FAIRYTAIL~絶対なる黒龍戦記~   作:無颯

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後半戦です。

オリジナル展開有りで、ようやくレイルが魔法を使います。ただ戦闘については……殆ど無いに近いかと……。


では、本編をどうぞ。




黒龍の片鱗

会場では12時を迎えたことによって巨大な時計が開き、中にある7年に1度しか現れない指輪が御披露目されていた。そしてバルサミコ伯爵の“指輪を手にした者が娘と結婚できる”という話を聞いて、アチェート目当ての男達が一斉に指輪の置いてある場所へと向かっていく……。ちなみにこの群れの中に何故かエルフマンの姿もあったのだが………お前何しに来たんだよ、おい……。その一方で、

 

 

(レイルさん、まだ来ないのかなぁ……)

 

 

ウェンディは誘ってきた少年と踊りながらレイルが来るのを待っていた。ちなみにこの舞踏会の踊り場は設置された魔水晶(ラクリマ)によって浮き島のように浮遊する特殊なもので、その広さは2人が裕に踊れる程度のものである。と、その時だった……。

 

 

《ウェンディ、離れろ!! そのガキがベルヴェノだ!!》

 

 

「えっ!?」

 

 

ウォーレンの念話による突然の言葉に、驚いて思わず慌てて後ずさるウェンディ。すると目の前の少年は僅かに不気味な笑みを浮かべると、いきなり飛び上がり……

 

 

「変身、解除ォォォォッ!!」

 

 

「ええええええええっ!!??」

 

 

一瞬にして少年の姿からアフロヘアーが目を引くお目当ての男───ベルヴェノへと変わってしまった。その光景にウェンディは更なる驚きと同時に心なしか少しショックを受け、余計に後ずさる。

さて、ではここで1つ聞こう。2人分のダンススペースしかない足場でそんなに後ずさると

どうなってしまうだろうか……?

 

 

「あっ! きゃああああああああああっ……!!」

 

 

言うまでもなく“落下”である。しかもかなりの高さからであるため、来るであろう衝撃に思わず目を瞑ってしまうウェンディ。だが、その恐怖は杞憂に終わる………。

 

 

ポスッ!!

 

 

「ふぇ………?」

 

 

「大丈夫、ウェンディ!?」

 

 

「! レイルさん……!!」

 

 

ウェンディが目を開けると目の前には駆け付けたレイルが居り、しかも自分を抱きかかえながら空中に浮いていたのだ……。と、ここで、

 

 

「! あ、あの! 私達、どうして浮いて……!?」

 

 

「あ、落ち着いて! それはこれのお蔭だから……!」

 

 

「え……?」

 

 

ウェンディが“浮いている”としか思えない今の状況を理解して動揺し出すと、レイルは“あるもの”を指し示した……。

 

 

「! つ、翼……!?」

 

 

そう、それはレイルの背中から生えている“黒い翼”。しかもそれは羽のある翼ではなく、薄くも固そうで、尚且つ輝きのある実に“翼らしからぬ翼”だったのである……。

 

 

「え、えっ!? ど、どうしてレイルさんの背中から翼が!? ええっ!?」

 

 

「あ、えっと、こ、これは……」

 

 

益々混乱してしまったウェンディにレイルがちゃんと説明をしようとした、その時、

 

 

「天竜の、咆哮ォォォォッ!!」

 

 

『うわああああああああっ!!??』

 

 

ベルヴェノがウェンディからドレインした“天竜の咆哮”を使って突風を巻き起こし、あろうことか風によって飛ばされたバルサミコ家の指輪を見事に掴み取ったのだ……。

 

 

「へへへッ! バルサミコ家の指輪は、確かにこのベルヴェノ様が頂戴したぜ!!」

 

 

「ベルヴェノ………」

 

 

「おのれぇ!! 指輪を返せ!!」

 

 

盗人らしい決まり文句を口にするベルヴェノに対し、憤慨するバルサミコと、何処か複雑な表情を浮かべるアチェート……。

 

 

「! と、とにかく一旦降りるね? このままじゃ流石に不味いし……」

 

 

「え……? あっ……は、はい……//////」

 

 

言うまでもなく今の状況は“レイルがウェンディをお姫様抱っこしている”ようにしか見えない感じであり、ウェンディも顔を赤くしながら頷くしかない……。一方で、

 

 

「へっ! やーっと面白くなってきたぞ!!」

 

 

ナツが派手に暴れられると理解したのか、ベルヴェノの前に躍り出た。

 

 

「俺が相手だ!! 火竜の鉄拳ッ!!」

 

 

「ひっ……! 火竜の鉄拳ッ!!」

 

 

「何!?」

 

 

ベルヴェノが全く同じ魔法を繰り出してきたことに驚きを隠せないナツ……。

 

 

ドゴォォォォォォォォォンッ……!!

