機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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今回、セラ君がぶち切れます


PHASE19 激昂

キラにも騒ぎは聞こえていた

 

キラは艦の中に駆け込む

 

 

「キラ!」

 

 

フレイがキラを追いかけようとする

サイはそんなフレイを止めようと肩をつかむ

 

サイはフレイににらまれ、手を振り払われる

 

何でだ

何でなんだ

一体どうして

わからない

どうしてフレイが自分の手から離れていったのか

 

わからない

 

 

 

 

 

 

わからない

 

 

 

 

 

 

 

サイの中で、キラへの黒い感情がふつふつと湧き上がるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムウが乗るスカイグラスパーはタッシルの町に向かっている

だんだん近づいていくうちに火の色がはっきりとしてくる

 

真上に着くと、その惨劇のひどさがわかる

 

 

「…こりゃ、全滅かな」

 

 

全滅

誰の目にもそれは明らかだった

 

虎はここまでこの街を攻撃したのだろうか

 

火の勢いがすごい

気を抜くと、気流に巻き込まれてしまいそうだ

 

 

「…ん?」

 

 

ムウは、視界の中に何かをとらえる

 

 

「…いやいや、ウソだろ?」

 

 

自分が見た光景が信じられなく、目を凝らしてもう一度見てみる

さっき見た光景と同じ光景が見える

 

 

「…まじかよ」

 

 

小高い丘の上、たくさんの人たちがいる

何てことだ

これは、この街にいるほとんどが生存しているということか?

 

ムウは、マリューに通信を入れる

ほとんどは生存者だと報告を入れると、大層驚いていた

 

明けの砂漠、そしてアークエンジェルバギーも到着するのが見え、ムウも機体を着陸させる

 

 

「父さん、母さん!無事か!?」

 

 

「あんた、家が!」

 

 

それぞれが親族の無事を確かめあう中、サイーブがこの街の長老に話しかける

 

 

「…どのくらいやられた?」

 

 

「…死んだ者はおらん」

 

 

ムウは目を見開く

ずいぶん生き残っているとは思ったが、まさか全員が生き残るとは

 

一体何が起こったというのだ

 

 

「少佐」

 

 

ナタルがムウに近づいてくる

どうやらキラもついてきたようだ

 

キラはけが人の手当てをしている

 

 

「これは一体…?」

 

 

「さあな。今、その説明を、あの老人がするみたいだが?」

 

 

ムウとナタルが見ている中、老人が口を開く

 

 

「虎から、警告が入ったのだ。今から町を攻撃をする。早く逃げろとな」

 

 

「なに?」

 

 

「警告の後、バクゥが来たよ。ここにいる人間は皆助かったが、食料も、弾薬も、家も、みんな燃やされてしまった」

 

 

サイーブがこぶしを握り締める

目が怒りに満ちる

 

生存者がいることは素直にうれしいが、こんな自分たちをなめているような真似

我慢が出来るのが不思議だった

 

 

「だが、よかったじゃねえか」

 

 

「…なに?」

 

 

ムウが不意に口を開く

サイーブはムウに視線を向ける

 

何を言っているのだ

こんな真似をされて、よかっただと?

 

 

「あんたらは生き残れたんだ。生きてさえいりゃぁ、万事どうとでもなるだろ?」

 

 

「…」

 

 

ムウの言葉で、自分の頭に上っていた血が下がっていくのがわかる

 

そうだ、生きている

生きてさえいれば、後から虎を攻撃することだってできる

そう、相手はあの砂漠の虎なのだ

生存者がいることだけでも感謝しなければ

 

 

「何を言ってるんだ!町を焼かれたんだ!生き残ってたって、明日を生きるすべを焼かれたんだぞ!?」

 

ムウの言葉にカガリが激昂する

まわりの人たちもムウを鋭い目でにらんでいる

 

 

「けどよ?砂漠の虎だぜ?生存者がいるってことだけでも…」

 

 

「あいつは臆病者なんだ!だからこんなことでしか攻撃できないんだ!」

 

 

カガリはさらに怒りの火を燃え上がらせる

ムウがその勢いにたじろぐ

 

 

「我々は勇敢に戦ってきた!そして、今からもだ!」

 

 

…!なにを!

