箱庭で語られる超越の物語   作:妖精の尻尾

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1、2週間と言っておきながら3週間たってしまい申し訳ない…。寒暖の差が激しいこの時期は割と辛いんですよね…。すこし風邪をぐずらせてました。

ということで第5話です。デート編は次です。今度こそすぐ投稿できるはず…!!(時期は明言しない)
なぜかというとずばり問題児成分が少ないからですねー。クロスなのに一方を優遇しすぎるのは結局両作品を貶めることだと思ってますので、ええ。
それと原作との相違点もあります。さすがに設定をそのまま混ぜるのは…、ということです。ご了承ください。


なんだかんだで一番妻らしい女性は綾せ…Bカップ先輩ですよね!?

「やっほー、ひっさしぶり!黒ウサギちゃん」

「あっ、お久しぶりです、香純さん!!」

 

 第7桁東側外門にあるノーネーム。そこに第1桁に本拠地を構えるコミュニティ『黄昏(Abenddämmerung)』から一人の少女がやってきた。名を綾瀬香純。

 

「なんか、機嫌良さそうだけど…何かあったの?」

「いえ、これからあるんです!コミュニティ復興の第1歩が!」

 

 今日、召喚するのですよー!!と黒ウサギがはしゃぐ。コミュニティノーネームを実質的にやりくりしてる黒ウサギがるんるんと嬉しそうだったので、香純は質問し、その答えを聞いて思う。…ああ、その日だったな、と。

 ようやく、この箱庭における魔王との戦いが本格的に激化する(・・・・・・・・・・・・・・・)のだと。

 

「それではお迎えに行ってくるのです!!」

「うん、いってらっしゃい黒ウサギちゃん。あたしは子どもたちと遊んでいくね」

 

 気を付けてねー、と喜び勇んで湖のほうへと走り去っていった黒ウサギの背中へと声をかけた。そして、みんな元気にしてるかなー、と破顔しながらノーネームへ入っていく。

 

「あ、かすみおねーちゃんだ!!」「こんにちはお姉ちゃん!!」「ねえねえ、はやく遊ぼう!!」

「あ、ちょっと待ちなさい。…ほら、今日はなにして遊ぶ?」

「えっとね、…鬼ごっこ!!」「鬼ごっこは前もしたよー。今日はおままごと!!」「じゃあかくれんぼ!!」

「ほらほら、落ち着きなって。それじゃあまずは………………――――――」

 

 

◆◇

 

 

「ぃぃぃいいいいやほおおおぉぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギ!」

 

 きゃあーー!と叫ぶ黒ウサギと、突然黒ウサギにフライングボディーアタックをかました少女。二人仲良く川に落ちる。貴種であり、帝釈天の眷属でもある彼女(黒ウサギ)がこのように無様な目にあったのは、コミュニティ復興の第1歩である『召喚』がうまくいって気が抜けていたのともう一つ。タックルをかました白夜叉がこの箱庭でも有数の実力者だから。

 ノーネームの召喚に応じた問題児3人は、2人は呆れ、1人はサービス(少女のタックル)を店員に求めていた。そして白夜叉が黒ウサギの所有権を求めるも、店頭で立ち話もなんだということで白夜叉の私室に入れてもらう問題児一同。

 

 そこで問題が起こる。逆廻十六夜が倒したトリトニス湖の大蛇は、白夜叉によって神格が与えられたと聞いた3人は白夜叉へと勝負を挑む。

 

「おんしらが望むのは”挑戦”か――――もしくは、”決闘”か?」

 

 瞬間その場は水平に太陽が廻る(・・・・・)世界へと変貌する。白夜王たる『白夜』と『夜叉』を表す天動説(・・・)そのもの。箱庭席次第10番たる、黎明期には全ての宇宙観(コスモロジー)を支配していた片鱗。

 その圧倒的なまでの力量の差に問題児たちは冷や汗を流し――――けれども、挑む気概は微塵も衰えなかった(・・・・・・・・・)

 

「はっ、…いいじゃねえか。俺たちとあんたとの間には絶望的な差があるみたいだが………だからといって負ける気はしないな(・・・・・・・・・)!!」

「そうね…あなたには負けてはならない(・・・・・・・・)…!!」

「…わたしも…あなたと闘う」

 

 問題児3人はそれぞれ人の身に余る恩恵(ギフト)を宿しているが、それは元の世界基準である。下層でこそ絶大な力として振るわれるものの、白夜叉へと通じるか否かではほぼ100%の確率で後者に転がる。戦場を調え、装備を万全にし、体調(コンディション)を最高にして、なお届かない(・・・・・・)

 太陽の主権を持ちながら天動説(太陽を昇らせない白夜)として君臨する彼女は、魔王として振る舞えば人類最終試練(ラスト・エンブリオ)として絶対的な壁になる。普段おちゃらけていてもその名は伊達ではない。

