私はイッセー先輩みたく、粘ることも、部長助けることも出来なかった
あの戦いでの一番のお荷物は私
もっと強くなりたい──私だけ弱いままは嫌です。
リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームは
リアスが
戦場は戦う両者の意見を参考にして異空間に造った駒王学園のレプリカ。
前半はリアス側が押し、相手の『兵士』3人、『戦車』1人を落とすことに成功したが、
小猫が相手の女王の攻撃によって、回復が間に合わず撃破された。
祐斗が相手の『兵士』3人を罠を駆使して撃破、一誠と合流。
その後運動場で相手の騎士達と戦闘を開始する。
一誠の「
相手の『戦車』1人を撃破するも、残ったライザーの眷属が集結し、
苦戦を強いられる。
そして、ライザーが一騎打ちをリアスの申し出、それを受諾し王同士の戦闘が始まる。
一誠の目にリアスの苦戦している姿を映した瞬間に『
新しい能力の発動により、一気に逆転し、『兵士』2人、『騎士』2人、『僧侶』1人を撃破。
違う戦場で朱乃が相手の『女王』を撃破するが、フェニックスの涙を使われ、
逆転負け。
その後直ぐに相手の『女王』の攻撃により祐斗も撃破され
奮戦空しく、戦力的に五分まで戻された。
そしてライザーを相手にアーシアを回復役として残していたが、相手の策に嵌り
彼女は閉じ込められる。
後が無くなった一誠とリアスは消耗戦を強いられ、リアスの魔力はすぐに尽き、
まだ、悪魔になったばかりである一誠も既に体力的にも、体に掛かる負担が限界を
突破していたが、フラフラの状態でも尚ライザーに立ち向かっていく、
何度も何度も立ち向かってくるその姿勢に業を煮やしたライザーが
一誠を葬ろうとした瞬間、リアスが止めに入り──試合は終了した。
一誠は重症の為2日間眠ったままの状態であったが、ライザーはお構い無しに
リアスとの婚約パーティーを開催した。
開催中に目を覚ました一誠はグレイフィアから渡されたチケットで
リアスの奪還を決意。
アーシアに"ある物"を借り、そしてある"覚悟"を決め、相手の本陣に乗り込んだ。
そこにはドレスを着たリアス、タキシードで身を固めたライザー、
招待された、朱乃、小猫、裕斗、ソーナの姿があった。
そしてサーゼクスの提案により、一誠とライザーの一騎打ちが始まり
一誠は『
"
『
この鎧の能力は一時的に能力を爆発させ、圧倒的な力を得ることが出来るのだ。
だが、現状のリスクは大きく、一度発動させれば丸三日は神器が使用不可になり、
まぁ、今後の努力次第で縮める事は可能なのであるが、圧倒的な力を使用するにあたり、
何の代償も無く使える訳でもなかった。
──左手。
一誠は左手を代価にして力を得たのであった。
既に左手はドラゴンの力により浸食され、脈を打つ鎧と成っていた。
左手を代価にして力を得た時間は十秒間のみ、その間にライザーを圧倒するが
時間切れにより、絶対絶命のピンチになるがアーシアから借りた十字架と
聖水により機転を利かせた作戦で奇しくも勝利を勝ち取り、みごとリアスの奪還に
成功した。
(ふぅ・・・・本当に激動の数日間でした)
最初リアスが負けたのを見てから、ひしぎに出す食事の味を失敗して、
気づかずそのまま出してしまうほど動揺していた。
「おいしいですよ」
と、ひしぎは感謝を表していたが、余り物を自身の夕食にしたとき激痛が走るほど
香辛料が入っていたのは余談である。
(とりあえず、婚約解消になって本当に良かった)
婚約パーティーに招待された時には、もう彼女を助ける事を諦めていた
家柄、仕来り、常識に囚われていたソーナは打つ手が無く、もう素直にリアスを
祝福しようと決心していたが、突然の乱入者、兵藤一誠により
奇しくもリアスはその柵から解放されたのだ。
何も出来なかった自分、何者にも囚われずにただひたすらリアスの願いを叶える為に
体の一部を犠牲にしてまでも助け出した彼。
(悔しかった──たった一人の親友さえも助けることが出来ない私はなんて無力
だったんでしょう)
力、家柄、知識において現状、全て一誠より勝っているのに──何も出来なかった
自分を恥じた。
(もっと私も次期当主といえど、まだまだ未熟者)
