箱庭で語られる超越の物語   作:妖精の尻尾

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1か月以上経っている……だと……。
ダイナミック謝罪会見を見て腹筋崩壊してました。兵庫って怖いですねー(棒

今話は夜刀様が箱庭に来た直後ですね。
まとめて投稿したかったのですが、(文章も作業も)長くなるんでいったん投稿します。後編も手直ししてるので少々お待ちを。



女神といちゃいちゃ(前篇)

『俺らの未来(さき)は、俺らが選んで決めるんだよ!』

 

 ああ、そうだな。先達として、その気持ちはよくわかるぞ。かつて俺も抱いた思い(反骨心)だ。確かにその通り。ああ、スワスチカでの出来事も、さすがに今となっては懐かしい。『獣』も『蛇』も好きにはなれなかった、いやむしろ嫌っていたと言えよう。だがな、それでも同じ黄昏の守護者としてともに、波旬と戦ったんだよ。

 その心意気やよし。しかしそれでは足りない。既知(水銀)修羅()黄昏(女神)とそして無間(オレ)(波旬)には敵わなかった。(ジジイ)への反発も結構だが、それだけでは奴は倒せん。

 

『俺らは誰かの備品じゃねえんだ!』

 

 よくぞ言った。そうだ、お前たちは波旬の法を越えねばならない。ゆえに――自覚しろ。それこそが黄昏の先にある、新世界へつながる第一歩だ。

 そして立つがいい。神の玩具として、お前はまだ死なぬだろう?ならば抗ってみせろ、この俺の(いのり)に。打ち破ってみせよ、この無間地獄を糧としろ。

 

『俺の仲間だ――全員いなきゃあつまんねえ!』

 

 …くっ、はっはっは。実に青臭い。だがまあ……それも良し。

 波旬よりかはマシだと自負しているが、それでも俺は座を握れない、握ってはならないんだ(・・・・・・・・・・)。理由は単純。

 

―――誰よりも美しい彼女に、かつてそう誓ったのだから

 

 けどな、お前たちがふがいなければ俺が波旬と戦うことになる。期待に応えられぬのなら、先輩もせかしてくるだろうし、俺も無間地獄(停止の法)を展開しなければならない。

 この世界が時の停まった氷結地獄《コキュートス》に覆われてしまうんだぞ?年寄りの隠居を願うのならば、お前の、いやお前たち(・・・・)の意地を見せてみろ。

 神としての責務、命の連続性を絶やさないということ。世界の恒久的平和や全人類の幸福といったものではない。ただ”次の可能性”へとつなげること。自己愛だけでなく、他者を思いやらねば覇道は生じない。お前たちの描く新世界がはたしてそうなのか―――さあここで俺に示してみろ!!!!

 

 

◆◇

 

 

「ぐっ…ここは?」

 

 大地に倒れ伏す赤髪の偉丈夫。現在自分がどういう状況にあるのか、それを整理しようとして彼は思い出す。

 

「そうだ。確かに死んだはず…。天狗道の元では転生もできやしないというのに、なぜだ…」

 

 第五天の”輪廻転生”は当然としても、死後の概念が導入された永劫回帰でも死者の魂は世界を巡っていた。けれど大欲界天狗道において、死者はそこで終わり。

 

――誰が天狗道(俺の体)に生きることを許した?さあ、この世界から疾く消えてなくなれ

 

 理屈にもなっていない暴論。だが波旬の如き、最悪にして最強の邪神が言葉にしてしまえば、それが世界法則に組み込まれてしまう。それは単純ゆえに絶対的な抗えない世界の法である。すなわち蝦夷で消滅した夜刀は、なぜ神格を保ったまま意識がある(・・・・・・・・・・・・・・・)という疑問が生じる。

 

「波旬が打倒され、第七天へと治世が変わったというのなら話は別だが……」

 

 しかしそれでもおかしい。先ほど言ったように神格を保ったままと言うのが引っかかる。天が変わり、流れ出る法(神の渇望)が違うのなら、この状況は夜刀にとって不可解そのものだ。―――なぜ人間として新生していない?変わらず覇道神としてのそれであるのはなぜだ?

