FAIRYTAIL~絶対なる黒龍戦記~   作:無颯

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ようやく原作……というよりアニメ通りの流れに移ります。今回はあの話の前編です。


では、本編をどうぞ。




魔法舞踏会

まさかの邂逅から数日後……マグノリアの外れにあるギルド“妖精の尻尾(フェアリーテイル)”は実に平和だった……。

 

 

「ごめんなさいね、2人共。朝から手伝ってもらっちゃって」

 

 

「いえ、このくらいなら全然……!」

 

 

「我々も丁度暇でしたからね~」

 

 

中のカウンターでミラの食器の片付けを手伝っているのは、最近ギルドの仲間……というより“同行者”となったレイルとブランである。まず初めに言っておくと、僅か数日で2人は完全にギルドに馴染んでいた。まあ、理由としては両者共にとりあえず人格面等に殆ど問題がない点などが挙げられるが、最大の理由は2人合わせて“3つ”挙げられる……。

 

 

「レイル!!」

 

 

「! おはようございます、エルザさん」

 

 

エルザがギルドへやってきたかと思うと、物凄い勢いで真っ先にレイルの前のカウンター席に座り……

 

 

「今日も何かあるか!?」

 

 

「あ、はい。軽いもので良ければ……」

 

 

そう言って何かを作り始めるレイル。そして数分後………

 

 

「じゃあ、今回はこれで」

 

 

「おぉ……!」

 

 

エルザの前に出されたのはスープ碗に入った“ある食べ物”だった。とろみのある汁からは湯気と柔らかな甘い匂いが漂い、その中には小粒の豆と白い練り物が入っている………遥か東の国の甘味料理“汁粉”である……。

 

 

「ふぅ………」

 

 

「どうですか?」

 

 

「これも美味い……そして落ち着くな……」

 

 

「気に入ってもらえたようで何よりです」

 

 

「ふふっ、すっかりレイルの作るデザートがお気に入りね、エルザ♪」

 

 

まず第一の理由はこのレイルの料理の腕である。中でもデザートに関してはギルドの女子全員が“今まで食べてきた中で一番美味しい”と口を揃えて絶賛。特にエルザに至ってはこうして毎日レイルに頼んでおり、最近は“餡子”を使ったデザートがすっかり気に入っているらしい……。

 

 

「でもあの時は本当に驚いたわ。まさかレイルが料理上手だったなんて」

 

「クロニクルでは給仕役をよくしていましたからね~。こういった遥か東洋の国の料理も、クロニクルにいる仲間からレイルは教わっています。ですがこういったデザート類が得意になった理由は、私にも分かりかねますが……」

 

 

「あら、いいじゃない♪ スイーツを作れる男子なんて、とっても貴重よ♪」

 

 

さながらパティシエのようにエルザにデザートを振る舞うレイルを見て、ミラとブランがそう話していると……

 

 

「ブラン」

 

 

「! おやおや、これはフリードさん。おはようございます」

 

 

「ああ」

 

 

今度はブランに誰かが話しかけつつ、前のカウンター席に座ってきた。彼の名はフリード・ジャスティーン。緑の長髪が目を引く冷静沈着な男である……。

 

 

「今日も頼めるか?」

 

 

「分かりました。少々お待ちください」

 

 

先程のエルザとは違い、落ち着いた様子でフリードがそう尋ねると、ブランもまた何か作業をし始める。そして数分後……

 

 

「お待たせしました」

 

 

「ふむ……昨日とは違った香りだな」

 

 

「ええ、今日は豆を変えてみましたので」

 

 

「ほぉ、そうか。では……」

 

 

ブランがフリードに出したのは、木製のマグに入った苦味のある独特な香りのする黒い飲み物……そう、“コーヒー”だった。するとフリードは香りを確かめながら一口含むんで、一言………。

 

 

「……何処と無くフルーティーな味わいだな」

 

 

「ええ。南方の高所地域が原産のもので、柔らかな苦味とフルーツのような酸味と甘味が特徴です」

 

 

「……これも素晴らしい味だ。感謝するぞ、ブラン」

 

 

「いえいえ、あなたのコーヒーのセンスはレイル並みのようですからね~。こちらとしても御出しする甲斐があります」

 

 

