機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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今まで以上に視点変換が激しいと思われます

覚悟して読んでくださいm(_ _)m


PHASE31 二人が落ちてから

…ここは、どこだ?

 

俺は、死んだのか?

 

約束、したのに…

 

生きて帰るって、約束したのに…

 

 

「せ…」

 

 

兄さん…

 

 

「…ら…」

 

 

皆…

 

 

「せ…ん…」

 

 

シエル…

 

 

「セラ君…」

 

 

…誰だ?

誰が呼んでいる?

 

 

「セラ君、目を覚ましたまえ」

 

 

「セラ!」

 

 

…母さんの声まで聞こえる

なんだ?

何なんだ…

 

 

「…母さん?」

 

 

光が目に入る

目を細めると、そこには、カリダの顔が

 

 

「…っ!セラっ!」

 

 

カリダは、セラを優しく抱き締める

喜びを感じながらも、セラの体を思いやって優しくするところは、さすが母親と言うべきか

 

 

「セラ君」

 

 

「…!」

 

 

再び自分の名前を呼ぶ声

セラはその声が聞こえる方を見る

そこには

 

 

「ウズミ様…?」

 

 

「こんなに早い再会になるとはな…。まぁ、今はゆっくり休みたまえ」

 

 

ウズミがセラに優しげに声をかける

 

急にセラの瞼が重くなる

 

…眠るかな

 

セラは、目をゆっくりと閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソだろ…。セラとキラが…?」

 

 

「そんな…!」

 

 

トールの目の前で、サイ、ミリアリア、カズイの三人がショックを受けた表情をする

 

 

「…トール?ウソでしょ?確かに、こっちでもシグナルが失ったことは確認されたけど…、そんな…」

 

 

「ウソじゃない…。俺の前で、ストライクは爆発して…、スピリットは海に落ちて…、水柱が立って…!」

 

 

ミリアリアが、トールに詰め寄る

だが、トールは真実を告げる

自分の目の前で起こった惨劇を

 

 

「…く…う…!」

 

 

ミリアリアが涙をこぼす

抑えきれなかった声をもらす

 

 

「…」

 

 

トールは、何もできない

ミリアリアを慰めることができない

 

助けられなかったのだ

目の前にいたのに

護れなかったのだ

 

 

「…くそっ」

 

 

トールは、駆け出してしまう

 

それを見たカズイは追いかける

サイは、ミリアリアの肩に手を置く

 

 

「だめだよミリィ…。今、一番辛いのは、トールなんだ…」

 

 

「…!」

 

 

ミリアリアは、はっとする

そうだ

自分たちと違って、トールは目の当たりにしたのだ

セラとキラの、死の瞬間を

 

 

「あ…、私…」

 

 

急速に涙が収まり始める

こんなことをしている場合じゃない

 

 

「トール!」

 

 

すぐさまトールを追いかけるミリアリア

そのミリアリアを、サイは柔らかな笑みを浮かべて見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ…」

 

 

笑いが止まらない

喜びが抑えられない

まさか、ここまで早く自分の目的の一つが達成されるとは…

 

 

「ははは…!」

 

 

セラとキラが死んだ

セラとキラが死んだ

セラとキラが死んだ

セラとキラが死んだ

セラとキラが死んだ

 

 

「ははははは!ふふふふふ…!」

 

 

セラとキラが死んだ

この事実が、フレイに途轍もない喜びを与える

 

フレイはベッドでごろごろ転がりながら笑い続ける

 

 

「はははははははははははははははははは!!!!」

 

 

止まらない

止まらない

憎い相手が死んだ

自分が手を加えずとも死んだ

いい気味だ

 

 

「ふふふ…!…はぁ…はぁ」

 

 

ようやく笑いを抑えることが出来始める

笑いすぎて、息切れを起こしてしまう

 

 

「はぁ…はぁ…。あ・と・は…」

 

 

後は、残りのコーディネーターだ

一番憎かった二人は殺した

片方はナチュラルだが、そんなことはもうどうでもいい

憎かったから、もういいのだ

 

 

「ぜんぶぜぇんぶ、殺してあげるんだから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのですか?真実を話しても」

 

 

「…はい。セラは、動けるようになればすぐに、アラスカに向かうと言うでしょうから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは目を開ける

ここは…、オーブなのか?

 

母もいて、ウズミもいた

確定だろう

 

しかし、どうしてオーブにいるんだ?

