ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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レヴィアタンの名を受け継ぎし者

レヴィアタンの血を受け継ぎし者

どちらかの資格を有する者を守護する『最悪の魔獣』


第14話 魔獣

セラフォルーは目の前に居る魔獣を目にするのは、これで3度目だった。

 

一度目は、幼き頃の戦争中

 

二度目は、レヴィアタンの名を受け継ぎいた時に、契約した自身の眷属。

 

そして、今回が三度目だった。

 

セラフォルー自身も『陸の魔獣王(ベヒーモス)』を眷属として召喚する事は

可能だが、未だに完全な制御は不可の状態であった。

 

普段は温厚で穏やかな性格なのだが、召喚魔方陣を使って召喚する場合、

何かしらの力が働き、凶暴で残忍な気性に変貌しているのだ。

 

召喚すれば数日間は破壊衝動が収まらず、悉く目に映るものを破壊し、

全てを灰燼に帰す。

 

故に彼女は契約後、一度も召喚した事がなかった。

 

いや、召喚できなかった

 

なぜなら──幼き頃に見た、暴走した『陸の魔獣王(ベヒーモス)』を見て

心の底から恐怖を覚え、今でも覚えている。

 

あの時7日7晩破壊の限りを尽くし、冥界にある大陸を10以上破壊し、

数万以上の戦死者をだしたのだ。

 

人体の一部だった肉片や骨片や血などが燃え盛る大地を彩り、

悲鳴と絶望の呻き声が絶え間なく聞こえていたのだ。

 

それは子供だった彼女の心に酷く大きな爪あとを残したのだ。

 

そして彼女だけでは無く、サーゼクスもミカエル、アザゼルも同じような経験をしていたのだ。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は天界に住む、神獣、聖獣や冥界の魔獣、ドラゴン達の対抗策として、

魔王の手によって創られた生体兵器である。

 

元となった『原初の真魔獣王(オリジナルベヒーモス)』は初代魔王の眷属ではなく、戦友として当時に合った

大規模な戦争に参戦し、圧倒的な力を奮い、天界側に大打撃を与えるが、

神の策謀により『真なる赤龍神帝(グレートレット)』、『無限の龍神(オーフィス)』と並び、

最強と呼ばれるドラゴンと戦闘になり、互角の戦いを繰り広げたが、敗北。

 

その後初代魔王が『原初の真魔獣王(オリジナルベヒーモス)』の体から血と肉を採取し

自身の血肉を融合させ誕生させたのが現在の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』である。

この真相を知っているのは、初代魔王の血縁者と、歴代魔王のみである。

 

生体兵器として新たに生まれ変わった『陸の魔獣王(ベヒーモス)』だが、『原初の真魔獣王(オリジナルベヒーモス)』の

強さの7割程度しか発揮できず、完全再現にはならなかったのだ。

 

それでも、魔王と同等の力を持ち、複数存在するのだ。

 

そして、それらは代々魔王の血を受け継ぐ者に託され使役されてきた。

ただ、初代魔王以外は完全に制御下に置く事が適わず、全て暴走していたのだ。

 

冥界の最下層に住む魔獣達の強さは暴走状態で魔王と同等かそれ以上であり、

それ位ならば、魔王が単体で簡単に処理できる。

 

しかし、この『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はほかの魔獣とは違い、

4大魔王が束になっても倒すのが難しいのだ。

 

理由は簡単であり、単純である。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』を含む魔王の使役する生体兵器には、

体の表面に障壁が張ってあり、それらは魔法を消してしまう効果がある。

 

──『魔力消失(ウィズ・キャンセラー)

 

全ての攻撃動作に付与され、対魔法の特殊能力である。

 

初代から現代魔王まで戦い方は全て魔法を使用している。

何かしらの動きに全て魔法が付与されており、故にこの魔獣には一切効果が見込めず、

近距離であろうとその障壁を突破する事は不可能に近い、突破できたとしても

魔獣の皮膚自体堅牢のような硬く、まともなダメージを与える事は難しく、

尚且つ、巨大な体格の割りに俊敏に動き、近接戦闘も得意である為、

近接戦闘の不得意である、魔王を含めた神は相性が悪すぎて、

一方的な戦いになるのだ。

 

