Fate/Extra Summon   作:新月

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あけましておめでとうございます!
とりあえず、新年そうそう投稿で。
受験直前なのに、何やってるんだろう……



姫路瑞樹の長い一日

~簡単なあらすじ~

 

 

 あの後僕たちは、マイルームに戻ってセイバー達に神父から聞いた話をそのまま伝えた。

 話を聞いたセイバー達も、このマトリクスシステムについて喜んでいた。

 恐らく、このシステムは僕達がこの状況を打開できる、唯一の方法になるだろう。

 これを最大限に生かさないと、僕たちに勝機は無い。

 

 と言う訳で、僕たちはライダーについての情報を集め始める事にした。

 この三日間、情報収集に努めたが、その経過をダイジェストに説明すると……

 

<一日目>

 ・図書室に向かい、英雄関係について調べようとする。

 ・予想外に、その小さな部屋に反して莫大な情報量が存在していて、調査は難航し始めた。

 ・開始から二時間、頭からブスブス煙が出始めた。

 ・ギリシャ神話などに詳しくなったが、ライダーについての手がかりは掴めず。

 ・ご飯をどうしようか相談、仕方無しに遠坂さんに頼りにアーチャーと屋上に行く。

 ・出会い頭に二人揃ってガンドで吹っ飛ばされる。

 ・ついでに、階段までアーチャーだけが飛んで行く。

 ・何故か四階から一階まで途中で止まらず転がり落ちていた。

 ・アーチャーを回収後、保健室の桜さんに世話をお願いし預けた。

 ・マイルームに戻って就寝。

 ・夜、セイバーとキャスターが寝言がうるさいとかで喧嘩を始める。

 ・睡眠時間、計四時間だった。

 

 

<二日目>

 ・もう一度図書室に向かい、情報収集開始。

 ・検索ワードを絞り、二丁拳銃の英雄について調べようとする。

 ・調査開始から一時間、頭からぽろぽろネジが外れ始めた。

 ・途中ラノベを発見。

 ・インデッ〇スやら生徒会の〇存やらの本に、セイバー達が夢中に。

 ・結局ライダーの情報は手に入らず。

 ・ご飯をどうしようか相談、保健室の桜さんに頼みに行く。

 ・一回戦の支給品ですと、アイテムを渡された。

 ・エーテルの粉末だった、バリバリのサーヴァント用である。

 ・ついでに昨日預けたアーチャーを回収、貞操がどうたらこうたら何か呟いていた。

 ・マイルームに帰宅。

 ・夜、セイバーがお風呂のお湯を零し、キャスターのスペースに浸水したとかで喧嘩を始める。

 ・就寝時間、五時だった。

 

 

<三日目>

 ・大事をとって、アーチャーに留守番を任せ、再び図書室に向かう。

 ・途中、ラニに会いライダーの事について相談する。

 ・相談中、窓から風が入り、ラニのスカートが捲れ丸見えに。

 ・気づくと、保健室のベットの上で何故か起床、キャスターの視線が痛い。

 ・今度こそ図書室に向かい、情報収集を開始するも、さっきの光景で集中できず。

 ・何故かマリ〇やらメタル〇アやらのゲームの攻略本ばっか見つかる。

 ・マイルームに帰宅。

 ・アーチャーのスペースにまとめられていた、壊れた机などの残骸が倒壊していた。

 ・アーチャーが下敷きになっているのを発見、後救出。

 ・残骸の片付けで、セイバー達のスペースにも置いておくか相談。(※)

 ・後、セイバーとキャスターが怒り暴れだし、再びごみ置き場が倒壊。

 ・残骸の片付けで、やはりセイバー達のスペースにも置いておくか相談。

 ・後、再びセイバーとキャスターが怒り暴れだし、三度ごみ置き場が倒壊。

 ・三度幸運Jが下敷きになり、救出。

 ・(※)に戻り、暫くこれをループ。

 ・気づくと、窓から朝日が差し込んでいた。

 ・頭の中の冷静な判断力という言葉が抜け落ちた気がした。

 

 

 そして、<四日目>――――

 

 

 

 ★☆★

 

 

「う~ん……明久君、何処に行ったんでしょうか?」

 

 私は今、ちょうど一階と地下の間の階段を、そんな事を考えながら上がっている所でした。

 実は初日の時に屋上で別れた後、私は明久君と話せていない……というか、そもそも会えてすらいませんでした。

 

