Fate/Extra Summon   作:新月

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ハリボテの攻防

「ーーーーふう。ここまでは、予定通りか……」

 

 地上から私の方に目を向けているロビンフッド達を見て、私はとりあえず一安心をしている所だった。

 完全に体制を崩したマスターに、止めを刺そうとした所を邪魔するように狙撃したが、なんとかうまくいったようだ。

 これが、私がマスターに言った頼みの一つ……ライダーの武器を貸して欲しいというものだった。

 一回戦が終わった後、彼がライダーに武器を託された話は聞いていた。

 生前、私も銃系統の武器を使っていた経験もあったため、多少は使いこなせる自信はあった。

 

「ここからなら、私もダメージを与えられるか……?」

 

 そう一瞬思い、否、とその考えを自分で否定する。

 

「今の私の力じゃ、恐らくサーヴァントにも通用する威力を込めても、せいぜい一発が限度。例え狙ったとしても、簡単に回避されるのが落ち、か」

 

 下手に欲を出しては失敗する。

 そうだ、私の役割は彼を打ち取る事じゃない。

 自分のやるべき事を見失わない事だ。

 

 ……そもそも、この状況に追い込めたのだって、半分奇跡に近い。

 マスターが建物ごと倒して、あの二人を引きずり下ろすと言ったときはどうかと思ったが、まあ結果的にはうまくいったからそこは良しとしよう。

 問題は、引きずり下ろした後の事だった。

 幸いにも、最終的にはあの二人はこれ以上逃げずにマスターとの直接対決に応じてくれた。

 だがそれは、恐らく彼ら自身の騎士道精神のせいもあっただろうが、大半は“これ以上逃げる意味が無かった”、というのが理由の筈だ。

 

 “千里眼を持つアーチャーが高所にいるだけで、例え逃げても自分たちはすぐにその目で追われ、場所を特定されたらマスターにまた建物ごと壊される”。

 

 彼らはそう考えたに違いない筈。

 そう思うように、わざわざ私の居場所をことさらアピールしたしな。

 

 

 

 

 

「……本当は、そんな事は出来ないんだがな」

 

 

 

 

 確かに私は千里眼のスキルを、持ってはいる。

 だが、魔力供給不十分の今じゃそのスキルも全く使えない状態になってしまっていた。

 おかげで今の私は、ここから地上のマスター達の姿がギリギリ見えるか見えないか位の視力しかない。

 そしてマスターの壁を壊した新スキルも、かなりの魔力の使用を伴うため、全力で放てるのは一試合に“一発”が限度。

 よくて後、威力をかなり抑え決めにしてもう一発が限界と言った所だ。当然、建物を壊すなんて芸当はそれでは出来ない。

 

 

 ……“つまり二人にこの場から本気で逃げられて、何処かの建物の室内に隠れてそこでさっきの宝具を再発動をされたら、その時点でこちらの負けは確定していた”。

 

 

 こっちが追いつめているように見せていたが、その実追いつめられていたのはこちらの方だったという訳だ。

 ただ二対二に“なったように見せかけただけ”。

 恐らく向こうも、この事には気づいてはいる筈。

 

 

 

 

 

「……“だが、確証がない”」

 

 

 

 そう、例えソレが真実だったとしても……実際真実だが……ソレを裏付けする証拠が無い。

 同じ真似はもう無いだろうとくくった瞬間、また建物ごと壊されるかもしれないと思うと、すぐに逃げるという選択肢は取れなかっただろう。

 あの宝具の木を張り直すのにも、大量の魔力を必要とするだろうしな。

 それなら、今ここで真っ正面から戦った方がマシ……そう考えたのだろう。

 元々騎士道精神も持っていたのも、理由の一つなのだろうが。(じゃないと砂煙の時なんかは凄い隙だらけだったし)

 

 そして、そう向こうが導きだしたのも、単に情報

マトリクス

が無かったからだ。

 もし向こうが私のマトリクスを埋めていたのなら、私が今千里眼を使えない事も、そもそも使う武器が二丁拳銃で無い事も分かり、こちらの狙いは全て見抜かれていた筈だ。

 これこそ、私達が対戦相手に対し持つ絶対で唯一のアドバンテージ。

 サーヴァントが三人もいる事で、マトリクスが埋められる確率が限りなく低いという私達だけの利点だ。

 

