ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~   作:ドラ麦茶

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CTF・ディフェンス #3

 フラッグが中庭中央まで運ばれた後、それまでの猛攻がウソのように、ピタリと侵攻が止んだ由香里さんチーム。それもそのはず、由香里さんチームは、フラッグが自陣に戻る瞬間を狙い、自陣建物に先回りしていたのだ。レーダーからフラッグの反応が消える。くそ。このままフラッグがどこにあるのか分からない状況が続いたら、厄介だぞ。

 

「落ち着いて行きましょう」美咲が言う。「まずは、敵の逃走ルートを潰すことが先決です。逃走ルートは3つ。中庭を通るか、東西どちらかの壁の通路を通るかです。3チームに別れて行動しましょう」

 

 と、いうことなので、ちはるさんと直子の2人が東側、愛子さんと薫の2人が西側へ、それぞれ中庭中央の建物から地下道を進んで行った。残りのメンバーは中庭だ。さっきの千恵の超速く走る能力があるから、逃がさないよう、横に広がって慎重に進む。『モーション・トラッカー・ライト』の能力もフルに使い、絶対にフラッグを奪わせないように注意を払う。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 しばらく進むと、自陣の建物から、由香里さんと麻紀さん、少し遅れて、理香さんとゆきも出て来た。その後ろにはフラッグを持った可南子と、ヴァルキリーズ1の俊足(燈除く)・千恵が控えている。残りのメンバーも建物から出て来た。どうやら正面突破を狙っているらしい。

 

《フラッグを見つけました。中庭です》美咲がボイス・チャットで地下のメンバーに知らせる。《ルートを変えられる可能性もあります。地下の皆さんは、そのまま進んで、建物側から攻撃してください。ここは、あたしたちでなんとかします》

 

《了解! 急いで行くぜ!》愛子さんたちが応えた。よし。これで袋のネズミだ。

 

「――4分経過。残り、1分」案内人の声。残り時間はあとわずか。ここで由香里さんたちを全滅させれば、もうフラッグを奪われる心配はないだろう。ポイントは0。勝負は、あたしたちが圧倒的に有利になる。もちろん、それは相手チームにも分かっているはずだ。だからこそ、全員で正面突破という、小細工なしの勝負に出たのだろう。でも、そう簡単にはいかないぞ。中庭にいるあたしたちのチームメンバーは半分の4人だけど、空手家の美咲と弓道家の遥は戦闘力5万以上。そしてなんと言ってもこのカスミちゃんは、本気を出せば戦闘力12万なのだ。敵チームに亜夕美さんと紗代さんがいない今、戦闘力の面ではあたしたちのチームが圧倒的に有利だ。後は、今だ能力が不明な麻紀さんと朱実に注意すればいい。

 

 あたしと美咲と葵は、慎重な足取りで進む。焦ることは無い。あたしたちのチームはディフェンス。ここで敵を全滅させなくても、時間切れにすればいいのだ。焦るのは向こうのチームだ。

 

 と、麻紀さんと由香里さんが、ゆっくりとした動作で右手を上げた。何だ? 能力を使う気か? フン。どんな能力だろうと、カスミちゃんゴーレムモードで蹴散らしてやる。

 

 麻紀さんと由香里さんは、特撮ヒーローモノの主人公が必殺技を使う時みたいに大げさな動作をすると。

 

「ゆう……ごう!!」

 

 これまた必殺技のごとく技名を叫び、由香里さんと一緒にジャンプした。

 

 すると、2人の身体がまぶしい光に包まれる。そして、ふたつの光が1つになり、光が消えると――。

 

「…………」

 

 あたしたちは、思わず言葉を失う。

 

 そこには、麻紀さんと由香里さんが合体した姿があった。

 

 と、言っても、特撮ヒーローモノのロボットの合体みたいな、カッコいいものではない。なんと、右半身は由香里さん、左半身は麻紀さんという、まるで、ブレンダの神話に登場する守護神・ブレンダニアのような格好なのだ!

 

「「姿は変だけど、効果は抜群なんだよ」」ユカリマキさんは、2人同時に喋ったような声で言った。

 

 ユカリマキさんの言う通り、あの奇妙な姿に惑わされてはいけない。あれは、『融合』の能力だ!

