少しばかりオリジナルな設定を入れてみました。
また、アニスの口調があまり定まってません。こんな感じだっただろうか…(汗)
では、本編をどうぞ。
「っ……はっ…!!」
ナツが目を覚ますと、そこにいたのは……
「メェーーンッ……(キラキラッ!!)」
巨大なイケメン(?)の顔があった…。
「どわああああああああっ!?!?」
ガァンッ!!!
「「ぬお(ごふ)っ!!」」
あまりの光景に驚いて飛び起きた結果、見事にそのイケメン―(?)―――一夜・ヴァンタレイと額をぶつけ合うナツ。と、そこへ、
「ナツ! 気が付いた!?」
「あがががッ…! あれ? ここ何処だ!?」
「“青い天馬(ブルー・ペガサス)”だよ!!」
「青い天馬!?」
ハッピーの口から出た良く知るギルドの名に、ナツは驚きを見せる。
「私の香り(パルファム)、覚えていてくれたかな?」
「助けてくれたのか…? あ、皆は!?」
「心配めさるな。“殆どの者”が気を失っていただけさ。大きな怪我も無いから、少し休んでもらっているのだよ。メェーンッ!」
「! そっか…」
と、ここで、
「あ~ら~ッ! ナツ君も起っきしたの~?」
カウンター内にいる1人の男がナツに声を掛けてきた。この男は“青い天馬(ブルー・ペガサス)”のマスター・ボブ。言うまでもないが、俗に言う“オネエ系”の人物である…。
「ナツ!」
「いつまで寝てやがんだよ? ったく…」
「お前もちゃんと礼を述べろ」
更にカウンター席にはルーシィ、グレイ、エルザの3人が座っており、それぞれナツに声を掛ける…。
「どういうことだよ?」
「それについては私が説明します」
「! ブラン!」
ナツの疑問に声を上げたのは、いつの間にかやってきていたブランだった。
「あの大爆発で私とレイル、ジェイド、ガイの4人以外は全員気絶してしまっていましてね~。我々も流石にこれだけの人数を運ぶ手段はありませんでしたので、どうしたものかと悩んでいた所に魔導飛行艇で駆け付けて来たのが、彼だったという訳です」
「そっか…。ありがとな」
「共に戦った仲だ。礼などいらんよ」
礼を言うナツに対し、そう返す一夜。
「良い男がい~っぱい居るんだし、花と散らすのは勿体無いものね~…!」
「あはは、そういえば……」
「グレイちゃんの介抱、アタシがしたのよ~♪」
「…言うんじゃねえよ…(ガクガクッ!)」
ルーシィが苦笑いを浮かべる中、そう発言するボブに震えながら文句を言うグレイ。
「感謝します、マスターボブ」
「添い寝もしてもらってたよね?」
「いや~ん♪」
「言うなあああああああッ!!!」
エルザが感謝を述べているのを他所(よそ)に、ハッピーのカミングアウトにグレイは精神的ダメージを受けて叫んでいた…。その際ジュビアがボブに対し、怨念の混じったオーラを放っていたのは言うまでもない…。
「キラキラした奴等はどうした?」
「ヒビキ達は別件で、他国に行っているのだよ。メェーンッ…!」
「リオンは?」
「一夜が“蛇姫の鱗(ラミアス・ケイル)”に運び込んでくれたんだ」
ナツの問いには一夜が、グレイの問いにはエルザがそれぞれ答える…。
「レギオン隊は?」
「あの大爆発の後には、既に気配が消えていました。恐らく、すぐにその場を離れたのでしょう」
「そうか…」
「? どうしたの?」
「あいつ等、好き放題やりやがって…次はぶん殴るッ!!」
ブランの推測を聞いたナツの様子を見てルーシィが尋ねると、ナツは“新生・六魔将軍(オラシオンセイス)”やジョゼ達を頭に受けべながら決意を表した。これにはどうやらルーシィ達も同意見のようである…。