 

「……ロビンフッドよ、確か貴様は言ったな。私達は大して役立ってない、と。ああ、確かにそれは真実だろうさ。現に私達は、役者として戦いの舞台に立つ事すら出来ない」

 

 

 地上にいる緑の弓兵に睨みつけるように、ここから聞こえる筈もない言葉を彼に対して紡ぐ。

 自らの不甲斐なさを自覚しながら……私達三人が全員思っている事を。

 

 

「だが……“ハリボテ”としての役目なら出来るぞ」

 

 

 何も知らない貴様等にとっては、こうして立っているだけで私の方も注目せざるを得なくなるだろう。

 実際は何も出来ない、ただのハリボテが何かしてくるかもしれないと。

 

 ああ、それこそ私達の狙いだ。せいぜいありもしない脅威に注意を向けていろ。

 それがマスターに取って、貴様等に付け入れる隙となる。

 

 ーーーーそう。戦闘以外でも、こうしてマスターの手助けはいくらでも出来る。

 

 マスターのためなら、この身はどんな道化をも演じ切ってみせようーーーー

 

 

 

「ライダー、フランシス・ドレイクよ。君と直接対峙した訳ではない私に使われるのは、いささか不本意かもしれないが……」

 

 

 私は両手に持ったクラシック拳銃にそう呼びかけながら、改めて地上の奴らの方に照準を向ける。

 今から私がする事は、以上に難易度が高い事だが……やってやれない事は無い。

 いざとなったら、マスターから預かった“別の物”もある

 

「マスターの勝利のため……その力、思う存分利用させてもらうぞ」

 

 

 

 ★☆★

 

 

「ハアッ!!」

「ちいっ!」

 

 僕の切り上げの攻撃をバックステップで躱した緑茶は、とっさに矢を一発放ってくる。

 ソレを難なく切り落とした僕は、また一気に距離を詰め、今度は左の干将で横払いの攻撃を放つ!

 

「だから、まだ甘ぇんだよ!」

「うあっ!?」

 

 それをジャンプで躱されると同時に僕の左肩を掴み、片手で僕の上で逆立ちされた!?

 真上で天地逆さまになった緑茶は、そのまま右腕の弓の照準を僕に向ける!

 

「このおっ!!」

 

 矢を放たれる前に、右腕の莫耶を真上に振り上げる!

 が、そのまま倒れるように躱され、真後ろに着地された!?

 

「ふん!」

 

 薙ぎ払いの攻撃を、反射的にしゃがんで躱した僕。

 ってこれ最初の逆パターン!? なら……っ

 僕は緑茶のやったように、左で背後の足を刈り取るように……

 

「はっ! 見えてるって!」

 

 それを予想通り、ジャンプして躱した緑茶。

 狙い通りだ!

 

「それはどうか、なっ!!」

「ぬぐおぁっ!!?」

 

 刈り取る動作はフェイク。

 僕はしゃがんだ状態から、サッカー選手のようにその場でオーバーヘッドキックをする!

 空中に浮かんでる状態じゃ、躱す事は出来ないでしょ!

 確実にクリーンヒットした今の蹴りで、緑茶はうめき声を上げそのまま後方に飛ばされる。

 

「っの! 野郎っ!!」

 

 が、うまく空中で立て直され、キレイに地面に着地された!

 ってしまった!? 飛ばしすぎて、自分から距離作っちゃったじゃん!!

 

「ほらよ、【茂みの棘】ッ!!」

 

 そのかけ声とともに緑茶がやったのは、矢を放つ……のではなく、地面に片手を当てただけ。

 一体何を……っ! 地面から何かくる!?

 

「うわあッ!!?」

 

 足下から間欠泉のように吹き出た毒の籠った魔力衝撃をモロに喰らい、そのまま背中から地面に叩き付けられる!

