ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

18 / 25
*小猫の心情を加筆しました。

久々に学生へと戻りました。

やはり、北欧側の学園とは雰囲気がまるで違うので、新鮮です。

このような平和な日々を過ごせる事に感謝を──


第17話 王と眷属

駒王学園での会談後、それぞれ拠点に戻り評議員や構成員を召集し、会議を開き、

和平へ向けての準備に取り掛かった。

 

だが、ここで悪魔側と堕天使側はまだ会議しなければならない議題があった。

 

それは、今回開かれた極秘会談が『禍の団』の襲撃を受けた件についてである。

首謀者はカテレア・レヴィアタン、内通者『白龍皇』ヴァーリ・ルシファーである。

 

旧魔王派であり、ヴァーリに至ってはこの事件で自身の出生を明かし

魔王の血筋だと明らかになった。

 

テロ首謀者が悪魔側という事もあり、天界側、堕天使側からの追求を出来るだけ抑える為、

緊急会議を開き、旧魔王派の監視を一層厳しくする事を決定した。

 

そしてもう一つ。

今回の襲撃事件で、特殊な力を持つ眷属を一人で待機させ、その眷属が敵に捕まり力を利用され、

各勢力のトップを危険にさらした事である。

 

利用された者の名は、ギャスパー・ヴラディ。

『神器』の一つ『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の所持者であり、その力は視界に

入った物、生物の時間を停止させるという力である。

また、使い手より上位の実力者は停止させる事は出来ないのだが、今回襲撃者が無理やり彼を

擬似的な『禁手化』にさせた事により、周辺を護衛していた戦力は全て停止され、

各勢力のトップと特殊な力を持つもの以外停止させられたのである。

だが、その力は時間が経つにつれて力が増幅しており、魔王ですら止められるのは

時間の問題だったのだ。

 

この様な特殊な力を持つ眷属をなぜ一人にさせたのか、会議に緊急召喚された

ギャスパーの王であるリアス・グレモリーに会議の場でその理由を問うた。

 

彼女の言い分はこうだ。

 

彼は過去に辛い出来事があり、人前に出る事に恐怖を感じており、今回自身と眷属全員が

会談に呼ばれていたが、各勢力のトップの前で彼が暴走してしまう危険性を感じ、自身の拠点で

待機させていたということ。

 

そして、護衛も付けなかった理由は──自身の認識不足と話していた。

 

周囲を固めた戦力を見て、襲撃に合うとは微塵も思わず慢心していた為に

彼を一人で待機させていたのだ。

 

王としてその行動は軽薄であり、王ならば暴走しないようにその眷属の傍らで

支えるのが眷属達との絆ではないのか? と、一人の議員に指摘され、

彼女は俯いたまま悔しそうに唇を噛んでいた。

 

この件に関しては、幾らリアスを溺愛しているサーゼクスも擁護は出来なかった。

実際、会談に参加していたもう一人の魔王、セラフォルーがこの襲撃で

大怪我を負ったからである。

 

見守ることしか出来ないサーゼクスを無視して、他の議員は更に別件でも追求していく。

 

前回の聖剣強奪事件であり、コカビエルが駒王学園へ襲来したこと。

主犯格が古の猛者と分かりながらも報告を遅らせ、ギリギリになって援軍を要請したこと。

 

日本へ滞在する際に与えられた領土である駒王町で起きた出来事なのに、

その領主であるリアスは報告の義務を怠ったと報告に記されていた。

 

これは重大な監督責任であり、眷属の姫島朱乃の咄嗟の動きがなければ

事は深刻化していたと判断。

 

ソーナ・シトリーも駒王学園を拠点に活動していたが、学園を含む町全体の

管轄はリアス側に所有権があり、彼女が勝手に報告することが出来ない仕組みとなっていた。

その部分は遥か昔から、領主である者の顔を立てなければならない風習がある為であり、

報告義務が発生しない為この件に関してはソーナ・シトリーは不問とされていた。

 

