大変お待たせして申し訳ありません。
今回から一気に急展開していきます。展開自体もオリジナルな筈…。
では、本編をどうぞ。
「何故、貴様がここにいるッ…!!!! “ジョゼ”ッ!!!!」
驚愕するエルザの声が響き渡る。その理由は…前方の崖の上に自分達を見下ろしている、赤紫の髪と口髭を蓄えた男──ジョゼ・ポーラだった。そして驚愕しているのは、多くの戦闘可能な状態である妖精の尻尾の面々も同様だった。特に、ジョゼと面識のあるグレイとルーシィは酷く動揺を見せている…。と、ここで、
「あの、皆さん? あの人は一体…」
「知り合い…って関係じゃないのは確かみたいだけど、何者なのよ?」
妖精の尻尾のメンバーの中で、ジョゼという人物を知らない者達であるウェンディとシャルルが尋ねると…それに答えたのは、レイルとブランだった…。
「ジョゼ・ポーラ…。ウェンディとシャルルが妖精の尻尾に入る少し前、マグノリアで妖精の尻尾と一緒に二大ギルドの一角に数えられ、妖精の尻尾と戦争を起こして敗れたギルド…“幽鬼の支配者(ファントム・ロード)”のマスター…」
「そして当時、マスターマカロフと共に“聖十大魔導”の1人に数えられた男です」
「っ!!? 何ですって…!!?」
「妖精の尻尾と…戦争を…!!??」
その話に驚きを隠せないシャルルとウェンディ。それも当然だろう。目の前に現れた男が、かつて“聖十”の称号を手にしていた、妖精の尻尾と因縁を持つ人物だと言うのだから…。すると、
「何故ここにいる…? この場は我等に任せろと言った筈だ」
「すみませんねぇ。勿論そこにいる“弱小ギルド”自体についてはお任せしますが、少々ご挨拶をしなければならない方々もいらっしゃるのですよ。ですので、“我々”もお邪魔させていただきます…。よろしいですかな? ブレイン2世」
「…フッ、勝手にしろ…」
ミッドナイトがジョゼに声を掛け、そんなやり取りをし出したのだ。それを見て…
「お前等…仲間になったのかッ!?」
「“仲間”というのは語弊がありますねぇ。我々はあくまで、“ビジネスパートナー”といった関係ですよ。互いの目的を達成するための、ねぇ…」
「闇ギルドと手を組むだと……そこまで堕ちたというのか、ジョゼッ!!!!」
「うるさいですねぇ…。全く御変わりないようで何よりです、妖精女王(ティターニア)。実に反吐(へど)が出る…」
ナツとエルザに対し、笑みを浮かべつつも不快感を露わにするジョゼ。
「おっと、これ以上“羽虫共”と話していても仕方ありませんねぇ…。そろそろ本題へと入りましょう。ねぇ、クロニクルの皆さん?」
「「「「…!」」」」
そんな彼が本題と称して声を掛けたのは…レイル達クロニクルの面々だった…。
「御勤め御苦労様ですねぇ。あなた方のお噂はよく聞いていますよ? 構成している全ての魔導士達は、皆さん実に有能かつ強力。貴重な魔法の持ち主も数多く居るそうですねぇ。いやはや、実に素晴らしい…」
そして…
「是非とも私の糧(かて)にしたい…」
「っ!? どういう意味だ…!?」
ジョゼの発言を聞いて、思わずそう尋ねるガイ。と、その時だった…。
「フフフッ、懐かしいですね~。私の心が激しく訴えかけてきています……“このギルドを滅ぼせ”と…」
