ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

11 / 25
人間でありながらも、最上級悪魔、魔王に匹敵するほどの力


そして彼はまだまだ本調子では無いと言う


だったら、貴方の本気は──



第10話 夢に向けて

コカビエル襲撃事件から数日後、ソーナに用があったリアスは生徒会室を

訪れていた。

 

「どうぞ」

 

生徒会室の備品の一つのソファーに腰を落としているリアスに、お茶を出す椿姫。

部屋の中には会長用の机で書き物をしているソーナと、そのお供である椿姫と、

訪れたリアスだけしかおらず、その他のメンバーは休暇を命じていた。

 

「──ごめんなさいリアス。今終わったわ」

 

生徒会業務を優先していたソーナはそれを終え、書類を机の中にしまい、

彼女の対面へ移動し腰を下ろした。

 

その彼女の後ろで椿姫が待機の状態をとり始めた。

 

「仕事中ごめんなさいね──だけど、私が訪れた理由は分かるわよね?」

 

「──彼の事ですか?」

 

「ええ──単刀直入に聞くわ。彼は一体何者なの?」

 

あの戦闘後、ソーナは彼の正体は後日説明するといいあの場を後にしたのだ。

本当はその場で問い詰めたい衝動に駆られたリアスだが、事後処理を

優先しなければならなかったので、後回しにした。

 

彼の正体が分からないが、彼があの場を救ってくれたのは事実。

だからこそ、待てたのだ。

 

──心底期待していたリアスにソーナが返した言葉は

 

「ごめんなさい。貴方であっても彼の正体は言えない」

 

拒否の言葉であった。

 

「──なっ!」

 

流石のリアスも開いた口が塞がらなかった。

 

「たとえ魔王様に聞かれても"今"は答える事ができないの──そう彼と約束したから」

 

ひしぎ自身から、自分がある確証を得られるまで、正体を明かさないで欲しいと

約束したソーナは、例え魔王である姉から聞かれても答えるつもりは無く、

あの時は場を収める為に後日説明すると口走ってしまった事を少し後悔していた。

 

たとえ明かしてもいいと言われても、どう説明をすればいいのか分からない部分もある。

 

幻の一族であり、自分達は彼らの存在すら知らず、童話の御伽噺程度でしか聞いた事が

なかった為である。

 

「──それで、私が『ええ、わかったわ』なんていうと思った?」

 

「いえ、思っていませんよ」

 

そんな簡単に引き下がる彼女ではないと、ソーナは嫌と云うほど知っている。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

無言でにらみ合う二人、お互い性格を知り尽くしているが故、どちらも譲らず

引き下がらない。

 

「──私はこの件を詳細にサーゼクス様に報告しなければならないの。

 彼の正体が分からなかったら報告しようが無いの──お願い」

 

今回リアスの領土で起きた事件であり、その領土の主たるリアスが魔王へ

直々に説明しなければならないのだ。

 

事件の詳細は見たことそのまま報告できるが、自身の領土に正体不明の人間が、

圧倒的な力を振るい、コカビエルと『白き龍』を撃退した事も報告しなければならない。

 

だからこそ、詳細を求めたのだ。

 

「──リアス。今回の事件の報告は全て私がするわ──勿論サーゼクス様にも

 私から話します」

 

ソーナは彼女の願いを拒否し、全て自身が処理すると言ってきたのだ。

 

「──本気?ここは私の領土なのよ?」

 

リアスのその言葉、その考えに"危険"を感じたソーナは一旦深呼吸した。

 

「ええ、分かってるわ。でも、ここは"人間界"なのよ? 例えこの場所が貴方の領土であっても

 それは私たち悪魔が勝手に決めた事です──リアス、親友として忠告しておきます。

 決して人間を私たち悪魔や堕天使、天使達の庇護が無ければ生きていけない存在と

 驕らないように。

 あの人と同じように、その気になれば一瞬で私たちを葬る力を持っている人が

 いるかもしれません」

 

身近にいたソーナだからこそ、ひしぎが明らかに万全でない状態でもコカビエルを

圧倒できる実力を持っているのだ。

そして実際に見てしまった力を理解したソーナの言葉は"重い"