 

 夜刀は長考にふけり、それ(・・)に気付かなかった。

 ぐるぐると堂々巡りする思考から現実へと帰り、何者かが自身の背後から接近しているのにようやく気付く。本来ならここまで接近を許した某かへの対策と、自身の不甲斐なさに対する戒めをしていただろうが、当然そんなことはする必要はない(・・・・・・・・・・・・・)。ただそれだけはなんとなく分かっていた。

 夜刀の中のなにか(・・・)が、訴えかける。それは決して忘れてはいけないことだった。落ち着いてしまえば、夜刀の後ろにいたのが誰かなどとは、すぐに分かった。

 そこにいたのは―――

 

「…レン」

「…マリィ」

 

―――再会することなど決してありえぬはずの彼女。

 

 波旬に砕かれ、踏みにじられてしまった黄昏。夜都賀波岐が八柱の支えとなっていた亡き女神。

 第五天がそこにいた。

 

 

◆◇

 

 

「ところでこれはどういう状況なんだマリィ?」

「ん、えっとね、この世界は箱庭っていうんだけど……――――」

 

 女神(マリィ)の説明になるほどと納得をする。近くて遠い別の世界、ただし座によって生み出された世界だと。座の世界が絶望的状況に陥ったときの対抗手段として箱庭の存在があるのだと。

 

「……ならば、と思うのは無意味か」

 

 それにともに戦ってくれたあいつらを貶めるだけだな、と夜刀は何とも言えない顔をする。

 たとえ波旬によってすべての魂が滅ぼされても座の機能によって世界が波旬ただ一人に収束することはないから、だから夜刀らの戦いは無駄だった―――というのは間違いである。確かに夜刀が勝っても負けても大丈夫だったというのは事実であるが、それは終わった後だから言えること。覇道神であるが、全能ではなく、未来予知など出来ぬ身であればそのような虚無感に囚われるのはひたすら意味がない。

 それに夜刀を信じ、ともに抗ってくれた彼ら夜都賀波岐の行い、思いをも否定することになる。侮辱に他ならない。よって夜刀はそれ以上感傷に浸らないようにする。

 

 いまだ箱庭に来たばかりで勝手が分からない夜刀にすれば、取れる行動は限られている。まずはこの箱庭についてより詳しく把握すること。幸いここにはマリィがいる。

 『失って戻ってくるものに価値はない』という、かつての藤井蓮の価値観は当然ながら夜刀も所有している。自身の魂の質を極め、波旬を除く歴代覇道神最強となった彼にとって渇望が揺るぐことはない。ゆえに理不尽とは言え、死んでしまったマリィが夜刀の隣にいる現状はとても耐えがたい。つまりこの状況が幸せだと言うのは分かっているけれど、何よりも”今”を直視し、”現在”を疾走する彼は如何ともしにくい。

 ただこの箱庭の成り立ちを聞き、それによって死者蘇生ではないのだと無理やり納得しているだけなのだ。

 

―――それでもなお(天魔・夜刀)彼女(マリィ)を愛している。

 

 もう一度くりかえすが、幸いにもここにはマリィがいるのだ。ならば彼女から、彼女の体験を含めていろいろと聞けばよい。

 箱庭と座が接近しているせいで汚らわしき波旬の法(大欲界天狗道)箱庭(こちら)にまであふれ出ている。弱き者ならこのわずかな邪気だけで滅せられてしまうだろう。そのせいか、波旬への憎悪が掻き立てられる。しかし天狗道(自己愛)からの脱却を示した坂上覇吐らに任せた以上、夜刀は波旬との戦いに出張るつもりはない。ゆえにこそこの場はマリィとの話に専念すべきだろう。

 

「なあマリィ。君の口から聞きたいんだ。箱庭(ここ)で君の経験してきたことを、話してもらえないかな?」

「もちろん、いいに決まってるじゃない。えっとね、わたしがここに来たときにね、白夜叉っていう人と会ったの。それでね……―――」

 

 そして彼らは話し合う。彼女(黄昏の女神)のために邪神(第六天波旬)の法に抗い続けた夜刀と、異世界にて(永遠の刹那)の身を案じ続けたマリィ。空隙を埋めるかのように彼らはただただ話す。

 かつて夜刀の聖遺物であったマリィには箱庭から観測しうる夜刀の激情だけでなく、その裏の真の願いが流れ込んでいた。度し難い波旬への憤怒(過去への想い)と、新世界へつなぐ次代への期待(未来への願い)。怒りのせいで狂神だった夜刀が抱える二律背反(ジレンマ)。それを痛ましいと思いながらも、彼女は信じていた。彼の勝利を。

 だから波旬の法が箱庭に影響を与えるようになり、箱庭が地獄一歩手前に成り果てても、彼女だけはそれでも幸福を願い、信じていた。

 ゆえに女神は朗らかに、楽しそうに語る。たとえ苦しくても箱庭(ここ)で幸せなことはあったと。その思い出を夜刀と共有するのだ。

 夜刀がわずかに笑って頷き、マリィは満面の笑みで話しかける。

 

―――他は何も見えない。聞こえない。ただ忘れないだけだ。俺は彼女を愛している!

