ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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あの人の居ない間でも、私達は全力でがんばっています

あの人が帰ってきた時に、少しでも長く戦えるように

でも、あの人がいないと、少し寂しく感じます


第21話 鬼神

寿里庵に刀の製作を依頼してから、約束の5日が経った。

ひしぎは、その間壬生の街をゆっくりと観光し、久々の故郷を堪能していたのは

余談である。

 

ちなみに、辰伶、遊庵、時人、四方堂は未だ任務中でありその5日間の間一度も

この地へ帰ってきていなかった。

 

彼らの、一人を除いて3人の成長を見たかったひしぎは非常に残念に思っていが、

京四郎から写真と呼ぶ映像を紙に写す機械で取った紙を見せてもらった。

残念な事に辰伶、遊庵、四方堂はまったく容姿が変わっていなかった。

 

ただ、時人はあの頃よりかなり大人びていて、かなり成長していた。

 

(髪型以外は緋時に瓜二つですね)

 

時人の母親であり、村正の妹である緋時の容姿に髪型以外がかなり似ていた。

成長すると彼女に似ると思っていたが、予想以上に似ていたので、驚いたひしぎ。

 

(本当に父親に似なくて良かったですね)

 

親友が聞けば激怒しそうな感想だったが、幼い頃の時人性格は吹雪譲りで強気であり、

今はどっちの性格に似ているかは、会って見ないと分からなかった。

 

そう思いながら彼らが帰還するのを待っていたが、帰ってこなかった。

 

そしてひしぎと京四郎は約束の日の昼過ぎに、寿里庵の屋敷を訪れ、

屋敷の扉をノックした、数分後屋敷の内部から何かを引きずる様な音が聞こえ、

ゆっくりと扉が開かれた。

 

「あぁ・・・お前らか」

 

目の下に真っ黒な隈を作った寿里庵が体を引きずるようにして、現れた。

見るからに疲労困憊で、今にも眠りに落ちそうな雰囲気だった。

 

「だ、大丈夫ですか?! 寿里庵さん」

 

京四郎が心配そうに聞くと

 

「ああ、久々に本気で創ったから、あの日から不眠不休なんだよ」

 

寿里庵は疲れているせいか、笑おうとしているが、顔が引きつっているだけである。

そして、寿里庵は二人に少しまってろ、と言い放ち屋敷の奥へ戻って行き、

数秒後、手に刀を携えた戻ってきた。

 

「ほら、これがお前さんが注文した──新しい刀だ」

 

大きさは『白夜』を少し小さくした感じであり、生前使っていた2本目よりは

少し大きいが誤差の範囲内だった。

 

「名は──『夜天光(やてんこう)』」

 

「『夜天光』ですか」

 

寿里庵から手渡された、『夜天光』を受け取り噛み締めるように呟く。

 

「ああ、元の素材となった刀の名と、お前さんの『光』を合わせた」

 

ひしぎは壬生一族の中でも光を司る業者である。

だから、寿里庵は新しい名を『夜天』と光を合わせたて名づけたのだ。

 

「後、能力に関しては今後のお楽しみだ。単体での攻撃力は『白夜』よりは劣るが、

 能力の特性を生かしきれば最強のコンビネーションが取れるはずだ。

 まぁ、お前の事だ具現化したらすぐにその特性を掴める筈」

 

「なるほど」

 

ひしぎはゆっくりと真っ黒な鞘から刀身を除かせると、暖かい輝きが溢れ出し、

彼を包み込んだ。

 

「ええ、また貴方と共に戦える事をうれしく思います」

 

まだ、はっきりとした言葉は聞こえないが、暖かな光がそう訴えていた。

そして、腰にぶら下げている『白夜』がその光に負けじと輝きだす。

 

「うぉ、まぶし!」

 

いきなり生み出された光に目を窄める寿里庵、その光景を一歩後ろから

微笑みながらやり取りを静観している京四郎。

 

「そうですね『白夜』。今度こそ最後まで共に居ましょう」

 

『白夜』の訴えも頷き、優しく柄をなぞるひしぎ。

その光景を優しく見守る二人。

 

「さて、俺は徹夜続きで眠気が結構限界近くまで来てるから、休む。

 お前さん達二人はどうする?」

 

寿里庵は依頼された刀をひしぎに渡した達成感を感じつつ、

目を擦りながら聞くと。

 

