Fate/Extra Summon   作:新月

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今更だけど、祝Fate/extra ccc発売!
すっごく面白かったです! 今ちょうどセイバールートをクリアしました!
二週目に入る所ですが、まだ見ていない部分もあるんで、極力ネタバレは無しで。
ちょうど引っ越しの時期と重なってしまい、こちらも更新遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
それでは、続きをどうぞ!


占星術

「うあ〜……もう日が沈みかけてるよ……」

 

 保健室の修理からやっとの事で解放された時には、もうかなり遅い時間になっていた。

 とりあえず情報収集に行こうかと思ったけど……もうかなり働いた後だったので、既に全員精神的にヘロヘロ状態で、碌に動ける筈もなく……

 そんな訳で、とりあえずアリーナに行って一つ目のトリガーだけは回収はしてくる事にして、今はそれを終え、ちょうど校舎に戻って来た所だったのだったー……

 うん、なんで説明口調なのかも分かんないや。

 

「ホントですね〜……そっちの苦痛の事なんていっさい知らねーぜ! はっはー、ざまーねーなっ!! とか全力で強調してくるみたいにキレイな夕日で凄くムカついてきますね〜。こらー、やんのかてめー」

「落ち着けキャスター、夕日に喧嘩売ってどうする。最早何言ってるのか分からんぞ……」

「うー……早く帰って湯浴みがしたい〜……」

 

 他の三人も完全に疲れているらしく、特に普段から体力ないんですー、といってるキャスターに至っては、もう意味不明な行動までし始めてるし……

 これ本格的にヤバいかも……さっさとマイルームに戻った方が良さそうだね……

 

「しかし、今回は本当に不味いな……まるでマトリクスが埋まらんぞ」

「そうだね……あと残り時間たった二日間なのに、まだ一つしか埋まってないよ」

 

 しかもその一つだって、ダンさん達の不仲から出て来た偶然の情報だし。

 確か、祈りの弓、だっけ?

 何もないよりはマシだけど……これだけじゃ、全然有利になんか立てない。

 とりあえず、今日はさっさと休憩して、明日アリーナに行って手がかりを探してこようか……

 

「っと……? そういえば、こっちって教会だよね……」

 

 階段を上がろうとした時、ふと廊下の奥の方の扉が目に入って来た。

 確かその扉を抜けた所が、教会の前の中庭に出る筈だったよね……

 

「……ちょっと、教会の方によっていかない?」

 

『なっ!?』

 

 何気なく思った事を、そのまま口に出してみたら、予想通り全員に驚かれた。

 うんまあ、そうだよね。

 

「本気か奏者!? つい一昨日あんな事が起こったばかりだぞ!!」

「そうです! この茶坊主の乙女の敵のせいで、私たち全員オーバーキル対象にされてる真っ最中ですよ!?」

「君は死ぬ気か!? それは自殺行為もいいとこだぞ!?」

「「元凶は黙ってろ!!」」

 

 まあ、確かにセイバー達の言っている事は最もだよね……正直、僕も今は近寄りたくないし。

 けどさあ……

 

 

「……もしかしたら、“もう既に倒壊しちゃってるかもしれないし”……」

 

『……ああ……』

 

 最後に見た時、あの姉妹本気で互いを殺す気で喧嘩してたし。

 なんかもう、あの中だけ世紀末予言がまさに的中な状態だったし。

 コードキャストで外見誤摩化してるらしいけど、実はもう完全に更地になっていたりとか……

 

「まあ、元はと言えば僕達のせいな訳でしょ? 流石にガレキの山になっていたりなんかしたら、凄く申し訳ないっていうか……だから、一応形は保っているかどうか確かめときたいかなって思って……」

「そうですねー……確かにまあ、外から眺めるだけならいいかもしれませんね。気は進みませんけど」

 

 渋々、と言った感じだけど、納得はしてもらえたみたいだ。

 

「そうだな。なら、手早く確認しに」

「む? ちょっと待て。この紅茶は置いてった方がいいのではないか? 流石に二度目は、校舎ごと我らを焼き尽くしそうな気が」

「二度目って何だ!? 絶対無いからな!? 今度は室内にすら入らないから起こらないし、起こらせないからな!! 俺に悪気は無いし!」

「どーだか。“うむ崩れてはいないな、とか言って何気なく教会の外壁に触れた瞬間に崩壊して、中で着替え中だった姉妹と遭遇しちゃったぜ!” なーんて事も、このラッキースケベダメ男ならありえそうですしねー」

「想像力豊かすぎじゃないか!?」

「はいはい。さっさといくよー」

「マスターッ!? 最近なんか冷たくないか!?」

 

