Fate/Extra Summon   作:新月

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三週間ぶりの投稿、お待たせしました。



狐が一人

「桜っ!! 奏者達の居場所は!?」

「待って下さい! 管理AIの権限により、保健室よりいなくなった体調不良の参加者のサーチの許可を申請……受理されました! サーチ開始します!」

「くっ! 抜かりましたね……っ」

 

 アリス達の襲撃にあった後、私達は急いでご主人様達が転移された場所を探ろうとしていた。

 まさか、鍵の解除がやっと終わってちょうど疲れ果てた所に襲ってくるなんて……

 半ば保健室をマイルーム扱いしていたせいで、完全に気が抜けてた……っ!

 

「……ッ! 対象の反応、でました! ……えっ?」

「どうしたんですかッ!?」

 

「……対象が、“アーチャーさんだけ”!? しかも、反応場所が……“アリーナの扉前”?」

 

「紅茶だけとな!? 奏者はおらんのか!?」

「は、はいっ! 吉井さんの反応は、校舎内には存在しません! 考えられるのは、吉井さんだけマイルーム並みのセキュリティ場所に連れ込まれたか……もしくは、アリーナに連れ込まれたかのどちらかとしか……」

 

 おそらく、紅茶の反応場所からして後者の可能性が高そうですね……もちろん、それがフェイクの可能性もありますが。

 でも、だとすると何故アリーナに……ッ!?

 

「アリーナ……まさかッ!?」

「キャスター、どうしたのだ!?」

「セイバー!! そういえば今、アリーナには確か……ッ」

「あ……ッ!?」

 

 

 

「「固有結界!!」」

 

 

 

 互いに顔を見合わせ、たった昨日逃げて来たばかりの悪夢の空間の事象を叫ぶ。

 ヤバい……ッ! ロリッ子ズの狙いはそれですか!?

 

「急いで向かいますよセイバー! ご主人様が危険です!」

「ああ、言われずとも!」

「わ、私も向かいます!」

 

 そう声を上げて、私達は保健室を急いで出て行った……

 

 

 

 ★☆★

 

 

「くっ! まさか、明け方に襲ってくるなんて……っ」

「校舎内に、参加者どころかNPCすらまだ出て来ておらぬとは……」

「まだ、設定上の時間は活動時間じゃありません! それにより監視の目が行き届かず、セキュリティがどうしても多少下がってしまいます!」

 

 人気の一切無い一回廊下を走りながら、桜さんが多少息切れを起こしながら言う。

 

 

「しかし、それなら明け方とは言わず、夜時間に襲って来た方が効率が良かったのではないのか!?」

「そうですね……それに、アーチャーさんの反応についても何故……」

「とにかく、行けば分かりますよ! それよりもう扉の前に付きます!!」

 

 急いだ私達は全力で走り、そのままの勢いで一階の廊下の突き当たりの角を曲がる。

 

「ッ! アーチャーッ!?」

「……っ」

 

 そこで真っ先に目に入ったのは、見慣れた例の紅いのが倒れてる光景だった。

 私と桜さんが駆け寄り、急いで起こし上げる。完全に気絶して、意識が無かった。

 

「アーチャーさん! しっかりして下さい!!」

「一体何が……」

「ああーッ!!?」

「って、今度はどうしたんですか!?」

「アレッ!!」

 

 そう言ってセイバーが指を指したのは、アリーナの扉……

 

 

 

 その扉の取っ手が————“錠付きの鎖でギッチギチに固められていた”

 

 

「ちょっ!? 何ですかそれ……ってまさか!?」

 

 それを見て、反射的に紅茶の首元に視線を向ける。

 嫌な予感が当たった……!

 紅茶のそこにあるはずの、最後の鎖と錠が無くなっていた!

 

「やっぱり……! あれはアーチャーさんに付いてた奴!」

「アリーナの扉が完全に封鎖されている……!? これじゃあ、扉からのアリーナと校舎間の出入りが出来ません!!」

「リターンクリスタルは!? 物理的に封鎖されているだけなら、転移するアレなら……」

「つい昨日端末が壊れてアイテム類全部無くなったばっかじゃないですかっ!!」

「アアッ!!? しまったぁっ!?」

 

 やられた……っ!!

