「はあ、全く……」
「う、すまぬ……」
「すいません……」
僕達は今、マイルーム、ていうか教室にいる。
さっきまで二人が喧嘩していたせいで、机と椅子と言った備品の残骸が転がっている状態だったけど、どうにか足の踏み場が出来るくらいには片付いていた。
「だって、キャスターが……」
「だって、セイバーが……」
「いや、だってじゃないんじゃないかな?」
「「う……」」
この惨状を生み出した二人は、今僕の目の前で並んで正座していた。
流石に反省してもらわないと……って思ったんだけど、まるで小学生のような言い訳をしようとしていて、何かあんまり効果がないっぽい。
多分目を離したら、直ぐにまた喧嘩が勃発しそう……
「はあ……とりあえずスペースはきちんと決めとこっか。セイバーは入って左側、キャスターは右側、アーチャーは黒板側でいいんだよね?」
「まあもう既に、殆どその位置でいろいろ用意しちゃってますから、今から移動は出来ないんですけどねー」
「ていうか、何処から持って来たのさ、この鳥居……」
改めてマイルームを見てみると、ちょうど真ん中のキャスターのスペースの並べてある机の上に、小さいけど天井まで届く鳥居が立っていた。
ここだけちょっとした和風といった感じだ。
「うむ。余のスペースもなかなかのものだぞ」
「うん、ていうか真っ赤っかだよね……」
そう言うセイバーのスペースには、重ねた机の上から、これもまた何処から持って来たのか赤い布で多い被せて作った物があった。
どうやら座る場所らしいけど、セイバーの口調のせいか、何かどこかの王様の玉座っぽくも見えなくも無いことも無い。
「ところで……私のスペースはごみ置き場か、おい」
「むしろ、逆に崩れないのが凄いよね……」
そして黒板側には、アーチャーのスペース兼ごみ置き場と化している場所があった。
セイバー達が争って出来た机や椅子の残骸、あとセイバーが使った赤い布の余りなどが、大量に積み重なっている。
どうやらセイバー達は、自分のスペースにあるそれらを、全てアーチャーのスペースに適当に押し付けたらしい。
彼からものすごく苦労人のオーラが見えてくるようだった。
「とにかくまあ、ある程度は片付け終えたか……そろそろ作戦会議でもするか、マスター?」
「そうだね……あ、その前にご飯食べに行った方がいいかな?」
端末の時刻表示を見てみると、ちょうどお昼時だった。
電子の世界って言っても、ここだと時間の概念もあるし、お腹も空く。
確かにこれなら、現実の世界とあまり違和感を感じないだろう。
「とりあえず、皆で食堂に行ってご飯食べてから、話し合おっか」
「「へ?」」
「む?」
「え?」
何故か僕の言った言葉に、全員が疑問符を上げた。
え、何で?
「あの~、ご主人様? 皆でご飯って……?」
「え? いやだって……食べないの、ご飯?」
「ん? ああ、そうか……」
僕が逆に質問していると、アーチャーが何かに気づいたようだった。
「マスター、君はサーヴァントが食事の必要が無い事を知らなかったな」
「へ!? そうなの!?」
「うむ。サーヴァントは魔力さえあれば問題無いからな。だから食事も睡眠も、やろうと思えば必要ないのだ!」
「へ~」
セイバー達の言った事に、僕は驚いた。
魔力さえあれば問題無いなんて、便利だなあ。
正直、僕もそうだったら、元の世界で食費の事を考えなくて済むのに……
「あ、けどさ。食べれないって訳じゃないんでしょ?」
「そうですね~。確かに私も油揚げとか食べたいな~って思ってますし」
「うむ! そう言えば、食事でも微弱だが、魔力供給ができるはずだったな」
「じゃあ、やっぱり食べるに越した事は無いんだ」
「まあ、そうだな……」
だったら、やっぱり皆と一緒に食べに行った方がいいよね。
一人で食べるのと、皆で食べるのじゃ、結構違うし。
ただ単に、僕の我が儘なだけかも知れないけど。
「だが、奏者よ……済まぬが今日のところは一人で食べに行ってきてくれぬか?」
「へ、何で?」
「うむ。奏者の厚意はものすごくありがたいのだが……もう少し、まだ余のスペースを改造したいのだ」
「あー、そうですね~。私もちょっと準備したいかな~って」
「まあ、まだ全部が片付け終えた訳ではないからな。我々は残って片づけを続ける事にするよ」
そっかあ。
確かに大きいのは大体片付けたけど、まだ細かい破片とか散らばってるから……
「うん。分かった、じゃあ今回は甘えるとするよ」
「次は一緒に食べましょうご主人様♪」
「うん。じゃあ後で」
そう言って、僕はマイルームから出て行った。
「ちょっとセイバー!! あなた何頼んでいるんですか!? ていうか、無駄に豪華ですねそのお風呂!?」
「何を言う!! これは余にとって必需品だ!!」
「貴様等、いい加減にしたらどうだ……」
……後ろから聞こえたその声に、少し不安を感じながら。
ていうか、あの二人学習って言葉知ってるのかな?
