ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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もう一度、私にもやり直す事ができるでしょうか?

ただ一人の人間として生き抜く事など、思いも付かなかった。

どうすればいいでしょうか──吹雪




第1話 生きる目的

 

駒王学園、保健室の一角に関係者以外立ち入り禁止と書かれたプレートがあり、

その中には、未だに立つ事の出来ないひしぎが療養していた。

 

女医が学園長に事情を話し、直接訪れた保健室で血まみれのソーナを見たときは

一悶着あったが、ソーナの話を聞き大事にならずに済んだ。

 

ここがどこで自分がなぜ生きているのかが分からないと語ったひしぎに両者は

警戒をして学園長と女医は学園関係者ではない彼をすぐに追い出したかったが、

 

「行く場所も、帰る場所も無く、自身の体すら満足に動かせない彼を

 放り出すなんて出来ません。」

 

「しかし、ソーナ君。彼には悪いが、素性が分からなく、本当に体が動かないかは

 本人にしか分からない。 この決定は妥当だと思うし──何より彼女(・・)には

 まだこの話は通してないのだろう?」

 

「ええ、ですがリアスには直接私が出向き、説得するのでご心配には及びません。」

 

「もし、仮に彼の療養を許可をしよう。だが、ここは学校なんだよ?

 何かあった場合はでは遅い。私は学校の運営を任されている以上、余計な不安要素は

 すぐにでも排除したいのだよ」

 

学園長の言い分は正し過ぎるほどに正論である。

 

だけど、ソーナはひしぎの腕を触った瞬間に分かったのだ、本当に彼には満足に

動かせるほどの筋力が無いことを、そしてこのまま追放が決定すれば彼は何も

言わずにすぐに出て行こうとすることを──。

 

あんな行動を見せられた後では目を離してはいけないと、瞬時に悟ったからこそ

ソーナは必死に説得をしているのだ。

 

「もし何かあれば責任は私が取ります! ソーナ・シトリーの名において誓います」

 

「本気なのかね・・・見ず知らずの彼をそこまで庇う価値はあるのか?」

 

「ええ」

 

その言葉に、学園長とそばで成り行きを見守っていた女医は顔を見合わせると。

 

「分かった。身体が回復するまでの間のこの個室を貸そう。ただし監視は付ける」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「授業中は彼女に見てもらって、学業が終わり次第、ソーナ君。君がするんだ」

 

「はい」

 

「ならば、もう言うことはない」

 

そう言って学園長は身を翻し、女医を連れて去っていった。

彼らが去ったのを見送り、姿が見えなくなった所でソーナは自身の体に

掛けていた力を抜いた。

 

「ふぅ・・・」

 

正直、もっと強攻策に出られると踏んでいたが意外にすんなりと許可を

貰えた事に少なからず内心驚いていた。

 

(私のこの行動は本当に正しいのか)

 

生徒会長として学校の規律を一番に守らないといけない立場であるのに、

不安要素、不確定要素である彼をこの学校に匿う事を選択してしまった。

 

(分からない──でも、あのまま放って置く事は出来なかった)

 

口では「大丈夫、もう死のうとはしませんよ」と言っていたが、実際に

あの行動を見た後だと信じる事が出来なかった。

 

(とりあえず、今は自分自身の選択を信じるしかない──か)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これから私は何を目的に生きていけばいいのでしょうか──)

 

ソーナと学園長達が保健室の外で話し合いをしている時、ひしぎはぼんやりと夕焼けに

染まる景色を見ながら考えていた。

 

(時代も変わり、知り合いもいるか分からないこの世界で──私は何のために

 蘇ったのか)

 

江戸時代での復活ならば、まだ自分が何をすべきか分かるが、

何の知識も無いこの時代で何の為に蘇らされたのかが、まったく分からなかった。

 

ひしぎは思案しているとふと、今まで生きた過去を思い出す。

 

(昔の私には目標、目的があり、それを目指すために生きていた)

 

生まれは名門であり、子供の頃に吹雪、村正に誘われ、紅の王を守護を務める

九曜と分類される中の一つ、五曜星(紅の王を守護する親衛隊)を目指し、

3人で修行に明け暮れていた。

 

そして3人は最年少で五曜星になったが、そこで満足はせずさらにその上である

太四老(紅の王を守護する九曜の中の頂に位置する守護者)へ為るべく

更に修行、勉強し目標に向かって生きていた。

 