 

 

 

No.3

能力名:融合

 効果:対象のプレイヤーと合体する。合体後の戦闘力は、(A戦闘力+B戦闘力)×2。効果は30分間。自分の意思で元に戻ることはできない。

 

 

 

 由香里さんの戦闘力は2万4千。麻紀さんは分からないけど、仮に1万5千だったとして。ユカリマキさんの戦闘力は、2人合わせた合計3万9千の2倍、7万8千なのだ! その上、由香里さんの限定能力『キャプテンのカリスマ』の効果で、一・二期生の戦闘力は15%アップだ。つまり9万近くになる。これは、思わぬ強敵が現れたぞ。

 

 と、その隣にいた理香さんも、ゆっくりとした動作で右手を上げた。その手には、能力カードがある。まさか、理香さんも合体するのか!?

 

「ゆ・う・ご・う・♪」

 

 理香さんとゆきは、魔法少女が変身するみたいなポーズで能力名を言うと、一緒にジャンプした。まぶしい光が消えた時、右半身は理香さん、左半身はゆきという、リカさんユキが立っていた。2人とも戦闘力は分からないけど、恐らく合計で7万近くと見ていいだろう。これはマズイことになった。戦闘力的に見ればまだあたしたちの方が有利だろうけど、どんなに戦闘力が高くても、このCTFではHPは50。ちょっとした攻撃でも死んでしまうから、決して油断はできない。それに、そもそもCTFの目的は敵を倒すことではなく、フラッグを奪うことだ。ユカリマキさんとリカさんユキとの戦闘に気を取られると、フラッグを持った可南子を背負った千恵(ややこしいな)に突破される危険性がある。くそう。ラウンド終了間際に、最大のピンチがやって来たぞ。

 

《みなさん、弱気になってはいけません》

 

 そう言ったのは美咲だった。もう、すっかりリーダーの座に居座っているな。

 

 美咲は少し離れた後方からボイス・チャット越しに激を飛ばす。《残り時間は1分を切ってます。ここを守れば、あたしたちは圧倒的に有利になります。それに、万が一ここを突破され、1ポイント取られたとしても、まだ負けたわけではありません。次のラウンドで、2ポイント取ればいいだけの話です。苦しいのは向こうのチームです》

 

 ……そうだ。美咲の言う通りだ。ピンチなのはあたしたちではない、敵チームの方なのだ。あたしたちは、あの由香里さんのチームを追い詰めているのだ。よっしゃ、行くぜ! あたしはまず『ザ・ロック』の能力で岩モードになり、さらに『ゴーレム』の能力でゴーレムモードになった。さあ、どこからでもかかって来い!

 

「「それじゃあ、行くよ!!」」

 

 ユカリマキさんが動いた。剣を振りかざし、美咲に斬りかかる。そのスピードは、さっきあたしが戦った時の由香里さんをはるかに凌駕していた。美咲の戦闘力は5万6千。ユカリマキさんと比べると大きく劣る。この特殊ミッションが始まる前、若葉さんと戦った時のような驚異的な戦闘力の飛躍があれば負けないけど、ユカリマキさん相手ではそれも望めないだろう。

 

「「よそ見してる場合じゃないよ!」」

 

 リカさんユキも剣を振りかざして駆けてくる。がきん! 振り下ろされた剣を、あたしは左腕で受け止めた。由香里さんの時よりもちょっとだけ痛かったけど、それでもたいしたダメージではない。あたしは右拳を握り、リカさんユキに振るった。ぶん! 大きく空振り。リカさんユキは軽くバックステップで間合いを開くと、すぐにまた剣を振るう。首元に振り下ろされたけど、これまたたいしたダメージではない。あたしは、今度は左の拳で殴りかかったけど、これもバックステップでかわされた。再びリカさんユキの攻撃。耐えるあたし。

 

 ……ヒット・アンド・アウェイの戦法で来たか。一撃のダメージは少ないけど、こんなものでも積み重なれば、いずれあたしのHPは0になるだろう。でも逆に、こちらは一撃さえ決まれば倒すことができるはず。これはガマン比べだ……と言いたいところだけど、リカさんユキとの戦いに集中しすぎると、フラッグを持って行かれる。なるべく早く倒さなければ。くそう。焦るなといわれても、どうしても焦ってしまう。

 

「きゃぁ!」

 

 隣で悲鳴!

