機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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三十八話目です


PHASE38 永遠と歌姫

「キラ。そろそろヤキン・ドゥーエの包囲網に引っかかる、戻ってくれ」

 

 

アスランは、ヤキンに入港した後パトリックがいるアプリリウスに行くつもりだ

そして、父が今、この戦争についてどう思っているのかを・・・

 

 

「わかった。じゃぁ、この辺で待機してるよ」

 

 

キラがそう言って通信を切ろうとする

アスランは慌てて口を開く

 

 

「いや、戻ってくれ」

 

 

アスランはキラの提案を断る

キラは、そんなアスランを見つめる

 

 

「アスラン…。君は、まだ死ねない」

 

 

「…っ」

 

 

アスランは、目を見開く

 

 

「君も僕も、まだ死ねないんだ。…わかるよね?」

 

 

キラがアスランに確認するように言う

 

そう

アスランは必要とされている

キラだけではない

アークエンジェルやクサナギのクルー全員に、必要とされているのだ

 

それだけではない

勝手に死ぬのは許さない

その思いを込めた言葉だった

アスランは、ふっと微笑む

 

 

「まだ?」

 

 

「うん、まだ」

 

 

二人が画面越しに笑いあう

 

フリーダムの動きが遅まり、アスランが乗っているシャトルが単独で進んでいく

 

 

「こちら、国防委員会直属特務隊、アスラン・ザラ。認識番号285002。ヤキン・ドゥーエ、応答願う」

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、ナチュラルどもめ。調子に乗りおって…」

 

 

パトリックが椅子に座りながら、憎しみを込めてつぶやく

自分の愛するものを殺したナチュラル

許すことなど、とうていできやしない

 

 

「…なんだ」

 

 

そこに、ぴぴぴと音が鳴る

誰かがパトリックに連絡をとってきたのだ

 

 

「…なにっ!?アスランが、地球軍のシャトルにだと!?すぐに連れてこい!今すぐにだ!」

 

 

パトリックに入った連絡とは、アスランが地球軍のシャトルに乗ってヤキンに現れたというものだ

この情報に、パトリックは動揺してしまう

 

一体何が起こった

ナチュラルは、自分の息子まで利用しているのか?

 

パトリックの心の中に緊張がはしっていた

 

 

 

アスランは、あれからすぐに、パトリックのもとへ連れてかれた

現在、議長室の前にいる

自分の両隣にいる兵が、パトリックに入室の許可を求めている

 

部屋の中から、入れ、というパトリックの声が聞こえてくる

兵が扉を開ける

 

 

「失礼します!」

 

 

二人の兵とアスランが入室し、敬礼をする

 

 

「貴様らは下がれ」

 

 

パトリックは二人の兵を下がらせる

そして、きっとアスランを鋭い目で睨み、口を開く

 

 

「アスラン…」

 

 

「父上」

 

 

パトリックは、アスランの口の利き方には触れない

それ以上に気になっていることがあるからだ

 

 

「一体何があったというんだ!フリーダムは!ジャスティスはどうした!?」

 

 

アスランは、父の目をまっすぐと見つめる

つい最近までは気づかなかった

今初めて気づいた、父の濁ってしまった目

 

 

「…父上は、この戦争について…、どうお考えなのですか?」

 

 

「なんだと?」

 

 

パトリックは、急に関係なことを言い出したアスランに一瞬戸惑う

そんなパトリックをおいて、アスランは続ける

 

 

「俺たちはいったいいつまで、こうして戦わなくてはならないのでしょうか…」

 

 

「そんなことはどうでもいい!」

 

 

アスランの言葉を遮るようにパトリックは喚く

 

 

「そんなことより、任務の報告をしろ!」

 

 

パトリックはアスランに怒鳴り声をかける

だが、アスランはパトリックの望む言葉を返さない

 

 

「俺は、どうしても一度、ちゃんと父上にお聞きしたくて、ここに戻りました」

 

 

「アスラン…!貴様…!」

 

 

淡々と告げるアスラン

その様子が、パトリックの琴線に触れる

 

