次からようやく一回戦決戦です。
七日目の決戦日。
2-Aの教室、僕たちはそこにいた。
「―――いよいよ決戦の日となったが、準備は整ったかね?」
背後からの声に振り返ると、言峰神父が立っていた。
彼の厳かな言葉に、僕は一瞬怯む。
「全ての準備が出来たら、私の所に来給え。購買部で身支度をする程度は、まだ余裕がある」
そう言うと、彼は教室の扉を開けて出ていった。
「うむ! ついにこの時が来た! 奏者、準備はよいか?」
「ちゃっちゃと行って、あのワカメ達を蹴散らしちゃいましょう!」
「何、やれるだけの事はやった。後は君が全力でぶつかって行くだけだ」
セイバー達の励ましの声が聞こえる。
そう、後は戦うだけ。
「うん、準備は出来てる」
トリガーとマトリクスは全て埋まった。
戦闘経験も、片手で数える位だけど、エネミー相手に出来た。
装備も、この木刀と、ラニに直してもらった腕輪がある。
姫路さんから貰った礼装は……まあ、置いといて。
とにかく、出来る事はしてきたつもりだ。
「じゃあ、行こう!!」
僕はそう掛け声を出すとともに、みんなと教室を出た。
……ガヤガヤ……
決戦場の扉は、一階廊下の用具室の前。
そう教えられていた。
……ガヤガヤ……ガヤガヤ……
この戦いは、本当の殺し合い。
まだ、僕は“頭”では完全に理解していない。
それでも、僕は戦いに行かなくてはいけない。
……ガヤガヤ……ガヤガヤ、ガヤガヤ……ガヤガヤ……
僕は戦う。
どんな相手だろうと、僕達が勝つために。
僕達の本当の戦いは、今から始まる――――
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガマガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤゴヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤゴヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤハヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤゴヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガ
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガマガヤガヤガヤ
「っつか、うるさッ!? てか、ながァっ!!!??」
「参加者たちのプチ大名行列!?」
「まあ、128人いるからな……」
――――いきなり出端、挫かれたけど……
――――<五時間経過>――――
パッポー、パッポー
「や、やっと僕達の番……」
「ようこそ、決戦の地へ。身支度は全て整えたかね?」
ようやく用具室前まで来ると、言峰神父がいつもと変わらない顔で立っていた。
なんで全く疲れた様子がないの?
頭おかしいんじゃないの?
「扉はひとつ、再びこの校舎に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場(コロッセオ)の扉を開こう」
「すいません。むしろ疲労困憊で、覚悟どころじゃありません」
「まさか、五時間も待たされるとは余は思わなかったぞ……」
神父の言葉に、僕達はそう正直に答える。
あのプチ大名行列が、アリーナの扉の前まで行って、そこから戻って保健室の前まで並んでいたとは思わなかったよ……
どこぞの夢と希望にあふれたネズミ―ランドじゃあるまいし、五時間って……
既に立っているだけで、足が生まれたての小鹿のようにプルプル震え始めているし。
「いいだろう、若き闘士よ。決戦の扉は今、開かれた。ささやかながら幸運を祈ろう。再びこの校舎に戻れることを」
「あれー? 僕の言葉スルー? 出来て無いって言いましたよねー?」
「諦めろマスター。こいつはこういう奴だ」
「ていうか、全く疲れた様子がないってどういう事ですか……」
キャスター達の言葉に、僕は同感だ。
本当にこの神父、一体どうなって……
「そして―――――――“存分に殺し合い給え”」
「――――っ!!」
……その言葉に、僕は気を引き締め直す。
そうだ、こんな所で疲れている場合じゃなかった。
僕達が行くのは、本当の戦場なんだ。
「さあ、行きたまえ」
その神父の言葉と同時に、彼の後ろの扉が開く。
それは、まるで地獄へ向かう入り口の様に思えた。
さっきまでの自分自身の発想にイラつく……何が夢と希望にあふれた、だ。
僕達が行くのは殺意と絶望が渦巻いている場所だっての。
「うん……よし、行こう!」
その僕の声と共に、僕達はその扉を潜り抜ける。
★☆★
ガゴンッ!