 

 

「ヤロォッ……! 火竜の咆哮ォォォォッ!!」

 

 

「ハッ……! 火竜の咆哮ォォォォッ!!」

 

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアンッ……!!!

 

 

「クソッ……!!」

 

 

「ひひっ! ダンスしてる間にお前の魔法もドレインさせてもらったのよ」

 

 

「なら、私が相手だ」

 

 

ここでエルザが選手交替をほのめかし、前に出てきた……。

 

 

「グレイ! エルフマン! アチェート殿を頼む!」

 

 

「任せろ!」

 

 

「漢だァッ!!」

 

 

更にグレイとエルフマンにアチェートの護衛を指示するエルザ……。

 

 

「換装! 煉獄(れんごく)の鎧ッ!!」

 

 

先に動いたのはエルザ。黒い大剣に黒い大鎧という重厚な装備を纏うが………

 

 

「換装! 煉獄の鎧ッ!!」

 

 

ベルヴェノも同じ武装を纏った。言うまでもないが、この武装はエルザが着ることを前提にしているものである。故に……全く以て似合っていない……。

 

 

「ふっ!!」

 

 

ガキィィィィィィィィンッ!!

 

 

「はあっ!!」

 

 

エルザの一振りを受け止め、尚且つベルヴェノはそのまま振り払う……。

 

 

「無駄だ! ここにいる妖精の尻尾のメンバーの殆どの魔法はコピー済みよォッ!!」

 

 

「ハッ、面白えッ!! モノマネ野郎がどこまでやれるか、とことん付き合ってやろうじゃねえか!!」

 

 

「僕も加勢します、ナツさん。コピーとはいえ、これ以上ウェンディの魔法を悪用させる訳にはいかないので」

 

 

そしてナツと共にレイルもここで参戦を表明するが……

 

 

「まぁ待てよ。俺はお前等と戦う為にここに来たんじゃねえ」

 

 

「え?」

 

 

「ああ?」

 

 

ベルヴェノはそんな2人に待ったを掛けてきたのだ。これにはナツとレイルを始め、皆思わず首を傾げる……。

 

 

「前回は失敗したが、更に7年間も辛抱して待ったのは………アチェート、お前にプロポーズするためだ」

 

 

「え………?」

 

 

「プロポーズ……!?」

 

 

「あの……詳しく聞いてもいいですか?」

 

 

ベルヴェノのまさかの言葉にアチェートだけでなくルーシィも声を上げる中、レイルがとりあえず詳細を尋ねた。

 

 

「お前とはガキの頃からの付き合いだったが……俺はずっと、お前に惚れてたんだぜ?」

 

 

「………………」

 

 

「使用人の息子だった貴様を、特別に娘の遊び相手にしてやった恩を忘れたか!!」

 

 

「ハッ! アンタに屋敷を追い出されてから、何度もアチェートに会いに行った。だが、アンタは身分違いを理由に、毎回門前払いしてくれたな!!」

 

 

「えっ!? パパ、私そんなの聞いてない!!」

 

 

「ええいっ!! お前は黙っていなさい……!!」

 

 

ベルヴェノの話を聞いたアチェートが驚いて問いただそうとするが、バルサミコは自棄気味にそれを遮る。

 

 

「俺もそのごもっともな理由で勝手にアチェートを諦めた。だがそのせいで心がすっかり荒んじまって、いつしか悪事に手を染め、気が付きゃこの通り刑務所暮らしよ……」

 

 

「………………」

 

 

(そういうことか……)

 

 

ベルヴェノの人生の一端を聞いて、アチェートは言葉を失い、レイルは事の経緯に納得する……。

 