 

サイーブがカガリを止めようとする

しかし、遅かった

 

 

「そうだ!俺たちは戦う!」

 

 

「町を燃やしたばかりで、奴らも弾薬が尽きているはずだ!」

 

 

男たちが次々とバギーに乗り込んでいく

 

 

「待てお前ら!どこにいく!?」

 

 

サイーブがバギーに乗り込んだ男の一人に聞く

 

 

「奴らもまだそう、遠くまで行ってないはずだ!」

 

 

「ここまでやられて黙っていられるか!」

 

 

男たちがそう叫んで、バギーを発進させていく

 

 

「お前ら!ダメだ!行くな!」

 

 

サイーブが止めるが、バギーは止まらない

 

止まらない

 

それどころか、他のバギーまで発進させていく始末

 

 

「…エドル!」

 

 

声をかけられた男が、サイーブに言葉を返す

 

 

「行くのか?」

 

 

「放ってはおけん」

 

 

サイーブもバギーに乗り込み、発進させようとする

 

 

「私も行く!」

 

 

カガリがサイーブが乗るバギーに乗ろうとする

が、サイーブはカガリを振り払う

 

 

「ダメだ。お前は残れ」

 

 

サイーブはバギーを発進させる

 

 

「カガリ!」

 

 

行くのを諦めようとしたカガリをアフメドが拾う

慌てたようにカガリにいつもついていた男がそのバギーに飛び乗る

 

そのままバギーは仲間を追っていく

 

 

「…どうしますか?彼ら、間違いなく全滅しますよ」

 

 

キラが珍しく怒りに満ちた目でムウを見る

だが、この怒りはムウに向けられたものではない

 

バギーに乗っていってしまった、レジスタンスの人たちへである

 

 

「…だよなぁ」

 

 

ムウは自分が口を挟まなきゃ、こんなことにはならなかったのだろうかと少し後悔する

 

だがともかく

 

 

「連絡はすべきだろうな」

 

 

ムウは、アークエンジェルへと通信をつなげた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…隊長、急ぎません?」

 

 

ダコスタがバルトフェルドに進言する

 

 

「早く帰らなきゃいけない用事でもあるのかい?」

 

 

バルトフェルドはダコスタを見ずに、返事を返す

 

 

「いえ、特にありませんが…。追撃されますよ?」

 

 

ダコスタの言葉を聞き、バルトフェルドは考え込む

 

 

「…死んだ方がまし、という言葉があるが、本当にそうなのかねぇ?」

 

 

「はぁ?」

 

 

バルトフェルドの言葉の意味が分からず、ダコスタは首をかしげる

 

そこに、通信が入ってくる

 

 

「隊長、レジスタンスの戦闘車両が接近中です。数は…、八です」

 

 

ダコスタはその報告を聞いて、表情を引き締める

バルトフェルドは、ため息をつく

 

せっかく、本気ではやらないであげたというのに…

こんな単純な挑発に引っかかるとは

 

 

「やはり、死んだ方がましなのかねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリは、目の前に広がる光景が信じられなかった

立ち上がる煙

バギーから出る炎

 

序盤は善戦した

バクゥを一機、行動不能にした

だが、そこからが悪夢だった

 

バクゥの足で踏みつぶされていく仲間のバギー

ミサイルに当たり、爆散する隣のバギー

 

そして、自分は助かったものの、アフメドが乗るバギーも踏まれてしまう

 

 

「キサカ!カガリを下がらせろ!」

 

 

まだ生き残っているサイーブが叫んでいる

 

カガリについている男、キサカは頷き、カガリの肩を抱いてバクゥから遠ざけようとする

 

だが、カガリは気づいた

サイーブが乗るバギーも、バクゥの餌食になろうとしているところを

 

 

「…!サイーブ!」

 

 

カガリは、キサカの手を払い駈け出そうとする

 

サイーブのバギーが、つぶされる

 

その時だった

 

