Fate/Extra Summon   作:新月

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久々の更新。完全に三週間に一本ペースになってる……


犬猿の共闘

「ッ……ハー…………ハー……ッ……」

 

「お兄ちゃん、もう立てなくなっちゃったの?」

 

 息が荒く、両手を床に付いて体を支えている僕を覗き込むようにしてありすがそう聞いて来た。

 存在が削られる危険な領域となったアリーナ……そこに僕は連れ込まれた。

 保健室で油断していた所を攫われ、ここには僕と白いありすしかいない……

 何が、どうして……っ

 

「なん、で……僕を連れて、来たのさ……!」

 

 顔を俯かせた状態のまま、絞り出すようにそう声を出して問いかける。

 僕を決戦日前に倒す為?

 それとも、まさかまだ僕と遊びたかったからって理由?

 そう削られていく意識の中で、いくつかの考えを思い浮かんでは消えていった。

 それに対し、ありすの答えは————

 

 

「ねえ、お兄ちゃん……

 

 

 

 ————————“お兄ちゃんは、本当にお兄ちゃんなの?”」

 

 

 

「——へ?」

 

 全くの予想外。

 全然違う事を何故か聞いて来た。

 

「え、と……? あ、名前を聞いてるの?」

「ううん、違うわ。お兄ちゃんが、本当にお兄ちゃんの言うお兄ちゃんなのかって事」

 

 ん? えっ?

 一体どういう事? ありすとアリス並みに訳が分からない……

 どういう事なのかよく分からないけど、まさかそれを聞く為だけに……?

 

「お兄ちゃんなのって……そりゃあ、…………」

 

 僕は……僕、は…………

 うぅ、まさか! 名前だけでなく、自分の事もどんどん消えていってる!?

 ヤバい……いや、確か僕はもう対策を持ってた筈……

 そうだ、木刀!!

 

 例のアレを思い出した僕は、腰に差していた木刀を取り出す。

 

「君の聞いて来ている事は、よく分からない、けど……」

 

 それにグルグルに巻き付いていた包帯を急いで解いていくと、書かれた文字が見えて来た!

 

 

「僕は、僕で……」

 

 

 そして僕は高らかに叫ぶ!

 

 

 

 

 

 

 

「僕は————————“アキちゃん”だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 ……一瞬の静寂。

 

 

「……………………」

 

「…………………………………………」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 

 ……そして、沈黙。

 結界が解ける様子など一切無し。

 物音一つしない、ありすさえ動かない状態。

 漫画で言う、シーン……という擬音が描かれてるような状況。

 

 ……手元を確認してみる。木刀を握っている。

 その木刀には、“アキちゃん”と書かれている。

 惚れ惚れするような達筆だった。

 

 そして僕はこう思った。

 

 

 

 

 …………………………………………何か、違くね?

 

 

 

 

「ピンク(姫路さん)のひとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ?!!!!」

 

 僕は名前も思い出せないとある彼女に向けてそう叫ぶ。

 久々の僕の全力突っ込みだった。

 

『うえっ!? だ、だって名前が書く必要があるって、それって単に持ち主が分かるようにすればいいだけだと思ってしまって!』

 

 何故か見えた幻の彼女がそう弁明した気がした。

 だからって何故にアキちゃん!?

 それ僕と姫路さん以外誰も分からないよねえっ!?

 そして本名より何故か覚えている僕の馬鹿ぁっ!!

 

「ちゃん? お兄ちゃんって、女の人だったの!? お兄ちゃんは、お姉ちゃんだったんだ!?」

「うん違うよ!? お兄ちゃんはお兄ちゃんで普通に男だよ!」

 

 ほらぁ! ありすも変な勘違いしちゃったし、よけいややこしくなっちゃったじゃないか!

 性別不明は秀吉だけで十分だってのにぃ!

