ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

6 / 25
──あれが悪魔、何と云うか

信じられないほど──弱く見えます

恐らく彼らは悪魔の中でも新人なのでしょうか

あれほどの実力であれば、壬生の下級戦士すら・・・敵うかどうかです




第5話 悪魔vs聖剣使い

ソーナの報告どおり、リアスは学業が終わり次第眷属達を部室に呼び、

待機させた。

 

朱乃はいつも通りニコニコと微笑みながら皆に紅茶を用意し、その隣で

時間を少し気にしながら運ぶ手伝いをする小猫の姿があった。

 

祐斗もあのままの状態だが、ちゃんと部室に来ており、窓際で無表情のまま

外を見ている。

 

一誠とアーシアはソファに座りながら来客の正体を知っているので妙にそわそわして

落ち着きが無い、万が一戦闘になったらどうしよう──と内心思っていた。

 

そして、時間になると扉の前に突然気配が現れた──そして、ノック

 

「──っ!来たようね・・・どうぞ、開いてるわ」

 

リアスも突然の気配に、一瞬驚いたが平然を装い、鳴らした来客者を促した。

 

「お邪魔するよ」

 

昨日のイリナと呼ばれる幼馴染の声で無いと判断した一誠

扉を開け、先頭に入ってきたのが青髪の美少女、そして続いて入ってきたのが幼馴染のイリナ。

そして、青髪の背には昨日リアスから直接聞いた──聖剣の姿があった。

 

「どうぞ、座って頂戴」

 

リアスにそのまま促された二人は、空いているソファーに腰をかける、対面に座っていた

一誠とアーシアは腰を上げ、部屋の片隅に移動すると、変わりにリアスと朱乃が

対面に座りなおした。

 

彼女達は二度目の説明になるのだが、初対面の彼女たちに自身の所属、名前、

そして自身たちが今装備している──聖剣を紹介した。

 

祐斗の目は最初は無表情に彼女たちを見ていたが、話を聞くにつれて段々と

険しくなり、いつ斬り掛かってもおかしくないほどの雰囲気をだしていた。

 

恐らく彼に残った最後の理性が押しとどめている様であり、それを見た

一誠とアーシアは何ともいえない表情を作った。

 

昨晩、リアスから祐斗の過去──聖剣に拘る理由を聞いてしまったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖剣計画?」

 

一誠の言葉にリアスは頷いた。

 

「そう、祐斗はその計画の生き残りなの」

 

数年前までキリスト教内で聖剣エクスカリバーを扱える者を育成する

機関があった。

 

「聖剣は悪魔に対して最大の武器、私たち悪魔が聖剣に触れるだけで、身を焦がし、

 斬られるとなす術も無く消滅してしまうの──例え不死性を持つフェニックスも

 例外なく消滅するわ。神を信仰し、悪魔を敵視する彼らにとって最大で究極の

 武器になるの」

 

たとえ魔王であっても対抗する術が無ければ消滅してしまい、悪魔にとっては

忌むべき兵器なのだ。

 

聖剣出自は色々だが、知名度で言えば新人悪魔の二人でも知っているエクスカリバーが

有名であり、星々が鍛え生成したと噂される神造兵器と呼ばれる事もあり、

または神の領域まで達した者が魔術、錬金術を用いて生成したと噂されている

──ただ実際誰が造り上げたかは不明である。

 

その聖剣は通常の者では扱えず、常に聖剣は担ぎ手を選ぶ。

 

故に聖剣を使用できる人間は数十年に一人とされ、教会側を悩ませた。

話を聞いてて一誠は一つ疑問が出来た。

 

「木場は魔剣を造り出す能力を持つ『神器』なんですよね?──逆に聖剣を

 造り出す『神器』はないんですか?」

 

その疑問にリアスは無いわけでは無いと、曖昧に答えた。

現在彼女の知る中では、聖剣を造り出す『神器』をもった人物は知らない

だが、聖を宿した『神器』なら知っていた。

 

その名を──『黄昏の聖槍(トウルー・ロンギヌス)』、『神滅具(ロンギヌス)』の一つで、

イエス・キリストを殺した者が持っていた過去があり、『神滅具』の代名詞と

なったと言われている。

 

 