今後、家系を引っ張っていかないといけない立場になる、彼女には立ち止まる事さえ
許されない、今以上に"強く"ならないといけないのだ。
だが、考えれば考えるほど、落ち込みそうになった彼女は頭を横に振り、
思考を切り替えた。
(よし、情報を整理しなきゃ)
ライザーの婚約パーティで一誠が見せたこの短期間で、体の一部を代価に得た力、
未熟な彼であったが、10秒間と云えど十分な実力を擁するライザーを圧倒できたのだ、
恐らく、瞬間的に魔王、最上級悪魔に匹敵するほどだった。
もし、彼があのまま猛スピードで進化、力をつけてた場合、今後代価無しで
『赤龍帝の鎧』を発動出来るようになるったら、脅威以外の何者でもない。
非常に危険で、圧倒的なまでの"力"。
あの状態でも『赤い龍の帝王』を沸騰させるほど印象を受け、ただしあれはまだ
力の一部であり、底知れない恐怖を少なからず受けた。
(正直、今の状態では誰をぶつけても彼には勝てない)
たった10秒なのだが、通常の戦闘ルールのゲームであればその秒間で
数人まとめて戦闘不能にできるほどであり、もし変身が解けたとしても、
その後に残った眷族全員を相手にしなければならないのだ。
(もし彼が"禁手"になったら、撤退──いや、無理ね。追いつかれる)
彼らの戦闘を鮮明に思い出す、一瞬で距離をつめれるほどの爆発的な瞬発力で
上級悪魔でなければ、耐えられない一撃を食らわされる。
まさに一撃必殺。
(悔しいですが、私を含めて彼の攻撃を耐えられる者は、現状居ない)
これからもっと鍛錬を積むことが出来るのであれば、可能になる──だが、
相手も同じように成長する。
(彼らより数倍以上に鍛錬を積むしかないようですね)
結果的にそうなってしまうのである。
(何かきっかけがあればいいんですが──)
ひしぎは、ソーナから借りた本を読み耽っていた。
読めば読むほど、時代がどのように流れたのか、どういった経過を経て
こんな近代化になったのかが良く分かってきた。
だが、肝心の壬生一族のその後に関してはまったく情報が載っていなかった。
(まぁ、元々存在自体幻とされていましたからね)
載っていないことはなんとなくは予想は出来ていたが、それでも安否を知りたかった。
彼らがどのようにして"神"に打ち勝ち、死を克服したのか、
ちゃんと子供達の未来は守れたのか──など。
心が死んでいたあの頃は、どうでもいいとさえ思っていたが、今は正反対である。
(体が治り次第、自分の足で調べてみますか)
地図さえあれば、一族の住んでいた場所を特定し行く事が出来る。
(そろそろ自力で歩けたら良いのですが)
そう、まだ彼の体は回復しきっていなかった。
目覚めた日から数日たち、リハビリの結果、漸く物に掴まりならが動くことは
可能になったが、一日の大半はソーナから借りた車椅子で生活している。
(生物博士と呼ばれた私がこんな姿になって生活とは──つくづく興味深い)
人体を知り尽くしたひしぎであっても、今回の体験は未知の領域だった。
一からの身体機能の再生、構築。
じっくり調べてみれば、やはり自身の体は一度死に"砂"のように消え去ったはず
なのだが、もう一度再構築されていたのだ。
それも赤ん坊からではなく、全盛期であった頃の肉体であり、
そのお陰で、普通は成長と共に発達する筋力が、まったく鍛えられていない
状態からの開始であった。
(本当に筋力がないと不便ですね)
満足に動けず、人の手を借りないと生活が出来ない。
(もう少しの我慢──ですか)
リハビリさえ欠かさずやっておけば、もう少しで自力で生活できるほど
回復が見込める。
ふと、ひしぎは時計を見ると散歩の時間であった。
彼は本を窓際に置くと、傍らに置いてあった2本の松葉杖を手に取り、
体を起こした。
「さて、今日はどこを回りますか」
女医とソーナから放課後であれば、校内以外で学校の敷地内あれば散歩して
云いと許可を貰い、昨日から校外を歩いている。
昨日初めて散歩に出て気が付いたのは、この学園の半分ぐらいの生徒は
魔の雰囲気を持つ者達であった。
そしてあの女医しかり、ほかの教員も人間ではない気配であった。
ただ普通の者もいてるのでひしぎは、両者が気づかず共存しているのかと
勝手に納得していた。
