機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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上手くかけてるか心配です…


PHASE22 砂漠の激闘

「はぁっ!」

 

 

出撃したセラは、さっそく飛んでいる戦闘ヘリをライフルで撃ち落とした

少し見ただけでも十はいるだろう

 

セラはなるべく無駄なエネルギーを使わないように、正確に撃ちぬいていく

 

 

「…来た」

 

 

視界に入り始めた青い機体、バクゥ

こちらに接近している

 

 

「数は八か。兄さん、手分けしてやるよ!」

 

 

「わかった!」

 

 

それぞれ半分ずつ交戦しようと決めたセラとキラ

 

セラは、ちょうど数が半分になるように、砂にライフルを撃って分断させる

そして、セラとキラは左右に分かれて前進していく

 

セラはまず、相手がひるんでいる隙に一機をサーベルで切り裂く

そしてライフルを他の一機に撃つ

ビームはかわされてしまうがそれを読んでいたセラは、そのバクゥに接近してサーベルで斬りかかる

バクゥの回避行動で、撃墜はできなかったが、口にくわえたサーベルを斬ることに成功

 

さらに蹴りを入れて無理やり体制を崩してライフルを…

とそこで、セラは機体を横に移動させる

つい先ほどスピリットがいた場所に、ミサイルが着弾する

 

さらに撃ちこまれるミサイル

セラはライフルで迎撃

してる途中で後ろから襲ってくるバクゥ

 

セラはバーニアを吹かせて後ろに回り込む

サーベルでバクゥを斬った

 

これで残りは二機

 

セラはライフルで牽制

バクゥの接近が止まったところで、最大速度で接近する

サーベルで斬りかかるが、かわされる

 

 

「甘い」

 

 

セラは、密かに手に握っていたライフルの引き金を引く

ビームがバクゥを貫き爆散

残りの一機は、サーベルを投げてメインカメラをつぶし、怯んだ隙に接近

サーベルを引き抜いて一刀両断にした

 

 

「…ふぅ」

 

 

セラは息をつく

キラの方も、すべてのバクゥを討ったようだ

 

アークエンジェルも今のところは問題ない

 

 

「セラ、大丈夫だった?」

 

 

キラから通信が来た

 

 

「ん、大丈夫。また新手が来るかもしれないから、気を緩めないでよ」

 

 

キラがわかってると言ったその直後だった

 

 

「「…!」」

 

 

バクゥか

でも色が違う

あの機体は橙色だ

さらに、バクゥよりもさらに速い

 

そして

 

 

「デュエル、バスター!?」

 

 

そう、橙色の機体と共に、デュエルとバスターもこちらに接近していたのだ

 

いや、あり得ないことではない

あれらも大気圏を突破していた

このスピリットと同列の機体なのだから、単独での突破も可能なはず

だが、ここまで追ってくるとは…

 

 

「デュエル…」

 

 

「…?兄さん?」

 

 

キラの声に確かな怒りが込められていることに気づくセラ

 

 

「あいつは…!」

 

 

「…」

 

 

キラがデュエルの何に怒りを覚えているのかはわからない

 

でも、だからこそ

 

 

「冷静さは失うなよ」

 

 

「…!」

 

 

あえて厳しい口調で声をかけるセラ

キラの息をのむ音が聞こえる

 

「…大丈夫。デュエルとバスターは任せて」

 

 

「…わかった。なら俺は、あのバクゥもどきを」

 

 

キラの声に冷静さが戻ったのを確認する

 

キラの言う通り、あの二機は任せることにする

 

ストライクはデュエルとバスターに接近していく

セラも、橙色の機体、ラゴゥに向かってバーニアを吹かせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがそうなの?アンディ」

 

 

「あぁ。あの黒い方が、おそらく昨日の幼い子が乗っている方だ。ストライクはあの二機の方にいったか」

 

 

ここはバルトフェルドの想定通りにいった

あとは、目の前にいる機体を相手にどこまでやれるか

 

 

「…来るぞ」

 

 

「えぇ」

 

 

二人の男女は、目の前に接近してきた機体を見据えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラはまず、サーベルで斬りかかる

これは様子見だ

これに対してどう対応するか

見るためだ

 

振り下ろされたサーベルを、最小限の動きでかわすラゴゥ

そしてスピリットから距離をとり、二連装ビームキャノンを撃ってくる

 

 

「…!」

 

 

セラはそれをかわす

 

だが、ラゴゥはセラがそうすることがわかっていたかのように、セラの動きに対応してくる

口のサーベルを展開して接近してくる

 

 

「くっ…!」

 

 

セラは、それを何とかかわしきる

 

バクゥの時と違い、余裕のない表情

汗がにじむ手

 

それもそのはず

バクゥよりも速い機動で、他の機体よりも鋭い動きを見せてくるのだ

 

 

「他のとは違う機体…。隊長機…?」

 

 

あの人か…!

