ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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現場の指揮を椿姫に託した、数分ならば眷属達だけでも守りきれる

だってあの子達は私の自慢の眷属なのだから

だから、私は走った──

一刻も早く彼を救出しなければ──!




第7話 実力差

 

ソーナは椿姫に結界の維持と、自身が戻るまでの指揮を託し、ひしぎの元へ走る。

転移を使えば一瞬なのだが、コカビエルが力を解放している所為で、

その力にあてられた周囲の魔力が不安定になっており、座標固定が出来ず、

走って向かうしかなかったのだ。

 

自身の走る速度を強化しておいたほうが良かった──と、ソーナは後に語った。

 

現在ひしぎが寝泊りしているのは保健室の隣にある特別な個室であり、

主に悪魔が何らかの魔法、特殊能力で怪我した際に寝泊りできる用になっており

彼が使用していた。

 

(もうすぐ──次の角を曲がれば!)

 

幸い、その個室は1階にあるので階段を上らずに済み、廊下を曲がると──

あるモノが視線の中に入り立ち止まった。

 

部屋の明かりは付いていないのだが、悪魔である彼女は暗闇でも物、色の識別が可能で、

昼間と大差なく判断でき、個室の扉は開いていて、中から発生したとおもわれる血が外の廊下、

壁、窓にまで飛び散って付着して下に垂れていた。

 

その光景を見て息を飲むソーナ

 

(遅かった!?)

 

初めて見る血の量に足が止まっていたので、気力で前進させた。

そして、恐る恐る彼女は個室の前に到着し、中を見ると──

 

 

最初に会った時の服装をしたひしぎが個室の真ん中に立っており手には、夕方、椿姫から

譲り受けた『大刀』が握られており、刀身の先から血が滴り落ちていた。

 

そして、視線を刀身から床に移すと──何かがバラバラになったモノが床に散らばっており、

現場を見ていたらソレが何と無くは分かっていたのだが、ソーナの脳はソレを

"細切れにされた堕天使"と認識したくなかったのだが、

認識した途端、何か込上げてくるものを感じたソーナは血溜まりの中で膝を付き、

口元を押さえると──優しく背を撫でられた。

 

「大丈夫ですか、ソーナ」

 

いつの間にか傍らに来ていたひしぎ──ソーナはいつもと変らない彼の表情を見て、

怯えてしまいそのまま後ずさってしまった──優しそうな彼が、こんな事をするとは

思わなかったのだ。

 

「──っ」

 

その瞬間、ひしぎの優しく気持ちが落ち着くように介抱してくれていた手は離れ、

でも、怯える彼女に彼は何も言わなかったのだ──ただ、ソーナはその瞬間初めて見る

彼の悲しそうな表情を見た。

 

この惨劇はひしぎ自身が意識を覚ましてから、初の戦闘であり、まったく手加減できなかった、

故に、起きた事であって言い訳はしなかった。

 

(ああ、嫌われてしまいましたね)

 

誰だってこんな現場を見せられたら恐怖を感じ、精神が不安定になる。

 

後ずさった時に廊下に出ており、そのまま尻餅を付いたままのソーナ。

 

彼女の思考は初めて見る死体に極限まで停止していた、故に──横から

約3メートルはあろうかとする『光の槍』の出現に反応が遅れた。

 

廊下で隠れて様子を観察していたもう一人の堕天使が、部屋から出てきた

人物をひしぎと勘違いし、『光の槍』を手に生成すると投擲した。

 

距離自体は10メートルぐらいしか空いておらず、発せられた光に気づいた

瞬間には彼女の目の前に迫ってきていた。

 

(──あっ)

 

1秒も満たない時間の中、ソーナは自身の取った行動を迂闊に思い、

そしてひしぎを無意識に傷つけてしまった事に後悔した。

 

(──分かっていたのに──ごめんなさい)

 

彼の元に堕天使の死体があると云う事は、彼を拉致か殺害しにきて、

ひしぎに返り討ちにされた──と、漸く判断したのだが、時は既に遅く、

 

避けきれないと思い、目を瞑ったソーナ──だが、何もおきなかった。

 

恐る恐る目を開いてみると、眼前に手が差し出されており、『光の槍』を

手のひらで受け止めていたのだ。

 