ブランの言葉を聞きながら、珍しく顔を少し綻ばせてゆったりとコーヒーを飲むフリード……。

 

 

「おはようフリード。今日もブランのコーヒーを飲んでるのね」

 

 

「ああ、すっかり気に入ってしまった。レイルに聞いた時は半信半疑だったが、ブランの淹れるコーヒーがここまで絶品だったとはな……」

 

 

「あはは、まあ会ったばかりの人には“ブランがコーヒーの達人”だなんて絶対分かりませんからね……」

 

 

「御二人共、コーヒーを淹れなくてもよいのですか?」

 

 

「あ! ご、ごめんブラン! それは勘弁して……!」

 

 

「ふむ、それは俺としても困るな。先程の発言は訂正しよう」

 

 

「ふふっ、2人共本当にブランのコーヒーが好きなのね♪」

 

 

既にお分かりかと思うが、この“ブランの達人級のコーヒーセンス”が第二の理由であり、ギルドの中でも比較的年長者達が入れ替わり立ち替わり飲みに来ているのだ。中でもフリードはブランのことをレイルから聞いて以来、こうして毎朝飲みに来ている……。

 

 

「それにしても、2人共あっという間にギルドに慣れたみたいね」

 

 

「そうですね。まあ、皆さんにとっても良くしていただいてますから」

 

 

「居心地の良さは間違いありませんからね~」

 

 

とまあ、こうしてレイル達が馴染んでいる理由をここまで2つ挙げた訳だが、何だかんだ言っても“最後の理由”が最も大きかったりする……。

 

 

「おはようございます、ミラさん!」

 

 

「! ええ、おはようウェンディ♪」

 

 

ミラに挨拶をしてきたのは白い服と青のツインテールが特徴の少女──ウェンディ・マーベルだった。すると……

 

 

「おはよう、ウェンディ」

 

 

「! あ、はい! おはようございます、レイルさん♪」

 

 

続いて挨拶をしてきたレイルに対し、ウェンディは健気に御辞儀をしながら明るく挨拶を返した。そう……最大の理由とは“ウェンディがレイルを凄く慕っている”点である。

レイル達がやってきた次の日から、ウェンディは何かとレイルと共にいるようになったのだ。更にそんなウェンディをレイルは優しく気に掛けており、その様子を見たギルドの女子達からは“本物の兄妹みたい”と言われるようになったのである。そしてそれ以来、こうして2人で一緒に居る光景はすっかり当たり前のものとなっていた……。

 

「今日もエルザさん達に何か作っていたんですか?」

 

 

「うん、まあね」

 

 

「ホントによく毎日作るわね」

 

 

「あ、おはようシャルル。君も“いつもの”はいる?」

 

 

「そうね、頂くわ」

 

 

その後すぐやってきたシャルルにそう尋ねると、今度はすでに作っておいたらしく、レイルは何かを手際よく皿に盛り付けて彼女の前に出す。それは……

 

 

「はい、いつものバナナケーキ」

 

 

「ありがと………相変わらず美味しいわね……」

 

 

「どういたしまして」

 

 

素直にレイルの出したデザートを褒めるシャルル。彼女は男性全般を今でも比較的軽視しているのだが、実はレイルに対しては大分態度を軟化させている。まあ、彼がウェンディにとっての命の恩人で彼女がとてもよく懐いているのもあるのだが、何よりもどうやらこの“バナナケーキ”が態度軟化の最大の理由らしい……。端から見れば“餌で釣られたのでは?”と思われるかもしれないが……。

 

 

「いや~、“朝は”平和ですね~……」

 

 

「確かに“朝は”平和ね。でも、もうそろそろその平和を台無しにしちゃう人間が来る頃だけど……」

 

 

ブランのそんな発言を聞いたシャルルが思わずそう呟いた時だった……。

 

「仕事だ仕事ーーーッ!!!」

 

 

「アイサーーーーッ!!」

 

 

「ほら、噂をすれば」

 

 

 

☆☆

 

 

 

ギルドに来たやる気満々のナツとハッピーは、真っ先に依頼書の貼られている掲示板へと向かう……。

 

 

「何にすっかな~……」

 

 

「ナツ! これなんかどう?」

 

 