晴れて太四老になってからは、よりよい政治を勤めるべく励み、

そして一族の模範になるように勤めていた。

 

(あの頃は生きるという目標がすぐに見つかっていた)

 

そして、何世紀過ぎてもその思いは変らずだったが──死の病に冒されたときに変り、

生きる目的さえ見失った自分に"親友"が目的を与えてくれたから生きていた。

 

(だけど、今生きる目的だった"親友"を失った私は──どうやって生きていくのか。

 今思えば生きる目的を誰かの為、誰かの願いに縋って生きていましたね)

 

ひしぎの視線の先には、運動をしている若者達が映っていた。

 

(若い頃であれば、もっと簡単に目標を見つけれたかもしれません)

 

自身の年齢を考えると、苦笑するしかなかった。

 

(もう歳ですかね・・・・)

 

外見上2~30歳と見られてもそれの数百倍は生きている。

 

(いつから数えるのを止めたのかすら思い出せない──まぁ、先に現状把握する事が

 大事ですね)

 

ひしぎはそっと目を閉じると、意識を集中させ自己判断を開始した。

 

──肉体・・・体の再構築により筋力弱体化中。

       数日後には何かに掴まっていれば立ち歩き出来るほどに回復可。

 

──思考能力・・・正常。

 

──属性能力・・・いつでも能力は使えるが、まともに体が動かない限り使いどころが無い。

 

──身体・・・異常は無し、心臓も正常に機能している。

 

(そして、意識が落ち着いてからずっとあった違和感の正体は"コレ"ですか──)

 

右手で左半身の包帯を剥がしてみると無数に移植されていたはずの──悪魔の眼(メデゥーサ・アイ)の姿が

無くなっており、移植前に戻っていた。

 

元々悪魔の眼は「死の病」を発病し崩れ落ちそうになる左半身を眼の持つ力を利用して

支えるために移植していたのだが、それが一つ残らず消えていた。

 

(だけど、"灰化"、"浄化"の能力は感じられる)

 

眼自体は消滅していたが、それのもつ力は左半身に溶け込んでいた様子。

 

(そして、やはり『白夜(はくや)』の存在は感知出来ませんね)

 

『白夜』とはひしぎの愛刀の名前。彼の持つ"力"に普通の武器では耐えられずに

壊れてしまう為、壬生一番の刀匠に造ってもらった大刀である。

 

故にずっと共に居た『白夜』はある意味彼の半身でもあり

心に穴が開いた様な感じを憶えるひしぎであった。

 

(出来ることなら、最後まで共に居たかったのですが──居ないのでは仕方がありませんね)

 

他に違和感、変ったことが無いか意識を張り巡らせていたら、扉が開き

ソーナが帰ってきた。

 

そのままひしぎのベッドに近寄り、置いてあるイスに腰をかけ、

目を瞑っているひしぎに声を掛けた。

 

「起きていますか?」

 

「ええ」

 

ソーナの問いにひしぎは目を明け彼女の顔を見た。

先ほどまで泣いていた所為か、まだ目が赤みがかっていたが、ソーナは気づくことなく

言葉を進めた。

 

「貴方の処遇、これからの事が決まったのですが──その前に名前を教えていただけますか?」

 

そう、この二人はお互い名前のすらしらなかったのだ──。

 

「私の名前は支取蒼那です──この駒王学園の生徒会長を勤めさせていただいている者です」

 

(──学園・・・なるほどここは子供達の学び舎だったのですね)

 

先ほど外で若者以外居なかった光景を思い出し納得した。

 

「私は姓は無いのですが、名はひしぎといいます──失礼ですが貴方のその名前(・・)

 本当の名前なのですか?」

 

「──っ」

 

ひしぎの問い掛けに息を飲むソーナ

 

(まさか──私の正体を知っている?)

