのまま動き続け突き刺さった刃が装甲と骨格を砕き千切りながら進み……断たれた。

 断たれ宙に浮く己の右腕を見ながら、ようやく状況を理解した。

『私が弾いた刃を空中で掴んだのか……!!』

 

***

 

「Jud!!」

 敵の問いかけに強く答えるとミトツダイラは太刀に巻き付けていた銀鎖で己を引き寄せ、柄に足を掛けると跳躍した。

 正直危なかった。

 義康が少しでも上方を気にしていたら失敗した作戦だ。

 敵の注意を引くためにあえて正面から飛び込み、さらに木を伝って移動するという行為を行う事によって“私”を警戒させた。

 あとはタイミングの勝負だ。

 宙に浮いた太刀が地面に落ちる前に敵に接近し、銀鎖で太刀をキャッチ。

その後叩き込むという。

 跳躍し、着地する先は“義”の左腕だ。

 まだ回転する“義”の腕に着地すると駆け出し、目を回している王の居る左手へ。

そして己の腕に銀鎖を巻き付けると左手の親指関節を全力で殴打した。

 装甲が砕け、配線が千切り、骨格がへし折れる。

それにより王の拘束が解けたので彼を抱きかかえると跳躍し、地面に着地した。

「我が王! 大丈夫ですの!?」

 真っ青になっている王の顔を心配そうにのぞき込むと頭をなでられた。

「お、おお、おう……! だ、だだだ、だい、だいじょう、うっぷ、だいじょ、おえ、だいじょうぶだぜ……」

 まったく大丈夫そうに見えないのだが彼は頭をなで続け、それがだんだん、こう、その、気持ちいいというか、えーと、むずむずしてくるというか、そのお……。

「あ、あのお? 我が王? そろそろ……」

「ありがとな」

 腕の中でお姫様抱っこされていた王が笑う。

「いや、ネイトは騎士で俺は王様なんだから、こういう時は、そう━━━━よくやった」

「!!」

 顔が一気に熱くなるのが分かる。

 思わず顔を伏せてしまい、それにまた王が少し笑って強く頭を撫でた。

━━こ、これ! 一生もの! 一生モノですのよぉーーーー!!

 

***

 

・賢 姉:『フフ、ミトツダイラったら嬉しすぎて物凄い勢いでお尻振ってるわ!

ほら! 次は仰向けになって! お腹見せて! 絶対服従のポーズッ!!』

・あさま:『あの、ミト? ちょっとあとでお話が……』

・銀 狼:『見てましたのぉ━━━━!?』

 

***

 

 ああ、恥ずかしい!!

帰ったら絶対喜美と智にいじられる……。

 思い切って我が王連れて暫くハイキングとかしてようか?

━━森も豊かで、空気も綺麗ですし! これで肉があれば完璧ですわ!!

 そう現実逃避をしていると背後から『相変わらずだな』と声を掛けられた。

振り返ればいつの間にかに“義”が片膝をついて座っており、その方には小柄な少女━━里見・義康が立っている。

「あら? もうおしまいですの?」

「Te━━いや、Jud.、 右腕を断たれ、左手も破損させられたら負けのようなものだろう。

本当の戦いなら続行するがこれは試練だ。

だから、うん、お前の勝ちだ」

 義康は頷くと肩から腕を伝い、地面に着地する。

それから手を差し出すと。

「また、よろしく頼む」

 それに己と王は顔を見合わせ「Jud.」と頷くと王が義康の差し出した手を取り、笑みを浮かべる。

「よう、お帰り。ペタ子」

「━━━━!! ああ、ただいまだ」

 

***

 

 森林を戦闘の音が走った。

 白の犬が森を駆け抜け、それを八匹の犬が追う。

 八匹は順に白の犬への攻撃を行い、その都度白の犬が反撃して逃れている。

━━やっぱり変だぜ……!!

 吹き飛ばされないようにアマテラスの頭にしがみ付いてたイッスンはそう思った。

 いくらなんでも正確すぎる。

 振り切れば必ず追いつかれ、隠れれば直ぐに見つかる。

さらに……。

「!!」

 アマテラスが左前足で掴んでいた石を後方から追ってくる義狗の目に投げつけるが、義狗はまるで来るのが分かっていたかのように顔を逸らすだけで避けた。

 先ほどからこうなのだ。

 アマテラスの不意打ちはことごとく失敗に終わり、まともに反撃が出来ない。

━━まるで先読み、いや、監視されてるみたいだぜェ……。

「……いや、待てよ?」

 もしかして本当に自分たちは誰かに監視されており、その情報が八犬士たちに送られているのではないか?

 だとすると誰が?

そしてどこから?