「お、なになに……お尋ね者のベルヴェノを捕まえれば、400万J(ジュエル)の賞金かー……」

 

 

ハッピーが目を付けて持ってきた依頼書の内容を見て考えるナツ。すると……

 

 

「いいわねー、その仕事! 私も丁度お金無くて困ってたし、それにしましょ!」

 

 

「ルーシィ~、オイラ達の仕事勝手に決めないでよ~」

 

 

「まあいいじゃねえか、ハッピー。俺達はチームなんだし」

 

 

「じゃあ、今回の私達の仕事はこれに決定ね!」

 

 

いつの間にか来ていたルーシィの財布事情を含めた独断により、あっさりと決まってしまった……。

 

 

「でもこの依頼って、確か前にグレイが行こうとした奴よね?」

 

 

「7年前は確か40万Jだったはずだけど……」

 

 

「この7年で一気に跳ね上がったんだな」

 

そんな感じでナツ達3人……ではなく“2人と1匹”が話していると……

 

 

「お前等、ベルヴェノを捕まえに行くのか?」

 

 

「おお、まあな!」

 

 

「何か知ってるの!?」

 

 

「確かそのベルヴェノって奴が今度、バルサミコ伯爵の屋敷で開かれる魔法舞踏会に現れるって噂を聞いたぜ」

 

 

「? 魔法舞踏会?」

 

 

「魔導士だけが参加できる舞踏会で、7年に1度開かれるんだとさ。確かそいつが今度の土曜日だ」

 

 

「にしてもバルサミコって、何か酸っぱそうな名前だなー!」

 

 

近くにいたワカバとマカオの情報を聞いて、思わずそんなことを言うナツ。まあ言うまでもなく、“バルサミコ酢”を連想してしまったせいだが……。と、そこへ、

 

「おやおや、バルサミコ伯爵ですか。これはまた随分と有名な方の名前が出てきましたね~」

 

 

「! よう! レイル、ブラン!」

 

 

「ウェンディもおはよう♪」

 

 

「あ、はい! おはようございます、ルーシィさん♪」

 

 

「シャルル~!!」

 

 

「朝からうるさいのは相変わらずね……」

 

 

そんな話を聞いていたのか、レイルとブラン、更にウェンディとシャルルもやってきた……。

 

 

「ところで2人共、バルサミコ伯爵を知ってるの?」

 

 

「ええ、まあ。伯爵という地位を持つ貴族の中では割と有名な方ですから……」

 

「貴族には王国に対して賛同的な”保守派”と批判的な“改革派”の2つの派閥があるのですが、バルサミコ伯爵は保守派の中でもかなり古株な立場を持つ御方なのです」

 

 

「要するに、貴族の中でも結構偉い人ってこと?」

 

 

「えっと……まあ、凄く簡単に言うとそういうことかな……」

 

 

ルーシィの問いに対するレイルとブランの説明を聞いてそう纏めるハッピー。何だか説明が一切無駄になっているような気がするのは……気のせいだろう、うん……。

 

 

「おっ! なあレイル、ウェンディ! この仕事、お前等も一緒に来るか?」

 

 

「え?」

 

 

「いいんですか、ナツさん?」

 

 

「人探しなんだから、人数多いに越したことはねえだろ? なあ、ルーシィ?」

 

 

「そうね~、確かに2人が来てくれると有り難いかも! どう、2人共?」

 

 

「あ、はい! 大丈夫です!」

 

 

「僕とブランも平気ですよ?」

 

 

「おっしゃあっ!! んじゃあ早速その酸っぱい伯爵の所に行くぞーーッ!!」

 

 

「アイサーーーッ!!」

 

「酸っぱい伯爵って、あんた達ねぇ………」

 

 

ナツとハッピーの発言に大いに呆れるシャルル。と、ここで、

 

 

「あの……行くのって舞踏会の会場なんですよね?」

 

 

「? ああ、らしいな」

 

 

「それがどうかしたの?」

 

 

「! そうよ! 舞踏会に参加するってことは、ダンスの練習をしなきゃ!!」

 

 

「何ィっ!!?」

 

 

「ダ、ダンス~!?!?」

 

 

レイルの言わんとしていることに気付いたルーシィの発言に、ナツとハッピーは思わずそんな声を上げる。という訳で………

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

「じゃあ、まずは基本のステップからね。はい、手を組んで」

 

 

「しょうがねえな~……」

 

 

ギルドのすぐ脇にある広場でダンスの練習をすることとなったナツ達。その様子を見て……

 

 

「ナツ兄達、何してんだ?」

 

 

「“ソシアルダンス”だよ!」

 

 

「ソシアルダンス? 何だそれ?」

 

 

「えっと、“ソシアルダンス”っていうのは……」

 

 

ロメオがそう尋ねてきたので、レイルが説明しようとするが……

 

 

グッ!!