召喚する者の力によって個体差は大きく変化する。

先代魔王の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の全長は十メートルを超えていた、

そして今回のカテレアの召喚した魔獣の全長は3メートル強だった。

 

だが、ぞれでも脅威である事は変わらない。

 

例えバアル家特有の『滅びの力』すら、無効化されてしまう。

逆に、純粋な格闘術、剣術ならば押さえ込む事が可能なのだ。

 

魔王達は万が一召喚した場合に備えて、眷属の中にそれらに該当した

メンバーを有している。

 

そして現在動いているメンバーで対抗できる存在は、ゼノヴィア、イリナ、祐斗、小猫、

ヴァーリ、一誠のみである。

 

しかしゼノヴィア、イリナ、祐斗、小猫は圧倒的に実力不足で、なす術がない。

唯一対抗できるのはヴァーリと、『禁手化』を絶対条件とした一誠のみである。

 

 

 

 

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』と対峙する、セラフォルーは最悪の事態を

脳裏に描いてしまい、それを否定するように頭を横に振った。

 

(──ダメ、そんなことだけは絶対にさせちゃダメ)

 

幼い頃に植えつけられた恐怖が瞬きをする毎に浮び上がり、体が震え気力を奪っていく。

相手はそれを無視するかのように、一歩、また一歩とこちらへ前進してくる。

 

だが、彼女の後ろには──守るべき大切な"(ひと)"がいる。

 

そして、魔王レヴィアタンの名を受け継いだ者として、退くという選択しは──無い。

 

だからこそ、震える足に力を入れ、恐怖に染まった心を拒絶する。

 

今必要なのは、自身の命令を聞く体と、戦う意思のみ──ほかは要らない。

 

「ふふふ、流石の貴方でもこの子(ベヒーモス)には勝てませんよ。

 もちろん、そこにいるミカエル、サーゼクス、アザゼル、ガブリエルもね」

 

只の虚勢ではなく、事実である事に変わりない言葉。

 

「行きなさい!私のかわいい『陸の魔獣王(ベヒーモス)』よ!」

 

彼女の本来の力であれば召喚も不可であり、勿論こと制御不可能であったのだが、

オーフィスから与えられた力を増幅させる『蛇』を使用し、

それらが可能となったのだ。

 

ただ、無理やり『陸の魔獣王(ベヒーモス)』を制御する代償として、

自身を増幅させる筈だった力の7割が奪い取られていたのだ。

 

それ故、彼女は召喚の反動で動けずに居た。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は号令と共に、4つの足で地を蹴る。

そのスピードは巨大な体格をハンデとせず、全身の筋肉を使い、

魔獣の中では有り得ない速度を発生させる。

 

(──っ!? 早い!)

 

一瞬の内に、自身の目の前で後ろ足のみで立ち、拳を振り上げている

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の姿が映し出された。

 

セラフォルーは咄嗟に防御魔方陣を張ろうとしたが、敵の特殊能力を思い出し、

詠唱を中断し、無理やり右足でバックステップを取り、空中へ飛び上がる。

 

その瞬間、セラフォルーが居た場所に拳が着弾し、大地が悲鳴を上げながら

表面が陥没し、数メートルのクレータが誕生した。

 

先代の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』より小柄だが、自身を殺すに足りる力を

備えている事を再確認したセラフォルー

 

(あの拳に、一度でも当たったら──粉砕される)

 

いくら防御魔方陣を自身の体に重ねて展開しようにも、『魔力消失』が付与されている為、

紙と同じであり、威力をそのままに受けてしまう。

 