 

セラの脳裏に浮かぶ陽気な笑顔

砂漠の虎

 

セラはライフルをラゴゥの動きに合わせて撃つ

が、ラゴゥは撃たれたビームをその優れた機動を上手く使ってかわしていく

さらにかわす動作の途中にも反撃を忘れない

 

セラはラゴゥから放たれたビームを横に機体をはしらせてかわす

 

 

「…!」

 

 

セラは機体を急停止させ、一気にラゴゥに接近させる

ラゴゥはそうはさせないとビームを撃ってくるが、すべてかわす

 

 

「はぁ!」

 

 

サーベルを振り下ろすが、バルトフェルドは機体を後退させ、その斬撃をかわす

 

 

「アンディ!」

 

 

「わかっている!」

 

 

アイシャがスピリットがラゴゥに追いすがるように接近していることを報告する

が、バルトフェルドにはそんなことはわかっていた

 

セラは再びサーベルを振り下ろす

バルトフェルドは口のサーベルで迎え撃つ

だが、間違いなく力はスピリットが上なのだ

鍔迫り合いなど、バルトフェルドにとっては愚策だ

 

だから、一瞬動きが止まったサーベルを横に縫うように移動して回避した

 

 

「なにっ!?」

 

 

さすがのセラもこれには驚いた

 

だが向こうは、セラにその暇すら与えようとしない

距離を取ったバルトフェルドはビームキャノンを撃ってくる

 

かわすことは不可能だと判断したセラは、シールドを取り出す

ビームをシールドで防ぎきると、すぐさままわりを確認する

 

前方にラゴゥの姿は確認できない

 

 

「…後ろ!」

 

 

後ろに振り返りながらサーベルを振り切る

ラゴゥのサーベルの右側を切り裂いた

 

すれ違う二機

 

ラゴゥは、着地するとすぐにこちらにビームを放ってくる

だがセラはいとも簡単にかわすと、ラゴゥの足元にライフルの照準を合わせ、引き金を引く

 

ラゴゥの足元の砂が巻き上がる

 

 

「…っ!」

 

 

バルトフェルドは自分の勘に従って、後退する

 

ラゴゥがいた場所を、スピリットのサーベルが空を切っていた

 

 

「くそ!これをかわしてくるか!」

 

 

二機は互角に戦っていた

だが、少しずつ、戦況はセラに傾いてきていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラはライフルの照準をデュエルに合わせて撃つ

だがデュエルはビームをかわしてサーベルで斬りかかってくる

キラも背中のサーベルを抜いて迎え撃つ

 

鍔迫り合う二機

 

 

「ほらっ!落ちろ!」

 

 

そこに、バスターの砲撃がキラを襲う

デュエルは一足先に離れる

キラも、砲撃に当たる前にその場から離れる

 

 

「でああああぁああぁあああ!」

 

 

デュエルが再びサーベルで斬りかかってくる

キラはそれをシールドで抑える

そしてもう片方の手でライフルを持ち、バスターに向けて撃つ

 

バスターはそれを当然のようにかわす

 

 

「!」

 

 

キラは、見えていた

デュエルの肩についている砲口がこちらに向いたのを

 

レールガンが放たれる前にキラは後退

距離を取ったキラはレールガンをシールドで防ぐ

 

さらにバスターのポッドからミサイルが発射される

キラはミサイルを回避してライフルで反撃

バスターはそれを回避する

 

 

「くそっ!」

 

 

キラはいら立ちが募る

一対二ではなかなか決定機がこない

相手の攻撃を防ぐことはできるが、反撃することができない

 

キラはスピリットの戦況をちらっと見る

 

どうやらセラは大丈夫なようだ

セラが勝つのは時間の問題だろう

 

ならば、自分はセラが勝つまで時間を稼ごう

 

