Angel Beats! AFTER BAD END STORY   作:純鶏

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EP13 ― clumsy mind

 ロシアンルーレット勝負は終わり、オレと柔沢はゲームの後片付けをしていた。オレはBB弾をボトルの中に入れ終えると、さっきもらったペットボトルの軟水の水を飲む。特に体を動かしたわけでもないのに、喉が渇いていたので軟水の水が美味しく感じられる。

 柔沢はまた冷蔵庫のそばに向かっては、飲み物とグラスを取り出していた。オレの隣のイスに座ると、手には黄色い液体の入ったグラスとペットボトルを持っている。色合いから見るに、きっとエナジードリンクなのだろう。柔沢も喉が渇いていたのか、美味しそうに飲んではすぐに飲み干していた。

 

 

「けっこう美味しそうに飲んでるな。それって美味いのか?」

 

「うん? これか? 美味いかどうかは人それぞれだろうけどよ、自分にはこの薬剤っぽい感じが自分を高めてくれる気がしてな。飲んでいると不思議と元気になるんだよ」

 

「そんな感じなのか。オレには色合いがあんまり受け入れられなかったから、まったく飲んだことがないけど」

 

「色合いは確かにすごいよね。でも、案外飲んでみると美味しいぜ? どうだ、いっぺん飲んでみるか?」

 

 

 柔沢はそう提案してくると、少し嬉しそうにエナジードリンクのペットボトルをオレに見えやすいように掲げる。

 正直、そこまで飲みたかったわけではないが、この際だ。たまには挑戦してみるのも良いのかもしれない。元気が出るというのなら、尚更どんなものか気になってきた。

 

 

「そうだな、試しにちょっとだけなら」

 

「おう。じゃあ、コップに入れてやるよ」

 

 

 柔沢はそう言って紙コップを取り出し、中にエナジードリンクを少し入れてはオレに手渡した。近くで見れば見るほど、色合いが黄色だ。着色料でそういう色にしているのか、元々の薬剤によるものでこの色合いになってしまっているのかが気になる。正直言って、野菜ジュースの方が体に良さそうな色合いをしているなと思う。

 

 思い切って口にするも、意外にも炭酸が強い。それに、あんまり味わったことのないような変な味だ。これは確かに人によっては好き嫌いがはっきりしそうである。いや、合わないという人が多いんだろうな。

 

 

「ううっ……きっついなこれ」

 

「そうか? エナジードリンクの中では割と弱い方だと思うぞ。というかこれ、ビンのやつではなくてペットボトル入りのエナジージュースだしな。エナジードリンク風味って感じだからキツくないと思うんだがな」

 

 

 そうはいうものの、マズイもんはマズイ。変に酸っぱい感じの独特な味わいが後味としても消えることなく残っている。紙コップに入った分のエナジードリンクを飲みきり、口直しにまた軟水の水を飲む。

 ところが、後味が変わってくれはしなかった。むしろ、後味を逆に引き立たせてしまったようにも感じてしまう。最悪だ、飲まなきゃ良かったと今更ながら後悔してきた。

 

 

「けどその様子だと、おまえの口には合わなかったみたいだな。ま、とは言っても、俺の周りでも好んで飲んでるヤツいないし、普通の人はあんまり口に合わないだろうな」

 

 

 本当にそうなんだろうなと思う。きっと飲み慣れてくると、柔沢のように元気な気分になるよう錯覚させられるのかもしれない。でも、飲み慣れていない人間にとっては、きっとそうではない。大半の人は、元気な気分になるというより気持ち悪い気分になるのではないかと思ってしまう。

 

 飲み干した紙コップを捨てようと周りにゴミ箱がないかと見渡していると、それを察してか柔沢は紙コップを取って立ち上がる。

 

 

「ゴミ箱はあそこだ。捨てて来てやるよ」

 

「あっ、すまないな」

 

「おう、構わないぜ」

 

 

 どうやら、部屋の隅の方に隠れるように置いてあったらしい。そりゃあ、部屋の中を軽く見渡した程度じゃ分からないな。

 目線を長机の方に下げ、ふと自分の手を見ると、なにやら自分の左手の甲にアザみたいなのが少しできているのが見えた。大きさから察するに、さっき自分で撃った時のアザなのだろう。

 

 