セラフォルーはそのまま、自身の周囲に多数の魔方陣を展開し、

西洋の剣をイメージして作られた氷の造形品を空中に十を超えるほど生成し、

唸り声を上げながらこちらを凝視している『陸の魔獣王(ベヒーモス)』に向かって一斉に射出した。

 

「──貫け!『氷の流星雨(アイス・メテオール)

 

生成するのに魔力を使ったが、氷の塊による完全遠距離物理攻撃だった。

空に流れる流星群のように一斉に敵へ迫る。

 

まるで航空爆撃機が攻撃しているように、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』へ氷の剣が

降り注ぎ、着弾して爆発し、轟音を辺りに振動させる。

 

セラフォルーは一切手を抜かずに、連続爆撃を続ける。

次第に爆発による影響で、煙が周囲を覆い隠し──突如それは出てきた。

 

煙の中から『陸の魔獣王(ベヒーモス)』がこちらへ向かって吶喊してきたのだ。

セラフォルーは驚きながらも、攻撃の手を緩めない

 

だが、敵は減衰する事無く、拳を作り──右前足を振り上げた。

咄嗟にセラフォルーは上半身を後ろへ逸らす事で、直撃を間逃れたが、

拳の圧でへその部分から、首元まで服が裂かれ、可愛らしいオレンジの下着が露となった。

 

彼女はそれを恥じる事すら、余裕に無く。

そのまま沿った勢いで空中で一回転し、右手に2メートルは在ろう氷塊を作り出し、

拳を振り上げた状態の為、懐が空いており──思い切りぶつけ

 

「──吹っ飛べ!」

 

氷塊に何十もの加速魔法を付与し、射出する。

思い切り氷塊の直撃を受けた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はそのまま、懐に

氷塊と抱えたまま地上へ落下させられる。

 

そしてセラフォルーは追撃に先ほどの『氷の流星雨』を再展開し、

数秒後れで射出した。

 

けたたましい爆音と共に大地に巨体がめり込むが──

 

「ガァ!」

 

寝た状態のまま両腕に力を込め、軽々と氷塊を砕き──鋭利な牙の並んだ口を空ける

 

「■■■──!」

 

口元に、揺ら揺らと空間が熱量により変化し、喉の置くから真っ赤な炎が生まれ、

迫りくる氷の剣目掛けて放射した。

 

高質量の熱線は一瞬にして氷の剣を溶かし、そのまま身を起こしてセラフォルーの

いる場所に目掛けて連続放射する。

 

「──っ!」

 

咄嗟にその場所を飛び退き、紙一重で回避するセラフォルー

 

(──氷の塊でも効果が見られなかった)

 

回避行動をとりながらも、戦況を分析し、相手に有効ダメージを与える

手段を模索していた。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』をよく見て調べると、所々掠り傷的なものは、

先ほどの氷の剣が着弾し、爆発したさいに氷の破片が、表面を傷つけていた。

だが、所詮は掠り傷であり、なんとも無かったように動いて攻撃を

放ってくる。

 

遠距離物理攻撃ではあまり効果が見込めないと判断したセラフォルーは

 

(リスクは高いけど、もう手段が限られている)

 

熱線を回避しならが地上へ降り立ち、着地と同時に姿勢を低くして

そのまま地を蹴り、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』に肉片し──

 

(来なさい!『双燐火(そうりんか)』)

 

セラフォルーは心の中で念じ、自身の家に残してきた武器を転移させ、

彼女の突進に合わせた拳が迫り──右頬を掠りながら回避し、両手に二振りの刀が転移し、

掌で柄の感触を確かめ、そのまま二閃──

 

二人が交錯した瞬間に、鮮血が舞い、地面を彩る。

 

彼女は、そのまま『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の横をすり抜け、相手の背から数メートル

開けた距離で止まると、右頬に一線の傷跡と、髪の毛が数本切れて地面へ落ちた。

 

そして、振り返ると──胸部に十字傷を刻まれ、鮮血を流している『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の

姿があった。

 

だが、その傷は一瞬で再生した。

 

──自己再生である。

 