 うん。もう慣れちゃったから、この状況。

 最近一々突っ込むのが面倒になって来てたし、今はさらに疲れてるし。

 こういう事はスルーするのがいいって気づいたんだよ、うん。

 

 そんなこんなで、僕達は一階の廊下の扉を開いて外に出て行った。

 

 

 ★☆★

 

 

 教会前到着。

 

 

「ーーーーうん。一応、まだ残ってはいたね………………“まだ”、ね」

「念を押すように二回言うのは止めないか? だがまあ、“まだ”建ってはいるな…………まだ、な」

「お主も言ってるではないか。しかし、まだ残ってはおるな…………“まだ”、だが」

「貴方もですよセイバー。でも、まだ残っていましたね…………“まだ”、ですけど」

 

 全員が“まだ”を強調して、教会を見た後、同じ感想を言った。

 確かに建ってる。建ってはいる。存在はしている。

 一昨日最初に見た時と、全く変わらない様子で建っている。

 が、それが逆に不自然すぎて怖く感じてくる。

 

「紅茶、絶対触るな……絶対触ってはならんぞ! 絶対だからな!」

「セイバー、それじゃ前フリになる。逆に触っちゃうから。けど、ほんとに不気味だよね……いろんな意味で」

 

 仮に今ここでさっきキャスターが言ったたとえ話を実践してみたら、冗談抜きでマジで起こってしまうかもという、よくわからないオーラが漂っている感じさえする。

 とりあえず、絶対アーチャーだけは教会に触れさせないようにしないとと誓った。絶対に。

 

 

「ーーーーふむ。仲がいいのだな、君達は」

「え?」

 

 ぼんやりと教会を眺めながらそんな事を考えていたら、横からそんな声が聞こえて来た。

 この聞き覚えのある、というか、ついさっき聞いたばかりのこの声は……

 

 

 

「ーーーー校長先生!」

 

 

「いや、断じて違うが?」

 

 

 あ、やっば。また間違えた。

 

 

「あ、ゴメン、ごめんなさい。ちょっと待って下さい。もっかい」

「やめろマスター。流石に同じネタ二回は飽きる」

 

 せっかく言おうとした言葉を、アーチャーに咎められてしまって言えなかった。

 むう、いいじゃないか、地味に気に入ってるんだよ校長先生。

 ババア長より何倍もいい人そうだし。

 

 

「ははは。確かにこの身は老体だが、校長などという仕事を実際にやった事はないな。“生徒ならつい最近やったが”」

 

「あはは、そうでーーーー? 今、なんて……?」

 

 何か、凄くおかしな言葉を聞いた気がする……あれ、気のせいだったかなー……

 

「うむ、君も経験しただろう? 予選の時に、記憶を失って生徒役のロールをさせられていたではないか。もっとも、君とはクラスが違ったらしいがな」

 

 ……生徒?

 生徒といいましたか、この白ひげもじゃの人は?

 

 つまり、あれ?

 教室で、十代後半の人達がたくさん座っている中、おとなりさんに白髭もじゃの学友が、シャーペンもって必死にノートを書き写し、昼休みに悪友とバカな事で笑い合ったり関節技掛けられたり化学薬品入りの弁当食べたり三途の川を渡りかけたりーーーーっ!!?

 

「いや、後半のそれは一般的な学生生活ではないのではないか?」

「え? 僕の学生生活、基本これなんだけど」

「なあマスター。真面目に今度君の過去を教えてもらえないか。というか、話せ」

 

 そう言ったアーチャーの顔は、何故かもの凄く深刻そうだった。

 この微妙になった空気を崩す為に、キャスターが話を切り替えようとしていた。

 

「と、ところで。あなたの相方の緑は一緒じゃないんですか? 保健室の時は一緒にいましたけど」

「ああ。彼には今マイルームで待機させておる。先ほどもいったが、君達とは決戦場で正面から戦うつもりだ」

 

 

 そう言ったダンさんの、その佇まいは相変わらず流石と思える程だった。

 微塵も衰えが感じられない、威厳に満ちた状態でその場に立っていた。

 

 

「しかし……校長、か…………また随分と懐かしい」

 

 けれどしばらくすると、そう呟いてどこか遠い目をし始める。

 この一瞬だけ、彼の威厳は薄れ、過去の思い出を振り返る普通の老人のように見えた。

 

「あれ、懐かしいって……? たった今、校長はやった事は無いって言いましたよね?」

「いや、な。確かに実際にはやった事は無かった。だが、“君と同じような事を言って来た男がいたのだ”」

 

 僕と……同じ?