「そうですね」

 

ひしぎが何か思いついたのか、京四郎へ向き直り、

 

「この子の感覚をすぐに掴みたいので──私と手合わせしてもらえますか?」

 

「なっ──」

 

その瞬間、寿里庵は言葉を詰まらせ、彼も京四郎に向き直ると、

京四郎は一瞬考えた後、微笑んだまま。

 

「ええ、僕でよければ喜んで」

 

手合わせの承諾をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寿里庵は流石にこの手合わせは見ておかないと損すると思い、

無理やり眠気を我慢しつつ、二人の後を付いて行った。

 

ただ、京四郎が手合わせをするに辺り、出した条件があった。

それは制限時間である。

 

この後、会議がある為長くは出来ないので、10分間のみの手合わせとなった。

 

数分後、3人が訪れたのは第4の五曜の門内部にある大闘技場だった。

既に前回と同様、紅虎と黒髪の青年が手合わせをしている最中であり、

後方で待機していた金髪の女性に京四郎が歩み寄り、事情を話すと快く承諾し、

戦っている二人に声をかけ、戦闘を中止させた。

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「いえ、私どもは使わせて頂いている身なのでお構いなく」

 

京四郎が突然の申し出に謝罪すると、金髪の女性は微笑みながら答えていた。

 

「では、ひしぎさん。早速ですが始めましょうか」

 

「わかりました」

 

京四郎はひしぎを促すと、大闘技場の中心部まで歩き、彼と対峙した。

 

そして京四郎は数メートル離れた位置にいてるひしぎを見据えながら、

刀を鞘から抜き、ゆっくりと構えた。

 

なぜ、京四郎がひしぎの提案を受けたのには理由があった。

一つは彼が敵に回った場合、どれぐらいの力を有しているかを図る為である。

ひしぎは歴代太四老の中でも最強と謳われ、死の病に冒されながらも、

その称号を維持し続けていた。

 

体の半分が崩れ落ちた状態でさえ、覚醒前の狂や、当時の遊庵と互角以上の戦いを

繰り広げ、"紅き眼"を発動した状態では圧倒するほどの戦闘力を持っていた。

 

だからこそ、万全に近い状態での彼の力を図る良い機会だと思ったのだ。

 

二つ目は個人的な理由であり、最強の処刑人と謳われた彼に対して

自分は最強の"鬼神"(闇の暗殺者)と呼ばれていたので、生前、

一度で良いから手合わせしたかったと云う思いもあったのだ。

 

狂や紅の王、「紅十字」の四守護士(レッド・クロスナイツ)を抜くと壬生一族の

中でも一番強い男が、ひしぎである。

 

だからこそ、彼と手合わせする事で色々な事が把握できるのだ。

 

 

 

 

ひしぎ自身も京四郎と同じような考えを持っていた。

 

確かに、『夜天光』の感覚を掴む理由もあったのだが、

生前、京四郎の強さは先代紅の王から聞いており、強さを求めた一人の男として、

最強の名を持つ彼と一度は戦ってみたいとおもっていたのだが、

死の病により全力が出せない体になってしまい、その思いは死んでいたのだが、

再会と同時に蘇り、好機と思ったのだ。

 

そして、万が一彼らがソーナ達の敵となった場合の最大戦力の力を

把握する為でも合った。

 

お互い思惑があるが、本心から戦ってみたいと思っていたからこそ実現したのだ。

 

 

そして、ひしぎから動いた。

 

一瞬で京四郎の目の前に姿を現すと、鞘から抜いていた『夜天光』を斜めから振り下ろす。

京四郎は構えていた腕を対なす形にし、刃を受け止める。

 

鉄と鉄がぶつかり合う音が周囲に響く。

 

すると、京四郎は受け止めていた刀をそっと流すように後ろに下げ、

ひしぎの刀をいなした。

 

対するひしぎは構うことなくそのまま刃を方向転換させ、下から切り上げるも、

紙一重で回避される。

 

すれ違いざまに京四郎の刀が体を掠める。

 

その後もフェイントを混ぜながら左右や上下から斬撃を無数に

繰り出すが全て受け流されてしまう。

 

だが、剣戟を繰り返すたびにひしぎの攻撃速度が格段に速くなっていき、

観戦している4人にはぎりぎりまだ見える速度だが、天井知らずなのか、

速度は停滞せず、上がり続けている。

だが、そんな速さでも京四郎は寸分違わず相殺していく。

 

