ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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この場に居る者にしか分からない話


彼は、いや、あの幻の一族は存在していた


歴史の闇へと葬られた事実をしった私達は──


第16話 葬られた歴史

冥界、天界、堕天使の本部から応援を呼び、学園の修復、負傷者の搬送を急いだ。

セラフォルーは桃、ガブリエル、アーシアのお陰で意識はハッキリとしていて、

外傷は消えたが、念の為冥界で検査入院する事が決まった。

 

アザゼルは堕天使達を動員して各勢力の負傷者の搬送を担当し、

ミカエルは天使達に負傷者のその場での応急処置を指示

サーゼクスは応援に来た悪魔達とリアス、負傷をしている一誠を除く眷属達、

ソーナとその眷属達と一緒に学園の修理補修を担当し、皆力を合わせて事後処理に

取り掛かっていた。

 

ひしぎは先に生徒会室でオーディンとロスヴァイセ、ソーナ、小猫が来るのを

壁際の窓から、グラウンドの様子を見ながらまっていた。

 

オーディンはすぐさま本国に『禍の団』の襲撃に備えて警戒態勢を指示し、

3勢力から安全が確保されるまで会議室での待機をお願いされそれに従っていた。

 

約1時間後警戒態勢が解かれ、オーディンとロスヴァイセがソーナと小猫に案内されて

漸く生徒会室にやってきた。

部屋の中では、待つ時間暇になったのか、イスに座りながら優雅に読書している

ひしぎの姿があり、とても戦闘後とは思えないぐらいの寛ぎっぷりだった。

 

「待たせてしまってすまんの」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

オーディンが遅くなった事に謝罪すると、読んでいた本を閉じ顔を上げた。

ソーナはそのまま3人をひしぎと対面席に座らせ、自身も会長席に座る。

 

「そうですね、どこから話していいか分かりませんが、貴方は

 "あの時"のオーディンさんで合っていますか?」

 

自身が読んだので、話を切り出すひしぎ──そして、自身が昔会った事のあるオーディンと

同じ人物か確かめたかったのだ。

 

「ああ、合っているぞ。ワシはちゃんとお主の名前、存在を覚えておる」

 

懐かしむような笑みを浮かべてオーディンは肯定した。

 

「そうですか──なら、この世界は私が存在していた世界であっていると、云う事ですね」

 

オーディンの言葉により、漸く生前生きていた同じ世界だと認識でした。

心の中では、本で読んだ"平行世界"の可能性も捨て切れていなかったのだ。

 

壬生一族は存在するが、違った結末をたどった世界かと、内心思っていたのだが

漸く確証が得られたのだ。

 

「ならばお主は報告にあった通り、一度死んだのか?」

 

「ええ」

 

「なんと・・・! お主ほどの実力者が亡くなるとは・・・一体どんな者に

 やられたのじゃ?!」

 

オーディンは信じられないといった表情を作ると、それを見たロスヴァイセはオーディンの

豹変振りに驚きを隠せなかった。

 

(オーディン様がこれほど取り乱すとは・・・)

 

その言葉にひしぎは苦笑し、ソーナに説明した時と同じように説明した。

 

「原因不明の病気、『死の病』に掛かってしまいまして、治療方法がなかった為、

 延命措置だけは出来ていたのですが、少し無茶をしてしまって

 それが悪化し、死んだだけです」

 

彼の反応を読み取り、明らかに壬生一族の情報が出回っていない事を読み、

鬼眼の狂との死闘をへて死んだと言わずにそう濁した。

 

彼らが生きていて新しい一族の未来があり、悪の歴史を辿っていた一族の事を話し、

彼らが折角気づきあげた未来を汚したくなかった。

 

本来の一族の歴史は、生き残った者達が伝えるべき──と、ひしぎは考えた。

 

故に、同じように話を濁したのだ。

 

「ふむ、なるほどのぅ。それでお主は死んだ後現代に蘇った、という事なのじゃな」

 

