Fate/Extra Summon   作:新月

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まさかの丸一年ぶりの更新。
詳しい事は活動報告で。


プールの発想力

「アハハハハっ! ほら、どうしたのお兄ちゃん! さっきまでの威勢の良さは!?」

「くうっ!?」

 

 明らかにさきほどから雰囲気が変わったアリスが、炎の塊を僕に向かって大量に放ってくる!

 恐らく彼女の宝具の影響なのか、その威力はさっきまでとは桁違いだ!

 キャスターの鏡のおかげで、避ける事自体は簡単だ……上から彼女が操作して引っ張ってくれるおかげで、自由に移動出来るようになったから。

 でも……

 

「それも、逃げる場所があればの話なんだよね……ッ!」

『ご主人様!? どんどん足場が溶けていってます! このままじゃ……!』

 

 そう、アリスの放つ炎のせいで、攻撃を避けたとしても足場の氷に直撃して、それを溶かされてしまう!

 この新しい移動方法も氷の上しか使えないから、実質移動出来る場所がどんどん減らされて行く!!

 しかもこの下は、冷たいプールの水……落ちたら確実に不利になる!

 

「キャハハハハッ! そうよ! お兄ちゃん達はこのまま何も出来ない、今度こそ終わりなの!」

『調子に乗るなそこのブラックロリッ子! 大体、足場が無くなったら困るのはそっちも同じじゃないんですか!』

 

 キャスターのその怒鳴り声に、僕もはたと気づく。

 そうだ……今まで僕達ばかり不利になると思ってたけど、よく考えたらアリス達も僕達と同じ場所に立っている。

 転移能力を向こうは持っているけど……それも、“転移した先が足場がある事前提”だ。

 そうしないと、空を飛べもしない限り、そのまま転移先で落下してしまう筈だから。

 つまり、このまま氷が溶かされ続けるのは、向こうの自由も同時に奪ってしまってる事になる。

 このまま、スキルによる遠距離攻撃しかしないなら、それもありだとは思うけど……射程外まで逃げれば、こっちの回避もしやすくなる。

 

 一応、足場が無くなったら転移で城の上階の方に逃げるという選択肢もあるけど……

 

「あら、心配には及ばないわ。……“追いかけたくなっちゃうよね、兎とか!” 【冬の野の白き時】ッ!!」

 

 そう言って、アリスは新しいスキルを————冷気!?

 右手に集まったそれを、溶けてプールの水が見えている所に投げつけた!

 それが水面に直撃した瞬間、その場所がどんどん凍って行く!? 

 

「そんな……っ!?」

「どう? これであたしは好きな場所に足場を作る事が出来るの。あたしにとって必要となった場所にね」

『炎・氷・風の高位の術を複数操るですって!? 概念的サーヴァントのくせに、キャスタークラスとしてどんだけ上位ランクなんですか! というか、完全にキャラパクリーッ!!』

「キャスター、最後の割りとどうでもいい! 後、何気にさりげなく自分のことも自慢してるよね、それ!?」

 

 というか、キャスターのそのスキル一回も見た事無いんだけど。

 パクリと言われても……

 

「ていうか、ヤバいヤバい!? 本気でまた押されて不利になっちゃってる!!」

 

 これで向こうは自由にこのフィールドの足場を操れる事が確定してる!

 しかも、向こうは転移があるから転移先にだけ足場を作ればいい、つまり足場どうしは“独立してて”構わない。

 対してこっちは氷の上を滑って移動するから、足場どうしが“繋がってないと”移動出来ない!

 ある意味さっき以上に追い詰められ始めてる!? 

 何か策を考えないと……って、そう考えてる内にまたさらに溶かされてるーッ!!

 

「キャスターッ!! 残りの足場の範囲は!?」

『もう殆ど残ってません!! ご主人様の周囲を除いて、あのロリッ子が作った小さな足場が転々としているだけです!!』

「嘘っ! もうそんなに!?」

 

 そうこうしてるうちに、あっという間に袋のネズミにされてしまっていた!?

 

「さあ、追い詰めたわよお兄ちゃん!! これで、沈みなさい!!」

 

 そうしてアリスが放って来たのは、いままでとは比べ物にならない位大きな炎!

 今いる場所を、完全に埋め尽くし、沈める程の!

 逃げ場所が完全に無い……そうだ!?

