ここからアニメオリジナルのシリーズ“星空の鍵編”に突入します。
オリジナル要素として主人公達とまさかのあのキャラを関わらせてみました。
では、本編をどうぞ。
不穏な遺品
マグノリア某所。森林や湖といった人気の無い場所に、とてつもなく巨大な建造物が存在していた。実はこの建造物こそ、魔法界の秩序を守る“評議院”の総本山である魔法評議会の会場、“ERA”である……。
「それは真(まこと)か?」
『はい。昨日未明、警備中でありながら、アカザ地区の教会が爆発・炎上との知らせが……』
通信魔水晶(ラクリマ)に姿が映っている眼鏡を掛けたこの男の名はラハール。評議院における実働部隊である“強行検束部隊”の総隊長を務めている。
「これで30件を越えたか。何者の犯行なのか今もって不明とは……」
『破壊された教会の一部を分析してはおりますが……』
ラハールの報告に老齢な男が表情を険しくする。彼の名はグラン・ドマ。現魔法評議院議長である。
「この時期は他国からの目もある。一日も早く犯人を暴き、捕らえねばならんな…」
蓄えた髭を撫でながら呟いているもう1人の老齢な男。名をオーグ。魔法評議員ニノ席を預かる比較的古参の人物である。
「このままでは検束部隊の名折れ。延(ひ)いては我ら、評議院の責となる…。励め」
『はっ…!』
議長のドマの言葉に頭を下げるラハール。と、ここでオーグが口を開く……。
「1つよろしいか、議長?」
「何だ?」
「今回の一連の事件に関して、“クロニクル”の協力を打診してはいかがだろうか?」
『!』
「……あの組織にか……?」
その提案にドマの表情が僅かに動いた……。
「検束部隊のみでは限界がある。更にこの件にはゼントピアの協力も不可欠だ。幸い、あの組織にはゼントピア内部に籍を持つ者達もいる以上、ここは「ならん」……………」
『……………』
オーグの言葉をドマは遮った……。
「それこそ強行検束部隊の名折れとなる。評議院の存在自体が危ぶまれる可能性も捨てきれん……。強行検束部隊の誇りに懸けて、早急に片を付けよ」
『………はっ』
「………………」
ドマのその言葉に、ラハールとオーグは何処か何とも言えない表情を浮かべたのだった………。
☆☆
所変わって、妖精の尻尾では……
「酷いわね…。またよ?」
「何か事件?」
ルーシィの呟きを聞いたキナナが問い掛ける。
「連続教会破壊事件ですよ」
「随分物騒な事件ね」
ウェンディとシャルルがそう言った。彼女達は新聞を見ていたのである……。
「あ! この人、ニルバーナの時の……!」
「7年経っても全然変わってないね~!」
懐かしい顔が記事に載っているのを見て、ルーシィとハッピーは驚きを見せる。と、そこへ、
「あれ? ラハールさん?」
「おやおや、この一件の担当は彼でしたか」
「? 2人共、御存知なんですか?」
レイルとブランが記事を覗き見たのか、そんなことを口にしてきた。それを聞いたウェンディは当然尋ねる……。
「う、うん」
「彼は去年まで、レイルの下(もと)にいましたからね~」
「えっ!? そうなの!?」
まさかのカミングアウトに思わず声を上げるルーシィ。
「評議院の人達がクロニクルに出向……要するに、一時的にこっちへ異動してくることがあるんです。ラハールさんには1年だけ僕の下にいてもらいました」
「実に優秀で真面目な方でしたね~。お蔭で書類仕事が異常に早く終わったものです」
「指揮官としての腕も群を抜いてたよね。でも元気にやってそうでよかったよ」
そんなレイルとブランの話を聞いて………
「あっちの黒猫の方はともかく……」
「レイルって本当は年いくつなの……?」
あまりに14歳のものとはかけ離れた会話の内容に、シャルルとハッピーが思わずそんな言葉を呟いていた……。
「ぐが~ッ……!」
「ナツ兄、どうしたの?」
「畑仕事で疲れたから昼寝だって……」
そんな話は露知らずイビキをかいているナツを見たロメオの問いに、ルーシィが呆れ混じりに答える。
「いつの間にか、そんな事件が起きてたんだね」
「私達、7年もブランクある訳だし……」
「それにしても、本当に7年の歳月に反して容姿が全く変わっていないとは、驚きですね~」
「まあ、それを言ったらウェンディでさえ僕より5つも年上になっちゃうんだけど……」
「あ……」
「? どうかした? ウェンディ」
「! い、いえ……////」
レイルの言葉に若干反応を見せるウェンディ。何故顔を赤らめる必要が……?
