Fate/Extra Summon   作:新月

43 / 49
今回は結構長めの上、バカテス側の部分が多い。
なのに、ほぼギャグが少ないとはどういう事だ……!


あなたの名前

 ————それは、キャスター達に誤解される少し前。

 

 具体的には、アリーナでありすの目の前で僕の意識が消えかけた直後のお話。

 

 

 

 

 ……僕はもう、体に力が一切入らなかった。

 

 指先どころか、閉じかけていく目蓋を止める事すら出来ない。

 

 

 

 

 ……消える。

 

 わずかに残っていた、意識が。

 

 ……消える。

 

 僕の持つ、魂が。

 

 ……消える。

 

 僕という、存在が。

 

 

 消える、消える、削れていく……

 

 吉井明久という“個”を象っていたパーツが、どんどん削られていく……

 

 

 嫌だ……と、否定しても止まらない。

 

 消えたく無い……と、拒んでも止められない。

 

 死にたく無い……と、拒否しても進んでいく。

 

 

 ……僕にはもう、抗う力なんて残っていなかった。

 

 

 支えを失った体は、前に倒れていく……

 

 そのままなす術も無く……僕は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘブオォッッ?!!」

 

 

 

 

 そのまま床に顔面をぶつけた。

 

 

 

 

「う、ご、のおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 そしてそのまま顔を両手で押さえながら、低いうめき声を上げてのたうち回る。

 

 ていうか、痛い、痛いッ!! 鼻が、鼻がアアアァァァァァァァッッッ!!?

 

 

 

「……っフー……ッうー……!!」

 

 そうして数十分程経った後、ようやく痛みが治まり落ち着いて来た。

 多少鼻血が出ちゃったけど、ムッツリーニ程のレベルには程遠いからそれは問題は無いだろう。

 

「ッあー、痛かった……」

 

 ていうか、本当に痛かった……漫画とかでよく気絶して倒れるシーンあるけど、あれ真っ正面から倒れたら僕みたいに鼻ぶつけるよね? すっごい痛くなるよね?

 その衝撃でその人たち普通に起きないの? 実際に薄れかけた意識が完全に覚醒した僕だから聞くけど。

 

 そう心の中で思いながら、よいしょっとその場で立ち上がろうとする、と……

 

「って、あれ? 服が、変わってる……ていうか……」

 

 腕輪とかの装備はそのままだったけど……今の僕の姿は、別の制服姿だった。

 僕は、召還獣と融合してからずっと学ラン姿になっていた……というか、解除方法が分からなかったから、そのままだっただけだけど。

 けれど、何故か今は違う。

 しかも月海原学園のじゃなく、“それ以前に着ていた”……

 

 

「って、それどころじゃない!?」

 

 そんな事思っている場合じゃないって!

 それより、早くありすの固有結界を何とかしないと!?

 

「ああ、もうッ! ありす、お願いだからこの結界解いて————」

 

 半ば自棄になってありすに向かってそう言おうとしたけど……

 

 

 ————目の前にありすはいなかった。

 

 

「————え?」

 

 いや、それどころか。

 

 ここは、今までいたアリーナでは無かった。

 

「なん、で————?」

 

 

 ……いつの間にか、僕が立っていた場所は校庭のグランドだった。

 

 そして、目の前には見慣れた学校……

 

 それも、たかだか2〜3週間じゃなく、既に一年以上通い詰めていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——————“文月学園”

 

 

 

 

 

 僕の元いた場所が、そこにあった。

 

 

 

 ★☆★

 

 

 ……その頃、アリーナでは。

 

 ありすは、目の前で倒れた“彼”に声をかけていた。

 

「……ねえ、大丈夫?」

 

 

 ————ああ、大丈夫。ちょっと目眩がしただけだから。

 

 

 そういって、“彼”はゆっくりとその場で起き上がる。

 

 

 ————さて、と。ありす、遊ぶんじゃなかったの?

 

 

「……っ! うんっ! 一緒に遊んでくれるの?」

 

 

 ひまわりのように、パアッと明るく笑うありす。

 その時の彼女を見つめるその目は、深い慈愛に満ちていて。

 

 

 ————うん。だって、約束したじゃないか。

 

 

「約束……覚えていてくれたの!?」

 

 

 ————当然だよ。ずっとずっと……ずーっと昔にした、約束だもんね。

 

 

 ……そう言った彼の表情は、とても懐かしそうに見えた。

 

 

 ★☆★

 

 

「……違う」

 

 目覚めた直後、僕は真っ先にこの場所にやって来た。

 

 かび臭い教室。

 古く汚れた座布団。

 薄汚い卓袱台。

 

 仮にも勉学を励む学生のいる部屋とは思えない最悪な教室。

 

 何処からどう見ても、文月学園のFクラスの教室だと勘違いしそうな(・・・・・・・)その部屋を見て……

 

 

 

「ここは、僕の知ってる文月学園じゃない……!」

 

 

 僕はそう、断言した。

 