そして、その前の堕天使による一般民間人の殺害の件である。

明らかに堕天使が暗躍している事を察していながらも、泳がせ、無関係の『神器』持ちを

見殺しにしたこと。

結果的に見れば、眷属にしたことによりその者は第二の人生を歩むことが出来たが、

堕天使が悪魔の領地で好き勝手に行動していた事が、議員達は不満を口にしていた。

 

明らかに過ぎた事なのだが、一度不手際を見つけられると、アレやこれと云って

過去の行動にも難癖をつけられ、その一族を権威の落とそうとする議員達のやり口だった。

 

ただ、最初の件は堕天使を一網打尽にする為の動きだったことは、数名の議員達によって

擁護されていたが、あとの二つの案件が完全な不手際だった事は本人も認め、議員達の半数も

認めていた。

 

その結果、議長が下した判決は。

 

──2年間の駒王町の領主権限の剥奪

 

もし学園卒業後駒王町に留まらない場合は、その後の1年間は領土は持てない事になる。

リアス・グレモリーの変わりにソーナ・シトリーが代理領主を務めるように打診した。

 

──その期間内は無償で駒王町に奉仕すること

 

はぐれ悪魔を率先して討伐する事や、今後VIPが駒王町を訪れた時の率先しての護衛である。

簡単にいえば、今まで通り活動して云いということである。

実際指揮権、領地権限だけがソーナに移譲するだけで何も変わらない。

 

ただし、今後の行動でリアス側がミスを起こした場合はリアス本人が罰を受けるという事。

 

指揮権はソーナに移譲したが、リアス側が起こしたミスを

代理領主であるがシトリー側が一切責任取らない事で、シトリー家の当主には話を通していた。

 

もし、リアスが起こしたミスでソーナが責任を取る立場での移譲ならば、

シトリー家はこの件を了承せず、グレモリー家の交友断絶を主張した。

 

過去のリアスの功績などを考慮した結果、剥奪期間はかなり軽減されたが、

これは領主を与えられた者のケジメとして表向きの罰は絶対だった。

 

唯一の救いは、メディアなどでは公表しないという事。

これで、グレモリー一族の面子が保たれる事になった。

リアスの眷属達にその罰の内容を話かはリアスの判断にゆだねられ、

リアスは気持ちの整理が付くまで自身の右腕である朱乃以外の

眷属達には後々話そうと考えていた。

 

そして以下の内容が言い渡されたリアスは、悔しながらも自身が招いた不手際である事を認め、

了承した。

 

会議が終わり議員達が退出していく中、サーゼクスは会議室の真ん中で立っているリアスの

前に歩み寄り優しく声をかけた。

 

「すまないリアス。今回ばかりは僕でも庇いきれなかった」

 

「いえ、お兄様──魔王様。これは私自身が撒いた種なので、自身の責任は自身で取ります」

 

内心かなりのショックを受けていたが、兄を心配させまいと無理やり笑顔を作るリアス。

 

「リアス──」

 

何とも痛ましい笑顔に、サーゼクスは何と言葉を掛けて云いかが分からなくなった。

 

「可愛い眷属達が私の帰りを待っているので、失礼します」

 

サーゼクスに一礼すると、リアスは駆け足でその場を去っていった。

彼女の後姿を目で追いながら、彼はつぶやいた。

 

「これも、上級悪魔になる試練の一つだ──がんばるんだ」

 

どの悪魔でも、生きている限りミスは起こす──起こさない者などこの世に存在しないのだ。

サーゼクスも自身も学生時代に色々なミスを起こしこういう体験を何度も経て、

魔王になったのだ。

 

だからこそ、この一件で妹の心が折れないかが心配だったが、

"信じる"事に決めた。

だってもう彼女ももう直ぐ大人になるのだ──子ども扱いは出来ない。

 

だから、兄は妹の再起を信じて待つことにした。

 

そして、サーゼクス自身も彼の事をソーナに一任したまま、任せきりにせず、

独自のルートで彼と一度二人っきりで話をしてみようかと考えていた。

 