自分は、リーパーにやられて…

 

 

「…!アークエンジェルは!」

 

 

そうだ

アークエンジェルはどうなったのだろうか

自分の兄はどうなったのだろうか

シエルは…どうなったのだろうか

 

 

「ぐっ…!」

 

 

セラは、ベッドから起き上がろうとする

だが、体にはしる痛みで上手く動かせない

 

 

「くっ…、くそ…!」

 

 

痛みに耐えながらも、必死に起き上がろうとする

そこで、扉が開く音がする

 

 

「…!セラ君!」

 

 

そこに、ウズミが入ってくる

ウズミは、動こうとするセラを支え、ゆっくりと寝かせる

 

 

「…っ」

 

 

「無理をするでない。君のけがは、君が考えているよりひどいものだぞ」

 

 

セラは、ウズミの言う通りおとなしくすることにする

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

流れる沈黙

流れる汗

 

 

(気まずい気まずい気まずい!どうにか!どうにか話題を!ていうか何で国の代表がこんな一般…じゃないけど、特徴もへったくれもないやつの病室になんて来てるんだぁ!)

 

 

心の中で考えた時間

0.1秒

凄まじい速さだ

 

 

「セラ君」

 

 

「ひゃ!…はい」

 

 

…噛んだ

噛んでしまった

 

だが、さすがは代表と言ったところか

セラの噛みを気にすることもなく、話を続ける

 

 

「君は、アラスカに行こうと考えているかい?」

 

 

「!」

 

 

不意に指摘された自分の考え

確かにその通りだ

体が動くようになれば、すぐにでもアラスカに行こうとしていた

アークエンジェルがいるであろうアラスカに

 

 

「…はい」

 

 

ウズミの問いにまっすぐ答えるセラ

 

 

「…そうか」

 

 

ウズミは、目を閉じる

何かを思案するように

 

セラは、ウズミを見る

何を考えているのだろうか?

 

 

「…セラ君」

 

 

ウズミが、顔をあげてセラを見て

 

 

「君を、アラスカに行かせるわけにはいかない」

 

 

と、告げた

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んぅ」

 

 

「…!」

 

 

「…ん、あ」

 

 

キラは、目を開けた

まぶしい

目を一度閉じてしまう

 

 

「キラ?」

 

 

自分を呼ぶ優しい声

誰の声なんだろう…

もう一度呼んでほしい

その柔らかい声で、もう一度…

 

 

「目を覚ましてくださいな」

 

 

「…う」

 

 

キラは、目をもう一度開く

そして、視界に入ってきたのは…

 

 

「ラクス…さん?」

 

 

「ラクスと呼んでくださいな?キラ」

 

 

ラクスがすべてを魅了するような優しい笑みを浮かべてキラを見る

 

 

「でも、覚えていてくださって…。うれしいですわ」

 

 

どうして、彼女が自分の傍にいるのだろう

自分は、死んでいないのか?

ここは、一体どこなのだろうか

 

次々に湧いてくる疑問

口に出して表現できない感情

 

 

「おや、彼が目覚めたのですか?」

 

 

「はい、マルキオ様」

 

 

動揺しているキラに、もう一人、男が近づいてくる

その表情は、ラクスと同じように、人を安心させるような笑みで

 

 

「ぼくは…?」

 

 

「あなたは傷つき、私の祈りの庭にたどり着いたのです…。そして、私がここにお連れしました」

 

 

「…あ」

 

 

そこでキラは思い出す

自分が何をしていたのか

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

思い出す光景

響く雷鳴の中、友と殺し合った

怒りに呑まれ、本能のままに

 

 

「僕は…、アスランと戦って…」

 

 

アスランと戦った

力の限り

お互いがお互いを殺そうとして

 

 

「死んだ…はずなのに…」

 

 

キラは、布団を握りしめうずくまる

ラクスは、そんなキラの手を包み込むように握る

 

キラは、ラクスを見る

ラクスは、笑みを浮かべながらキラを見る

 

 

「う…くっ…」

 

 

キラは、ラクスから与えられるぬくもりをひたすらに感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディアッカがここに来るなんてね…」

 

 

「そういうあんたもな。連れてかれたのは知ってるが…。セルヴェリオスさんが心配してたぜ?」

 

 

シエルは表情を落とす

ロイは、やはり心配してたのか

だが、自分はザフトよりこちらを選んでしまったのだ

心配される資格などない

 