 

「だから僕は、……ぁ…………」

 

 誤解を解こうと話そうとした瞬間、強い目眩が襲ってきた。

 あ、れ……やば……………

 

 そう思った時には、僕の思考はどんどん沈んでいって……————————

 

 

 ★☆★

 

 

「セイバーッ!」

「分かっておるッ!」

 

 互いに声を掛け合い、同時にその場を駆け出していく。

 元々のクラス別の性能のせいか、大剣を構えているのにも関わらず、セイバーが私より早く巨人に向かって移動する。

 

「■■■■■■■——!!」

 

「くうッ!」

 

 そして、その彼女に向かって振り下ろされる右の豪腕。

 とっさに右ステップでその攻撃を躱していたが、相変わらず発生する暴風のせいで、セイバーは簡単に吹き飛ばされてしまう。

 

 けど、そのおかげで一瞬の隙が出来た!

 攻撃直後によってすぐには動けない巨人に対し、一歩遅れて来た私は左側から回り込む。

 

 

「隙あ—―——」

 

「■■——ッ!!」

 

「りぃっ!!?」

 

 が、あろうことか巨人はその場で体を大きく捻り出し、そのまま腕を伸ばして一回転してきた!?

 半ば裏拳のような形で巨人の左手の甲が私を襲う!

 

「ガードッ、きゃあッ!?」

 

 とっさに私は鏡を出して防御したが、相変わらずの馬鹿力でまるで抑え切れず。

 そのままボールが跳ねとんでいくように、弓道場の芝生の奥に殴り飛ばされた。

 こ、の化物! でもっ!

 私は空中で体制を立て直して、うまく着地する。

 ガード自体はうまくいって、今度はダメージは殆ど受けていなかった。

 そして、本命は私じゃない……!

 

「今です! セイバー!」

「はああ——っ!!」

 

 私に注意を向けていた巨人はセイバーから見て完全に背を向けた状態!

 巨人の背後に移動していた彼女が、いっきに詰め寄る!

 狙い通り!

 

「もらっ——」

 

 

 

 グイッ←(服の裾踏んだ)

 

 

「——た? ヘブゥ!?」

 

 

 ……と思った瞬間、セイバーがやらかした。

 って、何やってんですかあああああああっ!!?

 

「■■■■■■■——!!」

「ぬああッ!!? は、離せ!」

 

 そして案の定、転んだ隙を付かれて捕まったし!?

 先ほどの私と同じように、その巨大な手に掴まれてしまっていた。

 そして、そのまま握り潰そうと力が込められ——

 

「させるかぁッ!! 必殺、ミラーシュートォッ(ただの鏡投げ)!!」

 

「■■■■■——っ!?」

 

「うわっ!?」

 

 ——る前に、私は手元の鏡をフリスビーのように力任せに投げ飛ばした!

 それは巨人の顔面に直撃した後、わずかにそいつを怯ませる。

 たったそれだけの効果しかなかったが、そのおかげでセイバーの拘束が一瞬だけ緩んで彼女は逃げ出せた。

 

「た、助かった……礼を言うぞ、キャスター」

「何やってんですかセイバー!? あそこまでうまくいってたのにぃ! ドレスの裾踏むとか子供ですか!?」

 

「あはは♪ お姉ちゃん達面白ーい」

「■■■■■■■——!!」

「ほらあっ! 向こうに思いっきり笑われちゃってるじゃないですか!?」

 

 完全にバカにされてますよ私達!

 正直あの黒いロリに笑われるのは屈辱的なんですけど!

 

「し、仕方ないであろう! あ、あれはその、ステータスダウンが原因なのだ!」

「まるで一切関係ないでしょうがそれ!?」

「何おうっ! 大有りだ!!」

「へえ、例えばどんな所ですか」

 

 

 

「普段なら、“余は絶対に服の裾を踏まない”という宣言を……」

 

「皇帝特権の無駄使い!?」

 

 

 貴重な固有スキルを、まるでどうでもいいような事に使っていましたよこの暴君!?

 その気になれば【神性】すら一時的に手に入れる程の物なのに! うわもったいな!?

 

「何を言っておるキャスター! 何気に万が一実戦で起きたら致命傷な事なんだぞ! それを防ぐ為に余は生前から常にそう発動しておいたのだ! 現にさっきの例を見たであろう!!」

「じゃあ他の服を着ればいいじゃないですか!! それで万事解決でしょう!?」

「だって、この服お気にだし……」

「知るかアアアアアアアアアアッ!!!??」

 

 そのせいで折角のチャンス逃しちゃったんでしょうが!?

 普段着とかならまだしも、実践でそんなの着てくんな!!