「ええ、何の思惑が動いたか分かりませんが、その通りです」

 

その後も当人にしか判らない会話を続ける二人。

他の3人は話についていけず、疑問ばかりが募り、ついに小猫が

手を上げて質問した。

 

「──話の途中ですみません。一つ質問があります」

 

オーディンとひしぎは会話をやめ、小猫の言葉に耳を傾け返事をした。

 

「どうしました?」

 

「オーディン様とひしぎさんは一体何処で知り合いになったんですか?」

 

小猫の質問に、ソーナとロスヴァイセも頷く。

 

「ふむ。そうですね」

 

ひしぎは顎に手をやり、オーディンの方に向き直ると、オーディンは肩を

竦めながら答えた。

 

「その回答にはワシが答えよう──そうじゃな、天界、冥界、北欧や他の地域でも

 語られている、初代魔王が引き起こした戦争時の話じゃ」

 

オーディンは懐かしむように語りだす。

 

「──あれは、開戦後数世紀たった後、ワシ等北欧神話系に天界側から救援を

 求められてのぉ。当時はまだ北欧側は天界よりの陣営じゃった」

 

初代魔王と神の戦いは苛烈を極め、冥界、天界全域が戦場だった。

そして、初代魔王が盟友である真魔獣王達の参戦により、一気に戦線は傾き、

悪魔側が優勢に成っていた。

 

聖獣などを投入するも、勢いの付いた悪魔側を押し込むことが出来ず、

戦線は劣勢状態だった。

 

神は苦渋の決断により、当時まだ親密に近い関係だった北欧神話の神に援護を求め、

北欧側もそれに了承した。

 

援軍に向かったのはオーディンとフレイア、ヘイムダルの3人と戦乙女約5千。

神が救援を出した戦域は、丁度冥界と天界の狭間にある出来た人間界の入り口付近である。

 

戦争が長期化しているさなか、元々大陸のみだった世界に生物が誕生しその過程で

人類が生まれ、徐々に数を増やしていた。

 

丁度人類が誕生して数世紀たった後のことだった。

初代魔王は神が何度も人類を救済している話を聞き、人類を天界側の尖兵として

召還するするかもしれないと判断した魔王のうちの一人、初代ベルゼブブは

盟友の『原初の真白蛇王(ファラク)』と悪魔の軍勢約5万を人間界に派遣。

 

魔王軍の侵入経路は大規模な軍勢の為、未開拓地にゲートが設定されており、

そこから各地へ襲撃する予定だった。

 

現世に侵入してきた魔王軍に北欧側は、ヘイムダルに4千の戦乙女を与え、

魔王軍の正面から衝突させ、オーディンとフレイアは500づつ率いて両方の側面を強襲。

 

侵攻してきた魔王軍の横ばいに思い切り打撃を与え、強襲してはすぐ撤退の

繰り返しをして魔王軍の勢いを削いだ。

 

だが、魔王軍も虚をついた強襲と撤退に対応し、1万ずつの軍を切り分けて

対応し、左翼、右翼に1万づつ配置し、正面に2万、中央に1万と『原初の真白蛇王(ファラク)』が布陣。

この布陣により、オーディンとフレイアは中央まで攻撃が届かず、数十倍以上の

敵の猛攻を受け一度撤退し、合流を図った。

 

 

ヘルダイムと戦乙女達が遠距離固定砲台に徹している為、自軍の5倍もの敵軍を

頑張って足止めをしているが、それも時間の問題である。

徐々に徐々にと距離をつめられていた。

 

魔王軍の勢いをもう一度削ぐため、オーディンとフレイアは今度は二人で、

一気に右側からの強襲をかけた。

 

狙うはベルゼブブの眷属である指揮官。

一気に右側の軍を突き抜けた瞬間、オーディンの思考に何か引っかかるモノを

感じたが、ここで止めると次はチャンスすらないと感じ気にせず吶喊した。

 