正直、デュエルは自分の手で落としたい

けど、セラの言う通り冷静さを失っては元も子もない

 

 

「…ふぅ」

 

 

キラはデュエルの猛攻をかわしながら深呼吸をする

自分の中の怒りを抑える

 

 

「…よし」

 

 

デュエル撃ったビームをシールドで防いで、サーベルでデュエルに斬りかかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェルの艦橋にナタルの声が響き渡る

 

 

「ゴットフリート、バリアント!てぇ!」

 

 

相手のMSはスピリット、ストライクが抑えているものの、相手の母艦や戦闘ヘリの攻撃がアークエンジェルを襲う

 

 

「バリアント砲身温度、危険域に近づきつつあります!」

 

 

パルの報告が入る

アークエンジェルにダメージが蓄積されつつある

 

 

「艦長!ローエングリンの発射許可を!」

 

 

だから、ナタルはこの艦の最大威力の攻撃の発射許可を求める

 

 

「だめよ!あれは地表への汚染被害が大きすぎるわ!」

 

 

しかしマリューはナタルの進言を拒否する

 

 

「しかし…!」

 

 

ナタルは不満げな表情を見せる

だがマリューは退かない

自分の意見を通す

 

 

「命令です!」

 

 

「…了解しました」

 

 

命令と言われればこれ以上食い下がるわけにはいかない

 

ナタルはローエングリンが使えない状況でどうやって戦っていくかを考える

 

そんな中、スカイグラスパーが駆逐艦を撤退させるほどにダメージを与えていた

これで少しは楽になる

そう思った時だった

 

 

「…!ろ、六時の方向に艦影!」

 

 

トノムラがもう一つ艦がいることを報告する

 

 

「もう一隻伏せていたのか!?」

 

 

ナタルが驚愕の声をあげる

六時、真後ろだ

 

真後ろから攻撃が撃たれる

 

 

「艦砲!直撃コースです!」

 

 

「かわして!」

 

 

「撃ち落とせ!」

 

 

砲が撃たれたことに対して、マリューとナタルがそれぞれ違う指示を出してしまう

だがどちらの指示を実行することが出来ず、砲撃が当たってしまう

 

アークエンジェルは大きく体制を崩し、工場跡地に突っ込んでしまう

 

 

「ヘルダート、コリントス!てぇ!」

 

 

動かないアークエンジェルに集中砲撃が容赦なく撃たれる

ナタルは反撃の指示を出すが、あまり意味をなさない

 

 

「スラスター全開、上昇!これじゃ、ゴットフリートの射線が取れない!」

 

 

「やってます!けど、船体に何かが引っかかって…!」

 

 

アークエンジェルは運にも見放されてきたのか

 

MS戦とは違い、アークエンジェルの戦況は不利になっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリは、集中砲火にあっているアークエンジェルに気づく

いてもたってもいられなくなる

 

 

「エンジンをやられたのか…!?スピリットとストライクは…」

 

 

キサカが二機を探して視線を巡らせる

 

だから、カガリがバギーから降りてアークエンジェルに向かって駆け出したことに反応が少し遅れた

 

 

「カガリ!」

 

 

後を追おうとするが、近くで起こった爆発で距離が開く

 

カガリは格納庫に駆け込んだ

誰も乗ってないスカイグラスパー二号機に乗り込む

 

 

「おい嬢ちゃん!なにすんだ!」

 

 

「機体を遊ばせてる状況か!?こいつで出る!」

 

 

「なにぃ!?」

 

 

カガリはまわりが止めるのを振り切って発進しようとする

 

 

「下がれ!吹っ飛ぶぞ!ハッチ開けて!」

 

 

「ああぁー!もう!ハッチ開けろ!落としたら承知しねぇからな!」

 

 

マードックがハッチを開けるように指示し、ハッチが開かれる

 

カガリはスカイグラスパーを発進させる

空にでた機体と、シミュレーションとの違いがカガリを襲う

だが、そんなものに負けるかと意志を強くする

 

 

「スカイグラスパー二号機発進!?」

 

 

「パイロットはカガリさんのようです!」

 

 

艦橋にも、カガリが勝手に出たという情報はきていた

だが今はそのことを気にしていられる状況じゃない

 

 

カガリはしっかりと操縦桿を握る

飛行の体制を整え、バルカンをレセップスの主砲に撃つ

 

バルカンが撃たれた主砲は爆発を起こす

 

