機動戦士ガンダムSEED 夢の果て   作:もう何も辛くない

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二桁、十話目です!


PHASE10 歌姫

アスランは、ラウと共にプラントに戻ってきていた

そして、プラントの首都、アプリリウスに向かうため、シャトルに乗り込む

 

シャトルの中に入ると、そこには先客がいた

 

 

「ご同道させていただきます。ザラ国防委員長閣下」

 

 

パトリック・ザラ

アスランの父親であり、最高評議会のメンバーであり、国防委員長である

 

 

「挨拶は無用だ。私はこのシャトルに乗っていない」

 

 

「…はい。お久しぶりです、父上」

 

 

ぎこちなく頭を下げながら口を開くアスラン

実の親子とは思えない

アスランはどこか寂しい思いを感じていた

 

 

「レポートに書かれた君の意見には賛成だ」

 

 

パトリックはラウに視線を向け、口を開く

 

 

「問題は奴らがそれほど高性能のMSを開発したということだ。パイロットのことはどうでもいい」

 

 

アスランはパトリックを見開いた目で見る

 

 

「その箇所は、私の方で削除しておいた。残りの機体のパイロットがコーディネーターだっただと?そんな報告は穏健派に無駄な反論をさせるだけだ」

 

 

「君も、自分の友人を、地球軍に寝返ったなどと報告するのはつらかろう?」

 

 

ラウが優しい口調でアスランに声をかける

だがアスランの気持ちはどこか晴れない

 

 

「ナチュラルが操縦してもあれほどの性能が出せるMSを開発した…、わかるな?アスラン。事実、もう一機の方のパイロットはナチュラルらしいじゃないか」

 

 

セラのことだ

だが、セラはナチュラルだとは思えないほど優秀だった

なぜ彼がコーディネーターじゃないのか…、不思議でたまらなかった

 

アスランはふと視線をラウに向ける

 

 

「…!」

 

 

アスランはぎょっとする

先程の話まで変化がなかったラウの表情が怒りに歪んでいた

 

 

「…、あ…」

 

 

「ん?アスラン。どうしたのかね」

 

 

しかし、次の瞬間ラウの表情はもとに戻っていた

 

 

「…いえ」

 

 

アスランはラウから目を離す

 

さっきのラウの表情はただ事ではなかった

表情を変えることすら珍しいラウが、あそこまで…

 

なぜ?

ラウが表情を歪ませたのは、パイロットの話になってからだ

だが、その話は、ここに来る前にもした

ならなぜ…

 

 

「…セラ?」

 

 

ラウと話をしたのはパイロットがコーディネーターだという話題だ

もう片方のナチュラルのパイロットの話はしなかった

つまり…

 

そんな馬鹿な

 

アスランはその考えを捨てる

セラが何をしたというのだ

幼いときは共にいた

分かれたからはヘリオポリスで平和に暮らしていたのだろう

そんなセラがラウに何かできるわけがない

 

アスランはこのことを考えるのをやめる

今は別のことを考えるべきだ

 

これからの査問会

 

シャトルはアプリリウスに到着する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラとキラはブリッジに向かっていた

マリューに呼ばれたのである

 

 

「セラ、そんなに不機嫌にならなくても…」

 

 

「けどあれ、俺にはともかく、兄さんには絶対悪びれてないよ」

 

 

セラは不機嫌だった

理由は、先程、フレイがやってきたのだ

そして、アルテミスでの件について謝ってきたのだ

 

だが、フレイは全くと言っていいほど悪びれていなかった

自分には誠心誠意をこめて謝ってきた

コーディネーターと間違ってごめんなさいと

だがキラに対しては…

 

言い方は、申し訳なさそうで、本気で謝ってるようにもみえた

が、それは演技…とは言わないが

それでも本気でキラに謝るつもりはなかったのだろう

その証拠に、キラに謝罪した後の、サイに褒めてと言わんばかりにすり寄ったあの行動…

正直、気持ち悪く感じた

なぜ、キラとサイが彼女に好意を持っているのかがわからなくなってしまった

 

 

「まあまあ、それより、ついたよ?」

 

 

あれこれ話している間にブリッジに入るための扉の前に来ていた

話をやめ、二人は扉を開けてブリッジの中に入る

 

 

「お、来たか、坊主ども」

 

 

最初に気づいたのはムウ

そしてマリュー、ナタルと、全員がセラたちの存在に気づく

 

 

 

 

「補給を受けられる?」

 

 

セラがムウに聞き返す

補給を受ける

確かにそういった

だがどこで?