脳か、心臓が壊されない限り、体の部分が欠損する大怪我であろうと再生可能なのだ。

確実に倒すためには、脳と心臓を同時に直接破壊するか、細胞一つ残らず消滅させるかである。

 

何事もなかったかの様に、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はセラフォルーに突撃をしかけ、

両手に拳を作り、連打を放つ。

 

暴風と呼んでいいほどの風をまとった拳を避けるたびに、衣服が切り裂かれ、

肌に傷が入る。

 

セラフォルーも負けじと、巧みに双剣を操り、カウンターで斬撃を叩き込むが、

敵は怯む事無く拳を放ってくる。

 

徐々に徐々にと拳の速度が上がってきており、セラフォルーは寸前で避けるのが

精一杯に成っていた。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は右前足を大きく振り被って拳を突き出し、

セラフォルーが紙一重に避け、自身の懐に入ってくる事を確認すると、

そのまま勢いを止めず、わき腹に刃が食い込む感触が発生するが、

そのまま無理やり全身を回転させ──勢いのついた尻尾をセラフォルー目掛けて薙ぐ。

 

咄嗟に尻尾が迫ってくる事に気がついたセラフォルーは脇腹に食い込ませた刃を

引き抜き、全力で回避行動に移るが。

 

(──っ!間に合わない!)

 

脇腹の筋肉が思い切り締め付けられていたため、刃を抜くのに時間がかかってしまい、

結果──尻尾の射程外には逃れれぬ事を悟り、右足で地面を思い切り後ろへ蹴り、

体を守るように双剣をクロスさせ防御姿勢をとった瞬間、

体を全身を打ち抜くかのような衝撃がセラフォルーを襲い、

勢いよく吹き飛ばされる。

 

「クッ」

 

防御体制とバックステップのお陰か、体の中の息を吐き出す程度で済んだが、

両腕は衝撃により一時的に感覚麻痺に陥っていた。

 

そして、今まで召喚の代償により大量の魔力と体力を消費し、回復専念しながら

二人の戦いを静観していたカテレアが遂に動き始めた。

 

地面へ膝を付き両腕を下げたまま、肩で呼吸しているセラフォルーに拘束魔法を唱え、

彼女の足元から鎖状が出現し、そのまま足に絡みつき地上から逃がさないようにする。

 

ずっと意識を『陸の魔獣王(ベヒーモス)』へ向けていたため、咄嗟に気がついたが

逃げ遅れたセラフォルー。

 

地面へ拘束されたセラフォルーの姿を確認するとカテレアは『陸の魔獣王(ベヒーモス)』に命令を飛ばした。

そして、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』鋭く歯が並んだ口を開け、収束し濃縮した魔力砲をセラフォルーに向けて放った。

 

放たれた瞬間、大気が振るえ、砂塵が舞い、震動を受けた大地が悲鳴を上げる。

魔力砲の下の地面は、巨大な何かに引き剥がされたような様子で、

左右にめくてれ隆起するような感じで溝を造っていた。

 

セラフォルーは痺れる両腕を無理やり動かし防御魔方陣を展開し、全魔力をつぎ込むが

 

(──っ!このままでは!)

 

魔力を消失させる効果もある収束砲はじりじりと彼女の防御魔方陣を

文字通り消失させていく。

 

後ろには友人の眷属とソーナがおり、避ける事はできなかった。

 

そして後数秒も持たないと悟ったセラフォルーは全力で防御魔方陣の角度を変え、

収束砲が空へ流れるように仕向けた。

 

収束砲はそのまま、上空にいる魔術師達を巻き込みながら、ガラスを割る様な

音を響かせながら結界を貫通し、外にいる停まっている者達をも消し飛ばしてしまった。

 

「まさか・・・私の結界すら撃ち抜かれるなんて・・・」

 

砲撃が結果外に出ないようにガブリエルが着弾箇所に強固な3重結界を施したのだが、

貫通させられたのだった。

 

「背中ががら空きですよ?」

 

