ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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待ちに待った夢への第一歩

今日、俺はここであいつを超える

古き悪魔に見せ付けてやる──俺の覚悟(本気)


第24話 ゲーム

リアスとソーナの試合を見るために現3大勢力のトップと友好である各世界の大物たちが、

冥界へと足を運んでいた。

 

場所は都市ルシファードにある一番大きな居城で、来賓客たちを持て成す感じである。

なぜ一箇所に集めるかと云うと、護衛のしやすさと敵対勢力に対して、

攻めにくいイメージを与えれるように、自軍の戦力を見せ付ける為である。

 

居城周辺には4大魔王の眷属全員と最上級クラスの悪魔、天使側、堕天使側の戦力が

護衛についており、各神の護衛達も共に配置に付いているので、

現在都市ルシファードは稀に見ないほどの厳重な警備であり、

最大の防御力を有した感じとなっている。

ここに手を出せば、頭の悪い者でも結果が分かるように、目立つように配置している。

 

来賓客の中には、オーディンと新しい付き人のヴァルキリーの姿もあった。

 

その中でひしぎとロスヴァイセはソーナ側のオブサーバーとして招かれる事となり、

試合開始直前まで、ソーナ達と共にいる事ができた。

 

皆緊張な面持ちでシトリー家にある客間で待機していた。

数時間後に自分達の夢の第一歩の道が決まるのだ──ソーナ自身、緊張してないように

振舞ってはいるが、内心不安と緊張が心の中を駆け巡っていた。

 

今回は生徒会長としての仕事ではなく、一個人の将来の道筋を決める第一歩なのだ。

今までとは違う重圧感が体を押しつぶしてくる。

 

でも、それは皆も同じだからこそ、王である自分は表に出してはいけない。

冷静で有ると皆に見せつけ、安心を与えねばならない立場であると、考えていた。

 

そんなソーナの内心を読み取ったひしぎは、柄じゃないが彼らを安心させる言葉を考えた。

 

「大丈夫ですよ。貴方達は勝てます」

 

何気ない、ただの励ましの言葉だが、それでも皆の中で不思議と緊張感や、

気負いが減った気がした。

 

ひしぎとてただ単に気休めで言ったわけでもなく、今までの彼らの修行の成果と

相手の戦力を比べた上で答えを出したのだ。

 

そう、確かに数週間前までは9割近くこちらの負けが確定していた。

ソーナとリアスはほぼ互角だが、眷属同士の戦いとなるとかなり分が悪かった。

向こうは1発当てるだけでこちらを再起不能にもっていける武器を所持しているし、

圧倒的な攻撃力を持つ者も存在する。

 

比べてこちらは身体能力共に平均的で、尖った戦力は居ない。

集団での戦闘なら五分にもって行けるが、個別となると厳しいと判断していた。

 

だが、濃密な修行の成果により攻撃力の差は埋められなくても、

手数などでその差を埋め、個人戦でも五分以上の戦いが出来るほどになっている。

 

もちろん向こうも修行で強くなっていると仮定してだが、毎日数分おきに死に掛ける(・・・・・)ほどの

修行はやっていないと判断した。

 

ソーナを含めて全員一日数十回以上は臨死体験を経験している。

ひしぎはある程度手加減はしているが、殺す気で相手をしており、勿論皆にも自分を

殺す気でかかって来いと指導していた。

 

短期間で強くなる為に命のやり取りを、何百、何千と己の命を対価にして文字通り死に物狂いで

強さを手に入れたのだ。

 

だからこそ、強くなったと誇って良いのだとひしぎは思っていた。

 

「皆前と比べ物にならないぐらい強くなりました。だから、後は油断せずに

 戦えば勝てる相手です」

 

戦力差はかなり縮まったのは事実、だがそれでもまだ差はあるが

本気で掛かれば勝てない相手では無いとひしぎは断言し

 

「だから、気負いすぎず行きましょう」

 

そのひしぎの心遣いに皆表情を和らげた。

その後、皆で何気ない雑談をしていると部屋の中心に魔方陣が現れた。

試合会場の準備が整ったので、参加者を専用ルームへ転送する魔方陣だった。

 