アルテミスは論外

月だってまだ距離的に無理

ならば一体?

 

 

「私たちは今、デブリベルトに向かっています」

 

 

「デブリベルト?…!」

 

 

「おいおい…、それってまさか…」

 

 

セラとキラは驚愕した顔をマリューたち三人にむける

 

 

「まさか…そこから補給を…?」

 

 

キラが恐る恐るといった感じでマリューに聞く

マリューは、暗い表情になりつつもうなずく

 

 

「しょうがないだろ?そうでもしなきゃ、こっちがもたないんだ」

 

 

「あなたたちにはその際、ポッドでの船外活動を手伝ってもらいたいの」

 

 

ムウが開き直ったように言い、マリューがためらうように頼む

 

拒否は、できない

 

補給を受けるにはそれしかない

 

生きるためには、それしかないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あ…」

 

 

アークエンジェルはデブリ帯に到着していた

そこに広がる光景

少年たちには酷なものだった

 

無残に散らばる戦艦の破片

目玉の取れかけたクマのぬいぐるみ

そのそばに、子供をかばうように抱く母親の死体

子供の顔は母親の体に隠れてよく見えない

 

 

「…ここまで」

 

 

少年たちの想像を超えていた凄惨な光景

 

ここから補給をするのか…?

 

作業を開始する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラはストライクに乗って作業を手伝っていた

生きるために

そう考えて、いますぐここから立ち去りたい思いを抑えながら

 

 

「…!」

 

 

コックピットに警報が鳴り響く

モニターには偵察用のジンが映されていた

 

 

「何でこんなところに…?」

 

 

まだこちらには気づいていないようだが、もし見つかってしまったら…

 

 

「行け…行ってくれ…!」

 

 

キラはつぶやきながら祈る

が、その祈りは届かない

 

ジンのモノアイがこちらに向く

 

 

「くそっ!何で気づくんだよ!」

 

 

キラはビームライフルのトリガーを引く

あらかじめ照準をジンにロックしておいたのだ

 

 

「ストライク、何があった…」

 

 

「兄さん?」

 

 

キラは無線を切る

悪いが返事をする気にはなれなかった

 

今、キラは初めて人を殺したのだ

最初の戦いでは、機体を落としたもののパイロットは離脱

そのあとは戦いはしたものの、機体を落としたことはない

 

 

「…?」

 

 

キラの視界に光るものがある

 

またジンか…?

 

しかしそれは違った

キラが見つけたのは、作業用のものとは違うポッドのものだった

 

 

 

 

 

 

 

「君は落し物を拾うのが好きだなぁ…」

 

 

ムウが呆れたようにキラに言う

 

 

「このまま放り出すべきです」

 

 

ナタルがキラをにらみながらマリューに進言する

しかしマリューは迷わなかった

いちいちこんなことでもめたくはない

 

 

「…あけて」

 

 

マリューの指示に従い、マードックがポッドの扉を開ける

 

 

『ハロ、ハロー。ラクス、ハロー』

 

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

 

デッキにいる全ての人が唖然とする

 

このポッドはプラントのものだったのだ

つまり、乗っているのはコーディネーター

自分たちにとっての敵である

 

だが出てきたのは機械…?

 

 

「ありがとう、ご苦労様です」

 

 

いや、もう一人出てきた

桃色の髪に、柔らかそうな雰囲気

可憐な少女だ

 

 

「あら?あらあら?」

 

 

少女は無重力に慣れていないのか、空中でバランスを崩す

キラは少女の手を取り、支える

 

 

「ありがとう」

 

 

少女は笑みを浮かべながらキラにお礼を言う

 

 

「あら?」

 

 

少女は気づく

この艦は…

 

 

「これは、ザフトの艦ではありませんのね?」

 

 

マリュー、ムウ、ナタルの三人が、頭に手を当てながらため息をついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスランはヴェサリウスに乗り込もうとしていた

 

 

「アスラン」

 

 

「!父上!?」

 

 

パトリックが艦の前にいることにアスランは驚く

 

 

「ラクス嬢のことは聞いているか?」

 

 

「?いえ」

 

 

ラクス・クライン

自分の婚約者で、プラントの有名な歌手

その他様々な平和を願う活動をしている

今も、ユニウス・セブンに向かっているはずだ

 

 

「追悼式典の準備のためにユニウス・セブンに向かっていた視察船が、消息を絶った」

 

 

パトリックの横にいるラウがそう口を開く

アスランは衝撃を受け、一瞬くらっと体を揺らす

 

その船にはラクスが乗っているはずだ

消息を…絶った?