セラフォルーは収束砲を正面から受け止めた衝撃で完全に腕が動かなくなり、

それに気をとられていた瞬間に背後から、カテレアが接近し、

振り向くのが間に合わず、全魔力を込められた蹴りが背中を強打する。

 

肺に溜まっていた空気が強制的に吐き出され、重い衝撃と共に、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の方向へ吹き飛ばされるセラフォルー。

 

すると、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』がセラフォルーに向けて猛突進をしかけ、

左前足で拳を作り飛ばされてきた彼女に向けて放った。

 

蹴られた衝撃で目を瞑ってしまった事により、眼前に迫る拳に対して

対応が後れ──顔面に左拳が炸裂し、思い切り地面へ叩き落されそうになるが、

追撃の右前足の拳が、下からえぐり込む様に腹部へ放たれ、

先ほどと比べ物にならない衝撃が、小柄な彼女の全身を揺らした。

受け止めた骨が軋みを上げ嫌な音を奏でながら数本折れ、ガードした筈の胸が圧迫され、

内臓の一部がその力によって損傷し、食道を通って鮮血が口から吹き出る。

 

「ガッ」

 

小さな呻き声と共に彼女は上空へと打ち上げられる。

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は振り上げた拳を解き、追撃とばかりに

獰猛な口を開き──今度は収束砲とは違い、広範囲の『獣の吐息(ビースト・ブレス)』を放った。

 

たった2撃により意識を刈とられたセラフォルーには

防御魔方陣を展開する事も、よける事も出来ず──直撃した。

 

大気中に大規模な爆発が発生し、戦闘をしている者の動きさえ止めてしまうほどの

衝撃であり、近くに居た魔術師は爆発に飲まれ──一瞬にして肉塊に変化した。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』続けざまに、2発目、3発目を発射し、

大規模爆発を連鎖させ──辺りは黒くて濁った煙が大量に発生する。

 

何度も、何度も、何度も、魔王の魔力砲に匹敵する吐息(ブレス)を直撃させる。

周囲には突風が生じ、普通の魔術師では浮遊する事ができないぐらいの暴風が吹き荒れる。

 

カテレアも地上から20を超える攻撃魔方陣を展開し、連続砲撃を開始する。

 

大量の無慈悲な砲撃が──セラフォルーへと吸い込まれていく。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は、十を超えた辺りで漸く吐息を止めた。

カレテアも百を超えた為砲撃を中断、様子を伺った。

 

「姉様・・・!」

 

離れた場所から、姉の異変に気がついたソーナは爆発の中心部分に向けて、

大声で叫びその場へ向かおうとするが、魔術師たちに阻まれる。

 

数秒後、上空に発生した黒くて濁った煙の中から、突き抜けるようにして

落下したセラフォルーの姿が受身をとる素振りは見せなかった。

 

──否

 

意識を失ったままで、とる事ができなかったのだ。

そのまま、地上へ激突し、轟音と共に砂塵を舞い上がらせ、彼女は地面へ

横たわっていた。

 

真っ黒で手入れが行き届いていた髪は無惨に煤と灰により汚れ、

服は至るとことが消滅しており、胸の部分は布一枚となっており、

腰の部分のスカートが引き裂かれており、下着が見えていた。

 

そして、右腕は有り得ない方向に曲がっており、可愛らしい顔には

頭部を切ったのか、血が顔に掛かり、口からも血が流れて、

左目は閉じられており、開いている右目は視点が合ってなく、

尚且つ光が無かった。

 

体中は焼け焦げた後のような部分が目立ち、酷く臭う。

 

「あれだけ砲撃を受けてもこの程度の傷ですか。流石です。

 ──ですがこれは、貴方が招いた結果ですよ──セラフォルー」

 

落下して横たわっていたセラフォルーの近くに降り立ったカテレアは

一瞬表情を少しだけ曇らせていたが、すぐに元通りに戻す

 