 

「む? 同じとは、お主の事を校長と呼ぶ事をか?」

「ああ。しかも、戦場で、だ」

「戦いのさなかで、ご主人様と似たような事をおっしゃる人がいたんですか? 随分と能天気な方がいたもんですね〜」

「キャスター……それって、遠回しに僕の事も馬鹿にしてる?」

「あ!? いや、違いますよ!? ただそんな発想が極限状態の最中で言えるなんて、かなりのバカっぽさ……いや、図太い神経だな〜って!」

「キャスター。あまりフォローになってないぞ」

 

 はははー……いいさ、もう。

 薄々分かってたし、キャスター達が僕の事そう思ってるって事は自覚してたし、この短期間で。

 

「ふ……やはり君達は仲がいいな。ああ、彼もそうだった。彼も君と同じように、いつも誰かの中心になって、一緒に笑い合っていた」

「そうなんだ……ていうか、そこまで僕に似てたんですか?」

「うむ。君と初めてあった時、まるで彼の生き写しだと思った程だ。年齢は彼の方が上だったが、もし彼の若い頃の姿が見れたなら、ちょうど君のような姿だったろうと思える位に」

 

 そこまで言わせる程、僕に似てる……

 一体、どんな人だったんだろう?

 

「ふむ……しかし、改めてこうして君の目を見てみると、なるほどやはり彼に似ている。いつかの出会った時とは違い、はっきりと強い意思の感じる目だ」

「え。えっと、その、あの……ありがとう、ございます?」

 

 ダンさんのその言葉に、どう返していいのか分からなくてしどろもどろな返事になってしまった。

 いや、まあその彼って言うのが、まだどういう人か知らないし。

 だいたい、いつかの出会った時って……僕が完全に睡眠不足だった時の話だし。

 あんまり褒められるような事じゃ無いっていうか……

 

 

「だが……」

 

 そう言って、ダンさんは言葉を続ける。

 

「……同時に、“矛盾を抱えている目”でもある」

 

「え?」

 

 矛盾……?

 

「そうだな、謂わば……“迷い”と“覚悟”。相反するその二つの意思が、同時に存在している状態に見える。恐怖を感じながらも、勇敢にそれに立ち向かう勇気……とは、違う。完全に、その二つがそれぞれ独立した感情として確立しているようだ。例えるなら、まるで心が二つあるように」

 

 ……凄い。

 完全に見抜かれていた。

 僕が以前感じた矛盾した感情……それを、この人は当ててみせた。

 これが、経験の違い……僕より長く人生を、そして戦いをしってる人の実力なんだと、改めて思い知らされる。

 

「そこだけが、彼との大きな違いだ。彼は君のように明るく振る舞いながら、なおかつ心から自信をもって前を見て生きていた」

「そんなに、凄い人なんですか?」

「凄い、というより、不思議な男だった……およそ、戦場には似つかわしくない程のおかしな人物でもあってな」

「ふむ、そこまで奏者に似て不思議な男か……少し、興味深くなってきたな」

「ああ、私もだ。出来れば、その男の事を教えて欲しいものだな」

 

 ダンさんのその言葉に、セイバーとアーチャーが食いついた。

 あれ、セイバーはともかく、アーチャーも結構興味を持ってる感じ?

 なんか珍しいな、アーチャーがこんな反応するのも。

 

「……戦場に似つかわしくない、ですか……」

「……? キャスター?」

「あ、いえ、何でもありません。ただちょっと、私も昔を思い出してしまって……」

 

 逆に、アーチャーより食いつきそうなキャスターが、そう言って何か難しい顔をして呟いていた。

 本当に珍しい事ばかりだ。

 

「そうだな。彼とは昔、とある戦場で知り合ったーーーーーーーー」

 

 

 

 ★☆★

 

 

 私は戦場での任務を終え、一息を付いていた時だった。

 

 戦場の避難地。 

 戦えない女性や子供、老人がたくさんいる中に、彼はいた。

 その風貌はとてもその国の人物の衣装ではなく、ましてや戦いに来ている兵士という訳でもなかった。

 まるで平和な国で、ごく一般的な普通の生活を送っているただの青年にすら思えた。

 

 彼は自分の事を“先生”と名乗っていた

 

 彼は、避難して来た人達……とりわけ、特に子供に懐かれていていた。

 その子供達や、他の大人達に、様々な話を聞かせて……そしてそれを、全員が真剣に、そして楽しく聞いていた。

 まるで、本当にどこかの学級風景を再現しているかのように、その話は続いていた。

 

 暫くして、私の存在に気づいた彼は、わしの方を指をさして、こう言って来た。

 