 

 見ると、美咲がユカリマキさんの剣に斬られ、青い炎になったところだった。

 

《すみません! 倒されました!!》美咲のボイス・チャット。これはマズイ!

 

「「よし! 可南子! 千恵! 行けぇ!!」」叫ぶユカリマキさん。同時に地面を蹴り、あたしに斬りかかってくる。もちろんリカさんユキの攻撃も続く。くそ! 2人がかりだ! がきんがきん! あたしは2人の攻撃を受け止め、反撃するけどかわされる。そうこうしている間に、千恵が可南子を背負った! あかーん!! 今すぐ止めないといけないけど、カスミちゃんゴーレムモードは超どんくさいからとても追いつけない。かと言って今通常モードに戻ると、ユカリマキさんたちにあっという間に倒されてしまうだろう。もはやここまでか!

 

 ――いや!!

 

 大事なことを思い出せ! カスミ! これはあたし1人の戦いじゃない! みんなの戦い、チーム戦なんだ!! 仲間を信じ、あたしは、今自分にできることをやるんだ!!

 

 千恵が走り出す! もう、あたしじゃ追いつけない! でも、あたしは構わず、ユカリマキさんたちと戦い続ける! きっと、仲間が何とかしてくれるから!!

 

 そして、信じた通り!

 

 ひゅっ!! あたしの頭上を、一閃の光が飛ぶ。

 

 そしてそれが、吸い込まれるように、フラッグを持つ可南子の側頭部にヒットした! 弓道家の遥が放った矢だ!! 遥の能力は『ヘッドショット』! 頭部に10以上のダメージで即死! かすっただけでも即死にできる能力だけど、今の一閃はクリーンヒットだ! たとえ能力が発動しなくても即死は免れないだろう! ボン! 思った通り、爆発し、青い炎となる可南子! フラッグが放り出される。マングースは急に止まれない。千恵はブレーキを掛けるも、フラッグからかなり離れた場所で停まった。慌てて取りに戻ろうとするところに、遥が矢を射る。今度はかわされたけど、千恵は身動きが取れない。ようし! 流れがこちらに向いてきたぞ!!

 

「――4分30秒経過。残り、30秒」案内人の声。

 

「「くそ! リカユキ! カスミは任せた! あたしは遥を! 他のメンバーは、フラッグを拾って!!」」叫ぶように指示を出すユカリマキさん。さすがに焦ってきたようだ。

 

 ユカリマキさんはあたしの攻撃をかわし、遥の方へ走る。あたしは追おうとしたけれど、リカさんユキに阻まれた。まあいい。どの道ゴーレムモードじゃ追いつけない。それに、遥も戦闘力は5万5千とかなり高い。その上遠距離攻撃型ファイターだ。そう簡単に負けたりしないだろう。案の定、次々と矢を放つ遥に、ユカリマキさんはなかなか近づけない。よし! あたしはこのまま、リカさんユキを倒すことに集中だ。

 

《遅れた! スマン!》

 

 ちはるさんのボイス・チャットだ。自陣の建物の中から、地下を通って回り込んだちはるさんたちが出て来た。

 

「いえ、タイミングバッチリです!」あたしはリカさんユキと戦いながら言った。「綾と朱実がフラッグを狙っています! すぐに倒してください!」

 

《了解!》すぐに地面を蹴り、ちはるさんは綾に襲い掛かる。

 

 が、綾も負けてはいなかった。あのちはるさんを前に逃げることなく、両手を前に出し、構えた。

 

「えいっ!!」

 

 またまたかわいらしい掛け声とともに、手のひらから吹き出す紫色のモヤ。モヤに包まれたちはるさんは、がくん、と、その場に崩れ落ちた。『スリープ』の能力だ!

