思い出せません──だけど、その気配はなぜかとても懐かしい感じがします
そう、とても大切だった子供の頃の記憶──
球技大会が終了し、後片づけを実行委員会に任せるとソーナは眷属たちを総動員して
街に情報収集に当たらせた、彼女たちが嘘を言っている雰囲気では無かったが、
そんな大物がこの街に潜伏しているならばそれ相応の準備も必要になる。
聖剣のオーラは凄まじく、彼女たちがさった後でもそのオーラの残滓は残っており
すぐさま『ベイ』に覚えさせたら、街に解き放ち、ソーナの読み通り街の意たる所で
残滓を発見し、報告のあった場所へ眷属たちを向かわせたのだ。
『昨晩、神父と思しき男性が殺害されたと、近所の方が話してます』
ソーナが渡した通信機器から、一番近かった現場に辿り着いた桃から連絡が入り、
状況を伝えてきた。
彼女の視線の先には住宅地だが、殺害された場所と思しき通路は警察の手により閉鎖され
今も、街の人々が不安そうに現場を覗いていた。
近所の方に話を聞くと、昨晩時計の針が0時を回ろうとしていた時に、突如男性の
悲鳴が聞こえ、慌てて窓を開け外を確認してみると、ちょうどその聞こえた場所は
街灯の真下で、神父の様な服装をした男性が背中から血を流しながら倒れており、
その隣には、切ったと思われる白髪の男が居て、その手には西洋の剣が
握られていて、その後男は走り去り、暗闇の中へ消えて行ったと聞き猟奇殺人として
警察が調査をしてる所だ。
閑静な住宅街で突如起こった事件に周辺に住む人々の表情は恐怖と不安に彩られていた。
『警察の話を聞くと、ここ数日意たる所で外部から来た神父が何者かに殺害された
事件が多数発生してると──そして、現場で目撃された男は同様の人物みたいです』
犯人はその犯行を隠しもせず、堂々としており目撃者が大量にでており、
見た人は皆口をそろえて「白髪で長身の男性」と、答えている。
「わかりました。引き続き男の行方を追ってください──ただし深追いはせず、
危険と判断したらすぐに逃げるように」
『了解しました』
ソーナが指示を出すと通信が切れ、そのまま通信越しで聞きながら書いた
書類に目を通す。
何の目的があるかは分からないが、ここまで隠す気ゼロの堂々とした行動は
とても嫌な予感しかしない──ともかく、万が一こちら側に牙を向かれる前に
犯人像とかを抑えたいソーナであった
その様子を近くのソファーでじっと観察しているひしぎの姿があった。
あの後、ソーナ達は彼を誤魔化せるはずも無く、球技大会を観戦しながら
悪魔の事、天使の事、堕天使の事を語った。
そして、自身が悪魔の中でも「元72柱」、シトリー家の次期当主であり
生徒会の人間は全て自身の眷属であることを言った。
普通の人間であれば、冗談かと思うほどの話だったがソーナの話を
真剣に聞いてくれる彼に証拠である悪魔の翼まで見せた。
「今まで黙っていてごめんなさい。悪魔が人間のお世話をするって裏がありそうで
気味悪いですよね」
そう言ったソーナの顔には、はじめから正体を明かさなかった後悔と
このまで親しくなったのに──嫌われると思ったのだろう、無意識に悲しそうな
表情を浮かべていた。
それを見たひしぎは優しく微笑むとこう返した。
「昔はそう云った者も居ましたので、私は全然気にしていませんよ──それに、
貴女がお世話をしてくれるのは本心からでしょう?
