ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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人間界に行き、あの人に一言お礼が言いたかった。

だけど、休養していた間の仕事が溜まり

冥界で束縛された毎日を送っています



第18話 冥界

 

冥界にあるレヴィアタン領にあるひときはでかいお城の一室で、セラフォルーは

溜まりに溜まった書類に目を通しながらサインしていた。

 

あの事件以降、彼女は冥界の病院にて1週間大事を取って入院していた。

折れた腕や、切り傷などは桃とアーシア、ガブリエルの尽力により病院に着く前に

ほぼ外傷は治されており、内面のみまだ治療が必要だったのだ。

 

医師からはフェニックスの涙の使用を促されたが、高価なものであり

まだまだ量産体制が整っていない為彼女は丁重に断り、緊急時のみ使用すると伝えた。

 

それにこの病院があるのは自身の領地であり、その建物の周囲には

眷属達も待機しているので比較的安全だった理由もある。

 

彼女はまだ安静にしないといけなかったが、座りながらでも仕事は出来ると

自身のマネージャーに言い、病院内で仕事をしようとしたが退院するまで、

仕事を休んでほしいと懇願され、渋々了承し一週間休養していた。

 

そして、業務に復帰したセラフォルーの前には大量の仕事が待っていた。

和平により、外交担当であるセラフォルーの仕事の量が他の魔王より一番増え、

朝から晩まで書類の整理やサインを行わなければ一向に減る気配が無かった。

 

そして彼女は自身のマネージャーの思惑に気が付いた

 

「きっと、あの子はこうなる事を見越して私に休養を勧めたんだわ・・・!」

 

と、セラフォルーは後に語った。

 

彼女は病院で休養している最中、退院したら人間界へ赴き自身を助けてくれた

ひしぎに直接お礼を言いたかった。

 

書面か、ソーナから経由してお礼を言って貰っても良かったのだが、やはり

自身の口から直接言いたかったのだ。

 

人として、一人の個人としてであり、文章などでは本心は伝えられないからである。

だが、この仕事の状況では抜け出す事は不可能に近かった。

 

何か手は無いか模索していたら、そろそろ夏休みなのでソーナが冥界へ里帰りしてくる事を

思い出し、魔王からの命令ではなく、一個人としてのお願いでひしぎに

冥界へ来てほしいとソーナから伝えて貰い、了承を貰え、

漸く自身の願いが叶いそうになっていた。

 

彼が冥界へ付いた時少しでも時間が取れるように彼女は奮起していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方サーゼクスは独自のルートでひしぎがソーナと共に冥界入りする事を知り、

どうコンタクトを取るかを親友であり、魔王であるアジュカ・ベルゼブブに意見を求めていた。

 

何しろ、ソーナには友好的ではあるがそれ以外にはまったく興味を示さない相手であり、

議長が何らかの情報を知っており、魔王である自分たちにさえ手出しを禁ずるほどである。

この様な異例の相手に流石のサーゼクスも初めてであり、下手に接触して

今の均衡を崩したくないので、よりうまく事を運べるようにアジュカに協力を求めたのだ。

 

アジュカは訪ねてきたサーゼクスを自身の部屋に案内し、

備え付けのソファーに誘導した。

 

彼の部屋は本や見た事もない機器などで埋め尽くされており、奥には広いスペースがあり

そこの壁一面には襲撃事件の映像が流れていた。

 

あの事件の最中、サーゼクスが自身の使い魔を使いひしぎの戦闘の一部始終を録画し

アジュカに送っていたのだ。

 

そして彼はその映像を何度も何度も繰り返し見て、ひしぎの動きを解析していた

最中だった。

 

部屋がノックされ、アジュカが返事をすると給仕係が入ってきて、

アジュカとサーゼクスの飲み物を用意し、一礼をしてから部屋を退出していった。

 

サーゼクスは仕事の合間を抜けて来ていたため、率直に彼に質問した。

 

「君から見て、彼の強さはどう判断する?」

 

まず、彼にも事の重要さを判断してもらうために見てもらっていたのだ。

そう聞かれたアジュカは右手で顎を擦りながら少し思案し

 