そう、腕の持ち主は勿論ひしぎであり、あの一瞬、1秒にも満たない間に彼は攻撃の気配を

感知するとソーナの隣へ移動し、腕を突き出したのだ。

 

「・・・・」

 

無言で『光の槍』を砕くひしぎ。

 

「──ひしぎさん」

 

その光景に呆気に取られているソーナ。

 

ひしぎは彼女を守るべく体を彼女と敵の間に移し、背を向けたまま

ソーナに語りかけた。

 

「安心してくださいソーナ──この戦闘が終わり次第、私はこの学園から出て行きますので、

 もう少しだけご辛抱ください」

 

助けてくれた彼女をこんなに怯えさしてしまった事、そしてこのような惨劇を

起こしてしまった事で、ひしぎはこれ以上彼女に迷惑を掛けない為にも、

この学園を去ることを決めたのだ。

 

(小猫さんにもどう詫びたらいいか)

 

体が戦闘可能まで回復したので、もうここに執着してまで居る必要は無いと判断し、

ここで暴れている輩を全て排除する事で、助けてもらった恩を返そうと決めたのだ。

 

「──遅いです」

 

自身の最大の力を圧縮した『光の槍』を片手で止められた堕天使は、

もう二撃目を放とうと手に力をためた瞬間──後ろから縦一閃に叩き切られたのだ。

 

「本当に──戦闘経験者と思えないほどの遅さ、弱さですね」

 

一瞬で崩れ落ち、絶命した堕天使の死体を見ながら呟いたのだ。

 

「──では、ソーナここで待っていてください」

 

そう云って『大刀』の血糊を拭くと鞘に収め、身を翻した。

 

「今までありがとうございます──本当に貴方とあえて良かった」

 

その言葉にハッとしたソーナは

 

(嫌──嫌だ!)

 

ここで彼と別れてしまったら、もう二度と会えないような気がしたソーナは

咄嗟に彼の裾を掴んだ。

 

「──ソーナ?」

 

彼女の行動に疑問を浮かべ、出来るだけ優しい声で名前を呼ぶひしぎ。

 

「──嫌です、ここから出て行くなんて許しません!」

 

彼にそんな表情をさせてしまった事、去らなければならないと思わせた行動を取った自身の

迂闊さを呪いながら必死に裾にしがみ付き、懇願した──

その彼女の目には後悔と自身の不甲斐なさで涙が溢れていた。

 

「ですが、私はこのように貴方に恐怖を与え、迷惑も掛けてしまいました」

 

「──確かに怖いと思いました。でも、それはこれが生死を賭けた『戦闘』の結果なんですよね?

 私は未熟で本物の生死を賭けた戦いなんて今まで見たことも、体験した事もなかった。

 でも、私はいずれそういう事を『体験』する事は決まっていました

 だから、気にしないでください──もう慣れてきましたから」

 

搾り出す言葉とは裏腹に、声音が震えていた。

 

シトリー家の次期当主である彼女は遅かれ早かれ、そういう生死を賭けた

戦に出陣する事は決まっていたのだ──心の中ではそういう風景を見る事を、

覚悟していたのだが──現実はそんなに甘くはなかったのだ。

 

だから、ひしぎが病む事で無いと、出て行くことは無いと──伝えたかったのだ。

 

「──私はまた、同じような事を繰り返すかもしれませんよ?」

 

そう、襲われたら黙って襲撃犯を帰すほど、彼は穏やかではないのだ。

 

歯向かう者、襲ってくる者を全て生きて帰した事は無く、故に最強の処刑人とまで謳われたのだ。

 

「それでもです!ここを離れる理由にはなりません!──それに、約束したはずです。

 私たちの修行を見てくれるって!」

 

その言葉に困惑するひしぎ

 

「確かに約束しましたが、でも私は貴方達に迷惑を──」

 

「構いません!人一人匿えずに次期当主など務まりません──だから、お願い。

 私の前から消えないでください──約束してください」

 

裾を必死で握り締め、涙を流しながら願う彼女を見たひしぎは

 

(──二度も同じ女性を泣かしてしまうとは)

 