ただ、本物のエクスカリバー、デュランダル、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)、クラウ・ソラス、

それらの聖剣が強力すぎて、匹敵する聖なる『神器』は現時点で存在しない。

 

「そして、祐斗は聖剣──特にエクスカリバーに適合するために人為的な養成を

 受けた者の一人なの」

 

エクスカリバーの担ぎ手を造り出そうと教会が秘密裏に、

身寄りの無い子供達を買い取っては、適合者を造る実験を行っており、

実験体にされた子供の一人が裕斗である。

 

しかし誰も適合せず、祐斗と同期に養成された子供達は欠陥品と烙印を押され、

処分を言い渡されたのだ──ただ、聖剣に適応できなかった為──だけに。

 

毒ガスを散布され、死にかけていた子供達はまだ助かる見込みのあった

裕斗を逃がす事を決意し、所員が子供達が死んだか確認する為、ドアを開けた瞬間、

生き残った子供達は一斉に所員に襲い掛かり、祐斗を逃がしたのだ。

 

仲間たちが命を賭けて時間を稼ぎ、祐斗は命辛々施設の外へ逃げ切り、

追っ手を撒いた所で力尽きたのだ。

 

リアスが祐斗を発見した時には既に虫の息であり、助かる見込みが無かったが、

悪魔に転生させる事により、彼は一命を取り留めたのだ。

 

だが、彼は瀕死の状態でありながらも目は、死んでおらず

強烈な憎悪を滾らせ、復讐心に身を焦がしていたのだ。

 

聖剣によって人生を狂わせられた彼を悪魔にする事で、少しでも

救いを──と、思っていたのだが、彼は"ソレ"を思い出してしまったのだ。

 

(部長はお前に聖剣なんかに拘らずに、悪魔として第二の人生を送ってほしいと

 願っていたのに──ちくしょう)

 

祐斗の過去を知ってしまった一誠はとても、この状況が早く終わってほしいと

切に願うのだった。

 

現在、青髪のゼノヴィアと云う少女がエクスカリバー強奪の件を話しており、

強奪犯コカビエルの名前が出た瞬間、ソーナの時と同じような

リアクションを取るリアスと朱乃。

 

実際に前大戦を経験していない彼女たちにとってはあまりにも有名な名前であり、

敵として出会いたくない分類に入るのだ。

 

だが、現実はこの街に潜伏していると聞き渋い表情を浮かべる二人。

何も起こらなければいいのだが、現状の戦力では足止めすら出来るかどうかの

戦力差なのだ。

 

「私達の依頼──いや、注文は私達と堕天使との戦いに、この街に巣食う悪魔が

 一切介入してこない事、今回の事件に関わらないでほしい」

 

ゼノヴィアの言葉に眉を顰めるリアス

 

「随分な物言いね、それは牽制かしら?もしかして、私たちが堕天使と組んで

 聖剣を──どうにかすると?」

 

リアスの声音が徐々に低くなってきている──

 

「ああ、本部は可能性があるかもしれないから──とね」

 

その言葉にリアスの目は据わり、空気が凍る。

自身の領土まで態々足を運んだ敵が、自分達のやる事に手を出すなと、

更に他の組織と手を組んだら許さない──と、好き勝手いっている彼女に、

リアスは怒りが爆発しそうになる──が、魔王の妹であり、グレモリー家の次期当主と

云う肩書きがある彼女は、恥を晒す事は出来ない。

喉にこみ上げてきた怒りを飲み込み、堪える。

 

目の前のリアスが怒っているの知りながらも無視、ゼノヴィアは続ける。

 

彼女の上司は悪魔、堕天使を信用しておらず、聖剣をこちら側から引き剥がせば、

悪魔側にも利益はあり、それ故、手を組んでもおかしくないと

考えたのだ。

 

だから、牽制としてまず彼女たちにコンタクトを取り、万が一コカビエルと

組んだ場合総力を挙げて自分達たちを消滅させると──たとえ三竦みの状態が

解除されるきっかけとなったとしても──と、通告してきた。

 

そして、リアスの答えは、堕天使と組まない、魔王の顔にドロを塗る事など

出来ないと誓った。

 

この答えに満足したゼノヴィアは肩に張っていた力を抜いた、

答え一つで即戦う準備はしていたのだ。

 

「それが聞けただけでも十分だ──」

 

そう言って彼女は席を立つ──十分話し合いはしたので、もうここに居る理由が

無くなったのだ。

 

「イリナ、帰るぞ」

 

「あら、お茶ぐらい飲んでいかないの?」

 

「いらない」

 

「ごめんなさいね」

 

二人はそう云うとドアの方に向かい──ふと、ゼノヴィアはアーシアと目が合った。

 

「兵藤一誠の家であった時は、もしやと思ったが、君が『魔女』アーシア・アルジェントか?