それに彼の予測が当たっていれば、自分達より強い人間が大勢居るという話なのだ。

 

実際人間を蔑み、見下している悪魔は大勢居る──人間界に侵略が無いのは、

3竦みの状態と現魔王達の政策のお陰でもある。

 

万が一、その状態が崩れ侵略などが開始されたら──と、想像するだけで背筋に

悪寒が走ったソーナ

 

「それに貴方も感じたはず──どんなに気配を、強さを測ろうとしても測れず、

 ただの人間としてしか感じなかったことを」

 

戦闘前のひしぎの発する気配は、そこいらに居る人間と何の変わりも無かったのだ。

そして、戦闘が始まってから一度も気配が代わることがなかったのだ。

 

「──この件は私が責任をもって報告させてもらいます。 

 例え貴方であっても譲る事が出来ないの──ごめんなさい」

 

今回起きてしまった事は確かに、ソーナが報告すべき事では無いのだが、

自身と学校を護ってくれたひしぎに恩を返すべく、約束を守ると決心したのだ。

 

お互いの瞳を見つめあうこと数分間──先に折れたのはリアスだった。

 

「──ふぅ。わかったわ、好きにして頂戴」

 

ため息を付き、柔らかい表情を浮かべるリアス。

 

「ありがとう──今度何か奢らせて貰うわ」

 

同じく表情を崩すソーナ。

 

事件を起こした犯人が堕天使の幹部という事であり、報告には詳細を

求められており、リアスは一瞬心の中で強行策を考えていたが、

親友であるソーナの為、そして何より強攻策に出ても返り討ちに合うと確信したのだ。

 

コカビエルにさえ手も足も出なかった自分達。

 

それを圧倒した彼の前に何が出来ようか・・・・。

 

考えてみたものの、現実的ではないと判断しその考えを捨て了承したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この事件のお陰で各陣営に緊張が高まったのは事実。

悪魔側としては、堕天使側への責任と説明の要求を打診し、天使側は悪魔側に

『堕天使の動きが不透明で不誠実なため、遺憾であるが連絡を取り合いたい』と、

そして、バルパーを過去に取り逃がした件を謝罪してきたのである。

 

堕天使側──総督アザゼルから直接両陣営に連絡が来て、エクスカリバー強奪は

コカビエルとその一派の単独行動であり、他の幹部は知らなかったという事。

自分達の組織の者が起こした暴動は自分達の組織のもので収拾させる為に、

白い龍(バニシング・ドラゴン)』を派遣したが、何者かにコカビエルは

消滅させられたと──その者についての詳細を両陣営側に求めていた。

 

本来ならば、再び戦争を起こそうとした罪により『地獄の最下層(コキユートス)』で

永久冷凍刑が執行される予定だった。

 

だが、コカビエルは灰化により死体すら残らなかったのだ。

 

そして、アザゼルの要求で天使側の代表、悪魔側の代表が集まり会談する事となった。

事件に関わったとされるリアス・グレモリーと眷属達、ソーナ・シトリーも会談に

招待されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある一室で、堕天使側の総督であるアザゼルは備え付けのソファーに持たれかかりながら

グラスを片手に、今後の事を考えていた。

 

(大体は俺の思惑通り、事は進んでいる──だが、不確定要素が一つ)

 

グラスの中に入った酒を飲みながら、もう片方の手にある1枚の写真を凝視していた。

そこには、こちらを無表情で見つめている全身真っ黒な服に身を包んだ男で、

手には大刀が握られており、陥没した地面のクレーターの中心部分に立っていた。

 

(何者なんだ・・・こいつは)

 

ヴァーリとアルビオンの報告によると、一方的にコカビエルを蹂躙し尚且つ自身も

同じようなめに合ったと言われた時は、流石のアザゼルも冗談かと思っていた。

アザゼル自身、現状のヴァーリと戦えば確実に勝てる──が、彼のポテンシャル、戦闘センスは

ずば抜けており少なからず苦戦はする。

 