立派な彼女を二度も涙を流させるような事をした自身の言動に、

反省しながら──ここまで言わせてしまった事を心に刻み、覚悟をきめた。

 

「──分かりました、ならばこの命、地獄の底まで貴方と共に──

 悪魔の夢の手伝いをするのも悪くはありません」

 

優しく彼女の頭を撫であやしながら、言葉を続ける。

 

「貴方の夢に立ちはだかるモノ全て私が破壊し、お手伝いしましょう」

 

この間ソーナは自身の夢を語り、言ったのだ──自身の夢には敵が多すぎる──と。

 

「──はい!」

 

その言葉に漸く笑顔を取り戻したソーナ

 

(──また必要とされるこの命──悪くはありませんね)

 

吹雪に自身の命を必要とされた記憶が蘇り、心が温まるひしぎ、

──ここにも本当に自身を必要にしてくれる人がいたと、云う事を実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃校庭では、リアス達はコカビエルが地獄から連れて来た──ケルベロス

一体を相手に苦戦を強いられていた。

 

10メートル以上の巨体で、四足の一つ一つは建造物の支柱以上に太く、

その先に生えている爪鋭すぎて、当たれば重症は間逃れない悪寒が彼女たちを襲う。

 

コカビエルと同様に闇夜の中でもギラギラ輝くほどの真紅の双眸。

突き出された口から覗くのは、凶悪極まりない牙であり、

牙と牙の間から白い吐息が漏れていた。

 

見た目は絵本や聖書で描かれている姿そのものであり──三つ首を持つ犬。

 

地獄の番犬、三つ首の魔獣と呼ばれ、本来冥府の門周辺にしか生息していない

生物なのだが、コカビエルはそれを捕獲し、ペットとして使役していた。

 

「──っ!こんな生物を人間界に持ち込むなんて!」

 

リアス自身も実際本物を見るのは初めてだったが、書物に記されている通り、

その巨体でありながらも俊敏に動き、襲い掛かってくるケルベロスを

避けながら、滅びの魔法を弾丸の様に放つが、一つ一つの威力が

小さいためか有効打にはなっていなかった。

 

「もう少し威力を貯めたい所だけど──っ」

 

相手の動きが俊敏すぎて、まともに魔力を生成する隙がない。

 

全員で相手をしているのだが、全方向に視界がある為、立ち止まり魔力や力を

込めようとするとすぐに襲い掛かってくるので、立ち止まるわけにはいかなかった。

 

このままではジリ貧になるので、リアスは一誠に自身たちがケルベロスの注意を

引くから、一誠のもう一つの技『赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』を

自分達に使用する事を指示した。

 

この技は、籠手の能力で増加した力を他人へ譲渡する業であり、フェニックス戦で一誠はこれを

裕斗に使用し、形勢逆転ができたのだ。

 

「頼んだわよ!」

 

自身と朱乃に譲渡を頼み、空中でケルベロスの注意を引き付けてくれている

朱乃の元に飛び去った。

 

「朱乃!」

 

ケルベロスが三つ首全ての口から、朱乃、リアス、小猫を狙い、炎を吐き出した。

 

灼熱地獄の熱量を誇るブレスに、リアスは翼を自在に操り空中で回避、

朱乃は自身の前に防御魔法を展開し、炎を凍らせる。

 

距離的に一番近かった小猫もギリギリ回避した──『戦車』であっても、

この熱量は耐え切れるレベルではなかった。

 

そして、そのままケルベロスの顔の一つの真下に転がり入り──跳躍

 

「喰らえ」

 

小猫の強烈な一撃がアゴに入り──巨体は上半身が浮き上がり、

追撃を入れようとしたが、残り2つの首が小猫が居た位置に炎を吐き出す。

 

直撃するかとおもいきや、間一髪の所で朱乃が小猫を拾い上げ、

空中へ退避できたのだ。

 

視線の下では打撃を受けた顔が、横に頭を振っていた。

 

(──っ!浅かった)

 

一撃で仕留める気で打ち込んだ打撃だが、跳躍した瞬間にバランスを崩してしまい、

本来の威力が出せなかったのだ。

 

(でも、もう一度)

 

そのまま急降下する小猫──目標はまだ打撃の後遺症が残っている顔。

 