縦横無尽に悪魔を屠りながら突き進んでいくと、中央軍に指しかかろうとした瞬間、

紅に染まる獄炎が行く手を阻み、オーディンは咄嗟に紙一重で回避に成功したが、

フレイアと戦乙女の半数が飲み込まれた。

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

断末の様な悲鳴が辺りを木霊し、焼け焦げる匂いがその空間を支配する。

オーディンは防御魔方陣を体に展開すると、獄炎の中に飛び込みフレイアを救出したが、

全身に大火傷を負ったフレイアは辛うじて意識はあるものの、戦闘続行は

見る限り不可能であった。

 

「当時のフレイアはまだ若く幼くて、北欧の神々の中でも力は下のほうであり、

 ワシもまだまだ未熟だったこともあり、彼女を庇うことすら出来なかったのじゃ」

 

そのままオーディンは続ける。

 

負傷したフレイアを抱えるオーディンの目の前に現れたのは『原初の白蛇王(ファラク)』であった。

全長30メートルはあろうかとする巨体を持ち、全身の色は白銀であり、

見るもの全てを魅了する色合いであるが──見た目に反して、性格は凶暴で残忍だった。

 

原初の白蛇王(ファラク)』は体内にある魔力操作により、全長を調節でき、

今回は現世に出るゲートの大きさに合わしての全長だった。

 

「流石のワシも、フレイアを庇いつつあの魔物(ファラク)を相手をするには、

 分が悪すぎたのじゃ」

 

フレイアを庇いつつ全力で戦う反面、部下に撤退指示を出していた。

だが、オーディンの予測を上回る速度で、左側に居た軍勢が後方から回り込み、

撤退ルートを塞いでいた情報が耳に入っていた。

 

元々右側に居た軍勢はあまり抵抗せずに防御に徹しており、左右に分かれ、

彼らを中央内部まで誘導していたのだ。

 

そして半数になった軍の一つはオーディン達の包囲網を完成させるために気づかれないように、

彼らの後方を塞ぎ、もう半数の軍は、正面の軍へと合流し一気に正面の攻勢に参戦していた。

 

急ぎすぎた為、まんまと敵の策に嵌りフレイアは負傷し、自身も包囲され撤退が

出来なくなっていたのだ。

 

それでも、オーディンは諦めずに事態の打開を開くために奮戦するが、

戦力の欠けた自軍が崩壊するのはそう時間はかからなかった。

 

撤退ルートの確保に動いていた戦乙女部隊は壊滅、ほぼ全員が戦死。

オーディンも『原初の白蛇王(ファラク)』との戦闘で重症を負っていた。

この魔獣も『原初の真魔獣王(ベヒーモス)』と同様の特殊能力を備えており、

相性が悪すぎる相手だったのだ。

 

「絶体絶命の最中、覚悟を決めたその時じゃ──雲の奇怪な化け物と周りに展開している

 悪魔達の頭上に光の雨が降り出した」

 

原初の白蛇王(ファラク)』の放った獄炎が雲の化け物に飲み込まれ、

周囲の悪魔達を光の洪水が消滅させていた。

 

何が起きたか把握できないオーディンとフレイアを護るかのようにして、

二人の男女が降り立った。

 

二人は非常に若く、まだ子供の域を漸く終えたばかりのような幼さだった。

女の方は男の子より少し年上のような感じであり、可愛らしい顔立ちで

好戦的な表情を浮かべたショートカットの髪型をし、軽めの着流しに短パン姿と下駄を履いていた。

 

もう一人は男の子で、女の子とは違い無表情であるが端正な顔立ちの少年──ひしぎだった。

 

「んじゃ、ひしぎ周辺の雑魚達の頼んだっ。あちきは、あのデカ物を相手するよん」

 

「わかりました」

 

そう言って二人は別れ──戦闘が再開された。

 