「レヴィアタンの名さえ受け継がなければ、このような事にはならず、

 もっと生き永らえたでしょう」

 

そっとセラフォルーにだけ聞こえるように呟き、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』をこちらへ

来るように指示し、

 

「──もう、止めを刺しなさい」

 

カテレアの命令を受け取った『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は後ろ足で立つと、

右手に拳を作り振り上げ

 

その拳は完全に彼女を仕留めるために、頭部を狙っており

当たれば、頭部は確実に粉砕し、例え『聖母の微笑(トライワイトヒーリング)』や『フェニックスの涙』を

使用しても再生出来ないようにカテレアは命令を出した。

 

流石に頭部が粉砕される光景が見たくないのか、カテレアは背を向けて

歩き出した。

 

「──さようなら、セラフォルー。本当は私、貴方の事嫌いではなかったわ」

 

血筋ゆえに、子供の頃から同世代に媚を売られ、大人からもそういう態度で接され。

唯一彼女、セラフォルーだけが"彼女自身"を見て接してくれた事を思い出し、

誰にも聞こえないように呟き

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は無慈悲にもその拳を振り下ろし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!マジかよ・・・!」

 

一番近くに居たアザゼルが咄嗟に間に入り込むために──全速力でその場に

移動しようとした瞬間──

 

「ぐはっ!」

 

突如として、背中に衝撃が走り、地面へと叩き落された。

 

 

 

「やめて・・・! お願い!」

 

必死に横たわる姉の下へ向かうソーナだか、数人の魔術師に取り押さえられ、

地面へ押さえ込まれる。

 

 

 

「助けないと・・・!」

 

小猫は魔術師を吹き飛ばしながら前進するが、魔力弾の集中砲火を浴び

足不止めを食らう。

 

 

 

「くそ・・・!キリが無い」

 

祐斗とゼノヴィアは大量の魔術師に囲まれて身動きが取れない状況にあり

 

 

 

「セラフォルー!」

 

サーゼクスが結界から飛び出し、グレイフィアもそれに続く。

 

 

 

「一体どういう状況なの?!」

 

旧校舎から一誠と奪還したギャスパーを連れ、現れたリアス。

 

 

 

拳が迫る中、セラフォルーは漸く意識を取り戻していたが、すでに動けるほどの

力は残されていなかった。

 

魔王級の戦いであるからこその一瞬の油断が招いた結果であった。

 

食道には溜まった血が残っており、呼吸をする毎に血が吹き出る。

既に体中が麻痺をしていて、痛みさえ感じなくなっていた。

 

そしてぼやけた視線の中に──魔術師に組み伏せられた大事な妹の姿が映っていた。

 

(ソーナちゃん・・・・どうして、そんなに泣いてるの)

 

ソーナがこちらに向けて言葉を発しているが、聞き取れなかった。

ただ、なぜ彼女が泣いてこちらに手を伸ばしているのかを理解するのに、数秒掛かり

 

(あ、私負けちゃったのか・・・・)

 

漸くその事実を認識し、体に力を入れようとするが、自身の体ではないような

感覚があり、視線を動かしてみると、あらぬ方向に曲がった自身の右腕が

映っていた。

 

(だから、さっきから感覚がないのか)

 

ただ、泣き叫ぶ妹の姿をみたセラフォルーは

 

(私の妹を泣かす者は・・・・!)

 

意識のみで最後の残り少ない魔法を発動させ、ソーナを組み伏せる魔術師の

顔を凍らせた。

 

そして──力尽きた

 

(──ごめんね、不甲斐ないお姉ちゃんで。ごめんね、最後まで守ってあげられなくて)

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』が咆哮と共に拳を振り下ろしてきたのを視界に入れた

セラフォルーはソーナに謝り

 

──そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──誰か、誰か姉様を助けて!」

 

(──ひしぎさん!どうか、姉様を助けて!)

