Fate/Extra Summon   作:新月

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久々の更新。
今回は三人の視点から。
後半は明日投稿します。


キー・パニック(前半)

「っ……くう〜……あと、少し……!」

 

 あれから数十分。

 僕は今、何故か屋上の給水タンクの上に登ろうとしていた。

 

 

「〜〜っはあ! つ、ついた……」

 

 僕はやや息切れを起こしながらも、何とか無事に上がる事が出来た。

 左腕が自由に使え無いせいで、片手だけで体を支えなくてはならない状態で地味に辛かったよ……

 ていうか、治療してもらっておいてなんだけど、この左腕のギプス凄い邪魔!

 正直今直ぐ外したいんだけど、桜さんうまい具合にギチギチに巻き閉めて簡単に外れないし。

 ハサミかなんか無い限り、とてもじゃないけど右手だけでどうこうするなんて無理。流石保険医と言った所か……

 

 そもそも、なんでこんな場所に来てるのかって事なんだけど……

 

「まさかとは思うけど…………あー、やっぱりあったよ……」

 

 そう呟きながら、僕はそこに置かれていた“小さな鍵”を見つけて拾った。

 そう、これが僕がこんな場所に来た理由。

 

「全く……一体どれほどいろんな場所に隠したんだろう、ありすは……」

 

 ありすがゲーム開始の宣言をしてからしばらく時間が経った頃。

 あの後、結局僕はありすの姿を見失ってしまい、しょうがないからありすのゲームに乗っ取って鍵を探そうと気持ちを切り替えた。

 それで、まず屋上から探そうと来た所で……扉を開けて入った早々、まず一つ目が目の前の床に落ちていたのを見つけた。

 

 これだけなら何だ簡単じゃないか、と思ったんだけど、それから二つ目は屋上の端っこに。

 三つ目は、フェンスに紐で括られていたり。

 四つ目は、自分の入って来たドアの死角の位置に貼付けられていたり。

 五つ目は、外れかけていたタイルの裏側にテープで貼ってあったり。

 六つ目は、糸で括ってまさかの屋上から外壁にぶら下げてたり……

 

 で、今見つけた七つ目が、給水タンクの上、と……

 

「なんか、数を見つけるごとに難易度が上がっていってる気がするんだけど……」

 

 本当に注意して探さないと、直ぐ見落としてしまいそうだ。

 ていうか、よく一人でコレだけ仕掛けられたよね、ありす……

 しかも僕と会ってから、そんなに時間立って無い筈……ああ、そういえば元々アリスと遊んでたって言ってたっけ。

 つまり、僕と出会う前から既に設置は殆ど終わってたって事か……

 いや、それでも結構難しい隠し場所だけど。素直にありすのセンスに感心する。

 

 

「まあ、それにしても……数、多く無い?」

 

 今まで見つけた鍵を確認しながら、僕はそう呟いた。

 既に屋上だけで、七本の鍵を見つけている……けどありすは、あちこちに隠したと言っていた。はっきりとした範囲は言っていない。

 だとすると、どうも屋上だけに全ての鍵を隠したとは考えにくい。

 多分、少なくても校舎中……もしかしたら、アリーナすら隠し場所に入っているかもしれない。

 もしそうだとしたら、範囲についてはともかく、どうしても隠される鍵の本数がおかしくなる。

 

「そういえばよく考えたら、僕正確な鍵の本数知らないや……」

 

 しまった……小箱に入ってるって聞いたから、それだけを探せばいいと思ってたからなあ。

 さっき出てくる前に、ちゃんと桜さんに聞いておくべきだった……

 

「むー、どうしよう……保健室に聞きに戻ろうかな……」

 

 僕はそう思い、今後の行動についてうーん……と唸りながら悩む。

 数秒して、ヨシッと切り替えると、

 

 

「ま、後でもいっか!」

 

 そう、楽観的な判断を下した。

 本来なら、直ぐその行動を起こした方が効率いいんだろうけど、これは単なるゲーム。少なくとも、ありすはそう思ってる。

 最初からガチで行くのも何だし、ちょっとはこの状況を楽しむような感じでいくのもいいかもしれない。

 別にコレ自体には命掛かってる訳じゃないんだし(若干一名は社会的に掛かってるけど)まあ気楽にいこう、うん。

 