 こんな地で出会えるなんて、思いもしなかった」

 

この言葉が切っ掛けで、ゼノヴィアとイリナ、一誠と祐斗で手合わせをする事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシアの事を『魔女』と呼ぶ彼女たちに真っ先に反論したのが一誠であり、

何も言葉が出ず、ただただ糾弾されるアーシアを庇う、守るために一誠は

挑戦的な言葉を発し、彼女たちがソレに乗ってきたのだ。

 

そして、もう一人部屋の中で燻っていた祐斗が介入してきた、

彼の心は憎悪と怒りで支配され──既に爆発しかけていたのだ。

 

かくして、4人はリアスの制止を振り切り、手合わせをする事にしたのだ。

一方は自身達の信仰、そしてグレモリー眷属の力を測るために、

もう一方はアーシアの為に、そして自分自身の復讐の為に。

 

そして、その光景をたまたま小猫の訓練の時間だったため、旧校舎の裏に

訪れていたひしぎの目に留まったのだ。

 

(なるほど──片や教会の聖剣使い、そして噂のリアス・グレモリー眷属の

 子供達ですか)

 

ソーナからリアスの眷属の名前を聞いており、その中に小猫の名前があった事に

少しだけ驚いていたが、あのときの状況を思い出すと納得したのだ。

 

お互い距離を取り、1対1の状況が作り出される。

ゼノヴィアと祐斗、一誠とイリナの組み合わせだった。

 

そして、周囲にはリアス、アーシア、朱乃、小猫といったグレモリー眷属が彼らを

見守っており、周りに被害が出ないように朱乃が結界を張っていたのだが、

ひしぎは普通に侵入出来てしまったので、気づかれたら下手に巻き込まれ

そうなので、気配を消したまま、木にもたれかかり見学を開始した。

 

(この世界の戦力を測る──いいチャンスですね)

 

彼ら、今の世界の者たちの実力を知るいいチャンスだった。

 

まず、動いたのが祐斗──彼はすぐに魔剣を造り上げると、ゼノヴィアに切りかかった。

巻いていた布の中から『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』を取り出し

難なく受け止め、そのまま弾き返し横に薙ぐ。

 

弾き返された反動を利用し、そのままバックステップを駆使し避け、地を蹴り

もう一度ゼノヴィアに肉片し、懐に入り込め一閃──

 

「甘い!」

 

咆哮と共に、姿勢を建て直すゼノヴィア。

祐斗の持ち味である速度、スピードが見切られており柄の部分で刃を止める。

 

「──っ、まさか柄の部分で止められるとは思っても見なかったよ」

 

完全に一撃が入ると思っていた彼は、力の込めにくい柄で止められるとは予想外だったのだ。

 

「あいにく、この剣は小回りが利かなくてね──使いこなすのに苦労したよ」

 

彼女と同じ背丈のある剣の為、小回りが利かず、実践で何度も懐に入られた過去があり、

九死に一生を体験したため、入られても対処が出来るようになったのだ。

 

そのままゼノヴィアは蹴りを放つ──それを見た祐斗は一旦体を離し、後退。

そして今もって居る魔剣を消失させると、今度は両手に新たな魔剣を創造した。

 

右手に『燃焼剣(フレア・ブランド)』、左手に『氷空剣(フリーズ・ミスト)』を

構え再突撃をかける。

 

「ほぉ、炎に氷か──おもしろい」

 

正面から受ける事を選ぶゼノヴィア──更にスピードを上げた裕斗、正面と思いきや四方から

攻撃を加えるが、最小限の動きで炎と氷の剣舞を回避。

 

「──砕け散れ」

 