「そうだね、報告書とこの映像を見る限りでは僕たちで言うと魔王クラス、

 古の神々ぐらいといったところかな?」

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』との戦闘記録だけで言えば、魔王とその眷属達だけでも

彼を抑える事が出来ると判断したアジュカ。

 

相手は人間であり、魔法に対してはからっきしだと言う報告もある。

完全にその報告を信用したわけではないが、現状人間としか分からない為、

その基準で考えるべきだと思っていたのだ。

 

「君か、僕でも十分に対抗できると思う──だけど、それは直接彼を見ていない者の

 意見だ。だから君の感想を聞かしてくれ」

 

映像で見た限りでの判断ではそうだったが、本当にそうならば態々サーゼクスが自身の所に

来て相談を持ちかけてくるはずが無いとアジュカは思っていた。

 

質問を返されたザーゼクスは出された飲み物を一口飲み、そしてカップを置き

一呼吸置いて言葉を紡ぎだした。

 

「実際にこの目で見た彼の強さは──異常だ。彼は戦いながら微かに口元が吊り上り

 楽しんでいる雰囲気があった。そして、映像で見る限り太刀筋がどのように振るわれているかが

 確認できるが、戦闘の終盤あたりは"まったく見えなかった"んだ」

 

サーゼクスが当初ひしぎの太刀筋が見えていたのだが、終盤になるにつれて

徐々に鋭さ、キレが増し刀が光りだした時からもう見えなくなっていたのだ。

 

「僕は思うに──彼はまだ最高の状態じゃない」

 

そう、ソーナの報告にあった彼はまだ療養中の身であり、病人なのだ。

 

「だからこそ、分からないんだ。彼の限界が何処にあるかが」

 

戦闘の雰囲気を直に感じたサーゼクスだからこそ抱いた感想だった。

彼らは知らないが、ひしぎは確かにまだ全盛期の状態ではなく、全盛期の約7割程度の

本気だったのだ。

 

そして、『夜天』の事もありいくつもの制限かの中での『全力』だったのだ。

 

「なるほどね。『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は単体の力では魔王クラスだ。

 それを凌駕するとなれば、彼の力は──僕たちと同等か、それ以上。

 と、いう事なのかな?」

 

確かに映像で見る限り、彼は一度も攻撃を食らっていない。

 

「ああ、僕の予想だとね。だからこそ、出来る限り敵対はしたくない。

 現状の彼は敵対する意思は今のところ無く、かといって友好関係でもない。

 ソーナ君頼みの状態だ。だけど、僕は彼女ばかりに負担は掛けさせたくないので、

 出来る限り僕からも彼に接触してみようかと思うんだ」

 

何かあった場合、ソーナの立場を守れるように、そして漸く結べた和平だからこそ、

余計な敵はこれ以上増やしたくないと考えていたのだ。

 

その確実性を求めるために、サーゼクスは秘密裏に動こうとしていた。

 

「議長からの彼女に全て一任すると、命令を受けているのに?」

 

議長命令はある意味魔王と同等の力を持つ。

 

アジュカは議長の出した命令を合えて口に出し、サーゼクスの様子を探る。

ここで、少しでもぶれれば彼は力を貸さないと決めていた。

中途半端は覚悟では何も成功しないと知っているからだ。

 

「冥界を、若い命を守るためらな喜んで命令を破り──その罰を受けよう」

 

眉一つ動かさず、真剣な表情で答えたサーゼクス。

その言葉を聞き、彼の表情を見てアジュカは目を瞑り、一度深く息を吸い深呼吸すると

 

「分かった。協力するよ──なら本題に入ろうか」

 

アジュカはそう切り出すと、サーゼクスは漸く表情を緩め合意し、

どういった形で接触し、話をするかをアジュカの知恵を借りながら考えていくサーゼクス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方ソーナ達は一時間ほどでシトリー領へ着き、駅でメイドやら執事に盛大な

出迎えを受け、実家に着いていた。

 

駅に着いた時やら、実家のお城を見るやら激しいリアクションを取っていた

匙と留流子は流石に疲れたのか、ソーナの家族の自己紹介が終わったあと、

玄関口に備え付けてあったソファーに二人してうな垂れていた。

 