 確かに、外から見た校舎の外観はそっくりだり、この教室のボロ具合は見覚えがあり過ぎる。

 けど、冷静になってよく見たら、細かい点がいくつか違った。

 

 例えば、席順。……というか、ちゃぶ台順。

 僕の席は、姫路さんと隣同士だった筈なのに、位置が全然違っている。僕達だけでなく、他の皆の場所も完全にシャッフル状態だ。

 初めてFクラスに入った時に自由に決めて、それ以来夏休みに入ってからも一切席替えなんてしなかったのに……

 

 次に、窓ガラスのヒビ。

 確か、前から三つ目か四つ目辺りの破損が酷くて、ビニールシートとテープを使って塞ぐという、かなりおざなりな対応がされていた筈。

 なのに、そのビニールシートが張られている箇所が一切見当たらない。

 窓ガラスを新しいのに代えた? という考えも浮かんだけど、最底辺のFクラスにそんな対応してくれるのだろうか?

 

 そして、最後に……

 窓から外の景色を見てみると、今は大体お昼くらいらしい。

 そして、教室のあちこちに鞄や勉強道具などが出され、黒板に数式などの板書も書かれていて、今さっきまで授業だったという様子が見て取れる。

 

 

 

 

 

 

 

 なら何で、この学校の何処にも人の気配がしない?

 

 

 

 

 

「正直、不気味すぎるよ……」

 

 これじゃあ、まるでゴーストタウンだ。

 この嫌な感じ、ある意味聖杯戦争の予選の時の校舎に似ている。

 なら、ここもムーンセルに再現された場所?

 分からないけど、どっちにしろ、ここが僕の元いた場所では無い事だけは確かだ。

 

「けど、まあ……ある意味、安心したかな?」

 

 僕はそう、軽いため息とともに呟く。

 確かに、一瞬帰れたのかも、という期待が裏切られた感はある。

 

 ……けど、もしここが本当の文月学園だったとしても、帰れたのは僕一人だけだ。

 

 まだ姫路さんが残ったままだし、

 それにセイバーやキャスター、アーチャー、そして遠坂さんやラニ……皆に、お礼も何も言えていない。

 帰ると決めている以上、多分別れはきっと来ると思う……でも、流石にこんないきなりはあんまりでしょ?

 

「……とにかく。一応他の教室も探そう。何かこの場所の手がかりがあるかもしれないし」

 

 そう気持ちを切り替え、僕は教室を後にしようとする。

 ……わずかに未練とも言える懐かしさを感じながら、それを振り払って廊下に出ていった。

 

 

「さて、と。とりあえず、近くの教室から探していこうかな? 確か一番近いのは、Eクラ……ッ!?」

 

 そう言いながら体を向けようとした瞬間、強い人の気配がした。

 廊下の奥……階段の位置だ!

 

「誰ッ!?」

 

 僕はそう、見えづらい場所にいる奴に向かってそう叫ぶ。

 この異常な場所で唯一の人の存在……ただの人物である筈が無い!

 そいつは元々隠れる気など無かったのか、そこからゆっくりと出て来た。

 その姿を見た、僕は……

 

 

 

 

 

『——————』

 

 

「……え? ホントに誰?」

 

 

 

 

 と、そんな間抜けな台詞を出してしまった。

 いやちょっと待って、言い分けさせて欲しい。確かに僕は分からない、けどおかしいんだ。

 無言で僕の目の前に立っているソイツ……

 そいつの姿、顔、雰囲気、仕草、特徴……全部僕には見えて、それが凄く心当たりがある。

 

 けれど、思い当たらない(・・・・・・・)

 

 凄く矛盾がかっているとは思うけど、僕はソイツが誰だか知っている! なのに出てこないッ!!

 記憶を探ろうとしたら、ノイズが掛かったみたいに照合が出来ない!

 まるで頭の中で、認識そのものを遮断されているような感覚だ!

 くそッ、何か変なモヤモヤ感がする!

 

 

『——————』

 

 

 そう思っていると、ソイツはスッと僕に向けて片手が水平になるまで上げ、

 

 

 

『——————試獣召喚(サモン)

 

 

 聞き覚えのある声で、そう静かに呟いた。

 

 

「なッ?!」

 

【総合科目 ■クラス ■■ ■■ 1219点】

 

 

 床に現れる、見覚えのある魔方陣。

 そこから出てくる、人型の小さな獣。

 頭の上に、科目と点数。クラスと名前は相変わらず見えてるのに認識出来ないけど、間違いない……

 

「召還獣!?」

 

 目の前のソイツは、文月学園の最大の特徴であるソレを出して来た。

 何でコイツが召還獣を……しかも、召還フィールドも無し、って!?

 

 僕はハッとある事に気づき、急いで廊下の窓から外の景色を見てみる。

 すると、信じられない事に……

 

「そんな……召還フィールドが、学校全体に!?」

 

 さっきまでは張られていなかった筈。

 だとしたら、目の前のコイツの仕業……?