 

 

「彼女とお前が婚約者同士だということは周知の事実だ。なのにお前のいるクルーゼ隊が何もしないという訳にはいかん」

 

 

「…」

 

 

「頼んだぞ」

 

 

パトリックはそう言い残し、去っていく

 

 

「彼女を助けてヒーローのように戻れということですか…?」

 

 

「もしくは亡骸を抱いて泣きながら抱いて戻れということかもな」

 

 

アスランははっと俯けていた頭をあげる

 

 

「どちらにしろ、君が行かねば話にならない。そう考えているのさ、ザラ委員長は」

 

 

「…」

 

 

アスランは再び俯く

そして顔をあげヴェサリウスの中に入っていく

 

 

「ん、アスラン・ザラか?」

 

 

「え、あ、はい」

 

 

アスランは赤髪の青年に話かけられる

一体誰なのだろうか…

 

 

「ロイ・セルヴェリオスだ。本日付でクルーゼ隊に配属になった」

 

 

青年、ロイは敬礼をしながらそう告げる

 

 

「ロイ…、セルヴェリオス?」

 

 

アスランは思い出す

シエルの婚約者も確かそんな名前だったと

そしてセルヴェリオスは…

 

 

「ま、仲良くしてくれないか?これからは同じ隊の仲間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス・クライン…、プラントの最高評議会議長、シーゲル・クラインの娘…ね。あの坊主もとんでもないものを拾ってきたもんだ」

 

 

ムウが笑顔を浮かべながら口を開く

しかし、内心は決して明るいものではなかった

 

 

「彼女も連れていくしかないでしょうね…。けど…」

 

 

「最高評議会議長の娘だからな…。」

 

 

 

 

 

 

 

シエルは焦っていた

ものすごく焦っていた

まさかラクスがここに来るとは…

予想外もいいとこだ

このままでは自分の正体がばれてしまう…

 

 

「いやよ!いやったらいや!」

 

 

フレイの大声が響く

 

 

「どうしたの?」

 

 

そこにキラが入ってくる

 

 

「あの女の子の食事だよ。ミリィがフレイに持っていってって頼んだんだけど、フレイが断ってさ。それで揉めてるんだ」

 

 

キラの問いにカズイが答える

 

 

「コーディネーターの子の所に行くなんていやよ!怖くて…」

 

 

「!」

 

 

「フレイ!」

 

 

キラはフレイの言葉にショックを受ける

ミリアリアはフレイに注意をする

 

 

「あ…もちろんキラは別よ?でもあの子はザフトなのよ?すごく強かったら…ね?」

 

 

「…うん」

 

 

フレイは必死に言い訳をする

キラは無理やり納得することにする

 

 

「まあ、誰が強いんですの?」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

ラクスが現れた

この場にいる全員が驚く

なぜ彼女がここにいる?

 

だが一番驚いたのはシエルだ

 

何でラクスがここにいるの!?

まず何で部屋から出れたの!?

 

 

「笑わないでくださいね?お腹がすいてきましたの…。何かいただけると嬉しいですのが…」

 

 

トコトコとこちらに歩いてくる

 

 

「やだ!何でザフトの子が勝手に出歩いてるの!?」

 

 

フレイがラクスに大きく反応する

 

 

「勝手ではありませんわ。私、ちゃんと三回もお聞きしましたのよ?出かけてもいいですかーって」

 

 

…ラクス

 

シエルは相変わらずの彼女にため息をつく

 

 

「それに私はザフトではありませんわ。ザフトは軍の名称で…」

 

 

「コーディネーターなんだからなんだって一緒よ!」

 

 

フレイはラクスの言葉を遮り喚く

さすがのラクスも笑顔を崩す

 

しかし再び笑顔を浮かべ、フレイに話しかける

 

 

「同じではありませんわ。私は軍の人間ではありません」

 

 

シエルは心配そうな面持ちでラクスとフレイのやり取りを見つめる

 

 

「あなたも軍人ではないのでしょう?ご挨拶が遅れました。私は…」

 

 

「やめてよ!コーディネーターのあんたなんかと握手なんて、冗談じゃないわ!」

 

 

ラクスはフレイに手のひらを向けながら話す

が、フレイは手を引いて隠し、拒絶の言葉を言い放つ

 

 

「コーディネーターのくせに!馴れ馴れしくしないで!!」

 

 

キラ、シエル、ラクスの目が大きく見開く

 

 

「おい、何のさわ…ぎ…だ?」

 

 