 ロリ達の本当の目的は、ご主人様を固有結界内に閉じ込めて隔離する事だったんだ!

 その為に紅茶も連れて行ったんですね、扉を封鎖する為の錠と鎖を手に入れる為に!

 明け方に襲って来たのもその為……他の錠を取らせ、あっちが持っている最後の鍵に対応した物が分かりやすいように!

 

「完全に計画的な犯行……っ! あのロリ達を舐めてた……!」

 

「ふふふ。すっごく困ってるわね、狐のオバさん達」

 

「なっ!? 黒い方!?」

 

 噂をすればなんとやら、例の黒い方のロリが後ろに現れた。

 そしてその手には、これ見よがしに持っている“最後の鍵”……!!

 

「さあ、ゲームの続きと行きましょう。もっともっと楽しむの」

「ザケンじゃねえぞコノヤローッ! いいからそれをさっさと渡しなさい!! そのゴスロリ引ん剝いて丸裸にして差し上げましょーか!?」

「ああ、流石の余も堪忍袋の緒が切れた……いくら余の好みの幼女だからって、もう容赦せぬぞ!」

 

 そう言って私とセイバーは鏡と大剣を取り、戦闘態勢をとった。

 それを見たロリは、クスクスとおかしそうに笑う。

 

「本当に出来るのかしら。今の弱ったアナタ達に」

「「ッ!!」」

「悪いけど、ありすの邪魔をさせるわけにはいかないの。……さあ、始めましょう。期間は、“ありすとお兄ちゃんが遊び終わるまで!” それじゃあ、よーいドン!」

「あっ!? 待ちなさい!!」

 

 そう言った後、例のごとく黒いロリは何処かに転移していった。

 またコレですか……!

 

「桜さん! あのロリの居場所は!?」

「すみません! 吉井さん達ならともかく、私の権限じゃあの子に対してのサーチは出来ません!」

「むう、自力で探すしかないという事か……」

 

 あのロリッ子、とことん巫山戯てくれちゃって……!

 ご主人様と遊び終えるまで? 冗談じゃない!

 それって要はご主人様が完全に消えるってことじゃないですか!

 

「こうなったら、何が何でもあの黒ロリから鍵を取り返しますよ!! セイバー、あなたは校舎内を隅々までお願いします!! 私は外を探して来ます!!」

「ああ、任せろ!」

 

 そう元気よく返事し、セイバーはすぐさま探しに走っていく。

 

「桜さんはアーチャーをお願いします! 目覚め次第、こっちを手伝うよう伝えて下さい!」

「は、はい! 分かりました、そちらも気を付けて下さい!」

「ええ! それじゃあ!」

 

 そう言って、私もセイバーの後を追うようにそこから走り去っていった……

 

 

 ★☆★

 

 

「コラァーッ!! どこに隠れやがったあのブラックロリーッ!!」

 

 校庭に出て、グランドを見渡しながらそう切れ気味に叫ぶ。

 当然返事など帰ってくる筈も無く、人気の無い静けさがあるだけだった。

 

「くっ……それにしても、本当に人気が無いですね。ある意味、ゴーストタウンっぽいです」

 

 私以外誰も見当たらないこの光景は、セラフによるクリアな景色により余計にそう感じさせる。

 まるで、世界にただ一人、私だけが取り残されたような錯覚まで覚えてくる。

 

「……一人、か」

 

 ……そう言えば、こうして独りぼっちみたいな状況になった事なんて、殆ど無かった気がする。

 いつもは大抵、ご主人様やセイバー、アーチャーと、最低二人一組で行動するようにしていたし。

 一人で鍵を探索した時も、ラニさんなど知り合いによく出会っていたり。

 

 

 ある意味、本当の意味での独りぼっちの行動だ。

 

 

 

 ——本当に出来るのかしら。今の弱ったアナタ達に

 

 

 さっきの黒いロリの言葉が脳裏を掠める。

 本当に、私だけで……

 

「……ええい、私らしくも無い! いまはそれどころじゃないんだってーの!」

 

 沸き上がって来たネガティブな感情を無理矢理押さえ込み、気持ちを切り替える。

 今は一刻も早くあのロリを探し出すのが先決だ。

 