「もしかして、あの時大丈夫ですって言っちゃったから、避けられているのでしょうか……」

 

 もしそうなら、明久君は多分私の事を気遣っての行動なんでしょうけど……

 それでも、一回も会えないのは寂しく感じます。

 正直、この見知らぬ世界にいきなり放り出されて、しかもいきなり戦えと言われて、もう何がなんだか、いっぱいいっぱいの状態なんです。

 だから、誰か知っている人……好きな人に会って、少しでも安心したいんです。

 

 だから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらアッキー。ターゲット追跡中、どーぞー」

 

「うむ、余はレッドだ。ターゲット、階段を上がっていったぞ、どーぞー」

 

「こっちも確認、このまま尾行を続ける、どーぞー」

 

 

 

 目の前で今まさにストーカーの最中の現場に出くわした私はどう反応したらいいのでしょうか……?

 

 

「うむ、了解だ。それにしても、お腹が減ってくるな、どーぞー」

 

「サーヴァントって、お腹減らないんじゃなかったっけ? どーぞー」

 

「うー、確かにそうなのだが……あ奴ら、まるでこれ見よがしにサンドイッチを食べながら歩いていて、こう、気分的に空いてくるのだ。どーぞー」

 

 

 現在進行中で、ストーカーをしている男女の二人組……

 

 というか、片方はさっきまで会いたかった明久君でした。

 ちょうど一階の階段の近くに、明久君と……もう一人は、屋上で会った、あの赤いドレスの人?

 が、半分体を隠した状態で、二階へ続く階段を睨み付けていました。

 あれ? 何故かこの出だし、デジャヴュ……?

 

 

「それは万死に値するね、こっちはアンパンすら買えないって言うのに。どーぞー」

 

「うむ、何故アンパンなのか気になるが……ところで、このどーぞーって言うのは意味があるのか? どーぞー」

 

「何言ってんのさ。張り込みの基本って言ったら、アンパンとトランシーバーの通信でしょ。どーぞー」

 

「今我らはトランシーバーではなく直接しゃべっているではないか。どーぞー」

 

 

 あれ、何故でしょう……?

 あれほど会いたかった好きな人に会えたというのに、この心から湧き上がってくる感覚は……後悔?

 いえ、それとも悲しみ……?

 自分の感情がよく分からない――――

 

「とりあえず、このまま弱点探ろう。どーぞー」

 

「ふふふ、ばれた時のあ奴らの驚く顔が目に浮かぶようだ、どぞー」

 

「あの、一体何してるんですか……?」

 

 

 正直このまま見なかった事にしたかったけど、そうする訳にもいかないですよね……といった感じで。

 私は恐る恐る、二人に声をかけました……

 

 

 ★☆★

 

 

「あ、姫路さん久しぶり! 遠坂さんの所で大丈夫って言ってたけど、問題無かった?」

「あ、はい。私は、大丈夫ですけど……」

 

 とりあえず私が声をかけた後、私達は二階の階段の前に場所を移して、改めて話し合いを始めました。

 というか、一階では既に明久君達の行動が目立ってしまって注目の的だったので、場所を移さざるを得ませんでした……

 

「そっか、よかった。いやー、本当はもっと前に一度会っておこうかなって思ったんだけど、さすがに大丈夫って言われた直後にって言うのも姫路さんに失礼かなって思って……こっちもいろいろあったし」

「あ、やっぱりそうなんですか……」

 

 予想通り、明久君は私の事を気遣っての行動で会いに来なかった訳なんですね。

 それは明久君の優しさなんでしょうけれど……正直、わがままかもしれませんけど、本当は会いたかったです。

 明久君は、こういった事はほんとに守ってくれる人なので、次からは選ぶ言葉に気をつけておこうと思いました。

 

「うむ……確か、お主は瑞樹と申したな? そう言えば、お主とこうして面を向かい合って話すのはまだだったな。余は奏者……明久のサーヴァント、セイバーだ。よろしく頼む」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 それで、隣にいた赤いドレスの人は、やっぱり明久君のサーヴァントだったんですね。

 なんか、何処か貴族や王族といった雰囲気が出ている感じがします。

 まあ、それ以前に、その下が透けて見えるドレスとか、いろいろ見ているこっちが恥ずかしくなるような部分がある事に突っ込みたいんですけど……

 

