ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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*注意、かなりの原作乖離になると思います。

*SAMURAI DEEPER KYOのキャラが分からない場合、オリ主と思っていただいたほうがいい
 可能性有り。

*極力知らない方にも分かりやすいように書こうとしていますが、文才が無いため
 分かりづらかったらすみません。


プロローグ

 

 

 

 

先代紅の王の呪縛を受けたていた辰伶達を解放し、最後に残された意識さえも霞んでいく。

 

(あとは、頼みましたよ・・・・・壬生の若き戦士達よ)

 

身勝手な願いだと想うが、心を失った自分にどんなに苦しくても足掻き、未来へと進む意思を

見せてくれた。

残る敵は強大だが、彼らには頼れる"戦友"がいる、彼らならきっと──平和な未来を、

自分達のような"欠陥品"を生み出さない世の中にしてくれると信じている。

 

思い残した事も少なからずあるが

 

(私は自分自身で、死ぬ場所を選ぶことが出来た・・・・・)

 

誰かに決められた場所で死ぬ事ではなく、最後まで自分自身の道を選べた事。

自分がただただ造られた戦闘人形では無かった事が証明できた。

 

心を失った自身に唯一誇ることが出来た。

 

そして、最後ぐらいは素直になろうと

 

(許して欲しいとは言いません、ただ──)

 

謝りたかった。

 

いくら一族の未来を守るためとはいえ、手を血で染める道を取り、研究に研究を重ね

振り返れば屍の山であった。

 

後戻りは出来ない、消え逝く一族を守る為に進むしかなかったのだ。

そして──研究結果は戦友に託し、そして自分達はこの罪を命で清算した。

 

消え逝く意識の中、ふと彼を呼ぶ声が聞こえる。

これが地獄からの招待状か──と、苦笑しながら彼は意識を手放す。

 

(ええ、今行きます。村正、吹雪、姫時──今度はもう命ある限り共に──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイスクールD×D 黒の処刑人

 

プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

この世界は、天使、悪魔、堕天使、ドラゴン、幻想種、妖怪、聖人、神話の神々が存在し、

その中でも、神率いる天使勢、魔王率いる悪魔勢そして、堕ちた天使率いる堕天使勢の

この3勢力が大きな力を持っており、相容れない3勢力は戦争を始めたのだ。

 

大規模な軍勢を率いて、天界、魔界、人間界、異界、を戦場にして戦を起こした。

その他の勢力も各陣営に参戦し、世界の終わりを促すほどの戦乱に──

 

そして戦乱の最中、戦争に参加していなかった二天龍と呼ばれるドラゴン達が突然喧嘩を始めた。

この二匹は、ドラゴンの中でも最強と謳われる程の実力を持っており、行き成り現れた

二匹の喧嘩の余波は凄まじく、各陣営に多大な被害をもたらし、戦場を混沌へと導いた。

 

各勢力は、他の勢力を相手にしながらドラゴン二匹の討伐に向かわせるが、主力が回せない以上、

被害だけが増えていく。

 

そして、ドラゴン達の喧嘩は次第に激しさを増し、既に1勢力では手に負えない状況となり、

これ以上無駄な戦いで被害を出さないために各勢力の首脳陣はお互いに一時的に停戦を申し込み、

ドラゴン討伐へと申し込む。

 

そして3大勢力は結託し、一時的な同盟を結び、そして他の神話の神々にも協力してもらいった。

当然、喧嘩を邪魔された二天龍は怒り狂い、彼らも一時的に喧嘩を止め、

彼らへ本格的に牙をむいた。

 

神々や魔王すら殺せるほどのドラゴン相手に苦戦を強いられるが、神、魔王が最前線と赴き直接

彼らと戦った。

 

そして、二天龍は強大だが同じ、それ以上の力を持つ3大勢力のトップたちと互角の戦いを

繰り広げるが、徐々に二天龍は押されていき、そして、遂に討伐され二匹の魂は消滅を

間逃れたが、神器に封印された。

 

そして、3大勢力は二天龍討伐後、各陣営に戻り、戦争を再開する。

だが、先のドラゴンとの戦いで、各勢力は疲弊し、そして、彼らを率いる神、魔王達でさえ

傷を負っていた。

 

その後の各戦場の激しさは、徐々に徐々にと失っていき、各陣営の勢力も全戦力の約60%以上を失っていた。

疲弊した陣営は種の存命の危機を感じ取り生き残った首脳陣は、

戦争の停戦を切り出しこれに合意。

 