 

『——————』

 

 そう思っていると、ソイツは伸ばした腕の手のひらを上に向け、クイックイっと指を曲げて来た。

 完全に挑発している姿勢……

 

「……つまり、掛かってこいって事?」

 

 そう聞き返すと、ソイツはコクリッと頷き返した。

 

「……分かったよ。試獣召喚(サモン)ッ!!」

 

 僕は言われるがままに、召還キーを叫ぶ。

 久々のその掛け声に懐かしさを感じるとともに、僕の相棒が現れる。

 ……何故か名前の部分だけ表示されないのは気になるけど。

 

【総合科目 Fクラス —— —— 1059点】

 

「……久しぶり、僕の召還獣」

 

 目の前に現れた僕の相棒の姿を見て、ふとそう呼びかけてしまう。

 文月学園から離れてまだ2〜3週間位の筈なのに、既に長い年月経っているように錯覚する。

 本当は、ずっと一緒に……文字通り、一心一体となっていたのかもしれないけど、こうして向き合うのは久々だ。

 

「…………」

 

 目の前の僕の召還獣も、心無しかこの再会に喜んでいるような感じがする。

 そっかそっか……君も嬉しいんだ。

 これで準備は万端……いつでも戦える。

 

「じゃあ……いくよ!」

 

『——————ッ』

 

 そう掛け声を出し、僕は自分の召還獣を勢い良く向かわせる。

 正直、この状況を理解し切れていないというのが本音だ……

 けれど……何故か目の前のソイツと向き合わなきゃいけない、そう感じたんだ。

 

 そうして、僕はそう混乱した状況の中、久しぶりの“試召戦争”をすることになった……

 

 

 

 ★☆★

 

「……ほら! 鬼さんこっちこっち!」

 

 ————ハハッ、ちょっと待ってよ、ありす。

 

 

 アリーナの狭い通路を、トテトテとありすが駆け抜ける。

 時々、後ろからゆっくり小走りしながら追いかけてきている“彼”に振り向きながら。

 

「待たなーいっ。だってこれは鬼ごっこだもの。簡単には捕まって上げないんだから!」

 

 ————うーん。参ったなあ……

 

 口調とは裏腹に、“彼”のその顔は困った様子など無く、むしろ笑みを浮かべていた。

 それを見た少女もニコッと笑い返し、そして少し離れた位置で立ち止まって彼に向き直った。

 

「ホラっ、早く追いかけて来てよ!

 

 

 

 

 

 

 ……“先生”!」

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

「たああッ!!」

 

 勢い良く踏み込み、突きを繰り出す僕の召還獣。

 その加速は一瞬で、まるで弾丸のようにソイツの召還獣に襲いかかる。

 

 けれど、相手はそれを難なく見切り、召還獣を体ごと左回転する事で受け流す。

 そして、その回転の勢いのまま左手に持った“棒状の何か”で裏拳の要領でカウンターを仕掛けて来た!

 それを頭を下げて躱し、そのままの勢いで一回前転して、体制を瞬時に立て直した直後に振り返ってまた踏み込む。そして空いた左手てで殴りに掛かる!

 

『——————』

 

 けど、今度はその殴ろうとした手を取られ、そのまま一本背負いをされてしまうっ!?

 僕の召還獣は投げ飛ばされ、大きく距離を取られてしまった。

 何とか着地の方はうまくいき、直ぐに体制を立て直そうとして……

 

 ソイツの武器が、飛んで来た。

 

「んなッ!?」

 

 唯一の武器である棒を投げる行為に驚き、反応が一瞬遅れてしまう。

 反射的にその武器を木刀で上に弾き飛ばしたけど、その直後にソイツの召還獣が一気に詰め寄って来ていた!

 とっさの事で一瞬動けなくなってしまった所に、そいつのボディーブローが決まってしまった!

 

「っう!!」

 

 フィードバックシステムにより、僕の腹部にも鈍い痛みが伝わり。

 僕の召還獣はそのまま殴り飛ばされ、遠くで床と擦れるように止まった。

 

【総合科目 ■クラス ■■ ■■ 1143点】

 VS

【総合科目 Fクラス —— —— 738点】

 

「ケホッ……結構削られちゃったか……」

 

 ズキズキと痛むお腹を押さえながら、表示されている互いの点数を見て状況を確認する。

 完全にこっちが押されている状態だ……ただでさえ最初の時点で向こうの方が有利だったのに、その差がさらに開いてしまった。

 

「うー……ていうか、全っ然当たんないよ! 何あの動き!」

 

 僕は思った愚痴をそのまま吐き出す。

 本当にさっきから僕の攻撃がことごとく躱される。まるで某有名な竜のRPGにでてくる、メタルではぐれたやつ以上に。

 それどころか、その躱した攻撃さえ利用してカウンターまでしてくる。

 明らかに召還獣の操作に慣れている……それも、僕以上の技術で。

 

「ていうか、本当に君誰なのさ! 何でそこまで操作上手いの!?」

 

『——————』

 

 まるで僕の質問に反応する素振りが無い。

 ああ、無視ですか……

 

「くっそう……僕の方も、以前より操作技術は格段にアップしてるってのに……」

 