ひしぎが刀を振るうたびに、余波で地面に亀裂が走り、剣圧で地面が陥没する。

徐々に徐々にと戦闘区域の中心の地盤が低くなってきている。

 

それでも、お構い無しに暴風のような攻撃を繰り出すひしぎ。

たった一撃受けただけでも致命傷になるぐらいの攻撃力と速さを兼ねそろえているが、

京四郎の表情は崩れない。

 

観戦者の4人はその攻撃のすさまじさに、言葉を失いつつも、

決して目を逸らすことができなかった。

 

圧倒的な速さ、攻撃力の余波で周囲を破壊していくひしぎ。

ただただ、それを難なく相殺、受け流す京四郎。

 

現代においてもこれほどの手合わせを見るのは奇跡に近い出来事だった。

戦う者として、是非とも一部始終を脳裏に焼き付けたいぐらいの戦いである。

 

その後何合か打ち合った後、漸くひしぎは距離をとった。

 

京四郎は追撃せず、そのまま刀を構えていた。

 

すると、ひしぎは確認するように呟いた。

 

「それが噂に聞いた「陰」の太刀ですか」

 

「…」

 

ひしぎの問いかけに、答えない京四郎だが表情を見るからに

正解だと表している。

 

ほとんどの戦いは力量(プラスエネルギー)を競う戦いであり、

業の違いはあれど、力で攻撃して、それを上回る力量の攻撃、防御。

 

いわば「陽」対「陽」(プラスのエネルギー同士)の闘いなのだが、

京四郎のその太刀筋は、「(プラスエネルギー)」の業を瞬時に見切り、

相反する「(マイナスエネルギー)」で受け流し、相殺する。

 

「陰」の太刀とは如何なる業をも無効化してしまう技術である。

 

その攻撃の性質上「陽」と「陰」は対極であり、力押しのタイプには

もっとも苦手とする性質なのだ。

 

ソーナ達悪魔から言わせれば、究極特化したテクニックタイプである。

 

万全とは言いがたいが、ある程度回復しているひしぎの攻撃を

一寸違わず瞬時で見切り、受け流しをする京四郎。

 

「まさか、これほど厄介だとは思いませんでした」

 

話には聞いていたが、実際体験するまでその厄介さを侮っていた。

確かに当時の『鬼眼の狂』を圧倒できた訳だと納得した。

 

すると、眼前の京四郎が刀を逆さにし、突くような構えを取った。

「何か来る」と悟ったひしぎは咄嗟に『夜天光』を鞘に戻し、『白夜』の刀面を顔の前に構えた。

 

その瞬間突風が体を通り抜けたと思いきや、鉄と鉄のぶつかる音が響き、

無数の痛みが全身を襲い、体の至る所に裂傷が走った。

 

ひしぎは追撃を回避する為に大きく後ろへ飛び退き、『白夜』を戻し、

再び『夜天光』を構えそのまま縦に振り、光の斬撃を京四郎目掛けて放った。

 

突きの構えを解いた京四郎は刀身を迫り来る斬撃にそっと当て、軽く振り、

斬撃を消失させた。

 

だが、ひしぎはそのまま無数の光の斬撃を京四郎目掛けて追撃で追加する。

 

光速で迫ってくる斬撃を京四郎は慌てることなく、全て相殺、受け流す。

すると、最後の斬撃を消した瞬間、ひしぎが眼前に詰めて来ており、

刀を上から斜め下に降った後だったため、切り替えしが間に合わないと悟った京四郎は

横から迫り来る刀を、上半身を思い切り後ろへ反らし、回避行動を取る。

 

ひしぎは避けられたのは想定の範囲内であり、すぐさま刀を切り返そうとした瞬間、

下から迫り来る影が視界に入り、咄嗟に身を引いた。

 

するとひしぎの顎を京四郎の右足の膝がかすり、追撃に左足の蹴りが下から襲い掛かってきた。

京四郎は刀を離し、体を思い切り反らしブリッジ状態のまま蹴りを放ったのだ。

 

流石に食らうわけにもいかず、片足で一歩下がるひしぎ──しかし、京四郎の攻撃は

まだ止まっていなかった。

 