事件後本部に帰ってきたヴァーリは痛みで表情が歪んでおり額に裂傷、左足の骨は

文字通り粉砕されており、すぐさま医療ポッドへ搬送されていた。

 

現状ヴァーリは堕天使側の戦力でも上位の分類に入る強さを持っており、

堕天使側の幹部達にも事の重大さが伝わったのだ。

 

治療が完了し、ベッドで安静にしている所をアザゼルは訪れ、事の顛末と

アルビオンから外部データを渡されたのだ。

 

(話によると、悪魔でも天使でも堕天使でもなく。尚且つ神器すら持っていなかった)

 

手に持っている大刀自体も神器ではなくただの武器。

目を伏せながら考えるアザゼル。

 

(確かに人間でも稀に強い奴は存在するが──英雄の子孫である可能性もあるか。

 確かそれ以外に──っ!なんだ、この嫌な感覚は)

 

人の中でも過去の英雄の子孫である人間は、何かしらの力を受け継いでおり、

十分にこの3種族と戦える力を持っている。

 

そして、この写真の人物を見ていると何か思い出したくも無い何かが頭の中を過ぎっている。

変な感覚に陥りそうだったアザゼルは、思考を振り払った。

 

(まぁいい。悪魔側の返答によると、リアス・グレモリーからの報告待ちらしいし、

 現状どの陣営にも属しておらず──か。こりゃあ、こちらからも調査した方が

 いいかもしれん)

 

はっきりいって悪魔側の報告を完全に鵜呑みにしない為にも、調査隊の派遣を元より

決めていた。

 

(俺の目的、思惑の邪魔にならなければいいだがな──)

 

アザゼルの目的は唯一つ──この3竦みの状態の破壊である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各陣営で騒がれている中、ひしぎ自身は自室でゆったりとしたイスに座りながら読書をしていた。

手に持っている本の内容は、天使や堕天使の記述が載っている本であった。

 

自身が倒した相手がどういうものだったのかを知る為であり、

つい先ほど完全には思い出す事は出来なかったが、あのような者達と戦った記憶を

思い出したのだ。

 

「ふむ・・・・・」

 

頑張って思い出そうとしたが肝心な部分が思い出せないため、一度この件は保留とした。

そして、自身の体の回復具合をもう一度確認する。

 

(全盛期まではまだ時間かかりますが、6~7割は回復したようですね)

 

久々に体を激しく動かしたため、あの後一時的に体が動かなくなっていた。

"この体"での初戦闘だったため体中が悲鳴を上げたのだったが、直ぐに回復し

何事も無かったように振る舞い、ソーナ達には気づかれずに済んだ。

 

(ただ、今回の一件で私自身も狙われる可能性は発生した訳です)

 

ひしぎ自身は彼らが各陣営内でどれほどの強さを持っていたのかは知らない。

だが、各陣営にすれば脅威以外何者でもない──少なくとも自分ならば調査、監視は付ける。

目的も、正体すら不明な存在を野放しにするほど組織は甘くないのだ。

 

彼自身は世界がどうなろうと、直接自身に火の粉が掛からない限りは静観する事を

決めている。

 

ただし例外はソーナと小猫の存在である。

しかし、彼女達の強くなりたいという意思を尊重するために本当に危険な場合と

明らかに彼女達の実力を凌駕している相手がいた場合のみ助けに入ろうと決めたのだ。

 

遥か昔、同じような事で過保護すぎると親友である吹雪と村正に注意された

記憶を思い出したのだ。

 

古く、とても懐かしい記憶を思い出しながら読書を再開しようとした時、

扉を叩く音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

気配で誰が来たか分かったひしぎだが、そんな素振りを感知させず入ってくるように

促した。

 

「失礼します」

 

声と共に扉が横に開かれ、訪ねてきた人物はソーナと椿姫だった。

元々リアスとの会議が終わり次第伺うと聞いていたので、ひしぎは散歩をせず待っていたのだ。

 

「早速で申し訳ないのですが、あの件。今からでもいいですか?」

 