その言葉通り、裕斗の次の攻撃に合わせ剣を振りかぶるとクロスさせた二振りの魔剣は聖剣と激突し、

ガラスが砕けるような感じで砕け散った。

 

「──なっ!」

 

自分の剣がいとも容易く破壊された事に驚いた裕斗はそのまま振り下ろされる

聖剣を紙一重で回避し、剣は地面へ激突──すると、轟音が響き、突然の

地響きに大地が泣き叫ぶように割れ、土埃が舞い上がり、土煙で周囲を隠し、

その煙の中から聖剣が発生させた衝撃波を喰らい祐斗が吹き飛ばされてきたのだ。

 

その近くで戦っていた、イリナと一誠も突然の地響きにより立つ事がままならず、

膝を突き、音がした方向に視線を向けた。

 

すると、次第に土煙が収まると、ゼノヴィアが立っており、その足元には数メートルの

クレーターが出来ていた。

 

「これが私のエクスカリバーだ。有象無象全てを破壊する剣、

 これが『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』だ」

 

その言葉を聞いて、苦い表情を作る祐斗。

1本目からこんな馬鹿げた性能を持つ聖剣の力に、他の6本の破壊も厳しく思えたのだ。

 

そして、その光景を見ていたひしぎは──別に驚く素振りが無く淡々と見ていた。

 

(確かに剣としては──優秀な分類に入ると思いますが、使い手が扱いきれてませんね

 剣との会話すら出来ていないとは──もったいない)

 

そんな特性が有るのなら最初の激突時に既に勝負が付いていたはずなのだ。

確かに相手の力を見るために手を抜いて居たのかもしれないが、その後の動きに

無駄がありすぎて、剣も振りかぶりすぎて、ひしぎの目には隙だらけに

映っていたのだ。

 

そして、祐斗の方は確かにスピードがあるが、所詮"早い"と云う程度。

ゼノヴィアと違い、好きの無い攻撃をしていたが、剣が"軽い"と判断した。

 

(彼の方は筋がいいのですが、防御も無い、力も無い──流石にスピードでは

 壬生の下級戦士とタメを張ることが可能ですが──勝負になりませんね)

 

壬生一族の下級戦士は、一般人のレベルで云うと最高峰の暗殺技能を持ち、

一撃で大地を割り、速度は残像が出来るほど、そして何より無駄の無い動きをする。

たった二人で徳川の精鋭伊賀忍軍を半壊させた歴史もある。

 

そんな彼らと比較するのは可哀想なのだが、ひしぎはそれ以外の比較できる人物は

思い当たる節が無かったのだ。

 

(そして、ソーナが気にかけていた彼、一誠といいましたか。

 色々と──酷い)

 

今まで見てきた戦いの中で、煩悩のまま攻撃を繰り返す人物など見た事無く、

普段あんまり笑わないひしぎが、笑いを我慢していたのだ。

 

一誠はイリナとの戦闘を開始後、彼女の持つ『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』が擬態した

刀の攻撃をうまくかわしながら、彼女に触れる機会を待ち望んでいた。

 

既に、彼の中から彼女たちに対する怒りは消え、新技『洋服破壊(ドレスブレイク)』をいかにして喰らわそうか

煩悩丸出しの攻撃を放っているのだ。

 

先ほどまで何かを探していた小猫から一誠がしようとしている事をイリナに伝えられ、

彼からの攻撃を彼女は全力で回避していたのだ。

 

「ちょっと、イッセー君!目つきが本気でいやらしいわ!」

 

彼女からの罵倒も素直に受け取り、手のひらをどうにか彼女に当てようとする一誠

 

「こら!逃げるな!」

 

「いやよ!変態!」

 

本気で戦闘している二人が居るのに、こちらは戦闘と呼べないぐらいの戦い方だった、

そして、タチが悪い事に時間を掛けるが掛けるほど一誠のスピードが倍加されていき、

最初は余裕で避けていたイリナも次第に本気になり、額に汗が流れて来ており

刻々と時間が経ち、煩悩のなせる業なのか、彼女の行動の先読みが出来、そして──

 

「剥ぎ取りごめーん──!」

 

勢いよく、手をわしわしさせながら飛びついたのだ。

完全に逃げる方向を読まれ、絶体絶命のイリナは──咄嗟にしゃがんだ。

 