 

「あいつ、何をゴチャゴチャと……!!」

 

 

「待て、ナツ」

 

 

「?」

 

 

まあ、状況を理解できずエルザに止められている人間もいるが……。

 

 

「でもよ! 務所の中でお前に気持ちをちゃんと伝えられなかったことをずっと後悔してた! だから俺は脱獄して、この7年に1度のチャンスに賭けたのよ!! しかも2度もなぁ!!!」

 

 

「………!!!」

 

 

そう言うとベルヴェノはアチェートの前に跪き……

 

 

「アチェート! 俺の嫁さんになってくれ……!!」

 

 

「そ、そんなもの、断るに決まってるだろうッ!!」

 

 

渾身のプロポーズの言葉を言いながら指輪を差し出した。当然ながら、それに対して憤りを露にするバルサミコ。そして、アチェートの答えは………

 

 

「はい♪」

 

 

「え……?」

 

 

『ええええええええええっ!!??』

 

 

『何ィィィィィィィィッ!!??』

 

 

「ほ、本当か!? 本当に俺の嫁さんになってくれるのか!?」

 

 

まさかの“OK”にプロポーズをしたベルヴェノも含め全員が驚きの声を上げる……。

 

 

「私もあなたを待ってたのよ、ベルヴェノ」

 

 

「ア、アチェート~~ッ!」

 

 

「ただし……」

 

 

「え?」

 

 

「自首して、罪を償ってからよ」

 

 

「………ああ、分かったよ……」

 

 

その言葉にベルヴェノが素直に従う態度を見せると、アチェートは左手を差し出した。するとベルヴェノはその行動の意味を悟り、彼女の左手薬指に指輪を填(は)める……。

 

 

「素晴らしいッ!!」

 

 

「はぁ?」

 

 

「ホント素敵!!」

 

 

「感動しました!!」

 

 

「だとよ」

 

 

「ああ! あれこそ漢だッ!!」

 

 

ナツは依然として理解できていないようだが、エルザやルーシィ、ウェンディ、そしてグレイとエルフマンはそれぞれ称賛の言葉を口にする。

 

 

「何だかなぁ……どわっ!?」

 

 

「2人の門出に拍手だ!!」

 

 

パチパチパチパチパチパチッ………!!!

 

 

イマイチ不完全燃焼なナツをエルザが押しのけてそう言うと、周りの人間達も皆一様に拍手を送る。会場内はまさに完全なる祝福ムードに包まれていた………。と、その時、

 

 

ガキィィィィィィィィンッ!!

 

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

響き渡る甲高い金属音。それは………突如アチェートに向かって飛んできたナイフが弾き飛ばされたことによるものだった。そして、その凶刃を防いだのは………

 

 

「出てきてください。もう隠れていても無駄です……」

 

 

レイルだった。右手に愛剣の“エコートレイサー”を手にしているところを見ると、どうやらそれでナイフを弾いたらしい。すると……

 

 

「チッ、何だよ。せっかくその女を真っ赤な血で染めてやれると思ったのに……」

 

 

「っ! 誰ッ……!?」

 

 

聞こえてきた声にルーシィが慌てる中、観衆の人混みをすり抜けるようにして1人の人物が姿を見せる。それは、やさぐれた印象を抱かせる痩せ細った白髪の男だった……。

 

 

「何者だ貴様は!?」

 

 

「あァ? 誰が名乗るかよ……(ギロッ!!)」

 

 

「! おい、こいつ……」

 

 

「ああ……凄えヤバそうな匂いがしやがる……」

 

 

エルザの問い掛けに苛立ちを露にする男の目を見て、直感的に相手の危険性を感じるグレイとナツ。

 

 

「やっぱり来ていたんですね、“ギルシュ・ゲーラ”」

 

 

【っ! ギルシュ・ゲーラ!?】

 

 

【ウォーレンさん、この人を知ってるんですか!?】

 

 

【ここ2、3年でかなりの人間の暗殺の依頼を受けて殺し、評議院から指名手配されてる男だ!!】

 

 

【それって……!】

 

 

【いわゆる“殺し屋”ってことじゃない……!!】

 

 

ウェンディに対して念話でウォーレンが答えると、ハッピーとシャルルは慌てて声を上げた……。

 