「しかし、モデルガンってけっこう威力あるんだな。左手にアザが残るなんて思わなかったよ」

 

「一応モデルガンの多くは、18歳未満は使用禁止されているような高威力のものだからケガするのも仕方ないさ。そりゃあ、今日使ったのはエアコッキング式のエアガンだったけど、ゼロ距離での発射だと撃たれ慣れてても相当痛い。俺もほら、軽くアザできちまったし」

 

 

 苦笑いしながら、柔沢もオレの隣のイスに座っては左手の甲を見せてきた。たしかに、BB弾で撃たれたようなアザが残っている。

 

 

「……あれ? なんで柔沢もアザがあるんだ?」

 

 

 考えればおかしい。なんで柔沢にアザがあるのか。勝負の中では、一番最初にBB弾を撃ったのはオレだったはず。不発に終わった柔沢は、手の甲にアザなんてできるわけがない。

 

 

「そりゃあ、俺も撃ったからな。アザが出来てもおかしくないだろ」

 

「え、どういうことだ? あんたは不発だったはずじゃ?」

 

「んー、それじゃあ教えてやるよ。その方が良さそうだし」

 

 

 そう言うと柔沢は長机の上に置いたままだったリボルバー式の銃を手に取った。

 

 

「まずこの勝負では、BB弾が2つ連なって入っていること。手の甲に銃を撃っても良いこと。これだけで、俺が負ける確率がほぼ無いに等しかったんだ。音無が相当頭のキレるヤツで、常に慎重でいるタイプの人間だったら変わっていたのかもしれないけどよ」

 

「じゃあ、確率的にはオレが勝てる見込みはなかったわけか」

 

「そうだな。でないと、この勝負を提案した意味がねぇからな。オレだって真剣なんだって言ったろ? 真剣にこの部活に入って欲しいからこそ、勝てる見込みのある勝負を提案したんだ」

 

 

 それもそうか。真剣勝負なんて言うもんだから、有利不利がなく、また不正のないような、実力と実力で競い合うような、真剣に勝負をするものだとばかり思い込んでしまった。

 だけど、柔沢の言う真剣勝負というのは、真剣に勝ちにいく勝負ということだった。本気で勝ちたいと思う人間が、何もしないわけがない。

 

 それに、この勝負をすることに自分は異論を唱えなかった。何も深く考えずにあっさりと勝負を受けてしまった。柔沢の提案するルールに、柔沢自身が有利になるように仕込んでいるかもしれないと考えるべきだったのだ。そのことを踏まえて、この勝負に挑まなかったのは、自分としても負けてしまった敗因の一つではあるのだろう。

 

 

「さて、勝負の話に戻ろうか。勝負の流れとしては、音無が1つめの弾丸を狙ってくると俺は考えていた。わざわざ弾丸がどこにあるかも見えるように入れたし、シリンダーを回すのも音無だ。それに、おまえは念入りにシリンダーを回しては確認していたからな。1発目を俺に渡してきた時点で、おまえが勝ちに来ていたのは見えていた」

 

「そ、そうだったのか……最初の時点から、あんたの計算の内だったわけか」

 

「ま、音無は1つめではなく2つめの弾丸が出るように仕込んできたけどな。でも、そうであったとしても関係なかった」

 

「へ? 2つめ? じゃ、じゃあ……」

 

「そうだ、1発目からBB弾は発射されていたんだ」

 

 

 柔沢の話を聞く限りでは、自分で仕込んだ弾倉の位置はズレてはいなかったらしい。

 でも、2つめのBB弾は発射されなかった。ということは、その2つめの弾丸はどこに行ったというのか。柔沢が何かしらの方法で2つめのBB弾を不発にしたのだろうか。

 

 柔沢はリボルバー式の銃のシリンダーストップを解除し、弾倉の中を見せてくれた。

 

 

「ほら、見てみな。BB弾はあるか?」

 

「…………ない、な」

 

 

 見る限りではどこにも入ってないように見える。柔沢が弾倉を床に向けるが、落ちて来る気配もない。

 だが、最初の時点で柔沢がBB弾を2つ入れていたのは確かなはず。勝負が終わった後も、この銃の弾倉を触った者はいない。マジックとか手品とかでない限りは、2つめのBB弾がそこになくてはいけないんだが……それがどこにも見当たらない。

 

 

「実は、2つめの弾丸はな。ここにあるんだよ。」

 

