箱庭で語られる超越の物語   作:妖精の尻尾

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活動報告にも書きましたが、伏線をちょいちょい入れながら短編を投稿→中編で回収みたいな流れを考えてます。
のでよほど致命的なミスでない限り、スルーしてください。
それと伏線ははってますが、そういうことは気にせず楽しんで読んでもらえると幸いです。
後から「ああ、あれはそういう意味だったのか」と言う感じですね。

今話に練炭の出番はなし。
それとドラマCD聞いた人はタイトルで察してもらえると思います。
Bエ…じゃなくて衆道至高天ではないので安心してくだせえ。


今日も頭が米騒動

――――我が愛は破壊の情

 

 突然だが、箱庭の話をしよう。箱庭はとても広大であり、その面積は星の表面積との比率――流石に小数点以下のパーセンテージではあるが――で表されるほどだ。

 別に箱庭がある、この星が小さいわけではない。むしろ恒星級と非常に大きい。かつて『Dies irae』という歌劇の舞台になっていた地球が惑星であり、太陽こそが恒星に当たるのだからその大きさは推して知るべし、と言える。

 ゆえにこそ、それだけ大きいといくつにも土地を分けねば無用な混乱が起きる。それが第1桁から第7桁までの計7つの門とそれらを東西南北で区切った区画である。

 

――――まず感じたのは『礼賛』――求めしものは全霊の境地

 

 唐突な話であったが、何が言いたかったというとつまり、『彼ら』の本拠地についての前置きである。第四天と黄金の獣、第五天に永遠の刹那、そして彼らの眷属たち。

 眷属らは元々そこまで強力な存在とは言えなかった。しかし覇道神につき従うものとして、また第六天に関する『功績』でもって強大な『恩恵(ギフト)』を得た。

 

 そして覇道神らは言うに及ばず。元々自分の意思一つ(渇望の詠唱)で世界法則を書き換えることが出来る存在であるから。

 箱庭において最強種と呼ばれる、生態系の頂点に君臨する『神霊』『星霊』『龍の純血』の3種と同等か、もしくはそれ以上の存在なのだ。

 強大な恩恵(ギフト)を得た眷属らは箱庭でも屈指の実力者に、覇道神らは間違いなく箱庭の頂点に当たる。

 

――――ああ なぜだ なぜ耐えられぬ 抱擁どころか 柔肌を撫でただけでなぜ砕ける なんたる無情――

 

 神霊でさえ魔王討伐に際し、自分達の影響力を考えて、規定の法に則らないと討伐に向かうこともできない。

 では覇道神たちは?当然ながら箱庭の下層はおろか、上層でさえ影響力は甚大を超え、災害クラスとなる、望まずともなってしまう(・・・・・・)

 

――――森羅万象 この世は総じて繊細にすぎるから

 

では彼らの本拠地とはどこなのか?委細述べるとすると、座が統べる世界と箱庭の関係の説明をしなければならないが、詳しいことは次の機会にしよう。

端的に言ってしまえば、箱庭のどこにもない(・・・・・・)。いや、一応1桁の外門にあると言えばあるのだろう。

 

 先ほど述べたように覇道神たちの影響力は莫大だ。メルクリウス(変態)が気ままに白夜叉の元へ訪れるのは到底不可能、というよりとても考えられない。階層支配者(フロアマスター)と座の神の会合など聞くものが聞けば、恐ろしさのあまり卒倒するほど。

 ゆえにこそ、覇道神たちは封印されている(・・・・・・・・・・・・・)のだ。最も今となっていうならば、されていた(・・・・・)が正しいが。

 

 正確に言うならば、本体は封印され、その分体として『影』が自在に動くことが出来る。影と言えど質量はあり、本体とは何ら変わらないが。

 かつてカール・クラフトとマルグリット・ブルイユが行使していた能力(ちから)であった。しかし『恩恵(ギフト)』を使うことで、皆が『影』を作り出すことに成功した。

 

 けれど、果たして彼らがそのままの状態に甘んじるだろうか?女神はこれでも(封印されてても)構わないと思うかもしれない――事実そう思っていた――が、あの黄金の獣(壊したがり屋)が黙っているだろうか?