その光景を見て微笑むソーナとその眷属達。

そしてその逆側でひしぎはソーナから自身と姉の命の恩人として親に紹介され、

母親と父親からとても感謝言葉を何度ももらっていた。

 

その後紹介されたロスヴァイセの素性を聞いた親たちはもう一度驚いていた。

 

紹介が終わった後ソーナは眷属達の泊まる部屋を案内し、

各自の用意された部屋はとても大きく、豪華なシャンデリア、天蓋つきのベッドや冷蔵庫、

大型テレビにパソコン、大人数が座れるソファー、キッチンまでもあり、

この部屋だけでも生活が出来そうなぐらい必需品が揃っていた。

 

荷物を置き次第、大広間に集まるように指示をした。

 

勿論、ひしぎとロスヴァイセも呼ばれていた。

 

数分後全員が大広間に集まった事を確認したソーナは備え付けのソファーに

皆を促し、全員座ったところで今後の予定を話し出した。

 

「今日一日は、旅の疲れを癒すためにゆっくりしてください。

 街に買い物に行くのもよし。ただ、その場合は街を案内できる者と

 一緒にお願いします。夜には皆で会食がありますのでその時までには

 戻ってきてください──そして、明日は都市ルシファードへ赴き、

 若手悪魔たちの会合に出席、その後魔王様たちに謁見する予定です」

 

シトリー家のお城の直ぐ近くには人間界の都市ほどの大きな街があり、

初見だと必ず迷ってしまうため、来た事のある者、もしくはシトリー家の

使用人に案内を頼む事になっている。

 

慣れれば一人でも行く事は可能だ。

そして夜には現当主との会食があり全員が招待されている。

明日は今回冥界へ早めに帰還する事となった会合があり、若手悪魔たちが

一同に集い己の眷属の紹介などがある。

 

ひしぎとロスヴァイセはその場所に付き添い、その会合が終わったあとに

セラフォルーに呼ばれており、会う約束があった。

 

その後明日の緻密なスケジュールを確認したのち、一度解散となった。

ひしぎは、一度悪魔の街を見てみたいとソーナに話すと、彼女は

自身が案内すると言い、そのお供にロスヴァイセも加わり3人で街を

散策する事にした。

 

一方匙と留流子ははしゃぎ疲れたのか自室に戻り仮眠を取ると言い残し、

大広間から出て行った。

 

桃、憐耶は同じく買う物があるらしく椿姫に別ルートで街を案内してもらい、

由良、巴柄はお城の中にあるトレーニングルームを使用すべく、

お城の地下へ降りていった。

 

数分後、出かける準備を終えたソーナを先頭にひしぎとロスヴァイセは街へ向かった。

街の風景は人間界と似たような感じだが、建造物などはやはり独特な形をしている。

 

物珍しい建物に指を指してロスヴァイセがソーナにどんな建物か一つずつ聞き、

一歩後ろでひしぎもその会話を聞いている。

 

目的地は無いため、適当に街を散策する3人。

大通りから裏路地へ入ると怪しげな店が立ち並んでいた。

 

「ここが人間界で言う、裏マーケットです」

 

天井は大きな建物に覆われているため、かなり薄暗く、人通りも少ない。

 

「この様な場所は大丈夫なのですか?」

 

この独特の犯罪一歩手前の匂いが漂う場所の雰囲気を感じ取り、ロスヴァイセは

恐る恐るソーナに質問してみた。

 

「ええ、雰囲気は暗いですが。皆きちんと管理されているのでご安心を」

 

仕入れた物などのリストは全てシトリー家が目を通す事になっており、

リストを合わせた現物確認もしている為不正な物は扱っていない。

 

 

歩いていると視界に明らかに怪しげな物が店頭に並んで居るが見えたが、

問題ないとソーナはきっぱりと告げ奥へ進んでいく。

 

ふとひしぎの目に留まった店があり、入ってみたいと促すと二人は了承し

その店へ入っていった。

 

その店は剣専門の武器屋だった。

 

店の壁に無数の剣がかざされており、無骨な物から豪華に装飾された物まで

選り取り見取りだった。

 

その中でもひしぎは刀に分類される剣を物色し始めた。

愛刀『夜天』が壊れてしまったため、『とある場所』に行くまでの代理の武器を

探していたのだ。

 