そのまま身を翻した京四郎は刀を拾うことなく、一歩前進し

体制を整え右蹴りを放つ。

 

「──っ!」

 

ひしぎは前進しかけていた足を無理やり後ろへ蹴り、腹部を掠めただけで済んだのだが、

目の前の京四郎は蹴りの勢いのまま回転し、左足での回し蹴りを放ってきた。

 

これは避けきれないと悟ったひしぎは、左腕で腹部を防御するが、

衝撃は殺せず、思い切り吹き飛ばされた。

 

轟音と共に思い切り外壁に激突するひしぎ。

 

更に追撃に入ろうと刀を拾った京四郎は前後左右から迫り来る

斬撃の存在を感じ取った。

 

「っ! 何時の間に!?」

 

光速で迫りくる光の斬撃を体を回転させながら全て相殺すると、

 

「これならどうです?」

 

不意に頭上から声が聞こえ、見上げてみるとひしぎが既に上空で光の斬撃を

京四郎目掛けて放っていた。

 

「ならば」

 

京四郎は同じように斬撃を上空へ放ち、全て相殺した。

そのままひしぎは京四郎から距離を取って着地した。

 

「まさか、貴方まで体術を使うとは、それもかなりの熟練度ですね」

 

先ほどの京四郎の体術は内心かなり驚いていたのだ。

 

「ええ、遊庵と手合わせをしていたらどうしても、体術が必要になる時が多いのと、

 極力武器が無くても敵を倒せるようにしたかったので」

 

ひしぎに褒められて頭を掻きながら恥ずかしそうに説明する京四郎。

 

だが、これでひしぎは確信した。

 

京四郎は武器が無くても十分に強いと。

そして、自身の体を見直し、京四郎の方も見る。

 

至る所服が破け、裂傷も十以上ある。

これは京四郎による神速の突きと相殺された時、カウンターで斬撃を

食らっていたのだ。

 

そして、今の蹴りにより左腕が痺れており、もうこの手合わせの間は

左腕が使えない事が分かった。

 

対する京四郎は無傷である。

服は所々汚れているが、目だった破れなどは無い。

 

これらを見る限り、自分と京四郎にかなりの力の差が感じられると、

悟ったひしぎ。

 

やはり『鬼神(きしん)』の称号を持つ者だと再確認した。

 

だが、ひしぎは内心高揚感に満ちていた。

 

久々に出せる全力を全て出してもよい相手に出会えたのだ。

今の今まで眠っていた血と昂揚感が一気に目を覚まし、全身を駆け巡る。

 

そして、ゆっくりと眼を閉じ──意識を切り替え

 

「いきます」

 

右足に力を籠め、思い切り地面を蹴った。

その瞬間地面は陥没し、小規模の穴を創りひしぎは姿を消した。

 

それを見ていた寿里庵を除く3人の体に引き裂かれるような、

全身総毛立つ感覚、今まで感じたことの無い"絶対的な恐怖"が襲い、

体中が最大警報で、危険と発した。

 

「──これは…!!」

 

観戦していた紅虎が襲い掛かる殺気に苦しげに言葉を漏らす。

 

「──っ!?」

 

黒髪の青年は、その重圧に呼吸すら間々ままらない状態で、必死に意識を繋ぎとめようとしてた。

 

「──あいつ、生前の力が戻ってきてるじゃねぇか…!」

 

寿里庵でさえも久々に全身で肌を焼くような感覚を体験していた。

 

ひしぎは音も無く一瞬で京四郎の背後へ回ると、全力で下から上へ斜めに切り上げた。

京四郎は振り向きざまに、刀で受け止めるが

 

「はぁっ!」

 

受け流し、相殺させまいとぶつかる直前に力を籠める。

だが、京四郎もそれは想定内だったが──

 

「──っ!」

 

勢いが良く相殺しきれずに、思い切り上空へ飛ばされてしまう。

だが、ひしぎの攻撃はまだ止まっていなかった。

 

京四郎は自分より高い位置にひしぎの気配を感じ、無理やり刀を上に向け防御姿勢を取る。

一瞬で京四郎の頭上へ現れたひしぎは構うことなく全力で刀を振り下ろし、

まるで、バットをフルスイングしたような勢いで刀を叩きつけ、

 

「──!」

 