 幸い毒自体の影響はあまり受けていないけど……っ

 

「ほら、死になッ!!」

 

 そう叫びながら、緑茶は止めの矢を放とうとして……

 

 

「アーチャーッ!!」

「ッ!! チイッ!?」

 

 先ほどと同じようにダンさんの呼びかけで、攻撃を中断してその場から飛び下がる。

 そして直後銃声が何発が聞こえた後、その聞こえた分だけ彼のいた場所に弾丸が走った!

 

「野郎ッ!!」

 

 今度はお返しとばかりに、緑茶はアーチャーのいる建物の屋上に弓を向け、そこから矢を放つ!

 けれど、それを放たれる直前に身を潜めてアーチャーは難なく躱していたのが見えた。

 

 

「くそっ! なかなかにうざいったらありゃしねえ!!」

「落ち着けアーチャー。注意を向けていれば、どうという事は無い」

 

 向こうが苛立ちしているうちに、僕はいそいで立ち上がり体制を立て直す。

 

「う〜……やっぱり、自力じゃこっちが負けてる……」

 

 ここまでの戦闘をして分かった事で、僕は緑茶と対峙するのに少し実力が劣っていると感じていた。

 マトリクスによると、ステータスでは筋力だけは向こうはCで僕はBと唯一勝ってはいた。

 けれど、それもダンさんのサポートのせいで向こうがちょっとだけ上回っている状態になってしまっていた。

 だからライダー戦の時のように腕力勝負の競り合いに持ち込んでも、こっちが勝つ事はもう出来ない。

 

 完全に僕が押されている状態だ。

 今はまだ、上のアーチャーの狙撃のサポートで、なんとかその差を埋めている感じなんだけど……

 

 

「それも、何時まで持つかどうか……」

 

 実を言うと、アーチャーの二丁拳銃による攻撃……“実は当たっても、全く痛く無かったりする”。

 

 そもそも、アーチャーが自分の弓矢を使わずに、ライダーの銃を使っているのには訳がある。

 アーチャーの今使っているクラシック拳銃は、実は弾丸に魔力を使っている。

 つまり魔力がある限り弾切れは起こらず、しかも一発に込める魔力の量を多くすれば、その分一発一発の威力も上がるという性質があった。

 

 で、アーチャーはその性質を利用して…………“極限まで込める魔力の量を減らしている”。

 

 マトリクスがバレていないのをいい事に、相手にとって威力の分からない弾丸を何発も撃てるようにしているんだ。

 そうする事で、さっきみたいに僕が止めを刺されそうな時に、それを未然に防ぐ回数を増やせている。

 アーチャーの弓矢だと、ライダーのと比べて一発一発の魔力の消費量の効率が悪いらしく、撃てる回数がかなり減ってしまうらしいからね。

 

 それに今、さっきのウォールブレイクで殆ど魔力使っちゃってるのと、“別の物の展開”に使ってるせいでアーチャーに魔力を回せていない状態だし。

 それなのになぜアーチャーが銃を使えるのかと言うと、水の入ったペットボトルと三つのコップを想像してほしい。

 水その物を魔力と例えると、僕はペットボトルで、アーチャーたちがコップ。

 魔力供給が、ペットボトルから三つのコップに少しずつ水を移していく行為と例えよう。

 すると、例えペットボトルの水が無くなったとしても、既に移していたコップの水は意図的にこぼしたりしない限り、すぐに無くなったりはしないでしょう?

 

 とまあキャスターから以前教わった事なんだけど、それはともかく、結論を言うとアーチャーの攻撃じゃ絶対にダメージは与えられない。

 せいぜい当たっても、“屋上からビー玉を放り投げた位の衝撃しか出ない”とは本人談だ。

 この事が相手に完全にバレた瞬間、この均衡は崩れさる。

 だからと言って、完全に的外れな所に撃ったとしても怪しまれてしまう。

 

 つまりアーチャーは、“緑茶達を狙って撃たないといけないにも関わらず、絶対に当ててはいけない”という凄く滅茶苦茶な制約があったりする。

 

「こんな状態、いつまでも続かないよね……」

 

 こんな綱渡りな均衡状態、いつ崩れてもおかしく無い。

 ……一応、バレたときの“最後の保険”はアーチャーに渡してあるけど、出来ればソレを使う前に倒し切りたい。

 それすら破られたら、本当に僕達の打てる術は無くなってしまうから。

 

「とにかく、やるしか無い……っ」

 

 恐らく、決着が着く時はそんなに長く無いだろうと感じながら、僕はまた緑茶相手に走って行くーーーーッ!!

