機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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セラの正体が明らかになりますが、メインはそれだけではありません


PHASE32 思惑

これは、とある二人が生まれてきた過程の話

 

 

 

人類初めてのコーディネーター、ジョージ・グレン

その存在が人類に知れ渡ると、すぐさま広まったコーディネーターブーム

 

それは、長い年月の間続いた

 

そして、当然起こってしまう

ナチュラルと、コーディネーターの対立

コーディネーターを、人類の未来への懸け橋になるというジョージ・グレンの願いとは、かけ離れてしまった

 

そんな中、一人の科学者が、その願いを引き継ごうと考える

 

ユーレン・ヒビキ

有名な科学者で、名前を知らない人の方が少ないといってもいい程だ

そのユーレンは、考えたのだ

 

新たな人類の可能性

最高のコーディネーターを作り出す

 

ユーレンは、さっそく研究に取り掛かった

 

その時からブルーコスモスは存在しており、研究の存在がばれないよう気を遣いながらの研究

精神的には辛いものの、研究は思いのほか、順調に進んでいた

 

そして、生み出される

最高のコーディネーターが

それに加えて、双子のきょうだいまで生まれてきたのだ

 

ユーレンと、共に研究してきた仲間は、手放しで喜んだ

そして願う

この子が、人類の未来を切り開いていってくれることを

 

だが

 

 

「なぜだ…ヴィア…」

 

 

最高のコーディネーターという存在を、どこから嗅ぎ付けたのだろうか

ブルーコスモスが、その母親であるヴィアを殺してしまったのだ

 

ユーレンは嘆く

なぜ自分は殺されなかったのか

奴らの狙いは、自分のはずだ

 

彼女は、最後まで自分たちの研究に反対してきた人なんだ

なのに…

なのに…!

 

ユーレンは心に誓う

この憎しみは、なんとしても奴らに晴らす

ヴィアがそれを望まなかったとしても

もう、自分は止まれないのだ

 

再び研究に没頭するユーレン

悔しい話だが、自分のちっぽけな力では復讐などできやしない

だから、もう一度作り出すのだ

 

あの子ではまだ足りない

力が足りない

もっと、もっと強大な力を

圧倒的な力を

 

込める

込める

込めて、込める

 

何度失敗しただろうか

何人もの命を犠牲にしただろうか

思い出せない

途中から、数えるのをやめてしまった

 

たった二年間の間に、それほどの命を枯らせてしまった

だが、それももう終わる

これで終わるのだ

 

 

「…完成だ」

 

 

ユーレンは、液の中に沈む、一つの命を見て嗤う

 

 

「これで…、私の…ぐふっ」

 

 

ユーレンの体は、ほぼ休み抜きの研究によって、限界だった

 

 

「…私はもう死ぬ。だが、後は私の部下がやってくれる。ここまで来れば、失敗はしないだろう」

 

 

ユーレンは、自分の後ろに立つ男を見る

 

 

「…あとは、父親である…、お前の、仕事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、復讐という願いを込められた存在が誕生した

 

その小さな体に、強大な力を詰められて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

 

セラは飛び起きる

 

 

「…夢?」

 

 

夢を見た

知らない男が、自分に言ってくるのだ

 

自分の憎しみを晴らせ

復讐を達成させろ、と

 

 

「…ちっ」

 

 

舌打ちしながらベッドから降りる

セラが目を覚ましてから、三日が経っていた

 

見た目は派手だったものの、そこまで大したことがなかったセラのけがは、本人の治癒能力の早さもあって、普通に歩ける程度にはなっていた

 

セラの生還は、地球軍に伝えられていなかった

ウズミが提案したのを、セラが飲んだ

といっても、セラはウズミの話で呆然としており、適当に頷いてしまっただけなのだが

 

 

「セラ様」

 

 

そこで、扉が開き老年の男が入ってくる

上下紅色のスーツ

ということは、重役の人なのだろうか

 

 

「ウズミ様がお呼びです。こちらに」

 

 

「…?」

 

 

ウズミ様が呼んでいる?