京四郎は流星のように猛スピードで落下し、轟音と共に地面へ激突し地面が割れた。

ひしぎはそのまま『夜天光』を振り下ろし、光の斬撃を追撃として京四郎目掛けて

先ほどの倍以上の数を放った。

 

爆撃音が周囲に何度も何度も木霊し、かなり離れて観戦していた4人の元にも

衝撃波や埃が襲い目を開けていられる状態では無かった。

 

二十を数えた辺りで光の斬撃の雨は止み、ひしぎはそっと地面へ降り立ち、

爆撃の中心部に視線を向けるひしぎの瞳は"紅き眼"となっていた。

 

"紅き眼"となる事で先ほどの数倍以上の戦闘力が上がる。

そして、今のこの体の状態でも使える事を確認できた。

 

すると、中心の煙が渦を巻いて上空へと上っていく。

 

数秒後陥没したクレーターの中心部から神風吹き、甲羅のような風景が浮かび上がり、

京四郎を護るべく全方位に張り巡らされ、煙が消えたと同時にソレも消えた。

 

「──無明神風流奥義『玄武』ですか」

 

「ええ、流石にその状態のひしぎさんの光速刀を受けると、無事じゃ済まないので」

 

『玄武』とは無明神風流四大奥義の一つであり、

天地を覆う大気の壁と縦横無尽な神風が織り成す、どんな業でも無に帰(相殺)してしまう

『完全絶対防御拘束業』なのである。

 

ひしぎはこの業を見るのは2度目であった。

 

「…」

 

先ほどと違って京四郎の服はボロボロであり、至る所が土で汚れ、

左腕からは出血が確認されていた。

 

しかし、京四郎は笑みを崩していなかった。

 

そして彼自身まだ"紅き眼"ではなかったのだ。

 

確かに"紅き眼"になれば、現状の京四郎相手ならば五分以上戦いが出来るが、

彼がソレを発動させれば──勝機は無いと確信した。

 

そう、"今"は無いだけである。

 

それを認知しながらもひしぎは更に攻撃を繰り出そうとすると、

外部からけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 

「──っと、時間だ」

 

観戦夢中になっていた寿里庵の手に握られていたストップウォッチが時間に

なった事を知らせていたのだ。

 

「終了ですか」

 

「ええ、すみません」

 

申し訳なさそうに謝る京四郎、するとひしぎは首を横に振り

 

「いえ、有意義な時間をありがとございました」

 

そう言って京四郎に一礼した。

 

「ですが、また機会があれば再戦をお願いします」

 

「分かりました」

 

京四郎はそう言うと懐から携帯電話を取り出し、土の業者の者へ連絡を入れ、

荒れ果てた大地となった大闘技場の修復要請をだしていた。

 

「すみません、時間も迫られているので、僕はこれで」

 

「ええ」

 

会議の時間が迫っていたので、京四郎は後のことを寿里庵と紅虎に託し、

急いで自室へ向けて走っていった。

 

「ここは俺たちが後始末をしておくから、お前も休んで来な。

 その腕、もう使えないんだろ?」

 

寿里庵はひしぎが左腕が使えない事を悟っていたので、自分に任せて休むように

言い聞かせた。

 

そう言われたひしぎは、その厚意に甘える事にして

 

「──わかりました。では、お願いします」

 

4人に頭を下げたひしぎは部屋へむけ足を進めた。

 

京四郎とひしぎが居なくなり、土の業者が来るまで暇となった4人。

すると、寿里庵が3人に問いかけた。

 

「お前達、今の戦いを見てどうだった? ──あれが、あの凄まじい戦いが、

 紅虎、お前さんの初代が体験していた戦いだ」

 

京四郎やひしぎ、一部の者と比べると、初代紅虎は数段ランクが落ちてしまうが十分に

神話に残せるほどの強さを持っていた。

 

「ああ、見てただけでも体中の血ィが燃え滾る思いや…! 流石ワイのご先祖様や。

 はよう強よなって、手合わせ願いたいわ」

 

普段は線目な紅虎だが、今は開眼しており、壮絶な笑みを浮かべていた。

 

「なるほどな──曹操、お前はどうだ?」

 

紅虎の隣で、重圧を受けていた際に出た冷や汗を拭いている黒髪の青年──曹操にも

寿里庵は話を振った。

 