「さて、と。それじゃあ、場所を移そうかな」

 

 屋上は出来る限り探したし、恐らくもうとり漏らしは無いだろう。

 次は三階あたりを探そうか……そう思いながら、屋上の扉に手をかけようとした。

 

「って、そういえばキャスター達の方はどうなったんだろう?」

 

 考えてみたら、一階で分かれてから二人にありすのゲームの事を教えていなかった。

 やばっ……これ、二人にも伝えておいた方がいいよね。

 そう気づいて、僕は少し急いで階段を下りて行った……

 

 

 ★☆★

 

「う〜ん、参りましたねえ……」

 

 場面は少し戻り、私達とご主人様が分かれた直後。

 私は自分の手に握られた、三つの小さな鍵を見つめながらそう唸っていました。

 あれから私はずっと一階の部分を探していましたが、そこで意図的に隠されたとしか思えない鍵これ等を見つけました。

 

「これ、どー考えてもアチャ男さんの鎖の鍵ですよね……まさか、既にバラバラに隠されていたとは……」

 

 だとすると、少し面倒な事になる。

 只でさえあの鎖の量、あれを全部つなぎ止めるのにいくつもの鍵が使われているに違いない。

 それを校舎のあちこちに隠されたとならば、全て発見するのにかなり時間がかかってしまうだろう。

 

「全く、どこのどなたが存じませんが、面倒な事してくれちゃいますねー」

 

 けれど、犯人の狙いがいまいちよく分からない。

 アーチャーも言ってましたが、何故彼の鎖の鍵を隠すような事をしたんでしょう?

 私達への妨害……にしては、結構雑な対応ですし。確かにアレはうるさいですけど、別にアーチャーが全く動けないという訳でもないし。

 そもそも、あの小箱に入ってた鍵がアーチャーのアレだって知ってる人が他にいたんでしょうか?

 

「うーん、謎ですね〜……」

 

 そう悩みながら、私のご自慢のラブリーな尻尾と耳をピコピコ動かしながら歩いて行くと……

 

 

 

「えいっ」ギュッ

 

「ふみゃあッ!!?」

 

 

 突如、その尻尾が何かに掴まれた感触がッ!?

 

「ちょッ!? 誰ですか私のキュートなしっぽに触ったのは!?」

「あら、やっぱり本物だったの? てっきり狐のオバさんのコスプレかと思ったわ」

「ヨーシ、ぶっ飛ばす☆」

 

 自分の額に怒りのマークが浮かんでくるのを実感しながら、私は後ろを向き直る。

 そこには、黒いゴスロリ服を来た小さな少女が立っていた。ちなみに私への謝罪は一切無かった。

 

「ふ、フフフー。どこの子が存じませんが、よっぽどオシオキされたい悪ガキのようですねー」

「やだ、怖いわこの狐のおばさま。いえ、もしかしてオオカミさんなのかしら? 私も赤ずきんみたく食べられちゃうの?」

「だーれがオオカミさんかこのガキャーッ!! 喰う訳無いでしょうがこのちびっ子が!」

 

 全く……そう怒りながら、頭では冷静に目の前の少女を観察して行く。

 

「所で……一応お聞きしますけど、あなたが私達の対戦相手のアリスさん?」

 

 前にご主人様から聞いていた容姿と合致する。

 確か襲撃の際に巨人らしき物を呼んで助けてもらっただとか。

 

「ええ、そうよ。そういうあなたは、もしかしてバカなお兄ちゃんのサーヴァント?」

「バッ……ええ、そうですね。まあ、以前ご主人様を助けてもらった事は、お礼を言いますけど」

「あら、意外と礼儀正しいのね。……もしかして、タヌキさんが化けているのかしら?」

「何でその発想に行き着くんですかね? 何、頭が可哀想なんですかねこのロリッ子は?」

 

 うふふ、くすくす、と笑い声が飛び交う。

 その中心地が、絶対零度に近づいて行ってるのは言うまでもない。

 

「……で、私に何の用……ッ!」

 

 そう聞こうとした時、彼女の片手に気づく。

 そこには、私の持っている物と同じ……ッ!!