少し申し訳無さそうにソーナが切り出した。

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

表情を柔らかくしてひしぎが答えるとソーナは表情を緩めた。

 

「ありがとうございます」

 

軽くお辞儀をしながら感謝の言葉を口にするソーナと椿姫。

 

「では、どちらへ向かえば?」

 

「私たちの後についてきてください」

 

ひしぎに宛がわれた部屋を後にすると、数分後、目的地の生徒会室には

3人の姿があり、椿姫が前に出て床に手を当てて魔方陣を展開していた。

 

「会長準備は整いました」

 

「ありがとう椿姫。では、ひしぎさんこの魔法陣の中に入ってください」

 

ソーナ自身も魔方陣の中に入り、ひしぎもそれに習う。

そして二人が入ったのを確認した椿姫も入り

 

「行きます」

 

3人が向かった先は、以前リアスとライザーがレーティングゲームで使用した擬似空間の中に

造られた駒王学園の生徒会室だった。

 

ソーナが眷属達とゲームに向けた強化訓練する為に魔王である姉のセラフォルーに

使用許可を求め、色々な手続きを経て使用許可が得られたのだった。

 

「皆は先にグラウンドで待機しています」

 

リアスとの会談があった二人以外は、先にこの空間へ向かわせ、訓練の準備を

させていたのだった。

椿姫の言葉にソーナとひしぎは頷くと、薄暗くなったままの生徒会室を出て

グラウンドを目指した。

 

擬似空間では水と電気は通っているが、空間が暗い為どんよりとした雰囲気が

学園全域を包んでいるが、不快感は無く、気温も適度であり暗さに慣れてしまえば

比較的住みやすい空間なのである。

 

特に静かに読書を嗜むひしぎに取っては最高の空間だった。

 

3人がグラウンドに着くと、体操着に着替えた6人の女子生徒と1人の男子生徒が

準備体操を行っていた。

 

「お待たせしました」

 

ソーナが彼女達に声をかけると、体操を中断し集まってきた──そしてその中に

ひしぎの見知った白銀の小柄な女の子も混じっていた。

 

「──よかった、来てくれたんですね」

 

彼女の姿を確認したソーナは安堵した。

少し他の子達と距離を取っている小猫は恐る恐る目の前に居るソーナに問いかけた。

 

「──あの、本当に私も参加して良かったんですか?」

 

「ええ、時間は有限です。同じ人に教えを乞うならば一緒の方がやりやすいので。

 それに小猫さんなら私も信頼してますし」

 

リアス・グレモリーの眷属である彼女は本来ここに居るべきではないのだが、

ひしぎの体調を考えると一緒にしたほうがいいのでは?

それに、彼のあっちこっち場所を変える手間を省こうとした結果、

こう言う事になったのだ。

 

ひしぎ自身も承諾し、椿姫にリアスとの会談前に小猫に接触を命じたのだった。

ただ、他の眷属からは今後レーティングゲームで対戦する場合こちら側の戦力を把握され

不利になるのでは、という声もあったが、

 

──問題ありません、戦力を把握されようが対策出来無いぐらい

  私たちが強くなれば良いだけの話です──それに私は彼女を信頼してます

 

と、彼女達を納得させたのだった。

ソーナ自身、小猫の性格はリアスから聞いていて、外部に情報を漏らすような子ではないと

確信しており、漏れたとしても自身の言葉通り強くなれば良いだけの事である。

 

「──わかりました。よろしくおねがいします」

 

頭を下げる小猫。

 

「では、私と椿姫は着替えてきますので、みんなは準備の続きを

 ──ひしぎさんも少しだけ待ってて下さい。戻って来次第

 彼女達を紹介します」

 

「ええ、わかりました」

 

そう言って二人は校舎の方へ走って行き、残った眷族である彼女達はひしぎに

一瞥し、準備を再開した。

 

そして、残った小猫がひしぎに近づき、深々と頭を下げた。

 

「──あの、あの時は助けていただいてありがとうございました」

 