 

「何だ小僧、俺のことを知ってんのか?」

 

 

「ええ、闇ギルドにも所属せず1人で暗殺の仕事をこなしている人間は少ないですから……。標的は、バルサミコ伯爵ですか?」

 

 

「御名答~……」

 

 

「なっ!? わ、私だと……!!??」

 

 

狙いが自分であると聞いて、一気に顔を青くするバルサミコ……。

 

 

「何でも依頼してきた奴はそこのクソオヤジに相当恨みがあるみたいだぜ? まあつってもそんなことは俺にはどうでもいい……。真っ赤な血が噴き出す瞬間さえ見られれば、それで満足だからな~……」

 

 

「何なのよこいつ……狂ってる!!」

 

 

「ああ、こいつは絶対ぶっ飛ばさなきゃなんねえッ!!」

 

 

「しかも良い雰囲気を見事にぶち壊したからな……!」

 

 

「折角の2人の門出を台無しにしようとするとは……!!」

 

 

「漢として許さんッ!!!」

 

 

「あァ? やる気かてめえ等? まあ、妖精女王(ティターニア)と火竜(サラマンダー)の相手は面倒だが……」

 

 

「「「「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」

 

 

狂った笑みを浮かべる男──ギルシュが何か言っている間に、ナツ、グレイ、エルザ、エルフマンの4人が一斉に攻撃を仕掛け、ルーシィも聖霊の鍵を手にする。と、その時……

 

 

「問題ねえな……(ニヤッ)」

 

 

パチンッ!!

 

 

「「「「っ!!??」」」」

 

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

 

 

「ば、爆発!!??」

 

 

急に男が消えたかと思うと、突如として大爆発がナツ達4人を巻き込んで起きたのだ。あまりのことに驚くルーシィだが、ここで1つ尋ねたいことがある……。消えたギルシュは一体何処に行ったのか? 正解は………

 

 

シュンッ!!

 

 

「え……?」

 

 

「まずは1人……(ニヤッ)」

 

 

「ッ!? ウェンディッ!!」

 

 

後ろに下がっていたウェンディの目の前だった。ルーシィは咄嗟に行動をしようとするが、どうやっても状況を引っくり返すことは不可能……。そしてギルシュの手にしている短剣が迫ってくるのを見て、ウェンディは思わず目をギュッと瞑り……

 

 

ガキィィィィィィィィンッ……!!!

 

 

「! レイルさん……!」

 

 

「チッ、またてめえか……」

 

 

またしてもレイルがその凶刃を阻んだ。ギルシュは一旦後退して距離を取る……。

 

 

「くそッ……!!」

 

 

「何だったんだよ、今の爆発は……!?」

 

 

「恐らく魔法だと思うが……」

 

 

「間一髪だったぜ……」

 

 

「! よかった、皆大丈夫そうで……」

 

 

ここで爆発による土煙が晴れてナツ達の姿が見え、その様子を見たルーシィは安堵の言葉を呟く。すると、

 

 

「おやおや、もうすでに始まっていましたか」

 

 

「! ブラン、どうだった?」

 

 

「検束魔導士部隊が到着するまでは、最短でも2時間程掛かるそうです」

 

 

「そっか。分かった……」

 

 

何処からともなくブランが突如レイルの隣に現れてそんなことを伝え、それを聞いたレイルは動く……。

 

 

「ナツさん」

 

 

「あ?」

 

 

「ルーシィさん、グレイさん」

 

 

「!」

 

 

「エルフマンさん」

 

 

「!!」

 

 

「エルザさん」

 

 

「何だ? レイル」

 

 

「この人の相手は僕がします。アチェートさんとベルヴェノさんと伯爵、それと会場内の人達の守護を任せてもいいですか?」

 

 

『!!?』

 

 

レイルの提案を聞いたナツ達は一様に驚きを露にする。

 

 

「ちょっ!? レイル、それ本気で言ってるの!?」

 

 

「そうだぜレイル! 俺にも戦わせろーッ!!」

 

 

「そういう意味じゃないわよ!!」

 

 

どうやらルーシィとナツの考えは完全に違っているようである……。と、ここで、

 

 