 

「ちょっとアナタ! その手の鍵、まさかっ!」

「あら、コレ? ええそうよ、おばさまの持っているのと同じ、小さな鍵よ」

「それを何処で……まさか、保健室から盗み出した犯人って!」

 

「あっ! 見つけた、アリス!」

 

 そう問いつめようとした瞬間、急に黒いロリッ子の横に白い女の子が現れた。

 

「っな!? 空間転移……! それに、同じ顔……!?」

 

 ご主人様から聞いていたとは言え、実際に目の当たりにしてみると驚きますね……

 何かこう、はっきりとしない“違和感”に……

 

「あらありす、どうしたの? ゲームの続きは?」

「えっとね……コショコショ……」

 

 そう言った後、白い方のロリッ子が黒い方に耳打ちして何かを話していた。

 一体何を……?

 

「……なるほど、お兄ちゃんが」

「ええ、いいでしょアリス?」

「ええ、面白そうね」

 

 話し終えたのか、急に二人のロリッ子が私の方に向いてくる。

 その顔は、いかにも面白そうといった笑顔だった。

 

「ふふ、なら私も隠す方に移ろうかしら。ちょうど今まで集めた分もあるし」

「うん! アリスも一緒にやろう!」

「ちょっと! 一体何の会話を……」

「なら狐のオバサマ、あなたもゲームをしましょう?」

「は? ゲーム?」

「お兄ちゃんも参加しているゲーム。さあ、よーいドン!」

「って、ちょっと!? 鍵持ってくなーっ!! 」

 

 こちらの叫びなど無視し、そう言うだけ言って、ロリ二人はその場から消えて行った。

 何なんですか一体もう!! ていうか、ゲームって!?

 

 

「あのロリッ子ズ、一体何を……ん?」

 

 そう文句の言葉を吐こうとした時、あの二人のいた場所に何か落ちているのに気づいた。

 鍵、じゃなくて……紙?

 

「何でしょう、コレ? あのロリ達が落としてったんですかね?」

 

 拾い上げてみると、そこには見慣れないコードが記されていた。

 うーん、何でしょうかねー……パッと見は、何かの文章にも見えますが……

 

 

「あっいた! キャスター!」

「って、ご主人様!?」

 

 そうしていると、何故か階段からご主人様が走って降りて来た。

 

「一体どうしたんです? こっちでも、前に言っていたありすとか言うロリ達に会って、いきなりゲームとか言われたんですけど……」

「あー……それなんだけど……————————」

 

 

 ……そう言って、ご主人様はあの二人とのゲームの事について説明してくれました。

 

 

 

「————————って、訳なんだけど……」

「うわあ……随分めんどくさい事になっちゃってますよね、それ」

 

 というか、それに律儀に参加するご主人様もお人好しすぎると言うか……

 なんと言うか、危機感持ってなさすぎ?

 

「いや、まあ成り行きでさ。こないだ助けてもらったし……」

「まあ、いいですけど……あ、そういえばご主人様。そのロリ達とさっき会った事なんですけど、この紙に書かれている事に何か心当たりは?」

「紙? ……何コレ?」

 

 やはりご主人様も分かりませんか……

 

「多分、あの二人が落として行った物らしいんですけど、ご主人様も分かりませんか……もしかしたら、そのゲームに関係する事かと思ったんですけど」

「うーん……けど、ありすは紙についてなんて何も言ってなかったし、ただの落とし物かもしれないけど」

「まあ、どちらにせよそれは持っていた方がいいかもしれませんね。このゲームとは別に、マトリクスの手がかりになるかもしれませんから」

「うん、分かった。じゃあ預かっておくよ」

 

 そう言ってご主人様は私から例の紙を受け取り、ズボンのポケットにしまいこんでいた。

 予備端末のメモリが足りないから、アイテムが仕舞えないんでしたっけ、そういえば……

 

 

「まあ、これはひとまず置いといて……ゲームの方なんだけど、どうせならキャスターも手伝ってくれない? さっき誘われたんでしょ?」

「まあ、それはかまいませんが……けど、油断だけはしないで下さいね」

「へ? 油断って……」

 

 やはり、あまり警戒心持っていませんでしたか……

 正直、確証は無いんですけど……もしそうなら、あまり“アレ”に関わらせるのはよく無さそうですね……

 