 

 

「と、ところでキャスター。例の鍵の事なのだが……」

「チイッ!! 話をうやむやにされましたが、まあいいでしょう……で、どうでした?」

 

 さっきの攻防は、実はどちらかと言うと様子見に近かった。

 黒いロリの言う通りに、本当にあの巨人の背中に目当ての鍵が付いているのかどうか知りたかったからだ。

 それで、最低でもどちらかが背中を見れたならまあ十分だったんですけど……

 

「うむ。キャスターから聞いた通り、奴の背中にあったぞ」

「そうですか。ちなみに、どんな風に張り付いていましたか? まさか、何らかのコードキャストを使われているとか……」 

 

 

 例えば、背中の一部と鍵が融合してたりとか……

 あの巨人、さっき鏡で殴った感触からだと、顔ですらかなりの頑丈さを持っていた。

 もしそうなら、そこから剥がしとるのはかなり難しくなるが……

 

 

 

 

 

「いや、“ガムテープで張られていただけ”であったが」

 

「ロリッ子ぉっ?!!」

 

 

 

 私は思わず黒いロリ向かってそう叫ぶ。

 そして本人はテヘペロッとムカつく顔をこっちに向けた。

 いや、そんな重要な鍵をそんな……ええ!?

 てか、ガムテープでくっつくんですか!? あんだけ激しく動いといて!?

 

「だって、この間忍び込んだ時に何故かあったから」

「忍び込んだって、保健室にですか!? ていうか、医療用テープならともかく、なんでそんなものが……」

「そういえば、表面に何故か“アーチャーさん用”って書かれていたけど」

「あ、いいです。もう言わなくていいです。大体分かりましたから」

 

 いつものあれですね、分かります。

 

 

「あーもう! もう結構時間経っちゃってるし、さっさと鍵を奪い返さないと……!」

「それなんだけど狐さん。誘っておいてなんだけど、無理して取り返す必要も無いんじゃないかしら。そろそろうんえーって所から横槍が入って、私達のお遊びが強制的に止められちゃうよ? それに時間が経ったら、お兄ちゃん達がいる場所の鍵もすぐに解除されるんじゃないかしら?」

 

 そう黒いロリが私達に促そうとしてくる。

 どの口が言っているのやら。

 納得しかけそうな話ですけど……騙されませんよ。

 

「冗談じゃありません。ご主人様がいる場所はアナタ達の固有結界が張られていて、一秒でも早く救出しなくてはなりません。この戦いが強制的に止められてしまうのはむしろ最悪……そうなってしまえば、鍵はアナタ達の手に残ったままになってしまい、扉を開く術は失ってしまう。運営側がアリーナの扉の事に気づいたとして、鍵無しで実際に解放されるまでどれだけ時間がかかるんでしょうね?」

 

 そう……むしろタイムリミットは、運営側に見つかるまで。

 それまでに鍵を取り戻さなければ、ご主人様は消えてしまう……!

 

「へー。さっすが狐さん、自分が騙すのは得意上に、騙されにくいんだ!」

「褒め言葉と受け取っておきましょうか」

「……けど、じゃあどうやってジャバウォックから取り戻すのかなあ」

「■■■■■■■——!!」

 

 くっ……悔しいですが、確かにそれが問題なんですよね……

 あの巨人、動き自体はそんなに俊敏という訳ではないんですが、以外と勘が鋭いのか只後ろに回っただけじゃすぐに反撃が襲ってくる……

 それに、ただ腕を振るっただけであの風圧……私達じゃ直接当たらずとも簡単に吹っ飛ばされてしまう。

 おまけに、こっちは二人ともステータス最弱以下で、殆ど一般女性レベル程度の力しか出せない……

 一体、どうすれば……

 

 

「……そう言えばキャスター。そなたの鏡、それは自由に空中で動かせるのであったな?」

「え? ええ、魔力さえあれば、それを呪力に変換して……」

 

 と、こっちが作戦を立てようとしていたとき、セイバーからそんな言葉が投げかけられた。

 それを聞いて、一体どうしようと……?