 

「こうなったら……ッ! キャスター!!」

『はい!』

「行くよっ!!」

 

 そう決心した後、僕は今のスピードを維持したまま持っていたキャスターの鏡を、前方の水面スレスレに投げる。

 そして、僕は足場の縁ギリギリに来た所で、自分も水辺に向かってジャンプする!!

 その着地位置には、当然……

 

 

「ソリの次は、“サーフィン”だ!!」

 

 

『はいっ……はい? はいぃっ?!』

 

 水面のキャスターの鏡に乗り、バシャンッと水しぶきが上がる。

 そしてそのまま、サーフボードに乗ったときのようにバランスをとって、水面を移動して行く!!

 

「なッ?!」

「あはは! どう、これが僕が考えた、冬が終わって雪や氷が溶けたら、じゃあサーフィンやろうっていう発想からきた、水上移動方法!」

 

 ちょっと鏡が小さいせいで足下のバランスが取りづらいけど、そこはまあ気合いで何とかすれば!

 後はさっきまでと同じ要領で、キャスターに操作してもらえれば問題ない!

 僕はドヤ顔しながら、アリスの方に向かってそう言う……

 

 

 が、

 

 

「これで氷を溶かされた所で、問題な……って、冷たァッ?! ちょ、キャスター!? これ沈んでる、沈んでってるんだけど!?」

 

『だーから!! 長時間持ち上げ続けるのは無理なんですってばあッ!! さっきまでは氷の上で引っ張るだけでしたから出来ましたけど、これほとんどご主人様の全体重乗ってるじゃないですかぁっ!!』

 

「えええええッ!!?」

 

 さすがに無茶すぎたらしく、移動するにつれどんどん鏡は沈んで行き、もう膝近くまで浸かっちゃってる!?

 ていうか冷たい! ホント冷たいよコレ!?

 

『うう、おーもーい〜ッ!』

「キャスター耐えて!! もうちょっとで……良し、セーフッ!!」

 

 沈みかけながらもなんとかそのまま移動して、ギリギリの所でアリスの作った小さな足場に飛び移る!

 あ、危なかった……!

 

「うう〜っ! 寒寒ッ!?」

『ご主人様!? 大丈夫ですか!?』

「だ、大丈夫! ちょっと冷えただけだから!」

 

 とは言ったものの、元々の城の室温と相まって、水に浸かっていた部分がかなり冷えてしまっている。

 おかげで両足が少しガタガタ震えていて、止まらない。

 只でさえ寒さで動きづらくなるというのに、もしこれで全身が浸かってしまったら……うう、想像するだけで寒気が!

 

「けど、これで……!」

 

 そう呟きながら、僕はアリスの方を見る。

 さすがに完全とは言えないものの、これで水中に落っこちるという事は無くなった。

 後はこのまましばらくアリスと距離を取って、体制を立て直せば……

 

「へえ……そうくるんだ、お兄ちゃん達は」

 

 そう思った時、アリスがそう言ったのが聞こえた。

 まるでそんな方法があるんだと感心したそうな雰囲気で。

 

「さっきから思っていた事だけど、お兄ちゃん達って結構突飛な作戦思いつくわよね。壁を殴ると言い、武器に引っ張られると言い、よくそんな発想が出せるね」

 

「はあ、はあ……そうだよ、これが僕達の武器だからね。フィールドの物を片っ端から全部利用する”発想力”……これが、僕達の強さなんだ」

 

 魔力が無くてマスターとして未熟、おかげでサーヴァントの力が最低以下。

 そんな明らかに未熟な僕達が、一回戦二回戦を勝ち抜く事が出来たのは、この“発想力”の力が大きかった。

 本来自分たちにとって不利な状況を、逆にチャンスに変える……

 アリスに聞かれてハッキリ分かった……この力が、僕達の最高の武器だったんだ!

 

「ふ〜ん、発想力、ね……」

 

 僕の言葉を聞いたアリスが、そう呟き……

 

 

「なら、あたしもそれに習ってみようかしら! 三月兎の狂乱!!」

「っ!? それって、さっきの強風の……!!」

「たあッ!!」

 

 アリスは先ほどジャバウォックを浮かばせたスキルを再び使用し、強力な風の渦を作り出す。

 そして、今度はそれを“水面”に向けて放った!?

 今度は何を……って!?