裏がある"者"はここまで親身になってしてくれませんよ。
──ですので、私は貴女が悪魔だろうが天使だろうがまったく気にしません。
今まで通りに接してくれると私は嬉しいです」
その言葉を聞き、ソーナの心の中にあったわだかまりが晴れた気分になった。
今まで、
そう思われているだろうと、思っていたが──それが杞憂であったのだ。
「──っ、ありがとうございます」
「いえ、私も貴女に秘密にしていた事がありまして、この事は他言無用ですよ?」
彼女が自身の秘密、正体を明かしたのならば、自分自身も明かすべきだと思い
誰にも言わない事を約束し、語ったのだ。
道教を祖とする陰陽道、古代エジプトから発生した錬金術、
世界中のありとあらゆる呪術や医術を掌握し、遥か太古の昔から日本を影で
支え、動かしていたとされる幻とされる壬生一族の出身であり、
その中でも一握りしかいない地位にいた彼は──太四老と呼ばれ、
壬生一族を守護していたと。
その言葉に昔祖母から聞いた話を思い出していた。
「──確か、お婆様に聞いたことがあります。太古の昔から絶対に日本に
手を出してはいけない一族があり、彼らは『
怒らしてはいけない──と、もしそれを破れば『
たちが来て、皆殺しにされると聞いていましたが──本当の事だったのですね──」
小さな頃祖母が話してくれた幻の一族の話、祖母自身も子供の頃聞いた話なので
ソーナにもよく聞かしていたのだ。
泣き止まないと『鬼神』が来るぞ、と。
大昔、まだ日本に名前がついて間もないとき、悪魔側のある魔王と『元72柱』の一部が
日本の領土を支配を目論み、大部隊を派遣した事件があったのだが、天使側もそれを
阻止すべく、同じく大部隊を派遣し、とある日本の領土で戦争が起きたのだが、
彼らは『鬼神』の怒りに触れ、侵略してきた悪魔と魔王、阻止しにきた天使もろ共
皆殺しに合い、その後日本では戦闘を行わない事と誓い合ったのだが、
歴史は遥か昔で、実際その戦闘を経験した者の帰還者はごく数名であっり
お互い、無駄な戦力を消費した事を隠した為、真偽が分からず、
御伽噺になっていたのだ。
実際ソーナが日本に来てから、ふと思い出して一度検索してみたが一切そんな一族は
存在しなかったのだが、ひしぎの表情を見ると──冗談を言ってる感じではなく、
本物だと確信したのだ。
「信じてくれるのですか?」
「ええ、貴方が私を信じてくれたように、私も貴方を"信じ"ます」
証拠が無いのだが、ソーナは彼が嘘をついているとは思えなかったのだ。
そして、彼も自身のことを疑うことなく信じてくれた──だからこそ
ソーナも彼を信じる事にしたのだ。
故に本当の意味で、距離が縮まった二人──
「私にも何か手伝うことが出来ると思うので──頼っていただいても
大丈夫ですよ」
そう言ってひしぎが提案すると──ソーナが少し思案し、頷いた。
「──分かりました。よろしくお願いします」
自身より長生きしている彼ならば違う視点で物事を考えたり、
指摘してくれると思い受け入れた。
──ただし、ひしぎの正体はまだ誰にも明かさないと云う条件だが。
そういう過程があり、現在生徒会に設置してあるソファーからで彼女達の作業風景を
眺めているのだ。
(この学校の半分は悪魔で、そしてこの街はリアス・グレモリーと云う少女の
縄張りですか──)
話を聞く限りでは他の街にも悪魔が自身の縄張りを持ち、お互い取り合いになる事も
暫しあるという。
(まったく、人間の住む世界を悪魔が我が物顔で支配するとか──中々面白い時代に
なってますね──もし、吹雪が生きていたらどんな顔をしたか)
ひしぎにとっては悪魔も壬生一族も同じようなモノと内心思っているので、
別に悪魔が支配しようが人間が支配しようが関係なかったが、ただ勝手に
自身の縄張りだから──と、云われるのは不愉快を感る、彼の親友である