 

 

「痛あああああっ!!??」

 

 

「なはは、悪い悪い~……!!」

 

 

「要するに、足踏みゲームみたいなもんか!」

 

 

「ち、違うと思うけど……」

 

 

「完全に違うわよ、どう見ても」

 

 

踊ってる2人のやり取りから盛大な勘違いをしてしまった。これにはいつの間にかやって来ていたキナナとシャルルも思わずツッコむしかない……。

 

 

「“ソシアルダンス”っていうのは、男女がペアになって舞踏会とかで行われる踊りのことよ」

 

 

「いわゆる“社交ダンス”というものです。まあ、交流手段の一種と言ってもいいでしょう」

 

 

「「へぇ~……!」」

 

 

ミラとブランの解説に興味深そうな声を上げるロメオとキナナ。すると……

 

 

「お! 何だ何だ!? 面白え遊びしてんじゃねえかッ!!」

 

 

「いや、遊びじゃないから!!」

 

 

「俺も混ぜろォォッ!!」

 

 

「ギャアアアアアアッ!!? あんたもうその時点で失格ーーーッ!!」

 

 

ドゴッ!!!

 

 

「アアアアア~~~……!!!」

 

 

「グレイさん、あなたはとりあえず服を脱ぐ癖を直さないと踊ってもらえないと思いますよ……?」

 

 

グレイが上裸になりながら迫ってルーシィに蹴り飛ばされたのを見て、苦笑い気味にそう呟くレイル。

 

 

「グレイ様、あんな女と一緒に踊ろうとするなんて……(ゴゴゴゴゴッ!!)」

 

 

「ふぇっ!? ジュ、ジュビアさん……?」

 

 

ここで明らかに嫉妬のオーラ全開で入り口のドアに隠れているジュビアに気付き、思わずウェンディが驚くと……

 

 

「グレイ様が踊ってくれるなら! ジュビア、脱ぎます!!」

 

 

「「! おおっ////!!」」

 

 

「どうやら彼にはパートナーがいない危険性は無いようですね、レイル」

 

「う、うん。まあ、何か明らかに間違ってる気がするけど………」

 

 

ついでにあからさまにジュビアに期待の眼差しを送るオヤジ2人も気にしない方がいいだろう……。

 

 

「ほぅ、ソシアルダンスか……」

 

 

「ッ!? エ、エルザ!?!?」

 

 

「ならばかつて“ダンスの鬼”と呼ばれた私が練習の相手になってやろう、ナツ」

 

 

「い、いや~、べ、別に結構です……!」

 

 

「フッ、遠慮するな。ダンスとは……」

 

 

キィィィィィィィィンッ!!

 

 

今度はエルザが現れたかと思うと、お得意の“換装魔法”で瞬時にダンスの衣装へ着替えたかと思うと……

 

 

「気合いだッ!!」

 

 

「どわああああああああああああああああっ!!???」

 

 

「どうしたナツ!! 気合いが足りんぞッ!!」

 

 

「ききき、気持ち悪ッ……うぉぉぉぉぉぉッ……!!」

 

 

「エルザと踊った相手は必ず気持ち悪くなる! “ダンスの鬼”と呼ばれた理由が分かった気がするよ……(ブルブルブルッ!)」

 

 

「えっと、そもそもこれってダンスじゃない気が……」

 

 

「ふむ、“人間回し”と呼称した方が正しそうですねぇ」

 

 

独楽(こま)の如くナツを回すエルザを見て、思わずそんなことを呟くハッピーとレイル、そしてブラン。だが……

 

 

「もう、しょうがないな~。じゃあ私が代わってあげる!」

 

 

「い、いや、ちょっと休ませてくr」

 

 

その様子を見ていたリサーナが話しかけてきた。まあ、言わなくてもこの後の展開は分かりますよね……?