 

「いい加減にしろ!何も知らない子供が、知ったような口を聞きおって!」

 

 

「何もわかっていないのは父上なのではないのですか!?」

 

 

ここにきて初めて、アスランがまともにパトリックの言葉に返事を返す

 

 

「アラスカ、パナマ、ビクトリア!撃っては撃たれ、撃たれては撃ち返し…。犠牲はどんどん増えていくばかりです!」

 

 

「一体どこでそんなバカげた考えを吹き込まれた!クラインに誑かされたか!」

 

 

「父上!その犠牲の中には、同胞もいるのですよ!?」

 

 

そう

アスランが言った犠牲の中には、コーディネーターだっている

父が憎んでいるナチュラルだけが撃たれているのではないのだ

それをはっきりと告げる

 

これで、父が少しでも止まってくれれば…

そう願って

 

 

「そんなものは関係ない!戦場に出ているのだ。死ぬ覚悟くらいできているだろう!」

 

 

しかし、パトリックは止まらない

止めることができない

 

 

「っ!そうして力と力でぶつかり合って、本当に戦争が終わると!父上はお思いなのですか!?」

 

 

「終わるさ!ナチュラルを全て滅ぼせば、戦争は終わる!」

 

 

「…っ!?」

 

 

アスランの表情が凍りつく

今、なんと言った?

すべて、ほろぼす?

 

 

「父上…。本気でおっしゃっているのですか…?」

 

 

「当たり前だ!」

 

 

パトリックは椅子から立ち上がり、アスランの胸倉をつかむ

 

 

「我々は、そのために戦ってきたんだぞ!」

 

 

パトリックの目は本気だ

アスランは、その事実に呆然とする

本気で、ナチュラルのすべてを殺すつもりなのだ

 

 

「それすらも忘れたのか!貴様は!」

 

 

パトリックはアスランを投げ飛ばす

アスランは抵抗もできず、しりもちをついてしまう

 

 

「…!」

 

 

「答えろ、アスラン」

 

 

アスランは大きく目を見開く

パトリックが、自分に銃を向けている

 

 

「父上…?」

 

 

一体、自分は何なんだろうか

この人にとって、自分は、ただの駒なのだろうか

 

 

「二度は言わん。フリーダムとジャスティスの所在を言え」

 

 

パトリックが冷たい声で促してくる

だが、アスランも負けない

 

 

「…言いません」

 

 

「!言わないというのなら、貴様を裏切り者と見なすぞ!アスラン!」

 

 

「言いません!」

 

 

アスランは勢いよく立ち上がる

 

 

「今の父上には言えません!このまま戦争を続けて、無駄な犠牲を増やし続けようとする父上には!」

 

 

「っ!アスラン!」

 

 

パトリックは、一つのボタンを押す

押してからそう時間が経たないうちに兵が部屋になだれ込んでくる

 

 

「連れて行け!だが、傷は与えるなよ。こいつにはまだ、聞きたいことがある」

 

 

パトリックがそう告げると、兵がアスランを無理やり連れて行こうとする

 

すれ違い様、パトリックがアスランに口を開く

 

 

「見損なったぞ、アスラン」

 

 

アスランは、パトリックの目をにらんで言い返す

 

 

「…俺もです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…連れていかれましたわ」

 

 

ラクスが、モニターの画面を見つめながら心配そうにつぶやく

そのラクスが見つめている画面の中には、兵に連行されるアスランの姿が映されていた

 

アスランがプラントに戻ってきたこと自体はすでに気づいていた

ダコスタが、アスランの救出にすでに行っている

 

だが、アスランとパトリックの会話には驚いた

一体アスランに、何の心境の変化があったのだろう

 

 

「…ラクス様、私たちも行きましょう」

 

 

ラクスに声をかける一人の男

ラクスはこくりと頷く

 

 

「ええ。わたくしたちも行かねばならない時がきたのです」

 

 

ラクスもまた、行くべきところに向かっていった

 

 

 

 

 

 