 

少女の必死な祈りは──黒い一陣の風を呼び寄せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──来た」

 

迫り来る存在を感知し、口元に笑みを作る──オーディン。

 

「オーディン様?」

 

絶体絶命の中、行き成り笑みを作る主に困惑するロスヴァイセ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴風を纏った拳が振り下ろされ──鈍い大地が割れる音を響かせ、

周囲の砂塵が一気に吹き荒る。

 

砂塵の中がどうなっているか分からないが、彼女の気配が既に感じられず、

皆の視線に映ったのは──砂塵の中から真っ赤な鮮血が飛び散り、

周囲を染めた。

 

そして──

 

「──いや・・・・嘘ですよね・・・・姉様」

 

崩れ落ちるソーナ

 

 

 

 

「ヴァーリ!お前なんて事を!」

 

アザゼルは自身の行動を邪魔した者──ヴァーリに向かって吼える。

 

 

 

「悪いアザゼル──こうした方が俺にとっては都合がよかったんだ」

 

上空から仮面で表情を窺わせないヴァーリが素直に答える。

 

 

 

「そんな・・・間に合わなかった・・・」

 

咄嗟にセラフォルーに防御結界を張ろうとしていたガブリエルは直前に、

カテレアに邪魔されたのだ。

 

 

 

「──この匂いは」

 

発生した突風により、彼の匂いを感知した小猫。

 

 

 

砂塵が漸く収まりつつあり、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の頭部が見えて、

異変に気がついたサーゼクス。

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は敵意を剥き出しにしたまま、

自身の下──つまり、煙の中を睨んでいたのだ。

 

そして、腕部には未だに力を入れ続けているのか、筋力が盛り上がっている。

 

「どういうことです・・・・」

 

ミカエルも同意見であり、結界内部から風を起こした。

 

突風は魔術師やソーナ達をすり抜け、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の周囲の砂塵を巻き込み

それらを吹き飛ばす。

 

すると、徐々に見えてきたのは──

 

 

 

 

「よく見ておくのじゃロスヴァイセよ──あれが、魔王も神も我々すら凌駕する

 人の形をした『鬼神(おにがみ)』じゃ」

 

煙の中から現れた人物を確認すると、懐かしむように片眼を細めたオーディンは

感慨に耽りながら、ロスヴァイセに促した。

 

「──『鬼神(おにがみ)』ですか・・・?」

 

その人物に視線を放さないまま、聞きなれない単語に疑問を持つ

 

「そうじゃ──太古の昔から人間達の守護者であり、万物を創造し()万物の破壊()を司る神である」

 

 

 

 

 

 

 

地面に横たわっていたセラフォルーは、一向に来る気配のない拳に異変を感じ、

静かに、ゆっくりと右目を開いてみるとそこには、

右手で構えた大刀の刀身で『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の拳を受け止めている黒尽くめの男

 

──ひしぎが、自身を庇うかのように立っていた。

 

「──見た目通りの馬鹿力ですね」

 

ひしぎは焦ることなく、普段と同じように言い放ちながら、右腕に力を入れ踏ん張る。

既に拳を受け止めた衝撃で、自身の足元にはクレーターが出来ており、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』が自身の手に刃が食い込みながらも気にした様子もなく、

力を込め続けているので、徐々に徐々にとさらに地面が割れ溝を深くしていく。

 

「流石にこれ以上の力比べは──ご免ですね」

 

ひしぎは大きく吸った息を吐き、腕に全力を注ぎ『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の拳もろ共、

右前足を両断し、その巨体が衝撃で全身浮いた隙に、ひしぎは体を回転させ、

"今"の出せる力の全てを右足につぎ込み、空いた腹部に回し蹴りを放つ。

 

腹部が凹むと同時に鈍い音が響き、肋骨を粉砕し──口から鮮血を吐き出しながら、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は数十メートル後方に吹き飛び、

旧校舎の壁をぶち抜いて教室の反対側で漸く止まった。

 

仰向けで倒れ、腹部に穴が開き、そこからおびただしい量の血が教室の中を染めていた。

 