 

 だが、3人はそれでもなお挑む。自身の中にあるなにか(・・・)が訴えかけるのだ。…決してひいてはならない、と。やるのではない、やらなければならない、と。

 

―――それ(・・)から生まれた自分たちはそれ(・・)を乗り越えねばならない、と

 

「…っくっ、くっ。頑張るのう、おぬしら」

「…はっ!!白夜叉さま、悪ふざけもそこまでにしてください!!」

 

 しかしその空気も白夜叉が笑うことで拭い去られる。そして問題児3人の緊張も一気にほぐれる。白夜叉はもともと本気で戦うつもりなどなく、3人の為人と戦力を知るために少々威圧しただけだった。

 

「…今のは俺たちを試したってことか?」

「まあ、そんな感じだと思ってくれればよい。…ふむ、なるほどなるほど。…いい感じに加護を受けておるようじゃが、やや視野狭窄に陥っておったのう…。…その辺は要注意といったところか…」

 

 冷や汗を大量に流しながら十六夜は確認をし、それが間違えていなかったことを知ると注意がわずかながら散漫する。ゆえにそのあとの白夜叉の独り言をだれも聞くことはなかった。

 

「…しかし私が魔王だったのは数千年前…。その片鱗を嗅ぎ取ったというのか…。これならば…」

 

 それが誰にとって幸運だったのかは、誰も知るすべはない。

 

 

◆◇

 

 

 その後3人の『挑戦』は終わり、ギフトカードである『ラプラスの紙片』を手に入れていた。場は白夜叉のゲーム盤から部屋へと変わっている。そして白夜叉は3人へと問いかける。

 

「おんしらは自分たちのコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

「ああ、ノーネームだっていうことか?」

「ならば”魔王”と戦うことも承知の上か?」

「聞いてるわよ」

「なるほど…。ならば少しは話しておかなければならんのう」

「…何のこと?」

 

 問題児3人はノーネーム復興の主力として呼ばれたが、それだけではない。いや、黒ウサギはそれしか知らないだろうが、かつて『アルカディア』において参謀を務めた金糸雀(カナリア)とクロア=バロンは違う。

 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)として箱庭の西を支配していた閉鎖世界(ディストピア)への反旗。いまだに(・・・・)人類を信仰の家畜として、そして神殺しを有する魔王を倒すため。それこそが彼らの到達点。

 

「おんしの出番じゃぞ。いい加減に姿を現せ、のう?」

 

―――カール・クラフト=メルクリウス

 

 白夜叉が人名らしき言葉を呟くと、その場に変化が起きた。白夜叉のゲーム盤への招待のように爆発的な変化ではなく、むしろ光景は変わらないのに場が変わったと思うかのごとき重圧。演説などで大勢の人を目のあたりにすると自身に存在しない圧力がかかるような、そのように注目を浴びることで生じる精神的な圧力が物理的なそれと感じる現象。

 そして、それを何万倍(・・・)にもしたかのような圧倒的な圧力。10人?100人?どれほどの数の人間が自分に興味を持てば、これほどの重圧が生じるというのか。想像すらできないが、しかし言えることは一つ。くしくもそれは問題児たち3人が共通して思ったことと同じであった。

 

 白夜叉の比ではなく、自分たちでは決して挑むことすらできない。

 それはやや間違った認識ではあるものの、彼らはその存在の大きさをほぼ正確に感じ取ることが出来ていた。そして気づいたら、目の前にまるでこの世には存在しえないような人型の影絵があった。それは徐々に形をとり、ボロ外套を着た長髪の男性へと定まっていった。

 

「私の名はカール・クラフト=メルクリウス。かつて『座』に居た4番目の神である。好きに呼びたまえ、女神以外はどうでもよいのでな。…始めに言っておこう。これは女神からの直々の頼みであるがゆえ、本来君たちと会うつもりはなかったのだよ」

 

―――しかし語ろうではないか、この箱庭とそして君たちが元いた世界について

 

 

◆◇

 

 

「まず…あんたは何者だ?」

「先ほど言った通りだが…。ふむ、それに有象無象にかかずらう暇はなくてな。質問は受け付けぬよ。聞きたいことがあれば後で白夜のにでも聞くといい」

「……」

「……なんかこの人すごい」

 

 言いたいことと聞きたいことは山ほどあったが、とりあえずそれら(+怒り)を飲み込み(問題児にしては理性的な対応であった)、そして彼(?)の話を聞くこととした。

 

「それでは世界の歴史について語っていくとしよう。かつて科学技術の発展によって宇宙の中心である『座』というものが生まれた。それは覇道神が己の渇望でもって世界法則を塗り替えるもの。ゆえに、その強大性を危惧した当時の科学者たちはなんとか『座』に干渉し、安全策を施そうとしたのだ」

「いくつか聞きたいことがあるわ」

 