「あの……所で、明久君達は一体何をしてたんですか?」

 

 セイバーさんとの自己紹介が終わった後、私は本題を切り出しました。

 いつもなら、明久君がセイバーさんみたいな綺麗な女性の方と一緒にいる、と言う事を聞かされたら、真っ先にお仕置き、という考えが浮かんでくるんですけど……

 今は聖杯戦争といったものの真っ最中ですし、何よりさっきの明久君達の行動が印象に強すぎて、そんな事を考える余裕がありませんでした。

 それに対して明久君は、

 

 

「え? 慎二たちの尾行だけど」

「うむ、その通りだな」

 

 と、さらに私の心の余裕を奪う事を言いました。

 

 ……あれ?

 慎二君って、確かあの、髪の毛がちょっとワカメみたいになっている、“男の人”ですよね……?

 そんな人を尾行、というかストーキングしてるって事は……

 

 

「明久君……やっぱり、そっちの趣味が……?」

 

 なんて言う事でしょうか……

 文月学園の時でも、すでに坂本君とかいろいろな男の人との関係が噂されていましたけど、この状況でも男の人に興味を持つなんて……

 もしかして、明久君は男の子なら誰でもいい人なんじゃ……

 

「って、違うからね姫路さんっ!? なんかまた盛大な勘違いしてるっぽいけど!?」

「む……? 奏者よ、お主も同性愛者なのか?」

「いやだから違うからね!? 僕は普通に女の子が……って、お主“も”?」

「へ……?」

 

 明久君が、あわてて否定しようとしていた所で、セイバーさんが気になるセリフを言いました。

 聞き間違いじゃなかったら、今“も”って言ったような……?

 

「うむ。余は可愛い女子や美男子なら、性別問わず、皆余の嫁や夫にもしたからな。それこそ何十人と言った……って、奏者? 瑞樹? 何故余から距離を取るのだ? なあ!?」

「い、いや、ちょっと……」

「あ、あはは……」

 

 すいません、セイバーさんの衝撃な発言に、苦笑いしか出てきません。

 あ、そう言えば、遠坂さんが……

 

 

『サーヴァントって言うのは、過去の実在した英雄の事を指すの。この聖杯戦争で私たちに選ばれるのは、普通マスターと関係性のある奴……そうね、例えば血筋とか、性格とかそんな所が基準かしら』

 

 と、言っていたような気が……

 と言う事は、彼女が明久君のサーヴァントと言う事は、やはり明久君がそっちの気がある裏付けに……っ!?

 

 

「ま、まあ、それは置いといて……結局、何故明久君達は、慎二君を追っていたんですか?」

「なんか致命的に何かが解決してないような気がするけど……まあ、後にして。僕たちはマトリクス集めをしていたんだよ」

「マトリクス……?」

「ああ、うん。実は――――」

 

 そう言って、明久君は私と会わなかったここ数日間の出来事を、掻い摘んで話してくれました。

 アリーナの事やマトリクスシステム……後ついでに、今もの凄く金欠だと言う事も。

 

 

「――――と、言う訳なんだ」

「な、何か、凄い大変だったんですね……」

「うむ。あのワカメのせいで、我らはアリーナの探索も満足に出来ず、おかげで奏者の懐も寂しいままなのだ」

「金欠の原因作ったのセイバー達のせいでもあるけどね」

「あ、あはは……」

 

 さっきから私、乾いた笑いばっかしているような気がします……

 何か明久君、この状況でも金欠に悩まされているんですね。

 違うのは、理由が文月学園にいた頃は、明久君の趣味(確かゲームでしたっけ?)につぎ込んで、少し自業自得なところがありましたけど、今回はセイバーさんがつぎ込んだんですね。

 

「まあ、それでご飯が満足に食べられなくて、遠坂さんとかに奢ってもらったりとかね……」

「あ、そういえば、そんな話を聞いたような……」

 

 思い返してみると、確か最近遠坂さんが元気がなく、何故か理由を聞くと、『あの馬鹿コンビ達がちょっとね……』とか、疲れたような顔で言っていた気が……

 あれ、多分明久君達の事ですよね?

 明久君、一体遠坂さんに何したんですか……?