「六魔将軍の復活は、私もレイル君達から聞いたよ。力を貸そう」
「頼りになる」
「! そういえば、レイル達はどうした?」
「レイル達はウェンディと共に、別室にいます」
「? ウェンディと?」
一夜とエルザがそんなやり取りをする中、ナツはブランの返答を聞いて疑問を感じた。すると、
「あのレイルの親友の女の子を、ウェンディが治療してるのよ」
「確か、“アニス”っていったよな…」
「治療は終わったのか?」
「もう間もなく終わるかと。ですが我々の予測通り、彼女は相当量の魔力を失っていました」
ルーシィとグレイがナツにそう説明した。そしてエルザの問い掛けに、ブランは若干厳しい表情でそう答える…。
「やはり、あの時のマスターと同じか…」
「まさか、こんな所でまたファントムの奴等と会うことになるとはな…」
「そいつは俺達の台詞だ」
「! ガジル! ジュビア!」
エルザとグレイが話していると、ここでガジルとジュビアが間に入ってきたことに驚くルーシィ…。
「お前等、何か心当たりねえのか?」
「ある訳ねえだろ。“幽鬼の支配者(ファントム・ロード)”は7年前に間違いなく解散した…」
「ええ…。今更あの六魔将軍と協力する理由なんて、とても思いつきません。一体何が…」
ナツの質問に対して、ガジルとジュビアはそう答える。
「何より問題は、その目的だ…」
「はい…」
そしてエルザとブランが深刻な様子で呟いていると、ここで、
「! あれ? ミッシェルは?」
「外の空気吸ってくるとか言って、出てったぞ?」
ルーシィが自称“妹”だというミッシェルの姿が無いことに気付くと、グレイがそう言った。すると…
「…私、ちょっと行ってくる…!」
ルーシィはそう一言伝え、出て行った。更に…
「…………」
「おや、どうしましたか、ナツ?」
「…俺もちょっくら行ってくる」
「あ、オイラも~!」
ナツもブランが尋ねる中、ナツとハッピーも続いてその場を後にしていったのだ。
「ルーシィの後を追っていったようだな」
「恐らくは。見かけによらず、気に掛けるタイプのようですね~」
それを見たエルザがそう言うと、ブランも同意しながら呟く。と、そこへ、
ガチャッ!
「! おや、どうやら終わったようですね~、レイル」
「うん、ついさっきね」
ナツ達と入れ違うように、レイルとウェンディ、そしてジェイドがやってきた。
「あの、今ナツさんとハッピーが何処かに行ってしまったんですけど…」
「ルーシィとミッシェルの様子を見に行ったみたいだぜ? しばらくすれば戻ってくるだろ」
「そうですか」
先程ナツ達を見たらしくウェンディがそう尋ねると、グレイがエルザとブランの予測をそのまま伝えた。
「それで、そちらの様子は?」
「外傷に関しては既に完治したといって良いようです。意識もその内回復するでしょう。ですが魔力の回復には、少しばかり時間を要すると思われます」
「すみません、魔力の回復は私にも……」
「ウェンディが気にする必要なんてないよ。普通なら、治療そのものだって中々難しいんだから…」
エルザの問い掛けにジェイドが答える中、少し落ち込むウェンディをレイルが軽く慰める…。
「ガイの奴はどうした?」
「アニスの所に残ってもらっています。意識が回復次第、様子を見て事情を聞かなければなりませんので」
「そうか」
続いてグレイトそんなやり取りをするジェイド…。すると、
「色々と状況を整理したい所でしたけど…ナツさんやルーシィさん達が帰ってきてからの方が良さそうですね」
「ああ…」
レイルの提案にエルザが同意し、その後はしばらく各自で休息を取ることになった…。
☆☆
しばらくして……
ガチャッ!