吹雪は人間を、壬生一族を愛しているので──憤ると、思ったのだ。
ソーナ自身は人間界での学校のシステムを知る為、悪魔の生徒を守るための支配なので、
悪い印象は無いのだが話に出てきた、リアス・グレモリーの支配の方は
いい印象はもてないと思うひしぎ。
(まぁ、実際会って見ないと分からないですがね)
別にこちらから会いに行く必要性はまったく感じられないので、
そのまま放置することに決めた。
そして、思考を切り替えソーナの動きを観察する──若いながらも冷静で
十分な指揮、判断能力があり将来が楽しみになる。
「椿姫、そろそろここを任せていいかしら?」
「はい」
「私はリアスにこの件を話してきます──そろそろ日も暮れそうなので、
全員帰還するように伝えておいて」
窓の外を見ると徐々に日が沈んできており、そろそろ交代の時間でもあるが
皆球技大会後すぐに行動を移したので疲労感が多いと判断し
切りのいい所で切り上げの指示をだす。
「私はすぐに帰って来れないと思うので、全員帰還を確認したら各自解散で」
「了解しました──ひしぎさんはどうしますか?」
眷属の指示は貰ったのだが、ひしぎの事が気になる椿姫。
昼から彼女は試合に出るべく、席を外していたので何があったのかが分からないが、
ソーナが一緒に連れてきて、話を聞かせていたのだ。
(あの後二人に何があったのでしょう──)
何と無くだが、二人が今までより親しく会話しているように見えたのだ。
(会長に限って──そんなことは無いと思いますが)
「ひしぎさんはどうしますか?」
椿姫に聞かれ、そのままソーナがひしぎに問うと
「私は約束があるので少し、校外を散歩してきます」
そう、小猫との約束の時間がそろそろ迫ってきていたのだった。
「分かりました──では、椿姫。後は頼みました」
ソーナは自身の机から立ち上がると、生徒会室を後にした。
彼女を見送った後、ひしぎも傍らに置いていた松葉杖を取ると立ち上がり、
「椿姫さん、大変だと思いますが気をつけてくださいね」
「はい、お気遣いありがとうございます。ひしぎさんもあまり無理をなさらぬように」
「ええ、ではまた明日」
そういって彼も部屋を後にし、目的の旧校舎裏へゆっくりと向かっていった。
ひしぎが旧校舎裏の林に付いたときには既に、球技大会後だったので体操着と呼ばれる
服装のまま、小猫が先日と同様にサンドバックを相手に訓練をしていた。
教わった所を頭の中で反芻し、同じ型を何度も何度も反復し練習を重ねており、
破れて壊れたサンドバック数個、周辺に転がっていた。
「こんにちは小猫さん、随分と練習なさった様ですね」
「──こんにちは、はい。教えていただいた事を忘れないように体に
覚えさせようと思ったので」
そう言いながらも、サンドバックに打撃を入れると重低音が響き、
打ち込んだときの衝撃で砂埃が舞う──今回は捻りを入れてないので
1発では表面は破けていないが、その代わり衝撃が凄まじく振り子状態になっており、
戻ってきた所に──もう一撃。
型は練習の成果が出ており、固定して打つだけならば重心、バランスが崩れていない。
何度も何度も打ち込むが──型は安定している。
それを確認したひしぎは次の段階に進んでも大丈夫と判断し、
「小猫さん。次の段階の訓練に移る前に少し戦闘に関して説明しておきます」
恐らく初歩的な事は知ってるとおもったが、今一度簡単に説明をし始める。
戦闘においてまず、相手が棒立ちという事態はそうそうに無い、あるとしたら二通り、
絶対的な力の差を見せ付ける場合と、ただの慢心、油断をしている場合のみ。
後者は力に溺れた者が頻繁にする思うが、前者である状況はまず引くことを提案する。
たとえどの様な状況でも冷静に自身と相手の力の差を見極めるべきであり、