 

内心ソーナがそう考え出したがひしぎは言葉を紡いだ。

 

「いえ、先ほど貴方の声が扉の向こうで違う名前で名乗っていたので──

 少し気になっただけです」

 

体に意識を集中させていた時に、扉の向こう側の会話が全て聞き取れていたのであり

その時にソーナは本名を使っていた故にいまの疑問が生まれたのだ。

 

「・・・・・」

 

沈黙するソーナ

 

「まぁ、何かしら理由があるならお聞きしません」

 

少しだけ気になっただけで、別に無理やり問いただす事では無いと判断したひしぎ。

 

「──いえ、構いません。 私の本当の名前はソーナ・シトリーです。

 訳あって先ほどの名前を名乗っています」

 

ソーナにしてみても別段そんなに秘密にする事では無いので、名乗りなおし、

そしてそのまま続ける。

 

「貴方の処遇なのですが、体が動けるようになり、元の居た場所に帰れるまでは

 この学園の一室を貸すことが出来ます、ただし何か問題を起こしたら直ぐに

 出て行って貰う事になりますが──宜しいですか?」

 

ひしぎ自身、先ほどの会話で内容を把握していたが実際直接言われると、

こんな自分自身でも思うほど不審な点がいっぱいの男の療養を許すなど

正気?と思われるほどの行動であり、反面それの許可を勝ち取った

彼女の優しさを体感する。

 

今の体の状態ではとてもありがたい処遇でもあるが、

ひしぎには今の処遇にひとつ問題点があった──それは

 

「──ええ、とてもありがたいのですが、唯一つ問題点が有りまして、

 帰る場所が無いのです」

 

そう、江戸時代から来た彼にとって未知の時代であり、

 

「それは、つまり家が無くなった、と言う意味ですか?」

 

「いえ、信じてもらえるかは分かりませんが──私この時代の住人では無いので

 帰る場所がすら"分からない"と云った状態なんです」

 

「──」

 

ひしぎの言葉にソーナは言葉を失った。

 

「更にいえば、今は何の時代かすら分からないのです、それに──」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

ソーナはひしぎの言葉を一旦切ると、頭の中で情報を整理した。

 

(この時代の住人ではない? 何時代かすら分からない? でも、表情や雰囲気を

 見る限り嘘を言ってる感じは無い──って事は、転移者?)

 

彼を前にして思考にふけるソーナ、その姿を微笑ましく観察するひしぎは

ある若い頃の"彼"を思い出していた

 

とても生真面目で、分からないことが出来ると会話中でも行き成り

自分の世界に入る──吹雪の事を。

 

(性別は違いますが──性格はとても似てそうですね)

 

「シトリーさん、質問をしてもいいですか?」

 

「──っ! ええ、すみません」

 

とりあえず、彼女に声を掛け意識を呼び戻した。

 

「私の元の居た時代は江戸なのですが、今は何時代なのでしょうか?」

 

ひしぎの質問にソーナは簡単に答えた。

 

「江戸時代が終了後、明治、大正、昭和を経て今は平成です」

 

「──なるほど、数世紀経っていたのですね。 通りで見たことの無い物

 ばかりだったのか」

 

ソーナの答えに一人で納得するひしぎ。

数世紀も離れていれば確かに文明などが発達し、昔の面影が無くなっている。

 

「つまり、貴方は江戸時代にいたのですか?」

 

「ええ、死んだ後。無くなった筈の意識が行き成り覚醒して、目を開けてみたら

 ここに居たので状況がわからないのです」

 

(今の話が本当であれば、確かに彼の帰る場所は無い。魔力を持っているならば

 転移に失敗して飛ばされてきた可能性もあるけど──彼には魔力が無い)

 

ひしぎがまだ意識の無い状態の時に、女医ともう一度綿密に調べた結果

魔力は感じられなかったのだ。

 

故に彼が悪魔、天使、堕天使、他の種族ではなく、ただの人間である事が高い。

だから、非常に質問しづらい事を聞かなければいけなくなった。

 

「あの、大変失礼な質問なんのですが、貴方が死んだ原因って分かりますか?」

 

そう、ひしぎは自身を"死んだ"と言ったのだ。

 

ソーナの質問にひしぎは

 

「その時代に流行っていた「死の病」に掛かっていまして、体に無茶を敷いた結果

 病が悪化してしまったのです。」

 

そう、鬼眼の狂との戦いで「死の病」が悪化し、病で死ぬ寸前に狂を巻き込み自爆したが

両者生きており、心臓にリミットを迎えていた吹雪に心臓を移植後、死亡したのだが、

少し内容を誤魔化しながら答えたひしぎ。

 

「なるほど」

 

そうとは知らず納得し、また思考に耽るソーナ。

 

(病が原因なら事故の説は無い──でも、あの魔力は一体誰の者なの?)