「あ、ルーシィさん、それにミッシェルさんも…!」
ルーシィとミッシェルが戻って来たことに、ウェンディが気付いた。すると…
「おやおや、何やら慌てているようですね~」
「みたいだね……。どうしたんですか、ルーシィさん?」
「もう一度、『星空の鍵』を読み直してみる!」
「? あの絵本をか…?」
ルーシィの様子を見てレイルが尋ねると、ルーシィはそう言って今回の重要なキーとなっている絵本『星空の鍵』を読み返し始めたのだ。そしてグレイが首を傾げる中、しばらくすると……
「ッ…………!!!」
「? どうしたんだよ、ルーシィ?」
ルーシィが何かに気付き、深刻な表情を浮かべ出した。それを見ていつの間にか戻っていたナツが尋ねると……ルーシィはこう呟く…。
「そうか……ダメなんだ…」
「っ! 今、何と言った…?」
「分かった…分かったのよ…! 集めちゃダメって事だったのよッ!!!」
「何?」
「どういうこった…?」
エルザの確認の問いに、思わず立ち上がりながら声を大きくして答えるルーシィ。これにはエルザとグレイも疑問を感じざるを得ない…。
「だからッ! “それを集めてはならない”ってことだったの! この本に込められたメッセージは、そういうことだったの…! 時計の部品……集めちゃいけなかったのよ……!!」
「それじゃあ、まさか私達……」
「逆のことをしていたってことですか…?」
「エンジェルが言っていたのは、そういうこと? オイラ達が集めるのを待っていたって…」
「そのようね…。あのイメージは、“警告”だったのよ…」
搾り出すように話すルーシィの言葉を聞いて、各々そう口にするミッシェル、ウェンディ、ハッピー、シャルル…。
「私、読み解いたつもりで、調子に乗って……。ごめんなさい……皆……お父さん……! ごめんなさい……!!」
そしてルーシィが後悔の念に苛(さいな)まれながら、悲痛な声で謝罪の言葉を述べ始めた…その時だった……。
「本当に、そうでしょうか…?」
「え……?」
そんな重苦しい雰囲気の中で割って入ってきたのは…レイルだった…。
「本当に今のこの状況は、間違ったものなんでしょうか?」
「? あの、どういうことですか、レイルさん…?」
待ったを掛けるようなレイルの発言を聞いて、ウェンディが思わず尋ねる。すると、
「それに答えるには、まずどうしても確認したいことがある…」
「? 確認したいこと…?」
「うん…」
ハッピーが首を傾げる中、レイルがある人物に目を向けた。それは…
「ジェイドさん、あなたに聞きたいことがあります」
「…何でしょうか、レイル?」
「あなたは今ルーシィさんが導き出した『星空の鍵』の本当のメッセージ…“部品を集めてはならない”ということに、最初から気付いてましたね?」
『なっ(えっ)!!??』
レイルの口から飛び出した質問の内容に、驚きを露わにする一同。中でもルーシィは特に驚いていた…。更に、
「そして僕の予測が正しければ…あなたはルーシィさんの父親、ジュード・ハートフィリア氏と面識があった…。違いますか?」
「えっ!!??」
「お、お父さんと…!?」
続いて放たれた質問に、ミッシェルとルーシィは驚愕した…。
「…何故そのように思われたのですか?」
「あなたが今も持っている『星空の鍵』が、あなた個人の私物だとガイさんから聞いた時に思ったんですよ。失礼かもしれないですけど、ジェイドさんが絵本を私物で持ってるとは思えなかったので…」
「なるほど。確かに失礼ですねぇ」
「すみません…。それに少し調べた所、あなたとジュード氏は同郷だった。幼少期から“バルフォア博士”として名を馳せていたあなたと、若くしてフィオーレ1の大財閥を築いたジュード氏が面識を持っていたとしても、不思議はありません…」
「………」
「ましてジェイドさん程の人が絵本の意味を捉え間違えるなんてこと、絶対に無いと思ったんです。だとすれば、可能性は1つ…“分かっていて、敢えてそれを口にしなかった”と考えた訳です…」