「──俺は、自分自身を正直、人間の中でも強い分類に入ると認識していたけど、

 この戦いや、壬生の人々と触れ合って分かった。 自分はまだまだ弱い分類だと。

 特に今の戦い、序盤は見えていたが途中から一切ひしぎさんの攻撃、

 京四郎さんの防御が見えなかったんだ」

 

最近まで自分の力は強いほうだと認知していた彼にとっては、ここで過ごす日々や

手合わせ、そして今の戦いを見てその認識を改める切っ掛けとなっていたのだ。

 

「正直、俺が見ていた世界は狭かったのかもしれない──今は無理かもしれないけど、

 俺もいつかあの人たちを同じような土俵に上りたい」

 

曹操の心の中では童心に戻ったような感覚が湧き上がっていた。

種族関係なく、強さを求める一人の人間としての本能である。

 

「そしてここに来てよく分かったことがある。 聖槍が無くとも俺は強くなっていることに」

 

とある理由で彼は持っていた『神滅具』の一つである『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』は

手元に無く、今は『北落師門』を紅虎から貸し出されている。

 

能力に頼る戦闘スタイルだったが、武器が変わることによりスタイルを一変させた結果。

聖槍を持っていた頃より強くなっていると確信している曹操。

 

「そうか、それはお前さんにとっては良い収穫だったな」

 

「ええ、そうです」

 

寿里庵の言葉に笑みを向ける曹操。

その顔は晴れやかだった。

 

自分と寿里庵のやり取りを見て微笑む金髪の女性に曹操は気がついた。

 

「ジャンヌもそう思うだろ?」

 

「うん、曹君は前より強くなってるし、明るくなったよ」

 

金髪の女性──ジャンヌはそう評価し、曹操の頭を撫でた。

くすぐったそうに目を細めながら曹操は軽くジャンヌの手を押しのけた。

 

「俺はもう子供じゃないんだから」

 

「そうだね」

 

手を払いのけられても柔らかい笑みを崩さないジャンヌ。

彼女の中では何時までたっても手のかかる弟のような感じなのだ。

 

そんな二人の雰囲気を微笑ましく見守る紅虎。

寿里庵も笑みを二人に向けながら、別のことを考えていた。

 

(京四郎はともかく、ひしぎの奴もある意味全力じゃなかったな)

 

京四郎は、誰が見ても手合わせの中での全力だった。

ひしぎの方は寿里庵は本気かと思っていたのだが、

死ぬ前ぐらいの強さであったことを思いだした。

 

言い方を変えれば、左半身が崩れていた状態での強さだったのだ。

見ていた限り、治っているがまだその崩れた左半身を庇う癖が抜けておらず、

時折、攻撃パターンに硬直が数箇所あった。

 

だからこそ

 

(あいつが左半身の崩れる前の強さを取り戻したら…)

 

更に強さが上がると確信し

 

(まいったな・・・遊庵。お前、また強さを超されるかもしれねぇぞ)

 

そう思うと、苦笑するしかなかった寿里庵だった。

 

そして、漸く土の業者が現れ、二人は修復作業をお願いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ひしぎは翌日まで休養し、駒王町へと帰還することに決め、

帰還する前に、京四郎の元へ挨拶に行き、その後寿里庵と共に伊庵の墓参りをした。

 

そして京四郎と寿里庵の二人に見送られながら、故郷である壬生の地を後にした。

 

この6日間は非常に有意義な出来事ばかりであり、とても懐かしさを堪能できる

日々だった。

 

第一の目的である武器の入手

 

壬生の現戦力の把握

 

京四郎と自分の現在の全力での力の差

 

壬生一族の構成する組織の目的や行動原理、どういったたち位置か

 

自分達の『信じた』者達が残した歴史や道など、色々収穫が出来た。

 

そして、若き壬生の戦士たちが今も尚、人々を守護している事に

嬉しくもあり、誇りを感じていた。

 

本当にこの地へ戻ってきて正解だと思える6日間だったのだ。

 

ここにずっと居てもいいですよ? と、京四郎から言われていたのだが、

ひしぎの中では故郷であるが、今の自分の居場所はソコに無いと言い、

ソーナ達の元へ戻ると伝えたのだ。

 

また、暇があれば来ます。 と、言い二人の前から姿を消したのだ。

 

 

 

 

 

 

数時間後、駒王町へ戻ってきたひしぎは、駅へ向かった。

あらかじめソーナに帰る連絡を送っていたので、すでに地下にある駅のホームには

シトリー家専用の列車が止まっていた。

 