「悲しいなぁ…長年深い哀しみに暮れた私によって、物言わぬ屍が増えるのは…。ああ、何と悲しい…!」
「っ!? あいつらは・・!!」
そんな声が聞こえて来たかと思うと、ナツやレイル達の前に現れたのは2人の男だった。1人は“緑の髪”と“モノクル”が特徴的で、何処となくクネクネとした雰囲気を持つ紳士風の男。もう1人は“目元を覆っている包帯”が最大の特徴である、横幅の広い大柄な男だ。そんな2人の男もまた、思わず声を上げるグレイを始めとした妖精の尻尾の面々にとって、記憶に残る者達だった…。
「“大空のアリア”…!」
「それとあっちは確か…“大地のソル”だっけ?」
「エルフマンが倒した奴か…!」
エルザが目元を包帯で隠した男―――アリアを見て驚く一方、グレイはハッピーが目を向けている紳士風の男―――ソルを見て言った。どうやら、誰が倒したのかで覚えていたようである…。更に、
「クククッ…昨日ぶりだな、レイル・アスフォード…」
「ッ!? あなたは…!?」
続いて現れた人物の姿を見て、レイルは驚きを隠し切れなかった。何故ならその人物は、本来この場に居る筈のない者なのだから…。
「何故あなたがいるんですか、“ホーク”さん…?」
そう、その人物とは昨日魔導図書館で戦闘を繰り広げた男―――ホークだった…。
「あれは…!!」
「知ってるの、エルザ?」
「ああ、昨日戦ったばかりだからな…」
「“ヴァンガード”のアリスの部下よ。でも、どうして…?」
ルーシィの問い掛けエルザがそう答えると、シャルルが補足を加えながらも同時に疑問を感じ始める。
「なるほど…“裏切った”、ということですね?」
「フッ…ああ、その通りだ。これ以上あんな小娘共に従うなど御免なのでな…。こちらに付くことにしたという訳だ」
「まあ、確かに彼女の下で動く苦労はよく分かる気もしますが…」
「納得しちゃうんだね、ブラン…」
ホークの話を聞いて納得するブランに、思わず弱めにツッコむハッピー…。一方、
「それにしてもあの2人、凄い魔力だわ。それに…六魔将軍以上に嫌な感じがする…」
「ああ…こいつ等も7年前とは次元が違えな…」
シャルルとグレイは現れた2人の男の魔力量を感じて、そう呟く。すると…
「アリアさん、“例のモノ”を返して差し上げなさい」
「分かりました…」
ジョゼからの指示を受けると、アリアは懐から“あるモノ”を取り出した…。
「「なっ…!!?」」
「ッ…!?!?」
それを見たガイとブランは思わず驚愕の声を出し、殆ど動じない筈のジェイドでさえ激しい動揺する。それも当然だ。何故ならそれは……“モノ”ではなく、紛れもない“1人の少女”だったのだから。“黒髪のツインテール”と“褐色の肌”が特徴的で、年齢は恐らくレイルと同じくらいであろうその少女の姿を見たレイルは…ジェイドと同様に激しく動揺した様子で呟く…。
「アニ…ス……?」
そう…。アリアがその大きな右手で無造作に掴んでいる少女は、レイルが同時並行で探していた親友の1人―――アニス・タトリンだった…。と、その時、
「ヌンッ!」
「ッ! アニスッ!!!」
「くっ…!!」
ダッ!!
アリアがそんなぐったりとした状態のアニスを、荒っぽくその場で放り投げたのだ。それを見たガイが思わず叫ぶ中、レイルは咄嗟に大きく跳躍し……
パシッ!!