力の差が分からず対峙するのと、分かって対峙するのとでは行動の取り方が
まったく違ってくる。
相手にとっては、状況が分かってない相手ほど楽な戦であり、力の差を見極め
例え倒せなくても向かってくる者ほど面倒な相手はいない。
故に自身の置かれた立場、戦場を十分に理解することで自身が今何をすべきなのかを
考えることが──生き残る秘訣なのだ。
例えば、相手との力の差を知りながらも絶対に後には引けない状態になれば話は
別だが、ほとんどの場合そんなことは無いはずなのだ──仲間がいる限りは。
自身の力が及ばない相手に仲間に頼ることは恥ずべきことでは無く、むしろ相手からは
賞賛を送られる事が多い。
次に覚えておくのは──戦闘の基本、回避行動。
可能な限り相手の攻撃を喰らわない事。
たとえどんなに防御、肉体の頑丈さに自信があろうと、何度も喰らえばダメージは蓄積してくる
圧倒的な力の差があれば蓄積するダメージも無い事もあるが、逆の場合、防御など
紙に等しくなり一撃で沈められる可能性もあるのだ。
あと、同等の力を持つ相手と戦うならば、こちらも防御せず回避にすべきであり、
当たれば当たるほど、スタミナは削れ、同等だった勝負が崩れる場合もある。
故に回避行動は基礎中の基礎であり、まずは自身が回避行動を取るか、相手に取らせるかで
勝負の先手がとりやすく、有利に運べる。
そして、攻撃に関しては──中途半端な攻撃行動は避け、全て一撃で沈めるような
気持ちで望むこと。
中途半端な攻撃はいたずらに戦闘時間を長引かせるだけであり、スタミナに自信が
あれば別にいいが、あまり自信が無いのなら最初から全力で攻撃したほうが
時間も、スタミナ消費も抑えれる事もある。
ただひしぎ自身は死の病に冒された体は"
消耗する事が生死に関係するため、圧倒的な力をもつ彼は最初から全力を出さない戦い方が
体力温存に繋がるため、そちらのほうが身についたのだ。
ただ、小猫の場合は戦闘スタイルが近接のみなので、全力スタイルの方が合ってると
おもったのだ。
そして、次はスタミナ──これ長いと話にならない。
本当に戦闘の基本であり、これがないと勝てる勝負も逃す場合もある。
攻撃するのにも、回避するのにも全ての行動を取るにもまずスタミナが重要となり、
互角の力を要する相手と戦い勝つために重要な要素の一つであり、
格上に対しては回避に専念し、相手の冷静さを奪いつつ消耗戦を仕掛けることで、
勝機が見えてくる。
どんな格上でも冷静さを失えば、隙が生まれそこに全力を叩き込めれば、勝てる確率もある。
そして、最後は精神力──心の在り方によってスタミナと同等に勝敗を決める要因の一つ。
たとえ、パワー、スピード、防御で負けていても、"勝つ"、"負けたくない"と云う心を
持ち続ける事で自分自身に力を与えるのだ。
──結局は精神論で、当てにならないと、云う者もいるかも知れないが、
心の中に"強き信念"がある者は何者にも負けない強さを発揮するのだ。
どんなに窮地に立たされても、体中ボロボロになっても"心の在り様"次第では
全てを覆いつくせる可能性もあるのだ、
──そう、自身を負かした鬼眼の狂のように──
「──心の在り様ですか?」
「ええ、たとえ苦しい状況に立たされていても、しっかり気持ちを持っていれば
難しいかもしれませんが勝機が見えてきます」
今のひしぎの長い説明を聞いて、納得できる部分が多かった。
自身の戦闘の仕方は『
結局それ以上の攻撃を受けると──たとえ自信があってもフェニックス戦と同じように
一撃で戦闘不能に持っていかれると感じたのだ。
それほど彼女にとってフェニックス戦での一撃によるリタイアはずっと心の中に
残っていた。
もし、あそこで危険を察知して回避行動が取れていれば、もしかすると状況が