「今まで探したのは、中庭とグランドにプールに倉庫……後、まだ探していない場所は……」

 

 そう呟きながら、私は残りの箇所……弓道場に目を向けていった。

 

 

 ★☆★

 

 

「そーっと……そーっと……」

 

 出来るだけ音を立てないように、ゆっくりと扉を開けていく。

 軋むような響きを出来るだけ押さえながら、弓道場の中に入っていった。

 

「……いた!」

 

 例の黒いロリは、そこにいた。

 ちょうど私に背を向けるように、真ん中の芝生の所に立っていた。

 

 ——今なら、捕まえられそうですね

 

 そう考えた私は、そのまま黒いロリに気づかれないように近づいていく。

 焦ったら駄目……捕まえる前に例の転移をされたら、また一からやり直しだ。

 

 そろーり、そろーりと…………今っ!

 

 十分近づけた瞬間、勢い良くその場を踏み出し……

 そして、そのまま一気に距離を詰めて手を伸ばす!

 

「捕まえ————!」

 

 そう確信して、掴んだ手は……

 

 

 

 

 ————そのまま黒いロリをすり抜けていった。

 

 

 

「……え? なっ————!?」

 

 しまった!? コレは、幻術!?

 まんまと嵌められた……っ!!

 

「ふふふ。おバカな狐さんが引っかかっちゃってるわ♪」

「っ! あなた……っ!」

 

 目の前の偽物が消えたと同時に、背後から声が聞こえて来た。

 振り返ると、そこには本物の黒いロリが心底可笑しそうに笑って立っている。

 

「まさか、こんな簡単に引っかかってくれるとは思わなかったわ。狐のオバさんったら、本気で私って信じ切ってたもの」

「……ええ。私もまさか、こんな完成度の高い幻術を見れるとは思いませんでしたよ、“キャスター”!」

 

 私は確信を持って、目の前の存在のクラス名を叫ぶ。

 

「あら、分かっちゃったの?」

「ええ、おかげさまではっきりと分かりました。固有結界の件といい、これほどの幻術を使えるのは私と同じキャスタークラス以外ではあり得ない、と」

 

 いくら私自身のステータスが低くなっているといっても、仮にもキャスターとしての魔術を見る目まで下がっている訳ではありませんからね……

 間違いなく、現代のウィザードどころか、他のクラスのサーヴァントでも作り出せる代物ではありませんでした。

 

「恐らく、黒いあなたがサーヴァントで、白い方がマスター……違いますか?」

「ええ。 狐さん、大正解よ」

「そうですか。……ところで、もう追いかけっこは終わりですか?」

 

 こうやって話しながら、けれど絶対に目を離さずに警戒をし続けていました。

 それなのに、まるで逃げる気配が感じられない……?

 

「ええ。私だけが狐さん達と遊ぶのはずるいって、“あの子”が言うものだから」

「あの子?」

 

 白い方……は、今ご主人様とアリーナにいる筈。

 なら、黒い方の言ってるのは……

 

「ここなら見つかりにくそうだし。あの子も存分に遊べるわ」

「……っ!?」

 

 その言葉を聞いていくうちに、ヒヤリと嫌な悪寒が沸き上がっていく。

 それを感じた瞬間、私は急いで黒いロリに向かって走り出す!

 ヤバい……このままだと、何か最悪なものが来る……!!

 そうして私が手を伸ばそうとした瞬間、

 

 

 

 

「さあ、来て! ジャバウォックッ!」

 

 

「■■■■■■■——!!」

 

 

 

 私と黒いロリを遮るように、それは現れた。

 圧倒的威圧感と殺意をバラまき、凶悪な咆哮を放つ怪物……!!

 

「前にご主人様から聞いていた、例の巨人ですか!!」

 

 こうして実物を見てみると、なるほど確かに圧倒的存在……!

 ご主人様がバーサーカーと勘違いするのは無理も無いですね……

 けれど、今の私なら分かります。これはサーヴァントではなく、この黒いロリの使い魔的な存在だと。

 

 

「さあ、ジャバウォック! 目の前の狐さんと、遊びましょう!」

 

「■■■■■■■——!!」

 

 そう黒いロリが言った途端、目の前の巨人は私に向かってその大きな腕を振り下ろしてくる!

