白き翼の物語~Trail of klose ~   作:サンクタス

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第八話~学園生活~

~それから数日後・放課後~

 

 

 

その日は時間が余っていたので、私は夕方の柔らかな日差しに当たりながら中庭のベンチに座って教科書を読んでいた。人もあまり周囲にいなかったので、ジークも私の傍にいてくれていた。ジークはこの九年間の生活ですっかり文字が読めるようになっていた。もちろん、書く事はできないけれど。

 

「えっと………これは………。」

 

「ピュイ。」

 

「………え?ジーク、この問題、解かるの?」

ジークは得意げにウンウンとうなづいた。

 

「ピュイ。ピューイ。」

 

「ああ、授業を外から聞いてたの。もしかして、テイルさんにそう言われた?」

 

「……ピュイ。」

今度は目を閉じ、俯いた。

 

「やっぱり。この前里帰りしたときね。今でも元気にしているのかしら?」

 

「…………ピューイ。ピューイ。」

 

「ふふ、それなら良かった。また、会いたいな………あの人にも。」

すると、クラブハウス側から話し声が聞こえてきた。ジークは慌てて茂みの中に飛び込む。足早にやってきたのは、ジルさんとハンス君だった。ジルさんはまたイライラしているようだった。

 

「……くそぉ…あの極悪生徒会長め!今度こそは絶対裏をかいて生徒会室に戻ってると思ったのに……!」

やはり、誰かを探しているみたいだけど………。

 

「レクターさん、毎回逃げ方が巧妙になってるよな。えっーと、校舎は探したし、寮も一通り回ったし…。後は中庭の茂みぐらいか?」

 

「ぬうう……バカにしやがって………。ハンス!さっそく探すわよ!」

 

「あの………ジルさん?ハンス君?」

私は中庭の茂みに躊躇いもせず分け入っていこうとした二人は、私に気づいてやってきた。

 

「えっと、何をしていらっしゃるのですか?」

 

「あはは………ちょっとね。ってあれ………クローゼは、こんなとこで何してるの?」

 

「あ、はい。少し空き時間なので………」

そっと脇に置いた教科書に手を置くと、二人は感心して声を上げた。

 

「それって、授業の予習か?」

 

「うっわー、すごいわねー。さすがは超難関の編入試験を突破した事はあるわ~……。」

 

「え、えっと………別にそういう意味では……。」

そう言った言われ方をするのは正直言ってとても嫌だったけれど、そうとも言えない。私が適当に言葉を濁すと、ジルさんはハッと気がついて尋ねた。

 

「あ、そうだ。ねえクローゼ、この辺でレクター先輩見なかった?」

 

「レクター先輩、ですか……?」

その名前を聞いて、つい私はあの時の事を思い浮かべてしまった。隠したつもりだったけど、私の表情に一瞬現れた不快感を二人は見逃さなかったようで………。

 

「あ、あの……………もしかして、あの人に何かされた、とか………?」

ジルさんが恐る恐る尋ねる。でも、わざわざ人に言うようなことじゃない。

 

「……………いえ。大した事ではないので。」

私がそう言うなり………ジルさんとハンス君は突然私の正面に立ち、土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。

 

「え………ちょっと………。」

 

「も、申し訳ありません!またうちの生徒会長がご迷惑をおかけしまして……!」

 

「本当になんとお詫びすればいいのやら。以後この様なことが無きよう徹底いたしますので……!」

 

「どうかこの件に関しましては、ご容赦のほどを……っ!」

ま、待って。そんな何度も頭を下げなくても。

 

「あ、あの……私そういうつもりじゃ……えーっと、その、本当に大した事ではないんです。」

 

「え、そうなの?」

 

「は、はい……ほんの少しからかわれた程度です。」

この様子だと、ホントの事を言ったら二人が何するかわからない。もっとも、話すのも嫌だけど。

 

「あの………何故お二人はレクター先輩の事でそんなに?」

 

「ああ、俺達は生徒会の委員でね。しかし今の俺らの活動は………専ら、『捜索』だ。」

 