 

 

 

「みんなー。“あそこにいる校長先生にちゃんと挨拶するんだよーっ”」

 

 

 

 

『え? ちょっと待って下さい。その人と初めて出会った話ですよね?』

『ああ。その時彼とは初対面で、第一声があの言葉だった』

『知り合いでもない相手にそんな事言ったのか、その男は』

『むう、なかなか変わった男よな』

 

 

 うむ、話を戻そう。

 

 その後、校長として急にみなの前に立たされたわしは、彼にバトンを渡され、同じように話をするハメになってしまっていた

 わしが兵士としていくつかの世界に行った時に、そのとき見た風景や感じた事などを喋る事になったな。

 

『ちょっとした羞恥プレイですよね。ていうか初対面相手に無茶ぶり過ぎ』

 

 ああ。同士相手ならともかく、流石に一般人が大勢いた中で話すなど、あんな経験は初めてだった。

 一段落付いた後、わしは彼に何故こんな事をしたのか聞いてみた。

 

 

 

「ああ。あの時学校の事を話していた所だったから、校長の役にピッタリの人を見かけてつい」

 

 

『単純すぎる!?』

 

 うむ、もの凄く浅い理由だった。

 彼は初対面の相手に、ただその方が面白そうだからという理由で話に巻き込んで来たのだ。

 仮にも教師がそんなのでいいのかと、続けて問いてみた。

 

 

 

 

 

 

「あ。別に教師の仕事やった事無いし」

 

 

 

『とんでもないカミングアウトしおった!?』

 

 ああ。いろいろ本当に衝撃的だった。

 さっきの先生と名乗ったのはと聞くと、あれ嘘、とさらりと言ってきおったのだ。

 あろう事か、彼はただその場のノリで言っただけだったと言う。

 

 流石にその言葉に何も言えなくなってしまったよ。

 彼のその垢抜けとした態度に、どう返したらいいか分からなくなってしまったからな。

 

 ……だが、不思議と彼に対して嫌な感情は抱かなかった。

 後で全員にそれを知られたが、それでもその事で彼に対して文句を言う者はいなければ、むしろ楽しかったと賞賛するものまでいた。

 正直言うと、私も校長として話をした時、すこしだけその状況を楽しく思ってしまっていたのだ。

 

 それこそが、彼の狙いだった。

 元々戦争で笑顔が失われていた人達を、彼は簡単に楽しませ、笑顔にさせたのだ。

 あの時、あの一瞬だけは……本当に、彼らは心の底から幸福感を味わっていた。

 

 わしは分かれる直前に、最後に気になった事を聞いた。

 

「なぜ、君のような人間が戦場であんな事を?」

 

 彼はその質問に、変わらない態度で答えた。

 

「深い理由なんて無いよ。ただフラリとしていたら、たまたまあんな悲しんでる人達を見かけたから、何となく笑わせようとして。一つの集団を何とかしたら、また別の集団を見つけて。今までずっとその繰り返しで、いつの間にかこんな場所にまで来ちゃっただけ」

 

 彼は至って軽く、当たり前のような事を言うような感じでさらっとそう言ったのだ。

 彼はただ、日課の散歩に出かけるような単純な理由で動いていただけだったのだ。

 

 ただ……その時答えた彼の目は、とても真っすぐで、小さく固い意志が感じられた。

 深くはない理由だが、だからこそ、それをこれからも続けていくだろうという意思が。

 

 

 ★☆★

 

 

「ーーーー彼とであったのはそれきりなのだが、その時わしは信念について考えさせられたよ。わしはただ今まで祖国の為と思って戦って来た。それがわしにとっての信念で、強さだったから。だが、彼はそんな大層な理由でないにしろ、それは小さな強い信念となっていた。それだけで、人は強く、真っ直ぐになれるのだと……思い知らされた」

 

 少年、と彼は僕を呼びかける。

 

「君が何に迷っているのかは、わしにはわからん。だが、迷うのなら、何か一つ。君に取って、絶対譲れない物を見つけるといい。大した事でなくていい。ただ、小さな事だけでいい。それだけで、迷いは薄れ、前に向ける」

「譲れない、物……」

「……つまらない話に付き合わせたな。老人の独り言だと思ってくれ」

 

 でわな、といって彼は去っていく。

 後に残されたのは、彼の言った言葉が、頭に何度も響く僕達だった。

 

 

 こうして、四日目が終わったーーーー。

 

 

 

 ★☆★

 

 

 ーーーー五日目。

 

「ーーーーふむ、そろそろですね」

 