「朱乃!」

 

「わかりましたわ!」

 

小猫の行動を悟り、援護を促すリアス。

 

小猫を迎撃するために他の2つの顔が炎を吐くが──それをリアスと朱乃の魔法で

相殺する。

 

「仕留めなさい!」

 

二人に援護され、拳を振りかぶる小猫

 

「沈め」

 

轟音と共にケルベロスの頭の一つを殴打──その瞬間体を支えていた四足が地面へめり込み

4つでかいクレーターを造り、殴打された事により上と下の牙が合わさりあい

鈍い音と共に牙が砕け散り──そして遂に打撃の衝撃波に耐え切れなくなったのか、

四足を広げ、そのまま全身地面へ激突した。

 

その光景を見たリアスと朱乃は止めを刺そうと魔力を高め始めた瞬間──

 

「部長!朱乃さん後ろ!」

 

倍加中の一誠は見たのだ彼女達の背後に突如空間が裂け、その中から二匹目のケルベロスが

彼女たちに突進してきた所を。

 

「もう一匹いたの・・・・!」

 

彼の声に反応し、回避行動を取りながら苦々しい表情を浮かべるリアス。

 

もう一匹を助けるためか、小猫の方にそのまま突進するケルベロス──

 

「危ない小猫ちゃん!」

 

一誠は全力で彼女を助けに行こうとダッシュするが間に合わない。

 

すると、突進を掛けていた側のケルベロスの首の一つが宙に舞った。

 

「加勢に来た」

 

小猫の前に現れたのは『破壊の聖剣』の使い手ゼノヴィアだった。

斬られた首はそのまま塵となって消えて逝く。

 

突如首を失ったケルベロスは絶叫を上げながら暴れまわる。

 

ゼノヴィアは剣を担ぎ直すと、ケルベロスの懐に入り込み腹部に一撃、

そのまま流れるようにして前右足に一閃し切断。

 

突如として足を失いバランスを崩すケルベロス──だが、ゼノヴィアの攻撃は

まだ終わらず、懐から脱出した彼女は後ろへ回り込み、後ろ右足をも

斬りつけ消失させたのだ。

 

右側の両足を失ったケルベロスは立つ事もままならず、崩れ落ちた。

 

「聖剣の一撃は魔物に対して絶対的なダメージを負わせることができる」

 

止めといわんばかりに、倒れこんできたケルベロスの胸に剣を

深々と差し込んだ。

 

「──許せ」

 

その瞬間、ケルベロスの体は全身が塵となって宙へと消えていった。

 

ゼノヴィアが単体で相手をしてくれた事により、一誠の倍加が譲渡できる状態となり、

リアスと朱乃の元へ駆け寄り、肩をに触れ力を譲渡した。

 

傍から見ても、彼女達の力が増大した事を感じ取った一誠。

 

「これなら、いけるわ!」

 

「はい、天雷よ!鳴り響け!」

 

陥没した地面へダウンしていたもう一匹のケルベロスは、彼女達の

攻撃を察知し、未だに震えている四肢に力を入れ回避行動に移ろうとしたが、

 

「逃がさないよ」

 

四肢全てに無数の剣が貫いていく。

 

いつの間にか接近していた祐斗が『魔剣創造』を発動させケルベロスの四肢全てを

地面へ縫い付けたのだ。

 

逃げれなくなった、ケルベロスに天からの雷が降り注いだ。

倍加された雷は校庭の半分を包み隠すほどであり、ケルベロスの巨体は雷の

渦へと飲み込まれていった。

 

全員が耳を押さえるほどの轟音、青白い光が辺りを照らし眩しくて

目が開けてられないほどであった。

 

数秒間振り続け、光が止むと、そこには何も残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーナ、終わりましたよ」

 

ソーナが落ち着くのを待っていたひしぎの元に、帰ってこない仲間の様子を

確認しに来た堕天使が二人来たのだが、一人は声を発するまもなく、

大刀を頭部に受け、顔が消し飛び、もう一人は空いていた左手で首を掴むと、

力を込め、へし折ったのだ。

 

これに要した時間は1秒にも満たなく、ソーナはあまりの早さにひしぎが

何をしたのかが把握できなかったが、ただ1つ分かった事は、

一瞬で6枚羽根を持つ堕天使二人が絶命した事。

 