来るべき、再戦に向けて彼らは戦力の回復へと力を注ぎ込んみ、かりそめの停戦状態になる。

 

 

 

 

 

 

 

そして現在、私立駒王学園の生徒会室にパソコンの前で作業をしている少女がいた。

髪はショートカットの黒色、顔立ちは可愛いと云うより美しいと表現し、縁の赤い眼鏡を

かけていており、少しキツイと思わせるような感じである。

 

名はソーナ・シトリー、そして支取蒼那と言う名前でこの学園に通っており、

彼女の正体は、現魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹で「元72柱」シトリー家の次期当主の

悪魔でありこの学園の生徒会長でもある。

 

既に日が傾き、夕焼けが窓へ差し込む部屋には彼女一人であり、パソコンへと打ち込む音のみが

木霊していた。

 

(兵藤一誠・・・この学園の2年生で、同学年の松田君、元浜君と3人で「変態三人組」と

 呼ばれている彼がリアスの手によって「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の兵士分8つ消費して、転生した)

 

数日前に同学年であり、幼い頃からの親友である同じ悪魔、リアス・グレモリーからの報告を

受け、彼女の眷属リストに詳細を書き込んでいた。

彼女はここ数年、眷属を増やしていなかったので、友としてライバルとして嬉しく思う反面、

今後、彼女とレーティングゲームの戦略に役に立つようにデータで記憶させていくのだ。

 

レーティングゲームとは、悪魔の勢力が大きく減り、戦力回復の為に転生により強力な眷族を

増やし、仲間どうしで実戦経験を得るために、現政策で大きく力を入れているゲームである。

自身を王として眷属をチェスの駒に見立てて、対戦相手と競いあう実戦形式、

勿論、ごく稀に不意な事故で命を落とす危険性もあるが、年々完成されていくシステムで

仲間が死ぬことなく、お互いを高めあえる大人気のゲームになり、そこで得た成績で

爵位や、地位にも大きく影響を及ぼしている。

 

そして、ソーナ自身もレーテングゲームに参加すべく、眷属を集めている。

勿論彼女は駒で云うと「王」である。

 

本来ならば眷属達、自身の使い魔に情報収集させるのが一般なのだが、彼女は自分自身で

「知る」事を有意義に感じており、それについての行動には一切の妥協は無い。

 

集まった情報を元に自分自身で整理し、対抗策、戦略が出来上がると眷属たちにも意見を聞き、

修正を加える。

 

実際に戦うのはまだ先だが、今から行動していても損は無いので、生徒会の執務が終わり次第

こうやって、情報を手に入れるたびに整理しているのだ。

 

(何かしらの神器(セイクリッド・ギア)を持っているが元はただの人間で、戦闘に関してはまったくの素人状態。

 リアスに下ったはぐれ悪魔討伐時に初めて戦いの空気に触れる。そして間をおかず、

 はぐれエクソシストとの戦闘。その後、堕天使との戦闘で神器が覚醒、

 それはただの神器ではなく、神さえ屠ることの出来る神滅具(ロンギヌス)と判明。

 その名は「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」。誰もが知っている、伝説の二天龍の

 片割れあり、その魂が封印されている)

 

8個の兵士分消費したと聞いたときから、何かしらの特別な力があると踏んでいたが

 

(結果は大当たりだったようねリアス)

 

あの赤龍帝を眷族にしたリアスは、今以上に注目を浴びるとこになる。

その反面彼女と戦う際、もっとも警戒すべき相手なると、ソーナ自信は確信していた。

 

(この間私の眷属になったばかりの匙で4つ使用、匙自身の潜在能力でどこまで

 赤龍帝と張り合えるかが"鍵"になってくるかもしれない。勿論、一人で相手をさせる

 訳にもいかないが戦況、戦略でかならずそういう場面があるのは確実)

 

匙 元士郎、元は人間でソーナがここ最近新しく眷属にした兵士の名前で、

この駒王学園の2年生であり同じ生徒会の書記担当であり、

彼の持つ神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』が

非常に強力だった為、転生に要する兵士の駒が4個分消費したのであり、順調に育てれば

将来有望な悪魔になるとソーナは確信していた。

 

そして願わくば赤龍帝である一誠と共にお互いを高め合って欲しいと思っている。

ライバルが強ければ強いほど、対抗心が芽生えてくるからだ。

 

故にソーナはリアスと話を合わせて、今度眷属同士の顔合わせを予定していた。

 