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

「くそっ! 攻め切れねえなおいっ!」

 

 真っ正面から突っ込んで来た小僧に矢を連続で何本も放つが、どれもあの双剣に全て切り伏せられる!

 そしてまた接近されて振り下ろされた剣を左にステップを踏んで躱し、右手のダガーを振ってカウンターをするが、もう片方の剣で防がれた!

 

「おらあッ!」

「うわッ!?」

 

 だが、ソレを読んでいた俺は、防がれた瞬間に右足で蹴りを入れる!

 想定外の攻撃を食らった小僧はそのまま後ろに倒れ込んだ!

 それに止めを刺そうと弓を構え……

 

「ッ!! またか……ッ」

 

 攻撃を放つ前に、その場を離脱。

 その後俺のいた場所に、例のごとく紅い野郎からの弾丸の嵐が通り過ぎていく。

 くそ、これが厄介だ! 何回もこっちにチャンスはあったのに、コイツのせいで止めを刺し切れねえ!

 かといって、上の野郎を先に倒そうにも、撃つ時以外殆ど隠れていやがってこっちの攻撃が当たらねえし!

 

「ったく、厄介な策使ってきやがって……ッ」

「しかし、押しているのは確実にこちらだ。じっくりと詰めていけ、アーチャー」

「了解。しっかし、どうしたもんかねえコレ……」

 

 実を言うと、あの紅い野郎の攻撃、実は全部ハッタリなんじゃないかって事は、既に予想はついている。

 エレベーター内で直接見た時、あいつ等から強者特有のオーラって感じの奴が、何も感じなかったからな。

 そもそも千里眼の事だってあっちの自己申告だし、それをすぐに鵜呑みにするつもりも無い。

 ……けど、万が一の事を考えると、わざわざ自分から当たりにいくというのも気が進まねえ。

 何よりこっちがまだ押している状態だし、無理にリスクを取りに行く必要はない……すくなくとも、今はまだ。

 

 

「まあいい、自力じゃこっちが上。このままいっきに押し切れば問題ねえかッ!」

 

 そう結論を出し、坊主とほぼ同じタイミングで俺も前に飛び出した。

 さあ、次はどんな手を使ってくる!?

 もう生半可な攻撃じゃ、こっちに通用はしねえぞッ

 

「ヤアアァァァーーーーーーーーッ!!」

 

 そう雄叫びを上げながら、坊主は両手に持った双剣を大きく振りかぶりーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー“両方、あらぬ方向に投げた”

 

 

 

 

「ーーーーは?」

 

 

 今日何度同じ台詞を吐いただろうか?

 直接俺の方に投げつけてくるならまだしも、完全に俺の横を大きく幅をとった場所を回転しながら通り過ぎていこうとしていく。

 何を考えてるんだ小僧、コイツの狙いが全く読めねえ!!

 いや、さっきの建物を破壊したときもそうだ、きっとこの行為にも意味がーーーー

 

 そう考えているうちに、小僧は無防備の状態のまま一気に距離を詰めてくる!

 くそッ、何が狙いか知らねえが、いくっきゃねえかッ!

 

 

「ほらよッ! 【矢尻の毒】ッ!!」

 

 俺は小僧に弓を向け、今まで撃った矢より数段威力が上の攻撃を放つ!

 さっきの小僧の意向返しだ! 今までのスピードに慣れてちゃ反応し切れねえだろ!

 

「っと!!?」

 

 だが、予想に反し危なげながらも小僧はそれをスライディングして躱しやがった!

 野郎、矢を全部切り落とすといい、動体視力どんだけいいんだよ!?

 そう驚愕しているうちに、小僧はスライディングしたままの状態で、俺の足下近くまで接近して来た!

 そして、こっちを見ながらその右手を後ろに引いていてーーーーッ!?