 

「朱実ちゃん! ここはあたしに任せて、早くフラッグを!!」力強く叫ぶ。

 

 ……おお。あれがヴァルキリーズの最年少・浅倉綾か? どちらかといえば泣き虫真理ちゃん側の娘だと思ってたのに、あの愛子さんたちを前に1歩も引かない構えだ。綾、成長したな。

 

「分かった!」朱実がフラッグに向かって走る。くそ。後輩の成長に感心してる場合じゃなかった。愛子さんたちが追おうとするけど、綾が両手を出して牽制する。動けない愛子さんたち。

 

「任せて!」

 

 そう言ったのはピアニストの葵だった。朱実の方に走り、手のひらから光の玉を出して攻撃する。ソーサラーのクラス能力『エナジーボール』だ。朱実はエナジーボールをかわすけど、動きが止まった。そのまま牽制しながら近づく葵。武器を取り出した。少し刃が大きめのナイフだ。そのまま一気に近づき。

 

「えーい!」

 

 こちらもかわいらしい掛け声とともに、朱実に斬りつけた。

 

 ごとり、と。

 

 地面に、何か落ちた。

 

「――――!!」

 

 それを見て、葵は絶句する。

 

 それは――右腕だった。

 

 朱実を見ると、右の二の腕の先が、無かった。

 

 葵のナイフの一撃が、朱実の右腕を切断したんだ!

 

 右腕を押さえ、地面を転がる朱実!

 

 ナイフを落とし、口元を押さえ、パニックになる葵。「ゴ……ゴメンなさい! ど……どうしよう! あたし……そんなつもりじゃ!!」

 

 ……ゲームなんだからそんなに気にすることは無いと思うけど。そこは正真正銘お嬢様の葵。たとえゲームとは言え、こういうゴア表現に慣れてなくても仕方ないだろう。

 

 朱実は右腕を押さえ、「えーん、いたいよー、いたいよー」と、泣き続けている。

 

 …………。

 

 えーん、いたいよー……だと……?

 

 人は、本当に痛いとき、「痛い」なんて言う余裕は無い。第1フェイズにあたし、愛子さんにひざを折られたけど、あの時は気が狂いそうなくらい痛くて、声すら出なかった。それなのに、腕を切断されて、「いたいよー」だって?

 

「――葵! 騙されないで! それはきっと、朱実の能力! 『オール・レンジ』よ!!」

 

 

 

No.29

能力名:オール・レンジ

 効果:あなたの右腕は切り離せる。切り離した右腕は、半径10メートル以内で自由に動かすことができる。

 

 

 

 葵に告げた瞬間、朱実はピタリと泣き止む。そして、地面に落ちていた朱実の右腕が宙に浮かび、フラッグに向かって飛んだ! やっぱりか!

 

「よし! 朱実! そのままフラッグを持って、こっちに渡して!」

 

 千恵の声だ。見ると、いつの間にか壁の上にあがっている。しまった! 千恵の能力を使えば、少し目を離したスキに階段を上がることなど簡単だ! そして、朱実の能力の範囲は10メートルと、そんなに広くはないけど、宙に浮かぶことができるから、壁の上にフラッグを運ぶことは可能だろう。あのまま壁の上でフラッグを持たれたら、中庭にいるあたしたちの攻撃は届かないから、簡単に逃げられてしまう。フラッグを千恵に渡してはダメだ! でも、みんな足止めされてて、誰も動けない。今度こそ、これまでか?

 

 朱実の右腕が、フラッグを取った。

 

「――フラッグが奪われました」案内人の声。もうダメだ――!

 

 が、その時。

 

 朱実の右腕がフラッグを持った瞬間、右腕は消え、フラッグはすぐにその場に落ちた。

 

 朱実を見ると、右腕が元に戻っている。何が起こったか分からない表情。

 

 ――そうか。フラッグを持った状態ではすべての個人能力が使えない。だから、『オール・レンジ』の能力でフラッグを持っても、その瞬間能力が使えなくなり、腕は元に戻るんだ! これは完全に朱実のミスだ。土壇場でこのミスは痛いぞ!

 

 朱実はしばらく葵と見つめ合い、自分のミスに気が付いたのか、苦笑いを浮かべる。

 

 その顔に、葵は手のひらを向け、エナジーボールを放った。ボン! 魂と化す朱実。よし! これで、あと4人!

 

「おらぁ!」

 

 愛子さんの気合の掛け声。見ると、綾に豪快な背負い投げを決めていた。手のひらのモヤにさえ気を付ければ、綾など愛子さんの敵ではない。なす術も無く魂と化す綾。これであと3人!