 

考えれば考えるほど、謎が深まるばかりであるが、現状調べる手立てが

無くなっていた。

 

ソーナ以外が感知していれば、その魔力があったかどうかの信憑性は上がったのだが、

彼女以外は知らず、そしてその魔力の痕跡、持ち主が分からない以上、

ひしぎの状況を他者へどうやって転移してきたのかが説明できない。

 

ひとまず学園長などに一時的に許可を貰う事が出来たが、この土地の主に説明するには

材料不足であり、使い魔であるベイにも再度探索して貰っているが

何かしらの報告は無い。

 

そのソーナの姿をみたひしぎは申し訳なく思った。

 

「本当にご迷惑かけてすみません。動けるなら直ぐに出て行くのですが──

 現状立つことすら出来ないもので」

 

「いえ、ご迷惑だなんて思っていません。それに困っている人を見捨てるなんて出来ません

 そういう人たちを助けるために生徒会会長になったのですから」

 

「──私は生徒ではないんですがね」

 

ソーナの言葉に苦笑するひしぎ。

 

「そんなの些細な事なので貴方は安心して体を回復させてください。」

 

(こんな大事になりかねない事を些細と云うとは──将来が大物になるかもしれませんね)

 

彼女の真っ直ぐな心意気に感心し、ひしぎは体から力を抜いた。

もし、本当に彼女が少しでも迷い、恐れなどを見せたら這いずってでも

出て行くつもりだったのだ。

 

彼女の厚意を無下にする事は出来なくなり、甘えることにした。

 

「なら、すみませんがよろしくお願いします」

 

「はい」

 

彼の回答に微笑むソーナ。

そうと決まれば、ひしぎは──

 

「少しお願い事があるのですが──いいですか?」

 

「ええ、なんでしょうか?」

 

「現代知識を身に付けたいので本をお借りしたいのですが、大丈夫ですか?」

 

まず生きていく為には現代知識が必要になるので、体が回復するまでの間に

勉強をしようと考えたのだ。

 

歴史はどういう形を経て今の現代になったのか──壬生一族はどうなったのか

一つ興味を持てば視野は広がっていき、元々学者でもあったひしぎには

どういう過程で現状の世界になったのかが気になってきたのだ。

 

(ここが学び舎なので本は大量にあるはず。少しは暇つぶしになるかも知れません)

 

「それぐらいなら、お安い御用です。後で持ってきますね」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

死の病について、江戸時代で何をしていたのか、年齢、その時代の人は

みんな同じ服装だったのかとかと、他愛も無い質疑応答をしていると、

ふとソーナは違和感を感じた。

 

(あれ──?何かが違う)

 

今までの質問を思い出し、そして視線を動かすと

 

(ああ、なるほど)

 

「あの、先ほど体に巻いていたはずの包帯なんですが、どこか怪我をされていたんですか?」

 

そう、違和感の正体は包帯だった。

先ほど手当てなどをして怪我の部分以外に巻かれていた包帯が解かれていたのだ。

胸にはまだ白い包帯はあるが、隠れていた左半身と顔半分が普通に晒されていた。

 

「ええ、先ほど話した『死の病』によって左半身崩れ落ちてしまい、見るに耐えない

 醜い姿になっていたので隠していたんですよ」

 

実際移植した悪魔の眼の封印だったのだが嘘は言ってない。

 

「そんなに酷いものだったんですか?」

 

「ええ、見た人が次には絶対に"二度も見ることすら思わない(・・・・・・・・・・・・・)"ほどのものです」

 

悪魔の眼に見たものは例外なく"灰化"してしまう為二度も見れない、故にそこは

うまく言葉を濁した。

 

実際あの醜い姿は自分自身でも嫌悪するぐらいの醜悪さなのだから。

 

「そうだったんですか・・・嫌な事思い出させてすみません」

 

ひしぎの言葉を聞いて気を落とすソーナ。

 

「いえ、私自身がもう何とも思って無いので気にしないでください。」

 

「はい・・・」

 

「貴方の説明や話し方はとても上手なのでとても理解がしやすい。

 ですので、もっと現代の事を教えてください」

 

そのほめ言葉にソーナは内心くすぐったい気持ちになり、気を取り直して

先ほどの話の続きを再開した。

 

「わかりました。では──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傾いていた夕焼けはどんどん落ちていき、辺りは暗くなり始め、校舎に残っていた生徒、

グラウンドに残っていた生徒が帰宅し始める時間帯になる。

 

保健室の女医は学園長に付いて行ったまま帰ってこずにいた為、

二人の会話は、ソーナが主体とし、ひしぎは頷き、偶に一言二言質問すると沈黙し静かに

彼女の話を聞いていた。

 