 

 

「ウォールブレイクッ! アッパーバージョンッ!!」

「こ、のッ!? 食らうか!!」

 

 立ち上がり様に放って来た顎を狙った攻撃を、とっさに後ろに飛びながら大きく状態を仰け反らして躱す!

 危ねえッ!? 建物壊した拳を直接体に叩き込まれてたまるかってーの!!

 だが、今の攻撃で小僧は右拳を完全に真上に上げていて完全に隙だらけ!

 空中に浮かんでいる状態でそのまま矢を放とうとーーーーーーって、右拳?

 

 

 

 ーーーーおい、確か小僧のあのスキルって、何か手が光ってなかったか?

 

 

「……なーんて、嘘」

「アーチャーッ!! 横だッ!!」

 

 小僧のしてやったり、といった顔が目に入り。

 その後に聞こえて来た旦那の声で横を振り返ってみると……

 

 

 

 

 双剣の片割れがヒュンヒュンと音を立てながら接近中。

 

 

 

「うそおおおおおおおッ!!?」

 

 

 反対方向を見てみると、もう片方も飛んで来てやがる!?

 まさかこの双剣、互いを引き寄せる性質か、ブーメラン性能でもあんのか!?

 小僧の本当の狙いはこっちか!? くそ、何処まで俺を驚かせてくれるんだよ!!

 

 俺は必死に躱そうともがくが、とっさに飛んでしまったせいで身動きが殆ど取れない!

 それでも何とか両手のダガーを構え、直撃だけは避けようとする!

 

「つ、うぅッ!!」

 

 だが、それでも完全には防ぎ切れず、胴体にかなりの深い切り傷を食らってしまった!

 そのまま背中から地面に落ちた後、ワンバウンドして何とか体制を立て直して着地する。

 

「ナイスコントロール、アーチャーッ!!」

 

 投げた双剣を回収しようと走ってくる小僧が、そう言ったのが分かった。

 くそ、なるほどな……あの双剣は多分、元々は紅い野郎の持ち物。

 恐らくあの武器に操作系の特殊効果が付与されていて、上から状況を見てちょうど俺に当たるように操作したってとこなんだろう。

 

「アーチャー、大丈夫か!?」

「っああ、まだ行ける!!」

 

 くそ、自力じゃこっちが勝ってる……けど、奇策は向こうが上って所か?

 旦那にそう返事はしたはいいが、実は結構ヤバい。

 致命傷まではいってねえが……もう長時間の戦闘は無理そうだ。

 こりゃあもう、リスク取らないなんて言ってられないか……ッ

 

「旦那ッ!! 一気に攻め切る、サポート頼む!」

「ッ承知した! 【コードキャスト・add_regen(8)】ッ!!」

 

 旦那が俺に掛けてくれたコードキャストは、回復系。

 即効性のある物じゃないが、少しずつ治癒していく効果がある。

 これで多少の無茶なら、何とか貫き通せる!

 

 俺は一か八か、小僧に向かって最後の攻防に向かいに行く!

 双剣を回収中だった小僧は、俺の行動に反応し切れず構えがまだ出来ていない!

 

「っヤバッ!?」

『クッ!!』

 

 上から紅い野郎の舌打ちが聞こえた後、何十発もの弾丸の嵐が降り注ぐ!

 もし当たれば、確実に蜂の巣確定……だが、もう怯まねえ!!

 俺は両腕で頭を庇いながら、そのまま弾丸の嵐の中を駆け抜ける!!

 

「嘘ッ!?」

『チイッ! バレたかッ!?』

 

 やっぱり、ただのハッタリの攻撃だったか!

 何十発と弾丸が体に当たってくるが、殆どダメージは無い!

 策がバレた動揺のせいで、慌てている小僧に全力で両手のダガーで斬りつける!!

 

「っ、ああッ!!」

 

 それでもとっさに双剣で防いだ小僧だったが、腕力強化の掛けられた俺の攻撃に耐え切れず、そのまま後ろに吹っ飛んでいった!

 もう紅い野郎の狙撃は怖くねえ、このまま止めを刺す!