 急いで私はバックステップで避け、それから逃れる……

 

「きゃあッ!!?」

 

 ……そう思った。けれど、甘かった。

 直撃は避けられても、その豪腕により起こされた暴風により、私は吹っ飛ばされた!

 そのまま一気に弓道場の端まで飛ばされ、芝生の上に落ちる。

 幸いダメージはあまり無い……けれど、あまりに力が違いすぎる……!

 

「くっ……これはまた、とんでもないのを呼び出してくれちゃってますね……!」

 

 そう言葉を吐きながら立ち上がり、離れた箇所にいる巨人と黒いロリを睨む。

 黒い方は相も変わらず、その童顔を子憎たらしく笑っている。

 

 

「さあ。どうするのかしら、狐のオバさん?」

 

「■■——」

 

 巨人の方は、向こうからこっちに追い討ちをかけるように追ってこない……

 にゃろう……あくまで私邪魔だけをするおつもりですか……!

 考えてみたら、向こうにとってはこれは只の時間稼ぎ……

 わざわざ向こうから絡んでくる理由は無いってことですか……

 くッ!! こんな事してる場合じゃないってのに!

 こっちは急いで鍵を取り返さなくちゃ行けないのに!!

 

「じゃないと、ご主人様が! ご主人様、が……」

 

 ……ご主人様が。

 そう焦るあまり出てくる言葉を繰り返していくうちに、何故かだんだん頭の中が冷静になっっていった。

 ……ご主人様、か。

 ご主人様なら、この状況をどう切り抜けるんだろう……そんな考えが、頭に浮かんだ。

 

「……そういえば。これも一応、サーヴァント戦と言えるんでしょうかね」

 

 考えてみれば。

 私は今まで、この聖杯戦争が始まってからまだ直接戦えていない。

 これまでは、何故かサーヴァント並みの力を得たご主人様が代わりに戦っていたから……

 

 だから、私が戦っている今の状況が、本来の形。

 

「……あはは」

 

 気がつけば、自然と笑い声が出ていた。

 

「うん……落ち着け、落ち着け、私」

 

 焦って行動した所で、向こうの思う壷。

 ここは冷静に、かつ確実に行動しないと。

 

「そうですよ……何を焦っていたんですか、私は」

 

 私はこれでもサーヴァント。

 相手と同じ、仮にも英霊と呼ばれる存在。

 しかも巨人の方に至っては、サーヴァントですら無い使い魔的な存在。

 なら、サーヴァント……キャスターの私にとってこの程度の障害、切り抜けられない訳がない!

 

「……よし! 落ち着いた!」

 

 頬をパンパンっと軽く叩き、気持ちを切り替える。

 

「さて、と〜……一丁やりましょうか!」

 

 そう自分に鼓舞するように叫び、視線を前に向けた。

 絶対に、私一人でも何とか出来るって……!

 

 

 

「……とまあ、言ってみたものの。実際問題、どうしましょうかねえ……」

 

 冷静になった所で、今の状況を整理し直してみる。

 まず、黒いロリが入り口付近の気の板の上(確か射場って言うんでしたっけ?)に立っていて、

 その手前の芝生の上に、巨人が立ちふさがるように立っている、と……

 うーん……こちらとしては、目的の鍵を取り返せたならばもう用は無く、さっさと逃げ切ればいいんですが……

 その鍵を持っているのが黒いロリで、その為に彼女に近づかなくてはいけない。

 で、それを巨人が邪魔してくるっていうのがやっかいなんですよねえ……

 

「今の私が使える戦力と言えば……」

 

 通常武器であるこの鏡と、いくつかの呪相スキル……

 けれど、いまの私の手持ちの魔力量では、精々威力押さえ気味の【呪相・炎天】一発分が限度……

 よって、攻撃スキルの使用は効くかどうか分からないし、手数が無くなってしまうので却下。

 

 なら、ここはこれ以外。

 ……そう言えば、前にご主人様から聞いた、とある策。あれ、使えるんじゃあ……?

 それなら、私もある意味キャスターっぽく、ある意味それらしくなく。

 

「……よし。これで行きましょうか!」

 

 考えがまとまった私は、改めて黒いロリ達の方に視線を向ける。

 正直、あまりに大雑把な作戦……けれど、やるしかない!