空中で彼女を抱き留め、地上へと降り立った。すると、すぐさまジェイド、ガイ、ブランの3人がそこに駆け寄ってくる…。
「アニス! しっかりしろッ!! おい!!」
「大丈夫です、ガイさん。意識を失ってるだけで、命に別状はないと思います。ただ……」
ガイに対してとりあえずそう告げるレイルだったが、内容とは裏腹に彼の表情は深刻そのものだった。その理由は…
「アニスから殆ど魔力を感じません。これは恐らく…」
「“魔力欠乏症”…と見て、間違いないでしょう」
ブランの推測していることを予想していたのか、普段通りの冷静な様子でそう言うジェイド。と、ここで、
「レイルさん!」
「! ウェンディ…!」
「私が何とか治療してみます!」
「…! お願いするよ、ウェンディ」
「はい!」
ウェンディがそこへ駆けつけ、アニスの治療を申し出たのだ。それを聞いたレイルは考えることもなくアニスを預け、ウェンディは早速治癒魔法を掛け始める。その一方で、
「“魔力を感じない”ってことは…まさか…!」
「貴様の仕業か! アリアッ!!」
「フフッ、悲しいなぁ…。その少女の魔力は中々のモノでしたよ…」
グレイとエルザが思い切り心当たりのある様子で言うと、アリアは包帯で隠された目から涙を流しながら答える。だがその表情は…明らかに笑っていた…。
「テメエ等…今更一体何しに来やがった!? また俺達と戦争でもやる気か!? だったら受けてやんよッ!!」
「火竜(サラマンダー)ですか…。あなた方と戦争? そんなことをして、こちらに何のメリットがあるというのですか? 今のあなた方など、私にとっては何の価値もない…」
「ッ! んだとテメエッ…!!!」
「言ったでしょう? あなた方は“羽虫”程度の存在だと…。我々の目的は全く別のモノです」
「! どういう意味だ…?」
怒りを爆発させようとするナツを無視してジョゼがそう言うと、それに疑問を感じるエルザ。
「イオンですか…?」
「おやおや、やはりあなた方には分かりましたか」
「答えてください…。イオンは何処ですか?」
「フフッ…ここには居りませんよ? あの方にはまだ用がありますからねぇ…。今は大人しくして頂いているに過ぎませんので、御安心を」
そして、レイルの問い掛けにジョゼが気味の悪い笑みを浮かべながら答えた、その時…
「イオン様に…手を出したというのか…?」
「そんな…!?」
「お前等(まんら)、一体何てことしてくれたぜよッ…!!」
「…ああ、あなた方が“レギオン隊”ですか。哀(あわ)れですねぇ…。あなた方にとって最も重要な御方が身の危険に晒されているというのに、呑気に“時計の部品集め”をしているとは」
「ッ!! 貴様ァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ここまでの話を聞いていたバイロとココ、ダンが愕然としたのを見て、ジョゼがそう言い放ったのだ。するとバイロは凄まじい激昂を起こし、膨大な魔力で構成された光の矢を形成する…。先程ココに放とうとした技──“ディバイン・アロー”だ…。
「罪深き罪人がッ!! この場でその身ごと消え失せよッ!!」
その光の矢は今度こそ放たれ、凄まじいスピードで真っ直ぐジョゼへと向かっていく。そして…
「フンッ…」
バキィィィィィィィィィィィィンッ…!!!!
「何…だと…!!?」
巨大な光の矢はジョゼが軽く手で払ったことで、容易く砕け散った…。目の前で起きた出来事に、呆然とするバイロ…。すると、
「アリアさん」
「空域・絶」
ドガガガガガガガガアアアアアアアアンッ!!!!!