あの後、外面の傷は完治していたが動くと傷が開くと言われていたので

自宅で寝かされていたので、直接お礼を言う機会が中々無かったのであった。

 

「いえ、大事がなくてよかったです。それに、コカビエルへのあの一撃は良かったですよ」

 

ひしぎはそう言って、小猫の頭を優しくなで始めた。

ケロベロスとの戦いでは十分な戦果を出し、コカビエル相手に、実力の差が歴然であっても

臆さず一撃を入れにいき、防がれたが相手に防御を取らせた事を素直に褒めた。

 

「──でも、防がれてしまいました」

 

まともに拳を入れれなかった事に気落ちしながら小猫は呟いた。

 

「ええ、ですが仲間が手も足も出なかった相手を怯ませただけでも"今"は十分です」

 

倍加したリアスの攻撃以外でまともに怯んだのは小猫の一撃であり

相手の武器を破壊したのも彼女だけである。

 

「だから、気を落とさないでください。せっかくの愛らしい表情が台無しですよ?」

 

優しく語り掛けてくるひしぎの言葉に、くすぐったくなったのか、表情を紅く染めて

両手で隠してしまった。

 

その光景をみて微笑むひしぎ

そして、小猫が呟いた。

 

「──わかりました」

 

そして、数分後には体操着に着替えた全員(ひしぎを除き)が揃っていた。

ソーナは眷属達を一列に並ばせ、ひしぎの隣に立ち一人一人眷属を

紹介していった。

 

右から準備

 

青髪でほっそりとした体型で長身の由良翼紗──ランクは『戦車』

 

少し暗めの赤髪ツインテールで元気っ子の巡巴柄──ランクは『騎士』

 

白髪ウェーブで大人しそうな雰囲気な花戒桃──ランクは『僧侶』

 

茶髪短髪で眷属の中で唯一の男子である匙元士郎──ランクは『兵士』

 

茶髪で長い髪をおさげにし、桃と同じような雰囲気を出す草下憐耶──ランクは『僧侶』

 

同じく茶髪でツインテールで眷属の中では一番幼く見える仁村留流子──ランクは『兵士』

 

一人一人の特徴や、ランク、得意な戦い方をひしぎに説明した。

ソーナが説明している途中、匙は小声で隣に居た桃に話しかけた。

 

「あの会長の隣に居る人、本当に俺たちより強いのかな?」

 

その質問に驚いた表情を見せた桃だが

 

「──あ、そっか。元ちゃん気を失ってたから見てなかったんだったよね。

 本当に物凄く強いよ」

 

あの時頭部に衝撃を受けて気を失っていた匙の事を思い出し、目の前にいてる人物の強さは

見ていなかったことを思い出した。

 

「たぶん、驚くと思うよ・・・最初はみんな開いた口が塞がらなかったぐらいだし」

 

あの時の一瞬の攻防戦。いや、一方的な蹂躙は匙を除いた全員が鮮明に覚えている。

敵は歴戦の猛者だった──その相手を数秒足らずで倒した人物。

忘れようにも忘れられない光景だった。

 

「そ、そんなに?!」

 

「うん──本当に凄かったよ」

 

内心、あの強さを思い出す度にすでに驚きを超越して憧れを感じるようになった桃。

うっとりとした表情を浮かべる桃に対して匙は若干表情を引きつらせていた。

 

自身の眷属達の紹介が終わると、ソーナはひしぎの事を彼女達に紹介した。

 

「こちらは今日から私たちの修行を見てくださるひしぎさんです。

 彼は私たちと同じ悪魔ではなく"ただの人"なので間違えないように」

 

軽く会釈をするひしぎ

 

「よろしくおねがいします」

 

「そして、小猫さんは私が彼にお願いする前から見てもらっていたので、

 私たちが一緒に訓練させてもらう形となっていますので誤解無い様に」

 

元々先に約束していたのは小猫だったことを皆に説明するソーナ。

 

「では、ひしぎさんよろしくおねがいします」

 

ソーナが頭を下げると、それに習うかのように眷属達+小猫がひしぎに向かって

頭を下げた。

 

「わかりました、微力ながらお手伝いさせていただきます」

 

