ステータス
助けたかった
目の前で誰かが苦しんでいるのを放って置けなかった
一人を助けたら、また一人苦しんでいる人を見つけた
そしてまた一人を助け、一人を見つけ、助けて行った
そうやって“僕”は生きてきたんだ
★☆★
「……今の」
何か、夢を見ていたみたいだ……
内容は、はっきりと覚えていないけど。
とても大切で、どこか悲しい気持ちになるような夢だった。
「あ~、夢と言えば、今までの出来事も全部夢かな~……」
いきなり姫路さんと見知らぬ世界に出て、そして何故か人形と戦わされ、途中で出てきた謎の三人は正直役に立たず、代わりに僕自身が直接倒し……
「なーんて、そんな漫画みたいな出来事、実際にあるわけ……」
そう言って、僕はいつの間にか寝ていたベットから立ち上がる。
多分、白いカーテンに覆われているけど、ここは恐らく保健室だろう。
そう考えた僕はそのカーテンをシャーっと静かに開けた。
外に出ればいつも通りの文月学園の生活が……
「ちょっとセイバー!! 何また抜け駆けしようとしてるんですか!? その救急セットを渡しなさい!!」
「何を言うキャスター!! これは余が奏者の怪我に包帯を巻こうと初めから決まっていたのだ!! これは当然の権利だ!!」
「おい、君達。ここは保健室なんだから、もう少し静かに」
「「アーチャーは黙ってろ!!」」
「ふえ~、ここは私の保健室なのに~」
「………………………………………………………」←(明久無言)
シャーッ!!←(カーテンを閉める音)
もぞもぞ……←(ベットに入る音)
ぽふっ←(枕に頭を乗せた音)
うん。
まだ夢を見てるみたいだ、もう少し寝よう。
★☆★
「む? 奏者よ、やっと起きたか」
「夢じゃなかったよ……」
保健室のベットに座りながら、僕はちょっとした願望を直ぐに壊されうな垂れていた。
僕の目の前には、例の三人が立っている。
「ご主人様、背中の傷はもうよろしいのですか?」
「へ? ああ、うん。別にもう痛みもないけど……」
考えてみたら、結構深い傷を付けられていたはずなんだけど、もう痛みは引いている。
と言うより、既に治っている感じがした。
「だが、かなりの重症だったはずだ。にも関わらず、既に傷がふさがっているとは……人形との戦いといい、マスター君は本当に人間か?」
「何でいきなり人外認定されなくちゃいけないのさ。僕はいたって普通の一般人だよ」
但し、観察処分者と言うのは除いて。
「改めて聞くけど、君達は一体何なのさ?」
そう言うと、三人は意外そうに目をぱちくりと見張って、僕の方を見た。
「何って、私はキャスターのサーヴァント……って、ご主人様? もしかして……【聖杯戦争】の事をご存じない?」
「何それ?」
僕は一言、キャスターの質問にバッサリそう答えた。
そうすると、あちゃーっと顔に手を当てて呆れているようだった。
え、何か変な事言った僕?
「奏者よ。お主もしかして、記憶を失っておるのか?」
「へ? なんで?」
いきなりセイバーにそう言われたけど、訳が分からない。
自分の名前も覚えてるし、文月学園の生活も、その友達の事も何一つ忘れていない……はず。
「まあいい、我々が一から教えれば問題ない。マスター、聖杯は分かるだろう。あらゆる願いをかなえると言う……」
僕が聖杯について分からないと知って、アーチャーがそう話を切り出した。
うん。
「全く知らない」
その一言に尽きる。
だって、本当に知らないし。
「……はあ~」
そう言って、アーチャーは深いため息をついた。
何か凄い失礼なんだけどそれ。
「まあ、何でも願いを叶える道具と考えてくれ。この戦いは、その願望機をただ一人の魔術師(ウィザード)が手に入れるためのトーナメント形式の戦争……とだけ覚えれば問題ない」
「ウィザード?」
「おい待て。まさか君はウィザードすら分からないのか?」
「うん」
「……この聖杯戦争の参加者、つまり君のようなサーヴァントを使役している人物の事だと覚えておけばいい」
何かザックリ大雑把な説明をされたけど、まあ大体は分かったかな?