レイルは推測に至った経緯を話し終えた。すると…
「やれやれ…流石ですね、レイル。あなたには度々驚かされます」
「やはり事実なのですね?」
「“おおよそは”と言っておきましょう。今回の一件に関する私の予測も、当たったとは言えませんから…」
ブランが確認するように尋ねてきたのに対し、若干お茶を濁すような形で返すジェイド。
「ジュード氏と最初にお会いしたのは、私の名が広まり始めた頃です。彼は実に聡明な方でしたので、当時は度々顔を合わせていましたし、私の研究の資金援助をして頂いたこともありました。こう言うのもなんですが、私は貴女やあなたのお母様とも何度かお会いしていますよ?」
「っ!? そ、そうなんですかッ!?」
「まあ、覚えていないのも当然でしょう。当時のあなたは非常に幼かったですから。そういえば、ジュード氏の似顔絵を私に見せてきた際、私が『これまでに見た絵の中で最も出来の悪いものだ』と微笑みながら言ったら、あなたが大泣きして大騒ぎになったということもありましたね~。いやはや、実に懐かしい」
『……………』
(む、昔からそういう性格だったんですね、ジェイドさん…)
ジェイドの悪びれも無い発言を聞いた瞬間、その場にいた妖精の尻尾の面々は一様に苦笑いやら引きつった笑みを浮かべ、レイルは思わず心の中でそんなことを呟いた。まあ、ルーシィに至ってはそこに幼い自分の過去に対する恥ずかしさも相まって、何とも微妙な表情をしているが…。
「ですが、私がカーティス家の養子として迎え入れられることになった後は、すっかり疎遠になってしまいましてねぇ。奥様の死や財閥の解体などの話も、殆ど風の噂で耳にしていた程度です。実際、私も彼の最期には立ち会えていませんので」
しかしジェイドが続けてそんな話をすると、今度は皆一様に真剣に耳を傾け始めた…。と、ここで、
「でも、ジェイドさんはその前に一度、ジュード氏と会っているんじゃないですか?」
「っ!!?」
「そして、その絵本はその際に“ジュード氏から直接手渡されたもの”……違いますか?」
「…ええ」
レイルの問いにルーシィが驚く中、ジェイドはあっさりとそれを肯定した…。
「2年程前、彼が突如私の下を訪ねてきたのです。どうやら私の所在を色々な伝手(つて)を伝って調べたらしいのですが、何せ20年ぶりの再会でしたので流石の私も驚きました。そして、彼はこの本を私に手渡しながら、こう言いました……
『いずれこの本が重要な鍵を握る出来事が起きる…。その時はどうか、私の娘達に力を貸してあげて欲しい』
と……」
「えっ…!?!?」
「勿論、私も既にあなた方の失踪については把握していましたので、そのことを彼に尋ねました。しかし、彼は…」
『娘は必ず帰ってくる、必ずだ。だから…頼む…』
そう断言し、自ら頭を下げてきたのです。それを見た私は、思わずその頼みを引き受けていました。そしてそれから2年経った現在…こうして彼の言ったことは現実に起きています…」
「おい、ちょっと待て。ってことは……」
「ルーシィさんのお父さんは、何が起こるのかを予想していたってことですか…?」
続けてジェイドが話した内容にルーシィがより驚きを露わにする中、それを聞いたグレイとウェンディはそう結論付けた…。
「そうなりますねぇ…。レイルから連絡を受けた際には、驚きを隠しきれませんでした」
「では、あなたが今回の一件に協力を申し出たのは…」
「ええ、それが理由です。さて………」
ジェイドはブランの言わんとしていることを予想して先に答えると、ルーシィの下へと向かった…。
「これは私の個人的な見解ですが、我々はまだ途中にいるのではないでしょうか?」
「? 途中…?」
「ええ。先程も言ったように、あなたの御父上はとても聡明な方でした。この絵本は、大人が誤った方向にミスリードされる可能性の高い、少々特殊な書き方をした絵本のようです。詳細こそ知らなかったとはいえ、あの方がこのような絵本を用いて、今回のような重大な問題に関するメッセージを託すでしょうか?」