 

「か、風が水を巻き上げて……ッ!?」

『巨大な渦潮……というか、これもう!?』

 

 ビュゴウゥーっと音を鳴り響かせ。辺りの水や、浮いていた氷を全て巻き上げる……

 

 

 いわゆる、“台風”と呼ばれるものが出来上がっていた。

 

 

「ちょ!? 嘘でしょぉ————!?」

『あのちびっ子、よりにもよってこんな室内で台風なんてもんを作り出しやがりましたー!?』

「こんなスキルの応用の仕方があった何て……! ていうか、これもしかして引き寄せられてる!?」

 

 よく見たら、僕の乗ってる氷の足場もあの台風に引き寄せられていた!

 え、ていうかこれヤバく無い!?

 

「やばいキャスター!? 急いで別の足場に移動しないと——」

「させないわ! ホラ!」

 

 そう言ってアリスが手を振り下ろすと、台風から僕に向かって何かが飛んでくる。

 あれは、さっき吸い込んでいた氷の塊!?

 

「うわあッ!?」

 

 とっさに手に持っていたヴォーパルの剣で、なんとか防ごうとする。

 けど……

 

「ぐあぁッ!!?」

『ご主人様!?』

 

 氷が剣とぶつかったその瞬間。パギィンッっ! という甲高い音。

 そして直後に、右腕に鋭い痛みが発生した。

 な、何が……?

 

「な!? そんな……!」

 

 気づいたら、手元の剣が折れていた。

 最早原型を留めていないレベルに、粉々に砕けている。

 その破片の一つが、僕の右腕に刺さったんだ……!

 

「この剣、ここまで脆かったの……!?」

『対象が限定的過ぎるせいで、ソレ以外に対してはただの金属の塊なんです! それでも、もうちょい強度なんとかしとけよあの露出狂————!!』

 

 キャスターのそんな切れたような声が聞こえて来た。

 いやまあ、ジャバウォック倒せた時点で役目を終えていたし、十二分に役立っていたから文句言う筋合いは無いだろうけどね……むしろ感謝しなきゃ。

 そんな事より、腕の傷は————駄目だ、破片が結構大き過ぎる。

 このまま抜いたら、縛ったりする物が無い以上出血多量になるかも……

 しばらくこのままで行くしか無い……!

 

「お兄ちゃん、グズグズしてるけど大丈夫ー?」

「っ!?」

 

 しまった!? 

 そうこうしているうちに、もう目の前まで台風が近づいちゃってる!?

 これ、もう間に合わ————!

 

 

「うわあああああああああああああああああ!?」

 

『ご主人様ぁああああ——————————っ!!?』

 

 

 濡れる、寒い、冷たい、苦しい、呼吸が……

 そんな感情が一瞬で様々頭に流れ込む。

 台風に呑み込まれた僕はパニック状態になり、もはや上下左右の判別も出来ない状態だった。

 ヤバい、このままじゃ……!!

 

「(あはは! 残念だったわねお兄ちゃん! どう、お兄ちゃんの言った発想力で、この台風を起こしたの! ねえ、凄いでしょ? このままお兄ちゃんはこの中にずっと閉じ込められて、なす術も無く溺れて終わるの! お兄ちゃん達の負けで、この遊びは終わり! あはははは!)

 

 

 ガボボ! がぼがぼがガボボ! がぼ、ががーぼぼがぼおぼが、がぼぼがぼが! がぼ、がぼぼあ? がぼぼぼぼあぼおぼっぼあああおぼあ、がぼぼぼがぼぼぼあぼぼがぼ! がぼぼぼががぼ、ががぼぼぼあ! がぼぼぼぼ!」

 

 

 

 ————って、君

アリス

も呑み込まれてるうううううううう!?

 

 

「(何言ってんの!? 君も呑み込まれてんじゃん!?)

 がぼっぼがあ!? ががぼががぼぼがぼぼんが!?」

 

「(嘘ぉッ!?)がぼあッ!!?」

 

 今気づきましたといった表情が、台風の中の水中で見えた。

 いやホントに何やってんのアリス!? 自分まで巻き込んでるじゃん!

 しかもガボガボ言って何言ってるのか分からないし!!

 

 って、つおあ!?