「そういうこと。は~、びっくりした。今一瞬、目の前が暗くなっちゃったわ。」

ジルさんは安心したのかその場にしゃがみこんだ。

 

「まったくだ、脊髄反射で謝っちまったぜ。」

そう言って二人は同時に大きくため息を吐いた。

 

「…………あの………レクター先輩って、そんなに問題を起こす人なんですか?」

 

「ん?ああ……問題を起こすっていうか、あの性格が既に問題なのよ。この数週間だけでも逃亡すること数知れず。おまけに方々にメーワクかけて回ってるの。あっちこっちからくる苦情の対応だけでも大変で

大変で……。」

 

「『可及的速やかに拘束すべし』が生徒会の基本方針なんだ。もはや生徒会じゃないような気もするけどな。」

 

「そう、なんですか…………。」

やっぱりあの人って、そういう人だったんだ。でも………あの時。

 

「………クローゼ?どうかしたの?」

 

「い、いえ。なんでもないんです。」

 

「ピュイ。」

突然ジークが茂みの中からそっと鳴いたのが聞こえた。その意を私はすぐに理解する。

 

「あ、そう言えば、レクター先輩ならさっき、クラブハウスの屋根の上で寝てらしたみたいですけど。」

 

「え!!……それホント!?」

 

「屋根の上か……そいつは気が付かなかったぜ……クローゼ、よく見つけたなあ。恩に着るぜ!」

 

「(ほんとはさっきジークが言ったんですけど………。)」

 

「よ~し。ハンス、今度こそあれを捕らえるわよ!」

 

「おう!」

 

「ありがとね、クローゼ。助かっちゃったわ。」

 

「じゃ、またな!」

 

「あ、はい。」

そして二人はバタバタとクラブハウスへと戻っていった。再び辺りが静かになると、私は元のベンチに腰掛けた。

 

「レクター先輩……やっぱりいい加減な人みたいですね……。」

すると、ジークは隠れていた茂みから頭を出した。

 

「ジーク………よくレクター先輩の居場所、知ってたわね。」

 

「(この辺を飛んでくる時に目に入ったんだ。しょっちゅうあの辺で見かけるぞ。クローゼ。アイツ、どう思う?)」

 

「アイツって、レクター先輩の事?」

 

「(ああ。俺、少し前ヤツを少し観察してみたんだが、多分只者じゃないぜ。)」

 

「ど、どういう事?」

 

「(色々あるんだけど………例えば身のこなしとか。ほら、さっきみたいにあの二人にいつも追っかけれられてるだろ?で、一回始終を観察してみたんだが、アイツ見かけによらず素早くてすぐに撒いちまうんだ。それも巧妙かつ大胆にね。さっきも言ったように、屋根に隠れるのはあいつの常套手段だけど、奴はそこから飛び降りることができる。)」

 

「飛び降りるって、あの二階以上の高さから飛び降りるって事?」

へえ………人は見かけに寄らないって事なのかな………。

 

「(そ。な、只者じゃないだろ?少なくてもただのグータラ男子生徒ではないことは確かだ。それに…………)」

 

「それに?」

 

「(い、いや、なんでもない。それはクローゼが心配することじゃないから。じゃ、またな!)」

ジークも隠し事するんだ、と思いながら、私は彼が飛び去るのを見送った。

やっぱりあの人はそう言う人らしい。だから余計に、何故あの人の言葉が妙に引っかかっているのか。それが判らない。

 

「で、でも……。」

私はあの時の事を、思い返した。あの時……………

 

「(確か……私に尋ねましたよね……?)」

 

 

 

―――――――――――君は、そんな事をするためにここに来たの?