 

「ふむ……なら、もしその鏡の上に42㎏程度の重さが掛かったとして、どれくらいまで自由に動かせる?」

「やけに具体的な数値ですね? ま、まあ魔力もステータスも十分じゃない今じゃ、持ち上げ続けるのは正直辛いですね。一瞬だけなら、何とか……」

「そうか……なら、こんなのはどうだ?」

 

 そう言って、セイバーが私の耳に口元を近づけてこそこそ話をしてくる。

 その内容は、突飛も無い内容で……

 

「……っあなた、本気ですか? しかもそれ、殆ど危険な目に遭うのあなたじゃ無いですか!?」

「うむ、そうだな。だがまあ、実際余とそなただったら、どちらかというと余の方がこの状況では適している。なら、やるしかなかろう?」

 

 そう言ったセイバーの顔は、ニィッと笑っていた。

 先ほど私に手を差し伸べた時と、同じように。

 

「問題は、今の余の敏捷ではさすがに難しいという事なのだが……キャスター、余に強化を掛けられるか?」

「……はっきり言って、先ほどの事を同時進行しなくてはいけないなら、正直あまり魔力を割けられませんね。発動タイミングを制限して、両足にそれぞれ一歩分……いや、二歩分ずつだけしか」

「いや、それで十分だ。あと、出来れば両手それぞれにも一回ずつ回してくれぬか?」

「注文が多いですねえ……ですがまあ、やって上げましょうか」

 

 そう言って、セイバーに向き直り、彼女に強化のコードキャストを掛けていく。

 セイバーが出来る限り思い通りに動けるように、準備をして……

 

「いや待て。それでなのだが……最後に頼み、というか相談があるのだが」

「相談?」

 

 ……の前に、セイバーがそう申し訳無さそうに止めて聞いて来た。

 わざわざ頼みではなく、相談? 今話した事以外で、もう殆ど話し合う事なんて……

 

 

 

 

 

 

「この服を着ていると、動きづらい上にモロ風圧の影響を受けてしまうのだが、どうしたらいいと思う?」

 

「脱げ」

 

 

 

 

 私は完結にそう返した。

 

「即答!? いやもう少し位悩んでくれてもいいではないか!? 作戦の成功に割と掛かっている事なのだぞ!?」

「知らねー。私知らねー。そんなスキル使用前提で着てたあんたが悪いー」

「対応が御座成りすぎだな!? ええい、分かったやってやる! ライオン裸締め殺しを舐めるな!」

「ちょっ!? マジで脱ぎだしたコイツ!? 前々から思ってましたけどその丸見えな服といい、あなた痴女ですか!? 痴女ですよね!!」

「失礼な! 大体見えているのは下着ではなくレオタードだ!」

「そういう問題じゃねえッ!!」

 

 そう口論しながら、セイバーは着ていた赤い服を冗談抜きにその場で脱ぎ、白いレオタード一枚となった。

 そのレオタードも、背中は丸見えときた。

 ちなみに脱いだ服は、左腕に適当に巻き付けている。

 

「おお! なんだか体が凄く軽い気がするな!」

「あーはいはい。それより、もう強化は掛けときましたから、いつでもいけますよ」

 

 そう言って、私達は改めて巨人に向き直って構える。

 

 

 

「お姉ちゃん達、もう相談終わり? ……じゃあ、再開しよっか!」

「■■■■■■■————!!」

 

 そうニッコリ笑いながら言うロリと、今までで最大の咆哮を上げる巨人。

 正直、体が縮こまりそうではある……けれど、やるしか無い!

 

「準備はいいですか、セイバー……この作戦は一度きり、やり直しは効きません」

「ああ、分かっている。元よりその覚悟だ。そなたこそどうなのだ、キャスター? そなたもこの作戦に重要な役割なのだがな」

「当然、いつでもいけます」

 

 私もセイバーも準備万端。

 今この瞬間だけ、私達は最強のタッグと言えるでしょう……そう思える程の自信が湧いて来た。

 

 

「では……行きますよ、セイバー!!」

「ああ、ゆくぞ!!」

 

 互いに頷き合い、同時に動き出す!

