月末の忙しさ甘く見てたorz
端的に言えば、誰も気が付かなかった。
「一体なんでこんなことしたんだ」
と、問われれば
「怪我をした動物が外に歩いていたのを見て不安になりました」
簡潔にさっと返答してみせる。
「このフェレットはどうするつもりなの」
と、言われれば
「明日、病院に連れて行くつもりです。捨て子なら飼い主探すつもりです」
短く返して見せる。
人はなれる動物である。
環境に適応するという意味合いもあるが、状況の積み重ねがどんな以上であってもそれを非日常から日常への認識へスライドさせる。
いつから、と聞かれてわかるものではない。
なぜなら、それは突然現れた以上ではなく、徐々に離れていく心を互いに認識しなかった。否、出来なかった。
些細な変化はいつに間にか取り返しのつかないものになり、より修復を困難なものにしている。
異常が正常と認識してしまっている高町家にとって、何が正常となり基準になるのかが既にあやふやになっている以上、正常への舵取りが出来なくなっている証拠とも言える事だった。
このやり取りで漸くユーノは、なのはとなのは以外の家族で温度差があることに気が付いた。
割り切ったように感情を一切、抜きにして淡々と応えるなのはに以前のような面影はもはや一切、見られることがない。
泣くことは勿論、笑うことも、苛立ちさえ感じさせないそれは唯の人形に等しい。
俯いてこそいるが、そこに感情の機微がないのだ。
不貞腐れている。
単純にそうやってとることができるし、現に美由希と恭也はそう判断して、何か話を引っ張り出そうとしている。が、その通りと取ることができないのが二人いた。
桃子と士郎である。
「恭也、美由希、あとは俺たちが聞くからもう休みなさい」
不貞腐れていると判断した二人が下手に動く前に士郎が有無を言わさずに部屋に返すと改めて、娘と向き合った。
「ねぇ、なのは?」
「はい、なんですか?」
桃子は感情が含まれない声を桃子に返すなのはを見て、いつからこうなったかを思い出そうとしていつからか分からないことに初めて気が付いた。
それは士郎も同様で、焦りが表情からにじみ出ており、それを見ている娘の目は無機質そのもの。
冷たい視線ならまだいい、そこにまだ嫌悪と言う感情が必ず混じっている。
その感情さえ混じっていないのだ。
「なの、は?」
「なんでしょうか?」
桃子の掠れた呼び声に顔を桃子に向けるが、それはまるで反応しているだけの人形にしか見えず、自分の子供に寒気を覚えた。
「いや、いい。なのは、疲れただろう。部屋で休みなさい」
「はい、わかりました。おやすみなさい」
士郎が絞り出すように言った言葉に頭を下げると部屋を後にしようとして足を止めた。
「どうした、なのは?」
「このフェレットをどうしたら良いですか?家にも店にも迷惑をかけたくないですが放り出すわけにはいきません」
肩に居るフェレットを掲げるように抱いて見せると士郎たちになのはは指示を仰いだ。
なのはは彼らが保護者であり、養ってくれているのはわかっている。
彼らの要求する良い子でなくてはならない以上、動物を飼いたい等と言う訳にはいかない。
しかし、なのはとしてはこの弱ったフェレットを放り出すわけにはいかなかった。
ユーノを保護したのは自分で尚且つ、ユーノから魔法の情報を聞き出しお兄ちゃんを守らなければならないという最優先項目に加え、今すぐにでも見せて意見を求めたいが物があったからだ。
むしろ、家の事情が関わらなければ思慮深い優しい子であるなのはからすれば、ここで協力しないという選択肢は信志か家族に止められない限り存在しないのだ。
「そうね、なら、うちで預かりましょう?店に連れて行かなければ大丈夫だから」