「炙り出してみるか……?」

 このまま逃げ回っているだけではやがて限界が来る。

現にアマテラスは激しい追撃を受け、傷を増やし、息切れも起こし始めている。

早めに勝負をつけるべきだろう。

「おい! アマ公!!」

 アマテラスの耳に向かって作戦を話し、アマテラスが頷くのであった。

 

***

 

 森を駆ける九つの姿を見下ろす存在が居た。

 木の枝を伝い、戦いの様子を見ているのは桃色の体毛を持つスピッツ、智狗だ。

 智狗は常に後方二十メートル程の位置を維持し、戦いの様子を逐一仲間に報告する。

━━そろそろ限界か?

 仲間が追撃しているアマテラスの様子を見れば、駆ける速度は最初の頃より確実に遅くなっており攻撃に対する反応も僅かに鈍くなっている。

このまま持久戦に持ち込めば勝つのは此方。

その事は向うも理解しているはず。

故にどこかで勝負を仕掛けてくるはずだ。

問題はそのタイミングだが……。

━━あそこで来るか?

 前方にやや開けた場所が見えてきた。

 アマテラスが反撃に出るとしたらあの場所の可能性が高い。

その事を仲間たちに伝えると「やれやれ」と首を横に振る。

 便利な時代になったものだ。

 仲間との連絡も念話を使わず、通神で楽に行える。

 更にアマテラスを追撃している全員に自分が身体強化術式を掛けているため、以前よりも更に機敏に動ける。

 その事に悌狗は「己の力では無いものにあまり頼りたくない」と否定的であったが今は八犬士たち全員の強化が必要なのだ。

関東の情勢は刻一刻と変わっている。

 抱えていた問題は最早関東連合だけで扱え切れるものではなくなり、他国を招き入れることとなった。

 今回の相対戦に出たこと、これはその事への悔しさがあったからだ。

 己のイエを己の力で守れず、他者に守ってもらう。

 守護者として何と悔しい事だろう。

 相手が徳川、そして天照大神と聞いて理解はあった。

だが理解したからと言って納得できるわけではない。

だからこれは納得の場だ。

 アマテラスに挑み己の力が足りぬならそれでよし。

勝ったのならこれからもイエを守るだけ。

 アマテラスが明けた場所に達した。

 その事を仲間に伝えるとアマテラスが反転したのを視認する。

━━やはり来るか……。

 仲間たちがアマテラスを囲んだ瞬間、大地が捲りあがった。

 大地は圧縮され、正方形の壁になるとアマテラスを覆ってゆく。

━━視界を遮りに来た? だが無意味だ!!

 下の仲間の目を潰しても自分がいるかぎり逃れることは出来ない。

ただ、位置が少し悪い。

 前方、左右の岩が高くここからだとのぞき込み辛い。

 後方岩の壁が少し低くなっているところを発見すると枝を伝い、回り込んだ。

そしてアマテラス達の背後に回り込み、岩の壁の中をのぞき込むと……。

「!!」

 目があった。

 アマテラスが此方を見上げ、構える。

━━しまった!! 誘い出されたか!?

 直後、眼前に白が迫った。

 

***

 

 イッスンはしがみ付きながらアマテラスが敵を吹き飛ばすのを見ると叫んだ。

「こいつァ!! 智狗!? という事はあっちに居るのは……」

 アマテラスは止まらない。

 智狗を吹き飛ばすと枝に足を掛け、跳躍する。

 狙うのは地面に居るもう一人の智狗だ。

地面の智狗は完全に動揺しており、突撃を行うアマテラスに反応できずに体当たりを喰らう。

そして吹き飛ぶと近くの木に激突し気絶した。

━━そういうことかァ!!

 ようやく全てを理解した。

 智狗は二匹いたのだ。

いや、智狗は一匹。先ほどアマテラスが吹き飛ばしたのが本物だ。

そして今吹き飛ばしたのは八犬士ではなく智狗が用意した影武者。

 本物の智狗は離れたところから此方を見て、仲間に伝えていたのだ。

だがそれが崩れた。

敵の目を潰し、弱点をついた。

故にやる事はただ一つ。

「アマ公!! 勝負のつけ所だ!!」

 白き大神が咆哮を上げた。

 

***

 

━━策、敗れたかっ…………!!