 校舎三階の廊下の奥、ここが彼との待ち合わせの場所。

 既に窓の外は暗く、星空がよく見え、校舎内には人の気配が殆ど感じられない時間帯でした。

 先ほど、校内清掃の為に箒で廊下を掃いたり、窓の戸締まりを確認していたNPC達がいましたが、彼らももうどこかに行ってしまいました。

 恐らく、今外に出ているのは私を含め数名の参加者くらいでしょう。

 

 かくいう私も、バーサーカーはマイルームで待機させています。

 今回の探索時に、対戦相手からの襲撃があり、その疲れもあったので休ませる事にしたのです。

 他のマスターと対面するというのに、不用心だとは自分でも思いますが……相手が吉井さんだと思うと、まるで警戒する気が起きず、まあ問題は無いでしょうと思ってしまいました。

 これが彼の作戦だとしたら、成る程かなりの実力者だと思えますが……まああののほほんとした顔でそれは無いだろうと判断します。

 

 それにしても……少し、遅いですね。

 もう約束の時間からは、二十分十五秒過ぎていました。

 ダン・ブラックモア卿の情報を得るのは、彼にとっても重要な事ですし、ほぼ確実に来るだろうとは思っていたのですが……

 やはり、彼に直接言わず、彼のサーヴァントに伝言を頼んだのが不味かったでしょうか……

 彼自身は能天気でしたが、サーヴァントの方がこちらを敵視して、あえて彼に情報を伝えなかった可能性があります。

 

 まさか、伝え忘れていた、何て愚を犯すなどあり得ませんし。

 

 聖杯戦争である以上、こちらを警戒するのは当然だとは思いますが……

 

 

「あ! おーい、ラニ!」

 

 っと、そんな事を思っていたら、やっと来たようです。

 息を切らせながらこちらに走って来て、私の前まで来るとフーっと息をつきました。

 

「ごきげんよう。遅かったですね、二十分四十七秒の遅刻です」

「細かっ!? いや、ほんとゴメン! その話があったの、キャスターが忘れててついさっき知ってさー」

「……マスターがマスターなら、サーヴァントもサーヴァントなんですね」

「え? 何か言った?」

「いえ。何も」

 

 まさか、先ほどあり得ないと思っていた矢先に起こるとは思いませんでした……

 類は友を呼ぶ、と言いますが……この場合、セラフによるサーヴァントの選別は的確だと思えばいいのでしょうか?

 

「とにかく、約束ではブラックモア卿のサーヴァントに縁のある品を持ってくるように言いましたが、その様子だともしかしてまだ探していなかったのですか? 今日が一番星が満ちる日。ここを逃すと、私の占星術は発揮出来ません」

「ああ、それなら大丈夫だよ。たった今アリーナからそれを探して持って来た所だから。」

 

 成る程、話を聞いてからすぐ探しに行ってたから、遅刻したという訳ですね。

 本来なら注意する所ですが……まあ、彼ですし、今回は多めに見ましょう。

 

「結構慌ててたらしくって、思った以上に落とし物が見つかったんだよ。確か縁の品が多ければ多い程いいんだっけ?」

「はい。そうすれば、より細かく星を読む事が出来ますから」

「分かった。じゃあお願いするね。それじゃあ、まず一つ目……」

 

 そう言って、彼は端末をカチカチと操作して、何か大きな緑色の物体を取り出してきました。

 

「はい、これ! 【緑のマント】! 結構大きめの品だけど、どう?」

「成る程。これだけでもかなりいけそうですね。普段から身に付けている物なら、より効果が……?」

 

 ……あれ? ちょっと待って下さい。

 

 このマント……“ビニール製”?

 

 布製じゃなく、表面も何か加工されてますし……むしろこれ、マントというより、ピクニックとかいう奴で使うビニールシー……

 

「でー、二つ目が……」

 

 と、私が考えているうちに、彼は続けて端末を操作します。

 ま、まあ、一つ目ですし。他にも何かより重要そうな品が……

 

 

「はい! 【湯呑み】!」

 

 二品目に出されたのは、緑色の渋い湯飲み茶碗でした。

 側面には、惚れ惚れするような達筆で、緑茶、と書かれています。

 ふむ、今度は食器類ですか。

 確か極東の島国では、この珍しい形をした食器を使っていたと聞きましたし、その辺りの英霊なら、十分縁の品と言え……

 

 って、裏の底の方に何か貼って……?