その光景に呆気にとられるカトレアと救援に駆けつけようとした者達。

 

ひしぎはそれらを無視して、足元にいたセラフォルーの横に腰を落とし、

『法力治療』を開始した。

 

(──かなりの重症ですね)

 

簡単に診た所、体中の骨が粉砕されており、内臓も数箇所破裂している。

顔も先ほど拳を受けたお陰で腫れており、かわいらしい顔が台無しになっていた。

 

ひしぎは、まず最初に顔の腫れを取り、内臓部分の応急処置を開始した。

 

セラフォルーは一瞬何が起きたか把握できずに居ると、暖かい光が顔に触れた瞬間に、

思考と視界が戻り──ひしぎが治療してくれていることに気がついた。

 

「・・・ひ・・・しぎ・・さん・・・?」

 

口の中にまだ血が残っているため咳き込みながら彼を呼ぶセラフォルー。

その声を聞いて、ひしぎは優しい笑顔を作り、空いている左手で優しく頭を撫でた。

 

「よく頑張りましたね──後は、私に任せてください」

 

 

 

ひしぎ自身元々この戦闘には介入するつもりはなかった。

元々会談には興味が無く、和平を結ぼうが戦争になろうが、どうでもよかった。

その会談がテロによって邪魔されようが、魔王一人殺されても気にもしなかった。

だけど──

 

──魔王という"責任"を小さな両肩で抱え込んでいた一人の少女の儚げな顔がちらつき

 

──その少女は姉妹を、家族を守るために命を懸けて戦っている

 

その姿を見て、生前の生きていた戦友の姿と重ね合わせてしまい。

そして、大切な者を亡くした気持ちは痛いほど"知っている"

 

満身創痍で今にも消えそうな灯を守るために──ひしぎは無意識に動いていた。

そして今までに無かった感情が湧き上がる感覚に陥っていた。

 

──私はこれほど、激情家だったのだろうか?

 

──私はそれほどあの少女とは接点が無いのに?

 

──私は──どうしたんでしょう

 

そして、その感情を冷静に考えるもう一人の自分が居た。

それに困惑しながらも、ひしぎは動いていたのだ。

 

ただ、それは元々彼が若き頃に持っていた感情であり、

親友である吹雪、村正が居ればこう言っただろう。

 

──昔のお前に戻った、と

 

もし、これがサーゼクス、ミカエル、アザゼル、ガブリエルの誰かだった場合、

ひしぎは動かずそのまま傍観していた。

 

セラフォルーだったからこそ動いたのだ。

 

ソーナに助けられ、小猫と出会い、セラフォルーと知り合い、

様々な日々を過ごす内に、全てに絶望していたひしぎの心をゆっくりと癒し、

昔の穏やかで優しかった心が戻りつつあるのだ。

 

 

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』は既に自己再生を終えており、ゆっくりと

旧校舎の壁の中から姿を現していた。

 

「──オオオオ!」

 

突如として横槍を入れてきたひしぎに向かい──咆哮と共に憎悪の篭った瞳を向けた。

 

「──なるほど、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の名に相応しいほどの憎悪と殺気ですね」

 

ひしぎはセラフォルーの応急処置が終え、優しく両腕で抱き上げ

 

「そこで、少し待っていて下さい──すぐに殺して差し上げます」

 

そう言って、姿を消した。

 

 

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

前回の話でベヒーモスに関していくつも質問を頂けたので、その回答の回です。
作者様のブログでは先代が死亡したときに、大陸の奥で隠居生活に
入ったと記されており、その下の部分でセラフォルーの眷属となった
ベヒーモスが居るといわれている、と、記載していました。
この書き方を参考、熟考しオリジナル部分を追加させていただきました。

原作でもまだ未登場なので現在の魔王達が使役している魔獣は
生体兵器と、云う扱いで今後も使用していこうかと思います。
色々と原作改変が多発していますが、今後の話の構成上の必要な事なので・・・

感想、一言頂けると嬉しいです。



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