 

 

「どわああああああああああああああああっ!!!??」

 

 

「いいわよ~ナツ! 肩の力が抜けて良い感じよ~!」

 

 

「ぬ、“抜けてる”というより全身の力が“入らない”状態な気がするんですけど……?」

 

 

「というかあなたもですか、リサーナさん……」

 

 

リサーナまでナツを回し出し始めたことにウェンディとレイルは思わず顔が引きつりそうになった……。と、そんな様子を見て、

 

「だらしねえなぁ!! それでも漢(おとこ)かッ!!」

 

 

「! 次はお前だ!! エルフマン!!」

 

 

「……は……?」

 

 

余計なことを言った人間の末路は………

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?? お、漢ォォォォォォォォォォォッ………!!」

 

 

無論エルザの無限回転地獄の刑である……。そんな中、

 

 

「口は災いの元ですねぇ、クックックッ……!」

 

 

「君がそれを言うのはどうかと思うんだけど……」

 

 

「おやおや、そうでしょうか? ところでレイル、あなたもそろそろ練習を始めてもよろしいのでは?」

 

「あ、うん、そうだね。じゃあ……」

 

 

ブランの提案を受けたレイルは、1人の人物の前に右手を差し伸べる。その相手とは………

 

 

「Shall we dance?」

 

 

「え……?」

 

 

「えっと……踊ってくれるかな? ウェンディ」

 

 

「あっ……///!」

 

 

ウェンディだった。そしてそれに対する彼女の返答は………

 

 

「はい////! I’d love to……!」

 

 

そういう訳でダンスを始めるレイルとウェンディ。するとそれを見て……

 

 

「へぇ~! レイルとウェンディって踊るの上手だね!」

 

 

「ていうか、レイルの方が異様に慣れてる気がするんだけど……」

 

 

2人の上手さにハッピーが呟く中、シャルルはむしろ非常に様になっているレイルに違和感を覚えていた……。

 

 

「まあ、当然でしょう。レイルは“ナンパが趣味のある上官”によく無理矢理いくつもの舞踏会に連れられてしまっていましたからねぇ。嫌でも慣れたと思いますよ?」

 

 

「……随分どうしようもない上官を持ってるのね」

 

 

「ですが能力はとても優秀なんですよ?」

 

 

「尚更性質(たち)が悪いじゃない……」

 

 

シャルルのその上司に対する印象が一気に地に落ちたのは言うまでもない……。

 

 

「俺達も踊ってみようぜ!」

 

 

「うん!」

 

 

皆のダンスに看過されたのか、ロメオとキナナもペアを組んで踊り始めた。その一方で、

 

 

「お嬢さん、俺と踊ってくれませんか?(キリッ)」

 

 

「ふふっ、いいですよ♪」

 

 

「おっしゃあッ!!」

 

 

「てめえ!! どさくさに紛れて汚ねえぞ!!」

 

 

「うるせえ! 退けぇッ!!」

 

 

「お前こそ!!」

 

 

「父ちゃん………」

 

 

マカオがミラを誘っているのを見たワカバが突っ掛かってきたために喧嘩が始まってしまった。そんな醜態を曝す父親に思わず呆れるロメオ。で、その結果、

 

 

「あなたもダンス上手なのね、ブラン」

 

 

「一応作法として身に付けている程度です。あなた程ではないと思いますよ?」

 

 

「そう? ありがとう♪」

 

 

「「な、何ィィィィィィィィィッ!!??」」

 

 

まさかのブランに相手役を奪われてしまっていた。そして案外似合っているのがまた何とも言えない……。あ、ちなみにこのような光景はレビィとガジルを巡って争っていたジェットとドロイにも見られている……。

 

「ダンスなら私に任せるでアル!」

 

 

「ビスタ、あんたのダンスは違う」

 

 

「はっきり言って邪魔だ」

 

 

「ガーーーーンッ!!!」

 

 

リサーナとエルザの強烈な一言に沈んでいるエスパー野郎については………言うまでもなくどうでもいい……。

そんなこんなで、この日は何故か皆できっちり“ソシアルダンス”の練習をしていたのだった……。

 