原初の白蛇王(ファラク)』と女の子との戦いは、序盤『原初の白蛇王(ファラク)』が

押していたが、特殊能力を全て把握し反撃に出た女の子の猛攻により、細切れにされ消滅。

子供と侮られていたひしぎだが、悪魔相手に一歩もひかず一方的な虐殺を開始していた。

 

その光景に言葉が出なかったオーディンとフレイア。

 

そして数分後、周囲の敵の殲滅を確認した二人

 

「あちきはこのまま敵本陣を潰してくるから、ひしぎはあの二人の治療をしてやるんだ」

 

「いいんですか? それは命令には無かった筈ですが」

 

「大丈夫、思惑は違えど、この二人も人間を護ろうとしてたんだ。罰にはならないよん」

 

「──わかりました」

 

そういって女の子は中央軍へ吶喊をし、ひしぎは倒れている二人の横へ行き

治療を開始したのだ。

 

「その後ワシとフレイアは安全圏までひしぎ君に護衛され生き延び、

 だから、彼とはその時知り合ったのじゃ」

 

オーディンの言葉にソーナ、小猫、ロスヴァイセは言葉を失っていた。

 

各地に伝わる話だとオーディンとフレイアが『原初の白蛇王(ファラク)』を倒した事に

なっており、当事者の言葉でそれは否定され、消された歴史の真実を聞き、

頭が混乱していた。

 

そして何より、ひしぎはその時代から存在していたことにさらに驚愕していた。

ソーナより混乱している小猫とロスヴァイセにはひしぎから壬生一族の存在を教えられ、

寿命がないことに関しては納得してもらった。

 

「だがらワシとフレイアにとっては命の恩人なのじゃ」

 

「なるほど、そいういう訳だったからあの会談でシトリーさんの支持を表明したのですね」

 

漸く主のあの時の会談の行動、支持表明の理由を知り納得するロスヴァイセ。

 

「そうじゃ。もしあの時ひしぎ君達が現れなかったらワシとフレイア、ヘイムダルは戦死し、

 人間界も蹂躙されており、今の情勢はもっと変わっていたぞい」

 

あの一戦で世界の未来が少なからず変わったのは事実だった。

悪魔側一強の勢力となり、天界、北欧神話側は衰退の一途を辿る事になっていたと、

オーディンは語った。

 

あの時の天界側には『原初(オリジナル)』の魔獣達への対抗策が無いに等しいぐらいだったが、

ありとあらゆる策を実行し膨大な犠牲を払いつつも倒すことに成功していた。

 

「これでお主達も理解したじゃろう」

 

その言葉に頷く3人。

当の本人であるひしぎは懐かしさを感じて口元に笑みを浮かべていた。

そして口を開いた。

 

「貴方の方が年上なのですから、君付けはいりませんよ」

 

「わかった。まぁ、昔話もこれで終わりにしてお主に伝えておかねばならぬ事がある。

 話してもよいか?」

 

オーディンは優しかった口調を変え、真剣さを滲ませひしぎの方に向き直ると、

ひしぎは軽く頷いた。

 

「今回の戦いであの小僧共はお主の力を直に感じて、個別に会談を開くそうじゃ」

 

その言葉に一番驚きを表したのはソーナだった。

 

「私に一任して頂いた筈では?!」

 

「うむ、"あの時"はシトリー君に一任していたのじゃが、あの戦いをみて、

 アザゼルとミカエルは危機感を覚え、サーゼクスもシトリー君一人に

 任せても良いのかと疑問を感じ始めたらしくてのぉ。意見の一致した3人は

 秘密裏に会談を開くらしくてのぉ。その情報がワシの耳に入ってきたのじゃ」

 

「なっ・・・私は信用されていないということですか・・・」

 

オーディンの言葉にソーナは信用されて無いと感じ取り気落ちするが、

それも仕方のないことだと悟った。

 

魔王であるセラフォルーを倒した相手と互角以上の戦いを繰り広げ、

圧倒的な力を見せ付けた。

 

故に組織、勢力のトップは個人の感情は無視して各仲間を守るために、

もう一度会談を開くということなのだ。

 