「それに予知能力も調子悪いみたい。散漫なイメージしか湧かないわ」
「あ、そういえばシャルルは予知の力があるんだよね」
「まあね。といっても、元々結構断片的なものだけど」
「そっか……っ!」
「? レイルさん……?」
ここでシャルルと話していたレイルが急に何かに反応した。更に、
「何だ、この匂い?」
「あ、起きた」
ナツも匂いで何かを感じ取って瞬時に起き上がったことに、魚を食べているハッピーが気付く。
「お前もか? レイル」
「はい。それとブランも」
「まあ、私の場合はかなり勘に近いと思いますが……」
と、そこへ、
「ルーシィ姉! お客さんだよ!」
『?』
「ほら、あそこにいるのがルーシィ姉だよ」
「ありがとうございます」
ロメオがある人物を連れてきた。薄いピンクの上物のドレスと帽子を身に纏っている金髪ロングヘアーのその女性は、どことなく上流階級の生まれのように見える…。
「誰だ?」
「ルーシィさんに用があるみたいですけど…?」
「えっと…」
ナツとレイルが聞くが、ルーシィは目の前の女性を知らないらしい…。
「あなたが、ルーシィ・ハートフィリア?」
「うん、そうだけど……あの…誰、ですか?」
「! 誰…って……うう……」
すると、それを聞いた女性は……
「ミッシェル・ロブスターですよぉぉ~~~ッ!!! うええええ~~~~んッ!!!!」
「はいぃぃッ!?!?」
いきなり大声で泣き出してしまった。しかも鼻水まで垂らし…上流階級の雰囲気が一気に吹っ飛んだのは言うまでもない……。
「お知り合いでしたか」
「いきなり泣かすなよ」
「え、ええっ!?!?」
ウェンディとナツにそう言われ、戸惑うルーシィ。
「ご、ごめんなじゃい…随分久しぶりだゃから、分がらないのも無理ないわね(泣)」
「あ、あの…鼻が…」
「す、凄え美人だな。誰だよ…?」
「いや、だから…」
キナナが困惑する中、エルフマンが肘当てしながらそんなことをルーシィに聞いてくる。だから覚えてないんだって……。
「それでは改めて、私、ミッシェル・ロブスターです。お久しぶりです、ルーシィ“姉さん”!」
「………ね……」
『姉ぇぇさぁぁぁぁぁぁんッ!!!???』
その女性──ミッシェルの驚愕の発言に、ギルドの全員が驚きの声を上げた。
「驚きの真実!! ルーシィパパに隠し子が……!!」
「直ちにこの場にいない方々にも教えないとですね~。クックックッ……」
「はぁ……」
余計に騒ぎ立てるハッピーとブランに、思わずため息を吐くレイル。
「えっと……そうじゃなくて、ロブスター家はハートフィリア家の遠縁にあたるの」
「つまり、ルーシィの親戚」
「そういう事ね」
ミッシェルが訂正すると、キナナとシャルルがそうまとめる……。
「な~んだ、つまんないの」
「そうですね~」
「ブランは初めから予想できてたでしょ……」
「でも、何で“姉さん”?」
レイルが猫2匹に呆れる中、ウェンディが率直な疑問を尋ねるが……
「雲泥の差ってのはこの事だな」
「よく分かんねえけど、お前ルーシィの娘ってことだな?」
「何でそうなるのよ!!??」
「冗談だっつーの」
エルフマンとナツのせいで話が進まなくなってしまった……。ナツが冗談を言った……だと……!?
☆☆
数分後………
「ププゥーン」
「それで、何で私が“姉さん”?」
プルーを抱えたルーシィがミッシェルに再度尋ねた。というか、何でそいつ召喚してんの……?
