機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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ほぼ原作通りの話です


PHASE25 孤島の一日

カガリは、目の前の機体を見上げていた

色が落ち、灰色になっている

 

 

「やはりこれは…、Xナンバー…!」

 

 

そこまで口にしたところで、カガリは後ろから誰かが接近していることに気がついた

後ろを振り返る

 

カガリはホルスターから拳銃を取り出す

が、何者かは、体を沈めせてカガリの拳銃を持った方の手を蹴り上げる

 

 

「…ぐっ」

 

 

うめき声をあげるカガリ

だが、何者かの行動はここで終わらない

 

カガリを背負い投げの要領で投げ飛ばす

倒れこんだカガリにのしかかった

 

カガリは、何者かの姿を、ここで初めてまともに見る

 

赤い服

見間違えるはずがない

ザフト兵だ

 

そこでザフト兵の手に光るものがあることに気づく

 

ナイフだ

カガリは思わず目を瞑ってしまう

 

 

「…きゃぁぁぁああああああああああ!!!!!」

 

 

「…!お…女…?」

 

 

ザフト兵の呆然とした声が聞こえる

 

いつまでも痛みが来ないことに不思議に思い、目を開ける

目の前にザフト兵の顔が、ヘルメットを通して見える

 

年は自分とあまり変わらなさそうだ

緑色の瞳が自分を映す

あっけらかんといった感じで口を軽く開いている

 

さっき、『女?』と、つぶやいていた

 

自分のことを男だと思っていたのか?

 

今、自分の命は目の前のザフト兵に握られていることも忘れて、カガリの心は怒りに満ちていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーペンタリアのザフト軍基地の一室

そこに今、シエルたちはいた

 

ニコルが落ち着かない様子でうろうろ歩いている

シエルは苦笑いする

 

だが、気持ちもわからないでもない

実際、シエルも心配であることは確かなのだ

 

アスランを乗せた輸送機の消息が絶った

そう報告が入ったのだ

イザークが状況を聞きに行って十五分くらいたっただろうか

ニコルはずっとうろうろ歩いている

 

と、ここで部屋の扉が開いた

イザークが入ってくる

 

 

「ザラ隊の諸君!記念すべく我々の初任務の内容を通達する!」

 

 

入ってくるやいなや、イザークが大声でしゃべり始める

それより、初任務?

疑問の思ってイザークに視線を向ける

 

 

「我々の初任務は、これ以上ないと言うほど重要な…、隊長殿の捜索である!」

 

 

言い切った瞬間、イザークは声を出して笑い始める

聞いていたディアッカもイザークと一緒に笑い始める

 

笑い事ではないだろうと思いつつも、まさかの初任務が隊長の捜索という事実に少し苦笑してしまう

ロイも自分と同じことを思っていたのか、苦笑している

 

 

「まぁ、乗ってた飛行機が落ちてしまったものは仕方ない。日没も近いし、捜索は明日からということで」

 

 

「そんな!」

 

 

イザークが言い放った言葉に、ニコルが抗議を入れようとする

だが、そのニコルをロイが止めた

 

イザークとディアッカは、そんな二人を見もせずに去っていく

 

 

「日没が近い中で捜索したら、自分たちの身が危なくなる」

 

 

「それに、イージスだってあるんだから。ニコル君が考えているようなことはないと思うよ?」

 

 

ロイがニコルに言い、シエルが続きを引き継ぐ

ニコルは、顔を俯かせてしまう

だが、考えてみると、シエルたちの言うとおりだった

イージスに乗っているなら、たいていの危険は回避できるはず

それに、消息を絶った場所はザフトの制空圏内という話だ

 

 

「…わかりました」

 

 

ニコルが納得したのを見て、シエルは笑顔になる

 

そして、明日の捜索のためにも今日は休もうと、部屋に戻っていくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、キラをなだめていた

日が落ちている状態で、カガリを捜索すると言っているのだ

 

 

「だから、僕は大丈夫ですから!」

 

 

キラがムウに食って掛かる

セラは何とかキラを止めようとするが、まったく意味をなさない

 

 

「もう十分休みましたし…」

 

 

「何が十分休んだだ!アラートで一時間転がってただけじゃないか!」

 

 

え?少佐?