本来ひしぎは余り喋らない、仲間内からは根暗とまで囁かれるほど無口であった。

故に昔でも、吹雪が主体となって会話していたのである。

 

その為聞き上手と取得し、黙って聞いてても相手に不愉快感を与えないのだ。

時間がどれほど経ったのかすら分からなくなるほど続いてるのである。

 

そして、終わりは唐突に訪れた──来客者である。

 

控えめなノックの後

 

「失礼します。会長こんな所に居られたのですね──そろそろ明後日の件での

 会議を始めたいのですが」

 

呼ばれたソーナは振り返ると、そこには長身で真っ黒ロングヘアーの眼鏡を

かけた生徒が居た。スレンダー体型のソーナより、肉付きの良い女子生徒である。

 

「椿姫──」

 

ソーナの姿を確認し、その後視線を動かしひしぎを見た。

 

「見ない顔ですね。会長、その方は一体──?」

 

「ええ、こちらはひしぎさん。先ほど、校内で倒れていたのでここで手当てをして話を

 聞いていたのです。」

 

先ほど起こった事を簡単に簡潔に説明するソーナ。

 

「ひしぎさん、こちらは生徒会副会長の真羅椿姫です。」

 

「真羅椿姫です。よろしくお願いします」

 

ソーナに紹介され、頭を下げる椿姫。

 

「どうも、ひしぎと云います。以後お見知りおきを」

 

ひしぎも会釈を返す。

 

「ああ、もうそんな時間だったのですね──話に夢中になってしまいました。」

 

「こちらこそ有意義な話ありがとうございます」

 

ソーナに向き直り感謝を表したひしぎ。

彼女のお陰で大分現代知識を吸収でき、これならば数日と掛からずほとんど

把握できるようになる。

 

「こちらこそ、そう言って頂けて話したかいがありました。」

 

「では会長──」

 

「ええ、先に生徒会室に戻っていてください──直ぐに向かいます」

 

「分かりました。では失礼します」

 

そう言って椿姫はもう一度二人に会釈をすると部屋を後にした。

 

「会議が終わり次第、食事をお持ちしますのでゆっくり休んでいてください」

 

「はい、そうさせて頂きます」

 

「では、後ほど」

 

ソーナが出て行った後、ひしぎはベッドに体を預け体を休め始めた。

じわじわと筋力が回復していくのが分かる。

 

(もうそろそろ立てるはず)

 

動かしたい衝動に駆られるが、余り無理をして筋力に負担をかけて治りを

遅くさせる訳にもいかないので、横になったまま先ほどの二人の事を思い出す。

 

(あの二人は人間ではない──何かか)

 

最初はこの世界に馴染めてない為の違和感だと思っていたのだが、

思考などが元に戻ってくると、ソーナの気配が人間でないモノのままであったのだ。

 

(恐らくあの二つある名前が関係しているのか)

 

ソーナ・シトリーと支取蒼那の二つの名前をもつ彼女。

 

(真羅椿姫、彼女もまたシトリーさんと同じ、人ではない何かの気配)

 

副会長である彼女もまた違った気配だったのだ。

なんとなくだが昔同じような気配を持った誰かとがいた事を思い出す。

 

(異形の者、造られし戦闘人形、希少種──いや、もっと禍々しさがあった)

 

深く深く記憶を検索するひしぎ──そして

 

(第六天魔王──織田上総介信長(おだかずさのすけのぶなが)ですか)

 

残忍で戦や血を好み、圧倒的な力で日本を阿鼻叫喚させた阿修羅──そして第六天魔王と名乗り、

日本の歴史上、最強最悪の軍神。

 

(彼ほどの禍々しさは感じなかったのですが──ああ、なるほど魔の気配か)

 

漸く答えを見つけた。

元々信長とは知り合いであり、何より四度目の蘇生を施したのは他ならぬ

ひしぎ自身が指揮を執っていたのだから──彼の持つ気配は鮮明に覚えていた。

人にし近づくだけで恐怖に陥れんとする不の化身。

 

(人間として生活するためにうまく気配を誤魔化していますが──元々その気配すら

 知っている私には意味が無かったようですね。)

 

 

元々魔の気配を持つ者は壬生一族に普通に居りしたので、ひしぎには警戒にすら

値しないほどなのである。

 