それを確認すると、ソーナは椅子から立ち上がり皆に声をかけた。

 

「皆行きましょうか」

 

参加するメンバーは椅子から立ち上がり、魔方陣の中心へ足を運んでいく。

すると、ひしぎが歩いていく匙を呼びとめた。

 

「匙」

 

「なんでしょう?」

 

匙は呼ばれるがままにひしぎの傍に行くと、ひしぎは誰にも聞こえないように

匙へ語りかけた。

 

「可能な限り、ソレ(・・)の使用は控えるように。まだ、完全に制御出来ていないので

 貴方にどう云った影響を及ぼすか分かりませんので」

 

ひしぎの目は、不自然に包帯が巻かれた左腕を指していた。

その言葉に右腕で左腕を庇いながら、少し考えた後匙は笑みを零しながら答えた。

 

「俺も出来る限りは使わないようにします。でも──勝つために必要になったら

 ためらい無く使います」

 

笑顔で答える匙だが、その言葉は本気だった。

匙の覚悟を再確認したひしぎはそれ以上言うのは野暮だと思い

 

「わかりました」

 

優しく匙の背を押した。

そうして参加するメンバーは全員魔方陣に移動すると、最後にソーナが残るメンバーの

方に向き直り

 

「必ず勝ってきます」

 

その瞬間魔方陣から光が溢れ出し、メンバーを包み込んだ。

残されたメンバー、ひしぎ、ロスヴァイセ、小猫、由良はこの客室で

試合を観戦するため、画面に映像が映るまで体を休め始めた。

 

一方魔方陣で転移したソーナ達は、ジャンクフード店らしき建物が列を成している場所に

降り立った。

 

周辺を見渡すと少し離れた場所には、食材売り場も見える。

 

「試合を行い場所がデパート内部ですか」

 

建物内の構造を見てある程度予測したソーナはポツリと呟き、

建物の支柱に掛かってある看板を見ると、駒王町にあるショッピングモールと瓜二つだった。

 

すると、館内放送が鳴り響くと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『皆様、この度のグレモリー家、シトリー家の「レーティングゲーム」の審判(アービター)役を

 任命されたルシファー眷属『女王(クィーン)』、グレイフィアでございます』

 

『早速ですが、今回のバトルフィールドは『駒王学園』の近隣に存在するデパートを

 模倣しゲームのフィールドとして異空間にご用意しました』

 

このデパートは2階建てで屋上、立体駐車場つきの横に長い構造である。

 

『両陣営、転移した場所が『本陣』でございます』

 

リアスは二階の東側、ソーナは一階の西側が本陣だった。

 

『今回、特別ルールがございます。陣営に資料が送られていますので、ご確認ください』

 

回復品である「フェニックスの涙」は両陣営とも一つずつ支給されている。

そして作戦を練る時間は放送が終ってから30分間設けられ、この時間内に

相手との接触は禁止された。

 

そして特別ルールの一つは『戦場となるデパートを破壊しつくさない事』

ある程度の破壊は問題無いが、破壊規模が一定のラインを超えた場合、

攻撃を行った選手は強制失格となる。

つまりド派手な戦闘は極力するな──と云う事である。

 

2つ目、これはリアス側の陣営のみなのだがギャスパーの神器は使用禁止。

これは術者がまだ未熟であり完全制御不能な為、ゲームそのものを壊す可能性が有り

台無しになるのを防ぐ為の措置である。

 

ギャスパーはアザゼルから魔眼封じの眼鏡を与えられており、吸血鬼のみの能力で

戦わなければならない事となっている。

 

今回このゲームに適応される特別ルールはこの二つである。

こう云ったルールがある為、単に力だけでは勝てないのがこのゲームの醍醐味である。

 

ちなみにルールは毎回変更されるので、今回この様な戦場が選ばれたのはサーゼクスが

彼女たちに縁のある場所を何個かピックアップし、その中からクジで引いた結果である。

 

外部ゴシップはリアス・グレモリー側は圧倒的な力を有するチームと評価し、

ソーナ・シトリー側は力は平凡だが、連携と知力は相手陣営を抜いていると評価している。

 