「だって、年上だから……」
「でも………どう見たってあなたの方が年上でしょ?」
「それは………」
「先程もレイルが言っていましたが、皆さんは7年もの間年を取っていません。よって本来であればルーシィ達の方が年上の筈なのでは?」
「あ、そっか」
ブランの説明に納得するハッピー。
「やっと………やっと姉さんに会えた……ひぐっ………!」
「まあまあ………てか、その荷物、何?」
「! これは………」
ルーシィが尋ねたのは、初めからミッシェルが持っていた大きなケース。とても女性1人で持ち歩く物ではないと思うが……。
「私はこれを……姉さんに……!」
「あっ……!!」
そう言ってルーシィに抱き着こうとしたミッシェルは、思わずその荷物を手放し……
ガンッ!!!!
「アダッ!?!?!?!?」
「えー……」
思いきり下に落としてしまった。しかもそれは彼女の足の親指にピンポイントでヒットしたようで、それを見たレイルは思わずそんな声を漏らす…。女性にこう言うのもなんだが、阿呆ですね、うん…。
「わ、私、どうしてもルーシィ姉さんに渡したくって、ずぅっと探してたのぉッ…!!」
「泣かすなよ!! それでも漢(おとこ)かぁ!!」
「私女の子ッ!!!」
「それ以前に明らかな自業自得のような気がしますがね~…」
エルフマンの訳のわからない咎(とが)めに、ルーシィとブランがツッコむ。
「うわぁ……」
「重いですよ、これ…!」
ここでルーシィと一緒にケースを持っていたキナナとウェンディが、その重さに驚く。女性とはいえ、3人掛かりでやっと持ち上がるというのはかなりの重さであろう…。
「僕が持ちますよ?」
「! ごめんね」
「ありがとうございます、レイルさん…!」
「よっと…!」
それを見たレイルが代わりにケースを持ち、それを近くのテーブルに置いた。
「なんだぁ、あいつ…」
「ルーシィの親戚っていうのも信憑性あるね。特にあのドタバタ感が……」
「プ、プゥ」
端からミッシェルの様子を見ていたナツとハッピーが若干呆れている中、ここでルーシィがようやく一番気になることについて尋ねる…。
「で、これは何なの?」
「…姉さんのお父様、ジュード・ハートフィリアの遺品」
「……!!」
ミッシェルの口から明かされた思わぬ正体に、大きく反応するルーシィ…。
「7年前までフィオーレ切っての大財閥であった“ハートフィリア財閥”の長……まさか、亡くなっていらしたとは…」
「ブラン」
「! 失礼しました、ルーシィ。私としたことが…」
「あ、ううん! 気にしないでいいよ、ブラン」
レイルに言われ、失言だったと反省するブランにルーシィはそう言う…。
「私、ジュード叔父さんの仕事を少しの間お手伝いしていたの。それで、ご臨終の間に立ち会うことができて……その時、あなたにコレを渡すよう頼まれたの」
「お父さんが…最後の時に……」
「行方不明だったあなたをずっと心配してたけど、きっと何処かで生きてるから…元気で帰って来るから、見つけ出して渡して欲しいって…眠るような、穏やかな最期だった…。その日から今日まで、ずっとあなたを探してたの」
ミッシェルの話を黙って聞く一同…。
「うおおお~~~んッ…!!!(泣)」
何処かの“漢(おとこ)”だけはウォンウォンと泣いているが…。
「やっと会えた…! これで、ジュード叔父さんとの約束が果たせる…!」
「………」
ルーシィはジッと置かれたケースを見る…。
「何が入ってるの…?」
「分からないわ。私はただ、このケースを渡すように言われただけだったから……」
ルーシィの問いに首を横に振るミッシェル。
「お父さん……」
すると…
「開けてみろよ」
「え…?」
「中見たらどうだ? コイツ、お前のことを凄え探してたんだろ? どんな大切なもん預けたのか、見てやってもいいんじゃねーか?」
「…うん」
そんなナツの言葉を受け、ルーシィはケースを開けた。すると、そこには……
『…?…』
「これは…?」
「何だこりゃ?」