「シトリー君のその考えでだいたい合っとる。ワシもその考えは共感できる。

 だたのぉ、一任したシトリー君を外した"会談"はいただけぬ」

 

「…」

 

ひしぎは目を瞑りながら黙って聞いている。

 

「だからのぉ、その会談にワシを"呼びざる得ない"様に一つ策を講じることにした」

 

3人の極秘会談に何とか潜入できないか思案していたオーディンはここに来る途中、

咄嗟にいい案がひらめいたのだ。

 

「──ロスヴァイセよ。オーディンの名の下に命じる。ひしぎの護衛兼部下の任に就け」

 

突然名を呼ばれ、その内容を聞いてロスヴァイセは慌てて立ち上がる。

流石のひしぎも呆気に取られていた。

 

「オーディン様?! どうしてです!」

 

「そなたが護衛としてひしぎの傍に居るなら"何か"あった場合真っ先に北欧側に

 情報が届くのも一つ。そして先にこちらから"監視"という名目でそなたが

 傍らに居れば、あの小僧共は監視要員をこれ以上増やそうとしないはず」

 

既に、ソーナという監視要員が居る状態であり、そこに一人足すだけでも

十分効果はある。

 

そしてひしぎがら警告を貰っている3人はそれ以上の監視要員を

出せない状態となるのだ。

 

オーディンはそれを見越して先手を打つことにしたのだ。

あの時宣言したように、自分が責任もって"見る"という行動を示すために。

それならば、あの3人も文句は言ってこないだろうと踏んだのだ。

 

「オーディン様、ご自身護衛はどうなさるつもりですか?!」

 

「ロスヴァイセよそれは杞憂じゃ。ワシ一人なら特殊転移魔法が使え、

 一瞬で本国に帰還できる」

 

「ですが──」

 

尚も食い下がるロスヴァイセにオーディンは厳かに告げた。

 

「ロスヴァイセよ。ワシの命令が聞けぬのか?」

 

鋭い眼光に射抜かれたロスヴァイセは、オーディンは本気でこの任務を

命じているのだと悟り──個人の感情を切り捨て、考えを改め、地面に片膝を立て頭を垂れた。

 

「──承知しました。このロスヴァイセ、我主オーディン様の命により、

 ひしぎ様を我命に代えてもお守りいたします」

 

その姿勢を受け、オーディンは満足そうに頷いた。

 

「──受けてもらえるかな? ひしぎよ」

 

二人のやり取りを最後まで見届け、その心遣いに感謝しつつ

オーディンのもう一つの思惑の存在に気がついた──

 

なぜなら、自身の強さを知っているのに"護衛"をつけるという

不自然極まりない提案であり──なにより、"護衛兼部下"という言葉が

そのままの意味合いで取れることもある。

 

(部下にしてこの娘を守れってことなのでしょうか? まぁ、丁度この世界で遣る事は

 無いですし、監視の目が減るのはありがたいので、断る理由はありませんね)

 

何者かから彼女を守るために、自身を選んだのだと把握したひしぎ。

恐らく自分の戦いは3勢力以外にも知れ渡っていると読み、

この世界を知る為にいい機会だと思いこの提案を受けることにした。

 

「──わかりました。お願いします」

 

オーディンとロスヴァイセに向けて頭を下げたひしぎ。

その言葉を聴いたロスヴァイセはオーディンの傍らから離れ、ひしぎの元に歩み寄り、

先ほどと同じ姿勢を取った。

 

「今日、今この時、この瞬間から私は貴方の『矛』であり『盾』。

 貴方を狙う全ての者から全身全霊をもってお守りいたします。ひしぎ様」

 

ロスヴァイセは二人の思惑に気づかないまま、

中世の騎士のような言葉を並べ、新たなる主となったひしぎへ誓いを立てた。

それを見て聞いたオーディンは漸く表情を崩す。

 