 実際、僕の召還獣の操作スキルは以前より遥かに上がっていた。

 聖杯戦争で実際に自分自身で戦い、その時の経験から体の動きをそのまま召還獣で再現する事が出来ている。

 加えて、聖杯戦争とは違い離れた位置から全体を見渡しながらの戦いだから、状況の把握がかなりやりやすい。

 フィードバックシステムによる痛みも、サーヴァント戦に比べたら遥かに軽く感じ、思い切った動きも出来るようになっていた。

 

 確実に、僕は試召戦争では強くなっている……

 今なら、Aクラスの霧島さんでさえ、召還獣の操作技術だけで倒せるかもと思える程の自信があった。

 

 なのに、これだけ好条件が揃っているにも関わらず、まるで通用している気がしないってどういう事さ!?

 

 

『——————』

 

 そう思考していると、目の前のアイツが両手のひらを体の横で上に上げて、ヤレヤレと言っているような態度を取っていた。

 うわっ何か凄いムカつく!

 

「ちょっと、何さその態度……って、ええ!?」

 

 そう思った次の瞬間、ソイツは何を思いついたのか、急に召還獣とともに背中を見せて走っていった。

 って、逃げた!? 何で!?

 

「ま、待て!」

 

 僕は慌ててソイツを追いかけていく。

 学校全体が召還フィールドに覆われているため、範囲外に出て召還獣が消えてしまう事は無い。

 つまり、校舎全てがバトルフィールド……まさか、場所の移動が目的?」

 けど、折角有利な状況だったのに、わざわざ場所を移す必要なんて無いんんじゃ……

 そう思いながら追いかけていくと、ソイツが廊下を曲がって階段を上がっていく所が見えた。

 

「逃が……なっ?!」

 

 すぐに僕達も階段を上がろうと曲がり角に差し掛かった瞬間、上から何かが降って来た!

 とっさに僕と召還獣はバックステップで躱すと、それはバサリと階段の前に落ちる。

 

「これって……うわあッ!?」

 

 その正体を確かめようとした瞬間、さらに別の黒い物体がその上にポイっと降って来た。

 そして、それが触れた瞬間……バチバチィッ!! っと、辺りに閃光が走る!

 な、何が……!

 暫くして、その光りと音が止まって、改めてそれらを見てみると……

 

「これって、網……いや、“ゴールネット”? それに、こっちの黒いのは……“スタンガン”ッ!?」

 

 しかも、ネットに至ってはビシャビシャに濡れているというオマケ付き!

 完全に凶悪なトラップじゃないか!

 階段の上を見ると、当然のようにアイツがそこに立っていた。

 

『——————』

 

「お前! 何のつもりさ!」

 

 僕以上に実力がある筈にも関わらず、何でこんな回りくどい事を!

 そんな意味を込めて放った言葉は、果たしてソイツに伝わったのか、不適な笑みで返して来た。

 ……この程度の小細工、簡単に越えられるよね?

 そう言っているように見えた。

 

「っ……上等だよ」

 

 理由は分からないけど、アイツは僕を試しているというがよく分かったよ……

 だったら、その挑戦状乗ってやる!

 

 そう決めた直後、またアイツは階段を上り始めていく。

 僕もそれを直ぐに追っていく……

 

 

 ★☆★

 

 

 ————ほら、捕まえ……

 

「てないよ! ホラッ!」

 

 ————おお、ワープ!?

 

 “先生”と呼ばれた“彼”が、ありすに触れようとした瞬間、彼女はフッとその場で消えた。

 その直後、アリーナの透明の壁を通して、離れた位置に現れたのが見える。

 

 ————むう、ちょっとずるいんじゃないかなあ?

 

「だって、簡単に捕まったら面白くないわ。もっともーっと遊びたいの!」

 

 そう離れた場所でありすが振り向いて、彼に向かってそう言った。

 そのわがままの子供の言い分を、“彼”は困ったような顔で受け止める。

 

 ————全く、しょうがないなあ。

 

「えへへ。ずっとずっと、待ってたんだから! こうして先生と遊ぶの、すっごく楽しみだったんだから!」

 

 そう言って、彼女は再び逃げていく。

 もっと“彼”と一緒の遊びを、楽しむ為に。

 

 ————待ってた、か

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————それが、幽霊になってまで、ね……

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

「だらっしゃあああああッ!!」

 

『——————ッ』

 

 ゴウッと投げつけられた机を、木刀で上段から叩き落とす。

 その時の反動を利用して大きく飛び上がり、木刀の切っ先を下に向けて突き刺すように相手の召還獣を攻撃した!

 けれどそれを横に軽く飛んで躱され、床に当たったその攻撃は木刀がその場に突き刺さるだけに終わってしまう。

 その隙をつかれ、こんどは近くにあった教卓をガンッと蹴り飛ばし、僕の召還獣を下敷きにしようとされる!