「ああ見えても、三回戦まで勝ち抜いてきた参加者の一組……それに、あの無邪気さ故の恐怖……お気づきなさってませんか?」

「……っ!」

 

 まあ、そこはちゃんと分かっていましたか。少し、安心です。

 

「ですから、これはゲームと言っても油断なさらぬよう。……ところで、ご主人様はこれからどう行動を?」

「え? まあ、セイバーにもこの事を伝えに行こうかなーって……そういえば、キャスターがそういうなら、やっぱり鍵の本数桜さんに確認しに行った方もいいのかも……」

「そうですか。あ、なら桜さんの所に行くついでに私の鍵も持って行って下さいませんか? 私がセイバーの方に説明に参りますので」

「あ、うん。分かった」

 

 それでは……

 そう言って、私とご主人様は分かれて行動再会しました。

 

「まあ、いろいろ考えなくちゃいけない、大変な状況ですが……」

 

 思い返すのは、あのロリッ子達……

 

「ちょーーーーっと今回の対戦相手、嫌な予感がしますね……」

 

 そう呟きながら、私はセイバーのいる校舎外へ向かって行った……

 

 

 ★☆★

 

 

「うぬっ!! あの長髪の刀の剣士、中々の美形であるな!」

 

 奏者達と分かれて暫し時が経過した後。

 余は校庭に出て、時たま霊体化を解いて現れるサーヴァントを観察していた。

 

「むう……あの骸骨の仮面の黒いのは、余は気に入らん」

 

 しかしこうして見ると、殆どのマスターとサーヴァントは互いに良好な関係を築けているようだな?

 まあ、余と奏者の仲には負けるがな!

 

「おおっ!! あのアイマスクの紫美女、かなり芸術的な美を持っておる! おーいそこの者、余と少し話を」

 

「一夫多妻去勢拳ェ————————ッ!!!」

 

「ぬおあぁッ!!?」

 

 余が声を掛けようとしたら、真横から青い流星が降って来おったっ!?

 それを余はギリギリ回避すると、それはチッと分かりやすい舌打ちをした。

 正体は言うまでもなく、ウチの狐だった。

 

「い、いきなり何をするのだキャスターッ!? 貴様それ最強奥義であろう!! いくらなんでも、それ使うの早過ぎではないのか!?」

「うっさいですよッ!! 論点そこじゃねえ! 人が珍しくシリアス一辺倒で進んでいたら、なんでアナタはナンパしてんですか!? シリアスブレイカーは私の役目でしょうが!」

 

 ……いや、そなたも微妙に論点ずれておると思うのだが……

 しかし、何故、か……

 

「ふむ……“そこに美男美女がおるから”か……?」

「何処の登山家ですかあなたは!? それより鍵はどうしたんですか鍵は!!」

「む? 鍵か?」

「ええそうです!! けどまあ、その様子じゃひとっつも」

 

「鍵なら、ホレ」

 

 そう言って、余は持っていた数十個の小さな鍵を、キャスターに向かって投げ渡した。

 

「へ? ととっ……嘘、もうこんなに!?」

「うむ、割と簡単に集まったな。しかし、一体いくつまであるのか、さっぱり予想がつかぬ……」

「ちょっ! 一体どうやったんですかコレ!?」

 

 そう言って、キャスターは心底驚いた様子でこちらを問いつめて来た。

 ふむ、どうやったと言っても……

 

「まず、余は最初にそこの草むらでその鍵を一つ見つけた。それで余は、既に鍵は犯人によってあちこちにバラバラに散らばされた事を予想したのだ。だが、保健室からソレが盗まれてから既に数十分、数時間は経っておる筈であろう? それほど時が経てば、いかにうまく隠されようともいくつかは他の参加者に拾われておってもおかしく無い。それで余は、さっきから目についた参加者に声をかけて鍵を持っておるかどうか確認しておったのだ。そしたら案の定、だ」

「クっ!? セイバーにしては、やけに冴えてる方法!!」

「おやあ……まさか、キャスターともあろう者が、この程度の策を思い浮かばなかったと? む、いや、失礼した。そうだな、キャスターなら狐らしく、においで嗅ぎ分けられるものよな! その必要は無かったか!」