現状彼の力は脅威以外何者でもないが、接触により交友を持つ事により

彼が困っていたら無条件で手を差し伸べ、こちらは"敵意"がないと

直接感じてもらい、有事の際には力を借りれるほどの

協力関係を気づきたいと思案していた。

 

ただ、実際冥界を取り仕切る議長の命令により表立っては動けないため、

どうするべきか考えながらサーゼクスも会議室から姿を消した。

 

 

 

 

一方、堕天使側から悪魔側、天界側に『白龍皇』の裏切り、テロリストの手引きを

した事により各勢力のトップを危険な目に合わした事について、

アザゼル本人から正式な謝罪があり、責任を取る形で総督を降りると宣言するが、

今回の会談の立役者であり和平を唱えた第一人としての功績があり、

各勢力から総督を継続してほしいと要請され、和平を完全に結び、

諸々の事案を処理してから今回の責任を別で取る事となり現状不問とされた。

 

ただ、今回問題を起こしたリアス・グレモリーの眷属に『神器』の制御を

教えると云う事が追加された。

 

今の今まで敵対していた者と手を取り合うことは、非常に難しく一つ一つ処理していかなければ

ならない問題もあり、今総督業を降りられたら話が纏まらなくなると

冥界、天界側がそう判断したのだ。

 

 

 

 

人間界ではソーナの元に冥界からの連絡があり、リアス・グレモリーの領主権限を剥奪し、

その代理を自身にするようにとの打診だった為、ソーナは生徒会室で頭を抱えていた。

 

生徒会室は今は皆、擬似空間での戦闘訓練を行っており、連絡が来たためソーナは

一度訓練を中断し、生徒会室に戻ってきたのだ。

 

「まさか、この様なことになるとは」

 

リアスが冥界で開かれた緊急会議に召喚された事は知っていたが、

まさか、この様な事態になっているとは予測が付かなかった。

 

だが、よくよく思い出してみると、思い当たる節がいくつかあり

例え弁明を頼まれたとしても事実なので、言い訳が思いつかないソーナ。

 

現状学園管理だけで手一杯なのに、それに追加で町の管理まで言い渡されたのだ。

これ以上忙しくなるならば、戦闘訓練の時間を減らすしかないと考えていた所、

続きの連絡が入り、町での奉仕、仕事などは今まで通りリアス・グレモリーが担当すると

書いてあり、ただ権限が自身に移動した事だけだと漸く理解し

 

「なら、今まで通りでよいのですね」

 

ほっと胸を撫で下ろしたソーナ。

椅子に背をもたれさせ、天井を仰ぎ見るソーナは、ふとあの時の光景がよぎった。

数日前の会談襲撃事件で、姉であり魔王でもあるセラフォルーがボロボロの状態となり、

殺されかけた事。

あの時、自身は近くに居たのに──何も出来なかった想いがソーナの心の中で

燻っていた。

 

「力があれば──姉様の援護が出来た」

 

そして、何より自身達が弱いから、巻き込む恐れがあり彼女は全力の魔法術式を

使うことが出来なかったのだ。

 

「私達が姉様の足を引っ張ってしまい──あのような事に」

 

今でも思い出す、目の光が消えた姉の無残な姿。

あの日から夢に出て、全身から汗を流しながら何度も起きたソーナ。

 

あの光景が脳裏から離れないのだ。

 

「もっと強くならなければ──姉様を守る為に」

 

自身の夢の為にでもあるが、やはり魔王である姉を守りたい為に彼女は

あの日から更に力を欲した。

 

ひしぎから教わるのは、戦闘の心構えと体術であり魔法に関してはからっきしだったが、

今回から北欧魔法に長けている戦乙女のロスヴァイセが訓練に参加し、

ソーナと憐耶、桃をメインに魔法に関しての知識を教えてくれた。

大学課程を卒業している彼女は教えるのも上手で、

教員として雇えるぐらいの実力だった。

 

そしてその実力もオーディンの護衛だったこともあり折り紙つきである。

特に攻撃魔法は上級悪魔以上の砲撃と攻撃力であり、ありとあらゆる属性を

兼ねそろえている為、非常に勉強となっていた。

 