店の端から端まで一つずつ確認していったが、ひしぎの力に耐えうる刀は

一つも存在しなかった。

 

その後も数件回ったが良い刀には巡り会う事が出来なかった為、

表通りに戻り、今度はロスヴァイセのリクエストを聞き

街を物色した3人。

 

夕方、城に帰宅した3人の手には紙袋が手一杯に下げた3人の姿があり、

疲れた果てた顔をしているソーナ、無表情に見えるが微かに笑みを浮かべているひしぎ、

そして、とても良い笑顔をしているロスヴァイセだった。

 

紙袋の全部はロスヴァイセの生活雑貨であり、散策の途中安売りセールを開いていた店を

発見し、大量に購入したのだ。

 

思わぬ掘り出し物や、格安で色んな物が揃えられたロスヴァイセは終始ご機嫌だった。

ひしぎは流石に量が多くてびっくりしたが、彼女の嬉しそうな笑顔を見て何も言えなくなり、

その笑顔を対価として何も言わずに率先して荷物持ちに徹していた。

 

その後全員が大広間に再び集合し、大食堂へ移動した。

シトリー家現当主との会食であり、豪華な料理が大量にあり、長広いテーブルの上に

彩られており、一種の芸術品と思わせるほどの飾り方であった。

各自椅子に座ると目の前に個人用の料理が運ばれてきて現当主の挨拶が始まり、

会食の開始だった。

 

現当主にお酒を勧められたが、酒が飲めないひしぎ

 

好物の取り合いになり喧嘩に発展した匙と留流子

 

その二人を叱る椿姫

 

肉料理ばかり食す由良

 

それを見て野菜も食べるように促す巴柄

 

料理のレシピを聞く桃

 

その隣で、同じく聞き耳を立てる憐耶

 

高級そうな料理をどれから食べようか迷っているロスヴァイセ

 

皆の光景を優しく見守るソーナ

 

賑やかな会食は1時間続き、その後各自部屋に戻った。

ひしぎは部屋に戻った後、完備されているお風呂で体をゆっくりと癒し、

着流しに着替え、眠気が来るまで読書をしようとソファーに腰をかけた時、

扉がノックされた。

 

ひしぎはソファーから立ち上がり、鍵を開け扉を開けると、そこには

ワイングラス2個とビンを持ったショートカットの黒髪で、優しそうな笑みを

浮かべている男性が立っていた。

 

「お休みの所すまない、まだ飲み足りなくて付き合ってくれないだろうか?」

 

ひしぎは、自分は飲めませんよ? と、苦笑しながら言い彼を部屋の中に

招き入れた。

 

「ありがとう」

 

男は朗らかに笑い案内された部屋の中のソファーに座り込み、グラスを

差し出し、それを一応受け取るひしぎ。

この男の名はエリオット・シトリー、シトリー家現当主であり、ソーナとセラフォルーの

実の父親だった。

 

「さて、ひしぎ君。改めて礼を言う。ソーナとセラフォルーを助けてくれて

 ありがとう」

 

膝に額が当たりそうになるほど頭を下げだしたエリオット。

自身の命より大切な娘二人を助けてくれた事に、もう一度キチンとしたお礼を言いに

ここまでやってきたのだ。

 

二人っきりならば現当主では無く、一人の父親としての立場で会話が出来ると

思ったからであり、ただの父親であれば、幾らでも頭を下げる事ができる。

 

「あの二人は私にとってはかけがえの無い大切な者なんだ」

 

エリオットは昔を、二人の幼い頃を思い出しながら言葉を紡ぎ語った。

セラフォルーはとても気が回り、とても家族思いで今でも、シトリー領を

守る為に眷属の半数を配置している。

彼女は内緒のつもりだが、エリオットには完全にばれていた。

 

ソーナもセラフォルーに負けない位の家族思いで、姉と違い厳しい面が

表に出かちだが、とても優しいと語った。

 

エリオットの言葉に頷きながら、ひしぎは黙って聞いていた。

その後も親ばかな話が時折出てきたが、嫌な顔せず微笑みながらひしぎは頷く。

そして夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日若手悪魔の会合がある為、ソーナ達一行は列車に乗車し

都市ルシファードに来ていた。

 