借りていた本には魔と人間の共存などは記されていなかったが、何の弊害も無く
普通に出来ている時点で、興味を失っていた。
気配を消しながら裏口から校舎の外に出ると、日はまだ照っており、その眩しさに
目を窄め、ゆっくり歩き始める。
気温自体は熱くも無く、寒くも無く、ただほのかに暖かい風が吹いている。
「やはり、外の風は気持ちいいですね」
元々家の縁側の縁で自然を感じながら読書をするのが趣味の一つであり、
(優しい風だと心が安らぎます)
こう思える日々をもう一度体感できることに少なからず喜びを感じていた。
風を感じつつ校舎裏にある森の中を散策しはじめた。
ひしぎの服装は、元々着ていた真っ黒の着流しの上に女医から白の白衣を借りていた。
元の服装では怪しすぎるのだが、白衣を借りることによって若干──本当に若干だが
ましになっていた。
誰かに見つかれば、研修生と名乗るように女医から言われている──が、
彼は気配を消すのが得意なので、一般人には横を通っても反応されないほど
存在を消している。
ただ本気で気配を殺していないので、少しでも実力のある生徒ならば彼を
見つけることが可能なのだ。
なぜ本気で気配を消さないか──と、云うと、昨日初めて散歩に出たとき気配を完全に
消していたら、ソーナの探知魔法にも引っかからずに完全に誰も、彼が
どこにいるか把握できず、帰ってきたときソーナに、
「もし万が一のことがあったらどうするんですか!貴方は病人なんですよ!」
ひしぎの身を案じて怒ってくれたので、彼女には感知できるぐらいの気配は
出して散策しているのだ。
ゆっくり奥へ奥へと進んでいくと、何か鈍い音が聞こえてきた。
(何の音でしょう? 向こうからか)
何度も何度も響く鈍い音に興味を持ったひしぎは音の発生源を感知し、
ゆっくりそこへ向かった。
木を掻き分けて進むと、旧校舎と呼ばれる建物の裏に出でる、そこには、
白銀で短髪、黒猫のヘアピンをつけた、非常に愛らしい小柄な少女が木に吊るしている
サンドバックをひたすら殴り続けていた。
少女は小柄ながらも繰り出す拳は"重く"、鈍い音を立てながらサンドバックはゆれ、
その反動で木も揺れ、葉を散らしている。
(ほぅ──中々の攻撃力ですね)
少女に気づかれること無く、普通に観察しているひしぎ。
あきらかに傍から見れば、少女を見つめているとても怪しい人物に見える。
少女──塔城小猫はひしぎの存在に気づかず夢中になっている。
(ですが、何か迷い、焦りのある打撃の仕方ですね)
普通に見える拳なのだが、彼には何かを打ち消すように打ち込む姿としか
見えていなかった。
塔城小猫は焦りと憤りを感じていた。
この間のフェニックス家とのレーティングゲームで自身は何も出来ないまま
撃破されたこと、そして婚約パーティでリアスを助ける事を半分諦めかけていた
自分自身に憤りを感じていた。
結局彼、一誠が来なければ自身の敬愛する部長であるリアスは、好きでもない男に
嫁ぐ事になっていた。
もっと自身に"力"があれば──と。
年齢的には後輩であるが、戦闘に関しては一誠より経験を持っていたはずなのだが、
ゲーム前の十日間の合宿、そして今回の一戦で一瞬にして抜かれてしまった。
確かに神器の恩恵もあるが、間違いなく彼は天才の一種である。
心の在りよう、諦めない精神力、戦闘経験の蓄積するスピード、
その事に対して表面上気にはしていなかったが、心の中では少し焦りを感じていた。
(今、眷族の中で一番の足手まといは私)
初戦と言えば言い訳になるが、彼女の中ではその言い訳は許せなかった。
今後レーティングゲームに参加するに当たり、今回と同じ結果になりたくない──と
思い、負けた日からリアスの作った部活、オカルト研究部には顔を出さず、
必死に鍛錬を積んでいた。
(朱乃先輩には魔力で負け、祐斗先輩には速度で負け、各駒の能力もあるけど
『戦車』特性である攻撃力と耐久力、イッセー先輩に両方負けた)
魔力量や、速度では確かに駒の特性で負けるのは仕方が無いと、分かるのだが、
『兵士』である一誠に『戦車』特有の2面で完全に負けたのが──彼女に
とっては衝撃だったのだ。
だから、誰よりも早く鍛錬を再開し、彼に追い付きたいと思ったのだ。
(もっと──もっと、打ち込まなきゃ!)