(そしてもう一人、リアスの眷属になった少女、アーシア・アルジェント)

 

金髪の愛らしい少女であり、シスターであったが先日の堕天使との戦いで命を落とし

悪魔として転生した経歴をもつ。

 

(戦闘力は皆無ですが、こちらも非常に希少な神器(セイクリッド・ギア)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」の

 持ち主、効果は対象がどんな相手、種族でも回復させることのできる神器。

 これを欲した堕天使に唆され、神器を抜き取られ死亡したけど、リアスが「僧侶」の駒を

 使用して転生させた、レーティングゲームをする際に彼女の存在が戦況を左右する

 可能性も出てくる)

 

回復役と言うのは現状(・・)存在しないからであり、ゲームで使用される回復アイテム、

フェニックスの涙以上に貴重な存在になり、彼女が戦線に居るだけで戦力回復が

ノーリスクで見込めるようになる。

 

(故に最初に彼女を落とすか、回復させる前に相手を退場させるかで戦況が変ってくる

 まぁ、リアスの事だから恐らく自陣に配置させる確率が高い)

 

リアス・グレモリーではなくてもそんな貴重な戦力を最前線に派兵するのはハイリスクである

 

(正直持久戦になればなるに連れて、こちら側の不利は否めない──か)

 

ソーナはリアスの眷属を一人一人見直していく。

 

(他の姫島さん、木場君、塔城さんも非常に優秀な能力を持ち、段々と隙の無い布陣に

 なってきてるわね、リアス)

 

同学年である姫島朱乃はランク「女王」であり「雷の巫女」と呼ばれる雷撃系の魔法を

得意とするが、近接攻撃等は見た事が無い。

 

木場祐斗は2年生でランク「騎士」、近接戦闘を得意とするタイプで神器「魔剣創造(ソード・バース)」を

持ち、現状のグレモリー眷属の中ではエース各。

 

塔城小猫は1年生でありランク「戦車」、小柄ながらもランクの特性をいかした怪力、

防御力を発揮する。

 

アーシア・アルジェント先日この駒王学園に2年生編入、「僧侶」として回復役。

 

そして、兵藤一誠、赤龍帝の所持者。

 

(見ているだけで、壮観ね──勿論私の眷属も彼らに負けず劣らずだけど──)

 

元々姫島朱乃と木場祐斗が個々の能力として抜き出ており、現状でも要注意戦力であるが

対処法は既に構築済み、その場合こちらの戦力の大半をつぎ込む可能性もあるが、彼らさえ倒せば

戦況は一気に有利となり勝機が明確になる。

 

だからこそ、今回眷属になった二人の戦力次第ではもっと緻密な作戦が必要になるかもしれないと

考えているうちに、ふと、ソーナは使い魔を通して一誠の戦闘の一部始終を見た記憶を思い出す。

 

(既に籠手の具現化に成功し能力も使えている・・・今は、まだ未熟、簡単に対処できるけど、

 彼がもし経験を蓄積するスピードが速ければ──っ?)

 

ふと、何かの気配を感じ取ったソーナは部屋の中を見渡した。

 

(今の感覚は──?)

 

部屋の中には誰もいない、イスから立ち上がりドアを開け廊下を見渡すが誰も居なかった。

 

(ただの勘違い?──いえ、違う・・・誰かがこの学園に召喚された)

 

そう、今ソーナが感じた気配は使い魔や魔法で転移してきた者に特有に発する魔力。

一瞬勘違いかと思ったが、感知魔法にも長けているソーナだからこそ気づけるぐらいの

微弱な魔力であった。

恐らく自分自身以外感知した人は居ないだろうと思う。

少なくとも、生徒会室、廊下には誰もいないし魔力の痕跡も無い。

 

「来なさい、ベイ」

 

ソーナがその名を呼ぶと、近くに小さな魔方陣が展開しその中から真っ白な子犬が現れた。

 

「外の様子を見てきてください」

 

「ワン!」

 

子犬は可愛らしく吼えると、空いていた窓から外へを飛び出た。

使い魔である子犬=ベイに命令を出した後、ソーナは生徒会室を出て、近くの教室から

順に開けていき中を確認していく。

 

(いない・・・・痕跡もなし)

 

放課後となっているのでほとんどの教室はもぬけの殻。

既に8つ目の教室を開け、調べ終わったり9つ目の教室へ向かう途中

 

『ワン!』

 