「っ! お父さんは、私達が間違って時計の部品を集めることも、予想していたってこと…?」
「確証は全くありませんがね。ですが、私には…あなたの御父上の望みがこの先に待っているように思えてなりません。謝罪の言葉を述べるのは、まだ早いのではないですか…?」
ルーシィにそう話すジェイドは、普段の皮肉かつ鬼畜な一面など一切感じさせない、実に真剣な表情を浮かべていた。と、ここで、
「何かよく分かんねえけど、要するに“勝負はこっからだ”ってことだろ?」
「えっと…大分ザックリとはしてますけど、そういうことになりますね」
「ヘッ! なら分かりやすくていいじゃねえかッ! 燃えて来たぞ!!」
レイルが苦笑いを浮かべながら言うと、ナツは闘気を漲(みなぎ)らせ始めた。更に…
「まあ、そうだな。六魔将軍の奴等と決着付けてねえし…」
「ああ、このまま引き下がるなどあり得ん…。ここまで関わった以上、徹底的に喰らい付くまでだ!」
「そうですね!」
「アイッ!」
「まぁ、“乗り掛かった舟”だし、仕方ないわね」
グレイとエルザもそれに続き、ウェンディやハッピー、シャルルも頷いた…。
「ルーシィ、お前も燃えて来たんじゃねえか?」
「……うんッ…!!」
そしてナツのそんな問いかけに対し、ルーシィも先程までとは一転してやる気に満ちた返事をした…。
「だが、私達の敵は六魔将軍だけではない…」
「幽鬼(ファントム)の奴等か?」
「ああ。もっとも今の奴等は、“幽鬼の支配者(ファントム・ロード)”とは呼べんだろうがな…」
ここでエルザとグレイが話題に上げたのは、六魔将軍に次いで現れた者達──旧幽鬼の支配者の面々のことだった。
「レイル、お前から見て奴等の強さは正直どうだった?」
「…恐らく、六魔将軍(オラシオンセイス)よりも更に上だと思います。特にあの男…ジョゼの強さは比べ物になりません」
「うええっ!?」
「でも、あんた達の戦ってる様子を見ると、納得するしかないわね…」
エルザの質問に対してレイルが素直にそう答えると、ハッピーは驚きを露にし、シャルルは険しい表情を浮かべながらも同意した。
「詳細は分かりませんが、少なくともイオン様が現在彼等の手中にあるというのは事実でしょう」
「ってことは、連中の目的の1つはそのイオンって奴なのか?」
「そう考えるのが妥当でしょう。もっとも、何故イオン様を狙うのかについては依然として不明ですが…」
そして、ジェイドの話を聞いたグレイがブランとそんなやり取りをしていた、その時…
「目的は多分、“イオン様の魔法”だよ」
『ッ!!』
突如そんな声が聞こえてきたため、部屋に居た者達は全員その声の方向に目を向ける。すると、そこにいたのは…
「アニス!!」
“黒髪のツインテール”と“褐色の肌”が目を引く小柄な少女──アニス・タトリンの姿があった。更に彼女の隣にはガイも立っている。
「気が付かれたのですね、アニス」
「ついさっきね~。久しぶり、レイル、ブラン」
「随分と元気そうですねぇ、アニス。もう動いてもよろしいのですか?」
「大佐~、私もそんなに柔じゃないですよ~。といっても、実はちょっとだけ無理してたりするんですけどね…」
ブランとジェイドの問い掛けに対し、中々軽い口調で話すアニス。だが確かに彼女の言う通り、彼女の笑顔には何処となく無理な様子が窺えた…。
「悪いな、俺も一応止めたんだが…」
「構いませんよ、ガイ。少々気掛かりではありますが、むしろタイミングとしては丁度良いです」
「大佐~! これでも私病人みたいなもんなんだし、もうちょっと気を使ってくださいよ~!」
「無理をしているとはいえ、それだけ声を張れてるのであれば問題ありません。それに先程自身のことを“柔じゃない”と言ったのは、どこの誰でしたか?」
「うっ…」
ジェイドの一言を受け、思わず苦い表情を浮かべるアニス。すると、
「さて…そろそろ本題に入るとしましょう。アニス、分かっていますね?」
「! はい…。“何があったか”ってことですよね?」
「ええ」