 

 

『湯飲み茶碗 1260PPT』

 

 

「…………………………………………」

「あと、三つ目がー……」

 

 私の固まった様子など、全く気づく事なく次の品を出そうとする彼。

 

「これこれ! 【無銘作・剣まんじゅう・期間限定版】!」

 

 今度は、やや大きめの箱を出してきました。

 中を見てみると、様々な剣をモチーフにした饅頭が入ってました。

 それぞれの饅頭の入っている場所に、エクスカリバーや、カラドボルグなど、有名な剣の名称が書かれています。

 

 ちなみに値段は2000PPTと箱に書かれていました。

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………」

「それで、四つ目がー……」

 

 完全に無言になり、今までの品を腕に抱え始めた私に、やはり気づく事無く四つ目の品を出そうとする彼。

 

 

「はい! 【ケルトの英雄必見! セラフ監修・お茶会に会うお菓子ランキング・ベストテ」

 

 

 

 ガラガラッ←(窓を開ける音)

 

 

 ポイッ

 

 

「捨てたアアアアアアアァァッァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!??」

 

 

 私は抱えていた品と、彼の出したカタログ本を奪い取って窓から放り投げました。

 

 

「もっとちゃんとした品はないのですか……っ」

「あれ!? 怒ってる!? 無表情でよく分からないけど、何か怒ってる!?」

「怒ってません。ええ、私が怒るなどあり得ません。師によって生み出された、アトラスの錬金術師である私が怒りなどする筈がありませんとも、ええ絶対」

「いやそれもう完全に怒ってるよね!? もう誰が見ても完全に怒ってるよね!? もう怒りマークも見えてるし!!」

 

 ふふふ、先ほどから何を言っているのでしょう吉井さんは。

 私はホムンクルスですよ、人形ですよ。そんな私が怒り何ていう曖昧な表現を出す筈がありませんとも、ええ。

 

「っといってもなあ……他の品と言ってももう、この狙撃されたときの【イチイの毒矢】位しか」

「何故それを一番始めに出さなかったのですか……っっっ!!!」

「もうラニそれ絶対怒ってるよ!? もう無表情ですら無くなってるし!?」

 

 ええ、そうですか。いいでしょう、認めましょう。

 私のこの感情が、怒りという心から生まれるものである事を。

 ふふふ……師から私に心を与える物を探せと言われていましたが、やはり彼がそうなのですね。

 かなり、いや、もの凄ーく不本意な形での発見となりましたが。

 エジプトの砂漠でオアシスを見つけたと思ったら、ただの蜃気楼だったと気づいた位の。

 

「まあいいでしょう。とにかく、これほどの縁の品なら、これだけでもう十分です。もう他の品など一切いらずに星が詠めますから。ていうか、もう他の品を出さないで下さい、絶対」

「ラニ。実は君、結構過去の事引きずるタイプでしょ?」

「黙って下さい。気が散ります」

「すいません」

 

 とにかく、私は彼から件のイチイの矢を受け取り……決して値札が付いていないか確認して……それから、改めて開けた窓から夜の星空を見渡しました。

 

 これはーーーーそう、深く、暗い森ーーーーそして、これは……

 

 

「……ところで、気になったんだけどさ」

「何ですか、さっき言ったように気が散り」

 

 

 

 

 

 

「占星術って言ってたけど、この空ってセラフに作られた人工物なのに効果あるの?」

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

「…………ラニ?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふう」

 

 私はそう、ため息を付いて一言。

 

 

「結果がでました」

 

「あれ!? さっきの質問ガン無視!?」

 

 何を言ってるのでしょうか吉井さんは。

 先ほどまで貴方は静かに黙ったではありませんか、ええこれは決定事項です誰にも変えられない永久不変完全無欠無敵城塞の真実ですともええ。

 

「え、けど、さっき、ええー……」

 

 何、故、か、吉井さんはしどろもどろになっていますが、まあ普段からそんな感じだったと思いますし、どうでもいいことでしょう。

 

「とにかく、さっきの結果ですがーーーー」

 

 私がそう、話を続けながら窓を閉めようとすると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーえ?」

 

 

 

 

 

 突如、暗闇に放り出され

 

 

 くろいなにかがはいってきた

 

 

 

 

 ★☆★

 

 

 ーーーーその頃、明久のマイルーム

 

 

「……と、言う訳で。余は母上の毒のせいで、ずっと頭痛に苦しんでおった訳で、そのおかげでせっかくの余の芸術の才能が今まで発揮されなかったのだ」

「へー……」

「ふむ……」

 

 ご主人様があの破廉恥女の所に向かって数十分。

 私たちはマイルームでダラダラと過ごしていた。

 本当は一緒に付いて行こうと思ったんですけど……あの緑茶の縁の品を探して、既にかなりの疲労感が出ていました。

 正直、帰ってから部屋の電気すらつける気力が無いくらいに。

 いくら体力に自信が無いからと言っても、ただの探索程度でここまで疲れが出てくるなんて……やはりステータスダウンの影響はかなり深刻みたいです。

 恐らく今の私達の運動能力は、魔術師でない一般成人のそれよりギリ高いか位、と言った所でしょうか。

 