ベイが何かを見つけ、ソーナに念話を送ってきた。

 

(分かりました、すぐに向かいます)

 

ソーナは意識を集中させ、ベイの位置を探る。

契約を結んでいる使い魔には魔力ラインが通っており、よほどのことが無い限り

お互いの位置を探ることが出来る。

 

(反応は校舎裏の森の中・・・)

 

ベイの反応は健在であり、何かと戦闘している気配も無い。

すぐさま階段を駆け下り校舎裏へと急ぐソーナ。

 

数分後、目的地にたどり着いたソーナの目の前には──木にもたれ掛かりながら

座っている男が居た。

ベイが傍らに座り込み、臭いを嗅いでいたが反応は無く、ソーナも近寄るがこれといって

反応を示さなかった。

 

髪型はショートで前髪の一部が白髪、顔の半分は黒の包帯で隠れており、服装も黒のジャケットに

左半身は顔と同じく黒の包帯で巻かれており、けが人を思わせるほどの格好である。

身長は180cm以上で殆どが包帯で隠れているので、普通としか分からない。

 

見るからに怪しい人物であるが、ソーナは臆せずしゃがみ込み、男の手を取って脈を測る。

 

(意識が無く呼吸も細いが、脈はある・・・)

 

生きてはいるが、目を覚ます気配が無い。

 

(なにより、この人から魔力がまったく感じられない・・・・どういう事?)

 

そう、ソーナの目の前にいてる男からはまったくの魔力が感じられない。

確かにあの時微力な魔力は感じたはずなのに、無いのである。

 

(ともかく、放置は出来ない)

 

ソーナは傍らにお座りして待機していたベイに声を掛け、

 

「ベイお願い、この人を運ぶ手伝いを」

 

「ワン」

 

ベイは返事をすると、魔力を全身から放出させ──2メートルはあるかと云うほどの

大犬に変身した。

 

ソーナは魔法で男を浮遊させ、ベイの背中に乗せ、自分自身もまたがり

 

「とりあえず、人目が付かないように保健室に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナは保健室の先生に事情を話し、ベットの上に彼を寝かしつけた。

全身が包帯だらけなので、慎重に運んだが一向に目を覚ます気配が無かった。

 

「つまり、貴方が突然魔力の気配を感じ、探した結果彼が居たって事でいいのよね?」

 

「ええ」

 

ソーナの話を聞いて女医は男の体を調べ始める。

 

「確かに、この人から魔力は感じられないわ・・・・怪我を調べようとしてもこの包帯が

 邪魔ではっきり分からない」

 

「剥がせないのですか?」

 

ふと、思った疑問を口にするソーナ、しかし、女医は首を横に振った。

 

「触ってみて分かったけどこの包帯、魔法ではない何かの術で厳重な封印が施されているの」

 

その言葉にソーナも包帯に触れてみると、静電気のような感覚が指先に感じられた。

 

「恐らく、見せたくない何かが"ある"のは間違いないわね」

 

「・・・・」

 

死んだように眠っている男を見つめるソーナ

 

(一体・・・何者なの・・・)

 

女医は他におかしい点、異常が無いか確認し終えると、

 

「学園長に報告はどうする?」

 

「本来は私が報告しに行くべきなのですが、このまま様子を見ておきます。

 万が一のことを想定すると・・すみませんが、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかったわ。 一応外側から私も結界を張っていくから

 貴方も内側から掛けておきなさい」

 

本当は第一発見者であるソーナが行くべきなのだが、万が一を考えると

自分が残る方が最適なのである。

 

先生も勿論悪魔だが、ソーナより力は劣るので彼女の真意を読み取り

保健室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

(リアスにも報告しておこうかしら)

 

ベットの横でイスに座って様子を見ていたソーナはそっと立ち上がり、

結界を2重に張ると保健室の外へ出て携帯を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──起きてください、ひしぎ。 今日は吹雪の初の水舞台なんですから

 

──きっと新鮮な吹雪が見られるかも知れない、あきちは楽しみだなん

 

──四方堂姐さん、不謹慎ですよ

 

懐かしく、とても優しい声の持ち主達

 

──ああ、今日はオレの初舞台だ。 見ていてくれよひしぎ

 

とても大切な親友の声

 

──とても楽しみですね・・・ええ、今日は身分もなにも関係なく楽しみましょう。

 

優しかった頃の主

 

とても、とても懐かしい夢を見ている──大切に胸のうちにしまっていた想い出。

 