一誠は勢い付けすぎたのか、イリナを飛び越え、後ろで観戦していた小猫とアーシアの

方に飛んで行き、アーシアはびっくりして腰を抜かしてしゃがみ込んだが、

咄嗟の事で反応できなかった小猫は逃げ遅れ、肩に一誠の手が触れ、

 

──『洋服破壊(ドレスブレイク)』発動

 

その瞬間、小猫の洋服が弾け飛び、まだ未成熟な体つきで、控えめな胸が

一誠の前に現れ、彼の目に映った。

 

そして、彼の中で何かが破けた音がし、鼻から血が垂れてきたのである。

だが、彼は血を拭わず──

 

「小猫ちゃんこれは、事故なんだよ!いや、確かに成功しているけど・・・!

 大丈夫小ぶりのオッパイでも需要はあるから!あ、いや、イリナが避けるから悪いんだよ!?

 決して小猫ちゃんを狙ったわけじゃないんだ!でも、ありがとうございます!」

 

言い訳をしながらも視線は外さないのが彼である。

片手で胸を隠しならが、怒りに震える小猫──そして

 

「──ぶ」

 

無言で殴りつけ、鈍い音と共に一誠の周辺から衝撃波が舞い、またも土埃を

舞い上がらせ土煙は小猫の姿を隠した、一誠は煙の中から勢い良く飛び出て、

何度も何度も地面にリバウンドを繰り返し、少し離れて立っている木に

ぶつかり漸く止まった。

 

ぶつかった時の衝撃が強すぎたのか、枝が大きく揺れ葉を散らし、

そしてあまりの威力に一誠は気を失っており、そのまま崩れ落ち、後方に居た

リアス達は勿論、戦闘をしていたゼノヴィアと祐斗も戦闘を一時止め、

何が起きたのかを確認するほどだった。

 

煙が晴れると、中から裸になったはずのに小猫が白衣を着ていた。

 

「──小猫、その服どうしたの?」

 

「はい?」

 

リアスの呟きに、頭を傾げる小猫──本人さえも気づいていなかった様子だ。

朱乃が指を指した部分を確認すると、自身が服を──白衣を着ていることに驚く小猫。

 

「──え?私裸になったはずなのに」

 

「一体どういうことなの」

 

本人が分からなかったら、余計に分からないと感じたリアス達は、周囲を見渡すが誰もいない。

ゼノヴィアと祐斗も彼女達の混乱ぷりに戦闘を止めたまま、気配を探す。

 

だが、誰が居た形跡は無く、結界が張っているので破られた、何かされれば

張った朱乃がすぐ反応するはずなのだが、彼女自身も困惑している。

 

小猫も何か手がかりが無いか白衣を調べ始めると、人間には感知出来ないほどの僅かな匂いが

残っており、その持ち主は──

 

(この匂いは──ひしぎさん)

 

そう、この間会ったときの彼の匂いと同じ、白衣もその時彼が着ていたものと同じのだと

分かったのだ。

 

体を隠しながらキュッと白衣を握り締め、目を瞑ると彼に抱きしめられている感覚に

陥り、頬が緩み、嬉し恥ずかしいくなり──彼女の頭からは猫耳が生え、

小ぶりのお尻からは尻尾が生えたのだ。

 

「にゃぁん」

 

まるでまただびを得た猫の様に顔を真っ赤にする小猫──彼女は転生悪魔になる前は

猫又であり、その仕草は本能で、悪魔となってからもその能力は生きているのだ。

 

「ちょ、ちょっと小猫どうしたの?!」

 

その豹変振りにリアスは心配そうに小猫に駆け寄る。

皆に見られ、あまりの恥ずかしさに頭から白衣を被り、全てを隠す小猫。

 

「──す、すみません。恥ずかしかっただけです」

 

すぐに戻るから、放って置いてほしいと云われたリアス達は顔を見合わせた。

そして、相手が突然のリタイアになり、呆然としていたイリナは

気絶している一誠に向かって

 

「天罰が当たったんだよイッセー君。ああ、主よ、彼の魂に救済を──」

 

胸元で十字を切ると祈りだし、イリナの勝ちとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは先ほどと同じ場所で片膝をつき、呼吸を整えていた、

 