「中々面白い事になってますね」

 

窓の外から周囲を覆うほどの青白い光の支柱が、二人を照らした。

 

「──恐らく、赤龍帝の倍加の力を譲渡された朱乃の攻撃ですね」

 

本来ならばあれ程の規模の魔法は彼女には撃てない。

故に、フェニックス戦で見た一誠の業を思い出したのだ。

 

「なるほど──興味深い『神器』ですね」

 

自身の倍加だけでなく、他人へ譲渡出来るだけでも、戦術の幅か大いに広がる。

 

「──ソーナ、学園の外壁付近に今のこの者たちと同じ気配を持つ者が

 6人居ます」

 

ふと、周囲の気配を探っていたひしぎは椿姫の気配の近くに、堕天使の

気配を感じたのだ。

 

「──まさか、別働隊が居たなんてっ!」

 

今回のような状況以外なら直ぐに気づけた彼女だが、今回はあまりにも

不確定な出来事ばかりで完全に失念していた。

 

自分の眷属は実力にも申し分はないのだが──それはあくまでも新人悪魔としては──だ。

 

それに結界を維持しなければならないので、分が悪すぎる。

 

「椿姫達が危ない──!」

 

焦った表情を作るソーナを見て、ひしぎは微笑んだ。

 

「──分かりました」

 

そう言ってひしぎがいきなりソーナを抱きかかえた。

 

「えっ?えっ?!」

 

突然お姫様抱っこされたソーナは羞恥で顔を真っ赤に染め

 

「しっかり掴まっていてくださいね」

 

その言葉を発した直後、ソーナを抱きかかえたひしぎの姿が掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椿姫と匙は今だかつて無い危機に陥っており、相手は8枚羽根の堕天使であり、

防御結界の術式展開している桃を守るべく、二人は結界内に入り対峙したのだが、

圧倒的な実力の前に、二人は既に衣服は破けボロボロに消耗していた。

 

堕天使側は一人で二人を相手し、残りの5人は少し上空で高みの見物をしていた。

何かを待っているのか、暇つぶし程度に相手をしている感じだった。

 

「おい、あまりボロボロにしてやるなよ──メインデッシュが来る前に

 死んだら意味がなくなる」

 

「わかってるさ──でも、新米悪魔達に稽古をつけてやらねーとな!」

 

切りかかってくる椿姫の長刀を余裕で体を捻り回避し、そのまま勢いを少し付け

回し蹴りを椿姫の背中に叩き込んだ。

 

「──くはっ」

 

勢い良く飛ばされた椿姫を

 

「危ない!──ライン!」

 

匙の腕に付いている籠手から紫色の線のような物が椿姫の元へ延びていき、

体に線が巻きつくと。

 

「はぁ!」

 

力任せに線を引っ張り、木に激突しようとしていた所を阻止した。

 

「くっ」

 

激突は間逃れたものの、口から血を吐き出す椿姫──それを見た

匙は線を引き戻すと、堕天使へ向けて発射した。

 

「いけ!」

 

堕天使は伸びてくる線を右手に受け止めた、線が巻き付いたことにより、

能力が発動し、一人封じたと思った匙──だが

 

「あまい──あますぎる!」

 

相手の能力を奪う効果が発動しているのにも関わらず、堕天使は両手で

線を掴み、力いっぱい引っ張ると匙は一瞬で宙に浮き、そのまま大きく振りかぶられ

学園の壁に体の側面から激突した。

 

まともに防御も出来ず壁と衝突した匙は、意識を手放してしまう。

 

「元ちゃん!」

 

結界外から桃が叫ぶように呼ぶが、まったく反応しない匙。

 

「よくも!」

 

椿姫は体中の痛みを我慢し、背後から斬りかかるが軽くあしらわれる。

 

「おいおい、そんな遅い攻撃に当たるわけねぇーだろ。

 お前達のレベルでは早い分類かもしれないが、大戦を生き残った

 俺達にしちゃ──遅すぎだぜ」

 

その言葉に見物していた堕天使達も同意し、椿姫達の実力を嘲笑う。

 