ただ、打ち込むだけで急に強くなれるかと云えば──否
だが、ひたすら地道に経験を積むことによって体は"
通常のサンドバックでは彼女の一撃だけで破けてしまうので、特殊材料プラス魔法で
加工され、どんなに殴っても破けない仕様になっており、非常に小猫には
助かる代物であった。
ふと、ずっと集中していたため気づかなかったが、視線を感じた。
(誰?)
小猫は打ち込みを止めると、周囲を見渡し──すると、少し離れた木にもたれかかりながら
松葉杖で体を支えている、怪しい人物を発見した。
「──何か御用ですか?」
ジッとこちらを観察している男に、臆せず彼女は声を掛けた。
「いえ──ただ、打ち込むなら一度呼吸を整え、もっと重心を低くし、
体のバランスを整えた方が効果的だと思いまして」
最初はいい音を出していたのだが、打撃するに連れてどんどんと重心がくずれ
鈍い音に変っていたのだ。
その事を指摘する怪しい男──ひしぎは体術のエキスパートと戦ったことがあるからこそ
小猫がこのまま続けても余り効果は無く、非効率的だと思い、
やるからには効率の、効果が出るやり方をしたほうが良いと思ったのだ。
「そして、打撃をするならもっと殺気を込め、一撃で仕留める気でやった方が
もっと効率が上がります」
ただただダメージを負わせる事は誰でも可能なのだが、見るからに彼女は
体術メインで戦闘をするタイプだと判断した彼は、意識の持ちようで
打撃に効果が付属することを教えた。
「その方が、相手の身体だけではなく、精神にもダメージを与えることが可能なのです」
怪しさ満開の男を不審に思いながら、黙って話を聞いている小猫は、
なんとなくだが、男の言っている事は嘘ではない──と感じていた。
「後はお好みですが、お嬢さんの攻撃力だと拳が相手に当たる瞬間手首を内側に捻れば
更なるダメージを期待できると思います。」
あたる衝撃を一点集中でき、体の内部破壊もできる。
彼女の攻撃力であれば、十分に必殺の一撃になると──ひしぎは思った。
「騙されたと思って一度やってみてください」
その言葉に、小猫はサンドバックに向き直り構え──
(重心を低く、そして体のバランスを整え──殺気を込め、一撃で倒すように!)
聞いたことを頭で反芻しながら──そして
「──ハァ!」
勢いよく繰り出された拳はサンドバックに突き刺さると同時に、衝撃波で土埃が舞い、
とても鈍い快音を周囲に響かせ──周囲の木に止まっていた鳥たちはびっくりして飛び去り、
そして、木が軋む音を醸し出した瞬間、釣っていた部分の木が割れ
サンドバックが回転しながら吹き飛び、何度かバウンドして後ろに生えていた木に
ぶつかり、漸く止まった。
「──えっ」
拳を放った張本人は、分けも分からず呆けていた。
「おめでとう、それが貴方の本来の威力です」
予想より遥かに威力が出た事に拍手をして賞賛をおくるひしぎ。
「迷いや、焦りもなく。ただ相手を仕留めるだけに特化した拳は何より
武器になるので覚えていて損はありません」
だたの打撃でも、鍛えれば鍛えるほど威力が増し、その道を極めることが出来た
あかつきには一撃必殺と成り得る。
だからこそ、武器を持っていないからって無警戒は油断禁物なのだ。
彼女には素質があり、そこに至る事が──出来るかも知れない逸材であった。
「打ち込んだ部分を見てください」
ひしぎは地面に転がっているサンドバックの中心を指差した。
「?」
何か、と思いながら小猫はサンドバックに近づき、指された部分を見てみると
ちょうど拳ぐらいの大きさの穴が──何かにねじ切られた形跡があったのだ。
「これは──」
「ええ、それはあの速度、威力で打撃した結果ですよ」
そう、本来ならば、打撃した瞬間に衝撃は全体に響き渡るものなのだが、
今回手首を捻った結果、衝撃は通常より分散しないが、威力が一点へ収集し
皮をねじ切ったのだ。
「本来、分散する威力を一点に集めた場合がコレです。通常の打撃でも十分な
威力なのですが、少し捻りを加えるだけで、更に倍以上の威力が追加され