 

 

 

 

 

 

 

私が一度校舎に戻ろうとすると、屋根の上から声がした。やけに興奮した声だったから、誰だかはすぐにわかった。

 

「……………い、いない?」

 

「……………さ、さっきまではここにいたわよ!?………えーい、どこに行きやがった!」

 

「あの………ジルさーん。どうかしましたか?」

私は屋根の上の二人に呼びかけた。二人はそれに気づき、地上を見下ろす。

 

「あ、クローゼ。ちょ、ちょっとそこで待ってて!」

 

「は、はい。」

あの様子だと、逃げられたみたい。あの二人が来るのを予期したのか、それとも。

 

「ほら、ハンス。行くわよ!」

 

「あ、ああ。」

ジルとハンスは一度クローゼの視界から消え、しばらくしてからクラブハウスの扉から走り出てきた。

 

「……クローゼ!」

 

「ジルさん、ハンス君。………もしかして、屋根の上にはいませんでした?」

 

「い、いや、見つかったは見つかったんだけど……一瞬目を離した隙に逃げられたのよ!」

 

「おかしいよなぁ……あんな屋根の上で逃げ場なんてどこにもなかったハズなんだが……」

 

「はあ………屋根の上で、ですか…………。(本当に飛び降りたんだ……………ますますレクター先輩のことがわからなくなってきた。)」

ジークから聞いたときはいささか信じられなかったけど………実際に聞くと実感が湧いた。

ふと、二人と目が合う。ジルさんとハンス君は何かを期待するように私を見ていた。

 

「それで、その…………クローゼ、ヤツの居場所に心当たりとか、ない?」

 

「どんな些細なことでもいいんだ。……………頼む!思い出したら教えてくれ!」

ど、どうしよう………ジークだったら何かわかるかな。別に隠しておく程の事でもないし。

 

「は、はあ………じゃあ、ええっと………」

 

「えっ!クローゼ、居場所を知ってるの?」

ジルさんの方も期待半分だったようで、私が言い迷うと随分驚いていた。

 

「ええっと、私じゃなくって………ちょっとジークに聞いてみますね。」

 

「??」

私はジークが降りてきやすそうな開けた場所に立って、

 

「………ジーク!大丈夫、降りてきてもいいよ。」

彼の名を呼んだ。

 

「……ピューイ!」

それから一テンポ遅れて聞こえる鳥の鳴き声。いつもより反応が遅かったのは多分ジルさん達がいるからだろう。

 

「わ、わわっ………!?」

 

「な、何だ!?」

二人が驚くのをよそに、降りてきたジークを自分の腕に止まらせる。

 

「………白いハヤブサ!?クローゼのペットなのか?」

ハンス君はジークの姿を見て信じられなさそうに聞いたけど、私は首を振った。

 

「いえ、ジークは……友人、のようなものです。」

 

「ピューイ!」

 

「は、ははは……そうなんだ……。」

ジルさんも自分の目の前で起こっている事が信じられないみたい、何度も目をこすった。

 

「ジーク、レクター先輩、また見なかった?」

 

「ピュ?ピュイピュイ、ピューイ。」

ジークの方は気落ちした声で答える。

 

「え……見失っちゃったの?」

 

「ピュ、ピュイィ~……」

 

「大丈夫よ。心配しないで。ごめんね。ありがとう。」

 

「ピュイ。ピューイ。」

そう言ってジークは来た方向に戻っていった。

 

「ジークでも捕捉できないなんて………本当に素早い人ですね……!」

 

「………い、いや、それよりもハヤブサと話せるほうが驚きだ。」

 

「ま、まったくよね………クローゼって本当に謎の編入生だわ………。」

二人は半分呆れたように呟いた。

 

「え……!?」

 

「あ、別に悪い意味じゃなくって。ただすごいなーと思って……。」

 

「ああ、確かに特殊能力だぜ。でも肝心のレクター先輩が見つからないんじゃな……。」

 

「…………そうですね………ジークに見えないのなら、屋内にいるんじゃないでしょうか。おそらく、この時間帯に人気のない場所………。」

 

「な、なるほど……それならだいぶ絞り込めるわね。えっとまず、空っぽの教室に寮や講堂、それから旧校舎……?」

 

「ううっ、それでも結構広いぞ………」

困ったように唸るハンス君。それを見ていたら、何だか人ごとのように思わなくなってきた。

 

「あ、あの。……私も、手伝いましょうか?」

 

「え…………いいの?クローゼ、なんか用事ががあるんじゃ……」

 

「いえ、クラブ見学をしようかと思っていただけなので。」

 

「う~ん、クローゼに頼むのは少し悪い気もするが……手伝ってくれるんなら大助かりだぜ!」

 