まあ、僕の言えた義理じゃないけど。
★☆★
「さてと……食堂に来たのはいいけど、どうしよう……」
考えてみれば、僕は今お金を持っていない。
そういえば、こっちの世界に来たとき、腕輪以外の荷物は全部無くなってたからなあ……
「……ぅん、あれ? 明久君?」
「ん? 吉井?」
「って、姫路さん! それに、遠坂さんも」
どうしようかとそこら辺をうろうろしていたら、屋上で別れた二人を見つけた。
ちょうど食事中だったらしく、二人とも定食ランチを食べていた。
ちなみに鮭定食だった。どうでもいいけど。
「姫路さん達、もう話は済んだの?」
「あ、はい。大体基本的なことは」
「結構物覚えよかったわよ、この子。まあ、納得出来ているかどうかは別だけど」
そっか。
とりあえずは、この聖杯戦争の事については姫路さんはもう分かった。
これから戦う覚悟はあるかどうかは別にしても、多分どの道前を向かなきゃいけないだろうから、今の内に知っておいてよかっただろう。
「あ。ところで姫路さん達、定食を買ってるって事は、お金払ったんだよね? 姫路さん達は持ってたの?」
僕は殆どの荷物が無くなっていたけど、姫路さんは大丈夫だったんだろうか?
あ、それとも遠坂さんが姫路さんに奢ってあげたとか?
もしそうだったら、僕にもして欲しいけど……流石に甘えすぎだよね。
「あれ? 明久君の端末の中には無かったんですか? 電子マネー」
「電子マネー?」
「ええ。あそこに見える食券販売機に、この端末をかざせば購入できるわよ。既に本戦参加者には、支度金が支給されてるから」
「へえ~」
ステータス一覧機能といい、マイルームの鍵といい、万能だよねこの端末。
この分だと、まだ他にも使ってない機能がありそうだ。
「分かった、じゃあ僕も買ってくるね」
「あ、じゃあ場所とって置きますね」
「ふう、少し馴れ合いしすぎかしら……」
そう言って、僕は少し離れた場所にある食券販売機に行った。
「うわ~いろいろな種類があるね……」
販売機のボタンを見てみると、思ったより料理の種類が豊富だった。
定番の牛丼、カツどん、ラーメン、うどんや定食と言った物から、他にもサイドメニューらしきものの表示が沢山あった。
「じゃあ、奮発してカツどんにしようかな。えっと、400PPTで……ここに端末をかざせばいいのかな?」
そう呟きながら僕は端末を券売機に繋いだ。
そうすると、ピッと音がした後、券売機の上の方にこんな表示が出た。
【残金 0 PPT】
「…………………………」
僕は一度、端末を切った。
そして、また繋ぎなおした。
ピッ
【残金 “0” PPT】
「……………………………………………………」
うん。
とりあえず、僕の見間違いじゃないって事は分かった。
「何でさあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」
何で僕の端末お金入ってないのさ!?
何、サーヴァントのステータスダウンといい、僕に対する嫌がらせ!?