 だから結局、私たちはマイルームで待機という事になりました。

 なった、のはいいんですけど……いきなりセイバーの芸術話を聞かされるハメになり、やっぱりご主人様について行った方が良かったかなーっと絶賛後悔中です。

 

「しかしっ!! 理由は分からぬが、今の余は頭痛持ちのスキルから解放された!! つまり、余の芸術的才能を妨げる要因は、何一つ存在しなくなった訳だ!!」

「そうですねー」

「よかったなー」

 

 かれこれマイルームに戻ってから、ずっとこのテンションで話し続けています。

 正直、もうダルイ。ダル過ぎです。

 アーチャーの方を見てみると、彼も私と同じような気持ちらしく、かなり疲れた様子を見せていました。

 

「そしてこれがっ!! 真の余の芸術を発揮させた第一作目だっ!!」

 

 そう言って、ずっとセイバーの後ろにあった赤い布を掛けた何かをこちらに見せるようにし、それから布をバッと勢いよく取って……

 

 

 中から、何かよく分からない人型? っぽい何かが出て来た。

 

 

「……えーっと、一応聞きますけど……これ、何ですか?」

 

 いつものように、大理石を削って作った彫像と言うのは分かりますが、逆に言えば、それだけしか分からない何かだった。

 多分、手? あたりの部分が、何故か指が四本と七本ずつになってたり、足? が右足と左足で明らかに長さが違ってたり。

 顔のパーツが何故か唇……かな? が額だったり、目が下だったり上にあったりなど、もう滅茶苦茶な彫像だった。

 

 何て言うか、たしかピカソ、でしたっけ? 

 その人の描いた絵に似た感じをしてると言えば、そう見え無くもないかもしれなくもないですが……

 

「むう。分からぬのか? お主等なら絶対分かると思ったのだがな……」

「悪いが、全く検討が付かないな。で、結局これは何を表したんだ?」

「ふふん。聞いて驚け〜……」

 

 そう前置きをいってから、セイバーは勿体ぶったようにためにため……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏者だっ!!」

 

 

「謝れ、ご主人様に」

 

 

 とんでもない馬鹿げた発言に、思わず冷たくそう言ってしまいました。

 

「な、何故だ!? すっごく似ておろう!?」

「何処がだ。もはや原型を止めていないだろう、それ」

「ていうか、もう化け物ですよ。モンスターです。子供が見たらトラウマもののそれです」

 

 いや、もう酷過ぎます。この一言に付きます。

 もう人としての最低限の形すら保ってないし。

 ていうか、全く以前と変わっていません、レベルが。

 これ、ご主人様が見たらかなりのショック受けるんじゃないですか?

 セイバーには、僕はこう見えていたんだなー……とか言って。

 

「し、しかし、あれを見よ!! あっちにあるのが、前に作った奏者を表したものなのだ!」

 

 そう言ってセイバーが指をさしたのは、マイルームの端に置いてあった別の彫像。

 

 いつものように、大理石を削って作った彫像と言うのは分かりますが、逆に言えば、それだけしか分からない何かだった。

 多分、手? あたりの部分が、何故か指が四本と七本ずつになってたり、足? が右足と左足で明らかに長さが違ってたり。

 顔のパーツが何故か唇……かな? が額だったり、目が下だったり上にあったりなど、もう滅茶苦茶な彫像だった。

 

 ……うん。

 

 

「全く同じですね」

「ああ、寸分違わず」

 

 まるで成長の兆しが一切感じられなかった。

 だって、何処をどう見ても、全く違いが分かりません。全然。

 

「な、なにいっ!? そなた等の目は節穴か!? 明らかに成長してるではないか!!」

「へー。例えば?」

 

 

 

 

「このクビレの切れとか!!」

 

 

「「知らねーよ」」

 

 この瞬間だけ、アーチャーと完全にハモりました。

 私たちの気持ちは、今一瞬だけ完璧に一つになっていました、ご主人様じゃないのが凄く残念ですけど。

 

 

「う、う……うわーんっ!! 奏者に言いつけてやるーっ!!!」

「小学生か君は」

 

 とうとう泣き出したセイバーが、もの凄く幼稚な事を言いながらマイルームの扉に向かって走って行きました。

 なんか、だんだんセイバー幼児退行化進行していってません?