「では、サーヴァントについても説明しなくてはならないな」
「サーヴァント? そういえば、確か君達がそのサーヴァントって奴なんだよね?」
何度かその言葉を聞いたけど、正直まだ良く分かってない。
「サーヴァントって言うのは、過去、現在までに偉業を成した英雄達の人格を記録し、再現された存在なんです。サーヴァントにはクラスが七つあり、それぞれ……
アーチャー
ランサー
バーサーカー
ライダー
アサシン
そして私のキャスターと……」
「もっとも最優と謳われる余のクラス、セイバーだ!!」
「ちょっと!? 勝手に説明に割り込まないでください!!」
「とまあ、中にはイレギュラーも存在するが、大体はこの七騎のサーヴァントが存在する。ここまではいいか?」
「まあ、大体……」
「それは結構。聖杯戦争は、我々サーヴァントが一対一で戦い勝者を決める戦いなのだが……」
大体内容は分かったけど……
あれ、一対一?
「一対一って事は、君達の中から一人を代表にして戦わせるってこと?」
「いや。本来サーヴァントはウィザード一人につき、一人だけしか使役できないはずなのだが……どんなイレギュラーが起こったのか、我々は三体同時に君に使役している事になっている」
へえ~、そうなんだ。
「まあ、大体の説明はこんなところか。後は追々詳しく説明していく事にしよう」
「うん、わかったよ。……そう言えば、クラス名って事は、ようは君達の名前って本名って訳じゃないんだよね?」
「む? 私達の名か……」
そう聞くと、アーチャー達は何か難しい顔をして少しの間黙り込んだ。
あれ、何かまずい事だった?
「ふむ。マスター、サーヴァントの名と言うのは、この聖杯戦争において最も重要な情報と言える」
「敵に自分の真名を知られると、其処から対策を練られてしまう可能性がありますので……」
「まあ、奏者は暫くは変わらず余の事をセイバーと呼ぶがよい!」
何か良く分かんないけど、とにかくものすごく重要な事だから、簡単には話せないと言う事だけは分かった。
「それより、そういう奏者の方はどうなのだ」
「へ?」
「まだ、余は奏者の名前を聞いておらぬではないか」
あ、そっか。
そういえば、まだ僕の名前は言ってなかったっけ。
いろいろあったから、すっかり忘れてた。
「ごめん。僕の名前は吉井明久って言うんだ。よろしくね」
「うむ。明久か、覚えたぞ!」
「明久さんですね。これからよろしくお願いします」
「ふむ。吉井明久か、どれほどの長さの付き合いになるかは分からないが、まあよろしく頼む」
「あの~……」
「ん?」
聞き覚えのない声が、アーチャーの後ろから聞こえてきた。
アーチャーは横に移動して、僕がその人に見えるようにした。
「君は?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は【間桐桜】です。聖杯戦争の間、マスターの皆さんをサポートします。よろしくお願いしますね」
「あ、うん。よろしく」
「それと、セラフに入られたときに預からせていただいた記憶は返却いたしましたので、ご安心を」
へ?
記憶の返却?
「はい。聖杯を求める魔術師は門をくぐるときに、記憶を消され、一生徒として日常を送ります。そんなかりそめの日常から自我を呼び起こし、自分を取り戻した者のみがマスターとして本戦に参加する――――以上が予選のルールでした」
へー……ていうか、僕初めから自我取り戻してたんだけど?
「それと、これを渡しておきます」
「何ですか、それ?」
そう言って、桜さんは僕に何かの端末をくれた。
なんか最近のスマートフォン? だっけ。
それに似た何かだった。
「それに運営からの情報が更新されるので、マスターは常に確認してくださいとのことです」
「へー、つまり連絡用の携帯端末ってことですか」
「はい。それ以外に、サーヴァントの情報の確認や、礼装の装備も可能なので試してください」
礼装? また聞きなれない言葉が出てきたな。
けど、それよりサーヴァントの情報が確認できるって事の方に意識が行った。
「うむ。奏者よ、早速余のステータスを確認するがよい!」
「あ、私のが先ですよ!!」
「ふむ。まあ戦力を確認するのはいいことだ」
そう言いながら、三人とも僕の端末を横から覗き込んだ。
ていうか、四人で見るにはこの画面小さいんだけど……まあいいか。
「ちなみに強さはAに近いほどよくて、Eが最低ランクです」
あ、ありがとう桜さん。
そう礼を言いながら、僕は手元の端末の電源を入れた。
あ、ステータスって、これかな?