 

 柔沢は左手で学生服のズボンの左ポケットをまさぐる。何かを取り出すと、それはBB弾であった。まるで、マジックでも見ているかのような感覚に陥る。

 

 

「い、いったい……どういうことなんだ?」

 

「今からそれを教えてやるよ」

 

 

 すると柔沢は、左手に持っていたBB弾をリボルバー式の銃の銃口の中へと入れた。そして、勝負をしていた時のように銃口を左手に押し当てては、今度はオレに手の甲が見えるように銃を構える。

 

 

「2つめの弾丸はちゃんと発射されていた。俺が引き金を引いた時、弾丸は俺の左手の甲に当たってたんだ。だけどな、こうやって……」

 

「……あっ!」

 

 

 柔沢は銃の撃鉄を引き起こし、引き金を引いては少し斜め上へとズラしていく。中指と人差し指の付け根あたりまで持ってくると、柔沢は銃を少し地面の方に向けてから銃口を手の甲から離し、銃を長机の上に置いた。その時点でBB弾は中指と人差し指で挟まれてはその場で静止していた。

 

 

「あとは、汗をぬぐうように手の甲を額に持っていって、すぐさま左手を下ろすように机の下に移動させては隠すようにズボンの左ポケットの中に入れる。これで、弾丸が撃ったことがバレないように出来るというわけだ」

 

「え、いやでもこんなの、ルール違反じゃないか?」

 

「いや、ルール違反にはならない。“どちらかが弾丸が当たったことになるまでは”とルールを書いた紙にも書いてある。音無自身、気付かなかっただろ? 俺に弾丸が当たったことを音無が分からなかった時点で、弾丸が当たったことにはならなかったことになる。勝負が終わった今の時点で分かったのではもう適用外だからな」

 

 

 またしても、柔沢にしてやられた。ここまで考えていたとは、なんて狡猾な男だ。それ以上に、本当にオレが勝てる見込みがない勝負だったんだなと思ってしまう。柔沢の不正を暴く以外、オレが勝つ方法はなかったというわけか。

 

 

「……つまり、そこらへんも含めて最初から正々堂々の5分5分の勝負ではなかったわけか」

 

「そうだな。でも、ルール自体を破って反則をしたわけではないから、正々堂々ではあったけどな」

 

 

 たしかに柔沢自身、インチキをしたわけではない。正直言うと認めたくはないが、ちゃんとルールに則った勝負をしている。それに柔沢にとってもリスクのある行為をした上での勝負であったはずだ。失敗すれば、柔沢が負けることになっていたのだから、絶対に勝てるわけではなく、あくまで上手くいけば勝てる確率が高くなるという勝負。そんな勝負を柔沢はオレに挑んだということになる。

 

 

「それにしても、よくあんな痛いの耐えたな。オレは普通に我慢出来なかったよ」

 

「まぁ、そうだろうな。きっと口で説明している分には案外出来そうに感じるかもしれない。だが、相当な痛みに対して顔色を変えずに耐えるのは難しい。それに、グローブをつけた状態で弾丸を挟むのはけっこうコツがいるんだ。慣れていないと出来ない芸当なだけに、相手にマネされたとしても成功しにくいことも計算の内だ」

 

「それでも、サバイバルゲーム経験者とかなら撃ち慣れてそうだし、グローブも外せば案外出来そうではあるけどな」

 

「逆だな。むしろ経験者である方が、自分の体には撃たない。きっと、プロテクターかヘルメットをつけてそこに撃つだろうよ。なにせ、どれだけ痛いのか把握しているからな。無知なヤツの方が撃った時の痛みを知らないから手の甲に撃てれるわけだ。それに、グローブをつけた理由はアザでバレないようにするためと、手の甲に撃つように誘導するためもあった。音無も何も疑問を持たず、俺の真似をしただろ? つまり、そういうことだ」

 

「な、なるほど。そうか……」

 

 

 どこを撃っても良いと言うのなら、たしかに撃った時の痛みを知っていたら手の甲に撃とうとは思わない。それに、発射の威力を調べようとするはず。その上、下手に不正をしようとしたところで、発射によって激痛が起こる。痛いと分かっていても耐えるのは確かに至難の技なのかもしれない。

 

 

「そう思うと、よく撃てたな。分かっていてもだいぶ痛かったんじゃないのか?」

 