「満遍なく皆、力は付いてきていますが──まだ、足りない」

 

自身の眷属達はここ約2週間で前とは比べ物にならないぐらい強くなっていた。

筆頭は『女王』である椿姫。

 

彼女はずっとひしぎ相手に実戦訓練をしている為、速さ、力、回避能力が格段に

上がっており、そしてひしぎがら特別メニューを言い渡されてそれに励んでいる。

 

それはソーナ自身もまだどんな事かは教えてもらっていない。

 

そして次に匙と桃である。

匙は唯一の男だった事もあり、そしてあの襲撃事件後何か心境が合ったのか、

ひしぎに居残り訓練をお願いしていつも一人で最後まで組み手をしていた。

 

桃はひしぎに教えられた法力の力を混ぜた対悪魔用魔法をいくつも開発し、

憐耶に"体験"してもらいながらそれの効果を確認し、改良している。

ロスヴァイセに攻撃術式を教えてもらい、元々防御専門ばかりだった術式は

今では攻撃術式もかなり数を増やしていた。

 

後の皆は同列だが、平均レベルを上回っている。

元々下級悪魔の上ぐらいだったら、今では中級の中の上まで上がっていた。

 

ソーナ自身も水の魔法に磨きを掛けており、一つひしぎがらアドバイスを貰っていた。

それは形の統一である。

 

形を統一した場合、生成する速度が格段に上がる。

これは形を多くするとソレのイメージを頭に思い浮かべないといけないので、

その時の思考時間が生成時間の増加に直結するのだ。

 

だからこそ、常に同じ形をイメージしておけば直ぐに生成することが出来、

短時間で数も揃えれる様になり、攻撃の手数が増えることになる。

 

「イメージは龍ですか」

 

ひしぎからお勧めされたのは龍であった。

冥界に住むドラゴン達の形ではなく、日本の神話に出てくる蛇のような体つきの

龍である。

 

それなら図書館にある伝説の生物図鑑に載っているため、直ぐに形を

思い浮かべることができた。

 

「あのひしぎさんがお勧めするのですから、遣ってみる価値はありそうですね」

 

そう決心すると、もう一人の少女──小猫の事を思い浮かべた。

あの襲撃事件以来何かと自身と行動する事が多くなり、彼女は自身の所属する

『オカルト研究部』にはあの日から顔を出す程度に留め、

すぐさまこちらへ移動してくるようになったのだ。

 

自身の眷属では無いが、リアスと何かあったのかも知れないと思い心配だった。

でも、それは王と眷属の問題であり、他の者が口を出す事は出来ない。

 

だからこそ、ソーナは出来る限り小猫に優しく接し、今日も一緒に

合同訓練をしていた。

 

最近は訓練が終わったら、一緒に買い物に行ったり、勉強を教えるなど

プライベートでの交友関係も築けた。

 

小猫はとても素直で大人しい子なので、一緒に居ても苦にならず、

むしろ楽しいとさえ感じていた。

 

心の中では妹が居たら、こんな感じなのかと思うぐらいである。

 

「リアス、あの子に一体何をしたのかしら」

 

原因が分からないソーナは首を傾げるばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

擬似空間でひしぎとの訓練が休憩に入り、小猫はグラウンドの端にある

手洗い場で頭から水を被り、汗を流していた。

 

歩くことすら許されない、全力での15分間回避訓練を全員が参加し、

皆肩で息をしたり、何人かは同じように頭から水を被り火照った体を冷ましていた。

 

「小猫さん、これをどうぞ」

 

隣で同じように水を被っていた椿姫が小猫がタオルを持っていない事に気づき、

使っていない方を差し出した。

 

その厚意を素直に受け取る小猫。

 

「ありがとうございます」

 

タオルで顔を拭き、濡れた髪の上にタオルを乗せると、椿姫がこちらを気にしている事に

気が付いた。

 

「何でしょうか?」

 

素直に首を傾げ椿姫に問うた。

すると、彼女は一瞬質問して良いのか迷ったが、聞いてみることにした。

 