 

 直後、バッシャアンッ!! と大きな水音が鳴り響く。

 術者がコントロール出来なくなったせいか、台風が治まり巻き上げられた水や氷が一斉に落ちたからだ。

 水中に投げ出された僕は、急いで水面に顔を出す。

 

「ッぷっはあ!!」

『ご主人様! 大丈夫ですか!?』

「な、なんとか……つぅ!」

 

 思わぬ事で抜け出せたけど、落ち着きとともに、寒さと痛みが遅れて響いて来た。

 水温の冷たさによって体が凄い勢いでかじかんでいき、そして腕の傷に染みていってしまっている。

 これ、早く上がらないと不味い……!

 

「けほ、けほ! うう〜寒い、寒いわ!」

 

「って、アリス!? いつの間に上に!」

 

 声が聞こえて来た方を振り返ると、アリスがいつの間にか氷の足場の上に立っていた!

 一体いつの間に……っあ!? そっか転移か!?

 アリスは好きな場所に移動出来るという事は、水の中から氷の上にというのも出来るんだ!

 

「ふ、ふふ。けど、どうかしらお兄ちゃん。これであなたは水に落ちた! そのまま浸かっているだけで体が凍えてすぐに動けなくなるわ!」

「け、けどそっちも震えているじゃないか! 水の中じゃなくても、そっちもそのままだと凍えるのは同じでしょ!」

 

 その姿はビショビショで、全身が震えている様子からもかなり寒さにこたえてるように見える。

 確かにずっと水の中にいる方が冷えるのは早いかもしれないけど、総合的に見ても体の小さいアリスの方が凍えるのは早い筈……

 

「あら、忘れちゃったの? あたしには、いつでも暖まれる手段があるってこと。火吹きトカゲのフライパン!!」

 

 あ!? しまった、それがあった!

 アリスは炎・氷・風を自在に操れるんだった!

 さっきみたく炎を近くに出せば、それで暖を取る事が出来……

 

 

 ————ん? さっきみたく?

 

 

「あれ? けどそれ、アリスの足場も氷で出来ているから……」

 

「きゃあああああぁぁぁ————————————ッ!!?」バッシャアンッ!!

 

『バカだ! あのロリッ子!?』

 

 自分で自分の足場を溶かし、再び目の前でアリスが落ちた。

 ……あー、うん。あれだ、“策士策に溺れる”ってこの事か。

 なんかスッゴイその言葉がこの状況に当てはまる気がする。

 自分で言うのもなんだけど、下手に僕の言葉を習っちゃったから……

 

 まあ、とにかく今のうちに近くの足場に上がっておいてっと……

 

「させないわよ!!」

「うわあ!?」

 

 また別の足場に転移したアリスが、僕の乗ろうとした足場めがけて炎を撃って来た!

 くそう、もう立て直して来たかあ!

 

「もう待ってられないわ! このままお兄ちゃんを氷の下に沈めて上げる! 冬の野の白き時!!」

 

 そう言ってアリスは冷気を集め、それを僕に向かって投げて来た!?

 このまま僕を凍らせる気!?

 

「キャスターッ!!」

『はい! 捕まって!』

 

 僕はそう彼女に呼びかけ、さっきみたく鏡を投げさせた。

 間一髪の所で僕はそれを掴み離脱し、ギリギリの所で氷漬けにならずに済んだ。

 

「あ、危なかった……このまま別の足場まで急いで引っ張って!」

『了解です!』

 

「逃がさないわ!」

 

 そう言って僕を追撃するようにアリスが冷気の塊を放ち続けるけど、キャスターの操作によってどれもギリギリの所で回避し続ける事が出来た。

 よし、このままいけば……大量に撃ってくるといっても、“アリス一人なら”とくに問題は……

 

 

 ————その瞬間、僕はとんでもない事を忘れていた事に気づいた。

 

「“ありす”は……? 白い方のありすは何処!?」

『な!? しまった、そういえば……!?』

 

 アリスばかりに気を取られ過ぎていた、いつの間にかありすが全然見当たらない!?

 一体何処に!?

 

 

「————今よありす!!」

 

「ッ! 三月兎の狂乱!!」

 

 アリスがそう言った時、ありすのスキルの発動の声が聞こえた。

 その場所は、上————しまった!?

 

『へ!? きゃあッ!?』

「キャスター!?」

 

 気づいた時には遅かった。

 キャスターはありすのスキルを躱し切れず、そのまま上から落下して来た!