 

「このままじゃいけないから、何とか慎二たちをどうにかしないといけないんだけど……正直、こっちの戦力が低くて、今のままじゃどうする事も出来なくて」

「ああ、それでマトリクスシステムを利用するために?」

 

 成程、それで慎二君達を追跡中だったんですか。

 ……それなら、あの意味不明な行動は一体なんだったのか、聞いて見たいんですけど……

 

「うん。せめて、何か礼装でも買えれば、少しは状況は変わったかもしれないんだけどね……」

「あれ? 礼装ですか?」

「うん、礼装。けど、金欠で買えなくて」

「あ。だったら私、礼装同じのが二つ持っているのがあるんですけど……使いますか?」

「えっ!? 本当!?」

 

 私がそう言うと、明久君はとても驚いたような顔でこっちを見てきました。

 あう、明久君ちょっと近すぎて……!

 

「しかし、何故同じ礼装を二つも持っておるのだ? 予備とかか?」

「あ、いえ。ちょっとさっき、地下の購買で買ってきた所だったんですけど、間違えて二つ頼んでしまって……」

 

 明久君の事でぼーっとしていましたから、無意識のうちに生返事していたらしくて、いつの間にか同じのを買ってしまったんですよね……

 

「それで、私は一つあれば十分なので、こっちは明久君に上げようかと思いまして」

「ありがとう! すごく助かるよ!」

「それじゃあ、明久君、端末を出してください。そっちにデータを送りますので」

 

 そう言って、私も自分の端末を取り出してカチカチと操作を始めました。

 えっと、礼装の転送は……あ、これですね。

 最後にカチッと押すと、明久君の端末からピロンっと音が鳴りました。

 

「あ、転送完了しましたね」

「うん。これが礼装……って」

「……体操服?」

 

 あー……

 そういえば、私が買ったのって、【強化体操服】でしたっけ。

 端末を覗き込んだ明久君とセイバーさんが、微妙な表情をしています。

 

「何ていうか……魔術礼装って、ずいぶん身近的な物、なんだね……」

「というか、一応ここは戦場なのに、そんな服を着て戦えというのはどうなのだ?」

「君のドレス姿も十分場違いだと思うんだけど」

 

 まあいいか、っと言って明久君は端末をしまいました。

 

「とにかくありがとう姫路さん。これで少しは勝機が見えそうだよ」

「そうですか、それはよかったです」

「じゃ、僕達は引き続き慎二たちの情報を探ってくるから。いくよセイバー、いや、レッドッ!」

「うむ、ラジャーッ! アッキーよ!」

「いや、だからその行動は止めて下さいっ!?」

 

 話が一段落すると、何故か明久君はそんな掛け声をして追跡行動に戻ろうとしました。

 だから逆に目立つんですってばっ!?

 というか、何ですかそのコードネーム的な奴はっ!

 

 

「って、あれ? もしかして、あれって慎二と……遠坂さん?」

「え?」

「うん?」

 

 明久君が図書室のある廊下の近くに行くと、急に立ち止まってそう呟きました。

 私たちは、うまく壁を使って隠れ、覗き込むようにして図書室前の廊下を見ました。

 

 

「君はもうアリーナには――――かい?なかなか面白かったよ?ファンタジッ――――――かと思ってたけど、割とプリミティブなアプロ――――たね」

 

 少しよく聞こえませんが、ちょうど図書室のある廊下の前で、二人の男女が話し合っているところでした。

 女の人の方は、確かに私達の知り合いの、というか世話になりまくっている遠坂さんでした。

 男の人の方は、こっちからは背を向けているように見えるのでよくわかりませんが、多分明久君の言う慎二君とか言う人なんでしょう。

 

「神話再現的な静かの海っ――――かな。さっき、アームストロングをサーヴァントにして――――ターもみかけたしねぇ。いや、洒落てるよ。海ってのはホン――――マだ。このゲーム、結構よ――――――ゃないか」

 

「あら。その分じゃ、――――――ァントを引いたみたいね」

 

 パッと見、中のいい男女が話しているだけの様に見えます。

 ……けれど、まだ短い付き合いですけど、私には分かります。

 あの遠坂さんの目は、一切楽しいとかそんな感情的なものではなく。

 どちらかと言うと、相手をするのは疲れるけど、とれる情報はとって置こうという感じでした。

 