(村正・・・四方堂姐さん・・・姫時・・・吹雪・・・・先代紅の王)

 

声が聞こえてくるたびに、自分自身の想い出が蘇ってくる。

楽しかったこと、嬉しかったこと、そして・・・悲しかったこと。

 

死の病により姫時の死

 

人間同士の絶えない争いに絶望し豹変した先代紅の王

 

「死の病」の治療法を探す過程で、知った自身たちが

真の壬生一族により生み出された"戦闘人形"の末裔

 

死の病により一族の未来を憂い、意見が対立した村正と吹雪

 

自身の「死の病」の発病、親友は"全て"を失い、自身もまた"心"を失った

 

灯との出会い

 

そして──壬生一族の未来を懸けて鬼眼の狂との戦い

 

一族の為とは云えど、非違人道的な自分達の悪行を自らの命で清算

 

魂のみで、先代紅の王に停止させられていた若き壬生の戦士達を解放

 

その後完全に意識が途絶え、地獄へ堕ちたはずのに徐々に徐々にと意識がはっきりしてくる。

 

(私は──)

 

ゆっくりと目をたら、白い天井が見えた。

 

(寝かされていたのか・・・・・ここは)

 

嗅ぎなれた医療用品の香り。

そっと体を起こして周りを見渡す。

 

それは、見たことも無い材質で作られた機材や、建物、見慣れない風景であった。

 

「私は、死んだはずでは・・・・・」

 

胸に手を当ててみたら、無いはずの心臓が脈を打っている。

 

「心臓がある・・・あの時吹雪に移植したはず」

 

そう、死ぬ直前に心臓の秘術を使いリミットが切れかけていた吹雪に、

自身の心臓を移植させたはずなのに、元に戻っていたのである。

 

「一体どういうことなんですか・・・・」

 

ベットの横にある窓の外を覗いてみると、知らない景色ばかりであり、

鉄のような塊が高速で動いているなど、自身が生きていた時代には無かったものばかりであった。

ここから僅かに見える人も、着流しや、着物ではなく、何ともいいがたいが、

動きやすそうな服装だった。

 

「江戸時代ではない・・・?」

 

元々居た江戸時代の文明とは遥かに進化している。

が、興味は一瞬で四散した。

 

「どうして生きているんでしょう・・・生きてる価値のない命なのに・・・」

 

既に失われた命、そして自分自身も生きたいと願わなかった想い。

あの時、全ての罪をこの命で清算して地獄へいくはずだったのに、まだ現世に留まっている。

そう思っているとふと、ありえないと思っていたことが意識をよぎる。

 

命を、自分自身を作った"神"ならば──死人だって蘇らせることなど造作も無い。

 

そう思うと沸々と憎悪がせり上げてくる

 

「どこまで、貴方は私をコケにしたら気が済むのか・・・っ!」

 

心を無くさせた原因を作り、一族をリセットしようとした"神"ならばやりかねない

自分自身を作り出した"神"へと憎悪を滾らせ──

 

(貴方の思い通りにはなりません)

 

ひしぎはそう思うと、右手をゆっくりと持ち上げるとそのまま指を胸へと

沈みこませて行く。

 

徐々に徐々にと肉を破る音を立てながら指は胸を突き破っていく。

吹き出た血液で体に掛けられていた毛布や、自身の服は次第に紅く染め

 

(心臓を壊せば・・・死ねるはずです)

 

そう、ひしぎは既に生きるという意志は無く、やり直すという思いもでず、

ただただ、自分自身を生き返らせた"何か"の思い通りにはなりたくない。

そして、ただの戦闘人形として戻ることを拒んだ。

 

自身の胸に突き刺した指は骨をすり抜け心臓を捕らえ、握り潰そうとした瞬間──

 

 

 

 

扉が開かれ、ソーナが部屋の中に戻り、視線をベットに向けると、

寝ていた男が上半身を起こし、自身の右腕で胸を貫いている光景が

目に入り

 

「な、何をしてるんですか!」

 

慌ててひしぎの元に駆け寄り、腕を掴んだ。

 

「・・・・」

 

いきなりソーナが入ってきた事に驚きはしなかったのは、既に扉の向こうに気配を

感知していたからである。

突然のソーナの行動すら眼中になく、そのまま指に力を込め始めた。

 

「──っ!」

 

無反応のひしぎに対して、ソーナはまず胸を貫いている腕を思い切り引っ張った。

 