「部活のほうには顔を出さなくても良いのですか? 最近私達と居る時間の方が

 長いと感じていましたので」

 

「──迷惑だったでしょうか?」

 

その質問に少し顔に影を作りながら答える小猫。

 

「いえ、全然迷惑ではありません。小猫さんと共に訓練するのは楽しいですし、

 勉強になります」

 

慌ててフォローをする椿姫だが、続けた。

 

「ですが、リアスさんが心配してるかと思いまして」

 

「大丈夫です。部長にはきちんと許可もらっていますから、問題ないです」

 

そういいながら、小猫は無理やり笑顔を作った。

その笑顔を見た椿姫は何と返していいかが分からず、

 

「そうですか、なら良いのですが」

 

と、しか返せなかった。

 

小猫の反応を伺うが、彼女は何も言わずじっと流れる水を凝視していた。

その後二人は言葉を発せず、数分たった後椿姫は他の子の様子も

見ないといけなかったので、タオルはそのまま使って良いと小猫に伝え、

その場を後にした。

 

椿姫が去った後、小猫は体を起こし視線を上に向け薄暗い空を

見ながら呟いた。

 

「私はどうして──リアス部長や皆に会う度にこんなに居心地が悪く感じるの?」

 

あの日以降、部活に顔を出すたびに何となくだが居心地が悪くなり、

すぐさま退出してしまう毎日だった。

 

別にリアス達が嫌いになった訳でも無い。

だが本人は気づいていないが、小猫の心の中にリアス達に対する"怒り"が燻っていた。

 

それはあの襲撃事件後にリアス達が取った態度であった。

 

小猫は学園の補修修理を手伝っている際に、リアスに一度尋ねてみたのだ。

学園を、この駒王町を守ってくれたひしぎに対して領主としてお礼を言うのかと。

 

前回コカビエル襲撃の際もリアスはひしぎに対してなんのリアクションも取らなかったので、

小猫は個人でお礼を言いに行ったのだ。

 

そして今回、前回と比べ物にならないぐらいの事件だったのに、彼女の答えはこうだ。

 

「結果的にそうなったかもしれないけど、本当に私たちを助けたのかしら・・・?」

 

本当に自身達の味方ならばこちら側に接触し、最初から会談にも

参加しているはずと──リアスは考えていた。

 

なぜなら、事件の当事者である彼を今回の会談に参加させようと

提案したのはリアスだったのだ。

だが、それはソーナを通して拒否されたのだ。

 

その瞬間小猫は自身の王が何を言っているのかが理解できなかった。

 

「あれほどの力は危険すぎるわ──領主として見過ごせない。でも、彼に関しては

 全てソーナに一任されているの。だから、私は彼に対して『何も』しない」

 

次に出た言葉は、警戒と恐怖にいろどられていた。

そして冥界の決定に従い、彼女は領主として何もリアクションを行わず、

全てソーナに任せたのだ。

 

それはきちんと冥界の決定に従った、正しい判断なのだが──小猫を納得させるには

言葉が不十分だったのだ。

 

何より、自身の眷属が敵に利用された事で頭か一杯だった部分もあり、

"今"の彼女に外部の人間のことを考える余裕は無かった。

 

そして、今回自身に与えられた罰の事はまだ話してはおらず、

だからこそ、この時、この瞬間にリアスと小猫の間に亀裂が走ったのだ。

 

その後、朱乃、祐斗にも同じ質問をしてみたが同じ答えであり、

リアスの行動は正しいと小猫に伝えたのだ。

 

この二人も冥界の決定を認知しており、味方か分からない為、

下手な接触はやめて置いた方がいいと判断したのだ。

何より何かの切っ掛けであの"力"が自身達に向けられた場合、自身の王を守れる

気がしなかったのだ。

だからこそ、完全に味方と判断できるまで警戒しておくに越したことがないと、

朱乃は小猫に優しく言い聞かせた。

 

こういった事情があり、小猫は部室に顔をだしても考え方の違いにより

居心地が悪く感じ、顔を出すだけの日々が続いていた。

 