 バシャーンッ!! っと大きな水しぶきを上げながら水中に落ちる……

 不幸中の幸いか、既に殆どの氷が溶かされていたから、氷の上に叩き付けられる事がなかったのはマシだろう。

 ただ……

 

「キャスター、大丈ゲボッ! ガボっ!?」

 

 急に僕を引っ張っていた鏡の力がなくなり、一瞬水中に沈んでしまう。その際に気管に水が入り、少しむせてしまった。

 しまった、ありす達の狙いはコレか!? キャスターを落とす事で、鏡の操作と狙撃による妨害を防ぐ……おかげで、さっきのように水中で素早く動けない!

 

「ゲホッ! ゲホッ! ゴホッ!? し、沈む、ガボッ!?」

「キャ、キャスター!? 待ってて!」

 

 とにかく、今はキャスターの所へ! なんか溺れかけてるし!

 鏡の力がなくなっても、一応自力で泳ぐ事は出来るから、なんとか急いでキャスターのいる所まで泳ぐ。

 落とされた時、まだキャスターと近い場所で助かった……

 キャスターの所に辿り着いた時、僕はなんとかして水中で支えて、呼吸が出来るようにする。

 

「キャスター、大丈夫!?」

「ゲホっ、けほ! あ、あのロリッ子共……着物が水含むと、どんだけ重くなるか分かってんのかコノヤロー!! 着衣水泳なんて考えてないんですよコレ!? 洗濯するのも大変ですしー!」

「あー、うん……とりあえず、無事で何より」

 

 まあ、着物っていうか、なんちゃって着物だけどねそれ……露出度高くて、和服って何だっけ? 状態だし。

 あと洗濯大変とか言ってるけど、大変なのは君じゃなくて、主に家政婦さん

アーチャー

 って、心の中で突っ込んでる場合じゃない!?

 

 

「詰みよ。お兄ちゃん」

 

「「ッ!?」」

 

 遠くの氷の足場の上に、アリス達が立っている。

 そして、その右手にはかつて無い程巨大な冷気が集まって————ヤバい!?

 

「全て————凍りなさいッ!!」

 

「潜れぇッ!」

「ヘびゅッ?!」

 

 キャスターの頭を上から押さえ、僕達は急いで水中に潜る。

 その直後、アリスの腕が振り下ろされ、辺り一面が一瞬で————

 

 

 

 ★☆★

 

 

「はあっはあっはあ……」

「アリス……」

 

 あたし(ありす)が私を心配そうに見て来てる。

 けど大丈夫。心配ないわ、もう終わったもの。

 

「やった……やったわ。やったのよ!」

 

 今度こそ、お兄ちゃん達を倒した! この氷の下に閉じ込めた!

 例え運良く氷漬けになるのは逃れたとしても、もうこのプールの何処にも、お兄ちゃん達が脱出出来る隙間は残していない!

 あたし達の勝ちよ!

 

「やったのよありす! これでまた、ありすと一緒に夢を見続けられる!」

「……うん」

 

 喜ぶあたしとは別に、あたし(ありす)はあまり嬉しく無さそうな顔をしてる。

 

「……“先生”の事?」

 

 そう聞くと、ありすはビクッと一瞬体を振るわせる。

 図星だったんだ。

 

「……それもある、けど……」

「……先生のことは聞いたわ。確かに、ありすの言う先生とお兄ちゃんは————」

 

 そう言おうとした瞬間。

 

 

 ピシッっと何かが響く音が聞こえた。

 

 

「な、なに?」

「まさか————ッ!?」

 

 気づいた時には遅かった。

 あたしの足下の氷に、亀裂が入り……

 

 

「だあらっしゃあああああぁぁぁ————ッ!!!」

 

「きゃあああああぁぁぁ————ッ!!?」

 

 

 ————お兄ちゃん達がそこから飛び出して来た。

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

「げほっげほ!! で、出れた!」

 

「ゲッホ! ていうか、寒い! 濡れた服が冷えます、これ!?」

 

 なんとかウォールブレイクで氷を壊して、脱出出来た!

 キャスターも一緒にいたのが、ある意味幸いだった!

 鏡を水中で固定して、それを一瞬でも足場に出来たおかげで、変に力を逃がさずに済んだし!