「ああ、すんごい痛かったぜ。分かっていても、多少は心構えがないとあの痛みを耐えるのはムリだと思う。だけど俺の場合。痛みにはちょいと慣れていてな。俺の体は丈夫なだけでなく、痛覚も麻痺してんだろうな。ま、何十発と手の甲に撃って顔色を変えない練習すれば、誰でも出来るんじゃないかと思うぞ」

 

「……そこまでして出来るようになりたいとは思わないけどな」

 

「ははっ、たしかに。そりゃそうだ」

 

 

 柔沢は笑みを浮かべては、またエナジードリンクを飲む。もしかして、それを飲んでるから脳が麻痺して痛覚が鈍ってんじゃないのかと思えてきた。

 ……いや、さすがにエナジードリンクにそこまでの効果はないか。

 

 

「結局、俺が撃った後に音無が空砲と分かった時点でこっちのもんだった。どこに弾丸があるか把握出来たし、音無の動揺ぶりを見る限りでは上手く勘違いしているのは目に見えていた。もちろん、俺が撃った1発目が不発であったという確信をおまえが持っていれば、そりゃあ勝てたんだろうけどさ。だけど、あの時のおまえは完全に自分を信じることが出来なかった。そこが、今回の敗因でもあったんだろうよ」

 

「それはそうかもしれないが……さすがにそこまでは考えがつかなかったよ。それに、あの時はあんたの思惑通り疑心暗鬼になってしまったからな」

 

「たしかに、それも作戦の内だったからな。あの時のおまえの焦っている様は見ていて面白かったぜ」

 

「むしろあの状況で焦らない方がおかしいだろ」

 

「それにしたって、終盤とかも酷かったもんな。勝ったと思いきや、自分が撃つ番になった時の動揺といったら、もう凄かったぜ。特に、最後の苦し紛れのやつとかも……もう……くくっ」

 

 

 柔沢は勝負の最後にオレがした行動を思い出したのか、手で口を隠しながら笑いを堪えている。そんな柔沢を見て、自分が恥ずかしくなってきた。

 

 

「し、仕方無いだろ。どうすることも出来なかったんだから。オレだって今思うと恥ずかしいんだから、笑うなよ!」

 

「だ、だって……あんなの思い出したらおかしくて笑っちまうぜ? 自分でもあれは酷かったなと思わないか?」

 

「ま、まぁ、たしかに。ふふっ……自分でも、あれはさすがに酷かったな……てか、酷過ぎるな」

 

 

 よくよく思えば、あんなバカみたいなことした自分に笑えてくる。自分でも自分の行動が可笑しく思えてしまうのだから、自分の滑稽な姿を見た柔沢が笑ってしまうのも仕方がない。

 でも、久しぶり笑った気がする。別に朝霧やナツキと一緒に暮らしていて笑ったりすることがなかったわけじゃない。なのに、何か違う。忘れていた何かを思い出すような、そんな感覚。何かというのが何なのか考えても分からないけど、一つだけ今の自分に適している感情があった。

 

 それは“心の底から楽しい”というもの。普段の生活では味わえないような、充実した楽しさ。朝霧といて、ナツキといて、楽しくなかったわけじゃない。なのに、湧き上がるこの感覚は最近では味わうことのなかったもの。自分の中の素の部分が露わになっては、楽しいと感じていることは間違いない。

 

 

「でもな音無。今回の勝負は俺が勝ったけど、どーしても無理ってんなら、部活に入らなくてもいい」

 

「へ? なんでだ? 入って欲しかったんじゃないのか?」

 

「そりゃあ部員としては入って欲しいが、無理強いをしてまで入って欲しいわけじゃない。でも、だからといって俺が下手に出てたら、部活に入ってはくれないだろ。それに、同情を引いては否応なしに部活に入ってもらうのも俺自身が嫌だった。だから、おまえに勝負を挑んだんだ。後腐れの無いようにするためと俺の本気で入って欲しいという想いを示すためにもな」

 

「そう……だったのか」

 

「だからさ、入部するか入部しないかは音無がもう一度よく考えた上で決めてくれればいい。その上で決めたことなら、俺も納得して受け入れるだけだ。それにもし、おまえが入部しないにしても誰か他に入ってくれそうなヤツとかいたらさ。そいつを誘ってほしいんだよ。それだけでも、俺にとっちゃあとても有難いことだからな」