リアス自身はそうなった原因が分かっており、あの時の自身の言葉が不十分だった事に

反省していた。

 

だが、それも時間が経てば分かってくれるだろうと考えており、小猫を放置していた。

 

小猫自身も冥界の決定は知っていたが、やはりこの地を任されている者として、

思惑はなんであれ、この町を守ってくれた者に対して何かしらの行動は許される範囲だと、

思っていたのだが──否定されたのだ。

 

一度ならず、二度もだからこそ小猫はその答えに納得が出来なかったのだ。

 

姉に捨てられ、その心を癒そうと献身的で打算抜きで

優しくしてくれたリアスの姿はもうどこにも無かった。

だからこそ、怒りもしたが悲しみの方が大きく膨れ上がっており、

そして、リアスに怒りを向け、顔を合わさないように行動する

自身を自己嫌悪していた。

 

リアスの考えは『王』として正しく、それは小猫も十分に理解している。

そして、『個人』としての小猫の考えも正しい。

 

両者がどちらも正しい故、起きた歪みである。

 

そして、小猫自身は確かにひしぎよりの考えだと自覚はしているが、

彼女にとって初めて、内なる力の存在に気が付き、それを肯定され。

力の使い方を優しく教えられ、事件の最中には二度に渡って命を救われたのだ。

 

だからこそ、今までリアスからもらった愛情や絆、信頼と並ぶほど

ひしぎの存在が小猫の中では大きくなっていた。

 

小猫も、リアスもまだ子供なのだ。

だからこそお互いの主張を引っ込めるに引っ込めなくなったのだ。

 

そして時は何も癒さぬまま一刻と過ぎていった。

 

数日後、ひしぎは無事保健の研修生としてのテストを合格し、

その日から働く事になった。

 

ロスヴァイセも、ソーナと同じ学年に転入し2度目の学園生活を

送ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏、学園は休みとなり業務が終わり次第、訓練に励むソーナ達。

その中にはリアス達との関係を修復できないままの小猫の姿もあった。

 

昼から晩まで長い時間訓練が出来るようになり、この夏で大幅なレベルアップを

狙うソーナ。

 

まだ、眷属達に話しては無いが夏の終盤に若手同士のレーティングゲームが

開催される動きがある事を、セラフォルーから聞いていた。

 

まだ確定ではないが、魔王達がそろそろ若手にもゲームの参加資格を

与えるように議員達に相談していたのだ。

 

実際学園卒業後に本格的に参加することになるのだが、その前に

若手同士で対戦させ、ゲームの空気を肌で感じてもらおうとサーゼクスが

前々から提案していたのだ。

 

その議案が最近会議で頻繁に話題となっていたのだ。

 

現状選ばれているのは6つの家系。

シトリー家、グレモリー家、バアル家、アガレス家、グラシャラボラス家、アスタルト家と

云った72柱に連なる名門の家系である。

 

この6つの家系はこの夏、魔王達と議員達から招集が掛かっており、

ソーナはスケジュールを確認しつつ、学園業務が終了しだい帰国する予定だった。

 

そして帰国する際にひしぎも連れて来てほしいとセラフォルーから内密にお願いされ、

ソーナはひしぎに予定を聞いてみると滞在中数日は少し行くところがあるので、

人間界に途中戻るという条件で承諾した。

 

小猫は本当はソーナ達に付いて行きたかったが、自身はリアスの眷属故に、

リアス達と一緒に冥界に入ることとなったのだ。

 

ただ、その直前までは一緒にいていいとソーナから言われており、

ぎりぎりになるまで共に居ようと考えていた。

 

数日後、その日がやって来た。

 

ひしぎは待ち合わせ場所である駒王町の最寄の駅へ着ていた。

学園の休日を利用してソーナや小猫に町を案内されていたので、駒王町は

ほぼ完全にどこに何があるかは把握出来ていた。

 

彼の服装は生前着ていた服に良く似たデザインであり、真っ黒だった。

かなり目立つため、すぐさまソーナ達は発見することが出来、眷属の皆が

集まり次第出発となった。

 

「ふむ」

 