思いのほか、腕は簡単に胸から離れるが──貫いた場所から勢いよく血が吹き出てしまった。

意識が戻ったばかりで、尚且つ今の体の状態がほとんど機能しない故に、

すぐに抜けたのである。

 

「じっとしていて下さい」

 

横にあったシーツを少しでも出血が収まるように巻くが──

 

「ほおっておいてください」

 

必死に自身の体に応急処置を施そうとするソーナの姿に漸く反応したひしぎが呟いた。

だが、ソーナはその言葉を無視

 

(このままでは・・・死ぬことが)

 

本来ならば簡単に振りほどけるのだが、まったくと言っていいほど体に力が入らず、

先ほど右腕を動かせたのは最後の力を振り絞ってだった。

 

「私は死にたいんです」

 

巻かれたシーツは真っ赤に染まり

 

「こんな薄汚れた呪われた血で貴方の綺麗な顔を汚す必要はありません」

 

腕を抜いたときに吹き出た血がソーナの顔に掛かっていたのだが、彼女は拭いもせず

腕も真っ赤に染めながら必死に血を止めようとしてた。

 

既に自身の力がまったく出ないひしぎは、少しずつだが感情を露にして

ソーナに止める様言葉を紡ぐ

 

「こんな価値の無い命を──欠陥品であり、生きることすら許されない私を──」

 

「この世に価値の無い命なんてありません!」

 

今までひしぎの言葉を黙って聞いていたソーナだが、彼の言葉を切った。

 

「私は、貴方の事情、価値なんて知りません!でも、せっかくの命を絶とうとすることは

 間違っています!」

 

ソーナは必死に言葉を紡いだ

 

「たとえ欠陥品だろうが、貴方か死ねば悲しむ人が出ます!悲しまない人なんて居ません!

 そういう人は勝手に死んではだめなんです!」

 

彼女の目には、ひしぎの生きることに絶望した表情映し、憤り以上に悲しみが込上げ

語りかける彼女の目には涙が流れていた。

 

 

「──っ!!」

 

その言葉にひしぎは息をのんだ

 

(その言葉は──)

 

今の言葉でひしぎは全てを思い出した──死ぬ間際に思っていた事、宿っていた感情、

そして解かされた心を──

 

「だから"生きて"・・・・・これ以上私を悲しませないでください・・・っ!」

 

ソーナ自身でも分からないぐらい悲しみの感情に支配されていた。

生まれて初めて見る人の絶望の表情、雰囲気、そして死を実行とする姿を目の当たりにした

彼女は到底耐えることのできない代物であった。

 

確かに彼女はひしぎの事は知らないし、他人の為にこれほど涙を流したことは

今まで無かった──だけど、今はそんなことすら忘れるほどの衝撃だったのだ。

 

そして涙を拭いながら、一生懸命に処置を施していく姿に

 

「・・・・・」

 

そっとひしぎは目を瞑り体から力を抜いた。

 

(私は──また、間違えるところでした)

 

"生かされた"と言う事に憎悪を募らせ、せっかく思い出した"心"をもう一度手放す所であった。

 

(名前も知らぬこの少女のお陰で──灯さん、貴方の言葉を思い出せました)

 

とても大切だった戦友であり、最後の最後で心を取り戻すきっかけをくれた人だった。

 

(本当に私はバカですね──言われたそばから同じような行動を取ろうとしてたとは)

 

自身の行動を呆れつつ苦笑する。

 

(どんな思惑があって私を生かしたのか──ええ、私もあの"馬鹿"達を見習って

 今度こそ"戦友"を悲しませない為に生きてみるって云うのもありかもしれませんね)

 

思い出される、死ぬ間際の鬼の仲間達。

 

(少しそちらに行くのが遅れますが──許してくださいね)

 

親友達に心の中で詫び、

ひしぎは血の付いていない左手を必死に持ち上げて、ソーナの頭を撫でた。

 

「ありがとうございます、お嬢さん。貴方の言葉で忘れていた"もの"を思い出せました」

 

「──はいっ」

 

その言葉にソーナ自身も"救われ"、涙を流しながら微笑んだ。

 

 

 

 

 




こんにちは、初めまして、お久しぶりです、夜来華です。

にじファンが潰れ、引退しておりましたが仕事のストレス発散の為
再びやってしまった限りです・・・。

感想、ご質問あれば作者のやる気、気力に繋がるため頂けると嬉しいです。

まったーり書いてますので更新は遅めだと思います。

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