(まさか、あの動きだけで──これ程とは)

 

裸になった小猫が可哀想になり、自身が羽織っている白衣を光速で彼女の元に移動し、

白衣を肩に掛けてあげ、すぐさま戻ってきたのだ。

 

全盛期には程遠いほどの速度であったが、彼らは一切気づいておらず、感知も

されなかったのだ。

 

そして、久々に動いたひしぎは足に負担を掛けてしまっていた。

 

(本当に無様な姿ですが──逆を言えば動けるほどには回復している、と云うことですね)

 

もう松葉杖がいらないと思えるほどの動きが実際出来たのだ、

完治にはもうしばらく掛かるが、戦闘可能なぐらいは回復出来ていた。

 

(それにしても、猫みたいとは思っていましたが、本当に猫だったとは)

 

息を整えながら彼女達の様子を見ていると、小猫の気配が変わったのを感じていたのだ。

 

(なるほど、彼女の正体は猫又だったのですね)

 

ひしぎが生きていた頃、普通に猫又は生息しており、珍しいものではなく

むしろ親しみを感じやすかった──などと、思い出していたら、

視線の先で、漸くもう一組の戦闘が再開された。

 

 

 

 

 

 

気を取り直し、気合の入った声で新たな魔剣を造りだす。

 

「これが、今僕の造れる中で最高の破壊力を持つ魔剣、君の持つ聖剣と

 どちらが破壊力が上か──勝負だ!」

 

生成された魔剣はゆうに2メートルは超え、禍々しい気配を発し、祐斗はソレを

両手で掴み、担ぎ上げ突撃を開始した。

 

それを見たゼノヴィアの表情は心底落胆していた。

 

「君の持ち味は──多彩な魔剣で相手を翻弄し、常に先手を打てる速度を兼ね合わせた

 戦法なのに──選択肢を間違えたな」

 

その剣を担ぎ突撃する祐斗の速度は誰から見ても"遅い"と感じたのだ。

正面からの打ち込みに、ゼノヴィアはそのまま聖剣なぎ払う。

 

大きな金属音を周囲に響かせ──周囲に金属が飛び散る。

 

祐斗は薙ぎ払われた聖剣を受け止め、そのまま押し切るつもりだったのだが、

衝突した途端、刀身が割り砕かれ、彼の視線には自身の砕かれた魔剣の先端が地面に突き

刺さったのだ。

 

「持ち味を活かしきれない攻撃ほど、大きな隙が出来る」

 

ゼノヴィアはそのまま聖剣の柄頭の彼の腹部にめり込ませた。

たったその部分だけの攻撃であったのだが、衝撃波凄まじく、彼にダメージを負わせていた。

 

「ぐっ」

 

口から血を吐きながら崩れ落ちる祐斗。

 

「もう、終わりにしよう"先輩"、今の一撃で立ち上がれないはずだ」

 

防御力の無い裕斗にとって、たった今の一撃だけで十分致命的な

ダメージを負ったのだ。

 

「ま、待てっ!」

 

必死に手を伸ばすが、それをひらりとかわし、身を翻すゼノヴィア。

──既に勝負は決したのだ。

 

「リアス・グレモリー先ほどの話の件は頼むよ、後眷属は大事にするのはいいが、

 もっと鍛えないと──弱すぎて話にならない、センスだけでは限界があるぞ」

 

彼女の言葉はもっともで言い返せないリアス。

少し離れている所に置いてあった荷物を持つと、彼女は立ち去っていく。

 

「あ、待ってよゼノヴィア!では、イッセー君によろしく伝えて置いてください。

 『裁いて欲しくなったら、いつでも呼んでね』と、では!」

 

イリナもそういうとゼノヴィアの背を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘の一部始終を見終わった頃にはすでに、足も回復しており立っていたひしぎ。

ソーナから聞いていた彼らの力を自分なりに評価してみた。

 

(まずは彼、一誠と呼ばれる少年ですか)

 

見たところ本当に素人だが伸び代はあり、能力のお陰もあるのだが、倍加するその力を

すぐさま最適化し、相手を追い詰めていく動きは良かった。

 

思考が煩悩でまみれでも相手を追い詰めるほど、動けるという事は一種の天才であり

そこはひしぎでさえも驚いたのだ。

 