"変って"いたかもしれない──そして、今までのはぐれ悪魔との戦闘により
毎回服が破けているのは回避行動を取らずにそのまま攻撃を受けていたから
と、思い出したのだ。
(私も祐斗先輩みたく、スピードを訓練すればいいのかな)
今思い返してみると、木場祐斗の戦闘スタイルは決して相手の攻撃を喰らわずに
回避を専念し、相手の隙を見つけたと同時に斬撃を叩き込む戦法。
そう思うと自身の動きにスピードが無いことに気が付き心が沈んでいく。
(やっぱり──私には才能が無いのかな)
遠距離固定砲台と化しているリアスと朱乃に取ってはスピードはあまり重要でない。
近距離前衛の自分は同じ、ポジションの裕斗と一誠には既にスピードに
差がつき始めているのだ。
元々『
『赤龍帝の籠手』の能力により全ての能力値の倍加、
その二人に対して自身はまったくと云っていいほど早さが無かった。
直接対峙しなくても──分かるのだ、祐斗には自身の現状の力だと
1発も相手に入れられない事。
一誠に対しては攻撃は当てられる分ましだが、数分後には倍加の力により
自身の力をすぐに上回ることを──。
今思えば全てにおいて負けている──力に関しても常人より上、防御に関しても同じ
何の取り得もないと──感じてきたのだ。
(眷属の中でもやっぱり私がお荷物──それでも私は──強くなりたい)
みんなに置いていかれない様に、みんなのお荷物に成りたくない一心が
今の彼女の心を占めているのだ。
「──私は何の特徴も無く、そんなに早く動けないのですが、それでも──
強くなれるんでしょうか?」
その言葉は不安に彩られ少し震えているのを感じたひしぎは出来るだけ優しい
声でかえした。
「大丈夫ですよ、十分に貴方は"強い"。もっと自身を持ってください。
そうすれば、貴方の内に眠っている"力"に溺れず、
たとえ現状誰かに負けていても、"心"で負けなければいいのです。
強くなりたいと、思っている時点で、貴方は更に強くなれますよ、
修行をすればするほど体は"答えて"くれますから──だから、気を落とさず
頑張りましょう」
「──私の正体、いえ、この"力"の正体をしているんですか・・・・?」
ひしぎの示した言葉に、更に不安を掻き立てられる小猫。
彼女のうちに眠る"力"は既に彼は感じ取っており、そしてその力を使うことを
嫌悪している雰囲気を感じ取っていたのだ。
「正確には、どんな力かはわかりませんが、貴方はその力を使うことを躊躇っている」
指摘され唇をかむ小猫──その瞬間、脳裏に同じ力を持っていた、とても優しかった
姉が力に溺れ豹変した記憶が蘇り、体がふるふると振るえ涙が零れ始めた。
慕っていた姉に裏切られ、捨てられ、もう生きていく事を諦めた過去を
思い出したのだ。
「──私は、あんな黒い力なんていりません──ただ、人を不幸にするだけの力なんて
いりません・・・・・」」
それを聞いたひしぎは、本当に辛い過去があったのか──と、思ったが続けなければ
成らなかった。
「過去に何があったのかは知りません。ですが、持っている力は"貴方"の力なのです
自身の使い方により、その力は貴方にとってプラスになるかマイナスになるかは
心の持ちよう次第なのです──どんな力でも自身に備わっているという事は
それは、貴方の一部、素直に受け入れてあげてください。
大丈夫、貴方は強い、決して"力"に溺れる事はありません
──もっと自分自身を信じてあげてください」
その気を使った優しい言葉に俯いて涙を流していた小猫は──
(ああ──私は──誰かに知ってほしかったのかな)
自分自身の今までの努力を、心の在り方を、誰かに知って欲しかったのだ。
決して自分の進んできた"
眷属同士では話しづらかった、リアスに対しても聞きづらかったのだ
恐らく聞いた場合の返答は自身に気を使って言ってくれる。