そうして彼女達の修行が開始された。

 

まずひしぎが彼女達に出した指示は全員が全力で自身に攻撃してくる事。

言葉では何が得意で、どんな戦い方かは知ったが、立ち振る舞いや仕草、

雰囲気である程度の実力は把握できたが、実際の実力は受けてみない事には正確には測れない。

武器や魔法も使用可能にし、自身を殺す気でかかってくるようにと伝えた。

 

ひしぎと数十メートル間を開けて彼女達は対峙する。

実力を知らない匙は

 

「私を殺す気でお願いします」

 

と、言う言葉に少なからず戸惑いを感じソーナに問いかけた。

 

「会長──本当にいいんですか? 流石に会長と副会長が本気で攻撃すると

 あの人死んでしまうんじゃ・・・・?」

 

少なくとも匙はソーナの実力は上級悪魔クラス、椿姫にいたっても中級クラスと

知っている為、本当に殺してしまう可能性があると感じた。

 

「匙、貴方は本当に優しい子ですね。その心配は要りません。恐らく現状の

 私たちが本気で攻撃しても傷一つ与えられたら良いほうかと──」

 

「え──じょ、冗談ですよね?」

 

流石に匙はソーナがリラックスさせるために言ったのかと思ったが、

隣に居た椿姫が首を振り否定した。

 

「いえ、会長の言葉通りですよ匙。だから貴方も持てる力全てを

 あの人にぶつけなさい」

 

「──椿姫先輩の言葉に同意します」

 

いつの間にか近くに来ていた小猫までもが同意する。

 

「──なっ」

 

その言葉に絶句する匙、そのまま他の眷属達を見てみるも、

他の皆も真剣な表情を作り首を縦に振っていた。

 

「──話はここまでにして行きますよ!」

 

その言葉と同時に、前衛である『戦車』由良、『騎士』巡、『兵士』留流子、

『女王』である椿姫、そして『戦車』の小猫がひしぎに向かって疾走する。

 

ソーナは魔力で水を精製し、それを更にドラゴン、大鷲、獅子や動物達を形造る。

桃はそのまましゃがみ込み両手を地面に手を当てて魔方陣を生成する。

その隣で憐耶も同じような動作を取る。

 

一瞬にして出遅れた匙も意識を切り替え、先に行った5人達を追いかける。

 

一気に距離をつめた5人はは躊躇する事無く攻撃動作に入った。

 

ひしぎは腕を組んだままであり、彼女達を静かに観察している。

 

すると、突如としてひしぎを囲むかのように地面が割れ、その中から白い鎖の様な物が数十本、

四方八方から出現し、一瞬にしてひしぎの全身に巻き付いた。

 

「・・・・」

 

驚いた様子さえ浮かべないひしぎはこの拘束魔法は桃が生成し、憐耶が魔力補強している事を

瞬時に見抜いた。

 

そして、数秒後れで匙の『黒い龍脈(アブソブション・ライン)』がひしぎの腕に絡みついた。

 

「よし!」

 

相手の拘束状態を確認すると、椿姫と巴柄が同時に空中に飛び上がり、

長刀、刀にそれぞれ魔力を刃に乗せ、構え、

小猫と由良は左右に展開し、留流子は一気に速度を加速させ背後に回りこみ、

5人は同時に攻撃を仕掛ける。

 

「はぁぁぁ!」

 

一斉に掛け声を出し、椿姫と巴柄は頭部目掛けて各々の武器を振り下ろし、

小猫と由良は腹部目掛けて渾身の打撃を打ち込む

そして、留流子は無防備な背中目掛けて、上段蹴りを放つ。

 

全て当時にひしぎにヒットしたため、彼を中心とした地面からは攻撃による衝撃波が生じ、

一気に砂埃が5人の視界を奪うが、当たった感触は確実に合った。

 

後方に居た4人の下にも衝撃波が伝わり、咄嗟に顔を背けてしまう。

 

が、すぐさま状況を確認すると──そこには信じられないような光景が煙の中から

見えてきた。

 