 

「? ウェンディ、どうかした?」

 

 

「あ! な、何でもないです……//////」

 

 

「??」

 

 

ウェンディが終始顔を赤くしていたのは……多分気のせいである……。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

魔法舞踏会の開催当日の夜、レイルやナツ達は会場となる“バルサミコ宮殿”に到着した………。

 

 

「着いたーーーッ!!」

 

 

「ここで魔法舞踏会が行われるのね……」

 

 

山奥にあるとは思えない不釣り合いな大きさの宮殿に、思わず声を上げるルーシィ。ちなみにこの場にいるのは、レイル、ブラン、ウェンディ、ナツ、ルーシィ、ハッピー、シャルル、グレイ、エルザ、エルフマン、ウォーレンといった面々である……。半分近くの人間がダンスを目的にしているのは言うまでもない……。と、ここで、

 

 

ガコッ!

 

 

「どちら様ですか?」

 

 

不意に扉が開くと、出てきたのは赤い服を着た茶髪のロングへアーが特徴の女性だった。

 

 

《うわっ! すっげえ美人!!》

 

 

「って、そんなこと一々念話しなくていい!!」

 

 

要らんことをわざわざ伝えてくるウォーレンにツッコむルーシィ。完全なる能力の無駄遣いである……。

 

 

「あんたは?」

 

 

「私はこの宮殿の主バルサミコの娘で、アチェートといいます」

 

 

《舌噛みそうな名前~……》

 

 

『ウォーレンッ!!!!!』

 

 

懲りずに念話してくる馬鹿にレイルとウェンディ、ブラン以外の面々が思わずキレる………。天よ、何故こいつに“念話”という能力を持たせたのですか……?

 

 

「俺は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツだ!」

 

 

「我々は、貴公の父君からの依頼を受けて来たのだが……」

 

 

「あ、それなら聞いています! ではご案内致しますね」

 

 

ナツ達がギルドの人間だと分かったアチェートは、あっさりと全員を中へ通した。

 

 

「ここは僕達の正体は伝えない方が良さそうだね(ボソッ)」

 

 

「ええ。無用な誤解を招く可能性もありますし、伏せておくのが賢明でしょう(ボソッ)」

 

 

「? あの、どうかしたんですか? レイルさん」

 

 

「あ、うううん! 何でもないよ!」

 

 

まあ、こんなやり取りもあったりはしたが………。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

応接間にて………

 

 

「私が依頼主の………バルサミコ伯爵だッ!!」

 

 

そう名乗りを上げたのはアチェートの膝の上に座っている、子供のように背の小さな男性。この人物こそ、バルサミコ伯爵である……。

 

 

「だはははっ!! 名前も酸っぺえけど……!!」

 

 

「顔も酸っぱいね!」

 

 

「あんた達ちょっと黙ってて!!」

 

 

失礼千万な発言をするナツとハッピーに怒るルーシィ。

 

 

「実際にお会いするのは初めてですが、まさかこのような人物だったとは………クックックックッ……!(ボソッ)」

 

 

「ブランまで……」

 

 

何気に失礼なのがもう1人……。そんな中、伯爵が本題へと入る。

 

 

「早速仕事の内容だが、依頼書に書かれたものより、ちぃと複雑でな……」

 

 

「聞かせてもらおう」

 

 

「ここにいる超美人の私の娘の事なんだが……」

 

 

「シタカミーさんだっけ?」

 

 

「アチェートさんですよ、ナツさん……」

 

 

2度目の失礼千万な発言にサラッと訂正を入れるレイル。すると……

 

 

バゴォォォォォォォォォンッ……!!!