そう思ってそれを開くと……
■クラス:セイバー
筋力:H
耐久:H
敏捷:H
魔力:H
幸運:H
■クラス:キャスター
筋力:H
耐久:H
敏捷:H
魔力:H
幸運:H
■クラス:アーチャー
筋力:H
耐久:H
敏捷:H
魔力:H
幸運:J
「……これを見て、どう思う?」
「すごく……H(エッチ)です……」
「………………………………」
「「「………………………………」」」
全員無言。
「あ、High(高い)のH……」
「ちなみに強さの階級はアルファベット順です」
ありがとう桜さん。
「………………………………………………………………………………………………………………」
「「「……………………………………………………………………………………………………………」」」
…………ふう。
さて。
「校内の探索に行こうか?」
「現実逃避はやめよう、マスター」
終わった……そういう感想が、僕の心に広がった。
「だってさあ!! 最低がEなんでしょ!? それ以下ってどういう事!?」
「余が聞きたいわ!! 通りで余の力が全く出せんと思ったら!!」
「ていうか、三人もサーヴァントがいるから、魔力が足りなさ過ぎるんですよ!?」
「おい。というか、何故私の幸運ランクだけJでダントツに低いのかについて聞きたいのだが……」
駄目だ!
まるで勝てる気がしなくなった!!
「ええい、貸せ!!」
「あ、ちょっと!?」
そう言ってセイバーは、僕の手から端末を奪うと、カチカチと動かした。
「そういう奏者の方こそどうなのだ!!」
「あ、確かに気になります!」
「ふむ、どれ……」
■マスター:吉井明久
MP:50
筋力:B
耐久:C
敏捷:B
魔力:E
幸運:E
「「……………………」」
「どう見ても普通のサーヴァント並です。ありがとうございます」
……え? マジで?
「え? ていうか、これって……いいの?」
「まあ、サーヴァントとしての平均なら中の下と言った所だが……十分、戦力として考えられる」
そう言うと、アーチャー達は僕の方を見て、慈愛に満ちた顔で見つめてきた。
……いやな予感しかしない。
「奏者よ」
そう言って、セイバーは僕の両肩に手を置いた。
そして、真っ直ぐに僕の目を見つめてこう言った。
「……ファイトだ!!」
「ファイトじゃなあアアアアああああああああああああああああああああああああああいっ!!?」
なんでさああああああっ!?
「え!? ていうかさ!? 聖杯戦争って一対一でサーヴァントが戦うんじゃなかったっけ!?」
「ああ。それはただ、サーヴァントクラスの戦闘力を持ったマスターなんて普通いないのと、マスター一人に付きサーヴァントは一体が原則だから自然とそうなっただけで、別にマスター自身が戦ってはいけないなんてルールは存在しないからな」
「だから、ご主人様が頑張れば問題なしです♪」
「問題なしじゃなあああああああああああああいっ!!」
え!? 結局僕自身が戦うの!?
「大体、いくら人形相手とはいえ、君は生身で勝てただろう。そもそも君は何故あそこまで戦える?」
「あ……それは、多分……」
そう言いながら、僕は自分の体を見てみる。
僕の服は、あの人形との戦いの時の改造学ランのままだった。
ベットの横には、三人の誰かが立てかけてくれたのか、木刀があった。
何度見ても間違いない……これは、“僕の召喚獣の格好”だ。
「召喚獣……? 奏者よ、それは一体何なのだ?」
「凄く興味があります、私!」
「あ、うん。召喚獣って言うのはね……」
召喚獣のことを、僕の居た学校についても含め説明しながら、僕はこの先かなり苦労しそうだなと、かなり強い予感を感じていた……