「出来るかぁ————————ッ!!! それどっちかというと犬でしょうが————————ッ!!」

「怒ると小皺が増えるぞ?」

「フギャァアアアアアアアアアアッ!!! ドイツもコイツもああああああああああッ!!!」

 

 

 

 

 ————20分後

 

 

 

「フーッフーッ……」

「うむ、ようやく落ち着いたか」

「ええ、お・か・げ・さ・ま・で」

「そう褒めるな。照れるではないか」

「うっわー、前向きすぎるな暴君って」

 

 全く、かなり時間を浪費してしまったではないか。

 これだから落ち着きの無い奴は駄目よな。

 

「ま、余程の者になれば、この程度の知恵は使いこなして当然だからな。そう自分を卑下する出ないぞキャスター」

「そうですかー…………ところで、その事について一つ質問があるんですが」

「なんだ? 何でも聞いてよいぞ。余は皇帝なのだからな、知らない事は一つも……」

 

 

 

 

 

「さっき片っ端から聞いたと言ってましたが、聞く相手を選り好みしていたような気がするんですけど?」

 

 

 

「………………」

「………………」

「……………………………………」

「……………………………………」

「…………………………………………………………………………だって、余の好みじゃないし」

 

 次の瞬間、余のほっぺに地味に痛みが走った。

 キャスターの手が、見えなかった……だと!?

 

「ひゃにひゅりゅのらひゃふはーっ!?(何するのだキャスターっ!?)」

「うっさいわこのおバカァッ!! 折角いい案思いついても、それちゃんと実行しなきゃ意味ないでしょうがぁ————————ッ!!!」

「はっへひゃるひへないひ!!(だってヤル気でないし!!)」

「ヤル気とかの問題じゃないでしょう!?」

「ほゆうはひはい、ひはいのらッ!!(というか痛い、痛いのだッ!!)」

 

 さすがに堪え切れなくなって来た余は、無理矢理キャスターの腕を掴んで、何とか強引に余のほっぺから引き離した。

 うう、まだヒリヒリする……

 

「とにかく、ちゃんと真面目にやって下さい!! やれば出来るでしょう!?」

「えー、だって……なあ」

「何ですか」

 

 

 

 

 

「そもそも、余達が鍵を集めるのって………………………………紅茶のアレ(桜のせい)であろう?」

 

 

 

「……………………………………」

 

 そう言った瞬間、キャスターが目を逸らした。

 

「命が掛かってる訳でも無いし……正直、あの格好の紅茶の為に余達が四苦八苦してると思うと、何だか……」

「待ってセイバー……お願い、それ以上言わないで下さい。ずっと……ずっと考えないようにして来たのに……っ」

「キャスター……泣いても、良いのだぞ?」

「泣きませんもん……絶対……ッ」

 

 

 ★☆★

 

 ……そんなこんなで、探索し始めてからちょうど二時間後。

 

 校舎の一階廊下で、僕達三人は集合していた。

 

「……それで、約束の時間だけど、二人ともどうだった? ちなみに僕は22本」

「私は31本でした。ちょうど食堂にご飯を食べに来た参加者達が多かったので」

「むう、余は18本か。あれからあまり校舎外に出る者が少なかったからな……」

 

「……で、これで今ここにある鍵は、計71本……」

 

「……………………………………」

「……………………………………」

「……………………………………」

 

 ……全員無言だったけど、考えていた事は一致していた。

『多過ぎね?』 と……

 

「桜さん、どれだけ張り切ったんですか……」

 

 最初に口を開いたのはキャスターだった。

 さすがにこの量には彼女も引き気味らしかった。

 

「というか、正直これで全部と言われてもおかしく無いと思うのだが、実際の所あとどれくらいなのだ?」

 

 セイバーがもっともな疑問を投げてくる。

 うん、まあ、至極真っ当な疑問なんだけど……

 

「一応、さっき桜さんのところに聞きに行ったんだけどさ……」

「ええ、それで?」

「正直、それを聞くまで10本か20本……多くても50本位かな〜って思ってたんだ……」

「奏者、肝心の結論は?」

 

 

 

 

 

 

 

「“172本”だって」

 

 

 

 

「「うわぁっ」」

 

 

 

 ……まだ100本近くあったりする。

 

 

 

「いくらなんでもッ!! 頑張り過ぎでしょうがあのヤンデレ保険医ィ————————————————ッッッ!!!!」

 