「でも、正直私もあんまり覚えてなかったりするんですよぉ…。イオン様と教会に向かってる途中で、おもいっきり不意討ちされちゃって…」
ジェイドにそう尋ねられたアニスは、先程までとは一転して申し訳なさそうに答える。
「教会に向かう途中で?」
「うん、いきなり後ろにあの太った大男が現れて…」
「“魔力を吸収された”…という訳ですか」
レイルが確認するように聞くと、アニスはそう答えた。そして、ブランがその後の展開を予測して言うと…
「大佐…」
「何ですか、アニス?」
「私…“導師守護役(フォンマスター・ガーディアン)”失格ですよね? イオン様を拐わせちゃったんだし…」
「! アニス…」
アニスが顔を俯かせながら、そんなことを聞いてきたのだ。どうやら相当に責任を感じているようで、これにはレイルも驚きを露わにする。それに対し聞かれた当のジェイドは…
「そうですねぇ。確かに護衛役としては紛れもない失態です。職務を解任されても文句は言えないでしょう」
「っ! 流石大佐ですね~。そんなにサラッと言われちゃうと、私も何も言い返せないですよ~…」
キッパリとアニスの非を指摘したのである。それを聞いたアニスは返しの言葉こそ軽いものではあるが、色々な意味で“堪(こた)えている”のは明らかだった…。
「ですが…まあ、今回はこうして戻ってきただけ良しとするべきでしょうねぇ」
「ふぇ…?」
「後はあなたの今後の行動次第です。処分はそれからでも遅くはないでしょう」
しかし、その後ジェイドがそう言うと、アニスは思わずキョトンとした表情を浮かべた。更に、
「確かにイオンのことはあるけど…とにかく今は、こうしてアニスが良くなったことが何よりだからね」
「ったく、俺達も結構心配したんだぞ?」
「ええ、まったくですね~」
レイルとガイ、ブランもジェイドに続き、アニスに声を掛ける。
ポスッ
「っ……」
「おかえり、アニス」
そして、レイルがそんな言葉を掛けながら頭を撫でると…
「…私を…子供扱い、しないでよ…」
「あはは、ごめんごめん」
アニスはレイルの胸に顔を埋めつつ、途切れ途切れな声で文句を口にした。それに対し、レイルは軽くそう返しながらも撫で続ける…。そんな状態が、ほんの少しだけ続いた…。
しばらくして……
「すみませんねぇ。すっかり皆さんを放っておいてしまいました」
「気にしなくていい。先程のような時間を邪魔する程、私達も野暮ではないつもりだ」
「おやおや、だそうですよ? アニス」
「……ぶっ潰す…///(ボソッ)」
エルザの言葉を聞いたジェイドが隣にいるアニスに声を掛けると、アニスは少々恥ずかしそうにしながら小声で物騒な言葉を口にした。といっても、今の彼女を見て真に受ける者は誰もいないだろうが…。
「まあ、それはともかくとして、先程のアニスの話で1つ分かりました…。そうですね、レイル?」
「うん」
「え? 何が分かったの?」
ここでブランとレイルがそう言うと、ハッピーは疑問を感じて尋ねた。
「ゼントピア教会の内部に、新生六魔将軍や旧幽鬼の支配者と通じている人間がいると思われます」
「! 要するに、裏切り者ってことね」
「だが、何故そう思う?」
「イオンとアニスが教会本部へ向かうルートは極秘にされているんです。そうじゃないと、忽(たちま)ち大混乱になってしまいますから…。知っているのは僕達クロニクルとゼントピアの両サイドの幹部達だけです」
「とはいえクロニクルの方では情報統制が徹底していますから、必然的に教会側の方に内通者がいると考えざるを得ません」
ブランの推測についてシャルルとリリーが聞くと、ブランだけでなくレイルも説明に加わる。
「レギオン隊の連中がバラしたってことはねえのか?」
「そいつは無いな。もう聞いてるとは思うが、イオンの地位は大司教よりも更に上だ。レギオン隊の忠誠心も半端じゃない。そんなことは、例え天地がひっくり返ってもしないだろうな」
「しかも今回の一件に関して、レギオン隊は教会側から殆ど内容を知らされていないようですねぇ。これまでの彼等の行動も、少々不自然な点が見られます」