まだ、何か話があるのだろうか

あれ以上まだあるのなら、さすがに耐えれる自身がないのだが…

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 

案内された部屋に、セラは挨拶をしてから入る

 

その部屋は、セラは知らないが、ウズミとヤマト夫妻が会談した部屋だった

 

 

「…来たようだな。座りたまえ」

 

 

セラは、ウズミの言う通りソファに座る

 

 

「…それで、この度はどのようなご用件で?」

 

 

セラはウズミに聞く

その声は、少し震えていた

 

 

「大丈夫だよ。あの話は昨日のですべて話した。ただ、少し君に伝えたいことがあってね…」

 

 

「…伝えたいこと?」

 

 

ウズミに聞き返すセラ

ウズミは、うむ、と頷き口を開く

 

 

「ザフトの方で、大規模な作戦が立てられていて、それが実行されているようだ。目標は、パナマ」

 

 

「…?パナマ?」

 

 

確かに、地球軍に大規模な被害が及ぶことになるだろうが、何も呼び出してまで教えるほどのことでもない

セラはそう不思議に思った

 

 

「だが…」

 

 

「え?」

 

 

ウズミの逆接の言葉に反応するセラ

 

 

「目標が、アラスカに変更されたようだ。アラスカが攻撃されているとの情報が入っている」

 

 

「…は?」

 

 

アラスカ?

変更?

アラスカには、今、アークエンジェルが…

 

 

「…っ!」

 

 

そこまで考え、セラは走り出した

 

 

「!待ちたまえ!」

 

 

「…!なん…!」

 

 

セラの腕をウズミがつかむ

セラの動きは止められてしまう

 

 

「離せ!俺は…!」

 

 

「機体を失った君が行ったって、どうにもならん!」

 

 

「なら、アストレイを…」

 

 

「それはならん!」

 

 

「なんで…!」

 

 

セラは、思い出す

オーブの理念を

 

 

「…」

 

 

セラは、顔を俯かせる

何もできない

どうにもならない

 

 

「…君の気持ちもわかる。だが、今君にできることは、祈ることだけだ。…辛いだろうがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザフト、連合!両軍に伝えます!」

 

 

セラがオーブで何もできなかった頃、キラは新たな機体に乗って、アークエンジェルの前に立ちはだかっていた

 

キラが乗っている機体

ZGMF-X10Aフリーダム

ザフトが作り出した、最新鋭の機体

動力には核が使われており、バッテリーのことを気にすることもなく戦える

 

この機体は、プラントでラクスから授かったものだ

ラクスの思いと共に、もらったこの機体

 

 

「アラスカ基地は、間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します!両軍ただちに戦闘を停止し、撤退してください!」

 

 

キラは、迷いなくそう告げた

マリューから伝えられたこの事実

アラスカを放棄し、ザフトの戦力を味方もろとも失わせようという作戦

 

それを聞いたキラは、敵も味方も関係なく救おうとしている

 

そんなキラを、ムウは成長を喜ぶ親のような目で見つめていた

 

 

「下手な脅しを!」

 

 

キラは、後ろから放たれるビームをシールドで防ぐ

 

 

「!デュエル!」

 

 

その機体は、デュエル

何度も戦ってきたあの機体

戦うごとに、あの光景を思い出されてきた

だが、今のキラは、その憎しみを完璧に抑えることが出来ていた

 

デュエルは、ビームが防がれるのを見ると、サーベルを抜いて斬りかかってきた

キラはそれをシールドで防ぐと、こちらも腰のサーベルを抜いて、振り下ろした

デュエルも相手のサーベルをシールドで防ぐ

 

 

「やめろと言ったろ!死にたいのか!?」

 

 

「なにぃ!?」

 

 

キラは、通信で相手に伝える

デュエルのパイロットは、今の言葉で怒りを燃やしてしまったようだ

 

キラは、デュエルをはじく

そして、デュエルがサーベルを振り下ろすのを、空中で宙返りすることで回避さらにそのままサーベルで斬りかかる

 

そのサーベルで、デュエルの両足を切り取った

 

 

「早く脱出しろ!もうやめるんだ!」

 

 

キラは、後ろに回り込んでデュエルを蹴り落とす

デュエルは、ディンに回収され、撤退していった

 

その直後だった

 

 

「サイクロプス、起動!」

 

 

スピーカーからサイの声が聞こえる

その内容に、キラは背筋に嫌なものがはしる

 

 

「…!」

 

 

フリーダムも警告音を鳴らしている

サイクロプスが作動したというのは間違いないようだ

 

 

「機関全速!退避ぃ!」

 

マリューもすぐさま指示

アークエンジェルが今出せる最大のスピードを出して撤退していく

 

連合も、ザフトも

この時は関係なく、その場から離れようと必死になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、先程の部屋でソファに座って動かない

両手は組まれて、表情は険しい

 

そんなセラを、ウズミは見守っていた

 