 

 ふと夜刀は思い出す。波旬の(畸形嚢腫)である(坂上覇吐)に告げた夜刀の愛を。

 

「―――……愛してるよ」

「きゅ、急にどうしたの、レン」

 

 話の脈絡をぶった切って唐突に告白した夜刀に対し、マリィはあたふたと慌てる。それを見て、可愛いなと呟く夜刀。その言葉でマリィは顔を赤くして俯いてしまう。それを見て、さらに愛しくなって夜刀はマリィを抱きしめる。それに対してマリィは顔を林檎のように真っ赤に染めながらも、おずおずと夜刀の背に手を伸ばし、抱きしめる。それを見て、夜刀はこらえきれなくなって彼女の顔を自分の方へ向けさせ、そして彼女の唇へと………

 

「んっ、あんっ、んん」

 

 今までに味わったもので、何よりあれ(・・)が一番美味だった。 

 夜刀はのちにそう語る。それを夜刀が言ったときに隣にいた女神の顔が恥ずかしさのあまり、耳まで赤くなっていたのは言うまでもない。

 

 

◆◇

 

 

「うぅーーー……。藤井くんー……」

「少し待ってましょうって、玲愛先輩」

「然り。女神の意思は何より尊重すべきなのだよ」

「私だって彼と話したいのにぃー」

 

 夜刀とマリィの邂逅を陰から何人かが見守っていた。夜都賀波岐の面々と水銀(メルクリウス)、そして黄金(ラインハルト)

 座の世界に属する全魂が消滅しないように、善悪問わぬ功績ではなく、座による判定で絶対的な”善”つまり世界の全てを包み込む者こそが箱庭の絶対上位者として、箱庭にて再構築される。ゆえに輪廻転生(全てを受け入れる法則)はもちろん、それに連なる夜都賀波岐たちは東征軍を信じて散って逝き、消滅し次第、抑止力として夜刀より先にこの箱庭に『来て』いた。

 大欲界天狗道の完成は目前であり、あらゆる命の消滅(共食い)が目前であったために、箱庭と座は本来の『近く』なっていた。立体交差平行世界論という言葉通り、座の世界による神話や天体観測は箱庭に影響を与えながらも時間軸は同等のそれではない。ゆえに本来なら――物理的な議論はナンセンスだが――座と箱庭は『遠く』にあったのが、世界の危機にあって箱庭が座と交わろうと『近づいて』いったのだ。

 

 その結果、座と箱庭は同一の時間軸を有したのだ。本来なら無関係な時間軸が、第五天が砕かれ、天狗道が始まったときに箱庭の開闢間もない混沌期につながった。

 かくして夜都賀波岐が箱庭に再誕し、彼らの大将である天魔・夜刀――この呼び名は”西側”の蔑称であるゆえにこちらのほうがよいだろう――すなわち黄昏の守護者『永遠の刹那』と、東征軍が一人、坂上覇吐との戦いをリアルタイムで見ていたのだ。

 また余談ではあるが、箱庭で上位の存在ならば、薄皮一枚隔てた先の彼らの戦いを見ることもできていた。現に白夜叉や覆海大聖、混天大聖などはその行く末を見守っていた。

 

 話を戻そう。夜刀を除いた全員が箱庭に先に来ており、先の戦いの結果を見届け、そして現在幾人かの計らいで夜刀とマリィが二人きりで出会ったのだ。もっとも何人か(熊本先輩と魔女)は夜刀に会いに行こうとしたが止められ、不満をこぼしている。

 もっとも彼らの久しぶり(数千年ぶり)の逢瀬が一段落すれば突撃するのだろうが……

 

「ねえ藤井くん」

「テレジア!?…いや、そうか。みんないるんだよな……」

「責任……とってよね」

「唐突になんのことだ?!」

「…勝ってって、言ったじゃない…。なのに藤井くん、なんか悟っちゃってさ、あの戦いの勝ちを譲っちゃうしさ」

「いや、だけど、俺らの目的は」

「分かってるけど。遊佐君が言ってた、最後に勝つってことでしょ。でもね、そういう理屈じゃないの。わたしは藤井くんが誰より強いって示してほしかっただけ。だからね……責任とってくれるよね?」

「いや…それは…」

 

 一段落する前に突撃してしまった。もう少し待ってようよ、とそこにいた誰もが呆れながら思う。

 

「あんまりレンをいじめないでよ、レア」

「むっ、別にいじめてるわけじゃない」

「えぇっと……落ち着こうか、お前ら」

 

 混沌(カオス)、というより修羅場(ラブコメの定番)になりかけるその状況に隠れていた面子はため息をつきながら、しかし嬉しそうに夜刀の元へと歩み寄っていた。

 

「マルグリットの唇を許した覚えはないぞ、わが息子よ」

 

 …一人だけ、ふふふと笑いながら邪気を露わにしている男がいたが。

 




こ、これでもいちゃいちゃが足りねえ奴は感想にわっふるわっふると(ry


どれくらいの感じならいちゃいちゃが足りるか分からないので、意見によっては後編にさらなる女神と夜刀様を…!!

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