兵に拘束されて連行されているアスラン

視界に、自分が乗る車両が見えてきた

あれに乗ってしまえば、独房に連れていかれ、もう二度と戻れなくなるだろう

 

だが、それでいいのかもしれない

父は、もう自分には止められない

 

自分は、これから拷問されるのだろう

もし、自分が答えを吐いてしまったら…

ならば、自分は命をすt…

 

 

『君は、まだ死ねない』

 

 

『お前!死んだら許さないからな!』

 

 

ここに来る前にかけられたキラとカガリの言葉が脳裏をよぎる

 

気づくともう、車両の前まで来ていた

 

 

「おらっ!早く乗れ!」

 

 

兵に早く乗るように促される

だが、アスランは動かない

 

そうだ

自分はまだ死ねない

死ねないんだ!

 

 

「おい…」

 

 

「っ!」

 

 

兵が何かを言い切る前に、両隣の兵を蹴り飛ばす

拘束が解かれ、動けるようになった途端、アスランは物陰に向かって駆け出した

 

 

「はぁ!?」

 

 

「貴様…ぐはっ」

 

 

何か妙な声も聞こえて来るが、気にしていられない

ここで立ち止まってしまえば間違いなく射殺されてしまう

それだけは避けなければならない

 

 

「…はぁ、はぁ」

 

 

何とか物陰までたどり着くことに成功

だがまだ安心できない

自分を威嚇しているように発砲音が聞こえてくる

 

 

「もう!何やってるんですか!?」

 

 

「…!?」

 

 

自分の傍に兵が立っている

アスランは臨戦態勢をとる

 

 

「手錠を撃ちます!後ろを向いてください!」

 

 

「え?…え?」

 

 

急に言われた解放宣言

何を言ってるんだ?

 

 

「早く!」

 

 

「あ…、あぁ」

 

 

アスランは兵?の指示に従って後ろを向く

発砲音が聞こえると、両手の自由が利くようになる

 

 

「無茶な人ですね!こっちのメンバーも一人蹴倒しちゃって…」

 

 

「…君は?」

 

 

アスランが、何かこちらに文句を言ってくる男に問いかける

 

 

「いわゆるクライン派ってやつですよ!それより急ぎましょう!これを!」

 

 

クライン派と名乗る男に銃を渡される

アスランは弾数を確認する

そして、物陰から飛び出して引き金を引く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、これより本艦は最終準備に入る。繰り返す、本艦は最終準備に入る」

 

 

ある艦の副艦長席に座った男が艦内放送で告げる

その放送の意味を読み取れるものと、そうでないものに分かれる

読み取れなかったものは、読み取れるものに艦から追い出されていく

 

 

「どういうつもりだ!」

 

 

「ただ、降りてくれればいいんだよ」

 

 

銃を突き付けられた男が喚き散らす

そんなのを無視して二人で取り押さえて艦から追い出していく

 

こんな調子で艦からクルーの部外者を追い出し終わる

男がふぅっと息をつくと、艦橋の扉が開く

 

 

「お待たせいたしました」

 

 

入ってきた少女

桃色の髪を靡かせながら入ってくる少女

 

 

「いえいえ、ご無事で何より」

 

 

「何もなかった?」

 

 

男と女

バルトフェルドとアイシャがラクスを気遣う

ラクスはその二人に笑顔を返す

それで二人はラクスは特にけがなどはしていないと察する

 

 

「では、行きましょうか?」

 

 

バルトフェルドはにやりと笑いながらラクスに問いかける

 

 

「はい」

 

 

即答

まったく間をおいていないと言っていいほど迷ことなくラクスは告げる

 

この艦、エターナルのエンジンが起動される

 

 

「おい、エターナル!貴艦に発進命令は出ていないぞ!」

 

 

「バルトフェルド隊長!応答せよ!」

 

 

異変に気付いた管制官が通信を入れてくる

だが、返事を返す必要などない

むしろ、してはいけないと言ってもいい

 

 

「メインゲートの管制システム、コード変更されました」

 

 

「ちっ、優秀だねぇ。そのままにしておいてくれればいいものの」

 

 