包帯のような布で巻かれた何かが入っていた。これには当然全員が首を傾げる中、ルーシィがそれを持ち上げる…。
「! この布…」
「何か魔法が掛かってんな」
「さっき僕達が感じたのは、これですね…」
「ええ、間違いないかと」
ミッシェルが来る前に何かを感じたナツとレイル、そしてブランがそう結論付ける…。すると、
「………!!!」
「? シャルル?」
「どうかしたの? 顔色悪いよ?」
「…ううん…何でもない…」
ウェンディとハッピーの問い掛けにシャルルが動揺を隠そうと言葉を返す中、ルーシィはその布を取り、正体を明らかにする。それは奇妙な形をした棒状の物体だった…。
「え…? 何よ、これ…?」
「ジュード叔父さんが大切にしていた物…なのかしら…?」
「さあ、私も見覚えないと、思う…」
どうやらルーシィとミッシェルにも心当たりのない物らしい。
「う~~~~ん……武器だろ!!」
「違うと思う…」
ナツの予想にツッコむルーシィ。と、その時、
「思い出した!」
『!!』
ミッシェルの言葉に全員が注目する。
「やっぱり武器なのか?」
「いいえ…」
「! それじゃあ、一体…?」
それに対し、ミッシェルはこう答えた…。
「私…三日前から何も食べてなくて……/////」
ぐぅぅぅぅぅッ~~……
『……………』
暫し沈黙が起きたのは言うまでもない…。結局その物体が一体何なのかは分からず、ミッシェルはルーシィのアパートに泊まることとなった。ただ、レイルとブランはその物体と……ミッシェルに目を向けていることに気付いている者は、誰もいなかった…。
☆☆
次の日よりルーシィの頼みで、ミッシェルは妖精の尻尾で働くようになった。掃除・洗濯・料理等をこなしてくれるため、ギルドではかなり重宝されるようになっている。まあ、偶にとんでもない失敗やらもあるのだが…。しかしその頃、遥か彼方の離れた場所では確実に深刻な事態が進行しつつあった…。
「訳が分からん。炎上に崩落、今度は腐食とは…。各教区の距離と魔法の痕跡からすると、やはり複数犯としか思えんな…」
原型を留めない程ボロボロになった教会を前にそう呟くのは、検束魔導士部隊を率いているラハーンである。と、ここで、
「あ……あぁ……」
「あの者は?」
「外出していて、難を逃れたそうです」
その教会を前に崩れ落ちている関係者と思われる男について尋ねると、部下の検束魔導士が答えた。
「! 何? ここから遺体が発見されたと聞いたが…」
「はい…」
「この教会には確か、1人の司祭しかいない筈…。犠牲になったのは一体誰なんだ…?」
「それが…誰もいなかったの一点張りで…」
そうしてラハールが部下からの報告を聞いていた、その時だった…。
「お久しぶりです、ラハールさん」
「!!」
「だ、誰だ!?」
「! こ、子供…!?」
突如聞こえてきた声に驚く検束魔導士達だったが、その声の主を見ると更に驚く。何故ならそこにいたのは……1人の少年と、成人体格並みの黒いエクシードだったのだから…。
「あなたは…アスフォード元帥!!」
「総隊長自らここまでいらっしゃるとは、ご苦労様ですね~」
「センチュリオン大佐!」
目の前の少年とエクシード―――レイル・アスフォードとブランズ・センチュリオンを見たラハールが声を上げる中、
「アスフォードって…あの“レイル・アスフォード”か!?」
「あの“クロニクル”の最年少元帥…“神黒(しんごく)のレイル”…!!」
部下の検束魔導士達は一様に驚愕を露わにしていた。レイルの名が相当に有名であることが窺える…。
「ご無沙汰しています。ですが、何故御二人がこちらに……?」
「先日の新聞で教会破壊事件の担当が貴方だと知りましてね。ゼントピア関連ともあって、事件の状況が気になったものですから」
「それに僕達も今、何かと“話題の場所”にいるので」
「? “話題の場所”とは……?」
レイルの言葉を聞いたラハールが尋ねる。
「実は僕達、妖精の尻尾への同行を任務で行っているんです」
「! あの妖精の尻尾に……ですか!? 何故貴方程の方が自らあのギルドに……」