でも──このひしぎの言葉は、自身の事ををまったく知らない彼が、
こう言ってくれた言葉は何より、心にしみ、
そして、自身に中にある忌まわしき"不"の力──それをも彼は認めてくれたのだ。
「だから、涙を拭いて──折角の可愛らしい顔が台無しになりますよ?」
ひしぎはそう言って小猫に近寄り、膝を折り視線を同じぐらいにして
右手で彼女の頭を撫でながらあやし、空いてるほうの手でハンカチを
差し出した。
「──っ、ありがとうございます」
ハンカチを受け取ると涙を拭き取り、ひしぎの言葉で胸につかえていた不安や、
恐怖が取れたのか──笑顔を見せた。
「ええ、そのほうがとっても似合います」
(私は──私自身を信じる──もう、力になんて迷わない──)
自身の中に眠る力を小猫は受け入れることを決心したのだ。
球技大会が無事終了し、一誠とアーシアは帰路についていた。
普段ならば、ここにリアスの姿もあるのだが、帰り際にソーナに呼び出され、
先に帰ってと言い残し彼女は部室に戻っていたったのだ。
「会長さん、何かあったのでしょうか」
呼び出されたリアスの表情を思い浮かべると、よほど深刻な相談なのだろうと
おもったアーシア。
「まぁ、今日は球技大会だったし忙しいのもあったんじゃねーの?」
適当に相槌をする彼もハードな種目をこなしていた為に体力がほぼ
底を尽きていたのだった。
「もーイッセーさんたら、真面目に答えてください」
適当な返答に頬を膨らませるアーシア、それを見た一誠は疲れたに
元気がわいてきた。
(やっぱアーシアは怒った顔も可愛いなぁ)
あまり学園から距離が離れていないので数分後、家の前に付き、
玄関を開けようとした一誠の背に得体の知れない悪寒が走った。
(な、なんだこれ)
体が震え、彼の中の本能が危険信号を出していた
(前にも感じたことがあるぞ──確か初めてであったアーシアを教会まで
案内して、教会を見たときに走った悪寒だ)
そう、元はシスターだったアーシアは元々教会に用がありこの地を訪れ、
迷子の所を一誠に出会い、案内してもらった経緯がある。
すると、アーシアも同じように感じたのか震えながら一誠の服をギュッと握った。
(これは、悪魔だからこそ感じられる事なのか──)
家の中に得体の知れない何かが"いる"と云うことなのだ。
そして一誠の脳裏に母が危機にが迫っていると──よぎったのだ。
「母さん!」
勢いよくドアを開け母親を呼ぶ一誠。
彼の頭の中には先日出会った、イカレた神父の姿が思い出された。
その神父は元エクソシストで、悪魔はもちろん、それに関係した人間すら何の躊躇い無く
殺したことにより天界から追放されたのだが、堕天使側に拾われ、
自由気ままに殺しを楽しんでいる──殺人鬼なのだ。
先日の堕天使との戦いでその男だけ生き残り行方をくらました、
故に一誠の事は悪魔と知っており、その家族である母親を襲う──と、思ったのだ。
まずは台所へ向かうが姿が無く、他の部屋を探そうとした時、
リビングから楽しげな話し声が聞こえてきたのだ。
その声が発せられるリビングを一誠とアーシアは恐る恐る覗いてみると、
見知らぬ美少女二人と、母親が談笑する姿が見えた、
「これがね、イッセーの小学校時代のアルバム。これは1年生の時、運動会のリレーで
一等賞を取って大はしゃぎしている写真、かわいいでしょ」
またも一誠の幼い頃の赤裸々写真を見せびらかしていた。
「か、母さん・・・」
元気そうな姿を見て呆けてしまう一誠。
「はぅ、よかったです」
その隣で母の無事を安堵するアーシア、気が抜けたのかそのまま座り込んでしまった。
「あら、イッセー、アーシアちゃんお帰り。どうしたのそんな血相を変えて」
一誠は一度深呼吸をして、母親の前に座っている二人の美少女に視線を戻すと、
彼女達の胸元には十字架がぶら下げられ、自分自身と同じぐらいの年齢に見えた。