「「ぐおおおおおおおおおお(どわああああああああああ)ッ!!??」」
「きゃあああああああああああッ!!!?」
「ココッ!!!」
「嘘だろ!?」
「あれだけの魔力を、ただの一振りで…!?」
バイロ達3人は見えない何かによって激しく吹き飛ばされたのだ。それを見たルーシィが思わずココに向かって叫ぶ一方、グレイとエルザは大技を素手で容易く打ち破ったジョゼの力に戦慄する…。
「余計な手間を掛けないで頂きたいですねぇ。こちらにはもう1つ目的があるのですから…」
「! もう1つの目的…?」
「私が“それ”をクロニクルの方々に返すためだけに、こちらへ来たとでも? それはあくまでも“ついで”に過ぎません…」
ハッピーが疑問を感じていると、ジョゼが鼻で笑いながら話し出す…。
「先程の発言を少し訂正させて戴きましょう。私はあなた方“妖精の尻尾”には何の価値もないと言いましたが…あなた方には用ならあります」
「っ! 何だと…?」
「なに、実に簡単なことです。私はあなた方から“頂きたいモノ”がありましてねぇ…」
「? “頂きたいモノ”…?」
「ええ…」
言っていることの意味が全く分からず、疑問を感じ始めるエルザとルーシィ。すると、ジョゼはゆっくりとある方を指差したのだ。その先にいたのは…
「え……?」
「あなたですよ…“ウェンディ・マーベル”…」
アニスの治療に取り掛かっている少女──ウェンディ・マーベルだった…。
「ッ!! ウェンディ…だと…!!?」
「な、何で…!?」
「おい、どういうことだッ!!?」
これにはエルザやハッピー、グレイも驚愕する他無い。何せウェンディは妖精の尻尾のメンバーの中で唯一、ジョゼと全く関わりの無い人間の筈なのだから…。
「これ以上はお教えできませんねぇ。今のはあくまでも“サービス”のようなもの。その目的が分かった今、あなた方がすべき行動は1つしかないでしょう? 羽虫共…」
「上等だッ…!! もう一度テメエ等をボコボコにぶっ飛ばしてやるッ!!!」
「フッ…アリアさん、ソル、目的を達しなさい」
「了解しました」
「お任せを…」
「ひっ…!!??」
「っ!? ウェンディ…!!」
怒り爆発寸前のナツには鼻も掛けず、ジョゼとアリア、ソルの3人は一斉にウェンディへ狙いを定めた。そして、彼等の悪意に満ちた雰囲気を感じたウェンディは恐怖で怯えだし、そんな彼女を見たシャルルが咄嗟に前に出ようとした…その時だった…。
「誰が目的だって…?」
『ッ!!!??』
その声が聞こえた瞬間、空間全てが静寂に包まれ…同時に“支配された”のを殆どの者達が感じた。その声の主は…
「レイル…さん…?」
今まで口を開くことの無かったレイルだった…。
「アニスを傷付け、イオンに手を掛け…その上、ウェンディを狙う…? それは本気で言ってるんですか…?」
「! これは予想外ですねぇ…。部外者である筈のあなたがここまでお怒りになるとは…」
「そうですね…。確かに僕は立場上、このギルドにとっては“部外者”でしょう。ですが……僕にとってはそうではないんですよ。少なくとも、僕をここまで激昂させる程にはッ…!」
ジョゼの発言に対し、これまでに見せたこともないような表情を見せるレイル。そして…
「この場を以て…あなたを“粛清”します…」
そう言い放った瞬間、ジェイドとガイも魔力を一気に高め始めた。その結果、辺りの地面はひび割れ、空間の大気が震え、地鳴りのような音が響き渡る…。
「何よ、これ…!?」
「嘘だろ…!?」
「これは、マスターと同等…いや、それ以上の…!!」
ルーシィやグレイ、エルザが動揺するのも無理もない。レイル達3人から感じる魔力量は明らかに異常で、特にレイルとジェイドの魔力量は自分達のマスターを超える程のものだった…。すると、
「フフフフフッ…素晴らしい、素晴らしい魔力だッ! マカロフが矮小な存在に思えてくる程の、圧倒的な“威圧感”…!! 実に殺し合いがいがあるッ!!!」
「マスターマカロフを“矮小”などと蔑む権利など、あなたにはありません。殺し合いを望んでいるというのであれば、尚の事です…」
それに応じるかのように、ジョゼもアリアやソルと共に魔力を高めながらそう言うと、対してレイルはそんな言葉を返し……
「ウェンディ」
「! はい…」
「出来るだけ下がって、引き続きアニスの治療を頼む…。ブラン、ウェンディとアニスを」
「分かりました」
ウェンディとブランにそれぞれ指示を行った。そして、暫しの間静寂が辺りを包みこんだかと思うと…
「ハアッ!!!」
ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
突如“殺し合い”の火蓋は切って落とされた。レイルのエコートレイサーによる一閃をジョゼ達は避けるが、その斬撃は遠くの廃墟を次々と真っ二つに斬り裂き、遙か先の岩壁に巨大な傷跡を残す。ただの“剣による一閃”にもかかわらず…。それに対し、
「フッ…」
ズガガガガガガガガガガッ……!!!