同格相手ならば致命傷モノ、格上にも十分なダメージが期待できます」
いつの間にか横に来ていたひしぎは説明し始め、聞いている小猫の視線の先では
静かに中に詰まっていた砂が零れ落ち始めた。
(これが私の"力"──)
「ただ練習するに当たり、もっとサンドバックを今まで以上に"
後片付けが大変になるのが、玉にきずですがね」
ひしぎの何気ない言葉の一部分に反応する小猫
(この人、コレが強化されていると──看破している)
少し得体の知れない何かを感じ少し後ずさり──
「──貴方は一体何者なんですか?」
「ただの怪我をした保健の臨時研修生です」
「──保健の研修生が行き成り怪我をしているんですか?」
「ええ、まぁちょっとした事故にあいましてね」
小猫のツッコミを普通に受け応えする彼は──嘘を言っている雰囲気ではなかった。
とても怪しいが、
(後で一応リアス部長に確認してみよう)
「訓練の邪魔してすみません」
「いえ、貴方のお陰で私自身の"力"の使い方が分かったので、こちらこそ
ありがとうございます」
素直に頭を下げる小猫。
「余計なお節介にならなくて良かったです」
ひしぎはそう言うとゆっくり身を翻し去ろうとして──
「──ぁ、あの!」
咄嗟に小猫は呼び止めてしまい、ひしぎは顔を振り向かせた。
「何か?」
「貴方の名前──教えてください。」
口から出た言葉はそれであった。
「ああ、私の名前は──」
彼はそういうと器用に体を小猫に向け、言おうとした時、
誰かが声を掛けてきた。
「ひしぎさん、ここに居たんですね。会長がお呼びです」
「椿姫さん──どうしてここに?」
「──副会長」
現れたのはソーナから伝言を頼まれた生徒会副会長の真羅椿姫であった。
「会長は今、手が離せないので代わりに貴方を呼んできて欲しいと頼まれました」
「なるほど──ありがとうございます。すぐに戻ると伝えてください」
「分かりました。では私はこれにて──」
返答を貰うと椿姫は去っていき、それを確認したひしぎはもう一度向き直ると、
「名乗る前に呼ばれてしまいましたが、私の名前はひしぎと言います」
「私の名前は塔城小猫です」
名乗り返す小猫──すると
「小猫ですか、愛らしい名前ですね、実に貴方に似合っていると思いますよ」
行き成りのほめ言葉に一瞬呆気に取られるが、意味を理解して少し頬を赤く染めると
お礼を言った。
「──ありがとうございます」
「では、小猫さん。私はこれで失礼します」
今度こそひしぎは去ろうとし──小猫は一瞬心に過ぎった思いを口にしようと
もう一度呼び止めた。
「あ、あの!」
「──?まだ何か?」
一瞬言葉に詰まったが、素直に口にした。
「──っ!──あ、あの、また、訓練見てもらえますか?」
小猫は、更に強くなるために彼のアドバイス、指摘を欲したのだ──
行き成りの出会いで、怪しさ満点の人だが──教えてもらうことが出来れば
自身はもっと強くなれると、心の中で思ったのだ。
──今の自身が強くなるためには、プライドや偏見などは不要、なりふり構わず
教えを乞うた方が良いと判断したのだ。
「ええ、それぐらいなら構いません──また、明日も来ますね」
元々やる事の無いひしぎは、この世界の"力"を知る為にいい機会だと思い、
了承した。
彼の言葉に、もう一度頭を下げる小猫。
「──よろしくお願いします」
了承を貰えた事に嬉しさが少し表情に表れ、彼女は微笑んでいた。
「では──」
その笑顔にひしぎは微笑みで返し、今度こそ去っていった。
「ソーナ、彼は本当に危ない人物では無いのね?」
「ええ、ここ数日間彼のお世話をしていましたが、まったく問題はないわリアス」
ひしぎを椿姫に呼びに行かせた本人は、リアスの部室を訪れここ数日間の
事の顛末を話していたのだ。
「まぁ、貴方がそういうなら、私からは言うことないわ──
私自身もここ数日忙しすぎて話が聞けなかったのもあるし」
リアスは婚約解消後、お互いの家に正式に報告する為に学業が終わり次第、
故郷に戻っていたのだ。
故にソーナの報告は聞いていたのだが、直接話す事は今日まで出来なかった。
