機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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…そのままや



PHASE16 それぞれの思い

セラはメネラオスが爆散した場所を眺める

 

 

「…生きてやるさ。こんな戦争で死ぬ気なんてない」

 

 

ハルバートンが言った言葉

『生きろ』

それを思い出す

 

恐らくこれは自分だけに向けた言葉ではない

キラにも向けた言葉だ

 

 

「兄さんは…?」

 

 

セラはストライクがいる方に機体を向ける

そこにはアークエンジェルに戻ろうとするストライクと逃がさないようにするデュエルがいる

 

 

「兄さん!」

 

 

セラは機体を加速させた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムウは限界だと感じ、ゼロを着艦させた

だが、セラとキラはいない

 

 

「坊主どもは!?」

 

 

アークエンジェルはフェイズスリーに入り、融除剤ジェルを展開させる

 

しかし、セラとキラは戻らない

キラはデュエルと交戦していたのは見えたのだが、セラはどこにいるのかよくわからなかった

 

 

「セラ!キラ!戻ってきて!」

 

 

ミリアリアの悲鳴に近い大声がブリッジに響き渡る

しかし、返ってくるのはノイズだけ

声は何も聞こえてこない

 

 

「艦、大気圏に突入!」

 

 

アークエンジェルは遂に大気圏に入る

しかしセラとキラは戻らない

 

ブリッジに緊張が走った

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!しつこい!」

 

 

キラは未だに食い下がってくるデュエルと交戦を続けていた

いい加減艦に戻らないとまずいことはわかってるのだが、目の前の機体がそれをさせてくれない

キラに少しずついら立ちが募り始める

 

 

「おおおおおおお!!」

 

 

デュエルがサーベルで斬りかかってくる

キラはそれを読み、かわす

そしてデュエルの顔部分に蹴りを与える

 

デュエルは強制的にストライクと距離を離される

その隙にキラは離脱しようとする

 

しかしデュエルはライフルの照準をストライクに合わせる

キラはロックされたとわかり、離脱しながら機体をデュエルに向け、シールドを構える

 

 

「…あ」

 

 

二機の間に、メネラオスの避難用のシャトルが割り込む

 

それがイザークの勘に障った

ライフルをシャトルに向けた

 

 

「!やめろおおおおおおお!それにはぁ!」

 

 

キラは離脱を中止

シャトルを守ろうと機体を進める

 

しかし、ライフルが火を噴く

 

キラの目の前で、シャトルがビームに貫かれた

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

デュエルは今度こそとライフルをストライクに向ける

 

しかし、デュエルは急に腕を引かれる

そして、投げ飛ばされた

 

 

「兄さん!」

 

 

それをやったのはセラだった

セラはストライクの腕をつかむ

 

 

「…セラ?」

 

 

「なにぼうっとしてるんだ!早く艦に戻るよ!」

 

 

セラはそのままアークエンジェルに向かう

しかし、なかなか機体が進んでいかない

 

 

「くっ…!これは…!」

 

 

無理か?

 

キラはスピリットの腕を振り払い、単独での降下体制に入る

 

 

「…」

 

 

それしかない…か

 

 

セラもキラと同じように降下体制に入る

 

すると、見えた

アークエンジェルがこちらに寄ってきているのを

 

 

「…!兄さん!」

 

 

これならいける

ストライクの腕を再びつかみ、艦に機体を近づける

そして、着艦

 

 

「…ふう。何とかなったな。兄さん。…兄さん?」

 

 

キラに声をかけるも、スピーカーからキラの声が返ってこない

 

 

「兄さん!兄さん!」

 

 

今は大気圏を突破中のため、機体を収容することはできない

つまり、今は降りられない

キラの様子が見られない

 

大気圏の突破が終わると、すぐさま機体を収容させ、キラを医務室に届けようと決めた

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェルは降下に成功

しかし、スピリットとストライクを拾うために艦を移動させたことにより、当初の着地予定の場所とはずれ、アフリカ北部

ザフトの勢力圏内に降りてしまった

 

そのことで、またも気は抜けなくなった

だが、それでも、地球に降りれたという事実が、クルーを少し安心させたのも事実

 