そう、ロスヴァイセは気づかなくても良い事なのだ。

 

「こやつはお堅くて融通が利かず、彼氏も未だに作った事が無く、見た目は魅力的なのじゃが、

 中身が残念戦乙女である。じゃが、それでもワシの護衛を一番長く勤める事が出来た、

 非常に我慢強く優しい優秀な娘じゃ」

 

貶しつつも褒めるオーディンの言葉にロスヴァイセは思わず声を上げる

 

「ちょっと!? オーディン様!」

 

「じゃから──ひしぎよ、ロスヴァイセの事を"頼んだぞ"」

 

最後の真剣で優しげな言葉はひしぎの方に投げかれられ、

彼はそのまま頷いた。

 

「わかりました」

 

3人のやり取りを最後まで黙って聞いていたソーナと小猫は複雑な気持ちで一杯だった。

ソーナは、姉を助けて貰った恩人に対して、自身の王が"そういう"行動を取ったことに、

意味が理解はしているが、個人の感情としては憤りが生まれた。

 

確かにあの力は誰が見ても恐怖や不安を与えかねないぐらいの衝撃だったが、

結果的に自分たち悪魔と天使、堕天使の勢力は"守られた"のだ。

 

だからそこ、理性では理解していても、感情では理解したくなかった。

 

小猫の場合も、ほとんど同じ状況だった。

ソーナほど理解は出来ていなかったが、あの戦場でもしひしぎが助けに来なければ、

セラフォルーは戦死、恐らくサーゼクス、ミカエル、ガブリエル、アザゼル以外の

全員が殺されていたと、小猫は本能で悟っていた。

 

だからこそ、ひしぎに感謝の言葉は送れど、そういう態度は頂けないと感じていた。

実際、ソーナと小猫、オーディン、ロスヴァイセはお礼を言ったが、

勢力側からの言葉は無かった。

 

ただただ、警戒心丸出しの仲間たちに少し不満を感じていたのだ。

確かにあの力に対する、彼女らの出した態度、雰囲気は理解できるが、

言葉一つぐらい送っても罰は当たらないだろうと思う。

 

だが、実際それはひしぎを知る者はそう感じるが、知らない者の反応としては

当然である。

だからこそ、小猫の心に"亀裂"が入った。

 

「では、ワシはそろそろ小僧共から連絡がくるはずじゃから。

 あの会議室に戻っておく」

 

オーディンはそういうと椅子から腰をあげ、手を振りながら生徒会室を

後にした。

 

そして残された4人は

 

「とりあえず、ロスヴァイセさん」

 

「さんは、要りません我主。私のことはロスヴァイセ、言い辛いなら

 ロセでもかまいません」

 

「わかりました──ロセ」

 

「はい。なんでしょうか」

 

「私は住んでいる場所が借りている個室なので──」

 

そう、ひしぎは未だに学園の個室を借りている身であり、実際二人も住める部屋ではなかった。

だから、ソーナと小猫の方に向き直り

 

「ソーナ、小猫さん、すみませんがロセの新居が決まるまで

 どちらかの家にロセを泊まらせてもらえないでしょうか?」

 

完全に面を食らった3人。

だが、よく思い出してみるとオーディンはロスヴァイセをひしぎの護衛の任に

付かせたのはいいが、どこに住み、どこで活動すれば良いかが、

まったく説明されていなかったのだ。

 

あやうく衣食住無しの生活が始まろうとしていたロスヴァイセは青ざめていた。

 

「オーディン様め・・・!」

 

肝心な所を説明せずに姿を消した元主に怒りを向ける。

 

「わかりました。私は個人宅なので部屋に空きがありますから。

 ロスヴァイセさんは私の家で預からせていただきます」

 

そう提案したのはソーナだった。

元々学園にある寮生活だったのだが、姉が尋ねてくる事が多く、

あの姿を生徒に見せたくない思いもあるが、万が一の事を考えて、

個人宅に移住し、予定より遥かにでかい家となっているので

空き部屋がいくつもある状態だったのだ。

 