リアス側の修行を担当した堕天使総督のアザゼルは戦場が決まるまでのこの試合の予測は

『戦車』が抜けている状態でも、9~8割リアス側の勝利だと確信していた。

 

勿論相手も修行で大幅に戦力が上がっていると仮定しても、元の基礎部分が

圧倒的に違うからである。

 

そして戦場が決まり、特別ルールを聞いた後の予想でも8~7割勝利を確信していた。

 

だが、心のどこかで「本当は逆なんじゃないのか?」と思える部分もあった。

それはひしぎの存在である。

 

自分たちより圧倒的な存在が、相手チームの先生(・・)を担当しているのだ。

勝つために何か仕組んでる気がしてならない。

 

なぜなら、こんな短い期間でその実力の差を埋めるに薬や特殊なアイテムを

使わない限りほぼ不可能と仮定していたからである。

 

だけど、その不安が一切拭えないまま試合開始目前になっており、もうリアス達に

アドバイスはできない為、成り行きを見守るしかないと判断していた。

 

 

 

配られた資料を確認している間、眷属達にソーナは各階フロアの偵察に行かせた。

眷属達が帰ってくるまでにソーナは見取り図を見ながらどう動くか作戦を立てた。

 

(まず、侵攻できる道は4つ。1階、2階、屋上、立体駐車場)

 

まず今回お互いに使役できる『駒』が減っている為、慎重に人選と

相手の考えを読まなければならない。

 

ルール上こちらに少し有利な部分があり、簡単に言えば相手の強力なユニットの

大規模破壊攻撃が使用不可能となっている。

 

(兵藤君の動きがかなり制限される──ですが、

 彼の事は匙に一任してるので問題ありませんね)

 

超近接火力ユニットである一誠の相手をするのは匙。

『禁手化』に至っていない匙だが、ソーナは彼が勝つ事を前提に

作戦を立てる。

 

だって、匙は自分自身に一誠の相手を任せて欲しいと言ったのだ。

 

(だから、匙。私は貴方を信じて作戦を立てます)

 

だが、万が一負けた場合の作戦プランも同時に考え始めた。

 

 

 

色々下準備を整えた後数分後、全員が戻ってきた事を確認したソーナは全員に作戦を伝える。

 

「まず、我々の侵攻ルートは屋上と店舗内の中央突破を取ります」

 

侵攻メンバーは屋上に憐耶、2階匙、1階留流子。

 

「防衛は立体駐車場に椿姫、巴柄、その他は私と桃で回ります」

 

その防衛配置に匙が疑問を投げかけた。

 

「どうして立体駐車場に二人も?」

 

その疑問にソーナは頷く

 

「それは恐らくですが、相手のメイン侵攻ルートが立体駐車場の可能性が

 高いからです」

 

普通なら回りくどい立体駐車場を使わずに屋上、中央突破を採用するが

今回の特殊ルールにより相手の行動が一部制限されている。

 

階数も少なく侵攻ルートが限られている為相手の考えが読みやすかった。

 

中央突破はメインを思わせた陽動担当の一誠を配置してくる。

『赤龍帝』であり『禁手化』出来るユニットであり、

あえて目立つ場所に配置することにより相手は無視できない為、

防衛としてこちらは主力を一誠にあてると考えているはず。

 

屋上は視界が広く索敵がしやすいので、そう云った陽動作戦を取る場合

侵攻ルートには含まれない。

 

ならば少し遠回りになるが遮蔽物が多く、他のルートから援護に行きにくい場所が

立体駐車場になる。

 

ソーナの予想では騎士2人を投入してくると予想した。

 

「中央が囮。メインは立体駐車場ですが、どちらかが失敗しても良いような作戦で

 くると思います。まぁ実際相手の眷属達にソレを可能とする力は

 十分に有しています」

 

万が一騎士二人が失敗しても、一誠が残っていさえすればそのまま中央突破出来る。

 

「序盤ですが、恐らく姫島さんは本陣の少し手前で防衛。アーシアさんは前回と同じ

 運用をしてくると予想します」

 