「あー……実は僕達にもよく分かってないんですよね。監視という訳でも無いですし……」
何かと評議院でも取り上げられるギルドの名にラハールが驚いて理由を尋ねてくるが、レイルは苦笑いを浮かべながら答えるに留まった……。
「それより……これは酷いですね」
「腐食による破壊ですか……。明らかに過去のものと手口が異なっていますね~」
「ええ、恐らく複数犯と思われますが……」
レイルとブランに自らの推測を伝えるラハール。どう考えても情報を他人に提供してしまっているようにしか見えない光景だが、相手のレイル達が明らかに立場の強い人間であるため、周りの検束魔導士達は特に口を挟もうとはしない……。
「今回の事件、僕はゼントピア側にも何かがあると考えています」
「! 被害を受けているゼントピアにも…ですか?」
「そうですね~。これだけの被害が出ているにもかかわらず、ゼントピア側には目立った動きが見られません。何かがおかしい……」
2人の言葉にラハールは先程の報告を思い出す。司祭1人しかいない破壊された教会から出た、“身元不明の謎の遺体”のことを……。
「レイル、そろそろ」
「うん、そうだね。捜査中なのにすみませんでした、ラハールさん。僕達はこれで失礼します」
「! そうですか…。出来ることならば、今回の事件に関してクロニクルの方々にも協力を要請したいところなのですが…」
「難しいでしょうね~。評議院のドマ議長は我々クロニクルに対して良い印象を持っていないようですし…」
「ええ…。オーグ導師がそれとなく提案をしてくださったのですが、議長は一貫して強行検束部隊のみでの解決を計りたいようで…」
「! そうですか、オーグ導師が…」
ラハールの話を聞いたレイルは思わず何とも言い難い表情を浮かべる…。
「もしかしたらこちらでも何か起こるかもしれません。ニルバーナや天狼島での一件も担当したあなたはよく知っているでしょうが…」
「…妖精の尻尾が、今回のゼントピアを揺るがしかねない事件に関わってくると…?」
「確証は勿論ありません。ただ…少し嫌な予感がするんです。とんでもない事態に繋がるような…そんな気が…」
「…………」
レイルのそんな言葉に対して何も口にしないラハール…。
「ではラハールさん、またいずれ何処かで。出来れば平和な時に再会したいですね~」
「はい…」
「…そういえば、以前話していた“あの人”は…」
「! いえ…。依然としてまだこちらには…」
「…そうですか…」
そして最後にそんな会話を交わしたレイルとブランは、今度こそその場を後にする。その際ラハールだけでなく、部下の検束魔導士達も揃って頭を下げて見送っていた。だが……レイルとブランの視線が“ある方”に向いていることに気付いている者は、他に誰もいなかった…。
☆☆
翌日、ギルドにて……
「成程のぉ~…」
「魔導士が魔導士に頼むなんて、聞いたことねえなぁ~!」
「上に依頼出しとけよ。こっちに依頼下ろしておくからさぁ」
「考えたわね、ルーシィ!」
久しぶりに戻ってきていたマカロフ、そしてワカバとマカオ、ミラがそう言った。どうやらルーシィはあの謎の遺品についてギルドに依頼を出すことにしたらしい。ちなみにこの提案をしたのはミッシェルとのこと…。
「うむ、誰が名乗りを上げるかのぉ~…?」
マカロフがそう言ってると、そこへ、
「おはようございます」
「ただいま戻りました」
「あ! レイルさん!!」
「おかえりなさい、2人共♪」
レイルとブランがそう言ってギルドへやってくると、ウェンディとミラが出迎えの挨拶をしてくれた。
「お~、レイルとブランか。上手くやってるようじゃの~」
「! マスターマカロフ!」
「お蔭様で、皆さんにはよくしてもらっております」
「うむ。なら何よりじゃ」
「いや、だからマスターは俺なんだけど…」
現4代目マスターが何か言っているが、ここは気にしないでおくべきであろう…。
「すみません、マカオさん。一日空けてしまって」