 崩壊する仲間を見ながら悌狗はそう心の中で叫んだ。

 我々の連携は完璧であった。

智狗から送られてくる情報の下、完璧にアマテラスを追い込んだ。

 だがそれがあだとなった。

そう、完璧すぎたのだ。

 完璧で完成された動きは一瞬の乱れで崩壊を起こす。

それが今だ。

 智狗が潰され、目が潰された。

 続けて影武者がやられ、陣形が崩れた。

 敵はその隙を見逃さない。

アマテラスは近くにいた者から攻撃を加え、既に半数が戦闘不能に陥っている。

 アマテラスを挟撃すべく仁狗と信狗が行く。

だが敵は上方に跳躍すると己の居た場所に爆弾を召喚した。

 突然の事に二人は反応できず、爆弾の爆発を直撃し吹き飛んだ。

━━残るは二人のみか!!

 残ったのは己と義狗だ。

 互いに顔を見合わせ頷く。

上等と。

 智狗が送っていた強化術式もなく、今の我らは生身同然。

上等!

 義狗が行き、己も行く。

 対するアマテラスも真っ直ぐにこちらに向かって来た。

 まずは義狗が大地を蹴り、石礫を敵にぶつける。

それを敵は鏡で防ぐと今度は自分が突撃する。

 力には自信がある。

 たとえ天照大神といえども、正面からの純粋な力勝負では此方に有利があると。

 故に行うのは単純な体当たりだ。

己の全力を乗せた体当たりを敵に放つ。

 対して敵も体当たりを咄嗟に行い、此方を受け止めようとするが……。

━━此方の方が力がある!!

 アマテラスは此方の体を受け止め後ろへスライドして行く。

 見事。

 我が体当たりを正面から受け、潰れぬとは。

 なればここが我らの勝負所。

八犬士の意地と誇り、受けてもらおう!!

 アマテラスを押してゆく。

 向かう先は先ほどアマテラス自身が作った岩の壁だ。

そこに叩き付け、押しつぶす!

 あと僅かと言った瞬間、圧力が消えた。

「!!」

 アマテラスが此方の胴下に滑り込んできたのだ。

 アマテラスは体を低くし、潜り込むと勾玉召喚する。

そして連続で流体弾を放ち、直撃した。

「っ!!」

 腹に連続で攻撃を喰らい、宙に浮くとアマテラスが駆け抜ける。

背後にいた義狗がアマテラスの剣を喰らい倒れるのを見ながら踏ん張った。

「まだ、だ!」

 着地と共に強く踏み込み振り返る、そして再び体当たりを行おうとするとそれよりも早くアマテラスが頭突きを放ち、喉に直撃を受ける。

 息が止まり、視界がかすみ、力なく膝から崩れながらも己と相対したものを見る。

━━見事!

 そしてそのまま前のめりに倒れ、意識を失うのであった。

 

***

 

 八犬士が全員沈黙した事を確認するとイッスンは大きく息を吐く。

「ふう……ヤバかったなァ」

 アマテラスは一度吠えると倒れている八犬士+一匹を心配そうに見る。

それに微笑み、頭の上に座るとアマテラスの頭を撫でた。

「こいつらなら大丈夫だぜ、アマ公。何せ里見の守護者だからな。お互いにやる事やったんだ、いい勝負だったって笑おうぜ」

 「それにしても」とイッスンは思う。

 アマテラスの弱体化は思ったよりも深刻だ。

本来の力があればアマテラスに勝てるものなんて殆どいないだろう。

 これから徳川と共に行くなら、更に強い連中と戦っていくことになる筈だ。

 何処かで力をつけるなりしないといけないだろう。

「ま、今は勝利を喜んで戻るかァ」

 アマテラスが歩き始める。

 恐らく銀狼のとこに向かうのだろう。

戦闘の音が聞こえなくなっているあたり、向うも終わったはずだ。

 どちらが勝ったのかは分からない。

だがきっと銀狼が勝っているはずだと信じ、大神とコロポックルは仲間のもとへ向かうのであった。

 

***

 

 アマテラス達が居なくなると倒れていた八犬士たちが一匹、また一匹と起き上がっていく。

━━やれやれ、負けたな。

 そう義狗は笑う。

 藪の中から智狗が申し訳なさそうに出て来て頭を下げるが、首を横に振った。

「オレたちは全力を出して戦った。ならば、この結果は満足と納得だ」

 皆が頷く。

 敗者は去ろう。

潔く。

 里見には守るべきものが、待ってくれている人たちがいる。

 我らは八犬士。

里見の守護者。

全力をもって大神と相対し、敗れた。

 さあ、納得だ。

というか、大神相手にここまで頑張れたオレたち凄いだろ?

 じゃあ、満足だ。

 端っこの方で完全にのびている今回の最大の被害者、智狗の影武者を信狗が銜えると頷く。

「さあ、帰ろう。オレたちのイエへ」

 八犬士と一匹の犬が納得を得て、撤退を始めるのであった。




伊豆相対戦その2。里見勢との決着に臨むネイトとアマテラスの話。

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