ちょっと、そこでヒートアップしないでください

てか二人とも、俺の存在見えてる?

 

 

「でも…」

 

 

「あと五時間もすれば日が昇る。そうすりゃ、俺が出るから、お前は休んでろ」

 

 

ムウに言われ、キラはとぼとぼ格納庫から去っていく

その様子を見ていたムウは、歯をかみしめる

 

 

「俺もたいがい、なさけねえよ…」

 

 

セラに言われた通り、たらればを言ったってどうしようもないことはわかっている

けど、公開の気持ちは全く晴れない

もし、こうしている間にカガリの身に何かあれば…

 

その思いが消えない

 

カガリがいない

その事実は、艦に大きな不安を残していた

 

 

「大丈夫だ…。日が昇ればきっと見つかる」

 

 

ムウは、自分に言い聞かせるようにつぶやいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら」

 

 

カガリと出会ったザフト兵、アスランは、食料のパックをカガリに差し出す

カガリは、自分の手のひらにのっている食料をじぃっと見ている

 

 

「電波状態が悪い。今日はここで夜明かしになる可能性が高いぞ」

 

 

今、アスランとカガリは、岩に入った大きな裂け目の中にいた

 

外にいた二人だが、急に雨が降り出した

それで、雨宿りできる場所を探し、ここを見つけたのだ

 

 

「電波状態が悪いのはお前たちのせいじゃないか」

 

 

アスランの言葉が気に入らなかったのか、カガリがむっとした表情で言葉を返す

 

 

「先に核攻撃を仕掛けてきたのは地球軍だ」

 

 

アスランは、間を置きもせずに言い返す

カガリは言い返すことが出来ないのか、押し黙る

 

アスランはカガリを見る

未だに食料を受け取らない

 

 

「ザフトのものでも食料は食料だ」

 

 

カガリはアスランをにらむが、さすがにお腹が減っていたのか、食料を受け取る

カガリはパックを破って食料を口に入れ始めた

 

アスランはその様子を見て、ふっと息を吐き、自分も食料にかぶりついた

 

 

 

 

 

 

 

カガリは食料を食べ終わると、目の前の少年を見る

不思議な奴だ

敵である自分に食料を分け与え、挙句の果てに敵を目の前にして寝はじめるとは…

 

ん?寝る?

 

 

「お…おい!お前寝る気か!?」

 

 

目の前の少年は、洞窟の壁に寄りかかりながらこくこくと船を漕ぎはじめていた

 

少年は目をうっすらと開ける

 

 

「まさか…寝てなんていないさ…。ただ、降下してすぐに…、移動で…」

 

 

本格的に寝てしまった

カガリは呆れる

 

 

「おいぃっ!敵を目の前にして寝るなよぉ!」

 

 

少年の目は、カガリの大声をもってしても覚ますことはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリが行方不明になって、艦の空気もどこか物足りなくなった

セラはそう思っていた

 

 

「まさか、あいつ一人いないだけでここまで違うとは…」

 

 

いい意味で呆れていた

 

なぜセラはここまで落ち着いていられるのか

ただ、カガリが死ぬのが想像できない

 

遭難死?

なにそれおいしいの?

 

そんな感じで救助されて帰ってきそうだ

 

ただ、早く助けるに越したことはない

時間が経ちすぎれば、いくらカガリでも危ないだろう

 

明日は朝一で捜索に出よう

そう決めた時、どこかから耳に障る声が聞こえてくる

この声は…、間違いなかった

 

セラは、声が聞こえる方に向かってみると、そこにはフレイとキラ

フレイはキラの腕に自分の腕をからめて密着

キラは顔が引きつっている

明らかに困ってるように見える

 

 

「…おいおい」

 

 

あれでもまだ足りないか…

本格的につぶしにかからないと兄さんが危ないか?