今更決まった内容を多い覆すほど、彼女も"鬼"ではない。
問題を起こしていないのなら、そのままで良いと判断した。
「ありがとうリアス。一応学園長と相談した結果、保健の臨時研修生という肩書きで
彼には学校で療養してもらう事になったわ。」
一般の生徒や、その親御にみっかった時の対処法で、肩書きさえあれば
説明がしやすい。
「なるほど、でもどうして保健なの?」
「話を聞いていた限り、彼は生前医者のような立場も経験していたと話していたので
他の現代知識はまだ勉強中だから、そちらの方なら多少知識はあると本人に
確認が取れたからです」
知っているなら自然に演技がしやすいと思い採用したのだ。
「わかったわ──まぁ、私も余裕が出来たら一度彼と会ってみるわ」
「ええ、有意義な話が聞けると思いますよ」
リアスの提案に頷くソーナ。
そして、もう一つの案件があったことを思い出し、ソーナは切り出した。
「そういえば、眷属の顔合わせはいつにしましょうか?」
今後のことを考えて、顔合わせしたほうがメリットがあるとこの間提案した件であり、
ソーナは直接リアスの新しい眷属の二人と話してみたいと思っていたのだ。
そしてもう一つ彼、匙が一誠を自身が相手をしなければならない相手と再確認させる
目的もあり、願わくば自身とリアスの関係のように良いライバル同士に
なって欲しいと思う親心。
「──そうね、お互いの予定を調整するとして、球技大会の練習もあるし
5日後ぐらいでどうかしら?」
彼女たちの本分である学業の、今期初めてのイベントが球技大会、
それが来週に開催される予定もあり、勿論彼女たちも出場予定なので
練習しなければならなかった。
「そうですね、分かりました。眷属たちにはそう伝えておきます。」
「ありがとうソーナなら決まりね!」
「では、私はそろそろ戻ります──」
良い返答をもらえたので、出された紅茶を飲み干すとソーナは立ち上がった。
「あら、もう帰ってしまうのですか?」
リアスのそばで控えていた朱乃が残念そうに言った。
「もう少し話をしたいのは山々なんですが、彼のリハビリを手伝う時間なので」
「あらあら、そういう事情でしたのね」
椿姫に折角呼びに行かせてたので、二人を待たせることは出来ない。
「ソーナ、貴方自らリハビリを手伝ってるの?」
ソーナの言葉に少なからず驚いた表情をするリアス
「ええ、何か問題点でも?」
その言葉に不思議な表情を浮かべるソーナ。
「いえ──ないけど・・・・」
「そう、では──ごきげんよう」
そう言って退出するソーナ。
部屋に残された二人は、その姿が見えなくなると顔を見合した。
「ソーナが自らそういう行動を取るなんて──見たこと無かったわ」
あごに手を添えて考える素振りを見せるリアス。
「あら、そうなのですか?」
「ええ、幼い頃から彼女を知っているけど、行き成り出合った男性相手に
あそこまでお世話をするなんて──はっ!?」
幼い頃からの親友同士である故に、ソーナの交友関係は全て把握済み、
そしてソーナ自身にも婚約者が居たが、チェスで婚約破棄を勝ち取るなど、
ほとんど男性に興味すら持って無さそうにしていた感じていたリアスは
「まさか、あの仏頂面のあの子に──春が来たのかしら!?」
とんでもない勘違いを炸裂させた
「あらあら、それは勘違いだと思いますわ」
話を聞いている限り、そんな事は感じられないと思っていた朱乃。
「いいえ、これは──あの子自身が気づいていないだけ!
出会ったばかりの男性に甲斐甲斐しく世話をするなんて──恋以外考えられないわ!」
「はぁ──」
もう、なんて返して良いか分からない朱乃はため息を漏らしたのだ。
「ふふふ、おめでとうソーナ!」
「くしゅんっ」
二人が待つ部屋へ戻ろうとした何の前触れも無く、突然くしゃみしたソーナであった。
こんにちは、夜来華です。
話を書くにつれて、思ったのですが・・・・・内容の進行速度遅い。
そして、もう一つ、既にひしぎの存在感が薄い。
感想、質問、一言でも書いて頂けるととても嬉しいです。