そんな時、扉が荒々しく開けられた

扉の前には、オーブの白い軍服を着た男性が立っていた

 

 

「代表!すぐに…、すぐに軍本部に!」

 

 

「…わかった」

 

 

「あ…」

 

 

このタイミング

セラは、アラスカのことだと確信していた

それは、ウズミも同じことだった

 

だからこそ、ウズミは告げる

 

 

「セラ君、君も来たまえ」

 

 

「…っ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

軍本部に入ったウズミとセラ

本部に来た途端、セラに奇妙な視線が向けられるが、セラは気にせずにいく

 

軍本部の中には、どこか緊張感が流れていた

 

 

「一体何事だ?」

 

 

ウズミが、軍の責任者だと思われる男に聞く

 

 

「そ…、それが、アラスカ方面に、謎のエネルギー反応が感知されまして…」

 

 

「!なにっ!?」

 

 

セラが、その言葉に反応する

 

アラスカ方面

今、ザフトに襲われている場所だ

 

 

「アークエンジェルは!どうなってるんですか!?」

 

 

「落ち着きたまえ、セラ君」

 

 

混乱するセラを落ち着かせようとするウズミ

セラは、何とか心を静まらせることに成功する

 

 

「それで、他には?」

 

 

「あ、はい。その、アークエンジェルが、オーブに入港許可を求めています」

 

 

「え?」

 

 

驚き第二弾

オーブに来るのか?

 

 

「…ふむ」

 

 

「その、アラスカの謎のエネルギーなんですが…。サイクロプスだと思われます…」

 

 

「…!なにっ!?」

 

 

「…!」

 

 

今度はウズミも共に驚愕する

サイクロプス?

なぜそんなものを使うのか…

 

 

「…いいだろう。入港を許可すると伝えてくれ。だが、わかっているな?」

 

 

「はい、この子のことは…」

 

 

「?」

 

 

セラは、自分のことを話していることに疑問がわく

 

 

「セラ君、少し話がしたい。これからの君の処遇のことだ」

 

 

「…?はい」

 

 

セラは、前を歩きはじめるウズミについていく

再び、あの部屋に入り、ソファに座る

 

 

「…まず、君の生存のことは、アークエンジェルに伝えない」

 

 

「…え?」

 

 

今日は、何回驚いただろうか

 

自分の生存は伝えない?

一体なぜ?

 

 

「なだ、アークエンジェルのことは信用しきっているわけではないのだ。言ってなかったが、君の存在を確かめるための連絡が、連合から全世界に入れられている。当然、オーブも例外ではない」

 

 

「…」

 

 

「君は、キラ君と違って、存在こそ知られているが、その姿は知られていない。当然、生存自体はブルーコスモスも確信している」

 

 

自分は、ブルーコスモスの最大の標的

 

 

「アークエンジェルは、可能性こそ限りなく低いが、ブルーコスモスにつながっている可能性だってまったくないわけではない」

 

 

「…でも、兄さんは」

 

 

そう、もしブルーコスモスにつながっているとしたら、キラはとっくに殺されているなずだ

当然、自分も

 

それを、ウズミに告げる

 

 

「そう、だからアークエンジェルに、アラスカから補充要員などがいないことを確認する」

 

 

そう

たとえ、セラがいたときはそうだったとしても、アラスカについたとき、兵が補充されていたとしたら、ブルーコスモスからの刺客である可能性が高いのだ

 

 

「その上で、ある準備が済めば、君の生存を彼らに伝えようと思う」

 

 

「…」

 

 

ある準備とはなんなのだろう

だが、ウズミの言う通り、無暗に自分の存在を振りかざしてはならない

それは、自覚していた

 

だから、今は仲間に会いたいという欲を抑えなければならないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、色々騒いでたみたいだな…。それに、戦闘もしてたみたいだし、どうなってんだ?」

 

 

「私だってわからないよ」

 

 

シエルとディアッカは、さっきまでの艦に揺れなどについて話していた

一体何が起こっていたのだろうか

あの揺れは、間違いなく戦闘のものだった

 

 

「…捕虜を乗せたまま戦闘だなんて、どうかしてるぜ」

 

 

ディアッカがそうつぶやくと、扉が開いた

 

 

「ん?まだ飯には早いよな?」

 

 

「そうだね」

 

 

誰かが来たことに、不思議に思うシエルとディアッカ

入ってきた人物は…

 

 

「シエル!」

 

 

「…え?キラ!?」

 

 

そう

独房に入ってきたのは、キラだった

 