「でも、行かなくちゃ…でしょ?」

 

 

オペレーターの報告を聞いたバルトフェルドの表情が歪む

そんなバルトフェルドにアイシャが微笑みかけながら声をかける

 

 

「あぁ、もちろん。ちょっと荒っぽい発進になります。覚悟してください?」

 

 

バルトフェルドがアイシャの言葉に頷いた後、いたずらっぽい笑顔を浮かべながらラクスに告げる

ラクスはバルトフェルドの言葉に頷きながら言う

 

 

「仕方ありませんわ。わたくしたちは行かねばならないのですから」

 

 

ラクスの言葉を聞いて、バルトフェルドとアイシャは目を合わせて笑いあう

 

 

「主砲発射準備!目標、メインゲート!発進と同時に斉射!」

 

 

バルトフェルドが指示を出す

 

 

「エターナル、発進してください」

 

 

ラクスが言葉に力を込めて言う

主砲が発射され、メインゲートが破壊される

エターナルが破壊されたゲートから出ていく

 

 

 

「ええい!急がないと!」

 

 

アスランは、兵、ダコスタが操縦する小型機に乗り込んでいた

一体、どこに行くのか疑問に思いながら目的地のつくのを待つ

 

小型機がゲートをくぐると、目の前に桃色の戦艦が現れる

 

 

「新型か…!?」

 

 

アスランが驚愕する

こんな戦艦は見たことがないのだ

小型機は、エターナルのハッチに入り込んでいく

 

小型機から降りたアスランは、ダコスタについていく

そして、ついた場所は艦橋だ

 

 

「アスラン。大丈夫でしたか?」

 

 

「ラクス…!?」

 

ラクスが戦艦に乗っていることに驚愕する

 

 

「ようこそ、歌姫の船へ」

 

 

「?」

 

 

男の声が聞こえ、そちらに向くアスラン

 

 

「アンドリュー・バルトフェルドだ」

 

 

アスランは目を見開く

なぜ、この男がここにいるのだろうか

足つきとの戦いで戦死したと言われていたが、奇跡の生還を果たした男

アンドリュー・バルトフェルド

 

 

「前方にモビルスーツ部隊!数五十!」

 

 

アスランの思考は、オペレーターの報告によって切られた

ラクスがはっとして、艦長席に戻る

 

恐らく、ヤキンの防衛部隊だろうとアスランは考える

しかし、この数のモビルスーツの集団を抜けることが出来るのか?

自分にできることはあるだろうか?

 

 

「この艦にモビルスーツは?」

 

 

そう考えたアスランは、バルトフェルドにモビルスーツがあるかどうかを聞く

 

 

「生憎出払っていてね。この艦は、フリーダムとジャスティス専用運用艦なんだ」

 

 

アスランはハッとラクスを見る

 

ラクスは、キラにフリーダムを渡した時からこの時を見越していたのだろうか?

アスランは目の前の彼女に畏敬の念すら抱く

 

 

「全チャンネルで通信回線を開いてください」

 

 

ラクスはそう言って、目の前のモビルスーツ部隊に呼びかける

本当にこのまま戦っていくのが正しいのか

本当に戦うべきものは何なのか

 

戸惑ったように動きが止まるモビルスーツ部隊だったが、それもわずかな時間

すぐにエターナルに襲い掛かる

 

バルトフェルドが迎撃を指示

少しの間は耐え忍んでいたが、それでもだんだんと数に押されていくのがわかる

 

 

「ミサイル来ます!迎撃、追いつきません!」

 

 

オペレーターから報告が入る

 

アスラン、ラクス、バルトフェルドにアイシャ

クルー全員の表情が絶望に染まる

 

ここで終わるのか?

志半ばすらも行かず、始まりで終わってしまうのか?