セラがいるデッキの中に響く会話は宇宙にいた時よりも明るいものになっていた

 

 

「兄貴の傍にいなくていいのか?」

 

 

「フラガ少佐」

 

 

ムウがセラに話しかけてくる

ムウは行為によるものなのか

ハルバートンの命により、少佐に昇進していた

 

他にも、ナタルは中尉

セラとキラは少尉

トールたちは二等兵になった

 

 

「大丈夫です。見てくれてる人はいますし、たまにトールたちが様子を見に来てるし…」

 

 

フレイには会いたくない

 

 

「…そうか。ま、それでも様子を見にいってやれよ?」

 

 

「はい、スピリットのOSを大気圏内用に設定し終えたらすぐに行きます」

 

 

セラのその言葉を聞くと、ムウは笑顔を浮かべ、自分の機体の作業をしに行った

 

大気圏内用の戦闘機

スカイグラスパー

ハルバートンがアークエンジェルに載せてくれたものだ

それも二機もだ

 

太っ腹だ…

 

 

「よし、これで大丈夫…かな」

 

 

セラは一通り設定を終え、伸びをする

ムウがこちらに話しかけてきた時点で、ほとんど作業は終わっていたのだ

 

コックピットから降り、デッキにいる人たちに挨拶をしてから医務室に向かう

 

セラは歩きながら思う

なぜ自分は無事なのか

 

コーディネーターのキラでさえ、高熱に苦しんでいるというのに

ナチュラルのはずの自分はぴんぴんしている

 

自分は本当にナチュラルなのか…?

 

自分で自分に疑いをかけてしまう

コーディネーターを手玉にとったMSの操縦技術

ムウにもそれでコーディネーターでは?と、疑問を持たれた

そして今回のこのキラとの差

 

 

「…考えても仕方ない…か」

 

 

未だに疑念に引かれる思いを無理やり引きちぎるように、首をぶんぶんと横に振る

 

こうしてる間に医務室の前に来ていた

セラは医務室の中に入る

 

そこにはベッドに寝ているキラ、それを心配そうに見ているフレイにミリアリア

椅子に座ってカルテを見る軍医の人がいた

 

 

「兄さんは…?」

 

 

セラはミリアリアに話しかける

 

 

「まだ…目が覚めてない…。熱も引いてないし…」

 

 

会話している間にトール、サイ、カズイが入ってきた

トールたちもキラを心配そうな目で見る

 

 

「フレイ、ずっと付きっきりで疲れただろ?そろそろ変わろう?」

 

 

サイがフレイに看病する人を変わろうと提案する

しかし、フレイは拒否するように首を横に振る

 

 

「ううん、大丈夫…」

 

 

「…でも」

 

 

「ついていたいの」

 

 

心配するサイだが、きっぱりとそう告げるフレイ

サイは引き下がる

 

セラとトールたちは、フレイを残して医務室から出る

 

 

「あ、セラ、いいのか?キラの看病しに来たんじゃねえの?」

 

 

トールがセラに聞く

セラは首を横に振る

 

 

「いや、ただ様子を見に来ただけだから。それに、熱心に見てくれてる人もいるみたいだしね」

 

 

「…」

 

 

セラは後半の言葉は皮肉のつもりで言ったのだが、サイはそうとは取れなかった

表情を暗くさせる

 

 

「あ…、いや、仲間としてだとは思うぞ?それに兄さんはパイロットだし、早く起きてくれなきゃ…困る…!」

 

 

セラはその時、悟った

なぜフレイが急にキラを気にかけ始めたのか

 

パイロットだから?

いや、だとしたら自分でもいいはずだ

自分を気にかけてくるはずだ

だがフレイは自分に対してはスルーに等しかった

ならなぜ…

 

 

「コーディネーター…」

 

 

セラはつぶやく

自分とキラの違いを

フレイはコーディネーターを嫌っていた

なら気にかけることなんかしないはず…

 

わからない

 

だが、フレイが何かを企んでいるのは間違いない

キラに何かしら悪影響を及ぼそうというなら、自分が守ればいいだけだ

 

 

「フレイ・アルスター…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラは夢を見ていた

あの女の子が自分に言ってくるのだ

『うそつき』と

『まもるっていったのに』と

 

 

「いやだ…」

 

 

『うそつき』

 

 

「やめろっ」

 

 

『うそつき』

 

 

「やめろおおおおおお!」

 

 

「キラ!?」

 

 

誰かの声が聞こえる

助けて

誰でもいいから…

 

 

キラは目を開けた

白い天井

ここは…?