 俺は弓を構え、今度こそ……

 

 

「っはああぁぁーーーーーーーーッ!!!」

 

 

 っと、こっちが止めの矢を放つ前に、小僧は雄叫びを上げて、倒れた状態のまま右手を構える。

 今度は嘘なんかじゃない、魔力が籠って光っている右拳を上から振りかぶり……

 

 

「ウォールブレイクッ! スモールバージョンッ!!」

 

 

 そのまま地面をズドォーンッと殴った!!

 威力はは建物を壊した時より小さめ……けど、その衝撃で周りに砂埃が舞い上がる!!

 

「ッ! 目くらましか……ッ」

 

 威力が小さいと言っても結構な衝撃で、俺の周りまで砂埃が漂い視界が完全に塞がれる!!

 くそ、最後の悪あがきだろうが、コレじゃあ小僧の居場所が分からねえ。

 おそらくこの砂埃にまぎれて、逆にこっちに止めを刺そうとしてくる筈……

 

「(何処だ、何処から仕掛けてくる……)」

 

 俺は微かな音も聞き逃さないように、聴覚だけに集中する……ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッゲホッ!! ゴホォッ!!? また喉が痛くなッ」

 

 

 

 

「はいソコォッ!!!??」

 

 

「ゲバァッ!!?」

 

 

 もの凄ーくハッキリと聞こえてきた間抜け声の方向に矢を放つ。

 確かな手応えの後、悲鳴とドサリと倒れる音がした。

 

 

「オタク本当になんなの!? 最後の最後に何やらかしちゃってんのォッ!!?」

 

 

 俺はそこにいるであろう小僧に盛大に突っ込む!

 いやホントに何やってんの!?

 最初の時もそうだったけどさあ、さすがに二度目はねえよ二度目はッ!?

 

「あー……なんか、すげえやるせねえ〜……」

 

 始まりがあれだけの心の震えを感じてくれるものだったせいか、この決着の仕方に凄く微妙な感じになっていく……

 あー、くそ。結局小僧は底なしの馬鹿だったって事かー、もう。

 俺はいまいちな心境になりながらも決着がついたと思い、旦那の方に向かって踵を返しーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー上だアーチャーッ!!」

 

 

「へっ?」

 

 

 旦那のその叫び声に間抜けた返事をしながらも、上の方を見てみると……

 

 

 

「……なッ!!?」

『チッ!!』

 

 

 俺達の近くにあった建物。

 その屋上から、何かが“二つ”降って来ていた。

 

 片方は、例の紅い野郎。

 実力を隠していたのかと思いきや、それも全てハッタリだと分かり、最早何の脅威も無い存在の筈だった。

 

 けど、問題はもう片方。

 そっちはーーーー

 

 

 

 

 

「“小僧”ーーーーーーッ!!?」

 

『………………っ』

 

 

 

 

 今倒した筈の小僧が、奴と一緒に落ちて来ていた!?

 そんな、確かに今倒した筈……野郎、まさかコレもスキルの一種か!?

 もしかして、さっき装備していた腕輪の力か!?

 今倒したのが偽物で、さっきの砂煙中に何かをやって上に移動して、油断し切った俺を倒そうとーーーー

 

「くそッ!! まんまと嵌る所だったぜ……ッ」

 

 まさか、最初の砂煙のときはこの為の仕込みか!?

 折角目くらましをしたのに、咳き込んで自分の居場所を相手にバラすような馬鹿だと印象づかせる為に!!

 だとしたらあの小僧! あいつ馬鹿じゃなくて、とんだ“狸”野郎じゃねえか!!

 ホント、何処まで俺達を驚かせてくれんだ!?

 

「けど、サンキュー旦那ぁッ!!」

 

 けれど、それも最後まで油断してなかった旦那のおかげで失敗だ!

 紅い野郎は完全に戦闘力が無い事が分かったから、無視しても構わねえ!

 俺は弓を小僧に向け、ありったけの矢を奴に放つ!!

 例え、その手に持った木刀でも絶対に捌き蹴れない程の量が小僧に向かっていく!