『フェニックスの涙』は1個しか配布されていないので、味方を回復できるアーシアの存在は

貴重であり序盤で前線に出してリタイアさせたくない思惑もある。

それに本人自身に直接戦闘能力は無い為、強力なユニットの傍に居なければならない。

 

「そして、ギャスパー君ですが。彼は変身能力を有しており恐らく店舗内の

 偵察係のはずなので──コレを使ってください」

 

ソーナは違うテーブルの上においてあった物を手に持ち留流子に渡した。

 

「コレで彼を?」

 

手の上にあるモノをまじまじと見つめる留流子。

 

「ええ、それを持って──して、彼を倒してください」

 

ソーナにソレを使ってどう行動するか説明され、納得した留流子は納得した。

 

その後メンバーに一人一人にどういった行動を取るか説明し

試合開始時間5分前のアナウンスが入った。

 

『試合開始5分前です。各陣営の皆様。準備の方よろしくお願いいたします』

 

「では皆。油断せず、慢心せずに絶対に勝ちに行きます」

 

「はい!」

 

ソーナの号令に皆返事し、配置に付く為皆動き始めた。

 

「匙」

 

「なんでしょうか?」

 

「貴方を信じています」

 

一誠に関して全権を匙に委任すると先ほど伝え、一番危険な場所に着く

匙に対してソーナが今言える出来る限りの激励を言葉にした。

 

すると、匙は口元に笑みを浮かべ

 

「はい。必ずや貴方に勝利を捧げます」

 

そうして試合開始のアナウンスが店内に流れた。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は3時間の短期決戦(ブリッツ)形式を

 採用しております。それでは、ゲームスタートです』

 

3時間が短いと思う者もいれば、長いと思う者もいる。

ソーナは後者であり、時間が設定されてなくても短期決戦で決着付くように策を考えていた。

簡単に勝てる相手ではないため、多少の犠牲は厭わない覚悟を決めていた。

 

 

 

一方リアス側はソーナの予測通りに一誠を1階中央から、祐斗、ゼノヴィアを立体駐車場から進軍させた。

人数が足りない為、朱乃を本陣から少し進軍させ一誠の少し後方で待機させ、

2階の方はギャスパーがこうもりに変身して監視と偵察。

ルール上こちらに不利な要素があり、眷属の数が最低限な為、これ以上の駒を減らさない為に

回復ユニットのアーシアはすぐに救援に向かえる様に朱乃の少し後ろで待機していた。

 

「皆、厳しい戦いになると思うけど、もう私たちは負けられないわ!」

 

インカムを通して進軍を開始している眷属達に激励を送るリアス。

自分自身のため、家のため、そして眷属達の為にこれ以上負けを増やすわけにはいかなかった。

 

「お願い皆、私に勝利を!」

 

『了解!』

 

彼女の決意を聞き取った一誠たちは短く答え、与えられた任務を遂行し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

匙は一人1階のフロアーを警戒しながら走って進軍していた。

ソーナの予想通りなら正面から一誠が来る。

 

『禁手化』により圧倒的な攻撃力を有する彼を足止めするには、

1階中央付近まで進軍しておかなければならない。

 

本陣付近での待ち伏せではこちら側の策が色々ばれてしまう恐れがある。

だからこそ匙は魔力で脚力を強化して一気に距離を詰めていく。

 

そして中央の吹き抜け部分まで接敵せずに付いた。

 

「よし、これで──」

 

足を止めて一息つき、言葉を零した匙は、突如発生した異常なプレッシャーを

正面から感じ取り口を紡いだ。

 

ピリピリと肌を焼くような威圧感が徐々に徐々にと急接近してくる。

 

「──来た」

 

一度大きく深呼吸し、迫り来る敵を見据える──すると、暗がりの向こうから

金属が擦れるような音が徐々に聞こえ──赤い真紅の鎧を纏った一誠が猛スピードで

こちらへ吶喊してきた。

 

その瞬間、匙の体が一瞬震える。

兵藤一誠と戦う事から来る高揚感による震えであった。

 