ジョゼは指先から極小の魔力弾を連続で放ち、レイルに殺到させる。とはいえその威力は、辺りの遺跡を容易く木端微塵にしていく程のものだ。しかし、レイルはそれに一切動じること無く回避していき…
ダッ!!
「空牙衝ッ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドガアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…!!!!
高々と跳躍したと同時に、一閃によって今度は雨のような大量の鋭い斬撃をジョゼに放った。その結果、一帯は土煙に覆われるが…
「…いいですねぇ。やはり殺し合いはこうでなくては…」
「…殺し合い、ですか…」
「ええ…」
土煙が晴れると、そこには互いに全くダメージを負っていないジョゼとレイルの姿があった…。と、ここで、
「では、もう少し面白くしていきましょう…。来なさい、我が幽鬼の兵達よ」
「……!」
ジョゼがそう言うと、彼の後ろに次から次へと“あるモノ達”が現れ始める。それは……紫のマントで全身を覆っている、彼の魔力で構成された亡霊の兵士達だった。その数…およそ数百体…。
「さあ…この圧倒的な数の暴力に対して、あなたはどう立ち向かいますかな? レイル・アスフォード…」
「………」
挑発染みた口調で尋ねるジョゼ。すると、それに対しレイルは……
「ブラックメイク…」
「……!」
「鉄血要塞(アイアンテック・フォートレス)ッ!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!!
造形魔法で“あるモノ”を形成した。それは数十メートル近くにも上る程の巨大な黒金剛の壁。だがその壁面には……いくつもの“砲門”が備え付けられていた…。
「あなたが“物量”で来るというのなら……こちらは“火力”で一掃する…」
「ククククッ! そうです、そう来なくてはねえッ…!!」
そして……
「行きなさい、幽兵共!!」
「撃て…」
ドドドドドドドドドドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
圧倒的な“物量”と“火力”が衝突し始めた……。
一方、こちらでは…
「空域…絶!」
ズガガガガガガガガガガッ…!!!
ジェイドとアリアが戦闘を開始していた。アリアは先程バイロ達に行った“空気による見えない攻撃”を発動するが、ジェイドはそれを瞬時に避けていき…
「雷神旋風槍ッ!!」
ドドドドドドォォォォォンッ!!!
隙を突いて一気に迫り、槍を用いた数重の雷撃を放つが、アリアはその場から姿を消した…。
「…そこ!」
「…!」
ガキィィィィィィィィィィンッ!!!
そして背後からジェイドを狙おうとするが、彼に先読みされたように槍で攻撃され、咄嗟に強力な風を纏わせた腕で受け止める…。
「流石は“死霊使い(ネクロマンサー)”……やはり一筋縄ではいきませんな」
「お褒めに預かり光栄…と言いたいところですが、嬉しさは微塵も感じませんね~。まあ、当然と言えば当然ですが…」
アリアの言葉に対し、張り付けたような笑顔を浮かべながら返すジェイド…。
「それにしても、アニスには後できっちりとお説教をしなければなりませんね~。イオン様と共に敵の手に堕ちてしまっていたとは…。情けないことです」
「これはこれは、随分と手厳しいですね。悲しいなぁ…」
「否定できない所が痛いですね~。彼女には昔から“鬼畜メガネ”などと揶揄されているものですから…。まあ、ですが今回は少々変わるかもしれません」
「おや、それは何故ですかな…?」
すると、そんなアリアの問い掛けにジェイドはこう答える…。
「あなたの前では…否応なしに“非情”になれそうなもので…」
「…フフフッ、そうですか」
そう言い放つジェイドからは……明らかな“憤り”を感じることが出来た……。
「大地の咆哮…其は怒れる地龍の爪牙……グランドダッシャーッ!!」
「空域…衝ッ!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…!!!!
更に、こちらでも……
「烈震! 千衝破ッ!!」
「岩の協奏曲(ロッシュ・コンセルト)ッ!!」
ガガガガガガガガガガガガッ…!!!!