「──うそだろ・・・」

 

匙は思わず呟いた。

 

ひしぎは一歩も動く事無く、攻撃を受けている。

椿姫と巴柄の刃は当たる直前に頭部を左右に振り、肩で受け止め、

小猫たちの打撃はひしぎに当たったまま止まっている。

 

「くっ・・・・ここまでとは・・・!」

 

椿姫はいくら力を入れても肩に刃が食い込まない事に、冷や汗を流していた。

岩に目掛けて振り下ろした様な感覚に陥り、逆にその力が反発して

自身の手に痺れを感じていた。

 

「皆!離れなれて伏せなさい!」

 

ソーナの緊迫した声に反応した5人はすぐさまひしぎから距離をとる。

 

「「鎖爆破(チェーンブレイク)!」」

 

桃と憐耶の詠唱が聞こえ、ひしぎに巻き付いていた鎖が一気に光だし地面から伸びている部分から

轟音を響かせながら連動して鎖が爆発していく。

 

何十にもまかれた鎖は連鎖爆破により数十秒間ずっと爆破したままであり、

前衛5人の近くまで爆破の衝撃が襲う。

 

「ちょっとあの二人!やりすぎ!」

 

爆破により地面の岩などが中に舞い上がり色んな所に振ってくるため、地面に伏せながら

頭部を守る留流子は愚痴をもらしていた。

 

追撃といわんばかりにソーナは生成した水の爆弾もひしぎ目掛けて放つ。

大型の生物に姿を変えた水は四方八方から連鎖爆破の中に突撃し、同じように

姿を爆破させる。

 

戦争で例えるなら、一箇所に戦闘機や航空爆撃機による集中空爆を行っている感じである。

 

手を休める事無く攻撃を続けるソーナと二人の『僧侶』

 

更に数十秒後漸く爆破の轟音がやむと、既にひしぎのいた場所は数十メートルの

クレータが出来ており、見渡すかぎりグラウンドの地形は変化していた。

 

前衛である5人は、自身の体に覆いかぶさった砂や埃、瓦礫を除けながら漸く

体を起こした。

 

「ゴホ、会長幾らなんでもやりすぎですよ」

 

漸く体を起こした匙は少し非難するような視線をソーナに向ける──が、

彼女はじっと爆撃の中心地を凝視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂となったはずの場所からは、ゆっくりと何かの足音が全員の耳に聞こえて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそだろ・・・・」

 

 

 

 

 

 

爆破で出来た煙はまだ晴れていないが、音の主は徐々にこちらに近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「流石に、これほどとは・・・・」

 

 

 

 

 

漸く起こした体だが、その音を聞いただけで力が抜けてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

彼女達は万全な体調であり、今もてる全ての力で攻撃した結果が──

 

 

 

 

 

 

「──中々のいい攻撃の仕方です。ですが、全然殺意も、威力も足りません」

 

 

 

 

声の主は、普段どおりの喋り方で

 

 

 

 

「まぁ、貴方達の力は把握できました」

 

 

 

何の傷も無く、服さえも汚れていないまま

 

 

 

「少し私の訓練は厳しいかもしれませんが、覚悟してくださいね」

 

 

 

悪魔の様な囁きを告げ、煙の中から姿を現した。

 




こんにちわ、お久しぶりです夜来華です。

更新が5月から止まってしまって本当に申し訳ございませんでした。
感想や一言、ありがとうございました。
本当に嬉しかったです。

夏に仕事場で事故にあい、腕と左足に怪我を負い、10月半ばまで入院生活を
送っておりました。

そして漸くリハビリも終わり、仕事も一旦終わったため時間が取れたので
一気に書き上げました。

元々半分以上は出来ていたのですが、今後の物語の改変に伴い
書き直し、修正を大幅にいれました。
そろそろ原作乖離が大きく目立ってくると思います。

更新が出来ずに本当に申し訳ございませんでした。
休みの間は出来る限り執筆に時間を取る予定なので、次回はあまり待たせず
更新できると思います。

もし、宜しければ感想、一言頂けると嬉しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。