「ナツ、今回はレイルに譲ってあげた方がよろしいと思いますよ?」

 

 

「? どういう意味だよ? ブラン」

 

 

「おや、皆さんは気になりませんか? “レイルの魔法が一体どんなものなのか”を……」

 

 

「! そういやー……」

 

 

「レイルが魔法を使っている姿を1度も見ていないな……」

 

 

ブランの言葉を聞いたグレイとエルザはふと思い当たる。レイルの魔法を知らないことに……。

 

 

「恐らくレイルは魔法を使うでしょう。そういう訳で、今回はレイルの魔法を知る良い機会と思っていただけませんか?」

 

 

「いや、けどよ……大丈夫なのか……?」

 

 

そんなエルフマンの不安に対し、ブランは一言こう口にした……。

 

 

「“この程度の相手”に、レイルが遅れを取るとでも……?」

 

 

「……そうだな。確かに、レイルの心配をするなど無用な気がしてきた……。では、我々は大人しく見物することにしよう」

 

 

「チェ~ッ、まだ暴れ足りねえんだけどなぁ……」

 

 

「いいじゃねえか。俺もレイルの魔法がどんなもんか気になってたしな。ここはお手並み拝見といこうぜ」

 

 

「1人で相手にしようとは……漢だ!」

 

 

「えっと、が、頑張ってね! レイル!」

 

 

ブランの説得を受け、ナツ達はアチェート達の守護のために下がった……。

 

 

「ウェンディ、君もナツさん達とアチェートさん達の守護を」

 

 

「で、でも……」

 

 

後ろにいたウェンディにそう言うが、言われた本人はレイルが心配なようで、不安そうな表情を浮かべている……。すると、それを見たレイルは……

 

 

ポスッ

 

 

「……////!」

 

 

「大丈夫。負けるつもりなんて毛頭無いから……。ね?」

 

 

「……はい……////!」

 

 

そんなウェンディの頭に右手をそっと乗せ、一言そう声を掛けた。実に短い言葉だったが、ウェンディはそれを聞いて安心したのか、すぐにナツ達のいる場所まで下がっていった……。

 

 

「……おい……てめえ、俺を嘗めてんのか?」

 

 

「……嘗めてるつもりなんてありません。ただ……あなたを相手にするなら、僕1人の方が良い……。そう思っただけです」

 

 

「……ハッ、ハハハッ! ああ、そうかい! よーく分かったぜ……。どうやらてめえは、余程俺にサッサと殺されてえらしいなぁ? 小僧……」

 

 

「………………」

 

 

気味の悪い笑い声を上げながらギルシュはそう言うが、レイルは何も答えない。そして………

 

 

「だったら望み通り………最初から全力で爆死させてやるよォォォォッ!!!」

 

 

ドガアアアアアアアアアンッ!!

 

 

「! やっぱりあの爆発って……!」

 

 

「魔法か……!!」

 

 

「ああ、そうだ!! この“爆発魔法(エクスプロード)”は術者の少ねえ希少な魔法だが、俺はその中でも爆発の速度と数を極限まで高めてる!! いつまで避けられるかなぁッ!? アハハハハハハハッ……!!」

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ………!!!!

 

 

絶え間無く追ってくる爆発の波を、ただ反応もなく器用に避けていくレイル。だが如何せん爆発の量が多いため、近付くことができないでいた。そして……

 

 

ダッ!!

 

 

「! ハッ、馬鹿が! これで終わりだ!! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 

ドガガガガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

 

 

『レイルッ!!!』

 

 

「レイルさーーーーーーんッ!!!!!」

 

 

跳躍したところで四方八方から爆発が起こり、あっという間にレイルの姿は爆発によって見えなくなってしまった。これにはウェンディを始め、ナツ達も思わず声を上げる……。

 

 

「ハッ! 所詮口先だけの小僧だったって訳か。あー、つまんねえー……」

 

 

と、その時だった……。

 

 

「誰が口先だけなんですか?」

 

 

「っ!?」

 

 

ザシュッ!!