 僕の召還獣は何とかギリギリで木刀を抜き取り、倒れ込む直前でそこから逃げ出す事に成功した。

 

 

「はあっはあっ……」

 

『——————』

 

【総合科目 ■クラス ■■ ■■ 953点】

 VS

【総合科目 Fクラス —— —— 427点】

 

 

 二年生の教室の上の階……三年生の教室の一室(多分Dクラスかな?)で、僕達は戦闘を繰り広げていた。

 何とか少しずつダメージは与える事は出来てる……けれど、相変わらずこっちが劣勢だ。

 既にもう2倍近くの点数の差を付けられてしまった。

 というか、教室がもうめちゃくちゃ……ここが万が一、本物の文月学園だったら損害額はとんでもない事になっていただろう。

 そして、コイツと戦ってて分かった事がある……

 

「アイツの召還獣も、フィードバックシステムを積んでる……?」

 

 机を投げたり、教卓を蹴ったり……普通の召還獣じゃ触る事すら出来ない筈。

 例外はフィードバックシステムを持つ、教師と観察処分者である僕だけ。

 ますますアイツ正体が分からなくなって来た……学園の教師の誰か? それとも全く知らない別の第三者?

 ……とにかく、アイツを倒す事が先決か。その事を考えるのは後にしよう。

 

「けど、一体どうしたら……」

 

 このまま普通に戦っていても、実力差で僕の負けは目に見えている。

 正攻法じゃ駄目だ……何か、アイツの隙を付く作戦を立てないと。

 ……考えろ、ライダーやアーチャーの時みたく、格上相手に立ち回る為の策を。

 手持ちの札、フィールドの物全部利用して、相手を意識の外を付いて驚かせるような方法を!

 

 

「……あ」

 

 聖杯戦争の時の動きを、召還獣で再現出来る……さっき自分で思った事だけど。

 

 それなら……“スキルも再現出来るんじゃ”?

 

 そうだ……それなら!

 僕の手持ちのスキルと、相手のフィードバックシステム……そして、さっき相手のやったトラップ。

 よし! 繋がった! 

 

 作戦が決まり、いつでも行けるように召還獣を構え直す。

 相手も来ると感じて、向こうも迎撃する準備をした。

 多分、これで決まらなかったら僕の負け……これが、最後の攻撃!

 

 

「行くよ! 【ダブル】ッ!!」

 

 僕はそう掛け声を上げ、白金の腕輪を起動する!

 

【総合科目 Fクラス —— —— 427点】

【総合科目 Fクラス —— —— 427点】

 

 それと同時に、僕の召還獣が2体に増えた!

 これで一応、総合戦力差自体は埋められた!

 

『——————』

 

 向こうも少しはヤバいと思ったのか、空気がさっきより張りつめる。

 今動いたら、確実に返り討ちに遭う……そう感じさせられた。

 

「いっけえッ!」

 

 けれど、構わず行く!

 僕は分身して出した方の召還獣を、一気に飛び出させた!

 そして、木刀を持っていない右手に力を集中……!

 行ける! スキルも使える!

 

 そのまま相手の召還獣に向かって全力疾走!

 コレに対し、相手は構えるだけですぐには動かない。

 ギリギリまで引きつけてから躱すのか、またはカウンター狙いか……

 そんな相手の思考を読み取り、僕は……

 

 

 直前で止まらせた。

 

 

『——————っ』

 

 予想外の動きに一瞬ソイツは驚いた表情を見せる。

 そして僕は、その勢いを殺さないようにそのまま真上に大ジャンプさせる!

 相手は狙いに気づいて、それを止めようとするけどもう遅い!

 召還獣の力の籠った右手を、天井に向けて……

 

「ウォールブレイクッ!!」

 

 僕の得意スキルを、そのままドゴウッ!! と放った!

 その衝撃を受け、天井はピシ、ミキッと嫌な音を鳴り響かせ……そのまま崩れ落ちる!

 

『——————ッ』

 

 大きな残骸が、教室中に降り落ちる。

 僕やアイツの立っている位置は教室の端同士だったから、ギリギリ残骸が当たる場所ではなかった。

 天井を壊した方の僕の召還獣は、ダブルを解除してとっくに退却済み。

 

 けれど……アイツの召還獣はどうかな?

 

 それに気づいたアイツは、自分の召還獣を急いで崩落を回避しながら退却させようとする、が……

 

「させるかあッ!!」

 

『——————ッ!』

 

 僕はそれを、近くにあったイスを自分で投げてぶつけた!

 互いに現実の物体に触れられるという事は、こうして本人がリアルダイレクトアタックすることも可能って事だ!

 さっきアイツが僕にやったトラップと同じだ!

 実際の試召戦争じゃ出来ない行為だけどね!

 

 それでも、相手は僕の投げたイスは手に持った武器で防いだようだ。

 ……けれど、それで完全に逃げ後れた。

 相手の召還獣に、上から大きめの残骸が大量にぶつかった!

 

【総合科目 ■クラス ■■ ■■ 413点】

 

 かなりの大ダメージだったようで、一気に500点近くも削れていた!

 直ぐに相手の召還獣は動こうとするも、残骸に完全に生き埋め状態になり全く行動出来なくなっている!