駅の敷地内に入った瞬間、ひしぎは下に何かあると感じた。

恐らく冥界へ行く"何か"なのだろうと悟り、ソーナ達の後を付いていった。

 

「そういえば、先生は冥界へ行くのは初めてなんですか?」

 

隣を歩いていた桃がふと質問してきたのだ。

 

彼女はひしぎが何者であるかはまだ知らない故、ソーナが連れてきた=悪魔の

関係者だと思い込んでいたのだ。

 

その問いに頷くひしぎ。

 

「ええ、冥界は初めてですね。桃は行った事あるのですか?」

 

「会長の眷属になってから一度だけあります」

 

それは去年の夏ごろに一度、冥界の空気を感じてもらうためにソーナは

新しく眷属になった桃や憐耶をつれて帰国していたのだ。

 

この眷属の中で一度も行った事がないのは、匙と留流子のみである。

他は去年に一度冥界入りしていたのだ。

 

「きっと驚くと思いますよ! 御伽噺で出てくるお城などが沢山建っていますので」

 

首都は勿論各領地には豪勢な城が立ち並び、名門であるほど城の大きさ、

装飾に凝っているのだ。

 

「ええ、楽しみにしています」

 

ひしぎと桃の前にはロスヴァイセと椿姫が並んで歩きながら会話していた。

 

「私もまさかこの様なルートで冥界へ行くとは。

 行くとしたらオーディン様の護衛でとばかり思っていましたので」

 

ロスヴァイセも冥界へ行くのは初めてだった。

元々オーディンの護衛として冥界へ赴く予定だったが、あの時護衛の任を解かれ、

あたらな任務に就き、冥界へ行くことがなくなったな、と、思っていたロスヴァイセ。

その感想に椿姫は苦笑し

 

「確かに、貴方にとっては想定外のルートかもしれませんね」

 

「はい」

 

「それに今から使うのはシトリー家専用のルートなので、恐らく外部の

 方を乗せるのは初めてかと」

 

「そうなのですか?!」

 

「ええ、私が知っている限りでは初めてです」

 

椿姫とソーナは中等部からの知り合いであり、その頃から彼女の眷属であった

椿姫は毎年ソーナに付いて冥界へ帰還しており、眷属以外がこのルートで

一緒に帰還したことは一度も記憶に無かったのだ。

 

ロスヴァイセは学園では椿姫と同じクラスに転入したので、

転校当時から何かをお世話になっており、仲の良い友人となっていた。

 

雑談しながら駅内部に入ると、施設の一番奥にあるエレベーターへ皆が乗り込み、

タッチパネルでは上にしか行かないはずのエレベーターなのだが、

ソーナがポケットから取り出したリモコンのような小型のボタンを押すと、

下へ降りていった。

 

そして、扉が開きひしぎ達の目に飛び込んできたのは──地上にある駅と瓜二つだった。

ただ違うとすれば模様や造りが人間界の物では無い部分と、人気がまったく無かった。

 

「これは、流石想像外でした」

 

流石のひしぎもこの光景に驚きを隠せず、呟いていた。

駅の地下にまったく同じ構造で駅を再現しており、悪魔側の技術の高さが

垣間見れた。

 

「私も最初は同じリアクションでしたよ」

 

ひしぎの驚きようを見て、隣に居た桃が苦笑していた。

 

「2番ホームまで歩きますよ」

 

ソーナは先頭に立ち皆を先導していく。

エレベーター近くの通路に入り、何個かの通路を左右に曲がると、

もう一つの空間へ出ることが出来、ホームに列車らしき物が止まっていた。

人間の作った列車より、独特なフォームでシトリー家の家紋が列車に

描かれていた。

 

「あれが、うちの所有する冥界を繋ぐ列車です」

 

「…」

 

もう驚きを通り越して言葉が出なかったひしぎ。

 

流石に個人所有の列車までは想像が付かなかった匙と留流子は、少し後ろで

目が飛び出すほど驚いていた。

 