 

 

 

 

ミサイルが、艦に当たる前に、爆発した

 

 

「…え?」

 

 

彼らの目の前で、十枚の青い翼を広げたモビルスーツが飛び立つ

 

 

 

「キラ!」

 

 

アスランが、そのモビルスーツ

フリーダムのパイロットの名を呼ぶ

 

キラはターゲットを複数ロック

ハイマットフルバーストで、敵機の武装を吹き飛ばしていく

 

 

「こちらフリーダム、キラ・ヤマト!」

 

 

キラがエターナルに通信を入れてくる

モニターにキラの顔が映る

キラの顔を見て、ラクスの表情がぱぁっと明るくなる

 

 

「キラ!」

 

 

その声も先程の凛としたものではない

その声には大きな喜びが含まれている

 

 

「ラクス?」

 

 

キラもラクスの存在に気づく

 

 

「よう、少年!助かったぞ!」

 

 

「ありがとう」

 

 

バルトフェルドとアイシャが、キラに礼を言う

キラは、二人の顔を見て大きく目を見開く

 

 

「バルトフェルドさん…!?アイシャさん…!?」

 

 

なぜなら、この二人は、自分たちと戦って、戦死したはずだったのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラはアークエンジェルの格納庫で、シモンズとリベルタスの不調について語っていた

 

 

「お願いします!」

 

 

「…?」

 

 

話し合っている途中で、誰かの声が格納庫中に響く

声が聞こえてきた方を向くと、そこにはムラサメ試作機

その足元でトールがマードックに頭を下げていた

 

どうやら先程の大声はトールのものらしい

 

 

「何やってるんだ?」

 

 

セラはトールの方に行ってみた

 

 

「トール、ダメよ!危険だって!」

 

 

「けどミリィ!」

 

 

「あー!夫婦喧嘩は他所でやってくれないか!?…ったく」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

トールとミリアリアが言いあっていて、その横でマードックが困っている

そこにセラが声をかける

 

 

「あぁ、坊主。いや、こいつがこれに乗せろって言ってきてな、俺はいいって言ったんだが…」

 

 

「ミリアリアが承諾しない…ですか?」

 

 

セラが、マードックが言おうとしたことを予想して先に言う

マードックは苦笑しながら頷く

まあ、この二人とは長い間付き合ってきたのだからこのくらいわかって当然だ

 

 

「頼むよミリィ…。俺は…」

 

 

「ダメ!もうトールが被弾して帰ってくるのは…」

 

 

トールがミリアリアに懇願しているが、それでもミリアリアは承諾しない

さすがにトールも恋人に言わずに勝手に戦場に出るという勝手な行動をすることはできない

だからこうして了承をもらおうとするのだが…

 

ミリアリアは目に涙を浮かべながらトールを見る

 

 

「それに、どうしてトールはそこまで戦いたがるの…?」

 

 

ミリアリアがトールに聞く

トールは、困ったような表情から、真剣な表情になる

 

 

「…もう、嫌なんだ。あんな思いをするのは」

 

 

「え?」

 

 

「何もできずに目の前で友達が落とされる…。もうあんな光景は見たくない」

 

 

はっきりトールが言い切る

 

 

「今度こそ、セラとキラ。アークエンジェル。ミリィを守りたいんだ」

 

 

「トール…」

 

 

「今度こそ…、絶対に!」

 

 

トールが炎を燃やしているような目でミリアリアを見る

 

セラは、迷っている表情をしているミリアリアの肩をぽんと叩く

ミリアリアは驚いたような表情で振り返る

 

 

「大丈夫だって。もう絶対にトールにけがさせないからさ」

 

 

「いや、俺がしたいのはその逆…」

 

 

「トールに守られるほど俺は弱くないー」

 

 

「うぐっ…」

 

 

無遠慮なセラのセリフにたじろぐトール

 

 

「だから、トールは大切な恋人を守ることに集中すればいいんだよ。な?そうすればトールはミリアリアの目の届くところで戦い続けることになるし」

 

 

トールとミリアリアがぽかんとした表情になる

セラは二人を柔らかい表情で見る

 

 

「…トール」

 

 

「…なに?」

 

 

ミリアリアがトールを呼ぶ

 

 

「…ホントに、大丈夫?いなくなったりしない?」

 

 

「…約束する」

 

 

…決まった

ミリアリアが笑顔でうなずく

そのまま格納庫から去っていく

 