ガイとソルが対峙していた…。
「ノンノン、やりますね~。元帥でなくともこの実力…! いやはや恐ろしいですね~」
「そいつはどうも。まぁ、あそこで戦ってる2人と比べられると、霞むだろうがな」
「ご謙遜を。あなたは十二分に強い。ですので、今回は“別の目的”を果たすとしましょう…」
「? 別の目的…?」
ソルの言葉の意味が分からず、そう尋ねるガイ。すると…
「石膏の奏鳴曲(プラトール・ソナート)ッ!!」
「ッ!? くっ……!!!」
ソルが全く違う方に向かって、巨大な石膏の拳を放ったのだ。それを見たガイはかなり焦った表情を浮かべ、瞬時に石膏の拳の前に移動した。そして…
「虚空! 連衝刃ッ!!!」
ザァンッ!!!!
その拳を粉々に斬り刻んだ。だが、そんなガイの表情は…“怒り”のものへと変わっていた…。
「…どういうつもりだ?」
「おやおや? どういう意味ですかな?」
「惚けるなッ!! 何で“意識の無い人間”に攻撃した!? 答えろッ!!」
ガイがこれまでにない程激昂するのも仕方の無いことだった。何故なら彼の後ろ、すなわちソルが石膏の拳を放った方向の先には……気絶しているミラとリサーナが倒れていたのだから…。
「ノンノンノン、当然のことをしたまでですよ」
「! 何…?」
「以前私はこの姉弟の1人に大いに恥をかかされましてね~。この機会に“復讐”をしてしまおうかと思いまして…」
「…気絶してる女性を痛めつけるのが、復讐だと…?」
「ええ…」
そして、ソルはこう言葉を続けた…。
「“目が覚めた時には姉と妹がやられている”…実にあの男が心抉(えぐ)られる光景ではありませんか…」
と、次の瞬間、
シュッ!!
「…!!」
ズバァンッ!!!!
ガイが一瞬にしてソルの目の前に迫り、横一閃を繰り出したのだ。ソルは間一髪それを避けるが…その斬撃は後ろの遺跡群を丸ごと両断した…。
「よく分かったぜ…。どうやらあんたは、野放しにする訳にはいかない人間らしい…」
「おやおや、嫌われてしまったようですね~」
そう話すガイからは、明らかなソルに対する敵意と憤りを感じることが出来た。そして…
「閃空! 翔裂破ッ!!!」
「砂の円舞曲(サーブル・ヴァルス)!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…!!!
戦闘はより激化していくこととなった…。
そんなレイル達の戦闘の様子を見て……
「くっ…!! あいつ等、何て戦いしてんだよ…!?」
「これではこの空間自体が持たない! 何とかしなければ…!!」
「でも、一体どうやって…!?」
「うがあああああッ!! 俺にも戦わせろおおおおおッ!!!」
「ダメだよナツッ!! 間に入ったら絶対巻き込まれちゃうよッ…!!」
グレイやエルザ、ルーシィが目の前で繰り広げられている戦闘を目にしながら、そんなやり取りを交わしていた。ナツは相も変わらず戦闘に割って入ろうとして、ハッピーに止められているが…。と、その時、
「テメエ等、俺達のことを忘れてるんじゃねえだろうな?」
『ッ!?』
ナツ達の背後から突如聞こえてきた声。その主は……今まで静観していた筈の六魔将軍の1人―――コブラだった…。
【俺だあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!】
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
「「おわあああああああああああああああああ(うわああああああああああああああああ)ッ!!!?!?!?」」
そして先程と同様、記憶したナツの大声を用いて音圧による攻撃を繰り出すと、諸に喰らったナツとハッピーは見事に吹き飛ばされた…。
「くっ…!!」
「くそっ…!!」
それに対してエルザとグレイは何とか堪えたものの……
シュンッ!!!
「っ!?」
「遅い…」
ドガッ!!!
「ぐあっ!!!?」
エルザはレーサーの一撃を喰らい……
「後方からの強風、竜巻…」
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
「おわあああああああああああああああああああああっ!?!?!?」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…!!!!