MSのライフルが撃たれる音が響く

ビームが、バギーをつぶそうとしたバクゥの足に命中

そして、白い機体がバクゥに体当たりし、バギーから遠ざける

 

 

「…スピリット」

 

 

スピリットが、この場に降臨した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何をやっているんだ」

 

 

そんなものでMSに立ち向かおうなんて…

 

セラは、キラと同じように怒りを感じていた

 

バクゥがサーベルを展開して襲い掛かってくるのがわかる

その後ろからはレールガン

 

セラはしゃがんでレールガンを回避

サーベルを抜きながら、襲い掛かってくるバクゥに突進

 

口にくわえているサーベルを叩き斬る

そのまま、そのバクゥから離れながらライフルを撃って落とす

 

 

「あと、三機」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルトフェルドは、急に現れたスピリットの戦いぶりを見ていた

 

 

「カークウッド、操縦変われ」

 

 

バルトフェルドは、自分の衝動を抑えられなかった

通信機から驚いたような声が聞こえてくるが、気にしない

 

 

「戦ってみなければ、わからないものもあるんでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

バクゥがポッドを開いてミサイルを発射する

セラは回避しながらライフルの照準を合わせる

 

ライフルの調子は良好だった

じっくり時間をかけて設定したかいがあったな、と心の中でつぶやく

 

引き金を引こうとする

 

 

「…!」

 

 

横殴りにされるような衝撃がセラを襲う

セラは必死に体制を整えながら、前を見据える

 

討ち損ねたバクゥと、もう一機

そいつが、今自分を攻撃したのだろうか?

 

 

「他の奴とは…、違う!」

 

 

バクゥがサーベルを展開して、接近してくる

だが、他とは違い、ジグザグに移動しながら接近してくるのだ

 

動きに対応しづらい

だが、この程度で戸惑うセラではない

冷静に相手の動きを見る

 

そして、ライフルを撃つ

機体にではなく、足元へ、だ

 

 

「…!」

 

 

バルトフェルドは砂が巻き上がるのを見て、驚愕する

動きを止めてしまう

 

セラは相手の動きが止まるのを見て、サーベルで斬りかかる

だが、セラは失念していた

もう一機のバクゥの存在を

 

 

「隊長!」

 

 

「!」

 

 

バクゥが後ろからサーベルを展開して襲い掛かってくる

 

何をやってるんだ!

もう一機の存在を忘れるなんて…!

 

セラは体制が崩れるのも気にせず、後ろのサーベルを防ぎにかかる

 

が、それをバルトフェルドは見逃さない

 

 

「もらった」

 

 

セラはバクゥを弾き飛ばし、もう一機に対応しようとする

 

 

「…!」

 

 

どうする?

どうする!

 

セラの中で、何かがはじける

 

セラは崩れようとする体制に逆らわず、転がった

 

 

「…!」

 

 

バルトフェルドは、初めて本気で驚いた

完璧なタイミングだった

だが、かわした

 

バクゥはスピリットの上を通り過ぎる

セラはそれを見てすぐさま起き上がる

 

ライフルを構え、撃つ

 

バクゥはそれをかわす

セラはサーベルを投げる

サーベルはバクゥのメインカメラを貫く

 

 

「ぐぅ!」

 

 

バルトフェルドはコックピットに伝わってくる衝撃に耐える

 

セラはすぐさまバクゥに接近していく

が、それをさせてくれない存在がいた

 

もう一機のバクゥがスピリットにしがみついてきたのだ

 

 

「なっ…!」

 

 

セラはしがみついてくるバクゥを引きはがそうとする

が、中々バクゥは離れない

 

 

「隊長、今のうちにお逃げください!」

 

 

バルトフェルドは入ってきた通信を聞いて、目をつむる

一瞬迷ったが。撤退を開始する

 

 

「…すまん!」

 

 

「あ…!待て!」

 

 

セラは焦る

バクゥが撤退したことに

 

セラはしがみついたバクゥをはがすことに成功

ライフルでバクゥを爆散させる

 