 黄昏の治世下では、神としての生を拒み、人として転生を繰り返していたが、ここは箱庭。『伝承』として生まれた、生まれなおした彼らは、望む望まないにかかわらず神として生きねばならない。

 天狗道に一人抗い続けた刹那に敬意を表し、無用な争いは起こさないと誓ったが、しかし彼の渇望は『全てを愛したい』そして『全力を出したい(・・・・・・・)』である。

 

――――愛でるためにまずは壊そう 死を想え 断崖の果てを飛翔しろ

 

 力の大部分が封印され、全力が出せないこの状況に、黄金の獣は是と言うだろうか?

 当然否である。しかし彼は封印が解かれれば世界に多大な影響が、混乱が起きることは分かっている。よって行ったのはかつてのベルリンでの一幕(・・・・・・・・・・・・)

 魂の吸収などは行わなかったが、獣の創造位階とイザーク・アイン・ゾーネンキント(父に頼まれて張りきったファザコン)恩恵(ギフト)を用いて、箱庭にて魔城を構築した。

 

 そう、現世から隔離された、異界と化している(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ヴェヴェルスブルグ城を。

 

 ゆえにそこでは覇道神が全力…は無理にしても、多少の無茶は利くのである。そして占神であり、魔導に通じた水銀が封印システムごと解除し、1桁外門の内にあるその城を本拠地とした。とはいえ、下層にまで降りるときは力を制限しているが。

 それでも解くことが限られた状況でしかできないのと、自分の意思で封印を自在に解けるようになったのでは大きく違う。

 もっとも黄金はそれだけの理由で封印を解いたのではないが…。

 

 長くなったが、刹那と黄昏、水銀と黄金、そして彼らの眷属たちは『城』を本拠地としている。そしてこれは彼らの本拠地である『城』での、とある日の出来事である。

 

 

◆◇

 

 

「あははははははは!ハイドリヒ卿に最初に忠誠を誓った…くっ!!…って散々自慢してた、…くっ、くふふ…そ、そんな一番槍のあなたが、た、ただの人間の一喝で消えるって…ぷぷ!!ねえどんな気持ち?今どんな気持ちなの、ベイ?わたしに教えてくれるかしら?」

「うっせえぞマレウス!!テメェッ、ケンカ売ってんのか?!」

 

 白髪に赤目――俗にアルビノと言われる――の男と、その男の顔を見るなり爆笑しだした赤髪の少女。かつて黄金の獣の爪牙として聖槍十三騎士団に名を連ねていた、第四位『串刺し公(カズィクル・ベイ)』ヴィルヘルム・エーレンブルグと第八位『魔女の鉄槌(マレウス・マレフィカルム)』ルサルカ・シュヴェーゲリンの二人である。

 

「いやはや、僕も同感です」

「爾子もですのー!ベイカッコ悪いですの!」

「黙ってろやシュライバー…!!」

「確かに僕たちは旧世界において、シュライバーと名乗っていましたが、今は丁禮と」

「爾子ですの!何度も言ってるのに…記憶力悪いんですのー?」

 

 その二人の間(ベイ弄り)に小柄な少年と巨大な犬が割って入る。そして彼らの発言にヴィルヘルムの怒りの原因は侮辱から、別のものへ変わっていく。

 

「テメェら…ハイドリヒ卿への忠誠を忘れてんじゃねえんだろうなアァ?」

「これも何度言っていることですが、僕たちは黄金の爪牙」

「確かに夜行様に拾われ、式神になってましたが忠誠を忘れたわけではありませんの」

「自分の立場が悪くなったからって、他の話題にすり替えないでください」

「そうよそうよ!ベイのばぁーか!」

「くそがッ…!!劣等どもに下った分際でよ…!!」

 

 城は20名程度が住むのには十分すぎるくらい広い。ゆえに複数人で騒いでいても、迷惑にはならないが、そこに偶然ある人物が通りがかる。ヴィルヘルムを弄るルサルカと丁禮、爾子、そんな騒ぐ彼らのもとに一人の女性が近づいていく。

 