「まじで、最近の悪魔は弱すぎて張り合いにもなりやしねぇ──

 これじゃあ、いくら倒しても俺の渇きは潤せねぇ」

 

椿姫と対峙する堕天使は遂に哀れむような目で彼女たちを写したのだ。

 

「あーあ、魔王の妹の眷属でなければもう少しは長生きできたと思うんだけどな、

 己を眷属にしたあの女を恨むんだな」

 

ソーナの眷属でなければ、彼らはもう少し生き残れると言った。

 

その瞬間椿姫の中でどす黒い憎悪が湧き上がる──自身の敬愛している主を

侮辱されたのだ。

 

「──殺してやる」

 

呪詛のように呟く彼女を見て、堕天使は苦笑する。

 

「口だけは達者だな──実力を伴わない言葉ほど、意味の無い事だと知っておくんだな」

 

実力がモノを云う世界では、そういう言葉ほど哀れなものは無い。

だから、堕天使は決めた。

 

「哀れだなお前──せめてもの慈悲だ、自身の弱さを主が知る前に

 ──殺して(すくって)やるよ」

 

堕天使はこの戦いが始まってから初めて構え、右手に光の槍を生成する。

 

その光景を見た結界外にいた桃達が悲鳴をあげ駆け寄ろうとするが──遅く、

 

「じゃあな──名も無き眷属よ」

 

振り下ろされる光の槍、椿姫の体は既に限界に近く、もうよける事さえ出来ずにいた、

ただ、彼女の瞳は振り下ろされる瞬間まで彼を睨み続ける。

 

内心悔しくて仕方が無く、これほど自身が無力を実感した事は無かった。

 

確かに8枚羽根相手に中級悪魔になってない彼女には荷が重たすぎる相手だが、

実戦で相手を選ぶことなど不可能に近い。

 

当たってしまったからには戦うしかなかった。

 

ここの指揮を託された時点で撤退の文字は彼女の中にはなく、もじ道理命を賭けて

守るつもりだった。

 

だけど──ここまでの実力差をその身で感じた椿姫は悔しくて涙が溢れ出ていた。

 

(くやしい──主を馬鹿にされて、何も出来ない私自身が憎い)

 

最後の最後まで命を諦めないと、眷属になった時に誓った事を思い出し、

故に彼女は立たない足に無理やり力を込め、思い切り横に倒れる事で、

間一髪回避できた。

 

「──ほう、意地だけは認めてやるよ」

 

もう動けないと思っていた彼女が攻撃を回避した事に嬉しさを隠せない堕天使、

意地だけは、諦めない精神だけは評価に値するものと感じたのだ。

 

今度は確実に逃がさないように倒れた椿姫の背に足を乗せた。

必死にもがく彼女だが──相手の足を退けるほどの力は残っておらず

 

「もう、終わりだ」

 

振り下ろされた、死へと誘う光の槍が彼女に刺さろうとした瞬間──

 

「──終わりは貴方の方です」

 

堕天使は突如背後から聞こえた声に反応し、顔を振り向けた瞬間、黒い何かが

顔面にめり込み──横に思い切り吹き飛んでいった。

 

そして、そのまま塀にぶつかり岩が砕ける音と共に土埃が舞うが、その中から

堕天使が現れることは無く──煙が消え、見えるようになると、首が変な方向に

曲がっており、ピクリとも動かない男の姿があった。

 

「危ない所でしたね」

 

椿姫は頭上から聞こえる声に顔を上げてみると、ソーナを抱きかかえたひしぎの

姿があった。

 

彼は椿姫を押さえつけている敵の背後に回りこみ、ソーナを抱きかかえていたため

手は使えず回し蹴りを放ち──彼女の窮地を救ったのだ。

 

「──貴様何者だ!」

 

突然仲間が吹き飛ばされた事に驚いた堕天使達が叫ぶが──ひしぎはそれを無視。

 

「ソーナ、早く彼女と彼の手当てを」

 

ひしぎはソーナを地面に下ろすと、椿姫と少し離れている場所で倒れている匙を

指差した。

 

「──わかりました」

 

その言葉に頷くソーナ。

 

「──彼らは私が処理しますので」

 