「むう……奏者よ、あの凛とかいう女子……」

「うん。何ていうか、慎二なんて眼中にないって言うか……まあ、適当にあしらってるって感じかな」

「あ、明久君もそう思いますか?」

 

 一緒に見ていた明久君達も、私と似たような事を考えていたみたいです。

 そんな遠坂さんの様子も全く分からないようで、慎二君といった彼は自慢話を続けていました。

 

「しかし……あのワカメ、完全に調子に乗っておるが、あれじゃあうっかり自分の情報を喋ってしまいそうな雰囲気ではないか?」

「そうだね。けど、ちょっとここからじゃ聞きづらいかな。もう少し、近づければ……」

「けど、ここからじゃ、もう隠れる場所がありませんよ」

 

 そっか、と明久君は歯がゆいような感じで言い、次の瞬間、いや、待てよ……と、

 

「確か、慎二たちがいる場所は図書室の前だったよね。慎二はこっちを背に向けてるし……図書室って言うくらいだし、準備室とかに本を詰めるのに……」

 

 そんな事をブツブツと呟き、何を思ったのか急にこっちの方に向き直りました。

 

「うまくいくかも……姫路さん、マジックかなんか持ってる、? あったら貸して欲しいんだけど」

「へ? 持ってますけど……?」

 

 何故かそんな事を明久君が聞いてきましたけど、この状況で何故マジックが必要なんでしょうか?

 一応、遠坂さんとの魔術授業でノートをとるのに、筆記用具一式持ってはいますけど。

 

「ありがとう。じゃあ、行ってくる!」

「うむ! ファイトだ!」

「え、ちょっ!?」

 

 マジックを受け取った後、何を考えたのか、明久君は今隠れてる場から出て、遠坂さん達のいる場所に走っていきました!

 ええーっ!? 何やってるんですか明久君!?

 

「ふんふん、それでぇっ!?」

「あん?」

 

 こっちの方向を見ていた遠坂さんには直ぐ気づいたようで、明久君が思いっきりそちらの方に走ってきているのが見えてびっくりしたような表情をしていました。

 反対に、こっちに背を向けている慎二君は気づいていないようで、遠坂さんが急に変な顔になった事に疑問に思っているだけでした。

 というのも、明久君結構速く走っているのに、ほとんど足音を立てていません、逆にすごいです!?

 

「――――っと」

 

 一気に遠坂さん達に近づいた明久君は、図書室の扉の前に行くと、素早く扉をガラガラと開けました。

 さすがに扉の音は耳に入ったようで、慎二君が振り向きましたが、その前に明久君が滑り込むように入っていったので、明久君がいる事には気づかれていないようです。

 

「うむ。さすが余の奏者だ、見事な身のこなしだった」

「そ、そうですね……けど、成程。図書室の扉の前に隠れて、近くでよく聞こうとしたんですね」

 

 確かにここからだと、所々声が途切れてしまうので、重要な情報を聞き逃す恐れがありますけど……

 だからと言って、そんな危険を冒してまで接近するというのは、ちょっと無謀だと思います。

 あの後話を聞いたら、最近Fクラスのみんなから逃げるのに、気配を消して足音を立てずに素早く逃げれる方法を編み出していたから、自信があったからと言っていました。

 こう考えてみると、私たちのFクラスの生活って、一般の学生が送る生活ではないと言う事が、改めて実感してきました……

 

「ま、まあ、とりあえずこれで明久君は、情報を聞き逃すという事は無くなって……」

「いや……瑞樹よ、あれを見よ!」

 

 え? っと私はセイバーさんが指をさした方向を向くと。

 明久君の入った図書室の扉がガラガラと開いて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズリズリと段ボール箱が登場。

 

 

 

「何か出てきましたあああああああああああああああああああああああああっ!!!??」

 

 

 っと、私はそんな声を、それでいて慎二君達には聞こえないように叫びました。

 何で段ボールですかッ!?

 何で段ボール単体が図書室から出てくるんですかっ!!?

 段ボール箱が出て来た後、図書室の扉が勢いよく閉められました。

 あれって多分、気味が悪かった誰かが半ば追い出すような形で閉めたんでしょうと簡単に予想が付きますが!!