僕達が乗り込んだ直後、急にその部屋が動き出す。
「これって……エレベーター?」
「らしいな。どうやら、これで決戦場まで連れて行くという事なのだろう」
中は真っ黒で、見えるのはセイバー達三人しかいない。
いや、だんだん明るくなって来て、ガラス張りの所が見えて……
「おや、あんた達かい」
「ッ!? ライダー……!」
ガラスの壁の直ぐ向こう側に、対戦者であるライダー達がいた。
まさか、同じエレベーターで同時に向かうなんて……!
けど、僕が一番驚いたのはそこじゃない。
それは……
「くか~……んご~……」
慎二が思いっきり大の字になって爆睡していた事だった。
「……………………えー、と……」
「むう、あのワカメ完全に熟睡しておる」
見ると慎二は床に完全に寝そべっており、よだれを垂らしながら、ものすごく気持ち良さそうに寝ていた。
これから戦うって言うのに、大胆なのか、分かって無いのか……
「う~ん……もう食えないっての……」
「どこぞの海産物がテンプレな寝言を言ってますが、まるで可愛げさが皆無ですね」
キャスターの言葉に同感だった。
何ていうか……キモい?
仮にも高校生位の男が、エレベーター内でよだれ垂らして大の字って……
しかも慎二だから、可愛げさゼロだし。
「あっはっは! 流石にうちの大将のこんな姿に、声も出ないってとこかい坊や」
「あー、うんまあ……これから決戦だっていうのになー、とは……」
向こう側でライダーが豪快な笑いを上げながら言う。
それでも慎二は全く目覚める様子がない、どころかお腹の部分をポリポリ掻きはじめた。
おっさんか。
「まあ、悪く思わないでくれよ。うちの大将、今日の事で緊張のあまり夜中にソワソワしてたから眠れてなくてねえ。」
小学生かッ!?
「ま、流石にこのまま眠りっぱなしっつーのはちと不味いか。ホラ起きなよシンジィ!!」
「ゴフゥッ!?」
ドゥゲシィッ!! と、結構強い蹴り込みで慎二が蹴り飛ばされて、こっちのガラスの壁にぶつかった。
「ッづォ~っ!? ライダー!! お前何するんだ!!」
「敵の前で居眠り何て、大胆だねえシンジ」
「はあ? ……ん、なあっ!? 吉井!? お前いつの間に!?」
ゆっくりと首をこっちの方に向けた慎二は、僕に気づいた途端飛び上がるようにその場から離れ、こっちを睨み付けてきた。
……はいいんだけど、口元のよだれ、拭いた方がいいよ。
「くっそ!! お前ら、この僕をこんなに待たせるなんて、よっぽど死にたいらしいな!!」
「いや。待たすも何も、寝てたよね?」
「あっはっは! まあ仕方ないさ! うちの大将、昨日よく眠れなかった上に、決戦場の扉が開く三時間前には並んでいたからねえ!」
ますます遠足が楽しみな小学生じゃないか……
って、“三時間前”?
「……アーチャー。僕達が並び始めたのって、いつだっけ?」
「ちょうど、決戦場の扉が開く時間と同時だな」
……えっと、つまり。
その三時間プラス、僕達の待たされた五時間を加えると……
八時間?
「……よく、そこまで待ってられたね」
「はっ! そうさ、僕は天才だからね!!」
天才は関係ないと思う。
ていうか、むしろ馬鹿?
「あー、そう言えばさあ。今の状況、こんな話思い出したんだけど。確か“宮本武蔵”と“佐々木小次郎”の巌流島の決闘って奴」
「あー。ありましたね、そんな伝説」
確か、巌流島で決闘するのに、宮本武蔵がワザと約束の時間から遅れてやってきて、それに苛立った佐々木小次郎が冷静な判断が出来なくて、そのせいで負けてしまった、だっけ?