前回乗車した時と同様の車掌だった為、ソーナから渡された身分証明書を渡し、

すぐさま乗車した。

 

すると程なくして駅構内で汽笛が鳴り響き、列車がゆっくりと動き出し、

シトリー領へ向けて動き出した。

 

ひしぎはその間に今後の事を考えていた。

この旅により日本の勢力図、現在の壬生一族の戦力をある程度は把握できた。

 

京四郎の話を聞いている限り、遊庵、時人、辰伶、四方堂は生きており、

ひしぎが生存していた、時以上の強さになっていると聞かされており、

恐らく、生前の自分たち太四老クラスかそれ以上だと認識している。

そして、それらの頂点に立つのが京四郎である。

 

あの頃の先代紅の王、真の壬生一族の体に戻った狂を恐らく凌駕していると、

手合わせで感じ取り明らかに過剰戦力である為、敵対はしないようにソーナに

再度忠告しておこうと、ひしぎは考えていた。

 

万が一敵対した場合の対策方法を考えてみるが、今の所思いつかず、

ただ、一つ思ったのは自分も病が治ったことにより、更なる強さを

身に付けることが出来ると確信していた。

 

もう、地位に縛られるような暮らしではない。

好きに生きて云いのだ──ならば、彼らを鍛えるついでに自分自身も

一から鍛えなおそうと考えていた。

 

彼も一人の男であり、負けず嫌いな為、今一度最強への道を歩む事にしたのだ。

そしてゆくゆくは、京四郎と本気の戦いが出来るように──。

 

生きる目的がもう一つ追加され、その表情は生き生きとしていた。

 

そしてもう一つ、ひしぎは刀が出来る間の5日間の間、

観光が終わった後、京四郎に頼み、壬生一族に存在する流派にまつわる資料を

見せてもらっていたのだ。

 

生前、他の流派には興味を示さなかったひしぎだが、ソーナ達の為にほぼ全ての業、

特殊能力を暗記し、誰にどう教えるか、脳内で構築していく。

 

もしそれらを習得できた場合、彼女たちはより一層強くなり、

更なる高みへと上る事が出来るのだ。

 

そして、それらを相手に訓練する事により自分自身の動きを見直し、

磨きをかけることが出来るので一石二鳥である。

 

そう思いながら、ひしぎは目を瞑り、列車の揺れに身を任せながら

思考を深めていく。

 

 

 

数時間後、シトリー領前の駅につくと、ひしぎは車掌にお礼を言って下車する。

そして、前回と同様の道を進み、外へ出る。

 

「ひしぎさん!」

 

外に出た瞬間、駅前にある大きな広場からソーナがひしぎの名を呼び

こちらに向かって走ってきていた。

 

「ソーナ・・・?」

 

呼ばれた方向へ顔を向けると、なにやら深刻そうな表情を浮かべているソーナが

目に留まり、何と無くだがひしぎは悪い予感を感じた。

 

数秒後、ひしぎの傍らに来たソーナは全速力で走ってきたのか、肩で息をして、

胸に手をあて呼吸を整えていた。

 

彼女が言葉を発するまで待つひしぎ、すると、漸く整えたのかソーナは

顔を上げ口を開けた。

 

「おかえりなさい、ひしぎさん」

 

「ええ、ただいまです。ソーナ」

 

久々に言葉を交わす二人、ソーナは先ほど取っていた表情を崩し、柔らかく微笑む。

ひしぎもそれを返すと、ソーナは嬉しそうに喜び、そしてまた表情を戻した。

 

「ひしぎさんに一つご報告があるんです」

 

「…」

 

「小猫さんが一昨日の夜から行方不明なのです」

 

「…なんですって?」

 

その後二人は一旦シトリー家の屋敷に戻るべく、徒歩で岐路についた。

 

 

 




こんにちは、お久しぶりです夜来華です。

大変お待たせして申し訳ないです。
仕事の方で大きな案件が入ってきたので、大忙しでまったく余裕がありませんでした。
後、花粉でもう全てにおいてやる気が・・・

昨日と今日漸く休みが取れたので書き上げました。
しばらく更新は不定期ですが、がんばります。

後、始まったHDDの3期が丁度書いてるところなので、以外にモチベがUP、
背景が読み取り易くて書きやすかったです。

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