 

 セイバーが私に近づいて、腕を取って————————————————はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必殺!! キャス弧シュートォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

 

 

「いや、こんなの作戦になぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!??」

 

 

 

 

 そうして、何故か強化したセイバーに投げ飛ばされ……

 

 

「ええっ!?」

 

「■■■■■——っ!?」

 

 

 しかも、巨人のいる場所とは微妙に逸れて……

 

 

 

 

「ゴフウッッ?!!」

 

 

 弓道場の屋根の縁辺りに激突し、そのまま変にバウンドして屋根の上に上がって落ちた。

 

 

 

「「「………………………………………………………………………………………………………」」」

 

 

 ……そして、無言に包まれる場。

 

 

「……………………………よ」

「よ?」

「■■——?」

 

 

 

 

 

「よくもキャスターおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

「ええー……」

「■■——……」

 

 

 ★☆★

 

 

 何か狐さん投げ飛ばした赤いおねえちゃん……いえ、脱いだから白いお姉ちゃん?

 まあ、どっちでもいいか……が、いきなり私達の方に責任転嫁してきた……

 

「許さぬ……貴様等、絶対許さぬからなぁっ……!」

 

 何故か涙目になって睨みつけてくるという、割とうまい小芝居までしてくる。

 ありすだったら普通に騙されたかもしれないというレベルの。

 いや。私普通に悪く無いもの。

 

「キャス弧はなあ……ああ見えて、以外といい所があってだなあ……っ」

 

 そして、いきなり昔話まで出して来た。

 本当に何がしたいんだろう、このお姉ちゃん?

 

「ちょっと奴のスペースに余の作品の彫像を大量に置いておいたり、バスルームのお湯を出しっ放しで部屋を水浸しにさせて湿気で尻尾をジメジメさせちゃったり、奏者と一緒になって寝たいとか言いだしてそれで余と喧嘩して奴の鳥居がその時ぶっ壊しちゃったり、奴の緑茶の粉の中に唐辛子を大量に混ぜたり、たったこれだけのことでぶ千切れる所もあったがなあ!」

「それもう全面的にお姉ちゃんが悪いんじゃないかしら?」

「けど……! 確かに奴は余の仲間だったのだ!」

「聞いてないし……」

 

 しかもドサクサにまぎれて、自分のした事ももしかして全部私達のせいにしようとしてないかしら?

 

「だから、絶対許さぬ……! 例え余一人でも、貴様等を葬り去ってやる!」

「あー……そう。うん、じゃあ具体的にどうするつもり?」

 

 

 

 

 

 

「あーっ! うしろにUFOが!!」

 

 

 

 

「「………………………………………………………………………………………………………」」

 

 

 ……二回目の静寂になって。

 

 

「……隙ありぃっ!!」

 

「何処がッ?!!」

 

 あたしが言うのも何だけど、今時の子ですら引っかからないような事をいきなり言って来て……

 しかもまるで掛かった様子など欠片も無いにも関わらず、ジャバウォックに向かっていつの間にか構えてた大剣を持って襲いかかろうと走り出して来た。

 うん。あたし、本当にこのお姉ちゃんのしたい事が分からない……!?

 

「もう! いい、やっちゃっえジャバウォック!」

 

「■■■■■■■————!!」

 

 あたしの掛け声に反応したジャバウォックが、目の前の遊び相手を壊そうと動き出す。

 さっきまでと同じように、その大きな腕を地面に叩き付けて、強風を赤いお姉ちゃんに向けて飛ばしていく!

 

「うわっ! だが、もう効かぬ!」

 

 その風の塊をギリギリの所で右へ左へと躱し続け、少しずつ私達の方に近づいてくる!

 そっか、さっきまでのひらひらした格好じゃないから、吹っ飛ばされにくくなっちゃったんだ!

 そうやって、どんどん距離が小さくなっていって……

 

 

「キャス弧の……仇ぃ————————————ッ!!」

 

 そう掛け声を上げて、飛び上がった!

 さっきまでしてたのとは、明らかに違う高さ。ジャバウォックの背よりちょっとだけ大きい位!

 そうしてお姉ちゃんは大剣を両手で持って、後ろに背を仰け反るように大きく振りかぶって頭を叩き切ろうと……

 

「■■■■■■■————!!」

 

 そのお姉ちゃんを、ジャバウォックの右手が襲う。

 空中じゃ自由に動けないし、もう既に溜めに入っているから、防御のしようも無いし。

 

「くッ! ハアア————————ッ!!」

 

 それでも、最後の意地とばかりに構えた両手を振り下ろしてくる。

 もし向こうの方が早かったとしても、どうせお姉ちゃんじゃ傷つける事さえ出来ないし。

 惜しかったよ、お姉ちゃん。さよなら。

 そうお別れの言葉を思い浮かべながら見て、そしてお姉ちゃんが振り下ろした大剣は……

 

 

 

 

 

 バサッと広がりながら、ジャバウォックの顔を覆って————————————え?