シエルは、キラがいるということに驚く

目の前の少年は、死んだはずなのだ

 

 

「…幽霊?」

 

 

「トールたちと同じことを言わないでよ」

 

 

「…ほんとに?」

 

 

「うん」

 

 

キラの生存をキラ本人に確かめるというおかしな会話を展開させるシエル

 

 

「…よかった」

 

 

だが、キラが生きていてくれたことは、素直に嬉しい

 

 

「…じゃぁ」

 

 

「?」

 

 

「キラが生きてたなら、セラも…」

 

 

こう希望を持ってしまうのも無理はない

 

 

「…いま、アークエンジェルは、オーブに向かってるんだ」

 

 

「オーブ!?」

 

 

シエルが、驚愕の声をあげる

ディアッカも、声はあげなかったものの、目を大きく見開いている

 

 

「それで、許可をもらうのと同時に、セラの生存を聞いてみたらしいんだけど…」

 

 

そこで、キラは言葉を切らせて黙り込んでしまう

それをみて、シエルは悟る

 

 

「…そっか」

 

 

セラは、本当に死んでしまったのだと

 

 

「…けど、キラが生きててよかった。うれしい」

 

 

「…シエル」

 

 

シエルは笑顔でキラに言うが、その笑顔はどこか悲しみを含んでいるものだった

 

 

セラ…

やっぱり、君じゃなくちゃだめだよ

僕が生きてるんだ

君だって生きてるんだろう?

…どこにいるんだよ、セラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…何でこうなってしまったの?

アークエンジェルから、本部に転属になって、やっと自分もコーディネーターを殺せると思ったのに

なのに、どうして…

 

 

「いい憎しみだよ。利用価値が十分にある」

 

 

目の前にいる男が、笑みを浮かべながら言う

 

この男に気を失わせられ、さらわれた

もう一人女の人がいたが、この場にはいないようだ

 

 

「本当にいい憎しみだ。まぁ、私と違って、対象がコーディネーターだけに向けられているようだが…」

 

 

「…あんたは、ナチュラルが憎いのかしら」

 

 

こわい

だが、怖さを振り切って、目の前の男に問いかける

 

 

「…いや、違うさ」

 

 

だが、男は首を横に振る

 

 

「私が憎いのは…」

 

 

男は、さらに笑みを深めながら口を開く

 

 

「この世界のすべてだよ」

 

 

「…!」

 

 

目の前に男の顔

 

いつの間に近づいていたのだろうか

 

恐怖に気を取られ、男の接近に気付かなかった

 

 

「さぁ、フレイ」

 

 

男は、自分の名を呼ぶ

狂気の笑みを浮かべて、自分の目を見る

 

 

「私のために、利用させてもらおう」

 

 

「…っ」

 

 

フレイの意識が、ゆっくりと落ちていった

 

 

 

 

 

 

「…ふふふ。君には、しっかり働いてもらうよ」

 

 

男は、目を閉じたフレイを見ながら言う

 

 

「さて、そろそろ大詰めと言ったところか」

 

 

アラスカが、サイクロプスを使い、味方もろとも自爆

あの光景を見て、笑みを抑えるのが本当に苦労した

自室に戻り、笑いを開放

どれだけの時間笑っただろう

笑い終わった後、息切れが中々収まらなかった

 

だが、仕方ない

本当に滑稽なものだった

 

 

「しかし、あのモビルスーツ…」

 

 

この男は、急に出てきて、足つきの前に立ちはだかったMSの正体を知っていた

 

 

「…フリーダム。一体どちらが操縦していたのか」

 

 

セラ・ヤマトか、キラ・ヤマトか

 

弟の方なら、少々厄介だが

 

 

「…兄の方ならば、何とかなるだろう」

 

 

兄の方ならば、フレイにやらせても何とかなるか

さすがに弟は、自分が相手をしなければ

 

 

「…最高を超えるコーディネーター、セラ・ヤマト。本当に、死んだのか」

 

 

正直信じられない

あれが、本当に、ここまであっけなくその命を散らせてしまうとは思えない

 

 

「…まぁ、用心しておくことに越したことはない。あとは、鍵か」

 

 

あの女は、鍵になりうるだろうか

 

 

「破滅は、もうじきだ」

 

 

仮面で顔を覆った男、ラウ・ル・クルーゼは、唇を歪ませながらつぶやいた




フレイさんにとって、一番きついと思われることをさせます
コーディネーターに利用されるんですよ
これはきついでしょう

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