「キャスター、他の人に迷惑になってるから……」

 

「もうヤダ……余は湯浴みがしたい……」

 

最早、僕達のテンションは駄々下がりだった。

特に二人は、半ば涙目になっていたりする。

正直僕も、テレビゲームで今と似たような状況なら経験した事はあるけど、さすがにずっと同じ物を探す作業を永遠に繰り返すコレは、精神的にキツい……

 

「あーもうヤダ!! もう帰りましょうよご主人様ぁっ!! コレだけあればもう十分ですって!」

「いや、まだ半分にも至って無いから……」

 

 

 

「大体、何で私達が“紅茶と保険医の変態プレイの後片付け”をしなくちゃいけないんですかあっ!?」

 

 

 

「うわあ、そう聞くとさらにヤル気が削がれていく……」

 

しかも、言ってる事は何も間違っていなかったりするのがまた……

 

「別にコレ、三回戦自体には関係無いし、諦めたって被害被るの紅茶だけでしょう!? あの人二回戦で活躍したんだし、あと2〜3週間位繋がれてたっていいじゃないですか!! しばらく桜さんに預ければ万事解決だし!!」

「余もそう思う……まあ、あれも二人の愛の形という事で納得すればよいのではないか……?」

 

二人のいい分ももっともに聞こえる。

うーん……正直、そうしたいのは凄くやまやまなんだけど……

 

 

「ほら……僕達端末が壊れて、マイルーム入れないでしょ? そうなると……」

 

 

————つまり、必然的に新しい端末が来るまで、ずっとあのジャラジャラ音と一緒にいなくちゃいけない事に……

 

 

「「————っ!?」」

 

これを聞いて、二人は涙を流しながら膝から崩れ落ちた。

探し続けたら精神的に苦痛、諦めれば聴覚的に苦痛。

僕らには、茨の道しか残されていなかった。

 

「……もう、コレしか、無いんですね……っ」

 

嗚咽を漏らしながら、そう絞り出すような声で言うキャスター。

 

「余は……コレが終わったら、リサイタルを開くんだ……」

 

そして、盛大な死亡フラグを立てるセイバー。

二人はもう、限か……

 

 

 

「いや、それはそれで地獄過ぎるんですけど」

 

「何おうッ!!?」

 

 

うん、意外と余裕そうだった。

 

 

「あはは……それじゃあまあ、探索再開しようか。どうせ地道にこなすしか無いんだし」

 

そう言いながら、僕は二人に手を差し伸べる。

なんやかんや言って、最後まで付き合ってくれるのが二人だからね……

 

「はあ……ま、文句言ってもしょうがないですか……とりあえず、担当はさっきまでと同じでいいですよね?」

「待て、キャスター。それだと明らかに余が範囲広過ぎるであろう!」

「後でこっちが終わったら手伝って上げますから、それまで頑張って下さい」

 

引っ張り上げられながら、二人はそんな会話をする。

うん、とりあえず本当にやる気が無くなった訳じゃ無さそうでよかったよ。

 

「それじゃあ、また後で!」

「はい、分かりました」

「うむ、了解した!」

 

そう言って、僕達は再び探索に乗り出した……

 

 

★☆★

 

 

「あははっ! 楽しいね、アリス!」

「ええ! 楽しいわね、ありす!」

 

校舎の屋上で、二人の少女が笑う。

その顔は、心からの純粋な笑みが浮かんでいた。

 

「お兄ちゃん達、一生懸命探してる!」

「必死になって、探してるわね!」

「面白いね」

「面白いわね」

 

あはは、うふふ、と小さな笑い声が辺りに響き渡り続ける。

それが聞こえる者は、ここには誰もいない。

 

「ほんとに、ほんとうに楽しくて————」

 

 

白い少女は、両手を広げて空を見上げ……

 

 

 

 

 

 

「————先生もいたら、もっと楽しかったのかな」

 

 

 

 

そう、寂しそうに呟いた。

 

 

「……………………」

 

……少女の声は、他の誰にも聞こえていない。

それを聞けたのは、黒い方の自分だけだったから……

 

 

 

 

 

 

 

 

【集めた鍵の本数 71/172】

 

 

 

 

 

 


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