 

 

「すまない、続けてくれ」

 

 

エルザの左ストレートによってナツは即座に壁に沈んだ。まあ、当然である……。

 

 

「今回行われる魔法舞踏会は、実は娘の婿を決めるためのものでな」

 

 

「ええ~っ!? お婿さんを!?」

 

 

「なるほど、そういう事情を孕んでおりましたか」

 

 

バルサミコの話を聞いたルーシィは驚き、対してブランは納得の意を表す。

 

 

「その際、7年に1度だけ披露される指輪がある。それがバルサミコ家に代々伝わる大切な指輪なのだ!!」

 

 

「では、ベルヴェノはその指輪を狙って?」

 

 

「うむ。実はベルヴェノは7年前にも指輪を狙い、失敗しておる。お蔭で婿選びも台無しになってしまった」

 

 

「しかし、ベルヴェノはこの風(ふう)で、いくら変装して舞踏会に紛れても、すぐにバレるのでは……?」

 

 

エルザが抱いた疑問を即座に尋ねる。

 

 

「奴は変身魔法と“マジカルドレイン”の2種類の魔法を使うのだ」

 

 

「! 2種類の魔法を……?」

 

 

「それにマジカルドレインって、何だそりゃ?」

 

 

「触れた魔導士の魔法を短時間だけ複数コピーできる魔法ですねぇ」

 

 

「かなり稀少な魔法です。僕も使える人間は初めて聞きました」

 

 

聞いたことのない魔法についてのナツの問いに、ブランとレイルはそう答えた。

 

 

「へぇ~! 中々やるじゃねえか!!」

 

 

「君達の力を結集し、ベルヴェノから指輪を守るのだ!! 此奴を取っ捕まえて、再び牢獄に送り込んで欲しい!!」

 

 

「任せておきな!」

 

 

「ご期待には必ず応える!」

 

 

ナツを始め、エルフマンとエルザもやる気を見せる中………

 

 

「それであの~……ベルヴェノを捕まえたら、依頼書に書いてある通り……」

 

 

「うむ。キャッシュで400万Jを払おう」

 

 

「やったぁーッ!!(グッ)」

 

 

「ル、ルーシィさん……」

 

 

「あははは………」

 

 

ルーシィは報酬に関する確認をキッチリしていた。その様子に思わず苦笑いを浮かべるウェンディとレイル。と、その時、

 

 

「ッ………!」

 

 

「? レイルさん……?」

 

 

「あ、ご、ごめんウェンディ。何でもないよ」

 

 

「??」

 

 

瞬時に後ろを振り向いたレイルを見て、思わず首をかしげるウェンディ。だが彼からそう言われたため、その後は特に気にすることはなかった……。一瞬そのレイルとブランが真剣な眼差しで目配せしているとは知らずに……。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

女子更衣室にて………

 

 

「完璧、エビ!」

 

 

「うふふっ♪ 可愛すぎて私がプロポーズされちゃったらどうしよう……!」

 

 

そんなことを言いながら1人用のモダンな更衣室を出るルーシィ。格好は赤いドレスを身に纏っている。ちなみに髪型のセットを行ったのは、黄道十二門の一角である精霊“キャンサー”。どう考えても蟹がモデルなのに語尾が“エビ!”なのかは謎だ………。

 

 

「ルーシィ、準備はできたか?」

 

 

「うわっ!? 何でそんな本気モードになってんの!?」

 

 

「仕事とはいえ、舞踏会に参加するには最低限の礼儀だ」

 

 

続いて出てきたのはエルザ。紫のドレスを身に纏った姿は、舞踏会への意気込みをそのまま表していると言っていいだろう……。そして、

 

「私、大丈夫かな……?」

 

 

「ウェンディ! 凄く可愛いよ!!」

 

 

「で、でも……ちょっと恥ずかしい……///////」

 

 

最後に出てきたのはウェンディ。ピンクのドレスの上に赤いケープを羽織って髪留めも少し違うものにしており、彼女の容姿を最大限に活かしていた……。

 

 

「さあ!! 舞踏会の幕は上がった!! 我々もステージに上がるぞッ!!!」

 

 

「エルザ、お芝居の時と同じ位ノリノリ!!」

 

 

真っ赤な炎のようなオーラを纏いながら声を上げるエルザに、驚きを露にするルーシィ。端から見ると“戦場に乗り込む兵士”にしか見えないのは、恐らく気のせいではない。しかしそんな中、ウェンディはというと……

 

 

(レイルさん、褒めてくれるかな、この服………////////)

 

 

この場にいない少年のことを思い浮かべながら、そんなことを考えていた。ともかく、こうして準備を終えた3人は会場へと向かう………。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

3人が会場へ到着すると……

 

《ウォーレン、ベルヴェノらしき奴は?》

 

 