そこにセラが食堂に入ってくる

そしてこの場の空気を察してただ事ではないと理解する

 

セラはキラ、シエル、ラクスの沈んだ表情を見て、三人を食堂から出す

ラクスの食事を持って、彼女を部屋に送る

 

 

「そういえば聞くのが遅れましたがシエル?なぜあなたがこの船にいるのでしょうか?」

 

 

「!」

 

 

「「?」」

 

ラクスの口から出てきた言葉にシエルは驚愕し、セラとキラは疑問符を浮かべる

 

 

「ヘリオポリスに行ったことは知っていましたが…。」

 

 

「ら…らくす?ちょっとこっち来て!」

 

 

「あ…」

 

 

シエルは慌ててラクスを二人に見えないところに連れていき、二人がついてきていないことを確認し、小声で話す

 

 

「ラクス、お願いがあるの」

 

 

「なんでしょう?」

 

 

ラクスは変わらず笑みを浮かべながら聞いてくる

 

 

「コーディネーターのことはともかく…

 

 

私がザフトだっていうことは黙っててほしいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだったんだろうね…?」

 

 

「…さあ?」

 

 

セラとキラは目を見合わせ、首をかしげる

そんな感じで待っていると、二人が戻ってきた

 

 

「ごめんね?まさかプラントにいた時の友達が来たことにびっくりして…」

 

 

「え…、プラント?」

 

 

「えぇ。小さい頃よく遊んでいたのですわ」

 

 

シエルとラクスが、ねー、っと目を合わせ微笑む

 

 

「…」

 

 

セラが二人を鋭い目で見る

 

ウソ…か?

 

疑うセラ

しかし、シエルを信じたい

考えたくない

シエルがザフトだなんて

 

考えたくないんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、疑ってる…な

キラは大丈夫そうだけど…

 

シエルは二人にウソをついている

プラントにいたときの友達は事実

だが、一つ言ってないことがある

 

自分が軍人であり、セラたちの敵であるということ

 

言えない

ばれれば自分の命が危ないというだけではない

 

シエルはトールやミリアリアの悲しむ顔を見たくなかった

彼らとはずいぶん仲良くなった

 

そして、セラだ

あわよくばこのままセラを支えていきたいとも思っていた

セラも、自分が敵だと知ったら悲しい顔をするだろう

 

 

「…する…かな?」

 

 

なんかセラならあっさり済ませていきそうな気がしてきた

 

だがなんにしても、自分の正体を悟らせるわけにはいかない

 

絶対に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長!地球軍第八艦隊の暗号パルスです!」

 

 

「!?間違いないの!?」

 

 

マリューが興奮して声をあげる

それもそのはず

 

第八艦隊に合流すれば、ようやくこの先の見えない旅が終わるのだ

 

スピーカーから男の声が流れる

 

 

「ハルバートン提督の声だわ!」

 

 

その声がマリューの尊敬する上司、ハルバートンの声だとわかる

 

 

「合流ポイントを指示しています!」

 

 

「やった!」

 

 

ブリッジが明るい雰囲気にあふれる

 

 

 

 

 

「パパが!?」

 

 

フレイが満面の笑みを浮かべながらサイに聞く

 

 

「ああ、先遣隊と一緒に来てるって。さっきこっちの名簿送ったから、フレイがこっちにいるって気づくと思うよ」

 

 

「パパが…、そう…。よかった…」

 

 

フレイが嬉しさと安堵の余り、涙を流す

それを見てサイはふと表情を緩める

 

しかし、物事はそう上手くいかないものだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球軍の艦が…こんな所にですか?」

 

 

「位置から考えて足つきに補給を運ぶもの、もしくは合流を図るものと思われる。ラクス嬢の捜索は無論続けるが、あれをみすみす見逃すわけにもいくまい」

 

 

ラウとアスランの会話

クルーゼ隊は先遣隊に攻撃を仕掛けるつもりのようだ

 

アスランはイージスに乗り込む

またキラと戦うのだろうか?

 

いや、今度こそ説得してみせる

こちらの話が分からないはずがないのだ

 

 

「アスラン・ザラ!イージス、出る!」

 

 

 

 

「さて、私も出るとするかな?」

 

 

ラウもシグーに乗り込む

 

あの二つの機体

見定めよう

あれが奴らなのか

 

 

「君も、準備はいいかね?ロイ君」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…ジャマーです!エリア一帯、干渉を受けています!」

 

 

「!」

 

 

先遣隊との合流を目前に

 

 

再び戦闘が始まる

 

 

 

 




やっと、シエルの婚約者が登場ですね

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