そのままソーナの先導の元、列車へ乗り込んだ。

本来ならば、次期当主であるソーナは一番前の車両に乗らなければならない

悪魔界の仕来りがあるのだが、彼女はそれを無視して眷属達と同じ

車両に乗り込んだ。

 

勿論他の悪魔にはばれない様に身代わりの人形を一番前の車両に置いてあるので、

入念な検査が無い限りは見つからないようになっていた。

 

列車は荷物などを全部積んだことを確認し、発車の汽笛を鳴らし動き始めた。

 

 

 

 

 

その数時間後、リアスとその眷属達も同じ場所で待ち合わせをして、

全員が集合した後、地下の三番ホームに降り立った。

 

リアスは仕来りに習い、一番前の車両に乗車。

一誠や小猫達は中央の車両に乗り、各自好きな席へと移動する。

 

一誠を中心に朱乃、アーシア、ギャスパー、祐斗、ゼノヴィアが座り

小猫は少し離れたところで一人で座り、寂しそうに窓の外を眺めていた。

 

ここ最近小猫の様子がおかしい事に気が付いた一誠は小声で朱乃に

聞いてみた。

 

「最近小猫ちゃんあまり部活に顔をださないし、落ち込んでるように見えるんですが、

 一体何があったんですか?」

 

部室で小猫の姿を見なくなり、居た時に一誠が卑猥な話をしてもツッコミが来ず、

毒舌も無い。

 

明らかに気落ちしている小猫姿があり、この間一誠は直接聞いてみたが

 

「なんでもありません」

 

と、小猫は答え。

話が終了してしまったのだ。

 

一誠の質問に朱乃は顎に手を当て、天井を見るような仕草で少し

考えた後答えた。

 

「私もあまり事情は分かりませんが、あの襲撃事件以降小猫ちゃんの

 様子がおかしくなったのは間違いありませんわ」

 

リアスから大まかな事情は聞いていたが、あの"事"はリアスの主張が正しいと

判断していたため、それが原因とは思っていなかった朱乃。

だから、他の原因があるのかと考えていた。

 

「朱乃さんでも原因が分からないんですか」

 

「ええ、お役に立てなくてごめんなさいね──ただ、リアスなら何か知っているかも

 知れませんわ」

 

「なら、冥界に着いたら直接部長に聞いてみます!」

 

可愛い後輩の元気の無い姿を見るのは一誠にとって苦痛以外の何物でもなく、

何とかして元気付けようと列車の中で色々試してみたが──全て撃沈された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、余談であるが列車に生まれてはじめて乗ったひしぎは、

誰にも気づかれること無く、この技術の進歩に心を躍らせていた。

 




こんにちは、夜来華です。

丸々一話、戦闘後の後日談みたいな感じで使ってしまいました。
ここ立て続けて彼女の領地で事件が起きており、いつも後手に回っているため
今回この様な措置を書いて見ました。
原作ではそのような描写はなかったはずなので・・・。

後一誠とアーシアが殺された件についての言及は、リアスの管轄内で
"堕天使"の手によって殺されたことが問題となっています。

別に堕天使が人間を殺しても問題はありませんが、監視の中
起こった事件なので。

リアスの小猫への説明不足により王と眷属との関係に完全に亀裂が入った回です。
私の書き方ではどうしてもリアスアンチぽくなるのですが、
リアスの取った行動は正しいく、小猫の意見も正しいのです。
そのすれ違いによって起きた出来事です。

日常回はやはりひしぎの影が薄い・・・私の書く主人公はいつも
影が薄くなりがちなので、治したいところです。

感想、一言頂けると嬉しいです。

追記
リアス側の心情しか書いていなかったので、小猫側の心情を加筆しました。
小猫にとってひしぎの存在は日に日にでかくなっています。
原作の当初はリアスが情愛に深い行動とは思えなかったので・・・。
後、一誠の事ばかりで聖剣事件でも祐斗の異変をそのままで、
過去を語るだけ語ってそのまま放置ぽかったので、小猫の場合でも
こんな感じなのかなと思いながら書いて見ました。
どちらの考えも正しいと伝えれるように書きたいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。