《監視魔水晶(ラクリマ)で会場全てを調べてるんだが、今のところ見当たらねえなぁ……》

 

 

エルザに念話で報告するウォーレン。彼は今、ハッピーやシャルルと共に会場の外で監視魔水晶を通して中を見ている。

 

 

《怪しい奴が居たらすぐに教えるよ!》

 

 

《それまではなるべく自然に振る舞って》

 

 

ハッピーとシャルルがそう言っていると、ここで、

 

 

《あれ? ブランはどうしたの?》

 

 

《ブランは宮殿内の会場以外の場所を探しに行ってる。監視魔水晶1つじゃ、全部を調べられないからな。じゃあ、あとは頼んだぞ!》

 

 

《了解した》

 

 

ルーシィの問いに対しウォーレンはそう答えると、そのまま一旦念話を止めた……。

 

 

「ところで、ナツ達は……?」

 

 

「! いました……!」

 

 

ウェンディが指差した先には、グレーのスーツを着たエルフマン、ウェイターの格好をしたナツ、そして黒のスーツに赤のシャツ、更に黒のネクタイ姿のグレイの姿があった。しかし………

 

 

「レイルの姿が無いな」

 

 

「! 本当だ……どうしたのかしら?」

 

 

「私、ちょっとナツさん達に聞いてきます」

 

 

「分かった。では、私とルーシィは行動する」

 

 

とりあえずルーシィとエルザはそれぞれ別行動を始め、ウェンディはナツ達のもとへ向かう。

 

 

「! おう、ウェンディ! どうしたんだ?」

 

 

「あの、レイルさんは? 居ないみたいですけど……」

 

 

「あー、レイルの奴なら“念のために会場以外の場所を調べてくる”って言ってたぜ?」

 

 

「まあ、その内に来るだろ」

 

 

「! そうですか……」

 

 

グレイとエルフマンの言葉を聞いたウェンディは、少し残念そうな表情を浮かべる……。

 

 

(レイルさんに見てもらいたかったのに……)

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

「ブラン、どうだった?」

 

 

「こちらは特に何もありませんでした」

 

 

「そっか……」

 

 

一方のレイルは、ブランと共に宮殿内を探っていた。ちなみにレイルの服装は黒いスーツにネクタイはせず、代わりに普段から身に付けている黒いマフラーを巻き、中はワインレッドのシャツという感じである……。

 

 

「応接間に居た時に感じた視線………やはり気になりますか?」

 

 

「うん……ちょっと気になる話も聞いてるから、余計にね」

 

 

と、ここで、

 

 

ゴーンッ! ゴーンッ……!

 

 

「! どうやら12時のようですねぇ」

 

 

「流石にそろそろ会場に行かないとだね」

 

 

鐘の音を聞いてレイルとブランが会場へ向かおうとした、その時だった……。

 

 

【んッ……! ん~ッ……!】

 

 

「! ブラン……!」

 

 

「聞こえました。あの更衣室からでしょうか……?」

 

 

微かに声が聞こえてきたため、2人はすぐさま出所と思われる1人用の更衣室へと駆け寄って中を見てみると、そこには……

 

 

「っ!! 大丈夫ですか!?」

 

 

縄で縛られ、口も白い布で塞がれている少年がいた。それを見たレイルは直ちに少年の拘束を解く……。

 

 

「何があったんですか!?」

 

 

「そ、それが、舞踏会の前にアフロヘアーの男に捕まって……!!」

 

 

「! ベルヴェノですね」

 

 

「うん……! 《ウォーレンさん!!》」

 

 

《今こっちも監視魔水晶で見た!! 待ってろ!! 今探す!!》

 

 

話を聞いたレイルはウォーレンを念話で呼ぶと、ウォーレンは状況を把握しているらしく、早速舞踏会にいる少年を探し始めた……。

 

 

《あっ……!!》

 

 

《! 見つけましたか!?》

 

 

《野郎、ウェンディと一緒にいるぞッ!!》

 

 

《なっ……!?》

 

 

ウォーレンの報告を聞いたレイルは思わず驚きを露にした。そして………

 

 

「ブラン!!」

 

 

「分かっています。会場へ急ぎましょう」

 

 

全速力で舞踏会の会場へと向かっていくのだった………。

 

 

 

 


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