「では、お願いします。ロセもいいですね?」

 

「はい。不束者ですがよろしくおねがいします」

 

住を提供してくれたソーナに深々と頭を下げるロスヴァイセ。

 

その後も、ロスヴァイセがこの地に住むことになった為に、

必要な物が大量に要るようになった。

 

何より一番の問題は資金だった。

 

「これは──ある意味最大の敵ですね」

 

真剣な表情を作りながらひしぎは呟いた。

今の今まで忘れていたのだが、ひしぎ自身文無しだったのだ。

お腹は減るし、乾きもあるが基本的に断水、断食しても死なない。

 

生きている頃は、壬生一族でも太四老だったため金銭的には

十分潤っており、手元に必要な分だけ残すと余った分は城下町の貧しい者達に配っていた。

 

だが、彼は一度死に蘇ったため。

職無し、文無しの身分まで下がっていた事に今更気がついたのだ。

 

「盲点でした」

 

本気で忘れていたひしぎのこの言葉に、3人は何て声をかけて良いかが分からなかった。

そして、ある事を思い出した。

 

「そういえば、ソーナ。あの保健の研修医って話はまだ有効ですか?」

 

「え、ええ。まだ大丈夫です」

 

この学校を散歩するために女医がひしぎに研修医という肩書きを与え、

学園長からはもし帰る場所がこのまま見つからなければこの学園で雇ってくれると、

いう話だったのだ。

 

本来の学園ならば理事長の許可が要るのだが、この学園の理事長は基本留守である為、

実質学園長の独断で運営している部分もあり、この件も学園長の独断だった。

 

「ならば、完全に動けるようになったのでその話を受けたい──と、

 話してもらっても良いですか」

 

「わかりました。すぐ連絡を入れてみます」

 

「ありがとうございます──あ、後ロセもこの学園に入学とかは出来るでしょうか?」

 

話を聞く限り、ソーナと同年齢である為、ひしぎは提案した。

 

「私は飛び級で北欧側の学園を卒業してしまったので」

 

彼女は非常に成績が優秀だったため、戦乙女の通う学園を飛び級で卒業していたのだ。

だからこそ、学生の年齢だったがオーディンの護衛という仕事についていた。

 

「遊べるうちに遊んでおいたほうが良いですよロセ。卒業後は死ぬまで働くことに

 なるのですから──学生としてこの学園を卒業しなさい」

 

言い方は少しきついが、ロスヴァイセの事を思っての言葉だった。

 

「──ひしぎ様がそう仰るなら。ソーナさんお願いできますか?」

 

一瞬考えたが、ひしぎの言葉に従う。

 

「わかりました。学園長に一緒に話してみますね」

 

その後も4人で今後のことを相談し、来週の休みには何も無ければ、

ひしぎとロスヴァイセの二人を街に案内することが決まった。

 

 

 

 

そして、生徒会室を後にしたオーディンの元には彼の予想通り、

会談の参加要請を伝えにきたガブリエルが姿を現した。

 

先ほど使っていた会議室にはサーゼクス、アザゼル、ミカエルが

先ほどと同じ席に座っており、それ以外の者は居なかった。

 

案の定、ひしぎに関する会談が始まり、オーディンがロスヴァイセを

彼の監視役につけたと報告し、これ以上の監視者を増やすのは危険だと主張し、

彼らの意見を退けた。

 

ならば、万が一のことを考えて学園内部に各勢力の実力者を配置させる案が

出たが、これも彼を刺激するとしてオーディンは却下した。

 

元より、こちらから手を出さない限り向こうも何もしないと宣言している事を

もう一度3人に聞かせ、これ以上の会談は意味がないと主張した。

 

彼らの言い分は正しいのはオーディンも良く判っている。

だが、向こうの言い分もきちんと聞いていれば手を取り合えることが

可能だ知っていた。

 