 

「今だあッ!!」

 

 僕は自分の近くにいた本物の召還獣を、相手に向かって投げつける!

 その勢いのまま、右手に力を溜めて……ぶつける!

 

『——————ッ!』

 

「これで、止めえええええええええッ!!」

 

 全力を込めたウォールブレイクを、ソイツの召還獣に放った!

 残骸と床に挟まれているせいで、力の逃げ場も無い! 100%の衝撃を与える!

 ゴウッと衝撃音が当たりに鳴り響き……そして、

 

 

 

【総合科目 ■クラス ■■ ■■ 0点】

 VS

【総合科目 Fクラス —— —— 192点】

 

 

 

 ……決着は、付いた。

 

 

「よっしゃあッ!!」

 

 思わずガッツポーズをして、勝利の喜びを叫ぶ。

 やった! やっと勝てた……!

 

『——————』

 

 そんな僕の様子を見て、アイツは何故かパチパチと拍手をして来た。

 まるで、僕の健闘を讃えるように。

 

「な、何さ急に」

 

 それに戸惑い、そんな質問を投げかけたけど、相変わらず答えず。

 

「……まあいいや。で、君は一体……ッ!?」

 

 

 

 ……そう聞こうとした瞬間、

 

 

 辺りが、真っ白に包まれて————

 

 

 ★☆★

 

 

「おーにさーんこーちら♪ てーのなーるほうへ♪」

 

 ————待てー。

 

 リズムに合わせて声を出すありすを、彼が後を追っていく。

 その様子を傍からみると、二人ともとても楽しそうに見えた。

 

「あはは! 楽しい、楽しいね! 先生!」

 

 そう言ったありすの笑顔は、今までで最高に笑っていた。

 いつまでも、この楽しい時間が終わらないように思いながら。

 

 ————そうだね、ありす。

 

 

 

 

 

 ————けど、そろそろ遊びは終わらせなきゃ。

 

 

 ★☆★

 

 

「……こ、ここは……?」

 

 光りに包まれた後、気がついたら僕はまた違う場所に立っていた。

 

 

「廃……墟……? というより……」

 

 

 ……燃え上がりボロボロに崩れた建物。

 

 ……黒く焼けこげた壁や地面。

 

 ……使われた銃や弾丸が散乱してる場。

 

 ……大量のガレキで塞がれている道。

 

 ……そして一切人気の無い世界。

 

 

「これじゃあ、まるで……」

 

 “戦場の跡”

 

 そうしか言いようが無い場所であった。

 映画やなんかで見た映像にまるで酷似しているこの場所に……何故か既視感を覚える。

 僕はこれを、何処かで見た事がある……? ありえない……筈、だよね?

 

「あ。元に……いや、また召還獣と融合してる?」

 

 ふと、自分の格好がまた変化しているのに気づいた。

 何時もの……というか、聖杯戦争時の学ラン姿に逆戻りしていた。

 もう少し、自分の召還獣と会っていたかったんだけどなあ……と、ちょっとだけ残念だったけど。

 

 それはともかく、辺りを見渡してみると……

 

 

『——————』

 

「いた!」

 

 例のアイツが、少し離れた位置からこっちを見つめていた。

 そして、同時に気になる事が。

 

「あれ? さっきより……なんか分かる?」

 

 変な言葉だけど、学校にいた頃よりソイツの姿を少し認識出来るようになっていた。

 頭の阻害が少しずつ薄れていくような感じ。

 例えば、ソイツの持っていた武器が棒状の何かとしか分からなかったけど、今は分かって、て……“木刀”?

 え? 同じ武器?

 

『——————』

 

 そう思った直後、ソイツは僕に向けてその木刀を構えた。

 今度は召還獣じゃなく、リアルで戦おうって事? 

 なら、いいよ! このまま付き合ってやる!

 そう思って、僕も自分の木刀を構え直す。

 

「……行くよ!」

 

 そう掛け声を上げて、勢い良くソイツに向かって行って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、視界が天地逆さまになった。

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 そう疑問符を上げた瞬間、頭部にガンッ! と鈍い痛み。

 地面のガレキに頭からぶつけた!

 

「〜〜〜〜ッ?!」

 

 な、何? 今何が起きた!? 飛んだ? 投げられた!? どうやって!? 感触とか無かったよ!?

 

 今起きた事が直ぐに理解出来ず、頭が混乱に包まれた。

 実際はソイツのあまりにも見事な体裁きの為に、僕が自覚出来ないまま投げ飛ばされた……多分?

 そう思っている内に、ザッとアイツの足音が近づいて来た。

 

「……ッ!!」

 

 

 

 ★☆★

 

 

 ————はい、タッチ。

 

「あう。捕まっちゃった……」

 

 ————ふふん、僕の勝ちだね。

 

「ぷう! 先生ずるいよ! 先回りなんて!」

 

 ————ワープする子に言われたく無いよ。

 

 あはは、とありすと彼は笑う。

 文句を言いながらも、お互い心の底から楽しかったと。

 

 ————いっぱい、遊べたね。

 

「うん」

 

 ————満足した?