 

 

「……いざ!! 参りますッ!!」

 

 そう掛け声を上げ、スタートダッシュを切る!

 正直、キャスターの私には普通のサーヴァントよりちょ〜っとスピードは遅いですけど……

 それでも、全力ダッシュで黒いロリのいる所まで走り出す!

 

「あら、真っ正面から? 面白いわね、やっちゃえジャバウォック!!」

「■■■■■——!!」

 

 黒いロリがそう指示すると同時に、巨人がその豪腕を無作為に振り下ろす!

 まだかなりの距離が開いているのに、その衝撃による風圧が襲ってくる!!

 

「くう! こ、の……!」

 

 余波だけなのにこの威力……! 

 まるで巨大な空気の塊を打ち出して来ているようだった。

 直接食らったら、一撃だけでやられてしまうのは確実!

 

「けど……まだ!」

 

 それでも私は、前に進む足を止めない!

 最早空気砲と化した弾丸に直接当たらないよう、サイドに避けながら確実に進んでいく。

 あともう少しで、巨人の近くに着く……!

 

「さあ! つぶれちゃえ!」

 

 残り数メートルといった地点で、ロリの指示により巨人は無作為の行動を止め、私に向かって走ってくる!

 その巨体にも関わらず、移動速度もかなりの早さ……!

 

「■■■■■——ッ!!」

「っ!」

 

 その間合いに入れられた途端、巨人はその豪腕を躊躇無く私に向かって振り下ろす!

 今度こそ、やられ————

 

 

 

 

「コードキャスト・move speedッ!!」

 

「えッ!?」

 

 

 ————る訳、無いじゃないですか!

 このタイミングで、私は自身に速力強化のコードキャストを掛ける!

 黒いロリの驚きの声をよそに、私は勢い良く一歩を踏み切った!

 それだけで、一気に数メートル分をスライドするように移動する!

 

「超俊敏なキャスターっていうのも、新鮮じゃありませんか、っと!!」

 

 これでも一応魔術師のクラスを持っているので、

 たかが一般の、しかも購買で販売されている簡易礼装に付けられているようなコードなら、簡単に再現出来ますから!

 本来なら、自身に強化のコードを掛けて戦うのが、私のスタイルですしね。

 

「今度こそ、捕まえた!!」

「あ!?」

 

 軽々と巨人の攻撃を躱し、そのまま射場の上に飛び移って黒いロリの腕を掴む!

 何かされないように、片手でロリの細い両手首を拘束した。

 もちろん、背後の巨人の警戒も怠っていない。

 

「さあ、持っている鍵を渡してもらいますよ!!」

「………………」

 

 そう勝利宣言すると、黒いロリは観念したかのように俯き……

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふふふ」

 

 

 

 

 そんな不気味な笑い声を出し始めた。

 

 

「な、何を笑っているんですか!?」

「だって、可笑しいんだもの」

「お、可笑しいって……まさか! 既に最後の鍵は何処かに隠した後ッ!?」

「いいえ、違うわ……」

 

 そう言って、目の前のロリは顔を上げ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって今、ジャバウォックの背中に貼付けているんだもの」

 

 

 

 

 

 

 そんな、絶望的な答えを出した。

 

「なっ————!! そん、な……ああッ!!?」

「■■■■■■■——!!」

 

 その答えに衝撃を受け、警戒を一瞬解いてしまった。

 気づいた時には、私は背後の巨人にその巨大な手で掴み上げられてしまった。

 

「う”、ああ、ああぁぁああぁああああぁあああぁああぁぁああぁああああぁあああぁッッッ!!!!」

 

 とっさに残りの魔力を全部使って物理防御のコードを使うが、それでなお全身に走る想像を絶する痛み……

 体のあちこちから骨が軋む音が聞こえ、最早指一本すら動かせない。

 私には、絶叫を上げる事しか出来なかった。

 

「■■■■■——っ!!」

 

 しばらくすると、まるで子供が飽きたオモチャを放り投げるように、いきなり解放された。

 その投げ捨てる際もかなりの勢いがつき、私は地面に何度かバウンドして落ちた。

 

「か、ア……ッ」

 

 ようやく止まり、芝生にうつ伏せになった私は、すでに満身創痍だ。

 身体中あちこちから悲鳴を上げ、最早虫の息同然だった。

 

「あはは! 面白かったわ狐さん」

 

 射場の上から見下ろすように、黒いロリがあざ笑う。

 

「けど残念、惜しかったわね。【ヴォーパルの剣】があったら、そっちが勝てたかもしれないのに」

 

 薄れかけていく意識の中で、黒いロリがそんな言葉を言ったのが微かに聞こえた。

 ヴォーパルの、剣……?