 まさか、魔力不足で頭にまでエネルギーいってないんじゃ、などと考えていると……

 

「あ、あれ……?」

「どーしたんですかー、セイバー? ご主人様のとこに行くんじゃな」

 

 

 

 

 

 

「ひ、開かぬ……開かぬぞ……?」

 

 

「……え?」

 

 そんな、あり得ない事を言い出した。

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよセイバー。マイルームを出るときなら、別に端末は必要ないから普通に開くでしょう?」

「い、いや……本当に開かぬのだ。全くビクともせん」

「まったまたー。そんな事いってー…………え? 本当に、開かない……?」

 

 セイバーと位置を入れ替わるように、私が扉の引き戸を取って見たら、全く動かせずビクともしなかった。

 まるで、これは扉ではなく、壁そのもののように……

 

「何? ちょっと待って。今アルバイト用の端末で操作をして…………なっ」

 

 私たちの後ろの方で、アーチャーが急に絶句したのを感じました。

 一体……?

 

「……端末そのものが、動いていない……?」

「動いて、ないって……?」

「ただのバッテリー切れとかではなくてか?」

「いや、あり得ない。そもそもこの支給端末に、バッテリーなどという概念は無い。セラフが動き続けている限り、この端末が故障以外で動かなくなる事など……!?」

 

 そこまで言って、アーチャーは急に顔色を変えて、マイルームの端にある明かりのスイッチを押しに行きました。

 直後、カチッカチッっと音が鳴り響きましたが、暗いままです。

 

「やはり……っ!? セラフそのものが機能していないのか!?」

「「なっ!?」」

 

 その言葉に、今日一番驚きました。

 何故なら、それこそあり得ない事の筈なのに……!?

 

「セラフが機能してないって、どういう事ですか!?」

「分からん……っ! まるで電源が切れたように、何も反応がない! マイルームに繋がる扉のロックは、全てセラフが管理している! 扉が開かないのは、セラフが一種の停電状態になっているからか!?」

「な、なあ!? 奏者はまだ外に出たままではないか!?」

 

 セイバーのその言葉に、私達全員に寒気が走る。

 これがただのセラフのバグで、これ以上何もなければそれでいい。

 けど、これが最悪のバグや、何者かの狙いだったとしたら……ご主人様が危ないんじゃ!?

 

「と、とにかく探せ!! 出る方法を探るぞ!! 何でもいい、いろいろ試せ!!」

「は、はい!!」

「う、うむ!!」

 

 ご主人様、どうかご無事で……っ

 

 

 

 ★☆★

 

 

 暗くなった校舎に、何度も鳴り響く金属音。

 その度に、目の前で走る閃光の数々。

 それはまるで、星のようにキレイに輝き……同時に、私達の命を奪う光でもあった。

 

「っぐ!?」

「吉井さん!?」

 

 開けた窓から入って来た、“くろいなにか”。

 彼はその槍で、私達の命を摘み取ろうと何度も振るい……

 そしてその度に、その槍を吉井さんが木刀で防いでいく……後ろにいる私を庇いながら。

 

 それは、あり得ない幻想だった。

 マスターである彼が、あのくろいなにかと戦える筈が……いえ、今はそれどころじゃありません。

 

 問題は、私達を襲って来たのが、“明らかに第三者のサーヴァントだと言う事”

 先ほど星を詠んだ時、ブラックモア卿のサーヴァントは緑の弓兵……確実に、今襲って来ている人とは違う人物です。

 同時に、今日出会った私の対戦者でもありません……

 そしてもちろん、私や彼のサーヴァントですら、無い。

 

 つまり……“完全に私達と関わりのない相手が襲って来たという事です”

 

「あなたは……あなたは誰なのですか!?」

 

 私の悲鳴のような声を聞き、そのくろいなにかは高らかに声を上げる。

 

「――――ハハハハハッ!! 何たる奇跡! 神は稀なる機会を与えてくださった! 我が妻に捧げるあの極上の供物たちを! そなた達こそオレが求めてきたミューズ!」

 

 ーーいえ、私の声に反応した訳じゃない。

 始めから、会話が成り立っていないーーーーっ!!

 

「そのしなやかな肢体をこの槍で貫く! 貫かずばおられぬ! 何故なら――——そう、何故なら。――おまえたちは、美しい」

 

 その血のこびり着いた黒い鎧を月明かりで不気味に輝かせながら、その槍を構え直すくろいなにか。

 

「愛とは死だ。死こそが愛だ。俺は愛するが故に――おまえたちを殺したくて仕方がない!」

 

 

 今、黒い槍兵とイレギュラーな戦いが始まったーーーー

 


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