衛生管理を預かる身としては失格と言われかねないが、店に行き仕事着に着替え、消毒をしっかり行うならばリスクは大差なく、背景にテラスの部分でならペットの連れ込みは拒否しておらず、店内とてオープンテラスになっている以上は衛生管理に気を付けていれば問題ないと言う事情がある。
この場合、問題としたいのは糞、尿、毛やダニノミと言ったものが付着したりする点だがそもそも店に連れてきていない時点で問題となることはない。
それよりも桃子として優先したかったのはなのはとのコミュニケーションの復活、その一点に尽きる。
なのはの生まれる時期が悪かったと言えば、言い訳になるがまさにその通りだった。
店に連れて行こうにも店が忙しく、かまうことができず家にいたほうが安全と判断し、母親と言うモノが必要な時期に傍に居れず、家族は父親のいる病院か店で手伝い。
仕方なかったのだ。そうしなければ、店がつぶれる危険があったし軌道に乗ったばかりの状態で疎かにするわけにいかなかった。
士郎も奇跡的な回復を見せたものの、一時的に落ちた筋力を取り戻すためにリハビリを行う。
到底、子供が付いていけるレベルのものではなく、こちらもなのはを置いていくこととなる。
ボディーガードをしていた経歴があり、少なかれ恨みを買ってしまっている士郎としては、衰えてしまった筋力や技術を錆びつかせるは家族を危険にさらすと直結しており、こちらも手を抜くことができなかった。
尤も、大怪我を負って全盛期から大きく劣った相手に復讐をする価値ないわけではないが、それまで士郎が培った人脈から考えれば復讐するのはリスクだけが大きくリターンは少ない。
来て精々、三流や訳ありの一流ではあるが日本と言う立地に加え、幸か不幸か大企業たるバニングス、裏に名を馳せる月村の膝元で厄介ごとを起こす輩は少なく、いたところで下手に手を貸して自身が火傷をする可能性を考慮されることもあり襲撃者は驚くほど少なく、容易に撃退可能だった。
士郎とて、知っていなかった訳ではない。
さすがに月村は知らないがバニングスは知っている。
念には念を、と、考え、家族の負担…この場合はなのはの精神面を顧みなかったのは確かだった。
防犯措置や対策をしっかりしたうえでリハビリは行っていたが、なのはがそんなことを知るわけがない。
結果、今になってツケが回ってきている。
「いいんですか?」
「ああ、構わない。ただし、しっかり世話をするんだぞ?」
「分かりました」
用は済んだらすぐに部屋を後にするなのはを見ながら士郎は一人想い耽る。
はたして、それは親子の会話であっただろうか?
子が親に言われることなく敬語で接するだろうか―――
否、少なくとも高町家においてそんなことをする習慣はない。
子が親や兄姉を名で呼ぶだろうか?
否、居ない訳ではないかもしれないが、少なくとも他の兄姉が使わない以上、自分で始めたことに間違いない―――
何時からだろう、あの子があんな表情をするのは?
あの子の笑顔をいつ見ただろう?
愛想笑いなどではなく、心から喜んだ笑顔は見たのは―――
「あなた…なのはは、また、笑ってくれますよね?」
不安げに瞳を揺らした桃子が士郎を見ていた。
桃子もまた、同じような結論に達したらしい。
「ああ、子を笑顔でいさせるのは親の役目だ」
このままではあの子の親と言う資格は、ないと言ってもいいだろう。
だからこそ、背を向けるわけにはいかなかった。
当たり前なのに、それが今まで挑んできた何者よりも困難で難しいだろうと士郎は押し殺しながら嗚咽を上げる桃子を抱きながら、なのはの問題、正体不明の不審者、未だに遠くで鳴り響くパトカー、何かが起きているのを感じ、桃子を抱いた腕がわずかに力が入った。
アクセス数が激増…何があったんでしょうか…?
ちなみに、こんな風になる子供がいたりするそうですね…日常の変化なんかは気が付きづらいものですがある日突然詰んでいたなんて避けたいものです。