ソーナが列車から降りた瞬間、ホームからは黄色い歓声が上がり、

若い悪魔たちが手を振っていた。

 

ソーナは魔王セラフォルーの妹であり、名門シトリー家のお嬢様であり、

若い下級、中級、上級悪魔からリアスと同様に絶大な人気を誇っていた。

 

彼女は声援に笑顔で対応しながら、ホームの近くにある地下鉄を目指し、

地下鉄に乗り込む事5分、すぐさま目的地の地下ホームにたどり着いた。

都市の中心部にあり、都市の中でも屈指の大きさを誇る建物だった。

地下鉄をおり、直ぐ傍にあった巨大なエレベーターに全員乗り込み、

ソーナが注意事項を眷属全員に言い聞かせた。

 

「いいですか、誰に何を言われても常に冷静に。

 熱くなってしまえば自身の価値を落とします──今から会う者達は

 将来のライバルです」

 

今から顔合わせするのは同期であり、将来レーティングゲームのライバルと

なりうる者達ばかりであり──自分たちの価値を推し測られる場所なのだ。

眷属達を信頼しているが、一応忘れていないかの確認のため言葉にしたのだ。

 

今一度言葉の意味を噛み締めた眷属達は、気を引き締め扉が開くのを待った。

 

「ひしぎさんとロセは先に待合室に私が案内します。椿姫、手続きのほうは

 お願いします」

 

ソーナは眷属達と一度離れ、セラフォルーに指定された部屋まで二人を

案内する役目を担っていたのだ。

 

そして、シトリー家が到着したと云う手続きを椿姫に代理で頼んでいた。

漸くエレベーターの扉が開き、この建物の使用人達のからお出迎えされ、

二手に分かれた。

 

ソーナを先頭に豪華な廊下を歩いていると、目の前から淡いグリーンがかった

長いブロンドをした髪型で、眼鏡を掛けた若い女性がこちらに向いて歩いてきた。

そしてソーナの少し手前で立ち止まると、両手でスカートの端を摘み上げ

一礼をした。

 

「ごきげんようソーナ。元気にしてまして?」

 

ソーナも相手に一礼を返し

 

「ごきげんようシーグヴァイラ。ええ、元気でしたよ」

 

シーグヴァイラと呼ばれた女性とはリアスと同様の旧知の仲であり、

今回呼ばれた若手悪魔の内の一人、シーグヴァイラ・アガレスであり、

『冥界の大公家』アガレス家次期当主である。

 

「それはよかったわ──結構心配していたのよ? ここ最近色々な事件に

 巻き込まれたと聞いていたので」

 

勿論彼女の耳にもコカビエルの聖剣強奪事件と会談襲撃事件入ってきており、

細かな詳細までは知らないが、ソーナとリアスの命が狙われたと言う情報を聞き、

心配でシトリー家の方に安否を確認したぐらいだった。

 

「確かに色々とあったけど、この通り元気です。心配してくれてありがとう」

 

シーグヴァイラの言葉を聞き、顔を綻ばせ素直にお礼をいうソーナ。

 

「無事ならいいの──所で後ろの方々は貴方の眷属なの?」

 

ふと彼女はソーナの後ろに佇んでいる二人に視線を向け問うた。

その言葉に首を横に振り否定したソーナ。

 

「いいえ、この方たちはお姉様のお客様です」

 

「あら、セラ姉様──あっ、レヴィアタン様のお客様ですか・・・」

 

途中、昔の癖でセラフォルーのあだ名で呼んでしまい、慌ててすぐさま訂正する

シーグヴァイラ。

そして、何事も無かったように振舞い始め、ひしぎとロスヴァイセに

先ほどと同じように一礼した。

 

「どうも、初めましてシーグヴァイラ・アガレスと申します。

 以後お見知りおきを」

 

セラフォルーの客人であるならば、重要人物か外交に来たものと思い、

挨拶しておいたほうが良いと判断したのだ。

 

「どうも、ひしぎです」

 

「初めましてロスヴァイセです」

 

挨拶をし返す二人、本来は名乗らなくても良いのだが

相手の態度に誠意を示すために名乗り返したのだ。

 

「先にこのお二人を案内しないといけないので、また後ほどお話しましょう

 シーグヴァイラ」

 