だからこそ、この件に関してはソーナに一任する事を最後まで貫き通す事を

決めていたオーディン。

 

そして、万が一のことがあれば自身が先頭に立ち、責任も自身が取ると今一度宣言し、

会談を終了させた。

 

皆が退出した後、オーディンは本国へ帰還するために転送魔方陣の準備にかかっていた。

そして今日一日の事を振り返る。

 

閉鎖的となっていた北欧領土から久々に出てきてみれば、衝撃的な事が連続して起こり、

昔の騒々しかった日々を思い出し苦笑する。

 

そして──オーディンの思惑通り事は運べた。

 

(これで、あの娘には最強の護衛がついた)

 

先ほどまで自身の護衛を担当していたロスヴァイセの事である。

 

(恐らくひしぎはワシのこの"行動"を認知した上で引き受けたじゃろうな)

 

昔の恩を返すために、善意からとった行動だったが、もう一つの思惑もあった。

それは、ロスヴァイセが何者かに狙われている──いや、"狙われる"と言った話を

知己の預言者から聞いていた。

 

ただ、それは何時なのかは不明だったため、オーディンは彼女が学園を飛び級で

卒業した知り、すぐさま護衛に抜擢したのだ。

 

なぜ、一介の戦乙女にここまでしようとするのには理由があった。

彼女の祖母であるゲンドゥルに若いころから色々と助けてもらった借りがあり、

彼女の父母もアースガルズに多大な貢献をもたらしており、欠かせない人物となっていた。

 

だからこそ、その恩を返す為に彼女の"護衛"をオーディンがしていたのだ。

この事を知っているのはフレイア、フレイ、トール、ヘイムダルのみである。

 

それ以外の者から見ればオーディンの護衛としてのロスヴァイセなのだが、

実際は逆だった。

 

そして、3大勢力との接触が切っ掛けで、自国に不満を持つ者、

もし神々の中で裏切り者が現れ、実力行使でこられたら幾らオーディンでも

ほかの神相手では彼女を守りきる自信はなかった。

 

どうするか思案していたところに、戦友である初老の悪魔から話を聞き、

もしやと思い、行動に移したのだ。

 

そして、結果は云うまでもなく。

 

ロスヴァイセは最強の護衛に守られる形となったのだ。

思惑を看破しながらも提案を受けてくれたことに、オーディンは心から

ひしぎに感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、冥界へ緊急搬送された悪魔側の兵士達が目を覚まし、

何があったか今一度話しを聞いてみると。

 

「人間の少女だ──リアス・グレモリーと同じ年齢ぐらいの少女が

 我らと天使、堕天使達を壊滅させたんだ」

 

二刀の刀を操り、髪は黒色でソーナ・シトリーと同じような髪の長さであるが、

切り口はばっさりであり、ただし、体つきはリアス・グレモリーを同等、

服装は花びらが描かれている着流しにロングスカート、後は胸元に勾玉の紋が3つあり、

それが円を描いていた──知って居る者ならば『巴紋(ともえもん)』と呼ぶ。

 

刀を一度振る度に刀の刀身から無数の水の龍が現れ、縦横無尽に駆け回っていおり、

誰も接近する事が出来ずに水龍に呑まれ、叩き落されていった。

 

ようやく接近することが出来た者は──圧倒的な力により叩き潰された。

 

そして悪魔達はその人間を──少女を見て恐怖を感じた。

 

「あれは、あの人間は──人の皮を被った化け物だ!」

 

と、意識を取り戻した悪魔の兵士達が語った事実だった。

 

 




こんにちは、夜来華です。

回想をメインにしつつ、各勢力の対応回でした。
一番大きく動いたのが北欧側、ロスヴァイセの立ち居ちは完全に原作乖離です。
そしてひしぎは生活する為の、ある意味最強の敵と出会いました。

ちなみに、桃の法力の力は朱乃は見ていません。
後、最後に話で出てきた者の正体は・・・!?

感想、一言頂けるとうれしいです。

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