 

「ひゅぅ!やるねぇ…。落ちるなよ!」

 

 

「あぁ!」

 

 

ムウから激励を受ける

カガリはさらに敵艦へ接近していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラとバルトフェルド、アイシャの戦いも佳境になっていっていた

ラゴゥは右側部分のサーベル、四本足のうちの左前脚を失っている

 

だが、スピリットはエネルギー残量が少なくなってきているものの、損傷はゼロに等しかった

 

 

「…!足つきめ!あれだけの攻撃でまだ落ちないか!」

 

 

バルトフェルドは視界に入ったアークエンジェルの様子に歯噛みする

 

工場跡地に突っ込んでから何やら身動きが取れなかったアークエンジェルが、再び飛び立ったのだ

威力ある砲撃がレセップスを襲う

 

 

「まずいわよ、アンディ!」

 

 

アイシャが言わなくてもわかっている

このままでは負ける

 

ただでさえ、MS戦が不利だったというのに有利だった艦の戦闘までひっくり返されてしまった

 

バルトフェルドの表情に焦りが浮かぶ

 

一方のセラは、元々あった余裕をさらに持てるようになった

そして、この戦闘は勝てる

そう確信した

ストライクの方は、倒すことはできなさそうだが、落とされることはなさそうな様子だった

 

セラは、バルトフェルドに通信をつなぐ

 

 

「バルトフェルドさん!もう勝負はつきました!降伏を!」

 

 

発進前は、殺すと決めていた

だが、できることならば殺したくなんかない

 

人を殺したくなんかないのだ

 

 

「まだだぞ!少年!」

 

 

しかしバルトフェルドは戦うのをやめない

 

ラゴゥはスピリットに向けてビームを撃ってくる

セラはシールドで防ぐ

 

バルトフェルドは、シールドで防ぐために動きを止めたスピリットの向かって機体を動かす

そして、スピリットに突進した

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

セラは、コックピットに伝わる衝撃を歯を食いしばって耐える

 

どうして

なぜ

勝負はついたのだ

ここからバルトフェルドが逆転することは、不可能といってもいい

 

 

「バルトフェルドさん!」

 

 

「言ったはずだ!戦争には正確なルールなどないと!」

 

 

「…っ!」

 

 

バルトフェルドの言葉が突き刺さる

 

さらにバルトフェルドは続ける

 

 

「戦うしかあるまい…。どちらかが滅びるまでな!」

 

 

…本当にそれしかないのだろうか

 

先日、バルトフェルドと話した時、自分はそのつもりはさらさらないと答えた

そんな、どちらかが滅びるまでこんな戦争に付き合うつもりはない

そう思っていた

 

だが、今は迷う

本当に、それを成し遂げることが出来るのか?

滅びる前に、戦争を終わらせることを…

 

 

「…くそ」

 

 

無力だ

自分は無力だ

 

力を持っている

そう思っていた

だが、自分は結局この広い世界の中のちっぽけな一人の人間なのだ

戦争を止める

そんな大それたことができるはずがない

 

ここまで自分の無力さを呪ったことはなかった

怒りを感じたことはなかった

 

 

「くそぉぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

セラの中で、何かがはじけた

 

セラは、サーベルでラゴゥに斬りかかる

バルトフェルドはそれをかわす

 

かわした方向に向かって今度はイーゲルシュテルンを連射する

 

無数の弾がラゴゥに当たる

威力は小さいものの、動きを鈍らせるには十分だった

 

 

「はぁあああああああああ!!!!!」

 

 

バーニアを全力で吹かせる

もう一瞬と言っていい速さでラゴゥに接近する

 

バルトフェルドもアイシャも、反応すらできなかった

 

セラはサーベルでラゴゥを

 

 

 

 

 

 

 

切り裂いた

 

 

 

 

 

 

 

 

ラゴゥが爆散する

 

もうバルトフェルドの生存は絶望的だろう

 

 

「…殺したくなかった」

 

 

セラの目から滴がおちる

 

だがセラは、俯けていた顔をすぐに前へ向けた

すぐにストライクの援護に向かわなければ

 

セラはスピリットをはしらせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発の音が聞こえた

セラの戦闘が終わったのだろうか

 

キラは未だ、二機との膠着状態の戦闘を続けていた

 

何発か軽いものはもらったものの、目立った損傷は見られなかった

 