 

 

 

「■■■■——っ!?」

 

 剣、じゃない……服!? 赤いドレス!?

 さっきお姉ちゃんが脱いでた奴だ!

 それがジャバウォックの顔に覆い被さって、視界が塞がってしまった!

 そのせいで一瞬混乱したジャバウォックは動きが止まっちゃった!

 

「皇帝の服の味はどうだ? 化物」

 

 そう空中でジャバウォックに向かって言うお姉ちゃん。

 そして、そのお姉ちゃんに向かっていくように屋根の上から何かが飛んでいった!

 あれって……!?

 

「ああ、ちなみにだがさっきのUFO……実は“鏡”と見間違えた。済まぬ」

 

「ったく! 勝手に殺すなバカ皇帝!!」

 

 っ!? 狐のお姉ちゃんの声!!

 屋根の上から聞こえたその声に、しまったと思う。

 そう言えば、気を失ったなんて分かってなかった!

 まさか、さっきの子供騙しみたいな声も、逆に狐さんの事を意識から逸らす為に!?

 そして、飛んでいった鏡は空中の赤いお姉ちゃんの足下に来て……

 

「跳びなさい! セイバーッ!」

「ああ! 最後の、一回ッ!」

 

 その鏡を片足で踏んで、また飛び上がった!?

 目の前にいたジャバウォックの上を越えるように二段ジャンプした!

 さらに、越えた後はちょうどジャバウォックの背中……

 そこに先回りするように、鏡がジャバウォックの体の横を回って、ジャンプした赤いお姉ちゃんのちょうど足下に来て……

 

「これで……」

 

 そして鏡に片足で着地した後、体をねじってジャバウォックの背中に振り向いて……

 

 

「貰ったぁアアアアッ!!」

 

 

 張り付いてあった鍵を、完全に剥がしとられた。

 

 

「「よっしゃあッ!!」」

 

 お姉ちゃん達が、二人揃ってそう声を上げる。

 その声はもの凄く嬉しそうだった。

 

「あっはっは!! さらばだっ!!」

「もうアンタ等の遊び相手はコリゴリですよーっだ!!」

 

 そう言って、赤いお姉ちゃんはそのまま弓道場の扉から外へ。

 狐のお姉ちゃんは屋根の上をダンダンッと走っていって飛び降りたみたい。

 完全に逃げられちゃった。

 

「■■■■——!」

「お疲れ、ジャバウォック」

 

 あの赤いお姉ちゃんに被せられた服も、今取れたみたい。

 このお洋服どうしよう……まあ、捨てちゃいましょう。あたし達じゃ切れないし。

 

「にしても……あーあ、負けちゃった」

 

 そうあたしは独り言のように呟く。

 

「まあ、いっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ありすの方の遊びは、もうとっくに終わってるだろうし」

 

 

 

 ★☆★

 

 

「あはははは! やったなキャスター、作戦通りだ!」 

「後半だけですけどね!? 何ですかあれ!? いきなり投げ飛ばす何て、そんなの一切無かったでしょう!!」

 

 校舎に入り、アリーナへと続く廊下を走っていく。

 その時にセイバーの隣を走り、さっきの作戦について文句を言っていた。

 

「ほう、ならば逆に問うがキャスター……仮に投げ飛ばさなかったとして、余が鍵を奪った後、貴様はあの位置からどうやって逃げるつもりであった?」

「そ、それは……」

 

 ……確かに、セイバーが屋根の上に投げたからこそ、私はそこからすぐに逃走に移る事が出来た。

 

「大方、鍵さえ余が手に入れたなら、後は余に任せて自分は残っててもいいと思ったのであろうが……残った貴様に対し、あの黒いロリが何も手出ししないと思うのか?」

「うう……」

 