 

「……うん」

 

 

 

 

 ————じゃあ、もう遊びは終わりだよ。

 

 

 ★☆★

 

 

「たああッ!!」

 

 とにかく、攻撃を当てようと木刀を前に出し、今度は一瞬で距離を詰めて突きを放つ!

 

『——————』

 

 が、その木刀を左手で掴まれ、そのまま引っ張られる!

 そのせいで体制を崩され、足払いをされ前のめりにされて一瞬無重力を感じた。

 そして次の瞬間、背中から重い衝撃を受ける!

 

「か————っ?!」

 

 肺の中の空気が全て出て行く。

 呼吸が一切出来ない状態のまま、そのまま腹部を蹴られて遠くに飛ばされた。

 

「グッ!? ゲホッ! ゴホッ!!」

 

 倒れたまま咳き込み、しばらくその場で悶えるしか出来なかった。

 何だよアイツ……!?  試召戦争の時とまるで動きが違い過ぎる!

 確かに、召還獣の操作と実際の自身の体の動きは違うのかもしれない、けどあまりにさっきとレベルが違う!

 

「うー……これでも、ライダーとアーチャー二人を倒して来たってのに……!」

 

 これじゃあ、二人に笑われてしまう……

 それでも、僕を簡単にあしらう程のその“技術”に驚愕する。

 確かに筋力、素早さ等はサーヴァントには遥かに劣る……けれど、体の使い方が以上に上手い。

 一瞬一瞬の行動が、僕の無意識の部分を付いて来てる……ある意味、普通のサーヴァントより厄介だ!

 

 蹴られたお腹を押さえながら、何とかその場で立ち上がって、ソイツを睨みつける。

 それにしても、この強さ……さっきの試召戦争は手を抜かれた……? 

 いや、あの時アイツは確かに変な小細工をしてきてはいたけど、本気ではあった筈。少なくとも、僕はそう感じた。

 信じられない事だけど、さっき白い光りに包まれた瞬間に、一気にソイツが強くなったとしか思えない!

 

「そういえば、アイツよく見たら、“校舎のときより背がすこし伸びてない”……?」

 

 比較対象が近くに無かったから分からなかったけど、実際にアイツの背が少し伸びていた。

 つまり、この短期間に成長!? 嘘でしょ!?

 

『——————』

 

「あ……」

 

 そう思っていた次の瞬間には、ソイツの拳が腹部に当たり、意識が……

 

 

 ★☆★

 

 

「終わり、なんだね」

 

 ————うん。終わりだよ。

 

「……お別れ、なんだよね」

 

 ————うん。お別れだ。

 

 

 ありすの言葉に、彼はただそう返す。

 言葉を交わすごとに、ありすの声は少しずつ震えていく。

 

 

「……っやだ! 先生、もっと遊ぼうよ! 折角また会えたのに……アリスの他に、おともだちが出来たのに!!」

 

 感情を抑え切れず、ありすは彼に泣きついた。

 数少ない心を許せる存在……その一人と別れる現実を、認めたく無くて。

 

 ————ゴメンね、ありす。

 

 彼はただ、そう困ったように謝る。

 

 ————けど、まだ“お兄ちゃん”がいるでしょ?

 

「……っ!」

 

 ————後は、そいつが遊んでくれるから。

 

 そうニッコリ笑って、彼はありすの頭を静かに撫でる。

 まるで、父親が子供をあやすように。

 

「……分かったわ」

 

 ありすはそう、涙目の声で返事をする。

 

 

 

 

「じゃあ、一つだけ教えて……」

 

 

 

 ★☆★

 

 

「……っ!? はあっ! こ、ここは……?」

 

 気がついたら、また別の場所。

 

「今度は……って、げッ!? “お墓”!?」

 

 完全に縁起でもない場所に出てしまった。

 周りにあるのは日本の特有の墓では無く、どこか西洋の国の奴らしい。

 今度は一体なんなんだよ……そう思いながら立ち上がり、ふとさっきの事を思い返す。

 

「……完全に負けた」

 

 まるで歯が立たなかった……

 試召戦争は勝てても、現実での戦いは完敗だった。

 

「……クソッ!!」

 

 そう思わず悪態を付いて、振り返った瞬間……

 

 

『——————』

 

「うわあッ!?」

 

 今度は思いっきり目の前にソイツが立っていた!?

 ビ、ビックリしたよ!?

 

「な、何さ!?」

 

 正直、思いっきりボコボコにされた相手を目の前にして、警戒をしないというのは無理な話だった。

 って、あれ? もう殆ど顔が識別出来て……?