片や青髪の一部に緑のメッシュが入った目つきの鋭い美少女、
もう一人は亜麻色にツインテールの人懐っこそうな表情をしている美少女。
一誠はまだ、知らないが先ほど学校に表れた二人組みであった。
二人とも同じローブで身を包んでおり、
(──教会の関係者か)
と、内心疑問に思っている一誠に亜麻色のツインテールの子が話しかけてきた。
「こんにちは、兵藤一誠君」
微笑む彼女の顔に一瞬流されそうになったが、その視界に入った青髪の子の
隣に立てかけてあった、布に巻かれた長い獲物から発せられる気配を
感じ取る。
(──やばい、何か分かんないけど。アレは"俺たち"に対して絶対的な
何かをもつシロモノだ)
ぎこちない笑みを造りながらも一誠は挨拶を返した。
「はじめまして」
その言葉に怪訝を覚えたのか、少し眉があがった。
「あれ?覚えてないのか?!私だよ!」
自身を指差す亜麻色の子に、困惑していた一誠に母親が一枚の写真を
手渡した。
手渡された写真を見ると例の聖剣が写った写真で、母親が写っている幼い頃の
男友達を指差していった。
「この子よ、紫藤イリナちゃん。この頃は男の子ぽかったけど、今じゃとっても
立派に女の子らしく成長していて母さん一目見たとき誰か分からなかったわ」
その言葉に心の中で絶叫する一誠──すると、イリナがその言葉に続く。
「お久しぶりねイッセーくん、もしかして男の子と間違えてたの?
まぁ、あの頃の私は男の子顔負けにヤンチャしてたから間違えても仕方が無いかー。
お互いしばらく会わないうちに、色々と合ったみたいだね。
本当、再会ってなにがあるかわからないものね」
その意味深な言葉は、一誠でも瞬時に分かった。
(ああ、俺たちの正体を気づいているのか)
無意識に喉を鳴らし、覚悟を決めた一誠。
だが、その覚悟も杞憂に終わった──彼女達はその後も、母親と雑談し、
30分ほどだって帰っていったのだ。
久しぶりに帰ってきた日本に懐かしさを感じ、ついつい寄ってしまったらしく、
幼い頃、親の仕事でイギリスへ渡って以来だったらしい。
一誠は出来るだけ関わりを持たぬように、すぐさま部屋に戻りアーシアを
無理やり自室に待機させ、事の成り行きを見守っていたのだ。
いざと云うときは、母親とアーシアを命に代えて──守る、と云う覚悟を
腹の中で決めていたのだが──何事も無く終わった。
そして、彼女達が帰った後リアスが帰宅──ソーナから先ほど起こった顛末を説明された
彼女は一目散に帰宅し、一誠とアーシアの無事を確認した瞬間、二人を抱きしめ
「本当に無事でよかった」
と、リアスは心の底から安堵したのだった。
「私もイッセーさんも何もされなかったので、大丈夫です」
その言葉によりいっそう二人を強く抱きしめる──二人の温かさ、無事を
心の底から感じられるように──と。
「貴方達に何かあったら──私は」
グレモリー一族は特別情愛が深い一族と自身の『神器』に宿る『
聞いていた一誠。
安堵と共に涙を流すリアスを見てそう思い出したのだ。
その後、リアスは涙を拭い、ソーナから聞いた話を二人に説明しだしたのだ。
ソーナ自身、恐らくリアスが先に返した二人を心配すると思い、簡単に説明したのだ。
教会の事──そして、リアスに協議の申し込みがあったということを。
こんにちは、夜来華です。
今週から週1~・・・時間が取れたら2、3更新予定です。
ルーキーランキング1位になってました・・・
本当に評価を入れてくれた方、感想をくれた方、本当にありがとうございます。
これからも、頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします。
感想、誤字脱字報告、質問、一言、あれば嬉しいです。
では、次回にお会いしましょう。