 

 

「ぐあっ……!?」

 

 

そんな声と共に背後から浅く一太刀を受けたギルシュが慌てて後ろを振り返ると………そこにはエコートレイサーを手にしている“無傷”のレイルの姿があった……。

 

 

「ば、馬鹿なッ!? あれだけの爆発を受けて無傷だと!? 普通の防御魔法なんざ軽く吹き飛ばす程の威力なんだぞ!? 一体何しやがった……!!??」

 

 

「……自分で確かめてみたらどうですか?」

 

 

「くっ……!! 今度こそ死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ………!!!

 

 

怒りを露にしたギルシュは再びレイルに爆発を浴びせた。今回は1発に最大限の魔力を込めた最高威力のものであり、渾身の一撃とも言っていい攻撃。今度こそ仕留めたと思ったギルシュは思わず冷ややかな笑みを浮かべる。だが………

 

 

「なっ……!!??」

 

 

目の前の光景を見て、その笑みは一瞬にして消え去った。その目に映ったもの、それは………

 

 

「何だあれ……!?」

 

 

「黒い……金属?」

 

 

「けどよ、金属にしちゃ何か妙にキラキラしてねえか……?」

 

 

そう、それはレイルの前に立ちはだかる“黒いキラキラとした壁”だった。突如現れた奇妙な物体に思わず首を傾げるナツとルーシィ、そしてエルフマン……。

 

 

「お、おい! まさか…!!」

 

 

「やはりあなたは気付かれたようですね、グレイ。そうです。あれは造形魔法です」

 

 

「レイルも造形魔法を使うのか!?」

 

 

「で、でも一体何の造形魔法なの? あれって一体……」

 

 

ルーシィの言う通り、造形魔法にはそれぞれ特定の物が指定されている。だがレイルの造形魔法が一体どんな属性のものなのかが分からなかったのだ。すると…

 

 

「あれは“黒金剛”……いわゆる“ブラックダイヤモンド”と言えばよろしいでしょうか」

 

 

「ダ、ダイヤモンドーーーーッ!?!?!?」

 

 

ブランの口にした“ダイヤモンド”という単語に思わず声を上げるルーシィ……。

 

 

「今度は僕の番です。ブラック・メイク……」

 

 

一方こちらではレイルがついに動き、そう呟くと……

 

 

「針地獄(ニードル・クライシス)ッ!!!」

 

 

「っ……!!??」

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドッ……!!!

 

 

無数の鋭く巨大な針が大量に地面から現れ、さながら波のようにギルシュへと迫り始めたのだ。当然それを見たギルシュは慌てて跳躍し、回避するが……

 

 

「ブラック・メイク……」

 

 

「っ!? クソがッ……!!!」

 

 

あっという間にレイルは背後を取っていた。爆発魔法では間に合わないと判断したギルシュは、咄嗟に自らの得物である短剣で応戦し……

 

 

「三叉槍(トライデント)」

 

 

バキィィィィィィィィィィィィンッ……!!!

 

 

「……は……?」

 

 

レイルの黒槍の一閃によって粉々に砕かれた…。そんな戦いの様子を見ながら、ブランはナツ達にこう説明する…。

 

 

「ダイヤモンドはこの世界で最も固い物質です。例えシンプルな造形魔法でも、それによって生み出された武器はまず折れることのない不朽のものとなります。そして更にレイルは、一切構えずなくとも完全な造形魔法をする技能を身に付けました。故に……」

 

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ……!!!!!!

 

 

「グアッ……アッ……」

 

 

「あの程度の敵との相手など、レイルにとっては“戯れ”に過ぎません」

 

 

ほんの少しの間にギルシュは一瞬の内に地に堕とされ、無様に倒れていた。対して、ゆっくりと背中に黒い翼を生やしながら降りてくるレイルの方は一切の無傷……。

 

 

「ああ、ちなみにあの翼は黒金剛で出来ています。少なくともエクシードと同等の飛行能力はあると思いますが…」

 

 

【それ、オイラ達の存在が危なくない…?】

 

 

そんな補足を聞いて何となく危機感を感じているハッピーのことは置いておき……

 

 

「す、すごいです…!」

 

 

「ていうか瞬殺じゃない…!!」

 

 

「おいおい、マジかよ…?」

 

 

「マスターと互角以上というのは、伊達ではないということか…」

 

 

ウェンディやルーシィ、エルフマン、エルザはレイルの強さを目の当たりにし、思わずそんな言葉を漏らす。

 