 

「ああ……トオサカリン、思い出したよ。君には何度か煮え湯を飲まされたけど、今回は僕の勝ちだぜ?僕と、彼女の艦隊はまさに無敵。いくら君が逆立ちしても、今回ばかりは届かない存在さ」

 

「ふ、ふぅん……」

 

 ああ!!

 しかもその事に慎二君は全く気付いていません!

 遠坂さんは丸見えで、声が震えていますけど!!

 

「お、おお……流石奏者、まさかその作戦で行くとは……っ!!」

「いや、何が流石なんですかっ!? ていうか、やっぱりあれ明久君ですか!? そうですよね!!?」

 

 ええーっ!?

 一瞬いえまさか明久君があれに入ってるって事は無いですよねとか思いましたけど!

 けど明久君以外にあんな事するとは思えませんし!

 いえ明久君でもやるとは思っていませんでしたけど!!

 

「何でわざわざ段ボール箱被って出て来たんですかっ!? 普通に扉の後ろで聞き耳たてるだけでいいじゃないですかっ!?」

「ま、待て瑞樹よ!? あの段ボール箱の側面をよく見てみよ!!」

 

 そう言われて、改めて出て来た段ボール箱をよく見てみると、横にはマジックで、

 

 

 

 

 

 

 

【パンドラの箱】

 

 

 

「そんな災厄封じ込めた箱がありますかアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!????」

 

 もう突っ込み所しかありませんっ!?

 もう私じゃ処理しきれないくらいの!!

 ああ、しかもまた少し動いてますしっ!?

 

「へ……へぇ、サ、サーヴァントの情報を敵に喋っちゃうなんて、マトウくんったら、随分と余裕なんだぁ――――?」

 

「ぅ……そ、そうさ!あんまり一方的だとつまらないから、ハンデってやつさ!で、でも大したハンデじゃないか、な?ほら、僕のブラフかも知れないし、参考にする価値はないかもだよ…?」

 

 ああ、それでも遠坂さん達は話を続けています!!

 多分遠坂さんは見なかった事にしようとしてるだけなんでしょうけど!!

 そして慎二君は声が震えているけど、明久君自体には全く気付いた様子がありません!!

 

「おおう……余は今、もの凄く感動した……!! 奏者よ、お主はなんという完璧な策を――――」

 

「どこが完璧なんですか!? 逆に意味が分からなくなったんですけど!?」

 

「む? 瑞樹よ、お主パンドラの箱を知らないのか? よいか、パンドラの箱というのは、ギリシャ神話の伝説の一つでな……」

 

「知ってますよそれくらいっ!! 要は災厄を封じ込めた箱の事ですよねっ!!」

 

 

 パンドラの箱は、人類に災いをもたらすために送り込まれた女性パンドラが受け取った、神によって様々な災いが詰められた箱のこと。

 決して開けてはいけないと言われていたのに、パンドラは好奇心に負けて約束を守り、開けてしまった。

 そのせいで、箱に封じ込められていた、病気、悪意、妬み、憎しみ、偽善、保身、悲しみ、飢え、暴力、狂気、などと言った災厄が世界にばら撒かれてしまった。

 そして箱の中には希望だけが残った――――

 

 細かい部分は覚えていませんけど、大体はこの流れで合っているはず……

 

「そう、そのエピソードは、ギリシャ神話の中でもあまりにも有名……ちょっと伝説関係に詳しい者なら知っていてもおかしくないほどだ。それが聖杯戦争に参加するというマスターならなおさらだ」

 

「えーと、何となく予想は出来ましたけど、一応確認で聞きます。それがどうしたんですか……?」

 

「うむ! このエピソードを知っているなら、そ奴はパンドラの箱を開けてはならぬといった事もよく分かっておるはず!! つまり、あのパンドラの箱と書かれた段ボール箱を開ける馬鹿などいないと言う事だ!!!」

 

「馬鹿はあなた達ですよォ―――――――――――――――っ!!!!」

 

 私は基本、人に馬鹿という言葉は使いません、それも呆れる事はあっても、明久君になんて。

 ですが、今回はあえて使います。

 今の明久君達は、馬鹿であると。

 

「何おうっ!? あれはこの三日間、奏者が図書室で調べている時に見つけた伝説とラノベとゲームの知識を融合させて作った作戦だぞ!! 見破られるはずがない!!」

 

「まずラノベとゲームの知識を使っている時点で間違っていると思います!!」

 

 まさか伝説関係はともかく、ゲームとかを参考にしていたとは思わなかったです!?