そう言って漸く宙に浮いていた残りの堕天使へ視線を向け、腰に装着していた大刀を

鞘から抜いた瞬間、姿が消えた。

 

「──なっ!」

 

目の前から一瞬で消えたひしぎに驚き、周囲を見渡す堕天使達。

 

そして──

 

「がっ!」

 

端っこに居た堕天使の一人が突如苦痛を口にし、皆そちらを見ると、

体を斜めに両断された姿が映り、バランスが保てなくなった一人は

そのまま血を撒き散らしながら墜落していった。

 

一瞬の出来事に呆気に取られていたが、彼らはすぐさま散開する。

 

動いていなければやられると──本能で感じたのだ。

 

「どこだ、どこに居やがる!」

 

攻撃を受けた事すら認識できず、ただ闇雲に彼の姿、気配を探るが見つからず。

 

「──うぉ!」

 

行き成り足首を掴まれたと思ったら、思い切り地面へ叩き付けられる堕天使の一人。

高さは十分にあり、そこからやられた事により、数メートルのクレーターを

地面に造り、衝突時に石などが体のあっちこっち刺さり、裂かれ、

血が噴出しながら沈黙した。

 

仲間がやられた事により、漸くひしぎの姿を確認し手に光の剣を生成し

一人が切りかかるが、"何も無い"左腕で受け止められ──動きを止められた所を、

右手に持っていた大刀が横に振られ、避けきれずに上半身と下半身が別れ、

崩れ落ちる。

 

「──残り二人ですね」

 

殺す事に何の躊躇いもしない彼の存在に、初めて人間に恐怖を抱く堕天使達。

 

今だかつてこれほど自身達を圧倒できる人間には出会ったことが無く、

彼らは堕天使の中でも強い分類に入る実力の持ち主なのだが──今回ばかりは

相手が悪すぎたのだ。

 

 

残った二人はお互い顔を見合わせた──人間相手に全力を出すのは実に不本意な

事であるが、そうも云ってられる状況では無いと判断。

 

本来ならば自身のボスであるコカビエルに報告しに行くべきなのだが、

たかが人間相手に自身達は全滅しましたと言えるわけが無く、

互いに光の剣を生成し、同時にひしぎへ突撃を掛けた。

 

「・・・・」

 

彼らの全力の突撃は、木場裕斗の全力のスピードの4倍以上あり、

ソーナと椿姫の目には、黒い線が一直線にひしぎの元へ向かうぐらいにしか見えず、

 

──そして、ひしぎは体を少し動かしただけで回避した。

 

「・・・な・・・に・・・」

 

ただ、避けただけと彼女達はそう判断したのだが、ひしぎの横を通りすぎた

堕天使二人の呟きに、視線を向けると、体中のいたるところから血が

吹き出ており、血とボロボロになった羽根を撒き散らしながら二人は倒れこんだ。

 

そして彼女達は理解したのだ──彼らはすれ違いざまの一瞬に、全身を切り刻まれていたと

云う事に、それも二人同時に。

 

相手は神速以上の動きを見せていたはずなのに──ひしぎの速度はそれ以上だった。

 

ソーナは内心思った──彼らは決して弱くなんかなかったと、天使と堕天使の強さは

ほとんど羽根の枚数も関連しており、コカビエルは10枚羽根、校舎内に居たのは6枚羽根4人、

そして今の6人は全員8枚羽根であったのだが、彼に手も足も出なく、全滅した。

 

少なくともひしぎのスピードは光速以上、堕天使の猛者でさえ彼を

捕らえきれる事は出来なかったのだ。

 

恐らくそのスピードに対応出来るのは最上級悪魔、魔王クラスだけであり、

そしてもっと恐ろしい事に、彼はまだ"万全"で無い──故に、底知れぬ

強さを肌で感じ取ったソーナ。

 

(──本当に御伽噺に出てきた『鬼神』みたいです)

 

その強さに子供の頃聞いた、御伽噺を思い出していた。

 

 

 





こんにちは、夜来華です。

うーん、久々に戦闘シーン書いてみたのですが、難しい・・・
あと、ちょっと詰め込み、無理やりすぎた感もあります。

もっとうまく書けるように練習しなきゃです・・・。

感想、誤字脱字、一言頂けるとうれしいです。

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