「ええ、わかりましたわ。では、後ほど」

 

彼女は頭を下げ、3人の横を通り抜け会場のほうに足を進めて行った。

シーグヴァイラの姿が遠くなった後、ポツリとロスヴァイセが呟いた。

 

「アガレスって、あの『旧七十二柱序列2位』の『大公』ですか?」

 

「ええ、そうですよ。そして彼女は『大公』の次期当主です」

 

ソーナとロスヴァイセのやり取りに、ひしぎは付いて行けず

 

「有名な家柄なのですか?」

 

「はい、冥界でも2位に君臨するほどの大きな家柄で、我々悪魔に

 細かい指示をだす役割を司り、冥界でも屈指の権力を持つ家なのです」

 

ひしぎの質問にソーナが答え

 

「北欧側でもアガレス家の名は知られており、冥界を知るものならば、

 彼女の家の名は一度は聞いた事あるはずですよ」

 

ロスヴァイセが付け加え、ひしぎは納得した。

 

冥界の中では魔王、バアル家についで権力を持ち、悪魔たちに指令や指示を

出すのはアガレス家であり、冥界の『中間管理職』なのだ。

その後もひしぎの質問に答えながらソーナ達3人は客人の間を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠たちはグレモリー家で一晩すごした後、ソーナ達と同様に

地下鉄に乗りこの建物に漸く着いたところであった。

 

エレベーターに乗った眷属達にリアスもソーナと同じような言葉で

注意事項を再確認させる。

 

「皆、何があっても平常心を心がけ、手を出されても決してやり返さないように。

 上に居るのは私たちの将来のライバルであり、彼らに無様な姿は

 見せられない。グレモリー眷属として、節度ある行動を心がけて、いいわね?」

 

念には念を、といった言葉に皆は同意する。

あれから関係を修復できていない小猫も意識を入れ替えていた。

現状気まずい雰囲気でも、自身の『王』であるリアス。

彼女の品格を、評価を下げないように行動することを心がけた。

 

そのぎこちない雰囲気を察した一誠とアーシアは昨晩、リアスと話した内容を

思い出していた。

 

昨晩彼は、グレモリー家現当主との会食が終わった後、アーシアを伴い

彼女の部屋に訪れ、小猫と何かあったのかを問うた。

 

リアスは小猫のあの時の問いを一文一句思い出し二人に話し、自身の回答を聞かせた。

その瞬間一誠とアーシアはリアスの回答が間違っていると指摘した。

 

『王』としての取った行動は正しいが、『一個人』としてはその行動は不味いと

いい、小猫の考えを支持したのだ。

 

「俺はバカで『王』としての重みは分からないけど、一個人としてはそれは

 間違っていると思います。人は助けてもらったのなら身分に関係なく

 お礼を言うべきだと思います。たった一言でもいいんです」

 

「それは私もイッセーさんに同意します。確かにリアス姉様の取った行動は

 正しいのかもしれませんが、小猫ちゃんの心情も考えてあげてください」

 

流石に二人に怒られることは想定外だったらしく、リアスはうな垂れていた。

他の者には同意を得られたのだが、彼らは最近悪魔になったばかりで

どちらかというと、人間よりの考えだったのだ。

 

だからこそ、リアスが小猫に対して言葉足らずでだった事に対しても

指摘した。

 

小猫はひしぎと知り合いであり、命の恩人なのだ。

その恩人に対してリアスの取った行動は、不快感しか生まないと一誠は言い切った。

一誠自身リアスが大切だからこそ、間違った事をして欲しくないと願い、

怒られる覚悟で言ったのだ。

 

アーシアも自分の命の恩人に、そういう行動を取って欲しくなく、

勇気を出して言葉にした。

 

「小猫ちゃんも部長に対する態度は頂けないと思うけど、今なら俺は

 小猫ちゃんの心情を理解できます」

 

「ですから、もう一度小猫さんとお話されてみては如何でしょうか?」

 

アーシアの提案に、リアスは沈み込んでいた顔を漸く上げ

 

「わかったわ。もう一度小猫とゆっくり話してみるわ」

 

言葉足らずで、小猫の心情を理解していなかったリアスは彼らの言葉を

ちゃんと心の中で反芻し、反省した。

 