「エルザッ!! グレイッ!!」
グレイはグリムリーパーの竜巻攻撃に飲み込まれ、遙か向こうへ飛ばされてしまった。それを見て、思わず声を上げるルーシィ…。すると、
「力の差は歴然ね…終わりにしましょう…」
「ッ! あんた…!」
そんな声が聞こえてルーシィが振り向くと、そこにいたのは……天使のような格好が特徴の女―――エンジェルの姿があった……。
そんな中、戦闘地域から少し離れたこの場所では……
「どう、ウェンディ?」
「傷の治癒は終わったよ。でも…こんな風に魔力が空っぽの状態なんて、どうしたらいいのか…」
アニスの治療をウェンディが行い、シャルルとブランはその近くに居た…。
「そうね…。私達みたいに、魔力が自然に回復するのを待つしか…」
「うん……」
シャルルの言葉に頷くウェンディ。だがその表情は、何か言い様の無い大きな不安を抱いている様子だった…。と、ここで、
「ウェンディ、シャルル、少し下がった方がいいですよ?」
「え?」
「ちょっと、それってどういう意味…」
ブランの指示の意味が分からず、ウェンディとシャルルが尋ねようとした、その時だった…。
「…!!」
ガキィィィィィィィィィィィィィンッ!!!
突如響き渡る金属音。その原因は……襲撃してきたホークの鉤爪(かぎづめ)を、ブランが自らのサーベルで防いだからである…。
「治療の最中に襲ってくるとは、実に陰湿ですね~…」
「フンッ、私はそんな小娘共に興味などない。用があるのは…貴様だ、ブランズ・センチュリオン…!」
キィィィィィィィィィィンッ…!!
ブランに対してホークはそう言い放つと、一旦距離を取った。それを見て…
「この男は私が相手しますので、ウェンディは引き続きアニスの治療を。シャルル、あとは任せますよ?」
「あ、はい…!」
「分かったわ。気を付けなさい」
ダッ!!!
ブランはウェンディとシャルルにそう言うと、ホークをこの場から引き離す為に追撃する…。
「それにしても、まさかあなたがあのような者達に肩入れをするとは思ってもみませんでしたね~」
「誰の下に付くかなど、どうでもいいことだ。私はただ“あの小娘”から一刻も早く解放されたかった…それだけだ…」
「なるほど、そういうことですか」
「それより、これ以上無駄話をする必要もないだろう…。我々も殺し合おうではないか、ブランズ・センチュリオン…」
「いつからあなたはそのような戦闘狂になったのでしょうかね~…。まあ、いいでしょう…」
そう話すホークに対し、若干の呆れも見せながら自らも構えるブラン。そして……
ダッ!!×2
「風雲(かざぐも)ッ!!」
「ノワール・オングル…」
ガキィィィィィィィィィィィィィィィィンッ…!!!!!
場面は再び戻り、レイルとジョゼの戦闘の場。しかし彼等の周りには……夥(おびただ)しい数の遺跡の残骸しか無かった…。
「フフフフフッ…! 今の私を相手に、それだけ余裕を保っていられるとは…末恐ろしいですなぁ、あなたは…」
目の前で自身と同じく全くダメージを負っていない様子のレイルと見て、意味深な評価をするジョゼ。だがそれに対し、レイルは…
「何故、ウェンディを狙う…?」
「おや、どういう意味ですかな?」
「ウェンディには“天空の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)”としての実力もあるし、彼女の持つ治癒魔法は“失われた魔法(ロスト・マジック)”の1つに数えられる程貴重なものです…。でも、あなた程の人間がわざわざこんな大それた真似をして狙う必要はない筈だ…。一体あなたの目的は何処にあるというんですか?」
これまでにない程真剣な表情で尋ねた…。すると、ジョゼはこう答える…。
「確かに、あの娘自体は私にとって何の価値も無い羽虫共の一部ですねぇ…。ですが…使い様によって、あの娘は“究極の凶器”になるんですよ…」
「っ!?!? それはどういう…」
と、その時だった…。
ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
「っ!! あれは…!!」
「おやおや、どうやらあちらは一気に片を付けてしまうつもりのようですねぇ…」
急激な魔力の上昇の気配を感じて振り返ると…妖精の尻尾の面々が居る辺りに、“巨大な異形の天使”が出現していた…。と、ここで、
「我々も今回はここで失礼するとしましょう。もっとも、少々置き土産はしていくつもりですが…」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ…!!!!