掌に汗が滲み、心臓が激しく脈を打ち、鼓動が木霊し、

全身の血液が沸騰するように──体中が熱くなってきている。

 

(ああ、漸くだ)

 

自分自身がどこまで彼に追いついたかが試せる。

だから奇襲などせず、正面から一誠と打ち合う事を決め──叫んだ。

 

「お前の相手は俺だ!」

 

匙の声に反応し、一誠の方も漸く気づくがスピードを緩める事無く

突っ込んでくる。

 

匙の方も自身の魔力を全身強化に全てつぎ込み、最初から全力で

一誠を倒す事だけに集中し、同じく床を蹴り一誠のほうへ向かって走り出した。

 

お互い止まる事無く、邪魔になる存在を瞳に認識させ──

 

「おおおぉぉ!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

鋭い雄叫びを上げながら、お互い全力で拳を放ち──衝突した。

 

 

 

 

 

 

1階へ通じるエスカレーターの傍らで待機していたアーシアは

突然聞こえてきた轟音に体を震わせた。

 

「っ!」

 

その様子を見ていた朱乃は苦笑しながら、一誠が相手の誰かと交戦状態に

入ったと判断した。

 

「一誠君が戦闘開始したとなると、状況は一気に動きそうですわね」

 

朱乃とアーシアは少し移動し現在2階で待機中で、先行偵察にでたギャスパーからの

情報待ちだった。

 

「それにしてもギャスパー君から通信が入ってきませんわ」

 

一階からは立て続けにモノが壊れるような音が断続的に発生している。

『禁手化』している一誠相手に五分の戦いを繰り広げているのが想像できる。

 

だからこそ、早めに情報が欲しいと思った朱乃は一度リアスに通信を送ろうとした瞬間

 

『リアス・グレモリー様の「僧侶(ビショップ)」1名、リタイア』

 

と、云う放送が流れてきた。

 

「ギャスパー君?!」

 

その放送にアーシアはハッとし朱乃に視線を投げかけ

 

「この先に誰かいてると──云う事ですわね」

 

そう頷いた朱乃は耳に手を当てながら、リアスに指示を求めた。

するとすぐさま返事が返ってきた。

 

『アーシアはそこで待機、探知系の魔法を作動させながら朱乃は少し進軍して

 敵の動きを確認して。もし遭遇したら、アーシアの安全を優先しつつ

 撃破できるならして頂戴』

 

リアスの作戦はアーシアの生存を最優先事項に切り替えた。

ギャスパーには悪いが、彼が落とされてもあまり自陣に被害は出ない。

だが、人数差で押し切られる可能性もあるので、これ以上の被害は抑えなければならない。

だからこそ今回アーシアを前線に出し、流石に一人で出すわけにもいかないので、

朱乃と云う万能タイプの護衛を付けたのだ。

 

朱乃は指示通りに探知系の魔法を作動させ、周囲に敵が居ないのを確認し、

アーシアを今の場所に待機させ自身は少しだけ前進した。

 

すると、朱乃の探知魔法に前方に引っかかる者が居た。

まだ距離はあるが、反応は一人である。

 

朱乃は立ち止まると向こうはまだ気づいていないのか、徐々に徐々にと

距離をつめてくる。

 

自身の射程距離に入った先制攻撃を仕掛けるために、手に魔力を貯め

直ぐに攻撃できるように準備し、アーシアに物陰に隠れているように

指示を出そうと振り向いた瞬間──

 

 

 

 

 

 

朱乃の視界に()から剣が生えている(・・・・・)アーシアの姿が映し出された。

 

 

 

 

 

「──えっ…アーシアちゃん?」

 

何が起こってたのか、全然把握できてない朱乃はポツリと呟いた。

現に魔法で探知しているのは自身の前方から来る人物のみの筈なのに。

 

なぜ、アーシアの体から剣が生えているのか──それはつまり

 

「あ…朱…乃…さん…っ」

 

痛みで涙が流れ、口元からも血を流しならが必死に朱乃に向けて手を伸ばすアーシアは

全身が光りだすと消えていき、アーシアの真後ろから亜麻色の髪の少女が

剣を構えたまま立っていた。

 