そう思いながら、僕がその場でうんうん唸っていると……
「ごきげんよう……どうかしましたか?」
「うん? あ、ラニ」
後ろを見ると、いつの間にかラニが並んでいた。
あー、食券販売機の前にいつまでもいたから、そりゃあ誰か来るよね。
……やば、廊下での出来事を思い出してしまった。
正直今まさに鼻血が出そうだけど、ここはぐっと我慢だ。
「何かお困りのようでしたが」
「あー、うん。実は、僕の端末に何故かお金が入ってなくて……」
「そうなんですか?」
正直にラニに話すと、ラニはちょっと貸してくださいと言って、僕から端末を受け取った。
「確か、この端末には使用履歴があるはずです。それを見れば……」
「へー、そんな機能があるんだ」
そう言ってラニは、僕の端末をカチカチと操作し始めた。
けど使用履歴って言っても、全く使った覚えが無いんだから、それを見てもわからないんじゃ……
そう思っていると、急にラニがぴたりと止まった。
そうして、僕の方にゆっくりと顔を向けると、さも不思議そうな表情で……
「あの……この履歴にある“高級バスルームセット”とは一体……?」
「………………………………………………………」
――――――ちょっとセイバー!! あなた何頼んでいるんですか!? ていうか、無駄に豪華ですねそのお風呂――――――
――――――何を言う!! これは余にとって必需品だ――――――
……犯人、確定。
「……セ」
「セ?」
「セイバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
僕はラニから端末を返してもらい、ダッシュでその場から離れて行った。
「えっ!? 明久君どうしたんですかーーーーーッ!!」
「ていうかちょっと!? あんたまさか自分のサーヴァントのクラス名を叫んでんじゃ――――」
離れた席の方からそんな声が聞こえてきたけど、今はそれどころじゃない!!
僕は急いで二階へ走って上がって行った……
★☆★
僕は2-Bの教室の扉の前に来ると、急いで端末をかざし、勢い良く扉を開いた。
「セイバァーッ!!!」
「うあっ!? 奏者よ、一体何事か!?」
「ご主人様、お戻りで!!」
「む、マスター戻ったか」
其処にはいつの間に作ったのか、入って左の壁の蛇口からお湯を豪華な浴槽に入れているセイバーがいた。
そしてセイバーのスペースの座る場所に、バラの花びらがやたら装飾の凝った籠に入っていた。
どれも明らかに、さっき僕がマイルームを出る前までは無かった物だった。
「何事って、これセイバーだよね!? この履歴にある高級バスルームセットって奴!! おかげでご飯買えなかったんだけど!!」
「何!? もうばれたのか!? よく分かったな奏者よ!」
「残金0だったら直ぐに気づくよ!?」
僕に内緒で勝手に買い物したことがばれたにも関わらず、セイバーはふむと言ってこっちの方を見ると……
「まあ、気にするな♪」
「反省の気ゼロッ!?」
すっごいさわやかな笑顔で、そう言った。
もし雄二が同じ台詞を言ったら、僕は迷い無く殴り飛ばしているだろう。
横の方で、アーチャーも頭が痛そうに抱えているし。
「うむ。いいか、奏者よ。余は倹約という言葉は大嫌いなのだ。故に金は湯水の如く使ってこそ! ちまちま使うのは余の性に合わぬ!」
「完全に開き直ってるし!? しかもそれ、完全に自活できない人の駄目パターンだよねそれ!?」
「全くそうなんですよご主人様!」
横で僕達のやり取りを見ていたキャスターが、タイミングを計って話に割り込んできた。
「ほんっと、セイバーはご主人様の事なんかこれっぽっちも考えてませんよね! あろうことか、ご主人様のお金を、さも自分の物の様に使うんですから! そのおかげでご主人様のお腹を空かせるとか、サーヴァント失格ですよ!!」
ここぞとばかりにキャスターはまくし立てる。
ついさっき出会ったばかりの頃から、この二人は既に何度か喧嘩を起こしているから、この優位性を最大限に生かそうと考えているのだろうか。
……ただ、ちょっとキャスターにも聞きたいことがあるんだけど……
「全く一円も残らず使うんですから! これはもう責任と『キャスター、この“ミニ鳥居”って奴のことなんだけど』って皆で稼ぎましょう! そうしましょう!!」
えいえいおーと掛け声を上げるキャスター。
だけどその顔は一切僕の方を見ていない上、少し冷や汗を掻いていた。
「……キャスター?」
「あはは……」
僕はその様子を、少し冷めた目で見ていた。
自分はばれないと思ったんだろうか?