「ああ、それは別に問題ねえよ。お前等は一応うちの“協力者”って扱いだからな」
「でも、一体どこに行っていたんですか?」
「えっと、ちょっと昔の知り合いに会いにね。元気そうで何よりだったよ」
「ところで、今は一体何を…?」
ウェンディの質問にレイルが答える中、ブランが今の状況について尋ねる…。
「ギルドに依頼出すんだって?」
「許可降りたよ!」
ここでやってきたナツが、近くのテーブルに置いたケースを開けようとしているミッシェルに尋ねようとすると、ルーシィがそう言いながら駆け寄ってきた。
「遺品を包んでいる布の魔法も気になるし、ジュード叔父さんが何を伝えようとしたのか、姉さんのために何かしたくって」
「よーし! じゃあ俺が受けてやんよォ!!」
「壊しちゃダメだよ? 分かってる?」
「うるせえな! 分ーってるよ!!」
ミッシェルの話を聞いたナツがやる気満々な様子で見せるが、ハッピーの釘を差すような一言に若干不機嫌気味に答えた。そんな中……
「“引き合わせ”という奴かのぉ~…」
「家族を亡くした者同士、か……」
「しかし……ちゃっかり身元を探るとはの~。やりおるわい」
「これでもマスターだからな。こうやって何とか、7年やってきたからよー…」
新旧マスターがそんなやり取りをしていた…。
「もしかして、ミッシェルさんの素性を調べたんですか?」
「ああ。そういやお前は昨日いなかったから知らねえんだったな。後で教えてやるよ」
「助かります」
そこへ話を聞いていたレイルが尋ねてくると、マカオは詳細を伝えることを約束する…。
「(とはいえ……)」
「(他にも気になることがあるんだけど…)」
だが心の中ではマカオとシャルルが何処か疑問を感じており…
「…………」
レイルはミッシェルの方に僅かに視線をやっていた…。と、その時、
「あああっ!!!」
ドサッ!!!
「おいおいっ!?」
「だ、大丈夫!?」
ミッシェルが何度目か分からない転倒をして、思いきり持っていた遺品を床に放り落としてしまった。それを見て慌てて駆け寄ろうとするナツとルーシィだが……それは出来なかった……。
「むっ………!?」
「何だ………!?」
「これは、一体………!?」
その気配にマカロフとグレイ、更にはエルザが目を向けると、そこには……
「え……?」
突如勝手に回転をしながら浮かび上がる遺品の姿が……。そして、
ガコンッ!!!
針のような先端のある方を上にして、空中で縦に立った。しかもその表面には黄色い光による文字のようなものが浮かび上がっている…。
「何か浮かんできた…!!」
「文字だな…」
「古代文字ですね、間違いなく…」
その文字を見たルーシィとグレイが声を上げる中、レイルは一目で古代文字の一種であると判断する。
「それならレビィちゃんが……!」
「今はおらん。シャドウギアは仕事で遠出しておる。ついでにフリードもな」
「我々も古代文字についての知識は持ち合わせておりません。組織の解析部の方々であれば当然の如く分かるのでしょうが…」
ルーシィの思いつきに対し、マカロフとブランがそう言う。
「何かを伝えようとしている…?」
「お父さん…」
浮かび上がる文字をじっと見つめるミッシェルとルーシィ。
「じっちゃんもあの文字読めねえのか?」
「…………」
ナツの問いにマカロフは答えない。そして…
「ルーシィ、これには関わらん方が良い」
「僕もマスターマカロフと同意見です」
「っ!? どういう事!?」
マカロフだけでなくレイルまでもが忠告を出してきたことに、ルーシィは驚きを露わにするが、ここでレイルが更にこう付け加えた…。
「核心は勿論ありません。でも……これは僕たち人間の手に余る“何か”を孕(はら)んでいるように感じます。これに関わるのは…危険です…」
「……………」
レイルの真剣な言葉に何も言えないルーシィ。だが、それでも……
「(でもお父さん…この謎、絶対に解いてみせるから…!!)」
ルーシィは心の中でそんな決意を固めていたのだった…。