 

 

「今度こそ、俺達の勝ちだぁーーーー!!」

 

 

 

 俺はそう、勝利の歓喜を上げーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーちょっと待て。確か小僧、“木刀”は落として持ってなかった筈じゃ……

 

 

 

 

 

 

『掛かったあッ!! マスターッ!!』

 

 

 そう紅い野郎が声を上げると同時に。

 

 一緒に落ちていた筈の小僧はーーーーーーーー“消えた”

 

 

「「なぁッ!!?」」

 

 まるで幽霊のように、その場から小僧はフッと消え、俺の射った矢は空しく何も無い空間を通り過ぎていくだけだった。

 紅い野郎はそれを見届けた後、落下の途中で建物の窓の縁に手を伸ばし掴もうとしているのが見えた。

 そんな、なら本物の小僧は何処に……ッ

 

 

 そう思っていた時、上を向いていた俺の横に、砂埃の中から何かが出て来た。

 

 それは、矢が右腕に刺さり、無事な左腕で剣を振り抜こうとしているーーーー

 

 

「まさか、“自分すら”囮に使った、二重フェイクーーーーッ!!?」

 

「っああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

 

 雄叫びを上げた小僧に対し、完全に遅れた俺にはなす術も無く……

 

 

 

 

 俺はそのまま小僧にーーーーーーーー“斬られた”

 

 

 

「(……あ、こりゃあもう駄目だわ。完全にやられた)」

 

 

 今度は完全に致命傷で、自分が負けた事を理解する。

 ああ、畜生……やっぱ、あの紅い野郎を舐めてたのが不味かったか……

 遅れてやってくる切り傷からの熱を感じながら、そのまま背中から倒れていき、自然と視界は上に向いて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああッッッ!!!??」

 

 

 

 

 “何か紅い野郎が自由落下”して来てたぁーーーーーーーー

 

 

 

「ってアーチャーああああああああああああああああああああッ!!?」

 

 

 それに気づいた小僧は両手の双剣を投げ捨てて、野郎の落下予定地点にダッシュする。

 そして紅い野郎が完全に落ちた瞬間、ズドォーンッと辺りにかなりの衝撃が鳴り響いた。

 

 

「っつう〜……マスター、ナイスキャッチ……」

「って、ナイスキャッチじゃないよ!? 何で落ちて来てんのさアーチャー!? 予定じゃ途中で建物の窓の縁を掴んで避難するんじゃなかったの!?」

 

 ああ、そういえば俺も見たな。紅い野郎が掴もうとしていたのは。

 

「フッ……愚問だなマスター、言っただろう? 俺は今“一般男性並みの筋力しか残ってない”、と……

 

 

 

 

 

 

 君は一般男性がしばらく落下してる最中に何かを掴んでぶら下がれると思っているのか!? “そのまま肩が外れて落ちて来たわ”!!」

 

 

 

 あ、コイツ馬鹿だ。

 

 

 

「じゃあ何故一緒に落ちてきたし!?」

 

「あのまま君のコピー体放り投げても空中で変に錐揉み回転してすぐバレるだろうが!! ギリギリまで体制を整える為に近くにいる必要があったんだよ!!」

 

 

 

 ギャーギャーと落下地点で騒ぐ主従。

 それを倒れながら横目で見ている俺は、ただ一言。

 

 

 

「あいつ等、バカだ…………」

 

 

 ため息とともに出たその言葉は、この憎たらしい程清々しい作られた青い空に吸い込まれていった……

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 

【ステータスが更新されました】

 

 

 

 ■マスター:吉井明久

 

 

<礼装>

 

 ・白金の腕輪(ダブル):C

 

 かつて文月学園の学園祭の時、雄二と一緒にトーナメントに勝ち抜き手に入れたもの。

 本来の効果は、召還獣の複製を出し、二体同時使役を可能とする礼装。

 だが、現在の明久は召還獣と融合しているせいか、召還時の吉井明久と“同じ性能と格好”をしたものが現れる。

 このコピーは通常の召還獣と動揺の操作方法で動かす事が可能。

 

 ただし明久が使った場合、観察処分者の召還獣を使っている時動揺、30%のフィードバックが受けるので注意。

 

 なお、試しにアーチャーが発動した場合、アーチャーそっくりのコピーが現れたため、サーヴァントも召還獣と誤認識するようである。

 


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