 

そう思った時、キラの声が響く

 

 

「やめろよ!」

 

 

「「!」」

 

 

フレイも、物陰から聞いていたセラもキラの大声に驚く

慌てて見ると、フレイがキラに突き飛ばされたのか、しりもちをついていた

 

 

「もうやめろよ!こんなこと、僕はされたくない!」

 

 

キラはそう言い残して走り去っていく

フレイはそんなキラを呆然と見る

 

セラは、フレイにたたみかけようか悩む

ここでとどめをさせば、間違いなくキラの身は助かるだろう

だが、自分でも甘いと思うが、サイはまだフレイのことを好きだ

サイの悲しむ顔は見たくない

友達の悲しむ顔を見たくない

 

セラはフレイを信じることにした

もうこれで目を覚ましてくれるだろう、と

 

これからのフレイはどうなるか

 

それは先の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリは目の前で寝てる少年を見る

あどけない顔

ついさっき、自分を殺そうとした奴と同一人物には見えない

 

そして、少年の腰のホルスターにある拳銃を見る

思い出す

崩壊したヘリオポリスを

 

 

「…」

 

 

こいつがやった

こいつは敵だ

こいつがやった

こいつは敵だ

 

カガリが少年のホルスターの拳銃に手をゆっくりと手をのばす

ゆっくり、ゆっくり

少年は気づかない

 

カガリはさらに拳銃に手を近づける

 

火がパチッとはじける

カガリは体を震わせる

 

そして、少年は目を覚ました

 

 

「!」

 

 

カガリはさっと拳銃を取り、毛布を投げかけた

少年は、寝起きとは思えないほどの素早い動きで毛布を払い、ナイフを構える

 

 

「お前…!」

 

 

「ご…ごめん!お前を撃つ気はないんだ!でも…」

 

 

少年はカガリを鋭い視線で見据える

 

 

「あれはまた、地球を攻撃するんだろ!?」

 

 

少年の表情にわずかな動揺がはしる

 

 

「造ったオーブが悪いってことはわかってる!けど、あれは、地球の人たちをたくさん殺すんだろ!?」

 

 

少年はカガリの目をじっと見つめる

カガリの目には涙があふれている

 

心がわずかに痛むが、自分はザフト兵だ

プラントを守るために戦っているんだ

 

 

「なら撃てよ」

 

 

「…!」

 

 

「その引き金を引いてるのは俺だ。パイロットは俺だ。どうしても撃つというなら、俺はお前を殺してでも生き残る」

 

 

カガリは、目の前の少年を殺すつもりはさらさらなかった

ただ、あの機体を破壊したい

それだけだった

なのに…

なんでこんなことになってしまったのだろうか

 

カガリの頭がカッとなる

 

 

「っ!くそぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

 

カガリは、拳銃を持っている腕をあげ、拳銃を投げ捨てる

驚いた少年がこちらに飛び込む

 

すると、カガリの耳に発砲音が響く

 

 

「馬鹿野郎っ!オープンボルトの銃を投げる奴があるか!!!」

 

 

少年に怒鳴られて、カガリは理解する

投げ捨てた拳銃が暴発したのだ

 

カガリは拳銃を見てオープンボルトだとわかっていた

だが、あの時のカガリはそんなこと頭から抜け落ちていた

 

そこでカガリは気づく

少年の脇のあたりに血がにじんでいるのを

 

 

「お…お前、それ!」

 

 

「あぁ、大したことはない」

 

 

カガリは悟る

さっき自分をかばった時にけがをしたのだと

 

 

「手当てする!」

 

 

カガリの言葉に少年の目が見開く

カガリは少年の救急パックをとる

 

少年は慌てたように首を横に振る

 

 

「い、いや。自分でできるから」

 

 

「やらせろよ!このままじゃ、借りを作ってばかりじゃないか…」

 

 

カガリが少年を見る

 

 

「いや、気にするな…」

 

 

それでも拒否する姿勢をやめない少年

 

少年は心の中で言う

 

だって、お前不器用そうだし

お前に手当てさせたら悲惨なことになりそうだし

 

少年が懸念していたのは、このことだった

いや、事実なのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日の出によって、あたりが明るくなり始めた

セラとムウはそれぞれの愛機に乗り込んでいた

そろそろカガリの捜索に行っても大丈夫だろうとマリューに許可をもらったのだ

 