 ……完全に図星。

 普段は只の我が儘大王なのに、こういう時だけいやに勘が働くのよね、コイツ……

 

「全く、いつから自己犠牲精神に目覚めたのだ? 何の影響だそれ?」

「知りませんよ! もうっ……まあ、それに関しては、ありがとうございます」

「ふふん♪ 存分に感謝するが良い」

「ですが……」

「うん?」

 

 

 

「それなら屋根の縁にぶつける必要は一切無かったのでは?」

 

「ああ、済まぬ。それは素でミスった、許せ。アイタァッ?!」

 

 

 

「と、付いた!」

 

 そうこう言っているうちに、アリーナの扉の前に到着した。

 アーチャーと桜さんはもういない……保健室に戻ったのだろう。

 錠は相変わらず掛かったままで、早速セイバーが取り返した鍵で開けようとする。

 

「うー、まだ頭が痛むぞ……それにしてもあの服余のお気に入りだったのにぃ……折角余が一からデザインしたのだぞ!」

「頭は自業自得です。まあ、後であの茶坊主とかに作ってもらいなさい。多分スッゲー生き甲斐感じながらやりますよ、アイツ」

「それはそれでキモいな……うむ! 開いたぞ!」

 

 そうしてセイバーが錠を開け、鎖をジャラジャラと取ってから解いた後、扉を大きく開いた。

 互いに頷き合った後、私達はアリーナに急いで突入していった……

 

 

 ★☆★

 

 

「……嘘!?」

「これは……!?」

 

 アリーナに入った私達に襲ったのは、驚愕だった。

 ロリ達の固有結界が変化している…………では、ない。寧ろ逆。

 

 

「固有結界が……無くなってる!?」

 

 

 そう、そこは既にいつものアリーナに戻っていた。

 まるで、初めてここに訪れた時のように、一切変化が無かった。

 

「これは……どういう事なのだ?」

「……考えられるのは、ご主人様が何らかの方法で自力で解除されたか、もしくはロリ達自身が解除したか」

「奏者はともかく、ロリ達が解除したという可能性とは?」

「そりゃあ、魔力切れとかで展開出来なくなったか……

 

 

 ……対象がいなくなって、する必要が無くなったと、か……ッ!?」

 

 

 その発想に至った途端、私とセイバーは同時に走り出した。

 

「急ぎますよ、セイバー!」

「ああ! 分かっておる!!」

 

 入り口付近にご主人様達はいなかった……

 なら、いるとしたらアリーナの奥!

 

 とにかく、私達は全力で走って探しまわっていった!

 

 

「ご主人様ぁーっ!! いたら返事して下さい、ご主人様ぁーっ!!」

「奏者ぁーっ!! 出て来たら、余の芸術作品一つやるから、返事しろーっ!!」

「むしろ出てこないでしょうがそれ!?」

「なにおう!?」

 

 と、そうこうしている内に、どんどん奥へと進んでいって……

 

「ハアッハア……」

「残る箇所は、ここだが……」

 

 いつの間にか、残った箇所は最後の上り坂となっていた。

 もし、そこにもいなかったとしたら……いいえ、考えるのは後!!

 私とセイバーは、最後の力を振り絞ってその坂を駆け上がっていく!

 ご主人様の無事を、切に願いながら……

 

 そうして、上り坂は終わり、最後のスペースへと出る。

 

 

「ご主人様ッ!」

「奏者ッ!」

 

 その、最後のスペースには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、うぅ…………ヒック……っ」

 

 

「だから、その、何が原因かは、分からないけど、出来れば泣き止んで欲しいかな〜って!?」

 

 

 

 

 

 

「……必死で助けに来たご主人様が、幼女を泣かしていた件について」

 

 

「って、セイバーッ!? キャスターッ!?」

 

 

 その時のご主人様は、助かったという安堵感とうより、『何でコイツ等いつの間にいるの』という感じの表情をしていた。

 

 ああ、もう、本当に……っ

 

 

 

 

「ご主人様の……鬼畜ロリコン————ッ!!」

 

「奏者のロリペド————ッ!!」

 

 

「ちょっと待ってッ!? 聞き捨てならない言葉が、だから誤解!? いやホントに待ってえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!??」

 

 

 

 




今回はギャグ多め。
明久は一体何があったのか!?

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