変態な部分を無しと考えても、十分な速度であり、攻撃力は見れなかったのだが

十分やっていけると判断した。

 

(次に木場祐斗)

 

スピードは壬生の下級戦士並にあり、剣の技術もそこそこあるが、あまりにも非力で耐久力が

まったく無く、あれではどんなに高速移動し、技術で翻弄しても各上が相手ならば、今と同じような

結果なると思い、勿体無いとおもったひしぎ。

 

ソーナからは冷静沈着と聞いていたのだが、今日の彼は正反対であり、

まったく状況が見えていなかったのだ。

 

普段の彼ならば彼女、ゼノヴィアを圧倒できるほどの技術をもっているのだ。

 

(そして、小猫さん)

 

彼女はひしぎに教えてもらった通りの力を用いて、一誠に喰らわした──結果、

予想通りの破壊力と打撃力で、十分な実力を擁するイリナ圧倒していた一誠を

一撃で落としたのだ。

 

ただ、惜しいと思ったのが止まった相手だったということ。

 

一誠が動いていて当てたのならば、もっと結果は良かったのだが、

状況的に仕方が無かった。

 

(これが──弟子をもつという感覚ですか)

 

生前彼は弟子と呼べる者は取っておらず、少なからず弟子を取っていた親友を羨ましく思って

いたが、今の彼には──小猫が弟子のように思えてきたのだ。

 

彼女がキチンと成果を残した事により、嬉しく思うひしぎ。

 

(教えたかいがありました)

 

そして、今度は教会側の二人組み。

 

(まずは、イリナと云う少女は、回避だけしか見ていないので何ともいえません)

 

戦闘が開始してすぐに一誠の煩悩を感じ取り、ずっと回避行動を取っていたのだ。

その能力は低くも無く、決して高いものではないのだが実践を

経験している動きで、最初は一誠を翻弄していたのだが、彼が倍加するに当たり、

同等、いやそれ以上になった時でも、ギリギリで回避できていたのだ。

 

回避はできていても、武器は持っていながら攻撃する素振りを見せなかったので

全体的な評価に困るひしぎ。

 

(そして、最後、ゼノヴィアと云う少女)

 

ひしぎの中では一番彼女が評価が高かった、ただ勝ったからだけでなく、

戦闘中の思考や、自身の持ち味を活かした戦法を取っており、スピードが無い為

ひしぎからみたら隙だらけであったが最小限で回避行動を取ったり、剣の大振りもあるが

それを自覚して懐への欠点を補っていたのだ。

 

戦闘中は辛口な評価を彼女に送っていたのだが、全体を通してみると

彼女なりに自身の不得意を克服しようとする動きが見れたので、考えを改めたのだ。

 

そして、彼女は相手を見る能力があり、それだけでも十分に評価に値した。

 

ひしぎの中では、現在の彼女達の実力をランク付けすると、一番がゼノヴィア、二番手に一誠

三番手に小猫、四番五番は同等で残った二人。

 

聞いた話ではリアス・グレモリー眷属の中で一番強いのが木場裕斗と聞いていた

彼だが、今回の戦闘を見て落胆したのだ。

理由はどうあれ、己の持ち味を活かせない時点で勝負にすらならない、

今回の戦いは負けるべくして負けたようなもの。

 

彼女達はまだ『原石』であり、今後宝石になるかただの石ころになるかは

彼女たち次第だと思ったひしぎ。

 

潜在能力的には一誠が一番高いと感じたが、ほかの子達も負けておらず

今後が楽しみと感じた。

 

(最初は弱いと思っていましたが──まぁ、まだ彼らは若いですし、

 あのような戦国時代でもなかったのでこれが普通かもしれませんね)

 

生きる為に幼い頃から鍛える必要が無くなった現代──ここはもう殺伐とした

戦国時代ではないのだ。

 

昔と違うと改めて実感したひしぎであった。

 

 




こんにちは、夜来華です。

今回は話の展開上、リアス側を書いてみました。
そして、やっぱりひしぎの存在感が薄すぎる。

話の構成上飛ばしてしまっても、原作を読んでいる方は納得できると
思いますが、原作知らない方にも分かりやすく進めるため書きました。

感想、誤字脱字、質問、一言頂けると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。