グレイはレギオン隊の関与を疑うが、ガイとジェイドがそれを即座に否定した。と、ここで、
「そして何より、一番大きな謎が残ってます…」
『…………!』
レイルがそう言った瞬間、この場に居た殆どの者達が“ある人物”に注目する。その人物とは……
「あ……」
ウェンディだった……。
「何故“元・幽鬼の支配者(ファントムロード)”が、ウェンディを狙っているのか…だな?」
「はい…」
「念のために御聞きしますが、過去に“幽鬼の支配者”と接触したことなどは…」
「い、いえ…」
エルザとレイルがそんなやり取りをする中、ブランが確認の為に尋ねると、ウェンディは少々困惑しながら答えた。
「当時ウェンディはまだ妖精の尻尾のメンバーでは無かった以上、やはりウェンディ個人を狙っているというのは間違いないようですね」
「でも、何でウェンディを…?」
「最も可能性が高いのは、彼女の持つ“天空の滅竜魔法”でしょう。その希少性や効果はあなた方もよくご存知の筈。ですが…」
「ただその力が欲しいだけなら、少し妙だな。わざわざバラム同盟の一角を務めていた闇ギルドと協力する必要なんか無いだろ? 連中には単独でやれるだけの力も十分あったしな」
ハッピーが疑問を感じていると、ジェイドとガイが推測をしながら議論を交わし出す。すると…
「狙いは“ウェンディそのもの”じゃないのかもしれない…」
「! 何?」
「どういうこと?」
「戦いの最中、あの男…マスター・ジョゼはウェンディのことをこう言っていたんです。“使い様によっては、究極の凶器になる”と……」
エルザとルーシィの問い掛けに対してレイルがそう話すと、その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべた…。
「ウェンディが“凶器”って…」
「あり得ねえ話だな。むしろウェンディの魔法は完全に逆だろ?」
「そうだよ! ウェンディは治癒魔法を使うんだよ!?」
シャルルの言わんとしていることをグレイが先に口にし、そこへハッピーも続く。確かに数少ない“治癒魔法の使い手”に対して、“凶器”という言葉はどう考えても合わない…。
「恐らく、ウェンディに何かしら“手を加える”ことで目的を達する気なのでは?」
「? “手を加える”だと?」
「ええ。今回の“元・幽鬼の支配者”の者達の行動も、そう考えれば多少納得できます。今はさしずめ、そのための準備期間といった所でしょう」
「といっても、あんな邪悪な雰囲気を纏った連中だ。“手を加える”なんて生半可なものじゃ済まないだろうけどな…」
エルザとブランのやり取りを聞いて、一層険しい表情を浮かべるガイ…。と、ここで、
「上等じゃねえか…。また俺達の仲間に手を出そうって言うんだろ…?」
明らかな怒りを滲ませながら、拳に炎を纏わせている男がいた…。言うまでもなく、ナツである…。
「俺達を敵に回したらどうなるか、もう一回あいつ等の頭に叩き込んでやろうじゃねえかッ! 六魔将軍(オラシオンセイス)の奴等と一緒になぁッ…!!」
ナツのその言葉に、妖精の尻尾の“殆どの者達”が決意を固めたような表情を見せた。因縁のある相手だけに、闘争心もより上がっていく…。だが、そんな状況…
「ちょっと待ってくれませんか、皆さん…」
1人の人物が待ったを掛けたのだ。それは……
「レイル、さん…?」
レイルだった。そして、彼の口からこんな言葉が飛び出す…。
「“幽鬼の支配者(ファントム・ロード)”の相手…僕達クロニクルに引き受けさせてください」
「っ!? うええっ!?」
「ちょっ!? な、何言ってるの、レイル!?」
それを聞いて驚きを露わにするハッピーとルーシィ…。
「実際に戦って分かりました。あの人達が仕掛けてくるのは、“何もかもを壊す戦い”です。特にジョゼの力は…皆さんの想像をあまりにも超え過ぎています…」
「んなことは関係ねえ!! 相手が誰だろうと俺達は…」
チャキッ!!