あの時の自分はまったく余裕が無かったのは言い訳になるが、

それは自分自身が未熟で、まだまだ世間知らずだと思い知らされたのだった。

 

そして、まだ彼らに自身に降りかかった罰に関しては伝えていなかった。

その理由は、今は大事な時期で眷属達に不安を与え兼ねないので、

現状話すべきでは無いと判断していた。

 

「ええ、その意気です」

 

「微力ながらお手伝いさせて頂きます」

 

そう言ってその日の会話を終了させ明日に備えて寝に着いた。

 

(部長、まだ小猫ちゃんと話は出来ていないみたいだ)

 

朝からここ来るまで全員で移動していた為、二人っきりで話を出来る

時間が無かったのである。

 

(とりあえず、俺も意識を切り替えないと!)

 

リアスと小猫の関係が心配だが、目の前の会合を疎かにする訳にもいかないので、

意識を切り替えた一誠。

 

そして漸くエレベーターが止まり

 

「皆、行きましょう」

 

リアスの声と共に皆一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナはひしぎとロスヴァイセを送り届けた後、来た通路を戻り

会場のほうへ向かっていた。

 

途中、自身を迎えに来た匙と合流した瞬間、建物全体が大きく揺れ

破壊音が床を通して響き渡った。

 

「な、なんだ?!」

 

突如響き渡った振動と轟音に匙はびっくりした様子であり、ソーナも一瞬驚きはしたが、

すぐさま音がした方向に視線を向け

 

「行きますよ匙」

 

少し小走りで、大きな扉がある部屋へと足を進めた。

 

「あ! 待ってください会長!」

 

慌ててソーナを追いかける匙。

数十秒後、二人は破壊音が聞こえた部屋の入り口前に立っており、

そのまま扉を開けると──破壊しつくされた大広間があり、豪華な装飾やシャンデリアが

半壊しており見るも無残な姿に変貌していた。

 

そしてその中心には、先ほどのシーグヴァイラと服装を崩した男がにらみ合っていた。

両者の後ろには眷属とおぼしき悪魔たちが武器を取り出して一触即発の雰囲気を纏い

殺気立ったオーラを放っていた。

 

言い争う二人の元にソーナと逆側から一人の若い男が近づき、二人に何か話し始め、

男の方がその若い男に何か言った瞬間──若い男が言い争っていたほうの男の腹部へ

拳を放ち、激しい打撃音と共に男は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

意識を失ったのか、そのまま崩れ落ちる。

 

「バアル家め!」

 

吹き飛ばされた男の眷属達が若い男へ切り掛かろうとするが

 

「お前たち、俺に攻撃を仕掛ける前にやるべき事があるだろう。

 まずは、自身の主を介抱しろ──それが今やるべきお前たちの仕事だ」

 

若い男がそう言い放つと、眷属達は一瞬迷ったが武器を収め、倒れた主の元へ駆け寄った。

そして、若い男の視線はシーグヴァイラを捕らえ、彼女は一瞬表情を強張らせたと思うと、

表情を戻し、自身に用意された部屋に戻るべく身を翻して去っていった。

 

若い男の後ろから見知った駒王学園の制服に身を包んだメンバーが姿を現し

 

「あ、兵藤!」

 

匙がソーナの後ろから見知った者に声をかけ、その者達もこちらの存在に気がついた。

 

「匙じゃん! あ、会長も」

 

「ごきげんよう、兵藤君、リアス」

 

これで召集を受けていた全ての若手悪魔たちがこの建物の中に集結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロセ、現代の魔法使いは皆この様な姿になるのですか?」

 

「ち、違います! ええ、絶対に違いますから!」

 

ひしぎは案内された部屋で上映されている映像を見て、ぽつりと呟き

ロスヴァイセが全力否定していた。

 





こんにちは、夜来華です。

漸く原作の5巻に突入しました。夏休み編です。
今回は魔王側の動きと心情をメインで書いて見ました。
そしてシトリー家での現当主も登場。

余談ですが、提督業もしていて両立が難しかったです。
一応イベ全海域突破突破しました。
疲れた・・・。

感想、一言頂けるとうれしいです。




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