 

「あ、言っちゃった。まあいいや。どうせ狐さん、これでサヨナラだし」

 

 ズシンッと地面が鳴り響き、巨人が倒れた私の方に近づいて来たのを感じた。

 けれど、今の私じゃもう動けない……

 

 

 

「じゃあ、バイバイ」

 

「■■■■■——ッ!!」

 

 

 その別れの言葉の死刑宣告と共に、命を刈り取る一撃が振り下ろされ————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスタァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「なッ!?」

 

 

 それが、私に当たる事は無かった。

 その声ととも、何かが巨人の横をすり抜けて、倒れた私をとっさに抱えて前に飛び込んだ。

 振り下ろされた一撃は躱され、その余波による衝撃で私とその何かは一緒にゴロゴロと飛ばされた。

 

「ッはあ! はあっ……」

 

 仰向けの状態となった私に、覆い被さるようになった何かが両腕を付いて状態を上げようとした。

 その時にやっと、私はその何かの顔が分かった。

 

 

 

「セイ、バー……?」

 

「な、何とかギリギリセーフであったか……」

 

 

 荒い息を吐きながら、そんな言葉を呟いてくる。

 今の衝撃のせいか、彼女の自慢のドレスがボロボロだ。

 大量の汗が吹き出ているようで、それが私にポタポタと降り掛かってきた。……正直、傷に染みて痛い。

 

「校舎を探してたら、外からかなりの轟音が鳴り響いてきてな……急いで来たらアレがいた、という訳だ」

 

 ふー……っと息を吐きながら、セイバーは上体を完全に起こし、巨人のいる方に注意を向け始めた。

 巨人の方は、じっとしたまま私達に襲ってこようとはしなかった。……少なくとも、今はまだ。

 

「……セイバー」

「む?」

 

 

 

 

 

「————逃げなさい」

 

 

 

 我に返った私は、彼女に伝える。

 

 

「ヴォーパルの剣……それを探して。それが奴の弱点」

 

 

 ありったけの力を搾り出し、望みを繋げる為に必死に伝える。 

 

 

「今の私達じゃ、絶対敵わない……だから、行って。早く! 私を置いて、行きなさいッ!!」

 

「……………………」

 

 声を出すたびに喉に激痛が走る……けれど、最後に彼女に希望を託す為に……

 そんな私の言葉を、無言で聞いていくセイバー……

 

「……………………キャスター」

 

 思いを受け取ってくれたのか。そう言ってセイバーはゆっくりと私に顔を向け……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……っ」

 

 

 

 ————そのまま流れるような動作で“キス”をしてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………………

 …………………………………………………………………………………………は?)」

 

「わー……」

「■■■■■——ッ!?」

 

 

 ……は?

 

 ……………は?

 

 ……………………は?

 

 ………………………………いや、なんで? 

 

 何? 何なのこれ?

 キス? 接吻? マウストゥマーウス? 

 ホワーイ?

 

 

「っ……ん……」クチュ……

 

「(ンンッッッ??!!!)」

 

 

 いきなりのセイバーの謎行動に、頭の中がまっさらに……

 とかいってたら、今度は舌まで絡めて来て……ッ!?

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ???!!」

「むー……っ……!」

 

 必死に逃れようとする私に両腕で頭から腰までガシッと抱きしめて固定するようにして決して逃げられないようにされてそれでもなお足掻こうとすると余計に口の中の動きが活発となり舌をしゃぶりつくされ歯茎の裏までなぞるようにまるで口の中が陵辱されて力が抜けてだんだんしびれていくような気がして拒み切れなくなっていってもし女同士じゃなかったら誰がどう見ても強姦されている現場のようにし

 

 

「っっっだあああああああああああああああああッッッ!!???」

「ぷはあっ!?」

 

 

 とっさに我に返って、完全に夢中になっていたセイバーを蹴り飛ばすように突き放す!!