 

「兄さん!」

 

 

「…!セラ!」

 

 

スピーカーからセラの声が聞こえる

やはり、あの戦闘はセラの勝利で終わったようだ

 

スピリットの姿をみとめてから、デュエルとバスターの勢いが弱まったように感じる

セラを警戒しているのだろうか

 

と、急にデュエルとバスターが退きはじめた

まわりを見ると、レセップスが炎をあげながら爆散しているのが見えた

アークエンジェルも無事なようだ

 

 

「…終わったね」

 

 

キラはつぶやく

セラに声をかけるように

 

しかし、セラから返事が返ってこない

 

 

「…セラ?」

 

 

「…大丈夫。それより、艦に戻ろう。戦闘は、終わったんだ」

 

 

セラはそう言ってアークエンジェルへ戻っていく

 

 

「…?」

 

 

キラも、セラの様子に疑問を持ちながらもアークエンジェルに戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

セラは、自室の椅子に座り、机にへたり込んでいた

 

今までは、まったく知らない人間を撃ってきた

だが、知り合い…友人と言いたいくらいの人間を、今日は殺した

 

今までも殺してきた

殺した後、何か表現に困る不快な感情も味わってきた

だが、今日感じるものはそれとは比べ物にならない

 

バルトフェルドが死んだ

あの恋人の人はどう思うだろう

他にも、あの人と親しかった人はどう思うだろう

 

そんな風に考えてしまう

 

 

「…」

 

 

アンドリュー・バルトフェルド

 

 

「…よしっ」

 

 

セラは、今日の出来事を通して決心する

 

ただ殺してばかりじゃ、戦争は終わらない

もう、他の人に大切な人を失う悲しみを味あわせたくない

それがたとえ、自分にまったく関係ない人だったとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラはアジトの中でも外でもどんちゃん騒ぎの人たちを冷たい視線で見ていた

 

セラから聞いた

セラがバルトフェルドを討ったと

 

それを聞いた明けの砂漠のメンバーたちは嬉々として、コックピットから降りてきたセラを褒め称えた

その時のセラの表情が目に浮かぶ

 

悲しくて、苦しくて、いらだって、泣きそうで

 

いろんな感情がごちゃ混ぜになった表情

それを知らずに男たちはさらにセラを褒め称えていく

 

セラはそれに耐えられなかったのか、無言で男たちの手を振り払い、格納庫から去っていった

 

 

「おう、キラ。大丈夫か?」

 

 

トールがキラに声をかけてきた

他にも、ミリアリアとカズイがいる

 

…サイはいないようだ

 

 

「…大丈夫。けど、セラは…」

 

 

トールたちは、セラとキラが砂漠の虎と交流したということを知っていた

セラが特に虎と仲良くなっていたとも知っていた

 

そのセラが、虎を討った

 

 

「…さすがのセラも、堪えるだろうな」

 

 

カズイがつぶやく

 

 

「そんな時こそ、私たちが支えるべきなんじゃない!」

 

 

ミリアリアが、大きな声で言う

 

 

「…そうだな!たぶんセラは自室にいるだろうし、行こうぜ!」

 

 

トールが、我先にと艦に戻っていく

 

 

「あ、待ってよトール!」

 

 

ミリアリアやカズイも、トールを追っていく

 

キラは笑みを浮かべる

トールたちと、友達になれてよかった

 

サイとも、今は上手くいってないけれど、近いうちにちゃんと仲直りして…

 

そこまで考えて、キラもトールたちを追い始めた

 

セラの自室で、五人が何をしたのか

それは秘密だ

ただ、いつもの扱いのセラだったとだけいっておこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぐっ。アイ…シャ…」

 

 

バルトフェルドは、砂の上に横たわっている自分の愛する女性に近づこうとする

だが、自分の体は思うように動いてくれない

立つことすらできない体

這うように進んで、何とかアイシャの傍までいく

 

 

「アイシャ…」

 

 

「…アン…ディ?」

 

 

アイシャの目が開き、自分の姿をとらえる

 

言葉はいらない

二人の唇が重なり合う

 

唇を離すと、急に意識が遠のいていく

 

待ってくれ…

まだ…まだ…

 

自分の副官が、自分の名前を呼ぶ声を聴くのを最後に

 

バルトフェルドの意識は闇に包まれた




次回からは、海に出ます!

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