 

「…………」

 

 

グレイは何も言わず、ジッとレイルを見ていたが……。と、ここで、

 

 

「ク…クソッタレ…が……!!」

 

 

「! あいつ、まだ動けんのか…!?」

 

 

「…………」

 

 

地に伏していたギルシュが苛立ちを露わにしながら立ち上がってきた。ナツは声を上げるが、レイルは何も言葉を口にしない…。

 

 

「ハアッ…ハアッ…今すぐ、ぶっ殺して……!」

 

 

「…1つ聞きます…」

 

 

「……!」

 

 

「どうしてアチェートさんを狙ったんですか…?」

 

 

「あァ……?」

 

 

レイルのそんな問いに、意味が分からないといった表情を浮かべるギルシュ…。

 

 

「あなたの標的はバルサミコ伯爵。アチェートさんを狙う必要はないはずです。それなのに、どうしてアチェートさんを真っ先に狙ったんですか?」

 

 

レイルの問いはもっともだった。確かに標的を無視して違う人物を先に狙うというのは、殺し屋の行動として明らかに不適切と言わざるを得ないものである。すると、それに対し…

 

 

「どうしてだァ…? イライラしたからに決まってんだろうがッ!!!」

 

 

「…どういうことですか…?」

 

 

「ハアッ!?!? あんな“訳の分からねえ恋愛ごっこ”なんざ目の前で繰り広げられたんだぞ!? 反吐(へど)が出るぜッ!! 俺と同類な人間を受け入れた“馬鹿女”を今すぐ殺してやりたかった・・たったそんだけの話だろうがッ!!!!」

 

 

そんなギルシュの罵倒の言葉に観衆の多くが怒りを覚えずにはいられなかった。中でもエルザに至っては、今にも首を跳ね飛ばさんとするような殺気さえ放っている…。

 

 

「だからてめえを殺した後で、クソジジィ含めて今度こそ馬鹿女を殺してやるよォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

だがそんな周りの雰囲気など一切感じていないギルシュは、叫びと共に残りの全魔力を込めた爆発魔法を発動しようとした…その時、

 

 

シュンッ!!

 

 

「は?」

 

 

「“黒竜”の……」

 

 

「なっ!?」

 

 

「えっ!?」

 

 

レイルの姿が一瞬にして消えたかと思うと、いつの間にかギルシュの目の前に移動しており、更に右拳を構えていた。だがナツとウェンディが驚きの声を上げたのは、レイルの呟いた1つの単語……。

 

 

「確かにレイルの“黒金剛の造形魔法”は所謂“古代魔法(エンシェント・スペル)”の一種と数えられる程の強力な魔法ですが、それだけであれば“元帥”という地位に就くことなどまずあり得ません。レイルが元帥として認められたのは、黒金剛の造形魔法の他に“もう1つの強力な古代魔法”を扱うことが出来たという点…。そう…」

 

 

そして……

 

 

「鉄拳ッ!!!!」

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ……!!!!!

 

 

「レイルはあなた方御二人と同じ“滅竜魔法”を扱える者…“漆黒の滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)”です」

 

 

舞踏会への2人目の乱入者は、レイルによる“竜殺しの一撃”を以てあっけなく沈められたのだった……。

 

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 

「ご苦労様です!! アスフォード元帥! センチュリオン大佐!」

 

 

「わざわざご足労いただき、ありがとうございます」

 

 

「い、いえ!! こちらこそ、今回の指名手配犯の確保、お見事です!!」

 

 

それからしばらくして、宮殿に到着した検束魔導士の部隊の隊長が跪きながらこの上なく畏まって話しているのは……言うまでもなくレイルとブランの2人である。

 

 

「その確保したギルシュ・ゲーラですが、諜報部からの情報によると、“革命派の貴族が今回の黒幕ではないか”とのことです。本部へ連行次第、諜報部と協力して追及を行っていただければよろしいかと…」

 

 

「はっ!! それでは、我々はこれで!!」

 

 

ブランがそう言うと、部隊の隊長と思われる男はそう返して部隊と共に去っていく…。

 

 

「お前が本当に偉い人間だってのがよく分かったぜ…」

 

 

「ああ、漢だッ!!」

 