 

 

「キラ?大丈夫?」

 

 

「…フレイ?」

 

 

自分の傍にはフレイがいた

大気圏突破の戦いの前に、自分を包み込んでくれたフレイ

キラの体からふっと力が抜ける

 

 

「うん、だいじょう…ぐっ!」

 

 

「あ、だめよ!急に起き上がろうとしたら!」

 

 

起き上がろうとしたキラを寝かせようとするフレイ

 

 

「今、食事を持ってくるから、無理しちゃだめよ?」

 

 

フレイはそう言って医務室を出る

 

キラは天井を見上げる

 

…生きている

生きてしまった

 

そんな思いがキラを包んだ

 

 

 

 

 

 

 

「え!?キラが目を覚ました!?」

 

 

ミリアリアがフレイの報告を聞き、喜びの声をあげる

ミリアリアだけではない

トールも、サイもカズイも声をあげて喜んでいる

セラも声まではあげないほども…

いや、声があげられないほど安心した、といった方が正しい

 

セラたちは食堂で食事をとっていた

そこに、フレイが入ってきてキラが目を覚ました、といったのだ

 

 

「フレイ、キラも目を覚ましたし、そろそろ看病変わろうか」

 

 

「いえ、みんなは艦の仕事があるでしょ?私は何もないし」

 

 

再びサイがフレイに交代を提案する

が、フレイはまたも拒否

 

 

「俺が変わるよ。フレイさんはゆっくり休んでて」

 

 

「それこそダメよ。あなたは機体の整備があるじゃない」

 

 

「いや、それはもう終わらせたし。敵が襲ってこない限りは時間はある」

 

 

今度はセラが提案

フレイは拒否

セラの役割を言ってセラを引き下がらせようとする

しかしセラはそれはひと段落ついたと言う

 

空気が凍り始める

 

 

「敵が襲ってくるのよ?ならあなたこそ休んでおかないと」

 

 

フレイは笑顔を浮かべながら言う

 

だが、セラは気づいていた

目は笑っていないと

 

 

「兄さんの様子を見ておきたいんだ。これはキラ・ヤマトの肉親としての意見だ。変われ」

 

 

「…!」

 

 

最後の言葉を凄ませて放つ

フレイはたじろぐ

 

こんな幼い子のどこからこんな気迫が出ているのか…

 

 

「…少し様子見たら変わるから」

 

 

しゃべらないフレイが、拒否する気満々なのだと勘違いしたセラが妥協案を出す

 

 

「え…えぇ…」

 

 

フレイはどもりながらも返事する

 

セラは食事を続ける

 

 

「俺は食い終わったら行くから。食事は持って行って」

 

 

フレイはこくりと頷き、食事を持っていく

 

 

「…フレイ、なんか、変…。あ、その、嫌な意味じゃないけど…」

 

 

ミリアリアが今のフレイの様子を見て感想を言う

 

 

「あぁ、わかるよ。フレイは前までコーディネーターが嫌いで、どこかキラを避けてたからな…」

 

 

ミリアリアにトールが続く

 

 

「ちょ、やめろよ、サイの前なんだぞ?」

 

 

カズイがトールとミリアリアを止めようとする

トールとミリアリアが、はっ、と口をふさぐ

 

 

「いや、別に大丈夫だよ…」

 

 

サイがいつもより少し沈んだ声で答える

フレイの様子が前よりも違いすぎて戸惑っているのだろうか

 

 

「さてと、俺は行くよ」

 

 

セラが食事を終え、医務室に行こうとする

 

 

「おう!キラの様子が少しでもおかしかったら教えてくれよな!」

 

 

トールがセラにそう言う

セラはそれに笑顔で答え、食堂を出る

 

 

「…?」

 

 

セラが医務室の前まで来ると、何かの声が聞こえる

キラの声…、泣いてる?