「──貴方は確か…草下さん…!」

 

名前を呼ばれた憐耶は少し微笑むと──周囲に溶け込むように姿を消した。

 

『リアス・グレモリー様の「僧侶(ビショップ)」1名、リタイヤです』

 

アナウンスのお陰で我に返った朱乃は今度は自身が狙われるかもしれないと思い、

もう一度探知魔法を発動させるが──反応は依然一人のまま。

 

姿が見えないまま接近されればアーシアと同じ目に合うと悟った朱乃は

瞬時に翼を展開すると空中に浮き

 

「雷光よ!」

 

雷と光の性質を持つ魔法を地面へ向けて打ち込んだ。

本当は忌み嫌う"光"を使うつもりは無かったのだが、そう入ってられない状態と

なってしまっていた。

 

姿の無い相手を捉えようとする場合、広範囲攻撃が一番有効であると知っていたのだ。

昔、リアスと戦略を考えている時に一番厄介な相手を想定して

対抗策を構築していた事が役に立ったのだ。

 

ただ、その場合相手が引かない場合に限るが。

 

雷光が着弾した瞬間、自身を中心に数メートルの範囲で雷光が地面を駆け巡り

辺り一帯の小物や無機物などを破壊した。

 

そして──朱乃より2メートルも無い距離で──憐耶は全身から煙を上げならが

膝を付いていたが、その瞳からは闘志が失われ居ない、

朱乃はこの機を逃しては成らないと悟り言葉を発さずそのまま2撃目の雷光を憐耶に直撃させた。

 

雷光の直撃を受けた憐耶は光となってフィールドから姿が消え

倒した確証となるアナウンスが流れた。

 

『ソーナ・シトリー様の「僧侶(ビショップ)」1名、リタイアです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中継モニターで見ていたひしぎは、憐耶が少し欲をかき過ぎたと判断していた。

今回初めて実戦で使い、1回目からうまく行き過ぎて大成功した為、

この次もいけると判断したのだが、相手が悪かったのだ。

 

「憐耶には後で反省文提出してもらいましょうか」

 

ぽつりと呟いたひしぎの言葉に隣に座っていたロスヴァイセは苦笑いをしていた。

 

「ひしぎ先生、憐耶のあの能力は一体?」

 

今回不参加で別のソファーに座っている由良が質問をしてきた。

彼女自身、憐耶の先ほどの業を初めて知った為である。

 

「あの能力は『元素同化(メタ・モルフォーゼ)』と言い、

 カメレオンと同じように周りの風景と同化させ、姿を消す事ができるのです」

 

「気配も?」

 

「ええ勿論、己の気配と装備も一緒にです」

 

ひしぎは、この場にいてる3人に簡潔に能力の詳細を教える事にした。

 

「この世界は魔力が漂っています。無論あのフィールド然りです。

 だから憐耶は自身の魔力を緻密に操作して、極薄の膜を生成し、

 それで全身に覆いつくし、大気中に漂っている魔力と同化させる事で姿を消す事が

 出来るようになったのです」

 

 

憐耶は自身に特徴がない事をずっと悩んでいた。

そしてレーティングゲームが始まるに辺り、ひしぎに相談して、

皆の足を引っ張りたくないと懇願し何か教えて欲しいと願い

ひしぎは彼女の長所である魔力コントロールを使える業が何か無いか探していた所、

昔壬生の中堅戦士が使っていた能力を思い出し、魔力で代用できるかどうか分からなかったが

それを教え、特訓した後見事に成功したのだ。

 

魔力が漂っている場所でのみ使える能力である。

 

今回初披露ととなったが、ソーナは事前にその能力を知っており、

「僧侶」ではあるが、彼女に特別任務を与え無事成功したのだ。

 

「1対1の状況でその能力を過信しすぎると、簡単に対策が取られてしまうのが

 欠点ですが、今回彼女の行動は大金星のようですね」

 

そう、貴重な回復役であるアーシアを倒せたのはかなりでかい。

元より回復前提で、駒の数がギリギリのリアス側はこれからはかなり慎重に

駒を進めなければならなくなる。

 