「あらあら、ずいぶんと楽しそうね。遠くまで声が届いてたから来てみたんだけど…。裏切り者の臭いがするわね、換気しましょうか?」

「…ッ!?」

「ぷぷ、あはは…!!あはははは!最高よ、リザ!」

「ベイと凶月刑士郎は違うですけど…ホント同一人物にしか思えませんのー!」

「『人間』の凶月刑士郎に否定されたと(わら)われ、今度は似すぎてるから同一視される…。哀れですね」

「…テメェら、好き勝手言いやがって…!!Wo war ich(かつて何処かで)……」

「あら、やる気なのベイ?せっかくだから恩恵(ギフト)も使ったらどう?人間に消された『功績』で得たんだったわよね?対象を解脱させてあげるっていう、あなたに似つかわない献身的な(・・・・)恩恵(ギフト)だもんねー?…ふふふ、あははははは!」

 

 やって来たのは黒円卓ベイの顔を見るなり、皮肉を言った黒円卓第十一位『大淫婦(バビロン・マグダレナ)』リザ・ブレンナー。本人は本気で言ったわけではなく、笑っている。

 しかし先ほどまでも侮辱されて(ベイ主観で)きていたため、あまりの怒りにヴィルヘルムは自重をやめる。自身の創造『死森の薔薇騎士(ローゼンカヴァリエ・シュヴァルツヴァルド)』を使い、ルサルカと丁禮、爾子、そしてリザをまとめて黙らせようとする。しかしルサルカは煽り続ける。

 

 そしてそこへある人物が訪れる。

 

「その辺にしておけ。…まったく何をしているんだ、お前たちは…」

「アン…?何の用だザミエル?」

「あら、久しぶりねエレオノーレ」

「おや、今日はよく同輩に会う日ですね」

「爾子も久しぶり―!ですの!」

 

 かつて聖槍十三騎士団黒円卓第九位『魔操砲兵(ザミエル・ツェンタウァ)』と呼ばれていた女性がそこにいた。

 ラインハルトの近衛として側にいる彼女は、主の帰還と同時に城へ帰り、此度の騒ぎに気付いた。

 

「チッ…。またかよ…」

「どうした?なにを言っている?」

「……ぇぞ」

「…?」

「劣等に尻尾ふったやつらが調子に乗ってんじゃねェぞ!!テメェ、ザミエル…、ずいぶんと腑抜けたなあ、おい」

「急にどうしたというんだ…?」

 

 城でとは言え、創造位階を使用するのはよほどのことと思い、止めに入ったのだが今度は自分に矛先を向けられ、戸惑う。そこでリザ・ブレンナーと少年(理性の象徴)である丁禮に話を聞く。

 

「ああ、そういうことか…。…お前たち、少しは抑えろ」

 

 事情をある程度理解したザミエルは呆れたように告げる。それにルサルカ、丁禮、爾子は「はーい」と返事をするが、それに従わないものが一人。

 

「なんで俺がお前の言うことを聞かなきゃなんねぇんだ?」

「…はぁ」

 

 頭に血が昇ったベイを大人しくさせるのは困難だと察するが、諦めることなく諭そうとしたとき、

 

「この前ハイドリヒ卿にラブレターらしきものを書いてたよな?んな色恋に惚けたテメエに従う義理はねえよ」

 

 爆弾発言が飛び出した。

 

「…はっ?」

「えっ、それ、ホント?」

「あらあら、やるじゃないエレオノーレ」

「…」

「すごいですの!乙女ですの!」

 

 ベイの発言が認められず、一瞬呆けて次には意識が戻ったが、「なぜ知っているのか」などと考えられる余裕はなかった。次の瞬間にはこの場にいる全員に知られたことに意識が向かったからだ。

 嘘だと断定すればよかったのに、それすら出来ずに壊れた機械のように「なっなっな」と繰り返すだけ。そして…

 

「あ、やば」

「お先失礼するわね」

「これは…」

「やばそうですの逃げるんですの」

「大体テメエらよ…」

 

 逃げるメンバーに対し、変なスイッチが入って周りが見えなくなっているベイ。

 そして城に響き渡る叫び。

 

「全員、…忘れろーー!!!!」

 

――――焦熱世界(ムスペルヘイム)激痛の剣(レーヴァテイン)!!

 

 

 

 

 

 

 

今日も修羅道(グラズヘイム)は地獄です。




ベイ中尉は不憫(断言
強く生きろ

つぎは誰を書こうかな?

4/27
触角を作り出すのが座の機能であったところを削除
それと前話とは時間的にはつながってたのであとがきの一部も削除

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