『ッ…!?!?』
ナツの言葉が途切れるのも仕方の無いことだった。何故なら…レイルが突如自らの愛刀“エコートレイサー”を抜いたかと思うと、その切っ先をナツに向けてきたのだから…。これには妖精の尻尾の面々も驚きを隠せない。
「すみません。こればかりは譲れないんです…。あの男達の“粛清”は……僕達が行います……」
そしてレイルはそんな宣言を残し、その場を後にしていくのだった…。
☆☆
“青い天馬(ブルーペガサス)”のギルドから少し離れた所に、1人の少年が立っていた…。先程席を外した、レイル・アスフォードである…。
「ふぅ……」
前触れもなく一息吐くレイル。と、そこへ、
「レイルさん…」
「! ウェンディ…」
後ろからウェンディがやってきて、声を掛けてきた…。
「ご、ごめんなさい。急にレイルさんがいなくなっちゃったので…」
「! そっか。また変な心配を掛けちゃったみたいだね…」
おずおずとした様子でウェンディがそう言うと、レイルは思わず苦笑いを浮かべながら返す…。すると、
「あ、あの…」
「ん?」
「本当に、レイルさん達があの人達と戦うんですか?」
「…うん、そのつもりだよ」
ウェンディが先程の話について、確認を取るように尋ねてきた。更に…
「レイルさんが戦うのは…やっぱり、“あの人”なんですか?」
「! そうだね…」
続けてウェンディが聞くと、レイルはあっさりと肯定した。戦う相手とは、言うまでもなく一戦交えた邪悪な雰囲気を纏う男―――ジョゼ・ポーラのことである…。そしてレイルは、こう語り始めた…。
「あの人には多分、もう1つの目的があるんだと思う」
「? もう1つの目的…?」
「…“殺し合い”だよ」
「え……?」
「それもただの殺し合いじゃない…。“極限を求められる戦闘”の中で行われる殺し合いを、あの人は求めてる…」
レイルの口から出た“殺し合い”という単語に、絶句してしまうウェンディ…。
「7年前の時点で、あの人は既に聖十大魔導の1人に数えられた実力者だった…。そして7年経った今、あの人の実力は桁違いのものになっている筈…。残念だけど、今の妖精の尻尾が太刀打ちできる相手じゃない…」
「っ!? そんな…」
「だから僕達が戦うんだよ。妖精の尻尾の皆さんに、“油断がすぐに死を招く殺し合い”をさせる訳にはいかない。それに……あんな人達にウェンディを渡す訳にもいかないからね……」
いつもと変わらぬ口調で話すレイルだが、その右手は少し強く握り締められている…。と、その時だった…。
スッ…
「! ウェンディ…?」
ウェンディがレイルの服の裾を、少し遠慮気味に掴んできたかと思うと…
「大丈夫、ですよね…?」
「……!」
「いなくなったり、しないですよね…?」
何処か少し泣きそうな表情で…明らかに不安そうな声で、レイルにそう聞いてきたのだ。その言葉が表しているのは、これからジョゼと殺し合いをすることになる“レイル”のことなのか…それともジョゼにその身を狙われている“ウェンディ自身”のことなのかは分からない…。そして、そんなウェンディを見たレイルは……
「…久しぶりにやろうかな…」
スッ…
「! ふぇ…?」
ウェンディと向き合うように立ったかと思うと、突然片膝を着いて頭(こうべ)を垂れたのだ。その姿はまるで、忠誠を誓う騎士のようである。そして…
「黒竜の魂に誓う…。天竜の力を持つ清らかで優しい君を、いかなる悪意からも絶対に守ることを…」
「……!」
淡々としながらも、何処か力強い覚悟を感じさせる声で呟き、ゆっくりと立ち上がった…。
「いきなり変なことしてゴメン。何か覚悟を固めなくちゃいけない時に、時々こうするんだよ」
「覚悟、ですか…?」
「うん…」
ウェンディの問い掛けに対し、しっかりと頷くレイル。すると…
ポスッ…
「あっ……/////」
「大丈夫。僕もウェンディも絶対に居なくなったりしないし…させるつもりもない…。だから、君がそんな顔をする必要は無いんだよ、ウェンディ」
「! は、はい…/////」
柔らかな笑みを浮かべながら、安心させるようにウェンディの頭を優しく撫でた。この光景自体は比較的よく見るものだろう。しかし、今回はこれまでと明らかに違った。何故なら……
(やっぱり…私、レイルさんのこと……)
ウェンディがようやく、自身の気持ちの正体を明確にしたのだから…。