相手の行動パターンがかなり絞られたのだ。

 

ただ、憐耶が一度退避し違う相手を狙い倒す事ができていれば良かったのだが、

リタイアしてしまっては仕方が無い。

 

「さて、ここから相手側がどう動くか見物ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

本陣で待機していたリアスは突然のアーシアリタイア報告に、

思考が混乱していた。

 

最重要ユニットである彼女の早期離脱は考えていた作戦の中に入っていなかった。

なぜなら、自分の眷属の中でも最優の駒を護衛として共に行動させていたのだから。

 

万が一、そのパーティが敵と遭遇して、数が2~3人であれば朱乃一人でアーシアを

守りながらでも相手できると踏んだからである。

 

だが、実際の展開は大きく裏切られた。

まさか相手側に探知魔法に引っかからない能力を持つ者が居るなど想定していなかった。

 

これは朱乃のミスでは無く、自分自身の作戦ミスである。

幸い、その能力を持つ敵は朱乃が撃破した為、少し安心できたが、

想像以上に雲行きが怪しくなっている。

 

(これ以上駒の数は減らせない)

 

駐車場を経由している祐斗達からはまだ連絡がないため、朱乃と一誠の配置は

そのままにするしかない。

 

現在一誠は一階で匙と戦闘中、朱乃は引き続き接近してくる敵を待ち構えている。

 

(こうなったら朱乃と合流し進軍するしかないわね)

 

ほとんど情報がない中の王自身の進軍は、あまり褒められた行動ではないが、

制限時間も決められている為、決断するしかなかった。

 

それに、自身と朱乃のタッグであれば強行突破出来ると考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

ソーナはとある場所でリアスやその眷属達の行動を全て見ていた。

 

「戦場の情報がない進軍は浅はかな行動よリアス。もう少し眷属達を

 信じ、連絡を待ってからでも遅くはなかったのに」

 

リタイアした駒の数はリアス側のほうが多いが、戦力は落ちていない。

相手側にとって回復ユニットであるアーシアを失ったのは痛手ではあるが、

まだフェニックスの涙がある。

 

リアスはアーシアの回復能力を重要視するあまりに、保守的な作戦を

立てている節がある。

確かに希少な回復ユニットを有効活用しない手はないが、

そのユニットを中心に作戦を立てるのは、今後考え直したほうが良いと

ソーナは内心リアスに忠告した。

 

実際アーシアが撃破された事により、冷静さを保っているように見えるが、

視野が狭くなっている。

 

なぜなら、ソーナ自身の位置すら確認できていない状態なのだ。

 

(相手本陣が何処にあるかさえ分からない状態で、強行突破してきても

 無意味よ)

 

本陣は自由に動かせるルールなので、ソーナが開始直後すぐさま変更し、

違う場所で眷属達からの情報と、とある道具で視覚的にも情報収集をしている。

 

そしてリアルタイムで眷属達に動きを指示していたのである。

 

(ただ、憐耶に関しては私の判断ミスもあります)

 

アーシアを撃破出来たら、憐耶から朱乃も狙ってみたい言われソーナは

もしかしたら倒せるかもしれないと思い、許可を出したのだが、

まさかあんな単調に狙いに行くとは想定外だった。

 

(ですが、今回戦いで能力の良し悪しがはっきりしました)

 

長所、短所が実際の行動で分かったのでこれも大きな収穫である。

これからの行動をどう取るか考えつつも、一つの大きなモニターに視線を移した。

 

そこには壮絶な殴り合いを繰り広げている匙と一誠の姿があった。

 

 




こんにちは、夜来華です。

人間の頭部って結構頑丈なんですね・・・
仕事場で作業工程中のロッカー(仮)5本がドミノ倒しで倒れてきて、
頭部を思い切り打ち付けて下敷きとなりました。
打ちつけた瞬間、記憶飛ぶって本当なんですね。

と、こんな感じでまた怪我してました。
怪我するたびに体が鍛えられていく感じがします。

感想、一言頂ければ嬉しいです。

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