 というか……

 

「さっきから思ってましたけど、明久君達なんか様子がおかしくないですかっ!? あまりにも冷静な行動が出来ていないような気がするんですけど、何かあったんですか!?」

 

「ん? 何かあったと言われても、特に変わった事は……強いて言うなら、奏者がここ三日間碌に食べていないのと、昨日とうとう完徹した位だが、まあ別に大した事では」

 

「明らかにそれが原因ですよね!? 栄養不足と睡眠不足で判断能力低下していますよねっ!!?」

 

「な……!? ま、まさか、そんな……!?」

 

「なんで驚愕といった顔するんですか!? 普通に考えれば思い当りますよねえっ!?」

 

 何故セイバーさんが明久君のサーヴァントなのか、今すごくよく分かったような気がします!!

 もの凄く失礼な事かもしれませんけど、そう思わずにはいられません!!

 

「あ……そ、そういえば、ひとつ忠告しておくけど……私の分析(アナライズ)が正しいなら、「無敵艦隊」はどうなのかしらね。それはむしろ彼女の敵側のあだ名だし? せっかくのサーヴァントも、気を悪くしちゃうわ、よ?」

 

 そんな事をしている内に、いつの間にか遠坂さん達の話が締めに入ったようです。

 まだ所々声が震えていますけど、遠坂さんは我慢しきったようです。

 

「ふ、ふん……まあいいさ。知識だけあっても、実践できなきゃ意味ないし。君と僕が必ず戦うとも限らないしね」

 

 そう言って、慎二君はこちらに振り返って立ち去って行こうとしました。

 私達はあわてて顔を引っ込めて、けどまだ少しだけ出して、遠坂さんの方を見ると……

 

 

「……………………………………」

 

「何か無言で指を構えてます!?」

 

 完全にガンドを打つ体制で、パンドラの箱、もとい、明久君が入っている段ボール箱に標準を向けていました。

 見ると、遠坂さんの額には、怒りのマークが浮かんでいるように見えてきました。

 何かこの後の展開が手に取るように分かります……

 明久君にガンドを打って、その後遠坂さんが『あんたは何をやっているんじゃーっ!!』っと突っ込んでいるような展開が――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれ、ライダー」

 

「「「っ!?」」」

 

「アイサーキャプテンッ!!」

 

 

 ちょうど段ボール箱の横を通り過ぎようとした慎二君がそう言うと、いきなり彼の横から髪の赤い女性が出てきました。

 その人は両手に銃を持っていて、その照準は完全に段ボール箱に向けられていて……

 

 

「あ――――――」

 

 明久君っ!! っと叫ぼうとしましたが、すでに遅く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 無情にも、彼女の放った弾丸が何十発も、箱を打ち貫きました。

 

 

「あ、え……?」

 

 私はそんな声しか出ませんでした。

 目の前で起きた事が、実感できなくて……

 

 

「くくくっ……はははははははっ!! 全く、ほんっと馬鹿だよ吉井は!! こーんなバレバレな箱に隠れたって、殺してくれって言ってるようなもんじゃないか!!」

 

 慎二君が何か言っていますが、もう私には、何一つ耳に入ってきませんでした。

 私の心を占めているのは、ある一つの言葉のみ……

 

 

 

 

 

 明久君が――――死んだ?

 

 

 

 

「え、あ……―――――――――」

 

 視界が歪み。

 吐き気が込み上げてきて、立っている事も出来ず、その場に崩れ落ちた。

 目の前で起きたことが信じられず、否定したいのに、体も何も、動かない。

 

 

「あ、の……馬鹿……」

 

 遠くから、そんな遠坂さんの声が聞こえ、

 

「…………」

 

 隣でセイバーさんが何も喋らずに、撃ち抜かれた箱を見つめていました。

 

 

「この天才の僕が、こんな幼稚なトラップに引っかかると思っていたなんて信じられないよ! 決戦を待たないで、あっさり決着がついて拍子抜けだよ、ね!!」

 

 高笑いしながら、慎二君は明久君を馬鹿にするように近づいて、その箱を思いっきりぺしゃんこに踏み潰しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――は?」

 

「「……え?」」

 

 

 

 

 そう……

 

 “ぺしゃんこ”に、です。

 