 

「よし、いくぞ。兄の方は艦のためにも残っとけよ。絶対に出るんじゃねえぞ」

 

 

ムウがキラに釘をさすように言う

さすがにMS,戦闘機をすべて出すわけにはいかない

キラには残ってもらうことにしたのだ

 

キラの表情が不満に満ちている

 

 

「兄さん。大丈夫だから」

 

 

「いい加減いくぞ。そろそろ嬢ちゃんを見つけてやんなきゃな」

 

 

セラとムウは、その言葉を言い残して出撃した

 

 

 

 

 

 

 

 

アスランは目を覚ました

洞窟の入り口から日の光が差し込んでくる

 

 

「朝か…」

 

 

自分の声とは違う少女の声が聞こえてくる

カガリも目を覚ましたようだ

 

カガリを今は無視してイージスのコックピットに座る

無線のスイッチを入れる

すると、誰かの声がスピーカーから聞こえてくる

 

 

「…す…アスラ…聞こえ…」

 

 

「ニコルか!?」

 

 

聞こえてきた声が、自分の仲間のものだとわかる

アスランは喜びの声をあげる

 

 

「アスラン!よかった…!今、電波から位置を…」

 

 

「どうしたー?」

 

 

カガリの声が下から聞こえてくる

 

 

「通信が復活した!」

 

 

と、そこでアラートが鳴る

調べてみると、それはカガリの機体の方へと向かっているということが分かった

 

アスランはコックピットから降りて、カガリと向かい合う

 

 

「今から救援が来る。お前の方にも何か来ているみたいだぞ」

 

 

カガリは、助けが来たとわかり、表情を明るくさせる

 

 

「俺は、この機体を隠さなきゃならない。こんなとこで戦闘になりたくはない」

 

 

アスランがそう言うと、カガリは頷く

今の自分たちの状況を思い出したようだ

 

二人は分かれて歩く

 

 

「カガリだ!」

 

 

不意に聞こえてきた声で振り返る

 

それが、彼女の名前だと理解する

 

 

「お前は!?」

 

 

さらに、自分の名前まで聞いてきた

 

…教えてもいいか

 

 

「…アスラン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞカガリぃ!」

 

 

「遅いんだよこのバカ!」

 

 

「へぶっ!」

 

 

イージスがとらえたものは、セラのスピリットだった

カガリを探して、スカイグラスパーの二号機の救難信号をつかみ、そこに向かった

 

案の定、カガリを見つけて安心したのだが…

セラを待ってたのは、カガリの拳骨だった

 

 

「ひ…ひどい…」

 

 

「ほら、とっとと戻るぞ」

 

 

「あ、待てよ~!」

 

 

カガリはセラよりも先にコックピットに乗る

 

アスラン…か

 

さっきまで一緒にいた少年

その正体は、ザフト兵だった

だが、本当に兵士かと疑うほどに穏やかで、柔らかな人物だった

アスランと共に過ごした時間は、カガリの胸の中にしっかりと刻まれていた

 

 

「ったく…。見つけたとたんにこの仕打ちとは…。まあいいか…。ほら、しっかりつかまって。発進するからな」

 

 

セラがそう言って、スピリットを飛行させる

 

 

戻ったカガリは、マードックとマリューにこっぴどく叱られたのだった

 

ナタル?

マリューとマードックの気迫に押されて説教に参加できなかったようです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アスランは

 

 

「やれやれ、まさか初任務が隊長の捜索とは思わなかったよ」

 

 

「ほんとだよなぁ」

 

 

イザークとディアッカが皮肉を口にして去っていく

 

 

「ほんとに無事でよかったです…」

 

 

ニコルが安心した面持ちでつぶやく

 

 

「「…」」

 

 

シエルは笑顔で、ロイは無表情でアスランを見ていた

 

まぁ、何が言いたいかというと

 

カガリと違って、特に面白みもない待遇を受けたということだ

 




最後のアスランサイドはいらないと思った作者です…

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