 

 

 柔沢という男は、まったくもって心が真っ直ぐなヤツなようだ。普通なら、無理にでもこの部活に入らせれば良いものの、ここで選択を与える辺りが、律儀というか屈託がないというか。器用なようで不器用な感じがする。

 でも、柔沢の想いはこの勝負で確かに伝わった。真剣勝負を終えたことで、部活に入る入らない関係なく、真っ白な気持ちでどうするかを考えることが出来るようになったのは確かだ。これで心置きなく、自分の素直な気持ちで柔沢に答えればいい。

 

 

「そっか……ほんと、あんたってヤツは不器用なんだな」

 

「ん? そりゃあ、器用な方ではないが……?」

 

 

 柔沢はオレの言っていることの意味がいまいち分かっていない様子だ。

 でも、そこらへんもまた柔沢が不器用でバカな男であるところの一つなのかもしれない。

 

 

「つまり、柔沢はバカだなってことだよ」

 

「へ? バ、バカ? おい、バカってなんだよ!?」

 

「でも、そんなバカと一緒にいてもいいかな……って。色々考えたけど、それもアリなのかな。ってな」

 

「……え? それは、どういう? ん?」

 

 

 柔沢はオレの言葉の意味が分からず、ついには頭がこんがらがってしまったように戸惑っている。予測していない事態に、対応できていない感じだ。

 

 

「つまり、この戦研部に入部するってことだよ」

 

「え、マジか? いいのか、本当に? よく考えてから決めろよ? 入部してからやっぱ辞めるとかはやめて欲しいからな」

 

「大丈夫だ。ちゃんと考えた上で、決めたんだ。今更、入部することを取り止めるつもりはないさ」

 

「そうか……そうかそうか。じゃあ、本当に入ってくれるのか。良かった……入ってくれてありがとうな。本当に……ありがとう」

 

 

 オレの手を握ると、柔沢は深く頭を下げていた。顔を下に向けていて見えないが、なんとなく少し涙ぐんでいるように見える。きっと、入部してくれることが本当に嬉しいのだろう。

 

 

 すると、学校のチャイムが部屋の中に鳴り響く。さっきまで授業中だったはずなのに、もう終わってしまったようだ。てか、そんなに時間が経っていたんだな。勝負に夢中になっていたせいか、時間の流れを忘れていたようだ。

 

 まぁ今思うと、授業中にオレ達は何していたんだという話ではある。元々は授業を受けるがために学習棟まで来たというのに、自分が今日何をしにここまで来たのかもすっかり忘れていた。

 

 

「もう休み時間か。って、教室に戻らなくちゃいけないんだった。すまない音無、ちょっと教室に行ってくる。そうだ、おまえも一緒に教室来るか?」

 

「そうだな……いや、やっぱやめておくよ。まだ、人混みには慣れていなくてな」

 

「そうか、それなら仕方ねぇな。とりあえず、部室はこのまま鍵は閉めなくてもいいから、いたかったらこのままいれば良いし、帰るんだったら電気消して帰ってくれ。とりあえず、そういうことで。またな」

 

 

 柔沢はそう告げると、すぐさま部室を出て行ってしまった。急ぎの用でもあったのだろうか。どっちにしても、今から昼休み時間になってしまったし、大食堂で昼食を買ってから学生寮の自分の部屋で食べる予定だったから、教室に向かう理由はない。

 とりあえずは、部室を出て大食堂に向かおう。その後どうするかは、そこで考えればいい。

 

 

 電灯の電気を消し、部室の扉を閉め、戦研部を後にした。

 そういや、柔沢から入部届をもらうのを忘れた。後から職員室に行くにしても、入部届を書くのはまた次の機会になりそうだ。

 




13話:clumsy mind  ー  “不器用な心”


3話続けての柔沢とのエピソードはどうだったでしょうか?
柔沢というキャラ自体、本当はもうちょっと後半で関わっていく予定でしたが、
ここでこんなに掘り下げることが出来たのはある意味結果オーライかもしれません。


次の話では、久しぶりに朝霧という女子が出て来ます。
もっとナツキや朝霧とのエピソードも書きたいですが、
なかなか話の本筋が進まなくなりそうので、割愛させてサクサク進んで行こうと思います。

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