 話のしょっぱなからぶっ飛んだ内容だったためか、久遠飛鳥が手をあげ質問する。そしてそれに言ってやれと言わんばかりに残り2人がうなづく。

 なお黒ウサギは突然の大物の登場に現在も硬直中。そして白夜叉はそんな黒ウサギ(硬直状態の愛玩動物)にここぞとばかりにセクハラを敢行(?)中。

 

「質問は受け付けぬと言ったはずだが。ああ、有象無象に女神の基準は求めないが、しかし一度言われたことくらいは覚えておきたまえ」

「「「…………ムカッ」」」

「さて続きだが…。『座』に完全に干渉し、すべての安全策を施すのは『座』を生み出した者たちといえど不可能だった。けれどそのいくつかは成功した。それがこの箱庭の存在(・・・・・)だ」

 

 まあ人の身で神の領域に踏み込むのだ、そう出来ることではない、メルクリウスは呟く。咒法を統べる神と言えど、全知にして白痴。決して全能ならぬ神ではないメルクリウスはその凄まじさを良く知っている。なによりもかつて座の機構を大幅に改造した身として。

 

「世界を自身の渇望で塗りつぶすその危険性は考えるまでもなく、ならば、どのような渇望が最も忌避され、どんな渇望こそが最も良いとされるのか。それを当時の人間は考えたのだ。世界のすべてを征服する神こそが悪だと思うかね?…いいや、『座』より渇望を流出するというのはある意味で世界征服とも言いかえられる。ゆえに、あらゆる生物の消滅(・・・・・・・・・)こそが、最悪の状況だという考えに至るのは自然なことだったろう」

 

 導入こそ急に飛んだ話だったが、いざ聞いてみると少しずつ分かり始め、聞き入る3人。結局メルクリウスの言った通り、黙って聞くことになっていた。

 

「また逆に塗りつぶす法則でなく、すべてを受け入れる法則こそが最良のものと考え、それをも安全策に組み込んだのだよ。『座』の神が全てを滅ぼしても次代へとつながるように、滅ぼされるまでにうまれたあらゆる伝承が箱庭で生まれるのだ。そして滅亡の瞬間に、従属に近いながらも独立していた座の世界と箱庭(座より生まれた世界)が交わり、箱庭と座の上下関係が入れ替わる。座の世界には箱庭に存在していた命であふれ、そして座にいる邪神は箱庭全戦力でもって討伐される。」

 

 メルクリウスと初対面の3人と黒ウサギは気づかなかったが、長い付き合いがある白夜叉はその声にやや硬さがあるのに気が付いていた。それは悔悟か、緊張か、それとも………

 

「その後は、先ほど言ったすべてを受け入れる法則を第1候補として、座にふさわしい覇道神が決定される。…すべてが終われば箱庭と座の世界は元に戻り、箱庭で生まれた命は箱庭へと還っていく、というシステムが組まれているのだよ。そしてお前たちは第7天の世から来た存在であり、この世界の希望でもある(・・・・・・・・・・・)のだ。では白夜の、あとは頼んだ」

「むっ、もう行くのか?その説明だけだとさすがに足りんじゃろう」

「否。足りていようがいまいが関係ないのだよ。私はマルグリット挺身追跡隊としての責務を果たさねばならない」

 

 メルクリウスが自身の姿をゆらゆらと実体から影へとあいまいにしていく。説明が中途半端じゃのう、と白夜叉はため息をつく。彼女としてもある程度は説明し、ある程度は隠しておき、うまくはぐらかそうと思っていたが、これでは何かを隠しているとまるわかり。問題児が質問攻めにしてくるのが容易くわかるようだった。

 

「(…専門家に任せようと思ったのが、間違いじゃったかのう?)まあ、ほどほどにしておけ。藤井蓮を天魔・夜刀に変えたくなかろう(・・・・・・・・・・・・・・)?私もお前たちの仲間割れなど見たくはないからな」

「ふむ…。心配はするな、白夜の。私は女神を奪うつもりなどない。…………ただ、愛でるのみだからな」

「(…相変わらず気持ち悪いのう)」

「(…うわ、何だこいつキメェ)」

「(…これがキモイっていうやつかしらね)」

「(…うわぁ、黒ウサギもどんびきなのですよ)」

「…カール・クラフト死ね」

 

 初対面の者が聞いても、ストーカー根性丸出しのメルクリウスに一同硬直し、春日部耀はぼそりと毒を吐く。影からついにその場から消えて、あ、消えましたね、という黒ウサギがつぶやいたことで問題児らは動き出し、まずは白夜叉を質問攻めにするのだった。




少し説明が分かりにくいですかね?後から説明を足すかもしれないです。

さてこれの次は待ちに待った(待たせた)夜刀様と女神のデートです。そしてその後に3話で完結予定です。
なにか要望がありましたら、活動報告のアンケートのほうへお願いします。

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