 そう誰か判断しようと、注意深くソイツを見ようとして……

 

 

 

 

 

 ————フッと、目の前から消えた。

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 跡形も無く。まるで幽霊みたいにその場から消えた。

 

「ま、待ってよ!?」

 

 そう声を上げても、ソイツはもう何処にもいない。

 まるで、元からそこには誰もいなかったように。

 ……これではもう、手がかりなんて得られない。

 何もかも、最初からやり直しとなってしまった。

 

「こんなのって、無いよ……」

 

 そうガッカリして、顔を俯かせ……

 

「って、あれ? これって……?」

 

 ……そこに、何かが落ちているのを見つけた。

 それを拾い上げて、よく見ると……

 

 

 

「……“お守り”?」

 

 

 それは、小さなお守りだった。

 しかも、市販の物ではなく……何ていうか、女の子の手作り、といった感じの可愛らしい物だった。

 

「何だろ、これ……アイツの落とし物、かな?」

 

 そう思いながら、何気なく前を見た。

 ちょうどそこには、お墓の一つが立っている。

 

 ……さっきフッと消えた件といい、まさか……あはは、ホントにまさか。

 

 チラッと頭をよぎった考えを否定しようとして、けどちょっと気になってその墓の主の名前を確かめようとした。が、

 

「……英語読めない」

 

 アルファベットで表記されている時点で、何ソレ? 状態に陥った。

 えー、外国人の名前何て正直読めなーい……

 

「って、あ。もしかして……」

 

 この落ちていたお守り。

 これって、もしかしなくても日本の物だよね? 漢字で御守って書かれてるし。中国なら知らない。

 って事は、この墓の主も日本人かもしれない。

 となると、この英語表記、ローマ字読み? それなら……

 

 えーっと、A、K、I……あ。そういえば日本人名って外国だと名字と名前の順番って逆になるんだっけ?

 

 じゃあ、それを考慮して、続けて読むと……

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

「……先生の名前。あたし、まだ教えてもらってない」

 

 

 ————そっか。うん。僕の名前は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————「「ヨ シ イ  ア キ ヒ サ」?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

「……ん? え!?」

 

 墓に書かれた名前を読み上げた途端、ハッと目が覚めるように景色が変わった。

 え? また移動した!? いや、今までと何か違う感じが……

 

「え、あ、アリーナ……?」

 

 見慣れた殺風景。

 元の場所に、戻って来た?

 

「いや、もしかしてさっきまでのは全部、夢……白昼夢? だったとか……」

 

 そう思いながら、ふと視線を下げると……

 

 

「……グスッ…………うっ…………」

 

 

 何故かありすが泣いていた。

 

 って、ええ?!

 

「ちょっ!? ありす、何で泣いて!?」

 

 あ、そう言えば固有結界がいつの間にか解けてる?

 って、それは置いといて!

 

 

 

「うっ、うぅ…………ヒック……っ」

 

 

「だから、その、何が原因かは、分からないけど、出来れば泣き止んで欲しいかな〜って!?」

 

 

 

 

 

 

「……必死で助けに来たご主人様が、幼女を泣かしていた件について」

 

 

「って、セイバーッ!? キャスターッ!?」

 

 

 何で二人ともここにいるの!?

 あ、もしかして固有結界解いてくれたのって、二人のおかげ?

 

 ……って、あれ、何か凄い冷めた目つき?

 あ、ちょっと待って、端から見たらこの状況……

 

 

 

「ご主人様の……鬼畜ロリコン————ッ!!」

 

「奏者のロリペド————ッ!!」

 

 

「ちょっと待ってッ!? 聞き捨てならない言葉が、だから誤解!? いやホントに待ってえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

【ステータスが更新されました】

 

 

 

 ■マスター:吉井明久

 

 

<スキル>

 

 

 ・心眼(真):D→C

 

 夢? の中で“ソイツ”と戦った後、いつの間にかランクアップされていた。

 戦闘と通して、明久に経験が溜まったおかげなのか、それとも……?

 

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

 

 ……月海原学園校舎。

 

 早朝でまだ誰も出ていない筈の廊下に、黒いコートを着た人物が歩いていた。

 相変わらずフードは深く被っていて、その顔はよく見えない。

 

 

「…………………………」

 

 

 こんな時間に出歩いたのは、ただの気まぐれ。

 何故か今日に限って、目が早くに覚めてしまったから。

 

 ……と、いうより、“直感”か? まるで、とても大切な事が今……?

 そう思いながら、手に持っている“ソレ”を見つめた。

 

 

「…………………………」

 

 

 ……だが、やはりただの気のせいだったようだ。

 そう判断して、踵を返そうとしたとき。

 

 

 

 

「鬼畜ロリコン————ッ!!」

 

「ロリペド————ッ!!」

 

 

 

 何故か背後から、そう大声を掛けられた。

 さすがのコートの人物もコレには驚いたようで、ビクッ!! となってしまった。

 何故だ、全く覚えがないが。そんな感想が浮かんでいた。

 

「うわ——————んっ!!」

 

 いや、向こうがただ叫びながら走って来ているだけか。

 コートの人物の横を通り過ぎるように、美女二人がそう叫びながら走り抜けて行く。

 

 

「…………………………」

 

 それをジト目で見送った後、ふと手に持っていた“ソレ”を落としてしまった事に気づく。

 “ソレ”を大切そうに、コートの人物は拾い上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、手作りのお守りだった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。