 慎二君が踏みつけた段ボール箱は、何の抵抗もなく、床と完全にくっつくくらいに潰れていました。

 つまり、どう見ても何かが入っていたようには見えないような……

 

 

 

 

「あっはっはっはっ!!! 引っ掛かったねワカメッ!!」

 

 

 そんな笑い声とともに、図書室の扉が開き、中から明久君が出てきました。

 

 

「いやー、まさかこんな単純な手に引っかかるとは思わなかったよ。わざわざ情報くれてありがとう」

 

「……いや――――え?」

 

 正直、何が何だか分からなくなっていますが、とりあえず明久君がもの凄いテンションが高くなっている事だけは分かりました。

 その手には、私が貸したマジックと……“糸”?

 よく見ると、その糸の先はぺしゃんこになった段ボール箱の端につながっていました。

 あー成程、扉の裏から糸を引っ張って、あたかも中に誰か入っていて、動いてますよーって仕掛けですか、成程。

 

「くっ……くくく……あのワカメ、完全に引っかかっておる!!」

 

 隣で黙っていたセイバーさんが堪え切れないといった様子で。

 笑い声を零しながら、そんな事を言っていました。

 

「あの……もしかして、セイバーさんは知っていたんですか……? 明久君が最初から入っていなかったって事?」

「ん? 何を言っておるのだ瑞樹よ? 余は一度もあの箱に奏者が入っていると言っておらぬし、言われずとも分かる事ではないか。あんな段ボール箱に隠れるなんて幼稚な事、そもそも今時馬やる馬鹿がいると思わんだろう?」

 

 正論で返されました。

 何でしょう……この心の奥から湧き上がる、行き場のないイラッとした感情は……

 

 

「で、何さっきから震えているの? 幼稚なトラップに引っかからない天才で、空の段ボール箱を狙撃させて高笑いしながら踏みつけている間桐慎二君?」

 

 視線を明久君達の方に戻すと、明久君が慎二君のうつむいた顔を覗きながら、そんな事を言っていました。

 見ると、確かに慎二君はここから分かるくらい、拳を握りしめて震えていました。

 

「あっはっは!! こりゃあ、あたしら完全に嵌められちゃったねえシンジ!!」

 

 慎二君の後ろでは、彼のサーヴァントの女性も笑いを隠さずそう言ってます。

 いやあの、あなたは騙された側の主人のサーヴァントですよね……?

 

「ッガァ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」

 

 しばらくすると、慎二君が顔を天井に向けて、そんな絶叫を上げました。

 あまりにも馬鹿にされて、いっきに怒りの沸点が吹っ切れてしまったんでしょう。

 

「吉井ッ!! お前は殺す!! 必ず殺すゥッ!!! ライダァーッ!!!」

「はいよっ」

「あっはっは!! さらばだっ!!」

 

 そんな掛け声を出し、明久君はその場からこっちに向かってもうダッシュ。

 後ろからライダーと呼ばれた方の銃声音が連続で鳴り響きましたが、一発も明久君には当たらず。

 

「ははは!! マトリクスはしっかり頂いた、逃げるよセイバー!! 姫路さんまた後でねーっ!!」

「うむ! あのワカメの怒りよう、清々したぞ!! あはははは!!」

 

 そんな笑い声を上げながら、明久君とセイバーさんは階段を駆け上がっていき、

 

「待て吉井ぃ―――――――――っ!!!」

「あっはっは!! 待ちな坊や―――――――!!」

 

 その後を、慎二君達が私に気づかずに追いかけて行きました。

 

 

「「………………………………………………………………………」」

 

 後に残ったのは、ぼーっと床に座りこんだままの私と。

 同じく、ぼーっと立ったままの遠坂さんでした。

 

 

 

「………………………」

 

 

 しばらくその状態が続くと遠坂さんは無言で、廊下の窓をガラガラと開けました。

 外はすでに夕日が差し込み、空がオレンジ色になっていました。

 遠坂さんは、開けた窓に寄りかかり、

 

 

 

 

 

 

 

「この滞った感情は、どこに向けたらいいの――――――――」

 

 

 

 

「………………………………………………………………………」

 

 

 私はその姿に、ホロリと涙を流しました。

 

 

 




今回はほぼ完全にギャグ中心。
次回の更新は、入試が終わってからかな……

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