(まぁ、彼女達が正体が何であれ、助けてもらったのは事実。正体を教えてくれるまで

 待つとしましょうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室に戻ったソーナ自身の机の上に椿姫が用意した資料に目を通す。

 

「ふむ──この中継地点の映像配信先はこれで全部ですか?」

 

「はい、グレモリー家、フェニックス家両家の関係者先はそれで全部です」

 

資料の中には自身の家、シトリー家の名前もある。

そして両家は悪魔の家系でも有名ゆえに配信先が多いのだ。

 

「グレイフィア様にも同様の資料を先ほど送り終えたので、設置は向こうで

 して頂けるみたいです」

 

グレイフィア・ルキフグス──彼女は現四大魔王の一人サーゼクス・シルファーの

女王にして妻。

 

そして、今回執り行われるリアス・グレモリーとライザー・フェニックスの

レーティングゲームの審判を勤める女性だ。

 

元々今回のゲームはリアスとライザーの婚約騒動で、どちらの言い分も正しいが為、

ゲームで決着を付ける事となり、非公式で急遽開催されることになったのだ。

 

ライザーとは婚約者同士であったリアスだが、グレモリー家のリアスではなく、

自分自身を一人の女性として好きになってくれる人、自分で本当に好きになった人と

結婚する事を望み、婚約破棄を申し出ていた。

 

一方ライザーは悪魔の将来、両者の家の将来の為と云いつつ政略結婚に託けてリアスを自身の

ハーレムに加えることを望み、お互いの意見が合わず衝突した際に、こうなる事を予見していた

サーゼクスの提案を承った彼女が話を切り出し、両者これに合意したのだ。

 

ライザーは既に社会人で何度もレーティングゲームを実践しており、与えられた駒全ての

眷属が存在する、若手屈指の実力派であり、

 

対するリアスはゲーム未経験者で、眷属も揃っていない状態だが個々では彼らに負けては

居ない為、ゲーム許可が出たのだ。

 

だが、いくら潜在能力、個々の能力が高くても実践を経験しているしてい無いで、

差が出るために、十日間の修行、調整猶予を貰えたリアスと眷族は明後日が試合なので

一日休暇を入れると、今日まで山篭りで修行に明け暮れている。

 

この十日間でどれだけ差が縮まったのかがリアス側の勝利の鍵となる。

対するライザー側は普段どおりの生活を送り、経験者としての余裕を見せている部分もあるが

フェニックスの特性──即ち不死の能力に対しての驕りもある。

 

体中バラバラにされても、体の一部が消失しても、何度でも蘇ることが出来、

このゲームではかなりの優位性を保つことの出来るフェニックス家特有の能力なのだ。

 

故にの勝率は社交試合以外では100%の勝率を誇っており、誰から見ても

リアス側の勝率が薄いことは明白だった。

 

そして、親友であるリアスの初試合なのでソーナは自ら中継役を志願し、

まじかで彼女たちを見守ることにした──いや、見守ること(・・・・・)しか出来なかったのだ

 

(何も出来なかった私を許してください──)

 

本当は婚約を嫌がるリアスの味方に付いて上げたかったのだが、冥界の常識に囚われ

行動ができず、こういう形でしか応援できなかったのだ。

 

「会長、リアスさん達は勝てるのでしょうか?」

 

ふと、資料の不備が無いかを確認していた椿姫が呟いた。

 

「リアス達に勝機があるとすれば──彼、兵藤君にの存在と、アーシアさんの運用の

 仕方で変ってくるわ」

 

この十日間の修行で、彼こと、赤龍帝である兵藤一誠が"化ける"事が出来たのならば

勝率は上がり、アーシアの運用次第で戦力差で負けている部分を補いことは出来るが

 

「リアスは攻撃重視型だから──きっとアーシアさんにうまく指示を出せるか」

 

恐らく彼女はアーシアを自陣にセオリー通り配置するだろう。

 

「アーシアさんの配置しだい、と言う事ですか?」

 

「ええ、普通回復役は後衛配置が基本なのだけれど、今回は不死性のあるフェニックス。

 通常での戦法は最初は通じるかと思うけど、自陣の駒を落とされるとこちらが圧倒的に

 不利になる──フェニックスの攻略法は圧倒的な攻撃の質量で消滅させるか、

 圧倒的な力、暴力で精神をすり減らし、心を折るの二つ」

 

言葉に合わせて、空いていた紙に布陣を簡単に書く。

 