「ッ!!? 待てッ……!!!」
ジョゼがそう言って一気に高々と飛び上がったかと思うと、その右手にボール程の大きさの魔力球を形成し始めたのだ。だがレイルは咄嗟に気付く。その球体に、異常な量の魔力が圧縮されていることに…。
「またお会いするとしましょう、レイル・アスフォード…。では、さようなら…」
「くっ…!!!!」
バサッ!!!!
ジョゼがその一言を言うと同時に、黒金剛の翼で瞬時にその場から飛んで離れるレイル…。そして…
「“デッド・バースト”…」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…!!!!!!!
☆☆
ここは先程まで戦闘が行われていた地下の遺跡群…。だが、その状況は一変していた。見上げれば夜空があり、そこに向かって黒煙が立ち上っている…。そして辺りは全てが“残骸”へと成り下がり、あちこちから火の手が続々と上がっている始末だ…。普通に考えれば、このような状況下で人間がまともに生きているとは思えないだろう。と、その時…
「解除(キャンセル)」
そんな声が聞こえると同時に、瓦礫の山の中から4つの人影が姿を現した…。
「間一髪、といったところかな…」
1人目はクロニクルの“八元帥”の1人――――レイル・アスフォード…。
「ええ、今のは少々危険でしたね~…」
2人目はレイルの補佐官である“エクシード”―――ブランズ・センチュリオン…。
「すみませんねぇ、レイル」
3人目はレイルと同様、“八元帥”の1人―――ジェイド・カーティス…。
「ああ、お蔭で助かったぜ…」
そして4人目は、ジェイドの補佐官(?)―――ガイラルディア・ガラン・ガルディオスである…。と、ここで、
「ですが、こちらも間一髪間に合いました」
「僕達もですよ、ジェイドさん」
「むしろ、“よく間に合った”と言いたい所ですね~…」
ジェイドとレイル、ブランがそう話すのには理由がある。彼等はそれぞれ抱きかかえていたのだ。ジェイドは依然ぐったりとしているアニスを、そしてレイルとブランは衝撃で気を失ってしまったウェンディとシャルルを…。
「他の皆さんは…」
「どうやら問題無いようですね~。全員気を失っているだけのようで、目立った怪我も無いかと…」
レイルの問いに対し、そう答えるブラン。実は周りには他の妖精の尻尾の面々も倒れているのだが、ブランの言う通り皆意識が無いだけのようなのだ。すると、
「でも、おかしくないか? あれだけ派手で大規模な攻撃の割に、被害が軽過ぎる。こいつはまるで…」
「“わざと生かした”、と…。恐らくその通りでしょう。彼等にはそれぞれ何かしら目的があるようですから…。あなたもそう思っていらっしゃるのでしょう? レイル…」
「…はい…」
ガイの推測をジェイドが先読みしながら肯定し、レイルにそう尋ねると、レイルもそれに同意した…。
「ですが、これからどう致しますか?」
「! ああ、確かにな…。これだけの人数を運ぶっていうのは、流石に厳しいだろうし…」
「ひとまずこの辺りの火の手を鎮めて、彼等が全員起きるのを待つしかないのでは?」
「そうですね。では……」
そして、ブランとガイの問い掛けに対してジェイドがそう提案した、その時…
『ッ…!』
レイル達は気付いた…。上空から何かがこちらに向かいつつあることに。更に…
「! あれは……!」
それが自分達以上に…“妖精の尻尾の一部の面々”にとって見覚えのあるものであることに……。