 

「…ミリィ」

 

 

「…ほら、OSの設定手伝うから」

 

 

去っていくミリアリアの後姿を見つめるトール

承諾をもらったはもらったが、それでもどこかつっかかりがあるらしい

だが、セラはそれを無視してトールを引っ張る

 

 

「…自分で決めたことだろ?」

 

 

「…あぁっ」

 

 

力強くうなずくトール

それを見て笑顔になったセラは、ムラサメ試作機のコックピットに向かおうとする

 

 

「…?」

 

 

「なんか、騒がしいな」

 

 

そこで、周りがなにやらざわざわと騒いでいることに気づく

トールが近くを通りかかったクルーに話しかける

 

 

「あの、一体何があったんですか?」

 

 

「フリーダムが、なにか戦艦と一緒に戻ってきたんだと」

 

 

「「え?」」

 

 

「今、その艦長とラミアス艦長が話してる」

 

 

セラとトールはその場に急ぐ

 

 

 

 

 

セラとトールはコロニーの港につく

人だかりをわけて進もうとする

が、人が多くて中々進まない

 

 

「そんなの、誰にだってあるし、誰にだってない」

 

 

「…!」

 

 

そこで、聞き覚えのある低い声が耳に入る

セラの目が大きく見開かれる

 

そんな…

いや、そんなはずは…

 

その声の主が頭の中によぎる

だが、その人は…、自分が…

 

 

「…セラ?」

 

 

トールがセラを呼ぶ

セラは、トールの呼びかけに反応しない

ただ体を震わせるだけ

 

 

「…っ、そこをどけ!どいてくれ!」

 

 

急に、大声でわめきながら人だかりを強引にかき分けはじめるセラ

慌ててトールが追いかける

 

 

「どけ!どけっ!」

 

 

いつものセラからは想像できない錯乱した姿

 

 

「…あ」

 

 

人だかりをかき分けて、ついにその姿が見える

 

顔に大きな傷跡

それにより、左目が開いていない

前に会った時より、かなりやせてしまってはいるが、その人を見間違うはずもない

 

 

「アンドリュー…バルトフェルド…」

 

 

「…お、少年。久しぶりだな、会えてうれしいよ」

 

 

セラは、目から零れ落ちそうになる滴を必死にこらえる

 

 

「…どうして。だって、あなたは…、俺が…」

 

 

声を震わせながら言葉を絞り出す

そんなセラを気遣うトールと、話し合いの場にいたのか、シエルがセラに寄り添う

 

 

「ん?どうして…か。どうしてと言われてもだな…」

 

 

バルトフェルドが困ったように後頭部をかく

 

 

「私たちも、まだ見放されていなかったってことよ」

 

 

「アイシャさん…」

 

 

この人まで…

驚きっぱなしのセラ

アイシャまでこの場にいるとは思わなかった

 

バルトフェルドがセラに歩み寄る

 

 

「今度は、共に戦う仲間だ」

 

 

「…なかま」

 

 

バルトフェルドの言葉を繰り返すセラ

そして、笑顔を見せる

 

 

「そうですね。仲間ですね」

 

 

「そうだぞ、少年」

 

 

「なら、仲間同士のお話と行きましょうか。コーヒーについて」

 

 

「おおっ、いいねぇ。じゃ、少し落ち着ける場所にいこうか」

 

 

肩を組みながら去っていく二人

余りの展開の早さにこの場にいる全員が追いつけなかった

 

アイシャをのぞいて

 

 

「ごめんなさいね。あの人、彼とコーヒーの話をするの、とても楽しみにしてたから」

 

 

アイシャの言葉で正気に返るマリュー

だが、おずおずと頷くことしかできなかった

 

ちなみに、この空気を作り出したセラとバルトフェルドは、コーヒーについてそれはそれは楽しそうに語り合っていたという…




セラ君切り替え早いですね(笑)
バルトフェルドとの再会の驚きよりも喜びの方が大きかったんです
忘れているかもしれませんが、セラ君は14歳の子供なのです

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