「あとさ、この他の大量のアイテムって何?」
僕は履歴を三人に見せながらそう聞いた。
何か、エーテルの粉末だとか欠片とかいった、よく分からないアイテムが大量に買ってあった。
一つのアイテムに、大体30個位ずつ勝ってるし。
「む、それは私が買った奴だな」
「アーチャーが!?」
正直以外だ。
アーチャーは結構しっかり者の雰囲気があったと思うから、無駄使いしないと思ったのに。
何かセイバーとは逆に倹約が得意そうだし。
「それは回復アイテムで、傷を治してくれる物だ。本当はこんなに大量に買うつもりは無かったが、今回はマスター自身が戦うからな。君は本来戦いの経験がないんだろう? 恐らく大分ダメージを受けるだろうし多めに買って置こうと思ってな」
「アーチャー……」
不覚にもジーンと来てしまった。
アーチャーさんホント頼りになる。
……ただ、それなら出来ればこの二人の買い物も止めて欲しかった……
本人曰く、気づいたら既に手遅れで、それなら残りを使われる前にアイテムにした方がいいって思ったかららしいけど。
「はあ……結局これからどうしよう、お金もう無いし」
僕は元の世界では一人暮らしをしてた時があったけど、その時は流石に親から仕送りは送ってもらっていた。
月に一度だから、前日とかにはすっからかんになってる事が大抵だったけど、流石に初日から無一文で生活はハードルが高すぎる。
「大丈夫だ奏者よ! アリーナに行って【エネミー】を狩ればよい」
「エネミー?」
エネミーって何?
それとこの金欠問題に何の関係があるんだろう。
「エネミーと言うのは、アリーナに徘徊している敵性プログラムの事だ」
「主に聖杯戦争の参加者の、軽い実力試しの相手みたいなものです。これを倒すとアイテムやお金が手に入る仕組みなんですよ」
「何そのドラ〇エ仕様?」
まるでRPGだよね、それ……
「まあ、お金を稼ぐ手段があるなら使わない手は無いよね」
「そうだな。どの道アリーナには、あの神父の言っていた【トリガー】とか言う奴も探しに行かなくてはならないしな」
そういえば、それもあったね。
確かトリガーって奴を探さないと、決戦場の扉が開かないとかどうとか言ってた気が……
「じゃあ、とにかくアリーナに行こうか」
「うむ! なら余は湯浴みの準備をして待っておる!!」
「何で残る気満々!? 君が一番一緒に来なくちゃいけない人でしょっ!?」
「嫌だー。余は湯浴みがしたいー」
「駄々っ子!?」
とりあえず、駄々をこねるセイバーはアーチャーに引っ張ってもらって、アリーナに行く事にした。
★☆★
「というわけで、アリーナに来たけど……」
「うわー、殺風景ですねー」
キャスターの言ったとおり、其処は予選の時に通った通路とあまり大差なかった。
いや、むしろ通路の外側に見えた深海の風景すらない状態で、より殺風景になっていた。
「とりあえず、エネミーって……」
「む。奏者よ、あれではないか?」
そう言ってセイバーが指をさしたのは、通路の置くの方にいた四角い何かだった。
何て言うか、箱がパカパカと開いて浮かんだ状態でふよふよと動いていた状態だった。
何かあれを見ていると、ビックリ箱を連想する。
「あれがエネミー? と言う事は、あれを倒せばいいの?」
「そういう事になるな。まあ考えてみれば、マスターの戦闘経験は皆無に等しい。ここでエネミーを相手に経験を積めておけるのは、むしろ今回はちょうどいいかもしれん」
あー、そうだよね。
実際に戦うのは僕自身だし、今の内にエネミー相手に練習を重ねておいたほうがいいかもしれない。
お金を稼ぐと同時に経験も積める、まさに一石二鳥だね。
「とは言っても……正直、自信はないんだよなあ……」
予選の時はつい手を出したけど、実際無我夢中で戦ったって感じだったから、あの時の様に動けるかどうか……
「む。何ならマスター、私が指示を出そうか?」
「へ? 指示?」
「あー、確かにそうですね。私達は今ステータスダウンしてますけど、元々戦闘のプロみたいなもんですから、相手の動きを見てご主人様に指示をするくらいなら」
ああ、確かに!
すっかり忘れてたけど、考えてみればアーチャー達は元々サーヴァントで戦闘慣れしている。
僕自身は戦闘経験がなくても、皆がアドバイスをくれるなら、これほど頼もしい事は無い!
「初陣だし、相手はレベルの低いエネミーだ。とりあえず今回は、【ATTACK】【GUARD】【BREAK】と、大雑把な三つの指示を出すからマスターはそれに従ってくれ」
「うむ。余が見ておるから、奏者は大船に乗ったつもりで戦ってくるがよい!!」
「分かった。じゃあよろしくね」
さて、と。
僕は前の方に向き直り、奥の方にいるエネミーをみて木刀を構えた。
これが予選を抜けてから、初めての戦闘だ。
緊張してくるけど、とにかくアーチャー達の言うとおりに戦えば問題は無いはず。
「じゃあ、行くよ!!」
僕はその掛け声と共に、エネミーに向かってダッシュをし始めた。
予選の時は気づかなかったけど、体が異様に軽く感じる!