 

《すみません! 矢が尽きました!》遥の声。見ると、全ての矢を撃ち尽くした遥にユカリマキさんが迫っている。遥は最初の剣の一撃をかわしたものの、二撃目をかわしきれず、やられてしまった!

 

「「よし! 千恵! フラッグはあたしが持つから、運んで!」」

 

 すぐにフラッグの元に走るユカリマキさん。千恵も壁の上から飛び降りる。またまたピーンチ! 愛子さんたちはフラッグから離れすぎてるし、葵じゃユカリマキさんと戦うのはムリだろう。

 

《はいはーい。美咲ちゃんふっかーつ!!》

 

 ボイス・チャットにのんきな声。どうやら美咲が戦線に復帰したらしい。壁の上だ。飛び降り、千恵の隣に着地。目が合い、ニコ、っと笑う。

 

「やぁ!」

 

 美咲は気合とともに千恵のボディに強烈な右フックを叩き込んだ。その一撃で千恵は死亡。残り2人!

 

 美咲はそのままユカリマキさんに向かって構える。ユカリマキさんも剣を構え、突進する。さっきは負けたけど、今度はどうだ!? ユカリマキさんが剣を振り下ろす! 美咲は逃げず、右腕の籠手でその剣を受け止める。そして、左腕でユカリマキさんの頭を取った。それが予想外の行動だったのか、ユカリマキさんは何もできない。美咲は空手家で、当然、打撃技がメインだから、まさか、掴み技に出るとは思ってなかったのだろう。美咲はそのまま左脇にユカリマキさんの頭を抱え込んだ。プロレスのヘッドロックのような格好だ。そのまま締め上げる。

 

「へへへ。三島流喧嘩空手には、投げ技や絞め技もあるんですよ? 知らなかったで……しょ!!」

 

「しょ!!」と同時に、ユカリマキさんの首は、グキ、っと、おかしな方向に折れ曲がった。そして、ボン! と爆発し、青い炎になる。やった! 美咲のリベンジ達成だ!

 

 後の敵は1人! あたしの前の、リカさんユキだけだ!

 

「「く……くそぉ!」」

 

 ヤケになって斬りかかってくるリカさんユキ。ふふん、もう、あなたたちに勝ち目はないわ!

 

 あたしは、振り下ろされる剣を無視し。

 

 リカさんユキに向かって、下から、思いっきり、拳を振り上げた!

 

 がっつーん!!

 

 リカさんユキの剣があたしを攻撃するのと、あたしの拳がリカさんユキを攻撃するのは、ほとんど同時だった。

 

 でも、守備力も、攻撃力も、あたしの方が圧倒的に勝っている!

 

 あたしの岩の身体は、リカさんユキの攻撃などモノともせず。

 

 あたしの攻撃は、リカさんユキの身体を空高く吹っ飛ばした!! ボン! 空中で爆発!!

 

 それはまるで、勝利を告げる花火だった!

 

 案内人の声がした。

 

「――タイムアップ。由香里さんチーム、0ポイント」

 

 一瞬の静寂の後――。

 

 

 

『よっしゃああぁぁ!! グッジョオオォォブ!!』

 

 

 

 全員で歓声を上げる。やったぞ! 0ポイントだ! なんと、あのアイドル・ヴァルキリーズの大キャプテン・橘由香里さん率いるチームを相手に、1度もフラッグを奪われることなく、0ポイントでディフェンスラウンドを終えたぞ!! これは、とてつもなく大きい展開だ!! 目覚めたちはるさんと復活した遥も含め、全員で肩を叩き合って喜び合う。

 

 ――――。

 

 しかし。

 

 すぐに、全員の表情が引き締まる。

 

 そう。これで終わったわけではない。

 

 案内人の声がした。「続いて、攻守を変え、ラウンド2を行います」

 

 攻守を変える。次はオフェンスラウンド――あたしたちが、フラッグを奪う番だ。

 

 由香里さんチームも、このままで終わったりはしないだろう。0ポイントとは言え、まだ勝ち残るチャンスはあるのだ。

 

 でも、このチームなら、きっと――。

 

 あたしたちは互いに目を合わせ、大きく頷いた。

 

 

 

 さあ、オフェンスラウンドの始まりだ――。

 

 

 

 

 

 


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