 

 

「な、は、あ、なああああぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ???!!」

 

 今起こった事が理解出来なくて、もはや碌な言葉も喋れない。

 顔が熟れたトマトのように真っ赤なっているのが実感出来た。

 

「い、痛いではキャスター!? 何をするか!!」

「それはコッチの台詞だアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」

 

 セイバーのその第一声に、ようやく出せた言葉がそれだった。

 

「な、なな、なんで、キスなんか……ッ!?」

 

「うむ。その前にキャスター、一言言わせてくれぬか」

 

そう言って、シリアスな表情になって……

 

 

 

 

 

 

「中々美味であった」

 

 

 

 

 

「やっかましいわあああああああああッ!!?」

 

「ぬあ!? 危なッ!?」

 

 もう顔全体が真っ赤になって、セイバーをとにかく殴る事しか頭に無く。

 鏡を操って勢いよく変な事抜かしやがる顔面に向かって投げたが、簡単に躱されて。

 ああ、もう、ああああああああああああああああああああああああああああああああっ

 

「うわあ……お姉ちゃん達って、ソウイウ関係なの……?」

「いやいやいやいやいやッ?! 違いますよ!? 私は至ってノーマル……ッ(まあ魂のイケメン度が高い女性の場合は置いといて)ですのに!! 少なくともまかり間違ってもこの暴君となんてッ!!!」

「まあ余は生前、余が婿になったり嫁になったりと美しければどっちもOKであったが」

「隣黙ってろッ!!」

「ク……ハハッ」

 

 何故だかそんな私を見て、いきなり笑い出すセイバー。

 一体なんなんですか本当にもう!?

 

 

「ようやく貴様らしくなったではないか、キャスター」

 

「え……?」

 

 急に真剣な顔になって、そんな事を言いだして来た。

 

「うむ。まあ、ふざけた事を言う口が五月蝿かったのでな。それを塞ぎたいという理由もあったのだが……」

「一体、何を……?」

 

 そう聞こうとした瞬間、今更ながら気づいた。

 体の魔力が、“少しだけ回復してる”……?

 

「しかし、口内粘液による交換では、以外と渡しにくかったな。おかげで余の技術を駆使しなければ、うまくいかなかったではないか」

「セイバー、あなたまさか……」

 

 自分の手持ちの魔力を、私に分けた?

 只でさえ少ない魔力を……

 

 

「逃げろ、だと? 何を弱気な……いつもの余に対する暴言はどうした? それがなにを何処かの話に出てくる、何も出来ないヒロインみたいな事を。貴様のキャラではないであろう?」

 

 そう言って、彼女は立ち上がる。

 まるで何て事の無いかのように。

 

 

「立て。約束したであろう、共に奏者を支えると。次ふざけた事を言ったら、その口蹂躙し尽くすからな」

 

 

 そう言うと、彼女は片手を私の方に差し伸べてくる。

 それが、当然の事のように。

 

「…………ヤレヤレ、流石にこれ以上Rー18的なものはお断りですからね」

 

 彼女のその手をつかみ取り、ヨッと引き上げられながら立ち上がる。

 正直、体の傷が治った訳ではないから、こうして立つだけでかなり痛い。

 ……けれど、不思議と倒れる気もしない。

 

「あら。こんどは赤いお姉ちゃんも遊んでくれるの?」

「うむ! こんな面白そうな催し、余だけ仲間はずれは嫌だからな! 一緒に参加させてもらうぞ!」

「まあ、人数的には二対二ですし? バランスはよくなったんじゃないですか?」

 

 私一人では、結局無理だった。

 けど、二人なら……セイバーがいるなら。

 

「キャスター、準備はよいか?」

「ええ、いつでも」

 

 普段はムカつく……けれど、心の底から信頼出来るパートナーと共に。

 この逆境、完璧に乗り切る————!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみにキャスター。これを乗り切ったら、ちゃんと分けた分返してもらうからな。無論、さっきと同じ方法で、だ」

 

「……え?」

 




バカテス側のキャラ一切出て来てないや……

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