「おお、余も知っておるぞ。ムーンセルのバックアップから、ある程度の知識はそろっておる」
「成程。さしずめ私らが武蔵で、馬鹿に早くいって待ちぼうけをくらった向こうが小次郎、と言う訳か……しかし、佐々木小次郎とはずいぶん懐かしい名が出て来たな……」
……?
懐かしい?
アーチャーって、佐々木小次郎と知り合いか何かだったのかな?
そして案の定、僕達の話を聞いた、というか聞こえてた慎二はプルプルと怒りに震えていた。
「……まあ、私の知っている彼とはずいぶん性格が違うが。彼ならもっと冷静で、こんな怒りっぽくは無かったしな。むしろ君と彼を一緒にするなど、彼に失礼か」
「お前ら……よっぽどこの僕を怒らせたいみたいだなあ!!」
「あーらあら。こーんな伝説に基づいた簡単な罠に引っかかるなんて、流石海産物」
「うむ、まさかここまでうまくいくとは思わなかったぞ! やはりワカメは単純さが違うな!」
「ぬあああああああああああっ!!!!」
どうやら、完全に堪忍袋の尾が切れたみたいだ。
そして、ここぞとばかりキャスターとセイバーの言葉の集中砲火が飛ぶ。
こんな作戦なかったし、単純な偶然だよね?
そもそも罠に嵌めようとしたつもりなんて無かったんだけど。
「マスター、ここはそういう事にしておけ。実際戦いにおいて、冷静さを失った奴は実力を十全に発揮できん。せっかく向こうが勝手に嵌っているんだ、ここはそれを生かそう」
ヒソヒソとアーチャーがこっそり言う。
成程、確かに僕達は根本的問題から戦闘経験も準備が無さすぎる。
この際利用できるものは何でも使おうと言う訳だね。
……じゃあ、僕もためしにやって見ようかな。
そうだなあ……もし、雄二がここにいたら、多分次のタイミングで……
「ハハハ、言われちまったなぁ、大将」
「お前!どっちの味方なんだよ!? くそっ!! お前ら、言っとくけど僕のサーヴァントは、佐々木小次郎なんて言うザコなサーヴァントじゃないんだからな!!」
「そうだね。【フランシス・ドレイク】と佐々木小次郎じゃ、全然違う人だし。一緒にするのはさすがに無理がありすぎるか」
「ッウ!!!??」
おお、凄い驚いてる。
癪だけど、雄二はこういう駆け引きは得意だったからそれを参考にしてみたけど、効果は抜群みたいだ。
「お前……っ!?」
「うん。アーチャー達が、この航海日誌を探してくれたよ」
そう言いながら、僕は端末から例の日記を取り出して見せる。
「“世界一周を成し遂げ、その収益でイギリスが大航海時代の覇者となる道を開いた人物。 また、強壮であったスペインの無敵艦隊を葬り去り、太陽の沈まぬ帝国と呼ばれたスペインを事実上瓦解させた人”……だよね?」
「おや。しっかりアタシの事を調べてるっぽいねえ」
「うむ! おかげでマトリクスはEXまで全て埋めておるぞ!」
「真面目だねえ。全く、こっちはあんた等のどの情報を調べたらいいか分からないから、ひとっつも埋まってないってのにさ」
成程。
確かにこっちはサーヴァントが三人、しかも全員同じ時代や場所の英雄じゃないらしいし、どれを調べたらいいか分からなくなる。
それどころか、もしかしたら三人全員の真名を調べないといけないかもしれなかったら、まずその時点で相手がマトリクスを埋めきれる可能性はうんと低い。
ある意味情報戦においては、こっちがかなりのアドバンテージを持っている事になる!
……というか。そもそも戦うのは僕だから、セイバー達の情報ってばれてもあまり意味無くない?