明らかに元の世界で生活してたときより、身体能力がアップしている感じがした。
向こうのエネミーも僕の接近に気づいたのか、こっちに向かって来た!
さっきのふよふよしていた動きとは全く違うスピードだった。
このまま行くと、直ぐに僕達はぶつかるだろう。
さあ、僕に指示を……
「【GUARD!!】だマスターッ!!」
「【ATTACK!!】だ奏者よっ!!」
「【BREAK!!】ですご主人様っ!!」
――――――<三分後>――――――
ボロッ……
なんて事でしょう。
其処には、ボロボロになって倒れている吉井明久君(というか僕)の姿が
「奏者ぁーッ!?」
「ご主人様ぁーッ!?」
「あー、まあ……大丈夫か?」
その近くでは、僕の姿を見て叫んでいるセイバーとキャスター、そしていたたまれなさそうな感じで立っているアーチャーがいた。
「ア、アーチャー……ありのまま今起こった事を話すぜ……エネミーとの戦いで指示を仰いだら、三人ともバラバラの指示を出してきて、どれを聞けばいいのか分からなくなって、その間にダメージをガンガン受けちゃったんだぜ……僕が馬鹿だとか、敵が強大とかじゃない……もっと恐ろしい物の片鱗を味わった気分なんだぜ……」
「とりあえず、君がかなりやばそうだという事は理解した」
まさにその通り。
何とかエネミーはギリギリで倒せたけど、体のダメージがめっちゃヤバイ。
多分ヒットポイント制だったら、既に一桁台に入ってる位。
というか、むしろ指示を聞かないで戦った時の方が上手く戦えたってどういうことさ?
「大丈夫ですご主人様! こんな時こそアイテムの出番です!」
「おおっ!!」
そういえばそうだった!
アーチャーが大量に回復アイテムを買って置いてくれたんだった!
これほどありがたみを感じた事は今まで無かったよ。
「えっと、端末のアイテム欄を……ポチッっとな♪」
そう言ってキャスターが端末を操作すると、彼女の手の中に光る何かが出てきた。
良く見ると、それは何かの小さな欠片のような形をしていた。
多分エーテルの欠片とかいった奴だろう。
「え~い!!」
その掛け声と共に、キャスターはそのアイテムを頭上に掲げると、パアーっとキャスター達が光に包まれた。
「おー……」
「わー……」
「む………」
そう、“キャスター達”が。
「………………………………」←(明久)
「………………………………」←(セイバー)
「………………………………」←(キャスター)
「………………………………」←(アーチャー)
「……………………………………………………僕は?」
「「「………………………………………………………………………」」」←(みんな)
カチカチッ
暫くすると、キャスターが端末をいくつか操作して、僕の方に渡してきた。
僕は痛む体を無理やり起こしながら、それを受け取る。
其処にはこう書いてあった。
『【エーテルの欠片】 サーヴァントのHPを小回復』
「………………………………」
カチッ
一度端末を切る。
カチッ
また付ける。
『【エーテルの欠片】 “サーヴァントの”HPを小回復』
「………………………………」←(セイバー・サーヴァント)
「………………………………」←(キャスター・サーヴァント)
「………………………………」←(アーチャー・サーヴァント)
「………………………………」←(明久・“マスター”)
「…………あー、ます『アーチャー』」
アーチャーが何か言おうとしたのを、吉井明久君は言葉を被せてさえぎる。←(注・明久です)
「いくら……使ったの?」
吉井明久君の言葉は、まるで感情が感じられなく、ただただ平坦な声だった。
「いや、そのだなマスター……確かに少し多かったかとは思ってはいてな。というかそれこそその端末の履歴を『アーチャー』」
「いくら、使った?」
その声はさっきと変わらない、いやさっきより何故か迫力があり有無を言わせない言葉だった。
「……………し、4~5割程か、と……」
「………………………………………………………」
「アアアアアアアアアアアアアァァァーーーーーーーーーチャァァァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
<リザルト>
・サーヴァント戦闘不可
・アイテム使用不可
・残金0