 あのままただ水中に浮かんだ体制じゃ、威力が半減して氷が壊せたかどうか怪しかったよ!

 

「くッ! お兄ちゃん……ッ!」

 

 ちょっと離れた所に、アリスが倒れて起き上がろうとしていた。

 ちょうど上手い具合に、彼女の足下を割れたんだろう。その勢いで、体制を崩せた!

 今がチャンス!

 

「アリスーッ!!」

「っ!?」

 

 僕はアリスの元になんとか移動して、そして……

 

 

「ウォールブレイク・インパクトォ————ッ!!」

「きゃああああああああ————っ!?」

 

 そのままスキルを放ち、彼女を遠くへ吹っ飛ばした!

 

「カッ、はぁ……っ!」

 

 吹っ飛んだアリスはそのまま氷の上を滑り、背中から壁にぶつかって止まる。

 それと同時に、辺りを包んでいた“嫌な感覚”が無くなった。

 

「これは……」

「おそらく、彼女の宝具が解けたんでしょうね。これでもう、先ほどまでの威力は出せないでしょう」

 

「アリス、大丈夫!」

「う、ぐ……」

 

 ありすが転移して、アリスの近くにいく。

 彼女が支えるが、もうアリスは動ける様子じゃない。

 

「……終わりだよ、アリス。今度こそ、僕達の勝ちだ」

 

 今度こそ逆転。

 もう彼女達に、この状況を返せる手は無い、筈。

 

「まだ、よ……!」

 

 痛む体を無理して、アリスが一人で立つ。

 

「まだ、終わってなんかいないんだから……!」

 

 さっきと全く同じ台詞。だけど、さっきみたいな迫力は無い。

 だれが見ても、ただのやせ我慢だ。

 

「もう終わりだよ! これ以上やり合っても————」

 

「————どうして」

 

 僕の台詞を遮るように、アリスが言う。

 

 

 

「どうして、あなたが、それを言うの?」

 

 

 今までとは違う表情で。今までとは違う声で。

 

「アリス……?」

「ありすはずっと不幸だった。ありすはずっと一人だった……」

 

 彼女の独白は続く。その声に悲痛を乗せながら。

 

 

「それを最初に救ったのは、“あなた”でしょ————?」

 

 

 その言葉に、僕は一瞬ブレた、ような気がした。

 だって、あまりにも、衝撃的で————

 

「え……あ、れ?」

「ご主人様!? あなた、何を……っ!?」

 

「ありすに希望を与えておいて! 勝手にその希望を奪おうとしないでよ!!」

 

 アリスはしっかりとこっちを見て立っている。その体が、少しずつ崩れながら。

 

「ありすは絶対死なせない! たとえ、あたしがあたし(アリス)じゃ無くなっても————!!」

 

 

 

 

 

 

「————アリス、もういいよ」

 

 

 

 

「ありす……?」

「もう、いいの」

 

 そう言って、ありすは僕達の方を見て……僕の目の前に転移して来た。

 

「なっ!?」

「あなた!?」

 

 しまった! 懐に入られ……

 

 

「……ゴメンね、お兄ちゃん」

 

 そう言って、彼女が触れたのは僕の右腕。

 正確には、左手が腕で、右手が“そこに刺さってる剣の破片”だ。

 

「ぐあッ!?」

 

 それを抜くと同時に、僕の右腕が凍り始めて……!?

 

「ご主人様から、離れなさい!」

 

 そう言ってキャスターが鏡を放つ、が、ありすはまた転移して避ける。

 転移した咲は、ちょうど僕達とアリスの間だった。

 

「ゴメンね、痛かったよね?」

「何を……?」

 

 そう言ってから、右腕を見ると。

 確かに凍ってはいる。けれど、凍っているのは傷の部分だけだ。

 そこを覆うように、これ以上、出血しないように。

 それに気づいて、ありすを見ると……

 

 

「……待って。ありす、本当に、何しようと……?」

「……駄目、ありす、それは、待って……?」

 

 僕とアリスから、そんな声が絞り出される。

 信じられないような物を見るように。

 

 ありすは、僕の腕に刺さっていた“剣の破片”を持っていた。

 それを両手で持ち、その切っ先を……

 

 

「だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————バイバイ」

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の胸に、突き刺した。

 

 

 

 

「ありすぅ————————————————ッ!!?」

 

 

 

 

 


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