 

そっと医務室の中をのぞき込む

 

 

「…!」

 

 

そこにはキラとフレイがいた

キラは泣きながらフレイに抱き付いて、フレイは笑みを浮かべながら抱き返す

 

そんな光景が目に入った

 

 

「…」

 

 

動揺しながらもその場から離れるセラ

 

…あれ?フレイにはサイがいて、兄さんはフレイのことが好きで…

あれれ?

 

フレイに感じていた嫌な予感のことを忘れ、歩きながら考え込んでしまうセラだった

 

 

 

 

 

 

 

シエルはヴェサリウスの窓から宇宙空間を眺めていた

 

足つきはスピリットとストライクを回収するために、着地予定の場所と大きくずれたのか

ザフトの勢力圏

それも砂漠の虎の勢力圏に降りたと聞いた

 

 

「…」

 

 

あの砂漠の虎

足つきもさすがに危ないかもしれない

宙ならともかく、今は大気圏なのだ

 

セラだって、宙で戦う時のようにはいかないだろう

 

 

「シエル」

 

 

自分を呼ぶ声が聞こえ、振り返る

 

 

「…ロイ。どうしたの?」

 

 

「それはこっちのセリフだぞ。最近様子がおかしい」

 

 

「…」

 

 

シエルは俯いてしまう

 

自覚していた

自分が最近おかしいということは

 

いつもセラのことを考えてしまう

セラは今無事なのか

戦っているのだろうか

そう考えると今にも助けに飛び出したくなる

 

 

「…大丈夫。心配しないで?」

 

 

シエルは笑顔を浮かべロイに言う

 

 

「…足つきから帰ってきた時からおかしいといえばおかしかった。けど、足つきが地球に降りてからそれが目立つようになった」

 

 

「…」

 

 

「なぜなんだ?足つきに何かあるのか?シエル…」

 

 

耐えきれなくなった

 

 

「ごめん…ほんとに大丈夫だから!」

 

 

シエルは振り返り、急いで自室に戻る

 

 

「シエル!」

 

 

ロイはシエルに手を伸ばそうとするが、戻す

 

 

「…シエル」

 

 

シエルは自室の布団に潜り込む

 

 

「…セラ」

 

 

何でここまでセラを気にしてしまうのか

セラが幼くして戦いに身を投じた

これが一番の理由だ

だが、これだけではない気がする

 

それにシエルが気づくのは先の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェルを見つめる影

 

アンドリュー・バルトフェルド 砂漠の虎

 

 

「どうかな?噂の大天使のご様子は」

 

 

バルトフェルドがどこかおどけた感じで自分の副官、マーチン・ダコスタに聞く

 

 

「はっ、依然何の動きもありません!」

 

 

バルトフェルドは「ふむ」とつぶやきながらカップを口に当てる

 

 

「…むっ!?」

 

 

「何かありましたかっ!?」

 

 

急にバルトフェルドが驚いたような声を出す

それに驚いたダコスタがスコープを覗いてアークエンジェルを見る

しかし、変化は特にない

 

 

「いや、今回のコーヒーは中々上手くいってね」

 

 

ダコスタはその言葉を聞き、ため息をつく

いつものことながら、このマイペースさは少し呆れてしまう

 

 

「さて、そろそろ行くぞ!」

 

 

バルトフェルドの声に気づき、男たちが整列する

 

 

「では、これより地球連合軍新造艦、アークエンジェルに対する作戦を開始する!目的は敵艦及び搭載モビルスーツの戦力評価だ」

 

 

「倒していけないのでありますか?」

 

 

バルトフェルドが言った戦闘目的に疑問を持った男が言葉を発する

 

 

「その時はその時だが…。あれは遂にクルーゼ隊が仕留められず、第八艦隊が身を犠牲にしてまで降ろした艦だ。それを忘れるな」

 

 

バルトフェルドは笑顔を浮かべながら言うが、その声質は柔らかいものではなかった

それを感じ取った男たちが表情を引き締める

 

 

「さ、戦争をしにいくぞ!」

 

 

 

大天使 対 砂漠の虎




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