「むしろこっちから頼みたいくらいよ。クローゼ、本当にいいの?」

 

「はい。大丈夫です。(ジークばかりにレクター先輩の動向を調べさせるのも悪いですし。)」

 

「やった!それじゃ早速三人で探しに行くとしましょ!今度こそあの首に縄をつけてやるわ!」

 

 

 

 

 

その後三人は校区内をあちこち回った後、レクターが講堂でぶらついているのをようやく発見、生徒会室に引きずり戻すのだった。

 

ちなみにその後クローゼは、ユリアに習った剣術の腕を鈍らせないよう、フェンシング部に入部した。そして部活動に参加するかたわら、ジルとハンスがレクターを捜すのに頻繁に付き合うようになった。

 

 

 

 

 

~約一月後~

 

 

この時、ジェニス王立学園はものすごい熱気(?)に満ちていた。定期試験のシーズンである。生徒たちは時間を見つけては脇目もふらずに勉強し、バタバタと日にちが過ぎてゆき、そしてあっという間に試験当日になった。そしてまたあっという間に試験は終わり、生徒たちは高揚したり落胆したりしながら教室を後にするのだった。もちろんジルとハンスも、教室の前の雑踏に混じって互いの試験の出来を聞き合っていた。

 

「ぷはぁ~、ようやく終わったぜ……。」

 

「さすが天下の王立学園、内容が半端じゃないわね~。」

 

「あ、ジルさん、ハンス君。」

クローゼも教室から出てきた、二人は彼女に気付くとすぐに駆け寄った。

 

「ねえねえクローゼ。どうだった?試験の出来は。」

 

「ん……まあまあ、かな?」

クローゼはニッコリと笑って答えた。ジルとハンスは一度互いに目くばせし、そして笑った。

 

「またまたぁ~……ケンソンしちゃって、この!」

 

「今の笑みはなんだ?マッタク……。」

 

「ふふ…………」

 

「余裕こいちゃってもう……!」

レクターの捜索をしているうちに、三人はかなり仲良くなっていた。クローゼ(とジーク)がレクターの居場所を予測し、ジルとハンスが鍛えた足腰(?)で捕らえる。息も少しずつ合ってきていた。

クローゼ達が盛り上がっていると、眼鏡の上級生が仏頂面(この人は普段からこうなのだが)をしながら歩いてきた。彼は生徒会書記兼会計係のレオ・ローレンツ。クローゼ達の先輩であり、ジルとハンスの上司に当たる。

 

「お前たち、通行の邪魔だ。ここに溜まるな。」

 

「あ……レオ先輩……。」

 

す、すみません、とクローゼ達は自然と声を合わせて謝り、道を開けた。彼が常時発する威圧感のようなオーラのせいで、大抵の生徒(同級生も含め)彼には敬語を使わざるを得なかった。

彼が通り過ぎると、三人は内心胸を撫で下ろしていたが、彼が思い出したように振り向きざまに声をかけ、ビクッとする。

 

「ああ………本日から生徒会活動を再開する。ジルとハンスは二時から生徒会室でミーティングだ。遅れるなよ。」

 

「は、はい!」

レオが凄みを効かせて(本人にその自覚があるかどうかは微妙だが)言うと、二人はまたも声を合わせて返事をした。彼は次にクローゼに目線を向ける。

 

「………そうだな、クローゼ君は好きにしたまえ。」

そう言って、レオは一階へ降りて行った。クローゼはというと、彼の言葉の意味が分からなかったようだ。

 

「……………えっと??」

 

「うーん、クローゼにも来てほしい、ってことかしら。」

 

「まあ、レクターさんを捕獲するのにクローゼは必要不可欠な存在だからな。昨日もジークを使ってレクターさんを追い詰めて捕まえてたし。レオ先輩もクローゼの事を認めてるんじゃないか?」

実際このひと月、クローゼはレクター捕獲作戦において多くの実績を挙げている。ジークの強力な索敵能力と、彼女自身のレクターの居場所の分析が、彼を何度も追い詰め、捕獲することに成功している。おかげでレクターの生徒会での出席率(とはいっても居るだけだが)が三倍には伸びた。