だがもうこの時には撤退したバクゥの姿は見えなくなっていた

 

 

「…なんて、なんてことをしてくれたんだ」

 

 

セラが震える

一体何が起こったというのだろう

 

 

「サーベルおいてけよおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 

サーベルは、バクゥのメインカメラ部分に刺さったままだった

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、コックピットから降りる

サーベルをなくしたことのお叱りは怖いが、今はもっと腹が立つことがあった

 

生き残ったレジスタンスのメンバーが、セラを見る

 

 

「…死にたいのか」

 

 

セラはどすをきかせた声でつぶやく

 

 

「こんなの…、意味ないだろ」

 

 

「なんだとぉ!」

 

 

セラの言葉にカガリがキレる

カガリの目には涙が浮かんでいた

誰か大切な人でもなくしたのか

 

だが、同情する気にもならない

今回は完全に彼らの自業自得だ

 

 

「見ろ!彼らに同じことが言えるか!?」

 

 

カガリが指をさした方向には遺体が横たわっていた

今回の戦闘で戦死した人たちだろうか

 

 

「皆必死で戦ったんだ!それをお前は…!」

 

 

セラは、カガリの頬を殴った

グーで

 

カガリは信じられないような目で見てくる

 

 

「これが…、戦った結果だよ」

 

 

セラはカガリに、いや、レジスタンスの人たち全員に言う

 

 

「フラガ少佐から聞いたよ。自分たちは勇敢に戦ってきた?ああそうだろう。あの砂漠の虎相手にここまで生き残ってきたのは、すごいことだよ」

 

 

セラの声がだんだん荒いものに変わっていく

 

 

「けど!今回のこれのどこが勇敢なんだよ!!」

 

 

セラの大声が響く

 

 

「この無駄な犠牲を出したことのどこが勇敢だっていうんだよ!!!!」

 

 

「無謀なことをしたあんたたちの自業自得だ!虎のせいとか、それ以前の問題だ!!!!!」

 

 

「勇敢ということと!無謀という意味を!はき違えるな!!!!!!!!」

 

 

レジスタンスの人たちは、皆顔を俯けていた

だが、セラの怒りは収まらない

 

セラは幼い

幼いからこそ、人が死ぬところを見たくない思いが人一倍強い

 

セラはカガリの胸倉をつかむ

 

 

「今度は俺が聞いてやるよ。この無駄な犠牲を見て!必死で戦ったって言えるのか!?」

 

 

「…っ」

 

 

カガリの目から、ぽろぽろと涙がこぼれてくる

 

それを見た瞬間、セラは我に返った

 

あ、やりすぎた…

 

まわりを見る

表情が暗い

ここまでするつもりはなかったのに

カガリがバカなことを言うものだから、ついやりすぎてしまった…

 

セラは無言でカガリを離し、コックピットに乗り込む

スピリットを発進させ、アークエンジェルへ帰っていく

 

スピリットが帰艦してしばらく、セラはコックピット内で頭を抱えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルトフェルドは久しぶりに自分の家へ戻っていた

 

 

「お帰り、アンディ」

 

 

バルトフェルドを笑顔で迎える美しい女性

 

 

「あぁ、ただいま。アイシャ」

 

 

バルトフェルドも笑顔で返す

二人は近づき、唇を合わせる

 

そのままバルトフェルドの部屋に入る

 

どさりとソファに座り込むバルトフェルド

アイシャはそんな自分の恋人を笑顔で見守る

 

 

「疲れた?」

 

 

「あぁ、今回の相手は中々に骨のあるやつでね」

 

 

こう言ったバルトフェルドだが、心の奥で分かっていた

自分はかなわない

スピリットに

かなわない

 

アイシャも、バルトフェルドの様子を見て、理解する

だが、それでも

 

この変わらない日常は、味わう

 

二人は再び唇を合わせた

 

負けられない

自分には夢があるのだ

死ぬわけにはいかない

 

バルトフェルドは、何としても生き残る

そう決意した

 

 




なんか、他のSEEDの二次小説と比べると文字数少ないですよね…
増やした方がいいのかな…?

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