 

「ま、あの人も少しは満足したんじゃねえの?スピリットを討ったことだし?」

 

 

「え?」

 

 

シエルは、ディアッカの言葉の中に聞き捨てならない一言が入っていることに気づく

 

 

「待って?スピリットを…撃った?」

 

 

「ん?あぁ。ここに収容される前に見たぜ?サーベルに貫かれて海に沈むスピリットをよ」

 

 

頭がくらくらする

意識が遠のいていくのを感じる

 

 

「…!おい!あんた!?」

 

 

「!」

 

 

ディアッカの大声で、意識が引き戻される

 

 

「どうしたんだよ?あ、もしかして、スピリットが落ちたことを喜んでんの?」

 

 

からかうような口調でディアッカが聞いてくる

だが、それは違う

全くの逆だ

 

スピリットが落ちたということは、セラが死んだということ

 

 

「…っ」

 

 

ディアッカに気づかれないように涙を流す

 

約束した…

生きるって、約束した…

なのに…

 

シエルの心は、悲しみに包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アラスカに行かせないって、どういうことですか?」

 

 

セラは、ウズミの目をにらむようにして見た

なぜ、この男はアラスカに行かせてくれないのか

なぜ、仲間の所に行かせてくれないのか

 

 

「…」

 

 

ウズミは、黙ってしまう

真実を話す

そうしてでも止めると、ヤマト夫妻とも決めたはずなのに

いざ話すとなると、戸惑ってしまう

 

 

「ウズミ様…、俺に話しづらいことでもあるんですか?」

 

 

「…なぜそう思うのだね?」

 

 

ウズミはこめかみに薄らと汗をかきながら聞く

セラは無表情のままウズミを見る

 

 

「そんなの、雰囲気でわかります。俺に隠し事は通用しませんよ?」

 

 

「…」

 

 

ウズミは目を見開いてセラを見る

 

セラは、カリダと同じことを言っていたのだ

 

 

『セラに隠し事は通用しません。今でも、私たちが隠し事をしていることを何となく感づいているようですし…』

 

 

ウズミは、つい笑みを浮かべてしまう

 

 

「…?」

 

 

セラは、急に笑みを浮かべたウズミを不審そうな目で見る

 

 

「いや、何でもないんだ…。見破られてしまうとは思わなかったのでな…」

 

 

「…」

 

 

「君が知りたいことは、君にとって辛いことかもしれない。それでも、いいのかね?」

 

 

ウズミは、さっきとは打って変わって鋭い目でセラを射抜く

セラは、一瞬ひるむ

獅子の目…

 

 

「…俺は知りたい、知りたいんだ。このままじゃ、俺は…。

自分すら信じられなくなる…」

 

 

「…」

 

 

「自分がナチュラルだって信じてきた。けど、今はそれが信じられない。…俺は、一体何なのか…。教えてください」

 

 

頭を下げるセラ

それを見たウズミは、決めた

全てを話す

この少年に、端から端まですべてを

 

 

「…セラ君、最初に、一つ言わせてもらおう」

 

 

「…」

 

 

ウズミが話し始める

セラは、顔をあげて息を呑む

 

昔から、どこか感じていた自分への違和感

ナチュラルであるにも関わらず、ほとんどのことをコーディネーターであるキラよりも上手くできていた

 

自分は本当にナチュラルなのかと聞き、答えた時の親の違和感

 

それらが、全て紐解かれる時が来た

 

 

「君は、ナチュラルではない」

 

 

「…っ」

 

 

…やはり

やはり自分はナチュラルではなかったのだ

 

 

「君は、コーディネーター。だが、ただのコーディネーターではないのだ」

 

 

「…え?」

 

 

「このことを話すには、まず君の兄のことを話さねばな…」

 

 

「?」

 

 

ウズミの言葉に疑問を持つ

なぜ、自分の正体の話が、キラのことの話に飛躍するのだろうか?