「ってことは、やっぱり僕が用意した財宝を奪ったのはお前達か!?」
「あーら、敵さんの物を奪ったとして、何の問題があるんですか? むしろ戦略の一つでしょう」
というかー、とキャスターは続ける。
「かのエルドラゴが、まさかたった2,000の価値しかない財宝で満足するとは思ってもいませんでしたー」
……その言葉に、エレベーター内の空気……というか、慎二達側の方が静まる。
「……シンジぃ? 一体どういう事だぁい?」
「ちょ、ちょっと待ておい!? 怖い!! 無表情で近づかれると怖い!? お、おい!! デタラメを言うなっ!?」
「けど、実際購買で売りに行ったら2,000だったし」
「金銀財宝がなきゃ動かないー、などと申しておったくせに、2,000とは……安い女だな、ライダー」
「ふ……ふふふふ……」
セイバーの言葉が止めになったのか、ライダーは急に俯き、そんな怖い笑い声を上げていた。
「けど、何で実際2,000PPTだったんだろう? 購買の人も一応本物だとは言っていたのに」ヒソヒソ「まあ、この世界は仮にも聖杯戦争、つまり戦いの最中だからな。となると、最終的にここで求められるのは財力よりも戦力……ウィザード達にとっては、何らかの強力なコードキャスト、もしくはそれに値する魔術礼装がメインになる。故に、何の魔術的付加のない金貨などは、この世界ではあまり価値のない物と見なされるのだろう」
「まさに、“猫に小判”っていったところ?」
そっかー……
たとえ他の場所で価値あるものだとしても、その状況に対して必要なものじゃないなら、一瞬にして価値のないものに変わってしまう。
もし僕にもの凄く分かりやすい参考書とか渡されても、僕にとってはゴミ同然だもんね。
「そうだな。もっとも、金貨などを媒介とするコードキャストを使うウィザードやサーヴァントがいれば、そのような者たち対しては高く売れるだろうが……」
「そんな知り合い、いないしね……」
ふうー……と、互いにため息を吐くと、俯いていたライダーが……
「ふ、ふふふ……あははははははははははっ!! やってくれるねえシンジィッ!! まさか、このアタシをそんな価値のない財宝で動かそうとしていたとはねぇ! 全く大した悪党だねえっ!!」
「いてっ! いてえっ!?」
そんな豪快な笑い声を上げて、慎二の背中をバシバシ叩く。
あれ……?
なんか、慎二に対してそんなに怒ってない?
「あら。そちらのワカメに対して、お怒りになられないんですか?」
「ん? まあ、確かにやっすい宝で釣ろうとしたのはイラつくが……その小悪党っぷりが、また気に入った!」
「誰が小悪党だよ! ぼ、僕をお前なんかと一緒にするな! この脳筋女!」
「あっはっは! いいね、その悪態はなかなかだよシンジ! アンタ、小物なクセに筋はいいのが面白い!」
「ちょ、やめろ、やーめーろーよー! 頭撫でるな、この乱暴もの! あと酒臭い! まじめにやれよな!」
……何ていうか、結構いいコンビ?
そう言えば、マスターとサーヴァントは相性の良さで選ばれるってきいたけど、慎二に取ってはライダー豪快な女性が相性がいいのだろうか?
「むう……意外と寛大なのだな、ライダー」
「出来ればこの流れで仲違いしていてくれれば、ご主人様の戦闘が楽になったかもしれないのにですねー」
「ま、そんな簡単にいくとは思わないが」
……考えてみれば、こっちの陣営の相性の良さって何?
全員バラバラで、まるで共通点が見つからないんだけど。
ガゴンッ!
「っと……着いた?」
騒いでいる内に、いつの間にか終着点まで来ていたみたいだ。
「ちっ!! 散々僕の事、馬鹿にしやがって……」
そんな事を呟いた後、慎二がこっちに向き直る。
「いいよ。お前がその気なら、遠慮なくやってやる。圧倒的な実力差ってヤツを思い知ればいい。―――僕のエル・ドラゴのカルバリン砲でボロボロになって後悔するんだね!」
そう言って、慎二達は先にエレベーターを降りて行った。
「ついに自分から真名を喋って行きましたね」
「まあ、すでにばれているから開き直ったといったところだろう。だが、ふざけているように見えるが、実力は本物だ」
「うむ、奏者よ。ここからが本番だ、気を引き締めよ!」
「オッケー! 行こう!!」
僕達も、一回戦の決戦場に向かいに行った。