 

「あ、あはは、ちょっと大げさな気もしますけど………でも、私も行ってみようかな、なんだか楽しそうですし………。」

今まで彼女は(一応)生徒会活動の手伝いをしている事になっていたが、生徒会に参加しているわけではなく、会議等には出席していない。せいぜいルーシーが礼を言ってくれたくらいだった(ハンスの強烈な羨望の眼差しを受けていたが。)

 

「……い、いや、それほど楽しくはないと思うぞ。」

 

「ま、クローゼが来てくれると大いに助かるわ。もちろん大歓迎よ!」

 

「そんじゃ、昼メシのあとは三人で生徒会室に行くか!」

 

「はい!」

ハンスの言葉が謙遜などではない事は、彼女はすぐに知る事となる。

 

 

 

 

 

その頃、俺は旧校舎側の森の中で翼を休めていた。エルベ周遊道のようなきちんと整備された森よりも、ここのような野性味に溢れた森の方が俺の性にあっている。食べ物も多いしな。

 

「(ふう………。)」

最近はクローゼを手伝ってレクターの捜索を手伝ったりしてるけど、やはり学園の中だから俺ができる事は少ない。だから、自分のことを考える時間も増えた。

 

「(…………………。)」

俺は一ヶ月ちょっと前、俺達白ハヤブサの里に帰った時のことを思い出していた。

 

「(親父………俺は…………やっぱり……………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

~約一ヶ月前、白ハヤブサの里~

 

 

 

「お~い、親父~。」

 

「ジーク、帰ったのか。」

 

「ああ。」

 

「それで、そちらはどうなっている。」

 

「俺の見てる範囲、つまり王都やクローゼの周辺では特に動きはないよ。まあ、今の段階で奴らが事を起こすとは思わないけど。」

 

「うむ。私も王国の各地に何人か向かわせているのだが、やはり何もないようだ。しかし、この数年中に、王国で奴らが動き出すのは間違いない。」

 

「………それって、本当に正しい情報なのか?」

 

「奴らの中に潜らせている者から聞いた情報だ。間違いはないと思う。」

 

「という事は……………『あの人』が奴らの所にいるというのも……………」

 

「ジーク、奴らと戦うことになるのはさっきも言った通り確実だろう。そしてそうなれば、『彼』とも必ず………何しろ、『彼』の最大の目的は、クローディア様だからな。それとも、怖いのか?」

 

「そ、そんなことはないさ!ただ………俺は、『あの人』がなぜ、あんな事をして、そして今は奴らの仲間になっているのか……………その真意を、知りたいだけだ。」

 

「…………そうか、わかった。お前にはいずれ私の跡を継いでもらうことになるだろう。あと数年間、クローディア様の事、頼んだぞ。」

 

「はは、言われなくても。俺もはっきり言ってここに居るよりも向こうにいる方が好きだからな。じゃ、また今度な。親父。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……………。)」

 

「よう、お勤めご苦労さん。ハヤブサクン。」

 

「(!!)」

ま、まさかとは思ったが…………ヤツだった。レクターだ。いくら考え事をしていたからって、俺に気配を気付かれずにここまで近づくなんて……………。

 

「こうやって会うのは初めてだったっけ?オレはレクターだ。ヨロシクな~。」

レクターは軽い足取りでするすると木に登って来て、おもむろに太い枝の上で寝転がった。コイツは人に会う時は寝っ転がってばかりだな。

 

「(ああ、俺はジークっていうんだ………って、なんで俺がお前に自己紹介をしなきゃなんねえんだ!)」

 

「ふ~ん。お前、ジークって言うのか。クローゼとは仲良くやってんのか?」

 

「(お、おうよ。おかげ様で……………え。)」

その時は軽いノリで答えてしまった。だがその時、俺はとんでもないコトに気付いた。絶対にありえないコトが、起きていた。

 

「(レクター、お前、俺の言ってることがわかるのか……!?)」

 

聞こえるように言ったつもりはないが、ヤツはこちらに目を向け、ニヤけているだけだった。


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