 

「えっと…どういう意味か分からないんですけど…」

 

 

グレイに続いて言ったエルフマンの言葉に、思わず苦笑いを浮かべるレイル。一方、

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 

「馬鹿な女と言われてしまいましたが…それでも私は待っています、必ず」

 

 

「ああ、必ず迎えに行く。必ずな…」

 

 

ベルヴェノもアチェートとそんな言葉を交わし、2人の検束魔導士によって連行されていった…。

 

「後で評議院の方に掛け寄ってみようかな。ベルヴェノさんも改心したみたいだし」

 

 

「おやおや、中々の御節介ですね~」

 

 

「茶化さないでよ、ブラン…」

 

 

「クックックッ…!」

 

 

あ、ちなみに……

 

 

「あ、あの~…報酬の件は~……」

 

 

「そんなもの、払う訳無いだろうがーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

「や、やっぱり~~…!!(泣)」

 

 

ルーシィは激怒したバルサミコにそう言い渡されていた。だが実はギルシュによる暗殺を阻止したことで、その報酬金“400万J”がレイルに流れ込んでくることをルーシィは知らない……。

 

 

「よーし!! 色々あったが、今宵はアチェート殿の幸せを願って踊り明かそうではないかッ!!」

 

 

『オーーーーッ!!』

 

 

エルザのそんな口上を聞いて、会場の皆が踊り出す。先程まで外にいたウォーレンやハッピー、シャルルもいつの間にか参加している。

 

 

「さて、我々はどういたしますか? レイル」

 

 

「え? あー、でも“どうする?”って言われても……」

 

 

と、そこへ、

 

 

「レ、レイルさん……!」

 

 

「! あ、ウェンディ! どうしたの?」

 

 

「えっと、その………/////」

 

 

やってきたのはウェンディだった。しかも何か言いた気な様子である……。

 

 

「ふむ、どうやら私は邪魔なようですねぇ……。レイル、エスコートはしっかりとしてあげるものですよ?」

 

 

「え?」

 

 

「あ………/////」

 

 

そんな状況を見たブランは、そう言ってスーッとその場から引いていった。で、その結果、当然レイルとウェンディが残されると、ここで………

 

 

「えっと、じゃあこうすべきなのかな……?」

 

 

「……!」

 

 

レイルがようやく右手をウェンディへと差し出す。

 

 

「Shall we dance?」

 

 

「レイルさん……はい! I’d love to/////!」

 

 

ウェンディがその手を喜んで取り、2人はゆったりとしたテンポで踊り始めた……。

 

 

「色々あって遅くなっちゃったけど、その衣装、凄くウェンディに似合ってるよ」

 

 

「ふぇっ///////!? あ、ありがとうございます、レイルさん……///////」

 

 

「うん、どういたしまして」

 

 

更に軽く和やかな会話も挟んでいると……

 

「あの、レイルさん……!」

 

 

「ん?」

 

 

「今日は本当にありがとうございました///! 2度も助けてくれて……」

 

 

若干恥ずかしがりながらも、精一杯のお礼を伝えるウェンディ……。

 

 

「でも、まさかレイルさんも同じ滅竜魔導士だったなんて……」

 

 

「あー……ゴメンね? 別に隠すつもりとかは無かったんだけど……」

 

 

「い、いえ! だけど、どうしてレイルさんからは竜(ドラゴン)の匂いがしないんですか? ナツさんも気付かなかったみたいですし……」

 

 

「それについては僕も分からない。ただ僕の竜“黒竜ブラノメキス”は、生まれてすぐにいなくなったみたいだから……」

 

「! それじゃあ……」

 

 

「うん……一体どんな竜(ドラゴン)だったのか、全然分からないんだよ……」

 

 

「あ……ご、ごめんなさい……」

 

 

聞いてはいけないことだったと感じたのか、ウェンディは思わず俯(うつむ)きながら謝罪するが……

 

 

ポスッ

 

 

「あ……////」

 

 

「気にしなくていいよ。それに今は楽しく踊る時間だし……まだ僕と御一緒してもらってもいいかな? ウェンディ」

 

「レイルさん……はい♪」

 

 

こうして、舞踏会は夜が明けるまでずっと続くのだった………。

 


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