「数では負け、個々の能力の高いリアス達はまず、自陣付近に罠を仕掛け、

 使い魔での監視し、リアス以外は2~3人づつ行動すべき。」

 

「会長ならどういう編成を?」

 

紙を覗く込みながら椿姫は言葉を待つ。

 

「そうですね、木場君と搭城さんを1チームとして、このマップのポイントである

 体育館を前進させ、囮役をやってもらい、相手の戦力を誘導させる」

 

ボールペンを走らせながら紙に駒を書いていく。

 

「うまく誘導すれば吉、相手もポイントは分かっているので必ず戦力は送ってくるので

 二人で倒せればもっと良いのですが、多勢ならば防御姿勢を取り、朱乃の広範囲魔法を

 待ち、これで数名は一気に撃退できるでしょう。」

 

「なるほど──姫島さんの魔法ならば一網打尽できますね。でも彼女は一人ですか?」

 

「いえ、朱乃には2チーム目を率いて後衛から警戒しながら進み、敵が居たら各個撃破。

 彼女の護衛に兵藤君とそしてアーシアさん」

 

朱乃を表した駒の回りに二人の名前を追加する。

 

「アーシアさんもですか?」

 

「ええ、後衛で誰かが落とされるのを待つのであれば、多少リスクはありますが

 彼女を前線に出し、少しでも戦力維持が出来たら勝機はあります。」

 

前線に出てもらっていれば、戦闘で傷ついた彼らを癒し戦線へと復帰させ、戦力維持が可能

故に、一誠と朱乃を彼女の護衛として配置。

 

ライザーの女王も手強いと情報を仕入れているが、朱乃相手すれば他者を狙う余裕が出ない。

そして、体育館側はエースである彼ならば危険を察知して、うまく立ち回る事が出来るので

チーム1も相手の女王クラスがこない限り優位に立てる。

 

「ただ、戦いが始まると思い描いている通りに戦場は動かないので、そこは各自の

 判断で動いてもらうしかないわ」

 

「リアスさんは一人で大丈夫なのでしょうか?」

 

ふと、王に護衛が無いことを疑問に思った椿姫

 

「ええ、フェニックス側で彼女を倒せるのは居ないわ──唯一1対1で倒せるとしたら

 ライザーぐらいかしら。他の眷属では罠を無傷で突破できるならまだしも、

 消耗している時点で勝機は無いはず」

 

リアス自身も朱乃以上に潜在能力、戦闘能力を持っているのだ。

 

「確かに後衛にアーシアさんを配置していれば最強の護衛だけども、その反面、

 彼女が動かない限りアーシアさんの折角の能力が宝の持ち腐れになってしまう」

 

故にソーナはアーシアを前線へと配置したほうがいいと考えていた。

 

「ハイリスクだけど、彼女の能力で戦線を維持すれば──全員で王と戦う事が

 出来るようになるのですね」

 

「ええ、あくまでも旨くいけばの話ですが。あとはアーシアさんの気力、

 魔力がどこまで持つか──それにフェニックス家にはもう一つ有名になった"アレ"があります」

 

「フェニックスの涙ですね」

 

「ええ、使えば使用者の如何なる傷をも癒す薬──使用個数は決まっていますが

 これも厄介です」

 

どの陣営にも回復役が存在しないため、フェニックスの涙は貴重でいざというときの

切り札であり、ゲーム上使用個数制限されているが厄介極まりない代物であるのだ。

 

「恐らく、相手の女王が持ってると仮定して、朱乃にも回復できるアーシアさんを同行させれば

 女王対決で使われても勝機は高いままです。」

 

「なるほど──」

 

「そして、残った眷族でライザーを倒せるならいいんですが、

 失策に等しい作戦になりますが、リアスにも前線に出てもらい全員で相手をするぐらい

 でないと、彼は倒すことは出来ないでしょう」

 

本当はリアスにもこの戦法を検討してもらおうと思っていたが、

初のゲームであるので余計な入れ知恵は入れたくなかったのだ。

 

(お願いリアス──頑張って──!)

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

物語的な位置はちょうど原作のフェニックス戦前です。

主人公側が参加しないため、こういう書き方になりました。
久々の1万文字・・・・結構きつい、ブランクがぁ・・・・

後、前書きの部分に本文いれても大丈夫なんですかね?
もし、知っている方がいれば教えていただけると嬉しいです。

感想、ご質問などありましたら、一言でも頂けると嬉しいです。

では、また次回にお会いしましょう。

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