 

そして話し始める

 

全てを知るオーブの獅子は、セラにすべてを話し始めたのだった

 

 

「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルは、独房の端の方でうずくまっていた

 

セラが撃たれた

セラが死んだ

 

その事実が、シエルを打ちのめしていた

 

 

「…?」

 

 

不意に、扉が開く音がする

 

 

「…トール?」

 

 

入ってきたのはトールだ

食事を持ってきたのだろうか

 

 

「お、やっと飯が来たのか?」

 

 

ディアッカが食事のにおいを嗅いだのか、待ちくたびれたかのように言う

 

 

「ったく、おっせえよな。捕虜は大切なんだから、大事に扱えよ。な?シエル。ま、間抜けなナチュラルじゃ、しょうがな…」

 

 

「…っ」

 

 

そこで、トールがキレた

手に持っていた食事を離す

床に落ちた食器類が、すさまじい音を響かせて割れる

 

 

「てめぇっ!!」

 

 

トールは、ディアッカのまわりを覆っている牢を殴る

 

 

「何でだよっ!何でなんだよっ!!」

 

 

牢を殴る音が独房に響く

トールの叫びが響く

 

ディアッカはトールの大声に一瞬あっけにとられたが、すぐに余裕の笑みを浮かべる

 

 

「はっ、なんだよ。何が言いたいんだ?」

 

 

「…!」

 

 

トールの表情がさらに歪む

 

 

「何で…、セラとキラが…、いないのに…」

 

 

「トール!?」

 

 

そこで、ミリアリアとサイが入ってくる

だが、トールはそれを気にもとめない

 

 

「セラとキラがいないのに!何でお前なんかが生きてるんだよ!?」

 

 

トールは、殴る勢いをあげる

拳からは血が滲んでいる

だが、トールはひたすらに殴り続ける

その拳は、相手に届かない

だが、振るう

振るう

 

 

「やめて、トール!」

 

 

「トール!」

 

 

ミリアリアとサイが、トールを抑える

 

 

「離せ!離せよっ!」

 

 

トールは暴れる

だが、さすがに二人がかりではかなわない

ゆっくりとであるが、出口に連れてかれていく

 

 

「セラとキラが…!死んだのに!」

 

 

「…」

 

 

シエルはトールが連れていかれるのを見つめることしかできない

 

 

「シエル!お前はいいのかよ!セラが…、死んだんだぞ!?」

 

 

「…っ」

 

 

最後に、響いたトールの言葉が、シエルの心を貫いた

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

広がる沈黙

 

 

「…なぁ」

 

 

「…なに?」

 

 

ディアッカが、話しかけてくる

 

 

「俺は、ナチュラルのこと、見下してた」

 

 

そう

ディアッカだけでない

大抵のコーディネーターは、ナチュラルを見下している

 

 

「けどさ」

 

 

「?」

 

 

ディアッカはさらに続けていく

 

 

「こうして見てたらさ…、ニコルを落とされた時の俺たちと、変わらないように見えてきたよ」

 

 

「…そう」

 

 

あの短時間のトールの叫びが、ディアッカの何に届いたのかは知らない

だが、ディアッカの中で何かが変わったのは、間違えないようだ

 

 

「…そうだ」

 

 

「ん?」

 

 

ディアッカが、再び話しかけてくる

 

 

「セラって、誰?」

 

 

「…」

 

 

ディアッカの問いに、黙り込んでしまう

 

セラは…

セラは…

 

 

「地球軍の兵士で、スピリットのパイロットで…」

 

 

シエルは、そこで言葉を切った

これの続きは、言っていいのか?

 

一瞬の戸惑いをシエルは振り切った

 

 

「私が、守るって決めた人。…何も、できなかったけど」

 

 

「…そか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの金髪の奴の叫びを聞いてから、ナチュラルとコーディネーターなんて、そう変わらないんじゃないかって思っちまった

仲間が死んだら悲しむし、たぶん、うれしいときは笑うんだろう

 

コーディネーターの方が、当然優秀だが、今はそれが微々たるものだと思えてきた

 

けど、シエルの大切な人…

セラか…

 

あいつはキラって名前も出してたな…

あいつらにとっての仲間

死んでしまった仲間

 

俺たちにとっては、ニコルってところか…

 

…やっぱり、コーディネーターとナチュラルなんて、変わんねえよな

まさか、こんな短時間で考えがこんなに変わるなんて思わなかったわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ」

 

 

医務室のベッドに寝転がりながらため息をつく

 

 

「…まじかよ」

 

 

かなりくるものがあるだろうとは思っていたが、ここまでだとは思わなかった

 

 

「…俺は」

 

 

 

 

 

 

 

「生まれてくる必要なんてなかったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君は、復讐という願いを込められ、生まれてきた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真実は、セラを容赦なく貫く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはは。冗談じゃねえよ…」




次回は、セラの正体が明らかになると思います

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